B.O.O.《ブラストオフ・オンライン》 作:Sence023
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翌日、全校集会沙汰となった事に驚いていた隼人達探偵部は自分達生徒側とは別の思惑で事態が動いている事を盗難事件を集会で発表し始めた校長の表情と、それを驚愕の表情で聞いている教師達を見て理解した。そして、事を急いたこれが
自分達の思惑とは予想外の方向に事件を持っていくとも理解していた。
教室にて少なからぬ動揺を生んだ全校集会は生徒達をざわつかせるには格好のネタだった。廊下でも教室でも持ちきりのネタになっているそれを聞きながら校長室に移動した隼人は一応、事務室の職員に確認を取った上で入室した。
「生徒が訪れるとは珍しい事だと思っていたが悪名高い探偵部の部長かね」
「校長先生、質問があります。何故公表したのですか」
「何故、とは?」
「盗難事件と言えど今回の事件は重大な事態に発展する可能性があり、生徒会も自分達探偵部も―――」
「待ちたまえ、知っていたのか、この事件を」
「ええ、生徒会に依頼されて捜査を」
「・・・あれほど他言するなと言っていたのに、全く・・・」
「今、そんな事を気にしている場合ですか! 下手をすれば生徒にも被害が出るのに何故!」
「何故? 何故かと聞くか? 分かりきった事だ! 個人情報を失い、犯人も見つけられない責任を追求されてみろ。学校はお終いだ! そうなれば君達も困るのだぞ!?」
「あァ?! 何がお終いだ! 自分の生徒へのリスク管理も出来ねえのかジジィ!!」
「な、リスクだと!? 生徒の悪戯に何のリスクがある!」
「ふざけるな! ただの悪戯で重要な名簿が盗めるか!! それなのに、アンタは何も考えないのか!?」
「考えた上でこうしたのだ! 文句があるなら君がやりたまえ!」
「やってるさ! アンタが余計な事をする前からな!! もう良い、これ以上この事件に干渉するな! ここからは俺達で何とかする! 次の仕事を探す覚悟だけはしてろよジジイ、俺達はアンタの首を繋げるつもりはないからな!!」
啖呵を切って校長室の重厚なドアを閉めた隼人は追って来ていたらしい浩太郎の微笑を無視してそのまま教室に向かう。うまくいかない、自分達が守っていた暗黙の了解すら無視する大人の自分勝手な思惑によって。
これからどうすれば良いのか、と言う茫然も当然あった。昨日まであった考えが全てご破算になったからであり、そしてその理由すら保身に走った大人の思惑だったからだ。うまくいかない、だからこそ隼人は今まで最も苛立っていた。
「隼人君、隼人君! 何をイラついてるのさ、落ち着きなよ!」
「ッ、悪い・・・。コウ」
「一体何があったのさ、校長室で。君が吼える程の事をするなんて早々無い。話してくれ、何かあったんだろ!?」
「あの校長・・・。どうやら事態の収束よりも犯人を見つけられなかった時の保身を優先して情報を公開したらしい。生徒の悪戯と無理矢理決め付けた上でな」
「それは・・・厄介な事になったね」
「ああ、犯人ではない第三者によって捜査網をズタズタにされた上に恐らく犯人には自分達が事件を把握していると理解された訳だから迂闊に動けない。これにどんな状況でも暴力沙汰を起こせば厳罰って言うのも加えれば、こりゃ詰みだな。
教師共の方がよっぽど犯人らしい。そうじゃないと分かっているがな」
「障害は敵ではなく味方。おまけにその味方は排除の方法を封じてくるから始末が悪いって事?」
そう問いかけてくる浩太郎に頷いた隼人は授業開始時刻を過ぎている無人の廊下を歩きながら教室ではなく探偵部の部室に移動する。隠し持っている合鍵で扉を開けた隼人は時間潰しもかねて今後想定されるであろう状況をシミュレートする。
「今後、どう言う事が起こり得るか・・・。まず情報を扱う部署は狙われるな」
「どうやって? まさか、犯人が直接乗り込んでくる・・・とか?」
「“この世にあり得ない事は一つとして無い”。例え乗り込みがあり得ない、起こらない事だと思っているなら、起こると予想して動くべきだ」
「君らしい考え方だね。でも、あり得ない事は第一案にはならないよ、隼人君。それは第二案として先ずは捜査の事を考えようよ」
「分かった。取り敢えず、捜査においての俺達の目的は恐らく犯人であろう生徒会書記のアリバイを崩す事だ。だが、俺は彼女が窓口でしかないのでは、と考えている」
「あ、だから・・・」
「ああ、だからこそ隠密に行きたかったんだ。気付かれる前に気付きたかった、だがそれもご破算だ。奇襲の利を失えば俺達は捜査において大きく遅れる事になる。俺達は正規の組織じゃないからな、奇襲が無いと戦力的に苦しくなる」
立場を明らかにしながら話を進めていく隼人は相槌を打つ浩太郎が切り出した話を聞いていた。
「となれば・・・取れる行動も限られてくるよね・・・」
「そうだな、暫くは様子見になるだろう。さて、そろそろ行くか」
「そうだね。あ、言い訳考えておかなきゃ」
「そうだな・・・。何て言う?」
「取り敢えず、『道に迷いました』?」
「それは不味いだろ・・・。良い、言い訳は俺が考える」
「うーん・・・分かったよ」
頭を掻く浩太郎にため息を付いた隼人は言い訳を考えながら廊下を歩き、浩太郎の後に教室に戻ろうとしていた。瞬間、背後に感じた殺気に振り返った彼は振り下ろされる金属バットに殴られ、よろけた直後の追撃を肩と手で受け止めると
攻撃してきた者の顔を見ようとバットを脇に逸らして一旦距離を取る。
「誰だッ!?」
そう叫んだ隼人は自身への返答として振るわれたバットを両腕で受けると僅かに体を傾かせる。よろけた刹那、バットを大きく振り上げた襲撃者に気付いた隼人は緩め掛けたガードを上げて大上段の一撃を両腕で受ける。
突然の事に呆然としていた武は隼人が滅多打ちにされ始めた所で我に返り、金属バットを振り回す男子に飛び掛ってドアに押さえつけようとする。だが男子は頭突きを叩き込んで武をよろめかせ、彼の頬に一撃叩き込む。
殴り飛ばされた武が勢い余って机に激突し、数個を薙ぎ倒す。脳に振動が行ったらしい武は脳震盪を起こして動けず、その間にバットで隼人の腹を突こうとした男子が咄嗟に避けた隼人のカウンターキックで吹き飛ばされ、
机に激突してそのまま気絶した。
荒く息をつき、膝を突いた隼人は支えに入ろうとする浩太郎を無視して気絶した少年の襟首を掴み上げ、全力の平手を少年の頬に叩き込んだ。風船が割れる様な音がして横倒しにされた少年の体にその場にいた全員が慌てる。
利也と探偵部の女子で隼人を抑え、浩太郎が激痛に目を覚ました少年を取り押さえる。傍にあった金属バットを蹴り飛ばした浩太郎はもがく少年の腕を一度締め上げ、抜けるギリギリの所を維持した上で切り出した。
「何が目的かな?」
「あが・・・」
「返答次第じゃ肩を抜くけど、返事してくれないかな? 意思確認取れないと不安なんだ」
「が、がァアアアア!」
「おっと」
鈍い音と共に逆上した少年の右腕が不自然に垂れ下がる。クラスメイトが引き攣った声を上げ、噛み付かんばかりに吼えた少年の頭を押さえつけた浩太郎は恨みがまし気に見てくる少年の目が虚ろな事に気付いた。何かおかしい。
「こ、コウちゃん・・・何も肩外す必要は・・・」
「楓ちゃん、何か武器を持っておいた方が良いよ。コイツは何かおかしい・・・」
「へ?」
クラスメイト共々目を白黒させる楓に真剣な表情で少年を見下ろす浩太郎はクラスに入ってきた担任の先生の方を向いた。
「先生、警察に連絡を。傷害事件です」
「え?」
「彼が、五十嵐君と藤原君を金属バットで殴打。二人は怪我を負っています」
「あ、ホントだ! 大変!」
「お願いします」
慌てて携帯電話を出した教師が連絡するのを聞きながら拘束したままの少年を見下ろす浩太郎は急に苦しみだした少年に驚き、咄嗟に飛び退いた。不安定な右腕を揺らしながら暴れ狂う少年は白目を向き、泡を吹いた口から
声にならない絶叫を発する。
奇妙なダンスを踊っている様な少年が跳ね上がり、飢えた目を周囲に向ける。そんな彼に不用意に近付いた男子が絶叫を発した少年に殴り飛ばされ、堪らず倒れ込む。男子生徒に襲い掛かる少年を蹴り飛ばした浩太郎は
男子生徒を助け起こすと逃げ出した少年を追う。
加奈も彼の後を追い、連絡が終わった教員が忽然と姿を消した当人達に困惑する。脇目も振らず脱臼した腕をぶら下げて走る少年を追う浩太郎は階段の踊り場から踊り場に跳ぶ。その後ろを階段を下りながら追った加奈は
外に走っていった少年を浩太郎と共に追いかける。
グラウンドで体育をしている生徒が何事かと注目するのにも構わず少年に追いつこうとする浩太郎は突然白目を向いて吐瀉し、その場に倒れた少年へ恐る恐る近付くと潰れた動物の様にヒクヒクと痙攣している彼を拘束した。
「・・・加奈ちゃん、あんまり見ない方が良いよ。気分の良い物じゃないし」
「大丈夫。でも、ありがとう・・・気遣ってくれて」
「気遣いじゃないよ、事実を言っただけさ。それより皆の誘導、お願いして良いかい?」
「う・・・うん、頑張る」
「ありがとう。頑張れ、加奈ちゃん」
そう言った浩太郎はサイレンと共にやって来たパトカーに安堵し、気絶した少年の身柄を引き渡した。少年の背中を見送った浩太郎は歩み寄ってくる刑事に気付いて彼らに一礼した。
「神奈川県警双葉署の横川です」
「双葉高校二年A組の岬浩太郎です」
「災難だったね、校内でクラスメイトが暴れるなんて」
「はい、クラスメイトと協力して取り押さえようとしたんですけど二人が怪我をして」
「なるほど、じゃあ詳しく話を聞かせてもらっても良いかな」
「良いですよ」
そう言って浩太郎はグラウンドに立ったまま、聞き込みに応じた。そこで浩太郎は凶器の情報に加えて、犯人とは何の関係もなかった事と犯人の様子がおかしかった事を話した。うっかり麻薬ではないか、と言いそうになった浩太郎は
素人判断の怖さを思い出して口を慎んだ。
殴られた隼人達の事が気になるがそれよりも彼らが疑われない様にここで自分がしっかりと証言しておかなければならない。その重要さを理解しながら聞き込みを終えた浩太郎が教室に戻ると騒ぎを聞きつけたらしい女性教頭があろう事か
隼人と武、そして先生を怒鳴りつけていた。
「全く、君達は問題しか生みませんね! このような暴力沙汰が我が校で起きるとなれば学校の面子に関わる! 全く、イメージダウンもいい加減にしてもらいたい!」
「だから、俺らがしたくてした問題じゃねえって言ってんだろ!? 何で俺達が怒られなきゃいけねえんだ!」
「黙りなさい! 第一君達が探偵部などと言う怪しげな部活動で問題を起こすからこの様な事態になるのですよ!」
一方的に叱咤している教頭を相手に武は挑みかかる様に叫ぶ。今にも掴みかかりそうな彼を相手に彼女は怯む事無く一方的な言葉を投げつける。
「良いですか! 今後この様な事態が発生した場合、あなた達の部活動は停止です! 良いですね!?」
「ふざけんなッ、そんな要求納得できるか!」
「生徒なら、教師の決定には従いなさい! それともここで停止処分になりたいのですか!?」
もはやヒステリックに近い教頭の言葉に掴みかかろうとした武はその動きを片手で制した隼人の方を振り返った。一瞬怯んだ彼に代わり、隼人はイラついた声色で質問する。
「教頭、アンタはそれで良いのか?」
「良いとは?」
「俺達を処罰する事で事態を封じようとする動きについてだ」
「良いも悪いも、これは教員の総意で―――」
「俺は総意が聞きたいんじゃない、アンタの意見が聞きたいんだ。で、どうなんだよ」
「収拾をつける為には致し方ない事ですよ!」
「そうか、じゃあ決別だな教頭。俺達は俺達で“解決”を目指して動く。収拾とするあんたらとは折が合わんらしい、だから邪魔はするなよ」
邪魔すれば何をするか分からない、と付け加えて教頭を帰した隼人の捲くった腕に浮かぶ打撲痕が屈強だった彼の印象を痛々しいものに変えていた。武も頬にアイスパックを当てており、
染みる痛みに仕切りに表情を歪めていた。
「っつー・・・おう、コウ。お帰り、アイツどうなったよ」
「警察に引き渡したよ。取り敢えず今日は聞き込みとかは無いみたい」
「後日か・・・。あーあ、無能な教員共がうるせえんだろうなぁ。あ、悠美ちゃん先生は違うぜ!? 取り敢えず、理不尽な怒られ方しちまったけどアイツ、何で殴りかかってきたんだろうな」
「そうだよねぇ・・・。隼人君、身に覚えはあるかい?」
浩太郎の問いかけに武共々、クラスメイトが息を飲む。その視線の中心で、隼人は口を開いた。
「ある。繋がりは薄いがな・・・恐らく、名簿だろう」
「名簿? 名簿って、ああ、集会で言ってた・・・って事は犯人は―――」
「いや、お前の思ってる犯人じゃない。それは今回関係がない」
クラスメイトを前にして堂々とした推理を披露する隼人に食いついた恋歌が首を傾げる。
「関係がない? 何でよ、犯人は犯人じゃない」
「え、えっとね恋ちゃん、隼人君が言いたいのは個別犯じゃないって事じゃないかな?」
「個別犯じゃない?」
更に首を傾げる恋歌の隣、苦笑する夏輝が隼人に続きを促す。
「俺は最初に犯行を聞いて捜査した時、正直疑わしかったんだ。犯人は本当に単独かどうかってな。盗むにしては動機が薄いし不自然な振る舞いがどうしても漏れてしまうタイプが何で盗む必要があるのだろうってな、
不自然な振る舞いは罪悪感の表れだ、そう言うタイプが犯行に及ぶ事はまずない」
「たまたまじゃない? お金に困ったから売り払ってお金を得る為だとか・・・・」
「物を盗むだけでも動揺するぐらい激しく罪悪感を持つ人間がそれを売る? そんなの、見返りの金を手にした瞬間に自殺するぞ」
「じゃあ何よ、中心人物がいるって事?」
「俺はそう考える。金ではなく何らかの脅しを持って盗ませる、そうして自分は知らぬ顔を貫けば犯人にならず名簿が手に入る。どうだ?」
そう言った隼人に恋歌は渋い顔をする。まるでそんな事が有りえないで欲しいと思っているかの様に。
「まあ、何にせよ警察待ちだな・・・。俺達が出来る事はそんなに無い」
「そう・・・。待つ事しか出来ないのね」
「仕方ないだろう、そう言う組織体制なんだからな。さて先生、どうするんだ?」
「えーっと、とりあえずこの時間は自習ですね。次の時間の授業はしっかり受けてください」
先生の指示に黙々と頷いた隼人は散らばるクラスメイトを見送りながら腰掛けていた机から降りる。思いつめた様な表情を貼り付けて。