B.O.O.《ブラストオフ・オンライン》   作:Sence023

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初めてVRゲームを題材に書いたサスペンス小説です。
書いた事の無いジャンルに内心ドキドキで投稿いたします。
感想アドバイス等お願いいたします


第一章『物語の始まり』
Blast1-1


Blast1『Blast Off《飛び立て》』

 

 

 

 薄ら寒い春、4月の今日、二年生になった一人の少年。あくび一つして午前五時を過ぎた家の階段を降りた彼は台所に行って目覚めの洗顔をし、昨日の残り物があるはずの冷蔵庫の中を開け、妹と自分の分の弁当の構成を考え始めた。

 

 まだぼやけた頭の中、下着越しでも分かる鍛え抜かれた長身に制服のシャツとズボンを身につけた彼は元気の良い妹が入学式の次の日、自分の始業式の日である事を示すホログラフィックのカレンダー表示を見るともうそんな季節になったのか、と実感の湧かない思いを抱いた。

 

 カーテンを開けば桜吹雪すら見れないもの悲しい景色だけがそこにあり、ちょうど見えた向かいの家の二階にそこでのんきに眠っているであろう幼馴染の姿を頭に浮かべてその場を去った。

 

 閑散とした居間の雰囲気に半ば機械的な動きで今や家庭には当たり前となった超薄型テレビの電源をつけた少年は司会者の交代で如何にか食い繋いでいる朝の長寿番組をBGMに家事を始めた。

 

 低血圧な妹と母親が起きてくるのは午前六時半頃、自分はそれまでに仕度を済ませ、七時を過ぎた辺りから騒がしくなる家から逃げる様に向かいにある幼馴染の家に転がり込み、彼女の仕度を待つ。

 

 それが彼、五十嵐隼人の日課だった。

 

 弁当と朝食を作り終え、一人物騒な事件を流すテレビを相手に朝食を摂った隼人はその中で唯一平和的なSNL(ソーシャルネットワークライン)と呼ばれるネットワークサービスに関する特集を見つめた。

 

『今回特集するサービスはコレ! 今、若者を中心に大人気のダイブ式オンラインゲーム『ブラストオフオンライン』! その奥深さは一度プレイしてみると分かるとの事で早速、このMRデバイスを使って遊んでみましょう!』

 

 そう言ってリポーターの意識が電脳の世界に飛んでいく。この時代、オンラインゲームはMR(ミックスリアリティ:複合現実)社会に突入した事で今までに無いリアリティを求めたユーザーの声に答え、使っていたSNLを利用する為の高性能デバイスを用いた意識を電脳に飛ばすダイブ式と言う方法を編み出し、一躍注目を集めた事でそこいらの流行り物好きよりもさらに流行に敏感な一般メディアの目にも晒される様になってきた。

 

 一家用の充電スタンドにある自分のMRデバイスを一度見た隼人はリポーターがプレイしているゲーム画面を一度見ると、素人同然のぎこちない動きに溜め息をついてチャンネルを変えようとしてその手を止めた。

 

 このゲームをよく知る自分が見るとあまり気持ちの良い物ではないがまだ見ておくべきだろう、と考えた隼人は学校に行けばこの特集を見たライトゲーマーや知り合いが質問をしてくるだろうし、リポーターの事もよく見てないと小学校以来の腐れ縁からのスケベな質問に答えられなくなる。

 

 何故か突っぱね続けても長く続いている縁は妙な事に色んなつながりに広がり、今では向かいの幼馴染を含めた八人近い遊び仲間がいる。

 

 あまり人付き合いが得意だとは思えない隼人だったが、そんなこんなである程度人とは付き合える様にはなっていた。

 

 と、特集が終わり、定時の天気予報が始まる。気がつけば六時半になっており、体内時計だけはしっかりしている妹の秋穂が先に起きてきた。

 

「おはよう、秋穂」

 

「おあよ~兄ちゃん」

 

「その言い方いい加減止めろ、高校生だろうが」

 

「良いじゃんか~妹何だし」

 

「そんな事、俺の前では免罪符にはならないぞ。早く飯食え」

 

「兄ちゃんは~?」

 

「俺はリュック取りに行くついでに母さんを起こしてくる」

 

 そう言って階段を登る隼人は冷えた空気に一瞬だけ身を震わせ、何時の間にか起きていた母親と無言ですれ違う。そしてギターやら何やらを置いている自分の部屋からリュックを取ってくると机の上に置かれた攻略ノートを手に取った。

 

 そのゲームのベテランプレイヤーに当たる彼は、友人から借りていたノートをリュックに入れて一階に降りた。

 

「秋穂、今何時だ?」

 

「七時」

 

 階段を降りた隼人は弁当をリュックに入れ、時代遅れと言われる電波腕時計を左腕に付けながら秋穂に時刻を聞き、自身も腕時計で確認した。そして充電を確認したデバイスをリュックに入れた。

 

「そうか、先に出るぞ」

 

「まーた恋姐のとこ~?」

 

「日課、だからな。俺の」

 

 恥ずかしさから少し詰まった様なニュアンスでそう言った隼人は、肩からずれたパジャマも直さず、意地悪く舌を出した秋穂に溜め息をつくと玄関に移動した。そして、靴を履き、開け放ったドアを潜って外に出た。

 

 肌寒い外へ出た彼は白い息をつきながら向かいの家の玄関へ歩いていき、センサー式のインターホンに触れた。未来になっても変わらない電子音がマイクから鳴り、玄関のドアが開く。

 

「あら、隼人君おはよう。ごめんね、恋歌まだ寝てるの」

 

「気にしないで下さい。あいつが低血圧なのは、小六からの事ですから」

 

「本当にごめんなさいねぇ。あの子も一度くらい早起きしてお弁当の一つくらい作ってあげればいいのに」

 

 玄関先で熱っぽい溜め息をつく幼馴染の母親の鋭い一言に何も言えなくなった隼人は一礼して家の中に入り、階段を上がって幼馴染の部屋にノックして入った。

 

「恋歌~起きろ、朝だぞ」

 

 こんもり盛り上がった布団の隣に正座で座った隼人はそれを軽く叩いて中にいるはずの幼馴染の十六夜恋歌を起こす。父親に似て低血圧体質の彼女は悩ましい声を上げながら布団の端から高校生とは思えない程、幼い顔を見せ、半開きの眠気眼で彼を見た。

 

「隼人・・・?」

 

「そうだぞ。おはよう、恋歌」

 

「隼人?! 何でアンタ私の部屋にいるのよ?!」

 

「いつもの事だろ。ほら、学校行くんだから早く着替えろよ」

 

「わ、分かってるわよっほら、あっち行けっ」

 

 真っ赤になりながら着替えを取った恋歌に仏頂面を向けながら部屋を出て行った隼人は階段を下り、彼女の家のリビングに顔を見せた。

 

「どうだった、隼人君」

 

「いつも通りですかね・・・」

 

「あら・・・残念」

 

 何が残念なんだ、と内心で突っ込みを入れた隼人は慌てて階段を下りてきた恋歌にぶつかって後ろから吹っ飛ばされ、腹を強打した。辛うじてリュックと顔面は守り、体を起こそうとした彼はシャツの上のボタンがしまっていない恋歌の姿に気付いた。

 

 中学生と見間違えるほど、小柄な背でありながら人並み以上にある恋歌の胸を前に目のやり場に困っていた隼人は真っ赤な彼女から目を背け、目を閉じた。暴れん坊で素直じゃない彼女の事だ、何かしら手が出てくるだろうと覚悟していた。

 

「は、隼人のムッツリスケベェエエエエエエ!!」

 

 手は出てこなかったが自覚している性癖を言い当てられて心にかなり突き刺さる言葉を恋歌から受けた隼人は頬を引きつらせ、固まった。

 

「と、とりあえず恋ちゃん。お着替えしながら朝ご飯食べなさい」

 

「う、うん!」

 

 真っ赤になっている恋歌を母親がダイニングテーブルに座らせ、用意していたトーストを食べさせると呆然としている隼人の方にしゃがみ込み、彼を揺さぶった。

 

「隼人君。隼人君!」

 

「は、はい?!」

 

「恋ちゃんが朝ご飯食べ終わるまで、コーヒーでも飲んでおく?」

 

「あ、いただきます」

 

「じゃあ、そこに座って待っててね」

 

 笑顔を見せる恋歌の母親に愛想笑いを返した隼人は彼女に言われるがまま椅子に座り、ボタンを留めた恋歌の食事風景を見ていた。

 

「何よ」

 

 じっと見られるのが恥ずかしい恋歌が仏頂面で隼人を睨む。睨まれるのには慣れているので顔を赤くしながら小口でトーストをかじる彼女をボーっと見ていた隼人は手渡されたコーヒーを啜っていた。

 

「さっきから何よ、隼人」

 

「いや、お前も俺も二年生かって思ってな」

 

「何よアンタ、オッサン臭い事言って」

 

「成長したって言えよ、お前こそ好き嫌い直ったのか?」

 

「な、直ってない・・・」

 

 縮こまる恋歌に溜め息をついた隼人はからかう様な微笑を彼女に向けるとコーヒーを啜って時計を見た。時計が指した時刻は八時過ぎ。片道十五分で学校に行く彼らにとっては危険な時間帯だった。

 

「れ、恋歌! 早く食え! 学校に遅刻するぞ!!」

 

「え?! あ、八時なの!?」

 

「そうだ! 早くしろ!」

 

 慌ててコーヒーを飲み干し、ブレザーを着た隼人はパンを一気食いした恋歌を連れて玄関に走った。

 

「お母さん、行って来ます!」

 

「おばさんお邪魔しました!」

 

「はいはい、いってらっしゃい」

 

 玄関の戸を開け放った恋歌と隼人は、そんな二人をにこやかに見送る恋歌の母親に見送られて肌寒い空の下、双葉町の住宅地の道路を全力疾走していた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 遅刻寸前で飛び込んだ始業式を終え、昼で終わった学校の廊下。無人の廊下を歩いていた隼人は、その手に自分が立ち上げた部活で使用する部室の鍵を持っていた。

 

 別館の二階、隅に追いやられた倉庫同然の部室の鍵を開けた隼人は入り口においてあった箱を持ち込み、中を確認すると空箱だったそれを廊下に戻し、ブレザーを脱いだ。

 

 まだ誰も来ていないそこの机の上、雑に置かれている看板を手に取った彼はそこに書かれた達筆な文字を内心で読んだ。探偵部、と書かれたそれは一年前、彼が無理矢理立ち上げた部活動だった。

 

 活動内容は学校活動における様々な困り事や事件を解決する事。だが、そんな事、普通に過ごしていれば早々無いので現在は同好会と何ら変わらない扱いを受けている状態だった。

 

 だが、それでも仲の良い幼馴染達と過ごせるこの部活動を彼はとても気に入っていた。何分素直じゃないのでそんな事を口にすることはないのだが。

 

「うーっす。お、今日も早いな隼人」

 

「部長だからな」

 

「へへ、相も変わらず真面目だよなぁお前は」

 

 そう言って入室した茶髪が目を引く中肉中背の少年、藤原武は机に置いた鞄からデバイスを取り出すと机の下に隠していたサポート用の筐体PCにデバイスと繋がるケーブルを差し、モニターを点けてLANの状態を確認した。

 

「よしよし、休み明けでも快調だな」

 

「パソコンか?」

 

「おうよ、細かい事は利也の方が詳しいけど。LANの状態チェックだったら俺でもできるからな」

 

 得意げにしている武にPCを任せ、自分は生徒会提出用の書類を仕上げていた。その間二人に会話は無く、静寂の部室に再び喧騒が戻ったのは二人の男子が四人の女子を連れてきた時だった。

 

「お、遅かったじゃねえか」

 

「ゴメンゴメン、ご飯食べてたら皆と会って話し込んじゃってたんだ」

 

「そうなのか。んで、女子連中。ちゃんとご飯食ってきたか?」

 

 立ち上がった武は、応接用のソファに置いたカバンからデバイスを取り出すメタルフレームのメガネをかけたなで肩濃紺髪の少年、酒井利也と、細身体型で焦げ茶色の髪が目立つ少年、岬浩太郎にそう返すと軽く伸びをしながら女子へ話しかけた。

 

「食べたよー!」

 

「食べました」

 

「・・・私も」

 

 心配している彼は元気一杯に返事する少女、不知火楓とその隣で控えめに答える少女、砂上夏輝に追従する様に答えた銀崎加奈の返答に満足げに頷くと三人に隠れている恋歌の方を見た。

 

「何」

 

 ゴミを見る様な視線をしている恋歌に、近寄れないと直感した武は書類を書きながら昼休憩に買ってきたコンビニのおにぎりを食べている隼人に助けを求め、面倒臭そうな目で詰って来る彼に武は板ばさみになった。

 

「何なんだお前等!! 俺の事ゴミみたいに見やがって!!」

 

「いや、下ネタガンガン言って女からの人望無いくせに女子に絡むな、このスケベ野郎としか俺は思ってないぞ」

 

「ひっでぇ!! れ、恋歌はそんな事思ってねえぞ!!」

 

 そう言って武は隼人に激怒しつつ、恋歌の方を指差す。

 

「私は気持ち悪いゴミ虫としか思ってないわよ」

 

「揃いも揃って何なんだこのカップルは―――――!!」

 

 胸に突き刺さる恋歌の一言で止めを刺された武は頭を抱えながら狭い床をゴロゴロと転がる。何時に無く五月蝿い彼を見ながら、コンビニのおにぎりを食べ終わった隼人は自身のカバンからデバイスを取り出し、PCに繋いだ。

 

「で、やるんだろ? 何時もの通りに。解決しなければいけない案件があるから早めにな」

 

「ん? おう、そうだな。皆、準備してくれ」

 

 面倒臭そうに隼人に併せて皆に準備を促した武は、デバイスを頭に装着し、電源を入れると起動したそれを一旦外して皆を見た。

 

「準備は良いか?! よぉし、それじゃあ行こうぜ」

 

 武の一言を合図に全員がデバイスを下ろし、今朝方紹介されていたBOOを起動しダイブした。

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