B.O.O.《ブラストオフ・オンライン》 作:Sence023
Blast10『Agartha(虐げられし者の楽園)』
「ブリーフィングのおさらいでもするか?」
そう言うのは猛吹雪の中、前を歩く隼人だ。彼はマスク内部の通信機を使って先ほどから文句ばかり垂れている女子と、それに苦笑しながら歩く男子と会話していた。
「おう、気晴らしになんだろ」
苦笑の声色でそういう武は隼人は笑いながらおさらいを始める。
「じゃあ、作戦目的のおさらいだ。俺たちはこれからケロスに侵入し、町の中心部の政府施設を破壊する。破壊すれば一時的に無所属扱いとなり、その町でリスポーンは出来なくなる。
続いてビーコンを出しつつ貯蔵庫を破壊、後は後続部隊が来るまでケロス内部で暴れればいい。そう言う事だ。質問は?」
「だからってなんでこんな吹雪の中歩かされんのよ! しかもでかい荷物背負って!」
通信機の中で喚く恋歌に隼人は耳を押さえつつ笑う。
「しょうがないだろ。ヘリで街に乗り込めば、少数の俺達が不利なのは火を見るより明らかだ。俺達がいつも一方的に戦えてるのは奇襲で、尚且つ司令官を優先して殺しているからであって
戦力的には蹴散らされてもおかしくないほど貧しいんだぞ」
「むぅ~。だったら多少マシな方法はなかったの?!」
「お前、輸送機から降下して突貫するのとこっちだったらどっちがマシと思うんだ?」
「こ、こっち……」
縮こまる恋歌に苦笑した隼人はナビシステムを一旦リセット、再起動して最新情報に切り替える。
「まぁ、そろそろ。到着だ」
「距離にして700m、射点確保は出来てる。じゃ、準備しとくね」
「了解だ。前衛組は雪に紛れながら前進。夏輝、警戒任せる。香美、360度、警戒を厳としとけ」
そう言って匍匐体勢に移行した前衛八人は塀で囲まれたケロスの街に近付いていく。侵入まで数分の所で利也から通信が入る。
『敵スナイパー、正面ガバメントセンター屋上に捕捉』
「まだ撃つな。その距離で光学迷彩はバレない」
『了解、待機続行』
そう命じて前進した隼人は下水で埋められた川に降りると激臭を伴う水煙を上げる下水溝に近づく。
メンテナンス用の入り口を確認した彼は腰から静音型ソニックブレードを取り出し、撫でる様に切断して鍵を破壊する。
フリーになったドアをゆっくり開けた隼人は眉を顰めながら来る七人を下水道に通す。そして、内側から留め具をつけて彼らの後を追った。
「くさーい」
「そりゃ下水だからな。さて、ガバメントセンターに向かうか」
「うん。でもさ、行くのはいいけどどうやって施設をぶっ壊すの?」
「相当量の爆薬があれば中に入らずとも陥没破壊できるんだがそれをやると地盤にダメージがあるからな……。二次災害は避けたい。そこでだ、俺に策がある」
「それって?」
秋穂が首を傾げるのに頷きつつ、隼人はファンシアを取り出す。そこに映し出されるのはあらかじめ入手していたらしいガバメントセンターの共通構造図だ。
「ガバメントセンターは通常、ビルの様な構造をしている。どうやらそれで、だ。利也に設計図を見てもらった所、ガバメントセンターは中心に太い柱を配置しているらしい。
地震対策とやらでな。で、この柱は各階層を支柱と共に支えている」
「あー、何となく言いたい事分かった。つまり、そのでっかい柱ぶち壊すんでしょ?」
「そうだ。その為には手持ちの爆弾では威力が足りない。そこで、カミ。お前の出番だ。合成爆弾の威力なら主柱の根本を一撃で破壊できる。お前が中心になるんだ」
そう言って隼人は香美を指す。少し嬉しげな香美に秋穂は頬を膨らませる。そんな彼女を見た隼人はため息をつきつつ話を続けた。
「さて、爆弾を仕掛け終わったらここから退散。逃げ道は侵入口から数百メートル先のメンテナンスハッチ。ここから上に上がって爆破。その後は二手に分かれて行動。
俺、レンレン、タケシ、カエデは倉庫の破壊に。コウ、カナ、アキホ、カミは外壁の一部とその付近の対空砲の破壊を頼む。
それぞれ目標達成後、合流して現場を維持する。作戦は以上だ。じゃあ、行くか」
隼人がそう言うと全員が返事をし、下水の中を進み始める。が、数分も経たない内に女子がダウンした。
「くさーい!」
「バカ、大声出すな」
「だってくさいんだもーん!」
下水道の悪臭が全員に大きな負荷を与えていた。何せ常時腐った卵の匂いがするのである。溜まったものではない。
「だったら早く行けばいいだろうが。グズグズしてるともっと苦しめられるぞ」
「うぇーん。分かったよぅ」
嘘泣きしながら歩き出す秋穂にため息を落とした隼人は下水を通るには少々暑苦しいマスクを少し、開けて短く呼吸した。
「さて、そろそろか。カミ、よろしく頼む」
「了解です。ショートカット『スキャニング』……敵反応6、一人は壁際。強行突入、ブリーチング開始します」
そう言って香美は慎重に遠隔爆破チップ内蔵のIEDを貼り付け、壁からそっと離れる。
ファンシアを操作し、爆破待機モードに切り替えた香美は爆破口から離れている隼人たちとアイコンタクトを取り、パネルをタップした。
「ゴーゴーゴー!」
レンガ造りの壁を吹き飛ばし、突入した隼人達は五人を射殺すると目の前に見える巨大な柱に全員が圧倒されていた。
「デカ過ぎねぇかコレ」
「まあ、高層ビル支える柱だしな。さて、デカいノックしちまった以上、下に押しかけてくる事は想像に難くない。俺らから挨拶に行こう。カミはここで爆破作業。
アキホ、レンレン、お前らはその護衛だ」
指示を出した隼人は残りのメンバーを連れて昇降階段の方に移動、降りてこようとする敵に先手を打ちつつ階段を駆け上がった。
そんな彼らを見送った秋穂は恋歌の傍で爆破作業を始めている香美の持っている爆弾の大きさに驚愕していた。
「自動車のタイヤぐらいあるじゃんそれ」
「えへへ、対要塞用のブリーチングボムだよ。あ、アキちゃんお願いがあるんだけど」
「ん? 何?」
「底の柱にちょっとだけ穴開けてくれないかな」
「ほいほーい」
軽めの調子で言いながらアークセイバーを低出力で起動した秋穂は鉄製の柱に数十センチの穴を開け、続いて香美が爆弾をセットする。
そして、彼女は補助用のテープ爆弾を取り出し、柱を一周させる様に貼り付ける。
「よし、とりあえずはオッケーかな。先輩達はどうなんだろう」
「二人とも、今連絡するから待ってなさい」
秋穂の言葉に恋歌がそう返し、彼女は通信モードのファンシアで会話する。その間に片づけていた香美は慌てた様子で出てきたプレイヤーと目が合う。
サボっていたらしい彼はその手に持っていた『SAIGA-12』セミオートマチックショットガンを向け、トリガーに指をかけた彼は間に飛び出してきた秋穂に舌打ちしながら引いた。
瞬間、連結モードのアークセイバーでスラッグ弾を切り払った秋穂はホルスターからHK45を引き抜いて射撃する。流石に銃声で気付いたらしい恋歌も駆けつけ、秋穂のカバーに入る。
「援護するわ!」
「おっけー!」
そう短くやり取りした恋歌は突撃する秋穂に攻撃が行かない様に牽制しながら香美に片づけを急がせる。
片づけを終え、大型バッグを担いだ香美からボール型のグレネードを受け取り、彼女に牽制を任せた恋歌は急いで降りてくる隼人達を誘導、追従して降りてくる敵目がけてグレネードを蹴り込んだ。
ロケットランチャー並みの速度で猪突したグレネードが炸裂し、昇降階段が崩落する。それと同時に切断されたプレイヤーに背を向けた秋穂が隼人たちのいる出入口に全速力で迫る。
「殿は俺達が!」
そう言う武に頷いた隼人は彼が率いる香美、加奈で編成された射撃支援チームに後方を任せ、全速力で出口に向かう。途中香美がテーザー地雷をばら撒いて敵を足止めし、足の遅い武も何とか出口にたどり着けた。
「カミ、爆破準備しろ!」
そう言いながら両開きのコンテナに隠れた隼人に最後尾で追いついた香美がファンシアの画面をタップする。コンマ数秒の遅れで地面が震動。体を低くしていた隼人達は爆音に晒され、コンテナが動く。
そして、爆音が収まり、恐る恐る出て行った隼人は安全である事を確認するとメンバーを呼び寄せ、自身は離れた場所で通信していた。
呆気に取られる全員の後ろから出てきた香美は更地となったガバメントセンターの跡地を見回し、千切れた死体やらも一緒に見てしまっていた。
「うわーお。こいつぁ刺激が強すぎるな。B級スプラッタ並みだぜ」
「そんな軽口言ってる場合かい?」
「んな事言ってもよ。指示出す奴から聞かない事にはよ」
そう言って武は隼人の方に移動すると連絡がついたらしい彼からのゴーサインに頷き、浩太郎達に第二作戦開始の指示を出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
第二作戦開始を知らせるメールが届いた時、利也は出番が来たと確信し、食べていた携行食料を口に押し込んでOSV-96対物狙撃銃を雪から掻き出した。
雪を固めた土台にバイポットを置いた彼はマグネティックスコープで猛吹雪の向こうを観察する。長距離用のスコープに映り込む白い影がざわついている様に見える。
「見張り台に敵……見えるだけで12。左側、スカウトと思わしきプレイヤーにオンターゲット。ファントムからの指示を待つ」
『ファントム了解、オープン』
「了解、ファイア」
爆音と共に雪を飛ばし、対物弾を放った利也は風で着弾点がずれたのを見届けた夏輝からの報告を受けて照準位置で誤差を修正、二射目を放つ。
「着弾、頭部右側。次、右20度。ファイア」
夏輝の号令と共に利也は引き金を引く。三連続で当てた彼は対空砲の方に近づく味方をスコープに収めて確認するとその先にいる敵に照準を動かす。
見れば固定銃座が火を噴いており、その弾幕に浩太郎達は釘付けにされている状態だった。
急いで射手に照準を合わせた利也はレティクルに合わせて射殺するとすぐに銃座を破壊、続けて夏輝がポイントしたハンターナイトを側面から射殺する。
「ッ! リーヤ君、敵に気づかれた! 敵がこっちを狙ってる!」
「了解、下がろう」
そう言ってあらかじめ掘っていた塹壕に戻った二人は12.7mmの弾雨を凌ぎつつ、通信回線を開いた。
「シューターよりファントムへ! こちら現在攻撃を受けている! 射撃支援は出来ないよ!」
『ファントム了解! こちらで銃座を排除する! それまで待機!』
「分かった!」
言った直後、利也の真上が爆裂し咄嗟に頭を下げていた彼に雪が覆いかぶさる。
「クソ、飛んでるのはロケット?! それともグレネード!?」
「どちらでも結果変わらない気がしますぅうう!」
対物弾に交じって飛来するグレネード弾が雪の飛沫を上げる。塹壕を削られながらも耐えている二人は、それぞれの武器を構えて待機する。
HPが危険域に移行した瞬間、けたたましい弾雨が止む。
『ガンナー排除!』
「了解、射撃支援再開!」
「ショートカット、『リカバリーワン』!」
浩太郎の報告と同時に塹壕から体を出した利也は対空砲の周囲で戦闘している浩太郎達をスコープに捉えた。
侵攻する彼らの様子を見ながら周囲を探した利也はロケットランチャーを構えるインファントリを見つけ、迷わず引き金を引いた。
「ふー、危ない。お、制圧完了したみたいだね。じゃあ、ヘリ部隊を向かわせて僕らも合流しよう」
そう言ってOSV-96を雪に埋めていたバッグに収めた利也はヘリ部隊に通信を送ると夏輝を後ろに付かせてMk17バトルライフルを構え、黒煙立ち上るケロスの街に向かった。
一方、貯蔵庫を破壊して回っている隼人達は狭い地形を利用しながら積極的に近接戦に持ち込んでいた。
隼人達が爆弾を設置している間に狭い路地で三角飛びで跳躍した恋歌は落下と同時にラリアット気味の回し蹴りをファイターに打ち込み、亜音速に達している足とコンクリートの壁で頭部を潰す。
そして、バンカーで壁を砕きつつ、跳躍。高速で到達して次の壁を炸裂も加えた勢いで蹴る。広い道路の高い位置にまで跳躍した彼女にその場にいたプレイヤーの注意が向く。それを、彼女は待っていた。
「ショートカット『斬捨』!」
広い十字路、高速で接近した楓が放つ抜身の一閃が連続し、二人の近接職が袈裟状に体を切り裂かれる。刀を血振りした楓は残るハンターナイトを睨みつつ、一応数秒間の高周波解放機能がある刀を回した。
防御を無視して攻撃できる波動解放機能だが、切札的な意味合いが強いのでうかつに使えない。加えて、二刀流では威綱の機能がある為、使用する必要はあまりない。
「さぁて、どっから攻めますかねぇ……」
ニヤニヤと笑いながら円の軌道で歩く楓は円の中心でシールドを構えるハンターナイトを見つめる。威綱は防御無視なので実質シールド防御は意味をなさないが、シールドで隠れた腕が手の内を読みにくくしている。
トン、と後ろにステップした楓はその瞬間に挑みかかってきた相手に驚きつつ、着地と同時に前へ出た。それに合わせてシールドが迫り、慌てて回避した彼女は脇に感じた鋭い痛みに表情を歪ませた。
「っつー、やっぱ隠してたかぁ」
円形に動きながら被害箇所を押さえた楓は目つきを変えると同時、反転してハンターナイトに迫る。シールドを持ち上げた彼は裏に仕込んでいるらしいバリスティックナイフのトリガーを引いた。
「っのぉ!」
刃の軌道をくぐりつつ、横回転で転倒しそうな体を持ち上げた楓は右の刀をシールドで往なしつつ潜って避けたハンターナイトの顔面に膝蹴りを打ち込む。
打撃を受け、のけぞった彼が体勢を立て直す前に楓はスキルを発動する。両刀に宿らせた炎のエフェクト、抜刀アクティブスキル『焔討』。
「薙ぎ払い、焼き斬れ! 『焔討』!」
武譲りのセリフを放ちつつ、焔をまとった刀を振り放った楓はあっけなく両断されたハンターナイトに笑みを向けつつ両刀を回して開放型の鞘で挟む様に納める。
そして、周囲を見回しつつ腰から拳銃を引き抜いて別地点で撹乱戦闘を行っている恋歌の元へ移動を始める。クリアリングしながら移動していた彼女は隼人からの通信を受け、脇道に隠れつつ通信を受けた。
「ほいほい、こちらフォワードだよん。どったのはー君」
『コールサインで呼べ馬鹿野郎。んんっ、そっちにグローブスティンガーの攻撃ヘリが行く。攻撃誘導しながら恋歌を下がらせろ。巻き込まれたら塵しか残らんぞ』
「うぃー、了解了解。あ、そうだ。はーく……間違えた、チームリード。ファントム達こっち来る?」
『一応向かう様に指示は出した。まぁ、お前の事だ。とっとと終わらせるだろう』
「んひひ~信頼されちゃってるなぁ~。フォワード、アウト!」
ニコニコ笑いながら通信を切った楓は遠い空から響くローターの音に気を引き締めながら恋歌を示すシグナルに向けて走り出した。
その頃、移動している楓のシグナルに向けて屋根上を駆ける浩太郎達を追っていた香美は滑空しながら周囲を見回すと向かう場所から反対の門にいるプレイヤー二人に気付き、浩太郎に通信を繋げた。
「リコンよりファントムへ。侵攻地点より反対側にアンノウン2名。スキャニングの射程外につき、有効範囲内にアサルトとのペア移動を進言します」
『ファントム、了解。リードへの報告用にバンドを切り替える。アウト』
そう言って通信が斬れると同時に香美は空中で旋回し、秋穂が浩太郎達と位置を入れ代わって香美と同じ方向に向かって跳躍する。
有効範囲に近づいた香美は有効範囲の外で秋穂を待機させ、旋回しながらスキャニングを作動させた。そして、その結果に驚いた。
「えっ」
『へ? カミちゃんどうしたの?』
思わず声に出していた香美は通信から返ってきた秋穂の声に幾分か平常心を取り戻し、旋回しながらもう一度スキャニングを駆ける。
「やっぱり」
『え? 何? 何なのさ』
「リコンよりウィドウユニット! 接近中のアンノウンに反応なし! スキャニングが効いてません! 何かおかしいです!」
そう叫んだ香美は秋穂に隼人達の元へ撤退する様に指示すると自身も全速力で離脱する。
その間際、アンノウンの方を見た香美はこちらを見ているそれの口元が微かに笑っている事に気が付き、背筋を凍らせた。
「何なんですか……あなた達は」
体に感じた悪寒を口にして吐き出した香美は秋穂に追従する様に隼人達の元へ戻った。