B.O.O.《ブラストオフ・オンライン》 作:Sence023
Blast9-1
Blast9『To say Good bye is to die a little.《さよならをいうのは、少し死ぬことだ》』
何時もの様に登校していた隼人はいつも通りの風景に内心安堵していた。あのニュースがあってもなお、自分の周りは平常を保っている。その事に彼は内心安堵していた。テロとは無縁でありたいと思うのは誰だって同じだった。
「おはよう、隼人君」
恋歌と歩く平和を噛み締めていた彼に気付いたらしい浩太郎が加奈と共に合流してくる。
「ああ、おはよう」
「珍しいね、君達がこんな時間に登校しているなんて」
「今日は早起きだったからな、恋歌が」
「それはいい事だね」
「・・・船を漕いでるのは起きてるとは言わない」
「まあまあ」
そう言う浩太郎に不満そうな加奈は引きつり気味に笑っている隼人を見る。見られている事に気付いた隼人が少し引く中、加奈の視線は隼人だけを見て首を傾げていた。
「・・・隼人、疲れてない?」
「え? そ、そう見えるか?」
「・・・うん。そう見える。やつれてるから」
「色々あったからな、この所」
「・・・色々? それって、この前の傷害事件とか?」
切り込む様に問いかけた加奈に隼人は押し黙る。この手の話を避けてきたツケが回ってきたと、そう思いながら隼人は口を開こうとする。直前、浩太郎が加奈を諌めた。彼女には話さなくていいと隼人を庇う様に、割り込んだ彼は
隼人に目配せをすると加奈の視線から逃がす様に彼女の頭を撫でた。
そんな気遣いに感謝しつつ、隼人は眠気眼で寄りかかってくる恋歌を引き倒さない様に引っ張り上げて通学路を歩く。親友とはいえど他人に気を使わせる事を引け目に思っている彼は俯きがちに歩き、それを見ていた浩太郎と加奈が
気を使って黙っていた。
「おはよう」
そんな空気を払拭したのが利也と夏輝の存在だった。のほほんとした二人の雰囲気に飲まれた三人は苦笑も含めた深い息をついて漂わせていた空気を払う。一度気分をリセットした上で彼等は合流してきた二人と話を始めた。
「利也、週末GSR持っていってもいいか?」
「ん、いいよ。あれからどう、調子は」
「一昨日家に帰って30分回してたが今の所は快調だな、吹け上がりもいいし挙動に変な癖もない」
「良かった。父さんのツテで貰った部品が合ってたみたいだね」
「ああ、純正品とほぼ変わらない。いい物だったよアレは」
そう言って笑った隼人へ利也が笑い返し、ふと思い出した様に浩太郎の方に視線を動かす。
「あ、そうだ。浩太郎君、これ渡しとくね。Mk23のガスガン、メンテナンス終わらせたから」
「ん、ありがとう。ガスは別なんだね、当たり前だけど」
「それはちょっとね。そう言えば今度サバイバルゲームにいくとか武君いってたけど」
「この辺にあったっけ、プレイゾーン」
「何か新しく出来るみたいだよ? 双葉西地区の山奥に」
そう言ってマップを出した利也はホロ表示で拡大すると五人並んで場所を見る。夏輝の胸が当たっているらしく感触に焦った利也の顔が途端に赤くなる。何も言わずに利也に閉じさせた隼人は
腕に縋り付いている恋歌を起こす。
「いい加減歩いてんだから起きろボケナス。起きないと担ぐぞ」
「出来るもんならやってみなさいよ~・・・」
「チッ、コウ手伝ってくれ」
そう言って恋歌を負った隼人は浩太郎へ彼女の足元を持つ様に指示を出すと恋歌は非常に高い位置で腹這い姿勢になった。暇潰しにその下に入った加奈はぶら下がっている二つの物体を妬ましげに見上げ、ぷらぷら揺れるそれを殴った。
「か、加奈ちゃん何してるの?」
「妬ましい、この塊が」
「殴っちゃ駄目だよ?!」
早朝から突っ込みを入れている夏輝に加奈は不満そうな表情を返す。何の気も無しに列から離れた彼女は真っ青な表情の利也に気づいた。悪戯っ気のあるタイプではない利也は恋歌の様子に呆れ返っており、溜め息をついていた。
何時も通りだな、と思っていた利也は突然鳴った電話に驚き、慌てて受信した。電話の主は武で、一瞬の無言のバックから喧騒が聞こえる。
「もしもし?」
『お、繋がったか。俺だ、武だ』
「どうしたの?」
『学校で事件だぜ! 立てこもりらしいけど』
「皆を連れて行こうか?」
『え、皆そこにいるのか?』
「一年生以外はいるよ。恋歌ちゃんは使い物にならないだろうけど」
『分かった、じゃあ皆連れてきてくれ。到着次第、状況を説明する』
「了解」
そう言って通話を切った利也は心配そうに見てくる全員に状況を説明すると、急ぎ足で学校に向かった。学校に到着した彼らはざわつく生徒が鞄を持ったまま校庭にいるのに驚きながらその中に入ると武の姿を探した。暫く歩いていると
咲耶ともう一人、顔なじみの副生徒会長、山田健太と話している武と楓の姿を見止めた。
合流した利也達は軽く手を上げた彼に微笑を返し、事情を聞こうと話を切り出した。
「状況は?」
「人質は二名、立てこもり犯は五人、全員武装してる。場所は三階の2-Cだ。教室の出入り口にはバリケードとつっかえ棒、交渉しようとしている先生がそこらを封鎖してる」
「それで、生徒は危険回避の為に外に出されたんだ・・・。みんなの様子はどうなの?」
「不安ばかりだな、何せ外に出されてから何の説明もない。どうなっているかすらわからないんじゃ何とも出来ないだろうから」
「そうかぁ・・・。それで、咲耶さんは?」
そう言って利也は立てこもられている教室の窓を見ている咲耶の方に視線を向ける。
「このまま好転しなさそうで不安なのよね・・・。この前の様に、ね」
「集会の件、ですか」
「事なかれで収められる様な事態じゃないのに、先生達はそうしたがってる、見たいな感じよね今は」
「はい。・・・だとすれば・・・」
「悪化する事も考えられる、と。今回は状況が状況ね、あなた達突入できる?」
そう言って振り返った咲耶に利也を含めた探偵部の面々は目を丸くする。そう聞いてきたと言う事は先生達そっちのけで突入し、事態を収束させろという事だ。長引くどころか状況を悪化させかねない教師の行為を止める意味もある。
そこまで汲んで隼人は了承した。そして、一年生の到着を待って探偵部の部室に向かい、突入の為の準備を始めた。
「よし、状況を整理する。現在、3階の2-Cにて二人の人質を取った立てこもり事件が発生している。犯人は二年生五人、全員が刃物で武装して入り口で教師と交渉中だ。だが、教師は犯人を刺激する可能性が高く、放置は危険であると生徒会長が判断し、
俺達に早期収束の為の突入を依頼した」
「で、今回の作戦の概要についてだけど、突入は二箇所から行うよ。一箇所目は窓、二箇所目はドアだ。まず、窓に衝撃を与えて犯人の注意を窓側に逸らす。窓の下で待機している浩太郎君へ注意が向く前に隼人君がドアを破って突入する。
その際に秋穂ちゃんと楓さんが警棒を持って突入、武君と加奈ちゃんは先生を抑えて。浩太郎君は万一に備えて待機」
「夏輝と香美は恋歌を頼む。何なら様子も教えてくれたら助かる。それで、利也は図書棟から改造ガスガンで窓を狙撃してくれ。まあ、距離減衰でそんなに被害はないだろうけどな」
「そうだね、それに今日は風が強い。風向きによるけど減衰は激しいだろうね」
「それぞれ、装備を確認しておいてくれ。最悪すぐにでも突入する」
そう言った隼人に全員が緊迫した面持ちで頷き、準備に入る。その中で隼人は一人、震える手を握り締めていた。これがもし、『楽園』に関する事であったら、そう考えられずにはいられない。あの日から既に地獄に片足を突っ込んでいるのだ、
引き返せなくなる前にどうにかしなければ。
脳裏で脅迫概念に囚われた隼人を恋歌が呼び止める。
「隼人、大丈夫? 顔色悪いけど」
「え? あ、ああ。大丈夫だ、気にしないでくれ」
心配そうな恋歌に強がって見せる隼人は足早に部室を出る。震える手を隠しながら彼は現場へと向かっていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから十分後、立てこもられているドアの前でしゃがんでいる隼人は後ろで待機している楓と秋穂をちらと見るとブルートゥース対応インカムのスイッチを入れた。
「こちらアヴァランチリーダー。位置についた。全員状況を知らせ」
『スプーキー、位置についた』
『ストームユニット、位置についてる』
「アヴァランチリーダー、状況把握。ストーム1-1の射撃に合わせる」
『ストーム1-1、了解』
そう言って隼人は待機する。教室の外、射出圧を強化した改造ライフル、モデル『L115A3エンハンスド』を構えた利也はボルトを操作して初弾を装填。予め調整していたスコープに立てこもられている教室の窓ガラスを捉え、トリガーガードから
トリガーに指をかけ替え、ターゲットを見据える。
窓に当たればいいので照準は甘め。然し、損傷を避ける為に狙うのは窓枠の金具。十字照準の中央より少し下にターゲットを置いた利也は引き金を引き、発砲した。小さくない破裂音と共に放たれたBB弾が枠を穿って大きな音を立てる。
そして、その音は隼人の耳にも届いた。教室から慌てた様な声が響き、窓に気を取られているメンバーがいる事をドア越しの音響で探った彼は素早く立ち上がり、十分な距離を取ると思い切り引き戸を蹴り飛ばした。バリケードごと蹴り飛ばされたドアに
犯人が慌てる中、隼人は傍らに置いていた消火器を手前にいる男子の顔面に投げ付けた。
のけぞる男子を他所に突入した秋穂と楓は人質を捕らえている男子の顔面に警棒を叩き付け、人質を確保して退避する。彼女らと入れ替わりに犯人に挑みかかった隼人は怯んでいた男子の鳩尾に掌底を入れて沈めると別の男子生徒の突きを回避してナイフを叩き落とし、
背後に回って首を締め落とす。
「くっそぉおお!」
中心部で唖然としていたリーダー格が我に返ってナイフを突き出したのを見た隼人はナイフの腹に手刀を合わせて逸らすとそのままの動きでリーダー格の鳩尾に肘を打ち込んだ。一瞬意識が飛びそうになったリーダー格だったが何とか堪えた。そうしたとしても
トドメを刺されるのは必定であったが。
顎に一撃入れられたリーダー格はあっさりと沈み込み、その場に倒れこむ。即死箇所を打たない様に襟を掴んだ隼人は残る二人に視線を向ける。彼らの内、黒板側にいた少女が手にしたハンマーを手に隼人に挑みかかり、振り下ろされたヘッド部分を隼人は横っ飛びで回避した。
だが、間髪入れず横薙ぎに追ってくるそれが彼を殴り飛ばし、ハンマーを受けた腕から軋む様な音が鳴る。
歯を食いしばって耐えた隼人はハンマーの柄を握る手を掴むと乱暴に引き倒す。そして、苛立ちをぶつける様に彼女の手首へストンプを落とす。手放したのを見計らって取り上げた隼人は窓際で後ずさるもう一人が突然倒れたのを確認するとドアの方で様子を窺っている楓達に
クリアを示すサインを送って気絶した犯人を回収しながら通信を始めた。
「アヴァランチリーダーより全ユニット。状況終了だ、各自、撤収を開始しろ」
そう言って犯人を運んだ隼人は唖然としている教員に一瞥くれるとリーダーを除いた犯人を引き渡した。そして、気絶しているリーダー格を担ぎ上げるとそのまま借りていた多目的教室に連れ込んでラペリングロープと手錠で椅子に固定した。
遅れて探偵部の面々が集まる。おっかなびっくりと言った様子の全員に隼人はいたって冷静に話し始める。
「さて、皆。これからコイツに尋問をするぞ。武、夏輝。お前が中心となって犯行理由を聞き出せ、場合によってはコレの使用を認める」
緊迫した面持ちの全員の前で隼人は懐から低電圧変更のスタンガンを取り出す。わざと機能を維持できる電圧に設定してあるそれを見せた隼人は用途を知っている全員が青ざめるのを他所に懐に戻した。本気だという事を示した彼は指名した二人を待機させて自分は壁にもたれかかった。
それから十数分後、リーダー格は目を覚まし、それを椅子に座って待っていた武は不安がる男子を他所にニヤリと笑い、隼人達に彼の周囲を固めさせる。その傍で恋歌達にガードされている夏輝は生唾を下した。
「さて、お前がここにいる理由。分かってるよな?」
机の上に手を置いた武はニヤニヤと笑いながら粘る汗をかく少年の表情を見て取る。焦っているな、と思いながら武は話を続ける。
「単刀直入に聞こう。何で事件を起こした?」
「い、言う訳ないだろ」
武の問いかけに怯えながらそう言った少年は武の目配せに頷いた隼人によって頭を机に叩きつけられた。
「何を勘違いしてるか知らないがよ。ここにいる以上、お前にイニシアチブはないんだぜ? 拒否ろうが何しようが話してもらうぜ?」
そう言って武は隼人を下がらせる。
「あの、犯行理由に付いて話してもらえないでしょうか? こちらもあまり痛めつけたくないので」
「ほら、女の子からもお願いされてるんだぜ? とっとと話せよ」
そう言って夏輝と武は少年を見つめる。見つめられている彼は気まずそうに視線を逸らす。そうしていると少年の背後で待機していた隼人が見かねた様子で歩み寄り、机に手をついて話を切り出した。
「じゃあ、質問を変えよう。お前、『アヴァロン』という組織の関係者か?」
凄む隼人に気圧された少年は戸惑う様に視線を彷徨わせる。当たりだ、そう直感した隼人は武と夏輝に目配せをすると机から体を起こし、机の周りを回りながら話し始める。
「その素振りからして、お前関係者だな?」
「ち、違う! 俺は!」
「じゃあ聞くがお前、やけに武器の扱いに慣れていたな。どこで習った」
「それは・・・」
「アヴァロンはSNLに攻撃を仕掛けるといった。それと合わせてうちの高校に同じ名前のグループが現れた。偶然にしては出来すぎている。そして、この高校ではSNLに登録した生徒の名簿が紛失している」
「それとこれとは関係ないだろう!?」
「じゃあ何で立てこもったんだ。要求があったんだろ?」
切り替えした隼人に少年は口ごもる。
「俺はただ、あの子を刺した犯人を知りたかったんだ」
「あの子・・・? もしかして、生徒会書記か?」
「ああ、そうだ。俺はあの真実を知りたかった。どうしてあの子があんな目にあわなきゃいけなかったのか、俺は知りたかったんだ! ただ楽しく遊びたいだけの俺達が何でこんなことに振り回されなきゃいけないんだ!」
バン、と机を叩きつけた少年の表情を見た隼人は武と夏輝に目配せすると徐にロープと手錠を外した。少年を解放した隼人は殴りかかろうとして来た少年の手を受け止め、後方にベクトルを流す。合気道の容量で投げ飛ばした隼人は
仰向けの少年を押さえつけた。
「余計な事に首を突っ込むな、一般人。お前らの様な奴がいるから、俺達の仕事は無くならない」
「仕事、だと?! じゃあお前ら探偵部なのか!?」
瞠目する少年を締め上げた隼人は気絶した少年を担ぎ上げると武達に撤収を指示して教室を出て生徒指導室に連れ込むと気絶した体を床に置いてその場を後にした。時計で時刻を確認した隼人は既に三時間目が始まっている時刻である事を知り、
大人しく教室に戻る事を決めた。
その道すがら、廊下で待ち伏せしていたらしい恋歌が曲がり角から顔を覗かせる。それに気づいた隼人は嬉しさでニヤケそうになる顔を抑えて彼女の方へ歩み寄った。
「待ってたのか」
「うん。だって、いつもと様子が違うんだもの。心配になって・・・」
「そんな事はない。俺はいつも通りだ」
「嘘よ! だってさっきのアンタの手・・・震えてたじゃないのよ・・・」
「ッ!」
歩み寄る恋歌を払い除け、彼は一歩離れる。
「お前は心配しなくてもいい・・・。いいんだよ・・・!」
「嫌よ! 絶対嫌! だってアンタの事を見てないと、置いていかれるんだもん。アンタは私の知らない所に行くんだもん!」
「お前は・・・、お前は楓達のいる所にいるべきだ。お前は平和に過ごさなきゃダメだ。だから、俺の事はもういい」
そう言って隼人は恋歌の頭を撫でながら彼女の肩を持ち、教室に連れて行く。教室に変えるまで二人の間に会話はなかった。