B.O.O.《ブラストオフ・オンライン》 作:Sence023
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
放課後、部室に集まらず直接ゲーム内で集まることにした隼人達は本部一階でサクヤからの依頼内容を直接聞いていた。そして、その内容に驚かされた。
「モウロへの単独突入?! マジで言ってんのかよ姉御!」
『大真面目よ、後輩君。モウロはうちと同盟を組んで一応仲間なの。それでね、侵攻されたみたいよ。例の『アヴァロン』に』
「それで俺達に何とかしろっていうのかよ。あんな戦いにくいフィールドで」
そう言った武は傍らで呆けている秋穂と香美向けにモウロのフィールドマップを表示する。フィールド設定が寒冷地で、その境界線には大きな山脈が砦の様に横たわっている。唯一徒歩で楽できるのが検問所のみであり、
それ以外は激しい行動資源の消耗を強いられる難所だ。
モウロに向かう為には防寒装備は勿論、行動資源回復の為の食料を携行する必要がある。その分拳銃の弾薬や回復アイテムが収納できない為、継戦能力が激減する。加えて吹雪の影響で視界不良、複雑な風の影響で弾丸が流れる為、狙撃も通用しない。
加えて深く積もった雪が枷の様になって行動速度を奪い取り、体のバランスを崩しやすくする。それらの要素は近接職にとって致命的であり、迂闊にアクロバティックな体裁きが出来ないのである。
『突入地域についてだけど、あなた達にはモウロの奥地、ケロスに突入してもらうわ』
「今時点でケロスが取られたのかよ。モウロの弱点であるあそこが」
『ええ。何ともなさけない事に偽装してたみたいでね、やすやすと検問を突破されて抑えられたわ』
「なるほどな、今のままじゃあモウロに戦闘を継続できるだけの資源はない。となれば奪還作戦は外注しなければならない。然し、攻略組の戦力は即応性に欠けている。だから」
『そう、あなた達って訳。無論、報酬は弾むわ。それとは別件で必要機材があれば言って頂戴。可能な限り貸し出すわ』
そう言うサクヤの頑なな表情を見て困り顔をする武は一歩前に踏み出した隼人の悪どい笑みを見てその表情を一気に青ざめさせた。彼がこんな表情をする時は決まってろくでも無い事を考えている時なのだ。
「サクヤ。そちらで輸送機数台とパラシュート、そして防寒装備は用意できるか」
『出来るわ。そっちから要求さえ出してくれれば』
「そうか、分かった。装備品のオーダーはこちらから出すからよろしく頼む」
『了解よ』
通信が切れ、隼人は一息ついて武の方を見る。
「輸送機とパラシュート。案の定、降下で突っ込む気なんだな。でもよ、あの吹雪の中で輸送機はキツイぜ?」
「何を勘違いしてるんだ、武。俺は輸送機を吹雪の中に飛び込ませる気はないぞ。それよりももっと高い所を飛んでもらうんだ」
「・・・おい。おいおいハヤト、もしかして、俺らにHALO《ヘイロー》降下させる気か?」
「そのまさかだよ、高高度で輸送機を飛ばせば見つからないし、低高度でパラシュートを開けばそれだけ見つかりにくいからな。まあ、コントロールはある程度補助してくれるから降下自体は楽だろう」
「現実でも成功率低いのに気楽に言うよな、お前・・・。それにアキホ達はどうするんだよ、俺達はともかくこの子達はちゃんとしたパラシュート降下経験してないんだぜ?」
「そんなもんなくても何とかなる。今回必要なのは降下した後だ」
そう言って隼人は長机の上に地図を表示させる。雪上フィールドを拡大したそれはターゲットであるケロス周辺を表しており、そこは辺り一面を雪が覆っているフィールドで追加情報として吹雪がある事を表示していた。
「問題は移動だ。目標地点まで推定2キロ、この間を徒歩で歩かなくてはならない」
「踏破までに疲弊したら終わり、って事か」
そう説明した所でサクヤから再び連絡が入った。
「何だ」
『緊急の依頼。アヴァロンがモウロに侵攻、このままではアヴァロンがゼルリットの領土を奪い取ってしまうからそれを阻止してほしいの』
「ボーナス出せよ。それで、どうすればいい?」
『発着地点まで来て頂戴、輸送機を用意してあるからそこの中で武器以外の装備は渡すわ』
「分かった。全員、移動するぞ。グローブスティンガーからの緊急雇用が入った。ケロス奪還に先駆けてモウロ防衛に向かう。各自で武装を用意、その他装備は向こうが用意してくれるそうだ」
そう言って隼人は全員に準備を促し、自身も装備を身につける。そして、一度恋歌と目が合う。気まずそうな表情で彼女から目線を逸らした隼人はファンシアをポケットに入れて外に出る。ハンヴィーのエンジンを掛けた彼は
慌てた様子で出てきたメンバーを待つとそれぞれの位置についた事を確認して車を走らせた。
「くそっ、車の挙動が重い!」
「まあ、重い車体に過積載だしな。つうか、よくフレーム折れないな・・・」
「やかましい。とにかく、今は動きが鈍いから狙われたらおしまいだ。皆、警戒を頼むぞ」
「いい加減トラック購入しろよ、金余ってんだろ?」
「アレは予備の積立金だ。迂闊に使う訳にはいかんだろうが」
そう言った隼人はバウンドする度に感じる嫌な手ごたえを無視してハンヴィーの電装をいじる。ふら付く車の軌道を片手で修正しながら積載機材の近接スキャナーを起動させた隼人はフィールドに展開しているプレイヤーを探知するそれを
ファンシアと同期させた。
「今の所、敵性反応は無しか。このまま何も無ければいいんだがな」
「それよりも、これからどこ行くのか教えてよ」
「アイラン郊外の飛行場だ。恐らく輸送機が待機しているのだろう」
「飛行場かぁ、嫌な予感しかしないね」
「そう言うなよ」
外を見て回る利也にそう返した隼人はそのセリフに反応したかのように右側に現れた高速接近する車両に視線を向けると、猛烈な勢いで接近する三菱・ランサーエボリューションⅨの体当たりを回避し、挙動を乱したハンヴィーの姿勢を高速のハンドル捌きで修正。
「くっ、タイミング良過ぎないかな!」
「もー! こうなったのはトッシーのせいだかんね!」
「え?!」
驚く利也を他所に5-7を引き抜いた楓は他の全員と共に一斉射撃を敢行。ルーフにバレットのアンカーレスバイポットを立てた利也が穴だらけになった車のコクピットへ射撃する。助手席から運転席にかけてピラーごとぶち抜いた狙撃で運転手の上半身が吹き飛び、
ドライバーを失った車がスピンして路肩に突っ込む。
銃口から硝煙を立ち上らせるバレットを手元に戻した利也は後方から接近する車両に気付き、天に銃口を向けながら銃を移動させ、ルーフに足を立てるとスコープに映り込むドライバーに容赦なく狙撃を浴びせる。12.7mm弾が体をぶち抜き、急激に失速した車体が後続に追突。
それで足止めをした利也はそこから切り抜けてきたバイクに気付くと舌打ちしながらマガジンを落とし、装填されている一発を牽制として撃ち出す。着弾した大地が抉れ、衝撃波がバイクの車体を揺さぶる。だが、転倒させるには至らない。だろうな、と思いながら
ジャケットから引き抜いた爆裂弾を直接薬室に込めるとインカムに触れ、音声操作で炸裂形式をプログラミングする。
「爆裂弾、近接信管でセット。武君! 焼かれるよ! 避けて!」
退避を命じつつ利也は容赦なく虎の子を放ち、音速で放たれた銃弾が近接信管でバイクを感知して爆発する。揺さぶられたバイクが転倒する。ほっと胸を撫で下ろす利也はマガジンを通常弾に変える。逃げていた武が元の位置に戻りながら苦笑する。
「おっそろしい威力だな。一発でこの影響力とは」
「取り敢えず振り切ってはみたけど、この調子じゃ追いつかれるかなぁ」
「時速六十キロだしな。相手の方が速度は上だから仕方ねえな」
そう言ってよじ登ったルーフのグリップに掴まる武は片手でMk16を構えると後を追ってきた車両に舌打ちしながら銃口を向ける。フルオート射撃で牽制する武はリアに追突してきた車両に搭載されている機銃に目を見開き、安全帯をグリップに引っ掛けてアンダーバレルのグレネードランチャーに手をかけようとして
追突の衝撃でバランスを崩し、舌打ちしながらフロントガラスにフルオート射撃を叩き込む。
ダッシュボードに無数の弾痕が開き、内包された配線をぶつ切りにする。フロントガラスをぶち抜かせた武はコックピットにグレネードを撃ち込もうとして向けられた機銃に舌打ちして機銃手に照準を変えようとするがそれよりも早く利也が射殺する。
「今だ!」
利也の叫びと同時、コクピットにグレネードをぶち込んだ武は炎に包まれたシートに若干引き気味になりながらラペリングの要領で元の位置に戻る。振り切ったらしく追撃無しで十分後、飛行場についた隼人達は何事もないらしい飛行場にほっと胸を撫で下ろし、
それぞれ荷物を持って駐機している輸送機の貨物室を覗く。
「おろ、姉御」
「あら、遅かったわね。まあいいわ、入って頂戴」
「おっす。あれ、姉御も前線出んの?」
「ええ、前線指揮をね。今回は激しい戦闘になると思うし、総指揮官がいないと瓦解すると思ってね」
「んで? 装備、あるんだろ? 見せてくれよ」
武の催促に頷いたサクヤは動き出した輸送機の天井を見上げながら装備一式が納められたコンテナ十基をケリュケイオンに見せる。
「これが今回支給する装備よ。防寒対策がなされたソフトアーマーとインナーのボディスーツ一式、偽装と防寒用のマスク。女子用と男子用があるから。あと、パラシュートね」
「ちゃんとうちのカラーリングになってるんだな、この装備。って事はこれそのまま配給って事になるのか?」
「ええ、そうよ」
「いいのか? 安くないだろう」
「それ、そのまま次の任務で使ってもらうから、ね」
「そう言う事か」
そう言って装備変更画面から支給された装備に変更した隼人は頭部用装備のスカルマスクの装着具合を確かめると視線を読ませない為のバイザー型ディスプレイを目元に装着する。グラス部分に投影されたインターフェイスがファンシアと同期する。
男子はそれらを装着し、完全な偽装を施す。いっぽうの女子は口元をスカルマスクで覆い、頭に黒いニット帽を被っていた。全員、ボディスーツの上に上下装備のソフトアーマーを着込んでおり、総じてボディラインが出にくくなっていた。
「仕方ないけど、動き辛いな。見た目は俺好みだが」
「お前こういうの好きだもんな・・・。まあ、ステ値は結構いいぞ、この装備。まあ、同調しねえと識別しにくいけどよ」
「そうだな・・・。おい、識別タグがあるから全員装備しとけ」
そう言ってバンド状の識別タグを装着した隼人はゆるい返事を返した武達を他所にパラシュートを装着する。すぐさま装着確認員がやってきてハーネスの固定を確認する。確認完了のタップに頷いた隼人はソフトアーマーを見回す。
射撃武器を持っていない隼人にはマガジンポーチ無しのシンプルなソフトアーマーが渡されており、左胸には唯一の追加武器であるナイフシースが備えられておりサバイバルナイフが差されていた。そして、腰には小型のウェストポーチもあり、
スタミナ消耗の激しい雪上戦に対して万全の備えがなされていた。
「えーっと・・・。兄ちゃんはどれだっけ」
「こっちだバカ。はぁ・・・。分からなくなるからファンシアを起動させておけ秋穂。それで?」
「兄ちゃんさ、恋姉と何かあったの?」
「・・・何も、ない」
「みょーに歯切れ悪いねぇ。ま、何にしても仲直しときなよ~? 恋姉、長引かせると面倒なタイプだよ、あれ」
そう言って秋穂はスカルマスクをモゴモゴ言わせると降下ポジションに移動する。お節介だな、と苦笑しながら移動した隼人は似た様な格好の武を見て確かに間違えるな、と思っているとパラシュート装備のサクヤが貨物ハッチ付近に移動する。
「じゃあ、皆準備して頂戴な。もうすぐ目的地よ」
了解、と返した全員が装備を確認して整列していく中にケリュケイオンは混じっていた。彼らはそれぞれ持ちこんだ武装を装備し、降下の時を待った。
『降下地点到達。貨物室開放、降下開始だ!』
貨物室の降下兵達はアナウンスと共にダッシュ。開放されたハッチから空中に躍り出、降下を開始した。