B.O.O.《ブラストオフ・オンライン》   作:Sence023

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Blast1-2

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 ゲームを起動した隼人は電脳世界に飛び込み、スタート地点に設定していたグループの拠点に着地した。そして全員がログインした事を確認した彼はメールを確認した。

 

「確認終わり、全員用は済んだか」

 

「皆良いみたいだね」

 

「よし、じゃあさっき言ってた依頼の説明をする」

 

 グループデスクにアクセスして、一つだけ残っている依頼を全員に共有する様に設定し、その依頼について説明を始めた。

 

「春休みに受けた依頼だ。ウチの常連から自領の特定地域を調査して欲しいと言われた」

 

「また初心者狩り?」

 

「の様だ。対人戦闘を重要視するBOOの仕様上致し方ない事ではあるが、現在六つある攻略組が初期に選定した条例により、一定レベル以下のプレイヤーをキルするのは一部メンバーを除いて禁止されている」

 

 そう言ってマップを表示させた隼人は、レギウス、アイラン、モウロ、オルファー、アルカン、コウロスとそれぞれ面積の違う架空の土地が描かれたそれの内、アイランと書かれたマップを拡大した。

 

「それで、今回の調査対象区域はアイラン中心地の西地区だ。ここにはスカウトされたばかりの凄腕が、本部から配置場所を通知されるまでの間、アイランへリスポーンする時や料理アイテムを得る為に使う居住区が集まった仮拠点区になっている。管理体勢が甘いせいか余り警備はされていないらしい」

 

「如何にも犯罪者がいそうな所だね、でもそんな地区でPK(プレイヤー・キル)なんて出来るの?」

 

「これは俺の仮説だが、PKが一対多で行われているのであればどうだ。実行可能ではないか?」

 

「確かに多人数であれば可能だと思うけど、わざわざアイテム保有数の少ない街中で大人数を動かす必要ってあるのかな」

 

「そこなんだ、この仮説の矛盾点は。何にせよ、調べれば分かる。とりあえずアイランへ行くぞ」

 

 そう言って隼人はグループデスクから離れてロッカーに移動し、武器であるセミオートマチック式のパイルバンカーが付いたガントレットを腕につけた。

 

 その隣では羽の生えた堕天使という種族のアバターを使用する利也が、グループオフィスに設置された個人部屋と収納品を共有するガンロッカーから市街地戦に向いた銃を取り出していた。

 

 休み明けである程度ブランクがあるので、隼人は自分も含めた全員のアバター情報とそれぞれの交戦距離を確認した。

 

 隼人のキャラクターはハヤトと言う名前で登録され、クラスと呼ばれるキャラクターのタイプはモンクで至近距離戦を得意とするキャラクターだった。

 

 対し、狙撃銃として改造された自動小銃『Mk17』を手に取った利也のクラスはスナイパー。ガンナーと呼ばれる銃器を扱うクラスの上位クラスで、その名の通り銃器を扱う事に特化したクラス。後方からの長距離射撃を得意としている。

 

 選んだクラスによってそれぞれの交戦距離と運用方法が異なる。それ故にプレイヤー達はパーティを組み、集団行動を基礎にゲームをプレイする。

 

 更に武器でも得意な敵が異なってくる。RPGにおけるスタンダードな近接武器から弓や銃器などの遠距離武器、杖やタクト等の魔法補助武器など、それぞれ通用する相手が異なる為、選択する武器なども戦略に大きく関わる。

 

 そう言った意味合いではあまり初心者向けとは言えないゲームだ。しかし、ゲーム内でそれをカバーする為にメモ機能等で攻略情報がプレイヤー達によって作成されており、それらは様々な方面への商品になっている。

 

 そう言ったおさらいを終えた隼人は半猫と呼ばれる猫耳と猫尻尾を持つ種族をアバターに選んだ恋歌に肩を叩かれ、全員の準備が終わった事を確認すると扉を開けた。

 

 八人住める程度の古民家をそのまま利用した本部から出た隼人達は民家の前に置かれた四台のネイキッドタイプのオートバイにまたがり、一台につき二人で乗車するとそれぞれヘルメットを被ってセルを回した。

 

「よし、じゃあ行くぞ」

 

 全員の準備が終わった事を確認した隼人は後ろに恋歌を乗せて鉄の愛馬のスロットルを入れた。

 

 因みにブラストオフ・オンラインにおいてはプレイ中の時間は現実と変わらないので、最短距離でも移動には10分掛かる。

 

 未舗装路を高速走行するネイキッドのスピードを楽しんでいる隼人とは対照的に恋歌は彼に張り付く様にしていて、目まぐるしく過ぎていく周りの景色等一切見ていなかった。

 

「隼人ぉ・・・スピード落としなさいよ・・・・」

 

「ん? 怖いのか? まぁ良いけど」

 

「こ、怖くなんてないけど皆を、お、置いてっちゃうでしょ?」

 

「と言っても皆こんな速度だけどなぁ・・・おい、武。速度落とすぞ」

 

『あいよ、まーた恋歌か』

 

 スロットルを緩めた隼人達は菱形隊形を維持したまま丘を飛び、そのまま走る。そのスリルに笑っていた隼人は背中で縮こまる恋歌の方を見てテンション一変、溜め息をついた。

 

「大丈夫か?」

 

「何なのよぉ・・・何時ものとは違うじゃないのよぉ!!」

 

「ああ、単なるショートカットだ。お前には何も言ってなかったな・・・。怖かったか?」

 

「こ、怖くはないけど、夏輝、ビックリするんじゃない・・・?」

 

「いや、利也に聞いたら、夏輝、何とも無いって」

 

 平然と答えた隼人は泣きそうになった恋歌に溜め息混じりに減速し、後ろにいた浩太郎を避け、武達に通話で先に行く様に指示して自分は一旦止まって降り、恋歌の涙を拭うと彼女と目線を合わせた。

 

「本当にお前、大丈夫か」

 

「怖い・・・」

 

 誰もいなくなれば幾分か素直だな、と苦笑した隼人は泣き出した恋歌を慰めた。そして、穏やかな風の吹く草原を緩やかに走りながら、武達の後を追う二人は通り過ぎる行商の馬車を一瞬見て走り抜ける。

 

 剣と魔法と銃のある世界は中世と近代の文化が入り混じった混沌とした世界観となっており、工業製品として存在する最新の自動車から、伝説の動物まで、幅広い移動手段がある。

 

 走り出して数分、堀に似た水路と和風の城壁に囲まれたビルと瓦敷きの建造物が混じった街並みが見え、その城門を越えて行って目的地に設定していた安宿の前で二人は止まり、ヘルメットを脱ぎながら降りた。

 

 強化プラスチック製のそれをバイクのタンクの上に並べて置いた隼人達はエントランスでチェックを受け、宿内では強制解除になる武器が彼等の身から消える。

 

 二人部屋の鍵を受け取った隼人はモジモジしながら付いてくる恋歌に微笑を浮かべ、部屋の鍵を開けて中に入った。部屋へのリスポーン設定を行ない、一息ついた隼人は備え付けの時計で時間を見る。

 

「もう五時か!? やべぇ、恋歌ログアウトしろ! 帰るぞ!」

 

「え、う、うん」

 

 慌ててログアウトを選択した隼人は眠る様な感覚に襲われ、真っ暗な意識の中に沈んだ。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 ダイブしていた意識は瞬時に戻り、慌てて身体を起こした隼人は悩ましげに身を起こした恋歌の姿に安堵し、夕暮れの空を見た後に周囲を見回した。

 

「彼奴ら帰ったのか・・・。おい、恋歌帰るぞ」

 

「うん・・・」

 

「どうした、大丈夫か?」

 

「もうちょっとだったのに・・・」

 

「な、何がだ」

 

 たじろいた隼人を頬を膨らませた恋歌が恨めしげに見つめる。自分に何か非があったのだろうと直感した彼は、一応謝罪したがそれでも恋歌の不機嫌は直らなかった。

 

 そんな状態のまま、部屋を出て施錠した隼人は自身の前を歩く恋歌が物欲しげに見てくるのに気付き、手を差し伸べた。が、手を取ってくれる直前にそっぽを向かれてしまい、肩を落とした。

 

「何なんだよ恋歌」

 

「折角・・・」

 

「ん?」

 

「折角二人切りだったのにぃいいい! 馬鹿ぁああ!」

 

「あ~・・・悪かった悪かった」

 

 困惑する隼人は涙目で睨んでくる恋歌のハンマーパンチを背に受けながら廊下を歩き、職員室に向かう。距離のある薄暗い廊下を恋歌と並んで進む隼人は、暗闇に怯える恋歌が腕を抱くのに何も言えなくて赤くなっていた顔を暗闇に隠し続けた。

 

 そしてその体勢のまま職員室に入り、教員の目に耐えながら鍵を返した。退室し、すっかり日が暮れた外を見て溜め息をついた隼人は、近付いてくる足音に気付き、怯えを強めた恋歌をカバーしながらそちらに顔を向けた。

 

「あら、相変わらず仲が良いわね。後輩君」

 

「アンタか、生徒会長。驚かせないでくれ・・・」

 

「ふふ、無理言わないでよ。それで、頼んでおいた件は? 少し進んだ?」

 

「いやちっとも進んでない。なにせ依頼を受けたのは一昨日だからな」

 

「ゴメンねぇ、気付いたのが一昨日だったから。ま、ヨロシクね」

 

 薄暗闇でも分かる柔和な笑みを浮かべて、そばを過ぎた生徒会長の背に半目を向けた隼人は、心配そうに見つめる恋歌の頭に手を乗せ、一つ息をつくと気分を切り替えた。

 

「さて、帰りにどこか寄るか?」

 

「え・・・い、良いわよ。それに依頼解決がまだでしょ? 武達も待ってると思うし、早く帰りましょ」

 

「ん~・・・そうか、じゃあ早く帰るとするか」

 

 内心では少し寂しかった隼人を他所に、嬉しそうな笑みを浮かべて抱く力を強めた恋歌は、着信音の鳴ったスマートフォンに出た彼に膨れっ面を見せ、苦々しい表情を浮かべながらの通話が終わるまで大人しく待った。

 

 取り敢えず歩き出した隼人に追従した恋歌は、通話途中の彼のリュックを叩く仕草から意図を悟り、手帳とペンを取り出した。

 

「・・・そうか、分かった。俺の方でも調べてみる。ああ、詳細が分かり次第そっちにも連絡する、じゃあな」

 

 そう言って電話を切った隼人は、膨れっ面の恋歌を見ながら手帳とペンを納め、リュックにしまった。

 

「誰からの電話?」

 

「他校の知り合いからだ。向こうのサーバーで何か怪しい動きがあるらしい」

 

「怪しい動き?」

 

「こっちと同じPK騒動らしいが、そんな偶然が重なるとも思えないからな。繋がりはあるんだろうさ」

 

「ふぅん・・・じゃあ尚更早く帰らなきゃね」

 

 悪戯っ気を感じさせる笑みを浮かべた恋歌を見下ろしながら相槌を打った隼人は、暗い校舎を二人引っ付いて玄関まで移動した。そして、肌寒い外の風に晒され、揃って身を震わせた二人は、何事も無く帰り道を歩いた。

 

 寄る所も無く、お互いがお互いを気にしながら歩いていた時、商店街に入ろうとした隼人が、腕組みのままの体勢に気付いて恋歌の頭を軽く叩いた。叩かれた事が気に入らず、膨れっ面になる恋歌に、腕を解く様に言った彼は商店街にいたクラスメイトの母親に声を掛けられた。

 

「あら隼人君、恋歌ちゃんとお揃いで部活から帰る途中?」

 

「はい、そうです」

 

「探偵部、だっけ。おばさんも何か頼んじゃおっかな。息子の様子とか」

 

「学校に関わる事なら、何でも」

 

「あはは、冗談よ」

 

 そう言って仲の良いクラスメイトの母親が笑い、仏頂面になった隼人の胸を軽く叩く。彼に隠れる恋歌に視線が向き、人見知りの気がある彼女が隼人の陰に隠れる。

 

 話せないと悟ったらしい母親は隼人に別れを告げ、去っていく。それを見送った彼は、自分に隠れている恋歌を見下ろし、恥ずかしそうに顔を赤くしている彼女に溜め息を落として歩き出した。

 

「恋歌」

 

「な、何よ・・・」

 

「早くその人見知り直せ。これから先困るぞ」

 

「わ、分かってるけど、その、その・・・」

 

「・・・まあ、良いさ。ゆっくり直せ」

 

 そう言った隼人は隣で涙目になっている恋歌の頭に手を載せ、三度撫でた。そして、再び縮こまる彼女に苦笑した彼は、薄暗い街頭を並んで歩き、

家の前にたどり着いた。

 

「じゃあまた後でな、恋歌」

 

「うん・・・」

 

 言い切って玄関に向かった隼人は、恋歌が家に入るのを見届けてから自分も家に入った。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 時刻は八時前、BOOにログインし、リスポーン地点に設定した宿の一階、小さな酒場でサイドテーブルに飲料アイテムを置いて話す八人グループがいた。

 

「ちょっと遅過ぎやしませんかねぇーお二人さん」

 

「悪かった。でもこっちにも色々あったんだ」

 

「ま、そこらへん理解してっからこれ以上言わないけどさ、とっとと聞き込みに行こうぜ」

 

 からかう様な半目を向けた武は、疲れを浮かべた表情の隼人の肩を叩き、家に帰ってからの苦労を労うと酒場の戸を開けて外に出た。

 

 グラス入りのドリンクアイテムを一気に飲み干した隼人も、利也達を連れ、彼に続いて宿の前に出ていき、それぞれに調査箇所を分担して聞き出す事を指示して解散した。

 

 その場に残った隼人は一緒に残った恋歌の背を叩き、歩き出す。驚いたのか頭から生えている猫耳がビクッとなり、不機嫌になった琴音が尾を縦に振りつつ先行していた隼人に追い付く。

 

「何すんのよバカッ」

 

「お前がボーッとしてるからだ、キビキビ動け」

 

「うっさい、アタシはあんたと違って考える事がいっぱいあるのよっ」

 

「はーん。そりゃ随分と複雑な年頃だな、恋歌」

 

「レンレンっ。ちゃんとプレイヤーネームで呼びなさい、ハヤト!」

 

「あ、ああ。悪いなその・・・れ、レンレン」

 

「そ、そう。それで良いわ」

 

 赤くなる恋歌と隼人はお互い顔を合わせず歩き、しばらくして知り合いのプレイヤーに会い、聞き込みを始めた。

 

「お前等、PKについて調べてんのか」

 

「ああ、可能な限り頻発する場所の情報が欲しい。何か知ってるか?」

 

「知ってるかって言われてもPKについちゃ皆サクヤさんからグループメールで連絡もらったくらいだしなぁ。悪い。でもよ、この件についちゃ何か知ってる奴の方が少ないと思うぞ」

 

「そうか、ありがとう。手間を取らせた」

 

「これくらい良いさ。それより、頑張ってくれよ」

 

 人なつっこい笑みを浮かべてプレイヤーが去っていき、彼の背を見送った隼人はログを見ながら次の一手を考えていた。

 

「事情通は無し・・・か。まいったな、調べられないぞ・・・」

 

「それにこの時間、人通りが少ないんだっけ?」

 

「ああ、家族団らんの時にわざわざゲームする奴は少ないからな。PKには絶好の時間帯だ」

 

「それじゃ色んなとこ行きましょうよ、現場に遭遇するかもしれないし・・・ハヤト?」

 

 自分の話も聞かず、一点を見つめる隼人に疑問を浮かべた恋歌は突然歩き出した彼に慌てて付いて行った。

 

「ちょっとハヤト?! どうしたのよっ」

 

「怪しい奴等がいた。追うぞ」

 

「ちょっ、待ってよっハヤトォ」

 

 涙目で追いかける恋歌は、武達に連絡している隼人の背を見上げながら腰のホルスターにある拳銃に手を伸ばす。有事の際は応戦しなければならない緊張感で頭が真っ白になる彼女は、角を曲がった彼のサインに頷き、その場に待機した。

 

 バックアップとして恋歌を待機させ、怪しい集団に近付いた隼人は、自身のステータスを臨戦状態にして彼等に声を掛けた。

 

 VRMMOであるBOOにおける戦闘は、自身の体を用いての戦闘にゲーム的な数値の要素を絡ませた非常に複雑な戦闘方法となっている。プレイヤー同士の戦闘では、数値的な要素の他に体の動かし方や連携も重要になる。それがBOOの魅力であり特徴でもあった。

 

 そしてプレイヤーにはそれぞれHPが設定されており、それを0にする事で相手を強制的にログアウトさせる事が出来る。強制的にログアウトしたキャラクターは、ゲーム内では死亡した事になり、数時間ログインが出来なくなる。

 

 故にプレイヤー同士の戦闘ではかなりの緊張感が走り、本気の戦闘が行われる。警戒しながら歩み寄る隼人も、不意打ちでログアウトさせられない様に武器を確認しながら彼らに寄った。

 

「おい、ここで何やってる」

 

 威圧感に満ちた語調に身を震わせた集団は、先頭に立つ龍人の男を代表として出し、対応させた。

 

「我々のパーティへの勧誘ですよ」

 

「そうか、ここは勧誘禁止地域だ」

 

「あ、そ、そうなんですか」

 

「高レベル狙いかは知らんがとっとと去れ。集団でうろうろするな」

 

「あ、はい。・・・って言える訳ねぇだろ!!」

 

 叫び様抜刀した男の一閃を避けた隼人は、続いて突っ込んで来たモンクの一撃を受け止め流すとライフルの射撃を回避し、近場にあったタルを投げ飛ばした。

 

 樽を潜って来た少女のハルバードを回避し、囲まれる形になった隼人は、突っ込んできたモンクの連続攻撃を全て捌き、顎に掌底を叩き込んで浮かせると肘打ちで吹っ飛ばした。

 

 家屋に叩きつけられたモンクの意識が飛んで戦闘不能になるが、それを確認する間もなく刀を受け止めた隼人は、柄から手を放した男の拳を両手で受け止め、片手で振るわれた刀を屈んで避け、柄を握る手の甲を殴った。

 

 吹き飛ぶ刀が樽に突き刺さり、中に入っていたワインが噴出する。路端を浸すそれが色を広げ、二人の足下を濡らす。バックアップの短刀を引き抜いて構えた男は、隼人に突撃していった少女にほくそ笑んだ。

 

「もらったぁあああああああッ!!」

 

 反応出来ない速度で穂先を突き出した少女の身体は、直前で真横に蹴り飛ばされた。飛び蹴りで少女を蹴った恋歌は迫る龍人の一閃を、着地と同時に避けて隼人と入れ替わり、スキルを空振らせたモンクに空中回し蹴りを叩き込んだ。

 

「ショートカット“鎧通し”、起動!!」

 

 龍人へ最大レベルまで強化した初級スキルの一発を音声起動で呼び出して見舞った隼人は、踏み留まった竜人の切り返しを両手で止めると力一杯引いた。そして肘を入れて怯ませ、後方からの射撃をそれで防いで一本背負いで投げ飛ばす。

 

 だがその背後から少女が迫り、今度こそ攻撃を受けると思われたがそれよりも前に、少女は背後からの一撃を受けて強制ログアウトさせられた。何だ、と龍人達が瞠目する中、ログアウトのホログラムエフェクトから現れたのは楓で、彼女は丁寧な鍛造の燐きを放つ業物の一刀を手にし、人狼の耳と尾を持っていた。

 

 子どもの様な笑みを浮かべて刀を鳴らした彼女に隼人は、溜め息混じりの笑みを返すと、モンクに苦戦する恋歌の方を見た。体格差で彼女を圧倒するモンクの背後、ガンブレードと呼ばれる複合武器が凶暴な輝きを放ち、直後、筋肉質な身体が吹っ飛ぶ。

 

 何が起きているのか分からないモンクは、恋歌の背後に立つ龍人の姿の武に気付いて思念起動で鎧通しを起動し、彼に拳を叩きつけようとした。が、直前背後に現れたアサシンのクラスに属す浩太郎の一突きで、強制ログアウトさせられ、光となって消えた。

 

「お前ら、遅かったな」

 

「複雑で広い町フィールドの端からひとっ走りしてきてんだぜ? 無茶言うなよ」

 

「利也達は」

 

「ちゃんと来てるよ、慌てなさんな」

 

「分かった、とっとと片付けるぞ」

 

 仏頂面のまま、振り返った隼人に苦笑しながら並んだ武は、その手に持ったガンブレードの銃口を龍人に向け注意を惹き付けた直後に、種族的に速度と攻撃力に優れている楓を飛び込ませた。

 

 龍人への初撃として抜き打ちを仕掛けた楓は、硬い鱗に刃を阻まれ与えたダメージ総量を確認して舌打ちした。龍人も人の要素がある以上、生身の部分があるがそこは専用の鎧でカバーされていた。

 

 だが、彼女の役目は攻撃だけではなかった。今の一瞬で見せた相手の動き、持っている攻撃耐性、そしてサポート役の有無だ。

 

「どうだ、ナツキ。大丈夫か?」

 

『え、うん・・・何時でも』

 

「分かった、じゃあ作戦を送ってくれ。各自、相手の前線はたった一人だがくれぐれも油断はするなよ」

 

 隼人の号令に応じた全員は、夏輝から送られてきた作戦メールを元にそれぞれ動き始め、ガンブレードを構えた武が、龍人目がけて三連射して牽制すると、瞬時に回復エフェクトを発した龍人の背後、刀を構えた楓がスキルを付加した一閃を見舞う。

 

「ショートカット、“雷光一閃”!!」

 

 音声起動したスキルを全身に乗せて神速の一閃を放った楓は、層になっている鱗に刃を阻まれ、ダメージを与えられない。引っかかる感触に違和感を感じた彼女は、武の隣に立ち止まり、鞘に刀を納めた。

 

 それと入れ替わる様にして跳躍した恋歌は龍人の顔面を蹴り、怯ませる。だが、ダメージを与えた様な手応えが無い事に気付いて顔面を足場に跳躍した。

 

「スイッチ!!」

 

 跳躍し、身を回した恋歌の叫びと同時、飛び込んだ隼人の拳が、胸に突き刺さる。が、やはり真芯に至った様な手応えは無く、舌打ちして身体を引いた彼に横薙ぎが襲い掛かり、屈んで避けた彼は肘打ちを叩き込む。

 

 それも怯ませる程度の威力でしか無く、ニヤリと笑った龍人は一瞬止まった隼人目がけて拳を振るう。咄嗟に飛び退いた彼は、刀の間合いに入った事を悟り、ダメージを覚悟する。だが、それよりも前に放たれたライフル弾が刀の軌道を逸らし、隼人へのダメージを食い止める。

 

「何、スナイパーだとッ!?」

 

 その時初めて、龍人は隼人達のパーティにスナイパーがいる事を知り、後方にいる仲間へチャットを開いて連絡しようとしたが、ログアウト反応を見て唖然とした。

 

「お、おいッ! 何だ、何で応答しないッ!? ガンナーッ! 返事をしろ!」

 

「無駄だよ。ガンナー達なら、俺が全部仕止めた」

 

 狼狽える龍人の背後、高レベルの光学迷彩展開スキルを解除した浩太郎が、ふわりと着地する。だが、龍人は態度を崩さない。馬鹿にした様に笑い、斬り掛かってきた浩太郎の一撃をその身で受け止め、返そうとした。

 

 だが、それまで阻まれていた刃があっさりと彼を貫き、三分の一に薄れた痛覚の中で血嘔吐を吐いた彼は目を見開いた。

 

「な・・・何でだ・・・何故エンチャントが解除を・・・」

 

「エンチャント担当は私が潰した」

 

「何・・・ッ?!」

 

 じわじわとHPが削られていく龍人の視線の先、逆手持ちの短刀を手にした加奈が、口元を覆っていたスカーフを下ろしながらそう言って、血振りした得物を鞘に収める。

 

「空き家の中でエンチャント術式をかけていたのを見つけた。探知術式とかトラップも無かったし暗殺するのは凄く容易だった」

 

「何故だ・・・、何故居場所が・・・空き家など幾つもあると言うのに・・・!」

 

「私がアサシンだからって嘗めない方が良い。初級スキャニングでも魔法発動中のマジックサポーター位隠れても見える」

 

 そう言った加奈は絶望する龍人に向けて、自動拳銃P228を引き抜き、トリガーに指をかけた。暗殺で使用すると想定していないので、サプレッサーを取り付けていないそれを龍人のこめかみに突きつけた加奈は、予想外の行動に驚く隼人達を他所に射殺した。

 

「終わり」

 

「いっつも思うけどカナって思い切り良いよなぁ・・・」

 

「悩むのは嫌い。どうせ倒すなら早く倒した方が良い。勝負とはそう言う物」

 

「けどよーこれは勝負じゃなくて戦争みたいなもんだぜ? 理由があるのか無いのか、そこらへんハッキリさせてやる様なもんじゃない。こちとらPKの頻発の原因探ってるんだからよー困るんだよなぁ」

 

「そう言う事・・・」

 

 思い切り沈んでいる加奈に慌てた武は、フォローに入る浩太郎の背中を見た後、額を押さえている隼人の方を見て一つ息をついた。

 

「一応言っといたぜ部長」

 

「ああ、すまん」

 

「しっかし結局の所、あいつ等何が目的でPKなんざしようとしていたんだ?」

 

「分からん、アイテムを奪おうにもここは集合住宅地。通りかかるプレイヤーを片っ端からPKをするメリットは無い」

 

「と、なるとますます意味分かんなくなっちまうな・・・。何つうか、連中愉快犯じゃねえの? だったら辻褄が合うだろ」

 

「愉快犯、か。確かに辻褄は合うな。だが、辻褄が必ずしも真実であるとは限らん」

 

「へっ、そう言うと思ったぜ親友。んなら、俺達ももうちょっと調べっかー」

 

「いつも悪いな、武。俺のわがままに付き合わせて」

 

「んな事、気にすんなって。探偵部の部長はお前だぜ? 部活動にいる以上、部長の考え聞かずして誰の考えを聞くっつーんだよ」

 

 気さくな笑みを浮かべる武に無言で頷いた隼人は、自身の背後で話を聞いていた恋歌のすねた膨れっ面を見て、苦笑混じりの溜め息をつき、視線を逸らす彼女の頭に手を置いてゆっくり二、三度撫でた。

 

「な、何よ」

 

「いや、お前にも悪い事するなって」

 

「別に・・・そんな事無い、けど。は、隼人は大変なんでしょ?!」

 

「ま、まぁそうだな。大変にはなるな・・・」

 

「だ、だったら手伝ってあげるわよ。私も、ひ、暇だし!」

 

 顔を赤くして言う恋歌の姿に恥ずかしくなった隼人は、懇願する様な涙目に負けて視線を逸らし、上気した頬を人差し指で掻いた。

 

「き、気持ちは嬉しいんだが恋歌その・・・」

 

「何よ、隼人は私に手伝って欲しくないの・・・?」

 

 口ごもる隼人を今にも泣き出しそうな表情で見上げた恋歌は、何か悩む彼の言葉を彼の腕を浅く抱きながら待った。

 

「分かった、手伝ってくれ」

 

「えへへ~しょうがないわねっ、ちゃんと手伝ってあげる!」

 

「くれぐれも、途中で投げるなよ?」

 

 飽き性を心配する隼人の言葉に、嬉しそうな返事をする恋歌を遠目に見ていた武は、ギリースーツを羽織った背にライフルケースを背負って合流してきた利也と、杖を腰に下げ、修道服の様なローブを纏った夏輝と合流した。

 

「皆、お疲れ様」

 

「ああ。お疲れ」

 

 他愛の無い利也と武の会話を安心した様に見ている夏輝は、いきなり抱き付いて胸を揉んできた楓に驚き、慌てて逃げようともがいた。そんな様子を離れた場所から見ていた浩太郎は、傍らに身を寄せ、懇願してくる加奈に気付いた。

 

「どうかした? カナちゃん」

 

「ううん、その・・・褒めて欲しくて」

 

「あぁ、そう言う事。ん、よしよしエラいね」

 

「えへ・・・」

 

(ホントこんなので良いのかなぁ・・・)

 

 疑問に思いながら頭を撫でている浩太郎は、恋歌と同じ半猫の尾を横に振る加奈を見てふっ、と頬を緩ませた。と、用事を済ませた隼人が軽く手を叩いて七人の注意を引き、話を始めた。

 

「さて、用事は一段落した。此処で今後を話すのもなんだし一旦宿に戻るぞ」

 

『了解』

 

 頭を掻きながらの隼人の号令に全員が応じ、徒歩で移動した彼等は、宿にある中規模な広さの部屋を追加料金で借りてそこに集まった。

 

「さて、十時を過ぎた辺りか。じゃあ、この話をしたら解散としよう」

 

「分かった」

 

「よし、それじゃあ本題だ。今後この件について以下の動きを取る事になる。一、PKグループを牽制する事。二、PKグループを叩きのめす事。

三、首謀者を焙り出す事。以上三つが今後の優先事項となる。但し、変な勘違いで戦闘を起こす事だけは避けろ。聞き付けたギルドの末端が

他ギルドの謀略と決め付けて暴れるかもしれん」

 

「と言う事は・・・この件は可能な限り内密に処理しろ、と言う事?」

 

「ああ。但し、狙撃による処理は不可能だろう」

 

「そうだね。相手の中には遠距離職もいるし、それらの射程外から多人数を仕止めるのは武器的に不可能だ」

 

 頷く隼人にそう話す利也は、何か聞きたそうにしている夏輝と加奈に視線を向け、代表して手を上げた夏輝の質問を受けた。

 

「その利也君が言う武器的に不可能、ってどう言う意味なの?」

 

「答えるのが難しい質問だね」

 

「ご、ごめん・・・なさい」

 

「ううん、気にしなくて良いよ。ええっとね、専門的な話になるけど、スナイパーライフルには種類があるんだ。セミオートライフルとボルトアクションライフル。

セミオートライフルは連射出来るけど射程が短い。逆にボルトアクションライフルは連射出来ないけど射程が長い」

 

「なるほど、射程外からの撃ち込みはボルトアクションが有利だけど、多人数戦は不利、と言う事なの?」

 

「そう言う事。だから狙撃は使えないって訳。となれば、頼みの綱はアサシンの暗殺かな?」

 

 納得する夏輝の言葉に説明を続けた利也は隼人の方を見る。

 

「いや、幾ら暗殺でも連続で二回までしか使えない。再使用可能時間も長いしな」

 

「二回って事は六人パーティでも二人余るよねぇ・・・」

 

「無理に暗殺を狙わずとも、通常スキルの一撃で仕止められれば良いが・・・な」

 

「通常スキルはエフェクトが派手な分、ステルス性は下がる、か」

 

「グループに牽制は出来るけどな・・・まぁ、良い。取り敢えずこんな感じだ。って大事な話してんのに寝るな!!」

 

 夜に強い男子陣を除き、意外と夜が弱い女子陣が、熟睡している様にどこにともしれない怒りをぶちまけた隼人は、慌てて起きた夏輝が必死に起こそうとする様に、どうしようもない気持ちになってただただ黙っていた。

 

「つか、ゲームん中で居眠りできるのかよ・・・」

 

「システム的には・・・出来るんじゃね?」

 

「ま、何にせよ・・・もう寝るから解散すんぞ」

 

「おー、お休み。寝るわ」

 

「ん、じゃあな」

 

 そう言って隼人は全員と同時にログアウトした。そして、翌日学校の教室にて慌てて駆け込んだ隼人は、朝読書の準備に入っていたクラスメイトの視線を浴び、真っ青になっていた彼の様子に異常を感じた利也と夏輝が、後列の席から慌てて駆け寄る。

 

「だ、大丈夫隼人君?!」

 

「ぜぇ、恋歌の馬鹿が・・・。ぜっ、起きないまんま時間が過ぎて・・・。俺が背負って走って来た」

 

「・・・流石、身体能力学校トップ。人を背負って一キロ近く走ってくるとは」

 

 呆れ半分驚き半分の利也に苦しい笑みを浮かべた隼人は、背中に目をやってすやすや眠る恋歌を親指で差した。

 

「取り敢えず恋歌を下ろし・・・ヴッ」

 

「恋歌ちゃん外れない!?」

 

「ぐぇええええッ」

 

 眠り続ける恋歌の腕で首を絞められている隼人は、眠り続ける彼女を引っ張る夏輝に止める様言おうとしてそのまま倒れた。

 

「じ、人工呼吸を!」

 

「いや、酸欠で死んじゃうから」

 

「じゃあどうすれば?!」

 

「普通酸素供給すれば良いんじゃない?」

 

「酸素ボンベですね!」

 

 そう言って立ち上がった夏輝に、普通ねぇよ、と全員が突っ込みを入れる。だが、何故か武が持っており、無事隼人に酸素が供給された。

 

 それから一時間後、恋歌共々机に突っ伏していた隼人は、割れる様な頭の痛みに耐えながら上体を起こし、心配そうに見上げていた恋歌と目が合い、焦ってのけ反り後ろに倒れた。

 

「くっそぉ・・・いて~・・・」

 

「ふん、何時まで寝てるつもりだったのよ」

 

(数十分前のお前に言いたいぜそのセリフ・・・)

 

 頭を押さえながら頬を引き攣らせる隼人を見下した恋歌は、頬を赤く染めながら尻餅をつく彼に手を差し出した。隼人に比して手の小さな彼女だったが、気持ちを汲んだ彼に手を握られ、身体を強張らせる。

 

「ははは、恋歌の手ちっちゃいな~(体もちっちゃくて軽いから何の支えにもならん・・・が、言うのは控えよう)」

 

「へ、変態! 何考えてるのよ!」

 

「よっと、サンキュー恋歌。助かった。(引っ繰り返るから引っ張ってないけど)」

 

「ふ、ふん。そりゃ良かったわね! さっさと手を離しなさいよっ」

 

「はいはい」

 

 そう言って手を離した隼人は、倒していた椅子を戻してそれに座ると、膨れっ面の恋歌の背後によって来た楓と武に視線を向け、それに釣られて探偵部の面々が隼人の机の周りに集まってきた。

 

「そう言えば部長よ、昨日のPKについてなんだが、知り合いのグローブ・スティンガーメンバーから聞いた話じゃ、あのエリアに限った話じゃないらしいぜ?」

 

「なるほど、大方予想はしていたが、本当にその通りだとはな。狩場を幾つも持っているとなると連中を叩く為には狩場ではなく、巣を狙う必要があるか・・・」

 

「て、事は昨日決めた方針も変更になっちまうか? 巣を狙うなら巣を探さねぇといけないだろ?」

 

「いや、それは早計だ。それに何も巣を探すのに直接探す必要は無いぞ」

 

「ん? おいおい・・・それってまさか」

 

「そのまさかだよ。単純な話ではあるけどな」

 

 額を押さえる武に柄にも無い無邪気な笑みを浮かべた隼人は、未だ真意を汲めずにいる残りの面々を見回しながら、さっき考えついたばかりの策を話し始めた。

 

「と言う訳で皆、今後の方針については昨日のままだが、やる事が増えた」

 

「それは?」

 

「次回の戦闘ではPKグループの内、一人を生け捕りにして尋問する事だ」

 

「捕らえて尋問、ですか。その程度で済めば良いんですけど、何故?」

 

「それはな―――」

 

 腕組みする隼人の言葉を待っていた加奈達女子は、合点がいったらしい利也と浩太郎に驚き、苦笑した隼人が彼等に言葉を譲った。

 

「自分達の本拠地を吐かせる為だね?」

 

「その通りだ。巣を狙うなら獣を追えってな」

 

「でも何で逃がそうとは思わなかったの?」

 

「奴等の本部がBOOにあるとは限らないからだ」

 

「ネットサイトで結束している可能性がある、と? 確かにその可能性はあるけど・・・」

 

「ああ、ネットであれば俺達に手出しは出来ない。学校と生徒会の出番だ」

 

「じゃあ、僕等はそこまでの手引きをすれば良い訳だね?」

 

 そう問うてくる利也に頷いた隼人は、教室に入ってきた教員を見て全員に昼休みに部室で作戦会議を行なうとだけ伝えて席に返した。

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