B.O.O.《ブラストオフ・オンライン》 作:Sence023
その夜、確保の際に拳を痛めた隼人は母親と妹、何時もの様に転がり込んだ恋歌に家事を任せ、父親にテーピングをしてもらった。血に塗れた制服はクリーニングに出され、彼はしばらくの間、冬服を着る事が出来なくなってしまった。その事も含めて悩んでいる隼人の表情に
気づいた父親はテーピングを終えるとワザと拳を叩いた。
「ってぇ。・・・サンキュ、親父」
「お前が拳を痛めるのは二回目か。殴りすぎだ、お前」
「悪ぃ・・・」
「それで、それだけじゃないんだろ? いって見ろ」
「何もねえよ。テーピング、ありがとな」
そう言って立ち上がった隼人の手を取った父親は痛みに表情を歪ませた彼を見上げると仏頂面を睨んだ。隠しても無駄だぞ、という様に。
「・・・教頭に怒られた」
「ほう、何でだ?」
「暴力沙汰を起こされると困るっていわれて」
「それで、お前は何て言ったんだ?」
「知ったこっちゃないって言い返した」
「ふっ、お前らしいな。そう言う所は俺譲りだな、隼人」
「なぁ親父。何で大人って、そんな風に面倒を隠したがるんだよ」
不機嫌そうにそう言った隼人に父親は苦笑を返す。そして、やれやれと首を振りながら息子の仏頂面を見返した彼は右手の人差し指を立てて話を切り出した。
「いいか、隼人。大人には大人の、子どもには子どもの特権がある。大人には自由に過ごせるだけの力を持っている。逆に子どもは大人に反抗する権利を持っている。大人は面倒を隠したがっているって
お前はそう言うが、子どもの権利に代価がないだけで普通は責任って代価があるんだよ。普通の大人は責任っていう負債を抱える訳にはいかないから自由を切り詰める。それが逃れているように見えるだけだ」
「そう言うの、責任を取れないヤツの詭弁じゃないのか?」
「じゃあお前はこれから起こりえる全てに責任が取れるのか?」
「そ、それは・・・」
「責任ってのはな、子どもが考えるよりも重いんだよ。それだけは覚えとけ」
真面目な表情で返した父親に隼人は頷く。そうした後、ニヤリと笑った父親の表情を見た彼は嫌な予感を感じて二階に逃げようとする。ゲームをすると口実を作った隼人がそそくさと上がろうとした時、
恋歌と秋穂が彼の後を追って走り出す。
二人を連れて自室に入った隼人はデバイスの電源を入れた。すると同期している無線キーボードが信号を通して自動的に電源を入れ、小型のパソコンをなしたそれらがインターフェースを自動展開のスクリーンに投影し、
半透明のモニタにOS起動画面が映る。
「それで? お前らは何しに来たんだよ」
「えー? 何でもいいじゃん、そう言う兄ちゃんは何するの?」
「武達と一緒にこの前取得したデータの報告をサクヤへしに行く」
「んでもさ、デバイスはスタンドモードで起動しちゃってるんじゃん?」
「今は移動プランの計画段階、チャットで打ち合わせ中だ」
「大げさだなぁ。移動ぐらいちゃちゃっとすればいいのに、何でそんな回りくどい事するの?」
「不意打ち対策だ、俺達十人に対して攻撃要員二十人で奇襲されてみろ。たちまち全滅だ」
そう言ってキーボードを叩いた隼人の背中に秋穂は舌を出す。そんな様子を端から見ていた恋歌は秋穂の行為を子どもっぽいな、と思いつつ、ベッドに寝転んで作業中の隼人の背を見た。
その流れに秋穂も加わり始め、ベッドに二人並んだ恋歌は身長の高い秋穂に巻き込まれる形で抱き締められ、愛玩動物よろしく頬を突きまわされて嫌がっていた。そんな中、インターホンが古めかしい音を発し、
間髪入れず玄関のドアが開けられる。
滅茶苦茶な方法からして姉だろう、と予測した隼人は一階に降りる。午後六時の空は焼けた様な赤みを持っていて、ドアが開け放たれている玄関から見えた。燃える夕日を背に立つ姉、冬香。彼女は動きやすさを考慮して
ズボンと組み合わせたフォーマルスーツに身を包んでいた。
相変わらず似合わねぇ格好だ、と実の姉を内心で酷評した隼人は彼女の後ろに立っている宮坂隆宏に気付いて彼に頭を下げた。遅れて一礼した隆宏から冬香に視線を移した隼人は指を手前に動かして招いた彼女のハンドサインに
首を傾げつつ歩み寄った。
と、そこに恋歌と秋穂がどたどたと物音を立てつつ降りてきた。久しぶりの再会に興奮している恋歌と秋穂へ冬香が慈愛に満ちた笑みを浮かべる。甘えたがりな秋穂と恋歌の前では人が変わった様に優しい姉の姿に呆れ半分の隼人は、
二人を大人しく部屋に帰した彼女に驚いた。
「姉ちゃん?」
「隼人、ちょっと来なさい」
そう言って隼人を招いた冬香は彼を外に連れ出す。
「何だよ姉ちゃん、俺の事連れ出して」
「アンタに聞きたい事があってね。『楽園』って言葉、覚えてる?」
「ああ、あいつ《山岸幸助》がいってた・・・」
「アンタ、それが何を示すか、分かってた?」
「いや・・・。何も」
「そう・・・。じゃあ、アンタは知る必要があるわね。この事を」
そう言って冬香はタブレットにあるウェブサイトを表示させる。そこにはアヴァロンという文字と残り約7時間を示すタイマーが表示されていた。真っ黒い背景には気味の悪い文章以外無かった。
「何だよ、これ」
「『楽園』という言葉で調べたの。そしたらこれが出てきてね」
「それが、何の関係があるんだよ」
「文章、読んで見なさい」
そういわれて隼人は気味の悪いフォントで書かれた文章を読む。
「『楽園は救われぬ者を救済し、救いを求めぬ者を死へ誘う』・・・」
アヴァロンとは救済の楽園、伝説からしても確かにそうだ。明確に違うのは選ばれた人間にのみ救済を与えるという事だけ。その意味を考えたくなかった隼人は敢えてタイマーの事を聞いた。
「姉ちゃん、この時間って何か分かるか?」
「え? あー、それね。まだ分かんないのよ。まるで終末予言みたいだけど」
「残り七時間って事は明日開示か? 気味悪いな」
そう言った隼人がタブレットを睨んでいるとポケットに突っ込んでいた端末が振動し、着信音を鳴らす。何事かと思った隼人がそれを開くと武からだった。見ればSNL経由の電話だった。通話ボタンを押した彼は
心配そうに見てくる冬香達から目を逸らす。
「もしもし」
『お、隼人か! 緊急事態だぜ!』
「どうした」
『P.C.K.T.が宣戦布告した! 連中、オルファーに侵攻を始めたやがったぜ!』
「オルファーに・・・? 分かった。他には何か情報があるか?」
『他の情報・・・そうだ、コウロスの方、新しいグループが居座ったみたいだぞ』
「トーネードストライダは?」
『わかんねえ。取り敢えず、秋穂と恋歌にはログインしてもらったから。お前は?』
「今取り込み中だから後でいく。じゃあ、後でな」
そう言って隼人は通話を切った。
「誰から?」
「武。多分BOOの中から」
「ま、頃合もいいし。私らは帰るね。何かあったら電話頂戴。絶対よ?」
「はいはい、分かってるっつの」
「それじゃ、週末にね」
そう言って淑女的な慎み深い笑みを浮かべた姉に白い目を向けた隼人は彼女に殴られそうになりかけ、それを止めた隆宏が苦笑交じりに連れて帰る。罵声を放つ姉を見送った隼人はため息をつきながら
家に戻るとリビングに顔を見せた。
「父さん、母さんいる?」
「ん? 何だ?」
「俺、今からゲームするから。何かあったらSNLでメールしてくれ」
「分かった。全力で遊んで来い」
「おう」
そう言ってドアを閉めた隼人は理解してくれる父親に感謝しつつ二階に上がると自分のベットに並んで寝転がっている恋歌達に遭遇した。自分の寝る場所がない状態に遭遇した隼人は仕方なく勉強机に座って
ログイン作業を行った。
デバイスから下ろしたバイザーにAR表示のアプリケーションを映し出し、その中にあるBOOのアプリケーションを選択。VRモード起動の警告を承諾し、ログインが開始される。ログインする間、そう言えば移動の算段を
立てて無かったな、と思い出していた隼人は結局秋穂の言った通りか、と苦笑していた。
《ログイン認証:五十嵐隼人様:アバター選択へ》
「アバター、登録番号01『ハヤト』を選択。リスポーンを本拠地に設定」
《アバター選択:ハヤト・モンク:リスポーン地点:ウイハロに設定:ログイン開始》