B.O.O.《ブラストオフ・オンライン》   作:Sence023

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お待たせしました第七話です!
話がガラリと変わる今回一体どんな事が待ち受けているのかお楽しみに!


Blast7-1

第7話『the reverse side also has a reverse side.《裏には裏がある。》』

 

 

 授業終わりの放課後、本格的に捜査を始めた隼人達は生徒会室の一角を借りて取調べを始め、その間に浩太郎は生徒会長から事の詳細を聞いていた。

 

「では、名簿の盗難に気づいたのは先生からの連絡であった・・・と?」

 

「ええ。そうよ、だから早く学校にいたのもそのせいなの」

 

「会長のアリバイは・・・隼人君が証明してるか。今隼人君達が話を聞いてるなら・・・職員室に行ってみようか」

 

「まあ、待ちなさいな。今職員室に行っても意味は無いわ、追い返されるだけよ」

 

「あ、そう言えば今日は職員会議でしたね。じゃあまた今度かなぁ・・・」

 

 そう言って頭を掻く浩太郎は自分を盾に隠れている加奈に気付き、不思議そうに見ている会長に苦笑した彼は加奈を庇う様に彼女の体を自分の後ろに押しやった。怯える彼女の頭を撫でた彼は

興味を抱いた会長に向き直った。

 

「すいません。彼女、人見知りなんで」

 

「良いのよ、恋歌ちゃんで慣れてるから。でも、あなた達が女の子を連れてくるのって珍しいわね」

 

「まあ、楓ちゃん以外人と話すの苦手ですからね・・・。今回は人手が欲しかったので出て来てもらったんですけど」

 

「荒事はあなた達の専売特許みたいなものだしねぇ・・・当たり前にされても困るけど」

 

「あはは・・・」

 

 苦笑する浩太郎にため息を漏らした会長は不満そうな加奈に気付き、苦笑しながら武達の方に移動していった。その近く、取調べをしている隼人は最後の一人の様子がおかしい事に気付いた。

 

 生徒会書記である彼女は変にソワソワしている。明らかに怪しいと思った隼人は彼女の情報を引き出す為にどうやって外堀を埋めるかを考え始めた。そうした上で、彼は取調べを始める事にした。

 

「さて、早速質問なんだが」

 

「は、はい!?」

 

「いや、そんなに緊張しなくてもいいぞ? 事務的な事を聞くだけだからな」

 

「そ、そうですか・・・」

 

「じゃあ、質問だ。昨日は何時まで学校にいた?」

 

 敢えて同じ事を聞いてみた隼人は彼女の表情から若干の動揺を読み取るも気付かない振りをして様子と証言を手元のタブレットに書き込んだ。デジタル化されたテキストを読み返し、不備が無い事を確認した彼は

それを傍らで話を聞いていた恋歌に渡した。

 

 不満たらたらと言う風体の恋歌だったが内心は頼ってもらえて嬉しかった。そんな彼女を他所に腰を上げた隼人は待っていたらしい探偵部の全員に廊下待機のハンドサインを送りながら生徒会長の方に移動していく。

 

「終わったの?」

 

「・・・ええ、まあ」

 

「そ、じゃあ。この件についての協力は今後も続けさせてもらうわ、但し・・・分かってるわよね?」

 

「分かってる。この件に関して生徒にバラすな、だろ? そんなヘマはしない。する様な奴が俺達の中にいるならとっくの昔に探偵部なんて辞めてるさ」

 

「あら。頼もしいわね、後輩君。じゃ、宜しくね」

 

 そう言って手を振ってきた生徒会長に一礼した隼人は廊下に移動し、待っていたらしい探偵部の面々と合流。彼らに囲まれる様にして部室に戻っていく。その途中、女子を先に行かせていた隼人達男子は

今回の取調べで得た事柄を独自にまとめていた。

 

「なぁ、隼人。あの書記さん、怪しくなかったか?」

 

「ああ」

 

「って事はだ。十中八九、あの子が犯人じゃないのか? どう見ても怪しすぎるだろ」

 

「武、事を急くな。例え彼女が犯人だとして、動機が不鮮明すぎる。何故、彼女が名簿を盗み出す必要がある?」

 

「何だよ、何かあるってのか?」

 

 首を傾げる武に頷いた隼人は顎に手を当てて考え始める。そんな彼を見て肩を竦めた武はため息をつきながら浩太郎に視線を向けた。同じ様に肩を竦める浩太郎はそのまま部室に戻ると、タブレットを

コンピューターに繋いでデータを移した。

 

「何か収穫あった?」

 

「一応な。でも、精度で言えばまだまだなんだよな・・・。そっちは何かあったか?」

 

「あ、そうだ。その事で隼人君に話があったんだ」

 

 そう言って武の肩越しに隼人を呼んだ利也は考え事を中断されて不機嫌な彼に苦笑しながら伝えるべき事を話し始める。

 

「さっき、冬香さんから電話が来てたよ」

 

「・・・ッ! 何て、言ってた?」

 

 しれっと言う利也に隼人は若干の緊張を走らせる。まさか、話したのか? そう思わずに入られない彼を他所に利也は話を続ける。

 

「何でも君だけに伝えたい事らしくってさ。『折り返し電話する様にって』、言われたんだよ」

 

「そ、そうか・・・分かった。後で電話するよ、ありがとう利也」

 

「どういたしまして。さて、データの吸い出し終わり。タブレット、返しとくね」

 

「おう。ふむ。時間も時間だし、帰るか」

 

「そうだね。あ、今日BOOやる?」

 

「あー・・・おい、秋穂お前今日ダンススクールだろ? 急がなくて良いのか?」

 

 そう言った隼人の視線の先、香美と折り重なる様にして寝ていた秋穂が伸びをしながら起き上がる。

 

「んあ? あー、そうだったぁ」

 

「晩飯、作り置きしておくぞ? ・・・恋歌、何だその目は。まさか俺の家に来るとか言うんじゃないだろうな」

 

「ふぁー・・・何にしてもご飯宜しくねぇ兄ちゃん。じゃあね」

 

 えへへ、と笑って部室を出て行った秋穂にため息をついた隼人は苦笑している利也の方に振り返る。

 

「やるとすれば10時以降で頼む」

 

「ん、了解。多分九時八時位からやると思うよ。ま、やる時はSNLのグループチャットで連絡してよ」

 

「よし。じゃあ、部室閉めるぞ。とっとと退室しろ」

 

 そう言って乱暴に呼びかけた隼人は施錠した鍵を職員室に持って行き、下駄箱に直行した。そんな彼を正門で待っている恋歌は武達と別れて一人夕暮れの空を見上げていた。小柄な身には不釣り合いの

ボストンバッグを下げている彼女は門に凭れかかって隼人を待つ。

 

 今の自分はまるで主人を待つ犬の様だ、と思っていた恋歌は脳裏を過ぎた忠犬プレイの図に不気味な笑いを浮かべ、ちょうど来た隼人の足を止める。どん引きしている隼人に気付いたらしい恋歌はその笑顔を貼り付けたまま、

彼に向かって突進し、逃げようとする彼の胸に飛び込んだ。

 

 難なく受け止めた隼人は犬の様に尻を振る恋歌に顔を赤くし、周囲を見回してから咳払いをする。何事も無かったかのように歩き出した隼人は左腕に抱き付いてきた恋歌に何かを吹いた。

 

「ちょ、おい恋歌?」

 

「んふふ~なぁに?」

 

「今日なんでそんなにテンション高いんだ?」

 

「二人っきりだから!」

 

「ああ、そう言う事か」

 

 呆れ半分でそう言った隼人はそんな自分のテンションを吸い取った様な恋歌のはしゃぎ振りに少しだけ、頬を緩ませ微笑を彼女に向けた。そんな表情に気付いたらしい彼女が頬を赤くし、また、何時もの様に俯いていた。

 

 そんなに鈍い性質ではない隼人は彼女をそっとして置いて帰路の安全を最優先した。まるで年の離れた兄にすがり付く妹の様な恋歌の頭を右手でそっと撫でた隼人はそのまま行きつけのコンビニをスルーしようとしたが

騙されなかった恋歌に脛を蹴られた。

 

 舌打ちしながらコンビニに連れ込まれた彼はくっ付いたままの恋歌が自分を引いていくのに仏頂面を浮かべながら連れ回される。本当は恥ずかしい彼だったが嬉しげな彼女の表情に負けて付き合う事にした。

 

「今日は何買うんだ?」

 

「んー、『クリムちゃん印のくりーむぱん』かなぁー」

 

「プチ贅沢って奴か。金あるんだな」

 

「ううん、お金無い。ねー隼人、おごって?」

 

「はぁ?! 無いんなら我慢しろよ!」

 

「やだ! おーねーがーいー! 半分あげるから!」

 

「別にいらな・・・はぁ、分かった。買ってやるよ」

 

「ホント!?」

 

「ったく、体良く絞りやがって。金は無限じゃないんだぞ?」

 

 そう言いながらレジに向かう隼人はクリームパン一つを買うとそれを恋歌に渡すと一歩前に出て包みを取った彼女が歩き出すのを待っていた。慌てて歩き出した彼女が隣に来るのを待った隼人は家に向けて歩き出す。

 

 クリームパンを租借する恋歌の横顔を盗み見た彼は小動物の様な雰囲気の彼女に微笑む。そんな二人を夕暮れだけが見ていた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

―――同日午後八時:BOO・双葉高校サーバー:アイラン同盟国・ウイハロ西部:アルベクト遺跡―――

 

 薄暗い空間を白い光が照らす。ひび割れたリノリュームの隙間からは見た事の無い草木が生え、黒い染みと干乾びた肉がリアルなポリゴン合成でそこに表示されている。ゲームと分かっていても生理的不快感を押さえられない香美は

先導する武のモスバーグ・M870ショットガンのライトが照らしたミイラに飛び上がった。

 

「あ? ああ、オブジェクトじゃねえか・・・ビックリすんなぁ」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「ん? ああ、良いよ。俺らもここ来た時はそんな調子だったし。何にしても不気味なんだよなぁここ。狭いし」

 

 そう言った武は十字路で一時停止し、壁に背を預ける様にしてショットガンを構える。同じ様にした香美の後続、それぞれ武器を構えている楓と利也、夏輝が後ろを警戒する。その間に香美はスキャニングスキルを発動。

 

 壁側に敵性反応を見つけ、タグをつける。タグで判別している武は近付くそれに舌打ちし、曲がり角から躍り出た。瞬間、腰溜めでショットガンを発砲した彼は散弾を弾く金属音に気付き、直後聞こえたスピンアップ音にロールで

元の場所に戻り、十字路に赤色のフレアを投じる。

 

「やれやれ、宝探しのつもりで来てみりゃ、とんだ貧乏くじを引いちまったな」

 

「そんな事言ってる場合かい?」

 

「緊張しようにもいつも通り過ぎてな。ま、やるしかねぇよ」

 

 そう言ってチャンバーを開けての割り込みリロードで術式榴散弾を装填した武は苦笑する利也にハンドサインで合図するとコッキングして飛び出した。宙を飛びながら発砲した彼は一発一発が榴弾の子弾をばら撒き、直撃を受けたボットを

スイカ宜しく爆砕した。

 

 一機目が爆砕され、二機目が武をロックオンする。その右手に備えられたM134『ミニガン』がスピンアップし左手のMk19グレネードマシンガンも遅れて持ち上がる。直前、飛び出した利也が膝立ちでMk48を発砲して二機目を滅多打ちにする。

 

 暴れ狂う銃口によって弾道がバラつき、命中率は芳しくないが気を引く事には成功していた。利也の方を振り返ったボットは四つあるセンサーの内、一つをライフル弾の直撃で破損させていた。だが、ガトリングとグレネードマシンガンで

射撃する分には構わなかったがそれは阻まれた。

 

 至近での閃光。シャットアウトが遅れたボットの光学センサーが焼き切れ、焦げ臭い匂いを撒き散らしながらボットは両腕の兵器を乱射する。直撃弾が遺跡の天井を破壊し、崩れ落ちたそれが目を失って暴走しているボットを押し潰す。

 

「あーあーあー・・・」

 

 砂埃を撒いて崩れた道に溜め息をついた武に苦笑を見せた利也は後方からの銃撃に飛び退き、転がりながら銃を構える。すかさず利也の選択した種族である有翼族固有の特性が補完する様に働き、暗闇の奥にボット三体を確認した。

 

 有翼族の種族特性の一つ『バード・アイ』。人間を超えた望遠視力とナイトビジョンを凌駕する夜間視力を有する目で物を見る事に特化した能力を持っている。そんな能力の恩恵を持って敵を捕捉した利也はグレネードマシンガンの発砲に

気付いて引っ込めた。

 

 狭い通路を滅茶苦茶に爆破するグレネードが遺跡を揺さぶる。どうやらサーモセンサーで探知しているらしく壁ばかり狙って発砲している。砕かれた外壁が白煙を周囲に撒き、視界を奪って発砲を遮る。

 

「クソ、視界が白くて何も見えねえ!」

 

 ボットに搭載されている熱感知のサーモに比べてどうしても光に頼ってしまう光学スコープとバード・アイは外壁から吹き上がった微粒子に遮られて何も見えなかった。目を失った五人は離脱を優先し、殿を武と利也が引き受けて移動を開始した。

 

 P90を構えながら周囲を窺う香美は移動先に赤外線反応を感知して急停止。それに気付かず突っ込んだ楓と夏輝の体を手前に引っ張った刹那、二人のいた地点に一粒5mmと言う大型の重硬化特殊金属製の散弾が浴びせられる。9mmパラベラム弾に匹敵する

運動エネルギーを持った散弾を浴びた外壁はボロボロの状態になり、血の気を引かせた二人が後ろから迫る武達を止める。

 

 彼らを角に引き込んだ楓と夏輝は何かに気付いたらしい香美が拾い上げたアイテムに何かを噴き出した。

 

「あ、『IED(即席爆発装置)製作キット』!? レアアイテムじゃん!」

 

「レアアイテム・・・。それにしては自由研究の工作キットみたいな名前のアイテムですね、コレ。どんなアイテムなんですか?」

 

「ありあわせの物で即席爆弾を作るクリエイターアイテムだよ?」

 

「何でそんな物がレアアイテム扱いなんですかこのゲーム・・・。と、取り敢えず何か作ってみます!」

 

「うわぁ・・・フラッシュコンカッションフラググレネード。って言うか三つ一括りにしただけじゃん」

 

 兎に角、と三つ括った即席合成グレネードをボットの前に投げ込んで延長された太目のワイヤーを抜いた香美は炸裂したグレネードの威力に驚きながらもその場を離脱していた。

 

「あれ、何か威力強化されていませんか?!」

 

「アレで作った爆弾は合成グレネードでも『IED』扱いだからな、装甲車でも破壊出来る威力になるぞ」

 

「この状況にはピッタリじゃないですか!」

 

「作るのは良いけどあんまポンポン爆弾投げるなよ。遺跡が壊れちまう」

 

「分かりました。材料は適当に取って作ります!」

 

 そう言いながらそこら辺にあるグレネードを回収しては走る香美に並んで走りながら苦笑する武は現れたボットの射撃に追い立てられる様に角を曲がり、追ってくるボット目掛けてガンブレードを射撃する。

 

 マグナム弾に撃ち抜かれたボットが倒れて味方の進路を塞ぎ、逃げる彼らは進路を戻し目的に向かって進む。走りながらアイテムを合成している香美をカバーする武は背後に迫るボットを撃ち抜いて

彼女の方を振り返った。

 

 彼女の手には大型の爆薬があり、それを見た武は頭に過ぎった用途に突き動かされ、叫んだ。

 

「香美、そのドア開くか?!」

 

「開かないみたいです! 向こうに敵がいるらしくって!」

 

「そうか、じゃあその爆弾をドアの継目に仕掛けろ!」

 

「りょ、了解!」

 

「待て、待てよ! ・・・良し、爆破!」

 

 武の合図に応じてワイヤーに繋いでいた安全装置を外した香美は数秒遅れて炸裂した大型爆弾の爆音に周囲の音が聞こえなくなった。縦の通路に添って爆風と爆炎が高速で駆け抜け、爆音と衝撃波が遺跡を揺らした。

 

 ガンブレードの銃口を周囲に巡らせて確認しながら通路を出た武は粉々に砕けた金属片を蹴りながら周囲を見回す。誰もいない事を確認した彼は四人へ手招きし、穿たれた破孔を潜って中に入る。

 

 モンスターハウスだったらしいそこは識別しやすい様に四方を囲む壁の色が周囲とは違っていた。焼け焦げた施設のコントロールパネルにファンシアを触れさせた武は割り込みハッキングでデータ取得を行うそれを

睨みながら遅れてルームに入った四人を見た。

 

 トラップの類が無い事を確認した香美が利也や夏輝と共に施設を探り、大きなカプセルマシンの様な形状の設備に気付いた。少なくとも現代的な物ではないが、と思いながら壁に手をついた彼女は突然鳴ったブザーに飛び退き、

手にしたP90を構え、マチェットに手をかけた。

 

「な、何ですか?!」

 

「あ、悪い。俺が操作ミスってブザー鳴らしちまった」

 

「び、ビックリするじゃないですか。もう」

 

 緊張を息にして吐き出した香美は武器を下ろし、改めて設備を見て回る。ゲームの中とは思えないほどの現実味を帯びたグラフィック、それで再現されたのは錆の目立つ不気味なマシンだった。

 

「コレ・・・何かの製造設備ですかね?」

 

「だろうなぁ・・・ま、潰しとくに越した事は無いな。離れててくれ」

 

「はい」

 

 そう言って武の後ろに下がった香美はガンブレードの一撃を受けた設備が火花を吹き上げたのを確認して自身もP90で設備を破壊する。そうしてリスポーン地点を潰した後に奥の方にあるボックスに近付いた。

 

「これ、宝箱ですよね!? レアアイテムとかあるのかなぁ・・・」

 

「あー・・・まぁ、そうだけど期待しない方が良いぞ。ドロップレアはハズレの方が多いからなぁ・・・」

 

「ハズレが多いって・・・じゃあ何の為にダンジョンにいるんですか?」

 

「ん? こう言うダンジョンに遺されているデータの回収。回収品はオートメーション工場に保存されている設計データが主だな。んで、それを鍛冶屋に売って金を得てそのデータで作られた武器を使うってサイクルがこのゲームだ」

 

「データ回収がメインって事はドロップアイテムにはあんまり興味関心が無いんですね・・・。はぁ・・・一応回収します」

 

 そう言ってボックスを開けた香美は箱に収められているアイテムを適当に拾い上げてマジックバックに収めていった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 一方その頃、恋歌、秋穂の三人で夕食を食べていた隼人は嬉しげに談笑する二人を見ながらこうなった経緯を脳内で思い返していた。きっかけは数十分前の電話だった。

 

『今日お家帰れないから、三人で過ごすのよ』

 

「は? 三人? 誰と誰と誰だ」

 

『アンタと秋穂と恋ちゃんよ』

 

「あ?! 何で知ってるんだよ!?」

 

『うふふ、十六夜さんとこから電話があったのよ~。娘がお世話になりますって。頑張んなさい』

 

「何をだよ」

 

『あら、ヤらないの?』

 

「おいイントネーションおかしくねえか。嫌な予感しかしねえぞ」

 

『あ、洗面所の下の棚の奥に未使用のゴムとオクスリあるから』

 

「未成年に何やらせようとしてんだぁああああああ!」

 

『じゃ、頑張ってね。お父さんもお母さんも応援してるわ!』

 

 そう言って一方的に電話は切れ、心配そうに扉から様子を窺っていた恋歌に気づかずキレ気味に受話器を元の位置に叩きつけた隼人は洗面台の下、観音開きの戸棚を開けて奥を探ると本当にあった。

 

 そんなこんなで親の勝手な期待から飛躍してとんでもない事が頭に浮かぶ隼人は脳内18禁フィルターを破砕する己の青い情に恐怖しながら脳内のアドレナリンでぼやけた味を噛み締めていた。それから十分後、

台所で一人股間の息子と格闘しながら後片付けをしていた隼人は風呂から上がってきたらしい秋穂が何故か自分に微妙な表情を向けて足早に二階に上がって行ったのを見た。

 

 焦りからそんな事も気にならず、隼人は泊まりの恋歌がソファーで寝ているのを確認した。自分は彼女が起きるまでの間に寝る準備を済まさねばならない。そう、青い情が爆発する前に。だが、世の中と言うのはそう上手く出来ている訳が無く。

 

「ふあ・・・皿洗い終わった?」

 

「あ、ああ・・・終わったぞ。お前、先に風呂入るか? 眠そうだぞ」

 

「ん~・・・? 一緒に入らないの?」

 

「何歳感覚でそれを言ってるんだお前は。入る訳無いだろ」

 

「えー・・・じゃあ何の為に待ってたのか分からないじゃないのよぉ・・・」

 

 頬を膨らませる恋歌の半目にたじろいた隼人は最後の言葉を無視して脱衣場に移動しようとする。瞬間、背後から掛けてくる音が聞こえ、顔面蒼白になった彼がリビングと廊下を仕切る戸を急いで閉めようとする。

 

 それをさせまいと恋歌は飛び蹴りを隼人に叩き込む。ぶっ飛んだ彼は強く頭を打ち、苦悶の声を上げながらその場をのた打ち回る。後頭部強打で即死しなかったのは体の頑丈さが生んだ奇跡だった。

 

「ぐぉおおおお・・・・ってぇ・・・。おい、恋歌、不用意に飛び蹴りするんじゃねえよ!」

 

「そう言うアンタだってドア閉めようとしたじゃないのよ!」

 

「もう良い、俺は風呂に入ってくる。・・・付いて来るなよ」

 

 そう言って脱衣所に入った隼人は併設の洗面台脇のサイドボードに“ゴム”と“オクスリ”が置いてあるのに気付いて何かを噴き出した。ちゃんとしまった筈なのに何故ここにあるのだ、と真っ白になりかける頭で考えた隼人は

僅かに開いた脱衣場のドアに気付いた。

 

 見られている感覚に扉を開け放った隼人は覗いていたらしい恋歌が小動物宜しく震えているのに気付いた。

 

「何してんだ、お前」

 

「え、えっと・・・その・・・」

 

「お前か、パッケージ開けたのは」

 

「あ、あう・・・」

 

「何で気付いた?」

 

「電話した後に洗面台の下から出してたの見たから・・・」

 

「みっ・・・うぁあああああああ・・・・」

 

 真っ赤になった隼人が頭を抱えながらしゃがみ込み、それに驚いた恋歌が飛び上がる。怒りで頭が回らなかったあの時を恨んだ彼は激しい虚無感に襲われながら脱衣所に引き返す。シャツを脱いだ隼人はボーっとしている恋歌に視線を向け、

慌てている彼女が何故か脱衣場に入ってきたのに違和感を感じた。

 

「恋歌」

 

「あ、ゴメン。ドア閉めるね」

 

「そう言う事じゃねぇ。何でこっち来るんだ」

 

「ダメ?」

 

「・・・お前の胸に手を当てて考えてみろ」

 

 もはや突っ込む事すら放棄した隼人はうんうん考える恋歌を放置して戸を開け、風呂に移動した。シャワーを出して温度の加減を見ながらボーっとしていた隼人は突然開いた扉にため息をついた。振り返らず、気配だけで誰かを判別した彼は

全裸の恋歌に風呂を桶を回す。

 

 頭を洗い始めた隼人を見ていた恋歌はたくましい背筋に思わず触れてしまい、緊張していた為に敏感だった彼は肩を竦ませ、濡れた前髪で若干隠れた目を彼女に向けていた。

 

「何してんだお前・・・」

 

「あう・・・」

 

「・・・湯冷めするからさっさと入れ」

 

 ぶっきらぼうにそう言った隼人は何故か嬉しそうな恋歌の表情に顔が熱くなるのを感じ、湯煙に隠れる事を祈りながら頭を洗い始めた。その隣、湯船に浸かっている恋歌はそんな彼を見つめ微笑を浮かべた。

 

 何だか夫婦の様だ、と思っていた恋歌はその笑みをより一層深い物にして照れ隠しに湯船へ体を沈めた。そうしていると頭を洗い終わったらしい彼が湯船に入り、伸ばしていた足をどけられて不機嫌になった。

 

「何するのよっ」

 

「普通に邪魔だ。俺だって湯船には浸かりたい」

 

「ちょっ、アンタでかいのよっ! 邪魔ッ!」

 

「バカ、湯船で暴れるな! ぬるくなる!」

 

 ぎゃあぎゃあと揉める二人は湯を波立たせ、揉めに揉めてから何故か隼人の上に恋歌が乗ると言うスタイルに落ち着いた。くびれは出しつつも、ある程度小振りな恋歌の尻の感触にドキドキしている隼人は

体を預けてくる彼女が嬉しげに笑っているのを見て自身も頬を緩ませていた。

 

「嬉しいか、恋歌」

 

「どうしたのよ、急に」

 

「いや、そうでないかを聞きたかっただけだ。嬉しそうなら、答えなくて良い」

 

「ふーん、変な隼人。何だかお爺ちゃんみたいね」

 

「周りが子どもっぽけりゃ、精神年齢も老け込むもんさ」

 

 そう言って苦笑した隼人を見上げた恋歌は不機嫌そうに頬を膨らませる。それから紆余曲折あって(隼人の名誉の為に言及するがヤってはいない)寝室に移動した隼人はSNLで利也にメールしていた。

 

 と言うのもBOOにログインするかどうかを判断する為である。そうしていると利也から返信が来た。もう誰もやっていないと書かれたメールを読んで大人しく寝る事を決めた。

 

「今日はやるの?」

 

「いや、やらない。もう誰もやってないからな」

 

「ふうん・・・。そう言えばさ、アンタってゲームあんまりしないわよね」

 

「そうだな・・・ゲーム以外にもする事はあるし、何より常に忙しい」

 

「の割には結構レベル高いわよね、アンタ」

 

 座椅子の背もたれに身を預ける隼人の気の抜けた表情に胡坐を掻いたベットの上で苦笑している恋歌は思いつめた表情で拳を天井に突き上げた彼に気付いた。彼の目は光源パネルを睨んでいる様で

その実、自分自身を睨んでいる様なそんな緊迫感がある。

 

 そんな彼は自嘲気味の笑みと共にこう切り出した。

 

「それも、この体に染み付いた経験のお陰だな・・・。それが、良い事だけをもたらした訳じゃないけどな」

 

 悲しそうな表情。この時は、それが何を意味するのか彼女には理解できていなかった。だが、今何をするべきなのかだけは彼女には分かっていた。

 

「あんたが何を思っているのかは知ったこっちゃ無いけど皆と仲良く遊べるんなら、それで良いんじゃない?」

 

「それも・・・そうだな。疲れたんだろうな、弱気にこんな事を話すなんて。悪いな恋歌、らしくない事を聞かせてしまって」

 

「隼人・・・」

 

 シリアスな雰囲気も他所にむしろそれが良い、と臨戦態勢の恋歌は弱気な表情の隼人の隣に正座する。そうして彼の太ももに手を這わせたがそれに気付いたらしい彼が正座のまま器用に飛び退く。

 

「な、なななっ何してんだお前!?」

 

「あれ、何かコレ立場逆じゃない? 嬉しくないの?」

 

「う、嬉しい訳無いだろ!」

 

「本当は嬉しいんじゃないの?」

 

「嬉しくねえっ!!」

 

 顔を赤くしてそっぽを向いた隼人はニマニマとあくどい笑いを浮かべる恋歌に違和感を覚え、彼女の額に手を当てた。人肌並みの体温に、単に舞い上がってるだけかと安堵した隼人はハイテンションな彼女を

諌めつつベットに移動し、無言で横になった。

 

「え、もう寝るの?」

 

「何かしたい事でもあるのか? ああ、18禁もの以外でだ」

 

「えー・・・。じゃあ映画見よう?」

 

「何見るんだ?」

 

「春画」

 

「お前、死にたいのか」

 

「う、嘘嘘! コレ! コレが良い!」

 

「あァ? って『アトランティック・リム』か、お前好きだなそれ。そう言えば、お前『サウスピーク』途中まで見てやめてなかったか?」

 

「え、エグいんだもんアレ・・・。話のチョイスが『チ●ポコモン(マジネタ)』とかOPの『(自主規制1)大好き(自主規制2)大好き』とか・・・」

 

「あー・・・確かに女が見るもんじゃないな・・・。下ネタ耐性の無いヤツも」

 

 暗い表情の恋歌の気持ちを汲んだ隼人は『サウスピーク』を自室で武達と見ていた時、誰も笑っていなかったことを思い出した。単なるネタで買ってきたがあんまりにも衝撃的過ぎて笑い所を失ったのである。

 

 なのに恋歌が見たのは隼人がそれを薦めた訳では無く、彼のブルーレイラックを探っていた恋歌が見た目に騙されて持ち帰り、子供向けのアニメと高を括っていた彼女がよりによってリビングで家族と視聴した結果、

凄まじいトラウマが刻み込まれたのである。

 

 因みに無断で持ち出した事が発覚した際、隼人は当然怒ったが持ち出した作品タイトルを聞いてその矛先を無言で収め、代わりに極力最後まで見る様にと言った。

 

「で、どうするんだ。『アトランティック・リム』見るのか?」

 

「見る! 見る! ちゃんと全部見る!」

 

「2時間チョイあるから全部見たら12時になるぞ、明日起きれるのかよお前」

 

 低血圧かつ体力的に夜が弱い恋歌を心配する隼人はそんな心配も他所にウキウキした表情で中古のPS4に映画のブルーレイを入れていた。やれやれ、と思いながら座椅子を譲って自分は座布団を尻にベットの側面を背凭れに

三回目の視聴となるハリウッド製ロボット映画を見始めた。

 

 所謂B級映画に当たるそれだがクオリティはA級のそれであり、ジャンルが国土に合わなかった為アメリカでは売れなかったという不遇の作品だ。

 

「くぁ・・・オイ、恋歌。俺もう寝るぞ」

 

「えー、何で?」

 

「見飽きてんだよこの映画。武に付き合わさせられたせいで三回見たし」

 

「じゃあ、横になって見る」

 

「変な事はするなよ? じゃあ、おやすみ」

 

「おやすみ~」

 

 そう言って目を閉じた隼人は子どもの様な恋歌のはしゃぎ声に邪魔されて寝入る事が出来なかった。しかもよりによって音量を上げている為、怪獣とロボットが殴り合う度に無駄に性能の良いオーディオ機器からけたたましい爆音が轟く。

 

『Jet Pulse Knuckle!!』

 

「うっせえよ!」

 

 必殺の鉄拳が炸裂する瞬間、ブチギレて音量を下げた隼人はショックを受けている恋歌を他所に再び横になる。しばらく背中を叩かれたがやがて落ち着いたのか、隼人の背中を走る衝撃は無くなった。その代わり、やはりと言うか当然と言うか

恋歌の寝息が聞こえてきて慌てて振り返った彼は案の定寝ている恋歌に気付いた。

 

「結局寝てんのかコイツは・・・。まだ中盤だぞ・・・」

 

 取り敢えず、とPS4のコントローラーを手にした隼人は再生停止操作をして電源を落とし、携帯端末のコントロールアプリケーションで照明の光度を落とす。薄暗くなった室内でルームライトを点灯した彼はすぅすぅと静かな寝息を立てる恋歌に

視線を向けつつサイドボードの漫画を手に取った。

 

 時計で時刻を確認しつつ、武から借りたガンアクション漫画を読んでいた隼人は布団の位置を無意識の内に自分の胸元まで上げており、気付いた時には寝ぼけている恋歌が起きて這い出ている所だった。

 

「うにゅ・・・寝苦しい・・・」

 

「悪い。何も考えてなかった」

 

「ばか・・・。もう、ねる」

 

「ん、おやすみ」

 

「ん・・・」

 

 そう言って眠った恋歌の頭を撫でながら漫画に目をやった隼人は一日の終わりを悟りながら、漫画を読んだ。

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