B.O.O.《ブラストオフ・オンライン》   作:Sence023

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Blast8-1

第八話『Never, never, never, never give up.《

決して屈するな。決して、決して、決して!》』

 

 午後八時半、BOO双葉高校サーバー内・コウロス―――宿屋『アウトロー』203号室。

 

 六人部屋に詰め掛けたケリュケイオンのメンバーは隼人を中心にこれからする作戦のブリーフィングを始めた。全員、ファンシアをHMDモードで起動し、空間に浮かぶARデータとして作戦のデータを読み取る。

 

「段取りの確認から行こう。本部ビルには先行してコウとカナが屋上まで上がり、見張りを始末する。死体の始末は陰に隠すだけでいい。15分経過すれば消滅するからな。始末が済んだ後、前衛組はジップランチャーを放ち、オートキャスターで屋上に上がる。

その後、俺、レンレン、カエデ、コウ、アキホの五人は屋上からここ、32階にあるサーバールームを直接目指す。タケシ、カナ、カミはビルの壁面からバルコニーの敵を排除しながら32階を目指せ」

 

「よくここまで作戦思いつくな。で、装備の中にあるパラシュートってのは?」

 

「もしもの時の脱出装備だ。幸い、外壁は全面ガラス張りだ。破ればすぐ外に出られる」

 

「滅茶苦茶だなぁオイ・・・。理に適ってるけど普通そんな事しねーよ」

 

「非常策だ、あまり深く考えるなよ」

 

 そう言って隼人は話を続ける。

 

「基本、ビル内部ではCQB〈クロスクォーターバトル:近接戦闘〉が展開される。加えて今回は隠密性が重視される、あまり派手な事はするな。それじゃあ、準備に入ろう」

 

 そう言って手を叩き、ケリュケイオンのメンバーはそれぞれの準備に取り掛かった。浩太郎と加奈はビルの方に向かい、隼人達は持ち込んでいた機材を宿の屋上に移動させていく。周囲を警戒している彼らが屋上でジップランチャーを

組み立てている中、宿を出た浩太郎と加奈はポツリと落ちた雨粒をスニーキングスーツ越しに感じつつ光学迷彩を起動してビルの外壁に走った。

 

 加奈がヴェクターを周囲に巡らせて警戒しつつ、浩太郎は外壁に足を付け補助のクライミンググローブを壁にくっ付けて這う様に壁を上がった。遅れて加奈も続き、アサシン二人は54階もあるビルの屋上を目指して上り始める。大雨が降り始め、グローブのグリップが怪しくなり始める。

 

 と、浩太郎が手を滑らせ、咄嗟に加奈が彼の手を掴んで落下を抑える。左のグローブを壁に貼り付けた浩太郎は足を滑らせない様に気を付けながら足をビルにつけた。加奈と共に壁を登った浩太郎は自分達の真上にあるバルコニーに誰か来たのを至近のスキャニングスキルで感知した。

 

 飛び上がる様にバルコニーの足場に隠れ、ハンドサインで加奈に待機を指示する。鼠返しの様に天井を押さえる足場を透過して二つのシルエットが土砂降りのバルコニーに現れる。クラスまでは判別できないが何とか音声は拾えていた。

 

「ねぇ、今日トーネードストライダの連中見た?」

 

「いや、見てないが。それよりもどうした? 雨が降ってるのに」

 

「何となくだよ、それよりも連中がいないのって何か怪しくない? 何かあるかもしれない」

 

「考えすぎだ。体が冷えるぞ、早く戻ろう」

 

「えー、分かった」

 

 シルエットが建物に戻るのを待った二人は、拳銃を引き抜いて構えつつ足場の範囲から出て行く。ゆっくりと壁を登りながらバルコニーを照準した二人は誰もいないと見るや急いで登る。飛び上がる様に壁を登る二人は既に配備している利也からのスポット情報を元に見張りのいる42階のバルコニーで一旦止まり、利也に通信する。

 

「ファントムよりシューター、バルコニーの敵を狙撃できる?」

 

『シューターよりファントム、ターゲットの狙撃は可能』

 

「ファントム了解。お願いするよ」

 

『コピー』

 

 瞬間、シルエットの頭部が吹き飛んでバルコニーに倒れる。急ぎバルコニーに上がった二人は周囲を警戒しつつ射殺体を廊下の影に隠し、再び壁を登り始める。その後にバルコニーは無く、二人は無事屋上の少し前に到着し加奈を先頭に屋上に上がって暗がりに隠れた。加奈と入れ替わった先頭でMk23を構えた浩太郎は敵の数を確認し、

近くでファンシアを弄っている女ファイターに拳銃を照準する。今は物陰に入ると同時に切れた光学迷彩の再使用時間中。なので迂闊に動けなかった。

 

 据え置きライトの灯りはヘリポートにしかないので見張りは懐中電灯を携行している。チャンスと見た浩太郎は加奈にカバーを任せ、ファイターにギリギリまで近づく。そして、近場の欠片をファイターの向こうに放り投げた彼は物音に気付いていない彼女に近付くと口元を押さえ付けて首を思い切り捻り、骨を折った。即死したファイターを

物陰まで引き摺った彼はカバーしていた加奈がその向こうにいたインファントリを射殺していた。

 

 NVG(ナイトビジョン・ゴーグル)を装備していたらしいインファントリは灯りを持っておらず、サボりのファイターを見に来て殺害に遭遇したらしい。危機が去った事に胸を撫で下ろした浩太郎は腰の拳銃を引き抜いて構えつつインファントリの傍に移動すると死体を隠して次のターゲットを見繕った。スキャニングによるターゲッティングで数を確認、

前もっての偵察通り、五人から二人を引いた三人がHMDに映っていた。

 

「ヘリポートに二人。ヘリポートへの階段に一人・・・どうする?」

 

「コウ君は回りこんでヘリポートのフレームから上って。私は見張りを始末して階段を上がるから」

 

「了解、気を付けてね」

 

 そう言って闇の中に隠れた浩太郎を見送った加奈はヴェクターに取り付けられたサプレッサーを確認するとヘリポートへの階段を目指す。足音を立てず、素早く移動した彼女は見張りの様子を窺うと低発光ステルスモードのリストディスプレイで時刻を確認する。午後八時五十分、作戦開始まで十分しかない。内心焦りつつ、見張りを観察していた彼女は

通信動作をしているらしいシルエットにハッとなった。

 

(まずい、もしかして倒した見張りと通信しようとしている?!)

 

 素早くヴェクターを構えた加奈は回復した光学迷彩を起動、急いで見張りに近付いた。だが、それがまずかった。

 

「・・・物音?」

 

 決して小さくない足音が加奈の足から発せられ、ストラップでTAR-21を吊っていた見張りがクルリと振り返った。そして、彼はスキャニングの動作をしようとしており、それでクラスを判別した彼女は真っ先にヘッドショットで射殺した。糸の切れた操り人形の様に崩れ落ちた死体に胸を撫で下ろした。ばれない様にフレームの下に死体を隠した彼女は

浩太郎からの通信を受けた。

 

『こちらファントム。リーパー、首尾は?』

 

「上々、これから階段を上がる。そっちは?」

 

『ターゲットを捉えてる。合図、出すから良かったらいって』

 

「了解、今・・・上がった。よし」

 

『それじゃ行くよ。3、2、1、ファイア』

 

 瞬間、Mk23とヴェクターの銃口が同時に火を吹き、ターゲット二人がヘリポートに倒れ込む。それを高所から落とした浩太郎はヘリポートの明かりを消し、予め設置していたジップランチャーのマーカーをファンシアで起動させた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 膝立ちでファンシアを睨んでいた隼人はARモードで認識したマーカーにカメラを起動していたファンシアを閉じるとそれを元の場所に収めて立ち上がった。

 

「ターゲットマーカー起動確認、作戦開始だ」

 

 そう言った隼人に頷いた利也はマーカーの位置にジップラインを射出する。ハープーンガンの様に矢尻にロープのついた矢が放たれ、矢がマーカーの位置に命中して自動巻き上げ機能が機能する。ピンと張られたロープの具合を確認した隼人は先陣としてオートキャスターを取り出し、

端に付いていたカラピナをベルトに引っ掛け、ロープにキャスターを取り付けた。

 

 助走の後にキャスターに内蔵されたモーターを起動させた隼人は上り坂になっているロープをするすると登っていくモーターの力強さと足元に何もない浮遊感を感じつつ、屋上に上がった。屋上に上がった隼人はすぐにキャスターを外して脇に逃げると後を追ってきた武達が

次々に屋上へ上がってくる。

 

 最後の一人だった香美は背負っていたリュック型のマジックバッグを屋上に下ろすと必要なものをそこから取り出して並べた。並んだ中から非殺傷グレネードを二、三個程、手にとって腰に下げた隼人は周囲を確認しつつ、作戦を確認し始めた。

 

「ここからは手筈通りだ。よし、ここからはコールネームで通信しろ。秋穂、香美、自分のコールネームは覚えてるよな?」

 

「大丈夫」

 

「よし、必要な物を持って各自の位置に移動するぞ」

 

 そう言ってドアに向かった隼人はMk23を構えた浩太郎のカバーを受けつつ、屋上のドアを開けた。手でゆっくりと開けた彼は何もない事を確認すると待機していた面々へ手招きして中に入れた。カバーしつつ入った五人は六階ずつ使う階段が違うらしい作りのビルを降りながら

周囲に敵がいないかどうかを警戒していた。

 

 先頭を行く隼人が48階に下りた階段の角を曲がった瞬間、彼の目の前をライフル弾が通り過ぎた。反射的に下がった彼は後ろの面々を押しながらこう叫んだ。

 

「コンタクト!」

 

 叫んだ隼人は弾雨が途切れた瞬間を狙ってオフィスの仕切りに飛び込む。薄板に弾痕が穿たれ、スライディングで難を逃れた隼人は目の前に現れたファイターを窓ガラスの外に蹴り飛ばすと弾丸の方向を見定め、並んでいた机をスキルを使って蹴り飛ばした。砲弾宜しく滑走した机が仕切りごと

机を薙ぎ倒し、開いた進路を隼人が走った。

 

 それを見ていた四人が呆れ返り、接近に気付いた敵が慌てて隼人に襲い掛かる。飛び込んだ隼人も机を足場に跳躍して首狩りの一閃を回避、着地と同時に一閃を放ったククリナイフを戻していたリッパーに回し蹴りを叩き込むが間に割って入ったハンターナイトのシールドで防がれ、反撃のショートスピアが

ノックバックで隙だらけの隼人を狙う。

 

 瞬間、膨大な集中力を検知したシステムが隼人に『ゾーン現象』を起こし、スローモーションの世界で彼はスピアの切っ先を捉える。そして、脳内にあるスピアが通る軌跡のイメージが視覚的に浮かび上がり、赤い線で表示されたそれから逃れようと隼人は体を後ろに下げようと足で地面を蹴る。急な動きであるが故、

彼の体はゆっくりと後ろに倒れていく。

 

 瞬間、プレイヤーの脳への負担を検知したデバイスがファンシアを介して隼人に警告を発し、ゾーン現象が強制解除され、彼の視界映像が等倍に引き戻される。股下を突き抜けたスピアの振り下ろしがリノリュームの床を爆裂させる。体制的に攻撃を出せない隼人にハンターナイトは再び引き戻した短槍を向けた。

 

 高速で突き出される冷たい刃。それが隼人の喉笛を貫かんとした時、二つの現象が起きた。一つは、ハンターナイトの真横にある壁が爆裂し恋歌と秋穂が飛び込んできた事、そしてもう一つは。

 

「や、槍を止めた?!」

 

 隼人が、穂先を白羽取りしていた。先端に対し垂直方向に運動させる剣とは異なり、水平方向に突く槍は白羽取りで受け止めるのがかなり難しい。むしろ不可能だ。なのに、隼人はそれをやってのけていた。数瞬の隙を作る為だけに。

 

『ショートカット!』

 

 同時に叫ぶ二人は体力、防御力ともに最高クラスのハンターナイトを前に空中から挑みかかっていた。

 

「『蹴撃・円牙』!!」

 

「『フレイム・タンゴ』ッ!!」

 

 恋歌の回し蹴りと秋穂の炎の5連撃が突き刺さったハンターナイトが怯み、仕切りに背中を付ける。瞬間、ハンドスプリングで起き上がった隼人は踵落としをハンターナイトの頭に叩き込む。そのまま地面に足を付けた彼はハンターナイトの脇腹を蹴り飛ばして宙に浮かせるとその向こうで

こちらに銃口を向けていたインファントリに掌底の一撃で吹き飛ばした。

 

 砲弾の様に飛んでいったハンターナイトは弾切れのRPKを構えていたインファントリを壁で押し潰すと床に叩きつけられた。その状況にもう一人のインファントリが慌て、浩太郎と楓を抑えていた制圧射撃がその瞬間に途切れる。しまった、とM60を戻したインファントリの目の前にはもう拳銃とクナイを構えた浩太郎と

サイドアームのFN・5-7を構えた楓が迫っていた。

 

「コウちゃん宜しくー」

 

「了解」

 

 構えながらも相手の処分を引き渡してきた楓に苦笑しながら答えた浩太郎はクナイをインファントリの額に突き刺して蹴飛ばすと壁で潰されていたインファントリに.45ACP弾を打ち込んで止めを刺した。起き上がっていたハンターナイトは放たれた.45ACP弾が弾かれている事に安堵していた。先端が丸い拳銃弾は

電磁コーティングがなされたプレートアーマーの曲面装甲で滑っており、弾かれていた。

 

 拳銃が利かないと見たハンターナイトに少しだけ余裕が戻った。だがそれも束の間の出来事だった。ホルスターに拳銃を収めた浩太郎は後ずさるハンターナイトを見ながら腰のトマホークを手に取り、手の中で回して柄を握った。トマホークなら鎧ごと頭蓋を割れる。そうした上で補助としてナイフを引き抜いた彼が

手斧を振り上げた瞬間、伏兵のリッパーが割り込んできた。

 

 トマホークとナイフでククリナイフ二本を受け止めた浩太郎はリッパーを仕切りに向けて投げ飛ばすとハンターナイトの頭蓋に斧を振り下ろす。脳髄に食い込んだ刃を引き抜いた彼は横合いから挑みかかろうとするリッパーを視界に入れた瞬間、事務用の机にさらわれた彼に目を見開いていた。

 

「クリア」

 

 破壊された仕切りを跨いで出てきた隼人が肩に担いだ死体を脇に投げ捨てる。糸の切れた人形の様になっている死体を放置して階段に向かった隼人達は42階まで降りた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 一方、ラペリング降下で32階を目指す武達は隼人達が遭遇した48階での戦闘に冷や汗をかいていた。ほとぼりが冷めるまでの間に二人落下するのを見た彼らは、砲火が止んだ事を確認してラペリング降下を再開した。そして40階、窓際を歩く二人組に気付いた香美は通信で二人を止めた。

 

「リコンよりエリミネーター」

 

『どうした?』

 

「窓側にターゲット2名」

 

『・・・確認した。リーパーと俺で排除する』

 

「了解」

 

 一応P90を構えていた香美は足元に広がる夜の街の光景に震え上がっていた。その間に窓ガラスに小さな弾痕を穿ってターゲットを排除した武と加奈が震えている彼女に降下を促して先に窓ガラスを蹴った。衝撃を受け流す様に両足で着地した彼らに遅れて香美がのろのろとガラスの上を歩いて降りてくる。

 

 不慣れな彼女はラペリング降下など出来る筈も無く、彼らのペースは落ちていた。と、その時香美が足を滑らせて真っ逆さまに落ちた。咄嗟に降りた武は左手で香美の右足を掴み、右手で自分のロープを掴む。金属製のロープから火花が散って制動。その間、手に走った痛みに表情を歪ませた武は黒タイツに黒いブレザー姿の

香美の姿に少しばかり鼻の下を伸ばしていた。

 

 遅れて降りてきた加奈が武の頭を殴り、香美を下から支えて体勢を戻させた。そして、目下のバルコニーに目を向ける。隼人達が先に降りている筈の42階は目と鼻の先で、そこに目を向けた香美はバルコニーにいる三人のプレイヤーに気付いた。瞬間、ヴェクターの銃口を下に向けようとした加奈はそれを制する武の声に

トリガーにかけていた指を離した。

 

『よく見ろ』

 

 武の言葉に振り返った加奈はバルコニーの三人を暗殺して投げ飛ばした隼人達が突き上げる様にサムズアップを送っていた。敵が余りいなかったらしい42階から下に隼人達が降りる。彼らを見送った後、HMDにマップデータを呼び出した武はグループごとに割り振られているビルの構造を見た。本命の32階はトーネードストライダの管理下だ、

このまま行けば激しい戦闘になるだろうとそう思った武は加奈や香美に先行してラペリングの速度を速めつつ、降りた。

 

 早めに降りた武はトーネードストライダの管理下にある階層を見て驚いていた。何故なら本来人のいるべきそこには――――

 

「誰もいない?!」

 

 広々とした部屋は誰かがいた痕跡を残しつつも、もぬけの殻だった。下の階も、そのまた下の階ももぬけの殻だった。一気に36階のバルコニーまで降りた武は追いついてきた隼人と合流した。遅れた加奈と香美もラペリングを取り外して武の後ろにつく。全員揃っている事を確認した隼人は足早にサーバールームに向かう。32階に到達する前に

武は口を開き始める。

 

「ハヤト、何か変だぞ。トーネードストライダの連中、管理階層に誰もいねえ」

 

 Mk16アサルトライフルを手にそう言った武の言葉に隼人は階段を下りる足を止めて彼の方を振り返った。

 

「・・・本当か?」

 

「おう、マジだぜ。誰もいなかった」

 

 ゆっくり歩きながら考え込み始めた隼人の後ろ、心配そうに彼を見る武。そんな事も気にせず、34階に差し掛かった辺りで隼人は利也に向けて通信を始める。

 

「リードよりシューター。撤収準備をしておいてくれ、理由は後で話す。何も無かったらな」

 

『シューター了解。とりあえず準備しとくよ』

 

「ああ、頼んだ」

 

 そう言って通信を切った隼人は武達の方を振り返るとハンドサインで前進を指示して走り出した。32階に降りた彼らは二手に分かれて作業を始め、隼人と武と香美がコンソールに張り付いてデータを抜き出し、その間に残りの面々でサーバールームにEMPチャージャー三基を仕掛けて隼人達の元に戻る。証拠データの抜き出しを行っている彼らだったが

証拠となるデータが殆ど無かったのだ。

 

 そう、どこにもトーネードストライダとP.C.K.T.が交戦した記録が無いのだ。食い入る様に全員がコンソールを見た刹那、ビルが揺れた。激しい振動の後にゆっくりと傾き始めた地面に崩落を悟った全員はEMPチャージャーを起動させてサーバールームを出た。急いで30階に降りた八人は大きくなった傾斜に足を取られ、フロアにある非固定物ごと

全員窓ガラスに向かって滑っていった。

 

 落ちる彼らは咄嗟に何かに掴まって制動し、傾いていくビルの窓から大量の物や人が落ちていく様を窓ガラス越しに見ていた。

 

「う、うぅ・・・もう、限界・・・」

 

「わぁああ、カミちゃん! 落っこちちゃうよ!」

 

「でも、もう・・・無理・・・」

 

 手を離した香美の腕を秋穂が掴む。それを見ていた隼人は全員にパラシュートが付いている事を確認すると声を張り上げた。

 

「このまま降下するぞ!」

 

「え?! マジで言ってんの!?」

 

「大マジだ! カウント3からいくぞ! 3、2、1―――降下!」

 

 そう言って掴まっていた鉄骨から手を放した隼人はほぼ垂直に落下していく体を制御しつつ既に割れている窓枠から外に出る。それと同時にパラシュートを展開した隼人は自分に続く様にパラシュートを展開した面々を見つつ地面に激突する様に着陸した。

 

 ローリングしつつハーネスを外した隼人は雨霰と降り注ぐ机やガラス、コンクリートを避けながら利也に通信しようとする。だが、通信不良を示すウィンドウがHMDに走り、通信は利也に繋がらない。何でだ、と思っているとすぐ横に事務机が落下した。

 

 背後で立った轟音に慌てて振り返った隼人は完全に崩落したビルの猛烈な砂煙に思わず吹き飛ばされ、吹き抜けるまで道路に尻をついて顔を覆っていた。砂煙が止み、立ち上がった隼人の目の前にはビルの瓦礫が現れていた。

 

「ゴホッ、クソ・・・。全員無事か!?」

 

「何とかな・・・。一体何だよこりゃ、大スペクタクル過ぎんだろ」

 

「ああ、これが映画ならよく出来てるんだがな。武、お前、利也に通信できるか?」

 

「無理だ、ファンシアが繋いでくんねえ。宿屋にいくしかねえな」

 

「分かった、全員体力は大丈夫か? よし、移動するぞ」

 

 そう言って数分間走った隼人達は必要な物を担いで通りに出てきた利也と夏輝と合流する。

 

「皆! 無事だった?!」

 

「何とかな、とりあえず駐車場にいくぞ。ここを離れるんだ」

 

「了解!」

 

 頷いた利也を後ろに先頭に立って走った隼人は強制クローズのシャッターを前に一瞬迷った。振り返ると意図を汲んだらしい秋穂がアークセイバーを引き抜いてシャッターを両断する。バターの様に溶けたシャッターに

蹴りを入れた秋穂は隼人と協力して切断したシャッターを剥ぎ取った。

 

 剥ぎ取られたシャッターの奥、主達を静かに待っていたハンヴィーの鍵を解錠した隼人はエンジンを掛けると目の前で銃撃戦を展開している武達に気づいた。シフトをドライブに入れた隼人は押されている彼らの傍に車を移動させる。

 

 ハンヴィーに乗り込んでいた香美が銃座に移り、予め換装していたM134E1のスイッチを入れた。内蔵された小型3Dプリンターで生成された7.62mm弾が勢い良く放たれ、通りで銃撃戦をしていた敵グループが慌てて退散する。

 

「うはははは! 散れ散れぇ!!」

 

 甲高いスピンアップ音と共に放たれるライフル弾、その爆音に劣らぬ声で香美が叫ぶ。更にアドオンのMk19グレネードマシンガンも起動した香美はひとしきり通りを破壊し尽くすと隼人の運転で通りを離れた。夏輝や恋歌、秋穂と香美を除いた面々は

全員グラップルグローブでハンヴィーに捕まって移動していた。

 

 過積載で移動性能が下がっているハンヴィーの最高速度は全力疾走とどっこいだった。当然追いつかれ、後ろから複数のプレイヤーが追って来る。片手で射撃武器を構えた武達が慌てて迎撃しようとするがそれよりも前に香美が血走った目で機銃を向けていた。

 

「死ねやぁアアアアアアッ!」

 

 絶叫と共にガトリングとマシンガンが砲声を上げる。制圧力の塊の様な武器が同時に放たれれば直撃を受けた土地は当たり前の様に焦土と化す。直撃で巻き上がった土煙が出入り口を埋め、門が崩落する。それを見てゲラゲラ笑っている香美に

全員が白い目を向けていた。

 

 重機関銃限定でトリガーハッピーだった香美はまだまだ撃ち足りないと言った雰囲気で周囲を見ており、モンスターやプレイヤーがいれば無条件で撃ちそうな感じだった。

 

「ちょ、ちょいカミにゃん?」

 

「あ゛?」

 

「いえ・・・何でもないです・・・」

 

 グラップルグローブで側面に掴まりながらしゅん、とへこんだ楓を他所に遠くに見えるモンスターに照準を揃えた香美は流石にまずいと見た秋穂に止められ、車内に連れ込まれた。ようやく脅威が去った事に安堵していた楓はスモークガラスの向こうで

キスし合っている二人を見て車内の夏輝共々何かを吹いた。

 

「な、どうした?!」

 

「私はそのセリフ、向こうに聞きたいよん・・・」

 

 首を傾げた武は噎せる楓が顎で指す方を見ると真っ赤になっている夏輝と何故かいい雰囲気になっている後輩二人だった。秋穂に香美が跨っている体勢以外、何も不健全な所はないとみた武は落ち込んでいる楓に更に首を捻った。

 

「オイ、大丈夫か?」

 

「武、私・・・後輩に追い抜かれたよ・・・アブノーマルな方法で」

 

「・・・オイ、待て。マジか」

 

 察しのいい武が楓の言いたい事を理解して青い表情を浮かべる。内心信じられない状態に視線を彷徨わせていた武は形に出来ない感情を息として吐き出すと内心で夏輝に合掌した。それから小一時間、移動して本拠地に戻った彼らは精神的な疲れを引き摺って

各々無言でログアウトした。

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