B.O.O.《ブラストオフ・オンライン》   作:Sence023

40 / 46
Blast10-2

 数分後、秋穂と共に隼人の元に戻った香美はアンノウンについて見たままの情報を伝えた。

 

「見る限り外套を被った男とハンターナイトの女のペアで、バッグの類は見当たらなかったので非装備か小型です」

 

「なるほど。撃ち落とさないのはパフォーマンスか、それとも射撃武器が無いからか。いずれにせよ」

 

「……ッ!」

 

「お客さんを歓迎しなきゃいけないみたいだな」

 

 そう言って香美を下がらせた隼人は臨戦態勢に移行しながら吹雪の夜空をヘリが舞うケロスで、正体不明の男と対峙した。

 

「俺たちに何用かな? その前に、IFFを作動させろ。でなければ敵性勢力として排除する」

 

「ふっ……ずいぶんと甘い対応だな、五十嵐隼人」

 

「なっ……?! 何故俺の名前を!?」

 

「調べたからさ。お前らの学校の、名簿でな」

 

「名簿、だと?! 今、名簿データはお前らの手にあるというのか?! いったい何のつもりで盗み出した!?」

 

 驚く隼人に男は薄く笑う。そして、彼は、隼人に向けて拳を突き出すと立てた親指を逆さにした。

 

「お前を殺すためさ、五十嵐隼人」

 

 男がそう告げた瞬間、秋穂と恋歌が飛び出す。野生の勘で危険だと判断したらしい二人は無防備な男に迫り、それぞれの攻撃を放つ。

 

「させません」

 

 その間に割り込んだ女が剣を抜いたシールドを掲げ、空中からの一撃を防ぎ切る。

 

 斬り返しが来る前に離脱した二人は壁の様に立ちふさがるハンターナイトを睨むと得物を構え直した。

 

「さて、どうする? “また”殺すのか? 隼人」

 

 男が放ったまた、という一言にケリュケイオンの全員が戸惑う中、隼人一人が鬼の形相で男に殴りかかった。

 

「ショートカット! 『奥義:ドレットノートブロウ』!」

 

 ハンターナイトのシールドにぶち当たった拳が、バンカーの勢いも加味して重量級のハンターナイトを数百メートル吹き飛ばす。

 

「ぐぅううっ!」

 

「邪魔だ! どけろ!」

 

 家屋に激突したハンターナイトにそう叫んだ彼は男目がけ、体を倒して踵落とし気味に左足で蹴りかかる。

 

「ショートカット『レッグストライク』!」

 

「無駄だ!」

 

 瞬間、隼人と男の間にバリアーが現れ、渾身の一撃はそれに受け止められてしまう。

 

 それで生じた隙、空中で背中を晒す彼に向けて拳銃を向けた男はそれを遮る様に放たれた無属性魔法とそれに隠れる様にして接近してきた一刀持ちの楓の一閃をバリアーで止める。

 

 だが、彼女らの狙いは別にあった。

 

『カエデちゃん!』

 

「うっしゃあ! ショートカット! 『盾崩』! いっけえええ!」

 

 至近距離、弾かれたムラサメマルを手放した楓が腰に差していた威綱を抜き放ってバリアーを破壊する。

 

 切り払う直前にバックステップしていた男は踏み込んできた隼人にニヤリと笑いながら宙に槍を生み出す。

 

「何?! クソッ!」

 

 横移動からのロールでベクトルを殺した隼人は槍を投げつけてきた男を睨みながらその場を飛び退く。

 

 続けざま、長剣が現れ、ブーメランの様に回転をつけて投げつけられたそれを隼人は両手両足で弾き飛ばし、スキルを用いて距離を詰める。

 

「直線的だな、愚図が!」

 

 その手にショットガンを召還した男がそう叫び、隼人は苦虫を噛み潰した様な表情を一瞬浮かべる。

 

 が、発砲の直前にバンカー付きのサイドステップで散弾を回避して男の側面に回る。

 

「終わりだ、偽善野郎」

 

 側面に置かれていた対物ライフル。その銃口が隼人の頭部を捉えていた。瞬間、銃身にライフル弾が直撃し、照準がズレて隼人は難を逃れる。

 

「チィッ、忌々しい!」

 

 舌打ちをかました男の手にM203四連装ロケットランチャーと長剣が現れ、隼人の拳を剣で止めつつ利也がいるであろう地点をロケット砲で薙ぎ払った。

 

「リーヤ! くッ、貴ッ様ァああああ!」

 

 被害報告が聞けないほどに激高した隼人は長剣を砕き、動揺した素振りを見せる男に迫る。左拳を振り上げ、叩き付けようとした刹那。

 

 隼人は右側からの殺気に気づき、強烈な打撃を受けて吹き飛ばされた。地面を転がり、廃墟の壁を突き破った彼はHP危険域を知らせるアラートを指向性の音声で聞きながら呻く。

 

 大ダメージによる部位損傷とスタン判定が入っている隼人は身動きが取れず、尚且つ部位損傷に脳震盪が含まれていたが為に意識混濁となっていた。

 

「双葉高校の上級プレイヤーも、冷静さを失わせればこの程度か」

 

 そう言って笑った男の隣、巨大なハンマーで地面を突いた少女が気味の悪い薄ら笑いを浮かべていた。へらへらと笑う彼女を流し見つつ、男は手にMG36を具現化させ隼人に銃口を突きつける。

 

「今度こそ終わりだ、五十嵐隼人。挽き肉になって消えろ」

 

 そう言って笑った男が引き金を引こうとしたその時、MG36が熱を引いたオレンジの線を縁取りに一瞬でバラバラになり、遅れてドラムマガジンいっぱいの弾丸に誘爆した。

 

「何……?」

 

 片手を失い、驚く男の視線の先、二振りのアークセイバーを下ろした秋穂が深く息を吐きながら振り返っていた。

 

「アンタが誰だか、私は知らないけどさ」

 

 そう言いながら秋穂はいつもとは違う刃の様に研ぎ澄まされた声色を男に向け、右のアークセイバーを彼に突きつける。

 

「私は、兄ちゃんをよく知ってる。どんな人かもね。その兄ちゃんがアンタに敵意を向けるって事は、アンタは飛び切り危ない奴って事。だから、兄ちゃんがダメなら私が、アンタを排除する!」

 

 二振りのアークセイバーを手に秋穂は飛び出す。

 

「ショートカット!」

 

「させません」

 

 斬りかかろうとした秋穂の目の前にハンターナイトが現れる。それを避けようと横に逃げた直後、先ほどのハンマーを手にした少女が狂気的な笑みを放ちながら得物を振り下ろす。

 

「んなもん切り裂いて……」

 

 火花を散らしながらハンマーの柄が横薙ぎに振るったアークセイバーをすり抜け、慌てて避けた秋穂は砕かれた地面に冷や汗を掻きながらセイバーを構え直す。

 

「そう簡単には行かないってかぁ……。流石にキツイねぇ」

 

 軽く言いながらも頬を引きつらせた秋穂はアークセイバーを連結させ、軽く一回転させた。

 

「フヒ、フヒヒヒ……。それで、触っちゃダメ……」

 

「そう言う事です。彼には、触れさせませんよ」

 

 引き攣り笑いと仏頂面。対極の表情を浮かべる二人の女を前に、秋穂はがむしゃらに突撃した。

 

「何度来ようと、あなた一人では無駄です」

 

「じゃあ、私ならどうなのよ!」

 

「ッ?!」

 

 上方から恋歌が蹴りを構えて飛びかかり、強烈な衝撃がハンターナイトのシールドを穿って彼女の体を数メートル吹き飛ばす。

 

 そのまま恋歌はノックバックを利用して跳躍し、右手に拳銃を引き抜いて着地する。

 

「固いわね……。フルパワー数発でシールドブレイクってとこかしら」

 

 そう言って引き攣り笑いを浮かべた恋歌は戸惑う秋穂を背後に流し見ると正面、シールドのみを構えたハンターナイトに視線を戻す。

 

「見立ては誤りではありません。しかし、こちらのシールドには高レベルのリジェネレイトが付与されています。生半可な攻撃では、打ち砕く事も、貫く事もできません」

 

「ふぅん、あっそう」

 

 突然聞こえてきた声に片眉を上げたハンターナイトは恋歌の隣に並ぶ楓に気づき、携帯食料を頬張る彼女がニヤニヤと笑いながら腰の一刀に手を置いているのを見た。

 

「要するに、それって最強の盾なんだ」

 

「そう言う事です。あなたの持つ刀では切断できぬほどに、この盾は強靭です。試してみますか?」

 

「オッケーオッケー。じゃ、あなたの担当は私。レンちゃん、アキちゃん。お先にどうぞ」

 

 そう言って楓は浪人の様な風情を醸しつつ、自身を盾に二人を通す。そして、携帯食料の包みを宙に放って刀の柄に手を添えた。

 

「お見逃しありがと。あなた以外と武人なのね」

 

「あなたが自らを盾にしただけでしょう」

 

「それごとぶち抜くのが悪人って奴でしょ?」

 

 そう言って笑った楓は表情を僅かに歪ませたハンターナイトを睨みつつ、柄を握る。

 

「分を弁えない無法者は、あの子と、下っ端だけで十分です」

 

 そう言いながらハンターナイトは背中にマウントした鞘から長方形型のロングソードを引き抜き、構えた。

 

「準備良いみたいだねぇ……。それじゃ、いざ尋常に、参る!」

 

 言い様、飛び出した楓が左の親指で刀鍔を持ち上げ、居合の動きに移行する。その瞬間、盾を構えたハンターナイトは視界を塞ぐギリギリまでシールドを持ち上げていた。

 

 だが、結果的には、それが致命傷となったのだが。

 

「ショートカット『奥義:斬閃必衰』!」

 

 ダメージの大きな奥義技、だが、それでもシールドを突破するには高い攻撃力だけでは足りない。貫通力に欠ける単なる斬撃ではこのシールドは突破できない、筈だった。

 

「ムラサメ! 波動解放!」

 

 叫び、トリガーを引いた楓を見たハンターナイトは低音の波から高周波に代わっていく共振音に敗北を悟った。

 

 三十秒間だけ、刀の貫通力ステータスを無制限に引き上げる波動解放機能、その存在を忘れていたが為に楓の自信の源をハンターナイトは特定する事は出来なかった。

 

「喰らえェえええっ!」

 

 刀がシールドに触れ、横一線に両断されたそれを囮にハンターナイトは短距離のバックステップで距離を取る。

 

 当たらなかったから助かったとはいえ、直撃すれば二回死んでおつりがくるほどのダメージが自身を襲っていたに違いない。

 

 そう思いながら剣を構えた彼女は刀から高周波の音が収まったのを確認して斬りかかる。

 

「甘い!」

 

 合気の動きで回避した楓は刀を回しながらハンターナイトを笑う。余裕の彼女だったがどてっぱらに恋歌が激突したことで予定が狂った。

 

「いってて……。大丈夫? レンちゃん」

 

「げほっ、ごほっ……」

 

 覗き込む様に見た楓はヒューヒューと苦しげに息を漏らす恋歌を見てシミュレートされたダメージの程が不味いと悟り、彼女を抱えて立ち上がった。

 

 と同時、楓の首筋に刃が突きつけられる。

 

「私を忘れた訳ではありませんよね」

 

「あっちゃー。こりゃ不味いねぇ、私も恋ちゃんも動けず他の皆は遠いしねぇ」

 

「これで終わりです」

 

「それは早計じゃないかなぁ。まだ、こっちには切り札があるのさ」

 

「あの子の事ですか? しかし、我々と彼女ではレベル差がありすぎます。有効打を与える事には―――」

 

「充分なんだよねぇ。ま、見てなよ」

 

 そう言って楓はハンマー使いと相対する秋穂を顎で指す。

 

「ブラスト・オフッ!」

 

 叫んだ秋穂の全身から漆黒の粒子が放出され、黒く染まった体を彼女は疾駆させた。音速の体術で残像が生まれ、秋穂の姿がブレて映り始める。

 

 そして、ハンターナイトは目前に現れた秋穂に驚きながら剣を振るうが、直前で回避した秋穂に腕ごと切断される。

 

 そしてそのまま、ハンターナイトの体を蹴り飛ばした秋穂はその反動でハンマーを回避しつつ、空振りした女の顔面を蹴り飛ばす。

 

「一気に本丸を切り裂く!」

 

 言った先、右手にM249軽機関銃、左手に耐熱シールドを呼び出した男が秋穂に笑みを見せる。

 

「やってみな、弱者!」

 

「言ってろォ!」

 

 アークセイバーを連結させ、秋穂は猪突する。そして、視界のウィンドウからスキルを確認、ここで決める以上、大技で行く。

 

 今まで実戦の場で使う事のなかった技、その名は。

 

「『奥義:ブレイドダンス・エグゼキューション』!」

 

 合計120連撃、光速で繰り出される剣戟。秋穂の周囲を球体に走る剣戟がシールドと激突。接触した瞬間、側面のフィンから排熱するシールドの表面が徐々に融解していく。

 

 その間、体のベクトルをコントロールして連続攻撃を打ち込む秋穂は背後からの射撃もそれで防ぎ、まるで舞い踊る様な斬撃を繰り返す。

 

「これで、どうだぁあああッ!」

 

 シールドを破壊した秋穂は残る60連撃で切り刻もうとして目の前に走ったエラー表示に目を見開いた。

 

(ブラストオフモードの強制解除?! まだ猶予は二分もあるのに?!)

 

 体を硬直させた秋穂は膝を突いて天を見上げる。疑似的な夜空に大きな弧とその向こうに小指の先ほどの星がいくつか輝いていた。

 

(あ、綺麗だ)

 

 そんな事を思いながらその場に倒れた秋穂はM249の銃口を見つけるとニヤリと笑う男の口元に敗北を悟った。

 

(やだ、こんな形で……負けたく……)

 

 トリガーが引かれるその瞬間だった。宙を走った熱溶断ナイフがM249の機関部を穿ち、弾薬に誘爆する。爆発を受けた秋穂は行動制限の解除を受けて呻きながら立ち上がる。

 

「な、何……?」

 

 立ち上がった秋穂の目の前に、彼女を守る様に立ちはだかった動きやすさを重視したロングスカートタイプの巫女装束をまとった女性。

 

「さ、サクヤさん!?」

 

 秋穂の叫びに横顔を向けた彼女は優しい微笑を浮かべ、そのまま右腕を広げた。

 

「折角、新人後輩ちゃんが頑張ったんだもの。お姉さんも、頑張らなきゃね」

 

 言いながら手にしたバトルファンを広げたサクヤは高周波ブレードであるそれのスイッチを入れて男と相対する。

 

「グローブスティンガーのリーダーが直々に出張るとはな。僥倖と言うべきか、運が悪いというべきか」

 

「さあ、どうかしら。その二択の答えは、あなたの腕次第ではあるけど自信をもって言うならそうねぇ。ご愁傷様、かしら」

 

「は、相変わらず食えない女だな。アンタは」

 

 そう笑いながら男は爆発で失ったはずの右手を修復し、その手にダネル・MGLを現して発砲する。それに反応して後退したサクヤはエアバーストの勢いをそのまま受けて吹き飛ぶ。

 

 そのまま地面を引きずり倒された彼女に男はクツクツと嫌味な笑みを浮かべ、ダネルを上に上げる。

 

「くっ、はははっ! 何だよ、グループリーダーのくせに地面に引きずり倒されてんのか?」

 

「変な小細工を使う奴に、言われたくはないわねぇ……」

 

「小細工だぁ? はん、これは俺の力だ。俺だけの、俺にしかない最高の力だ!」

 

 そう言いながら男は大仰に笑う。その様子を見たサクヤは男の正体に思い至り、口元をゆがめた。

 

「その考え方、思い出したわ。あなた、ウチのエースの一人だった子よねぇ」

 

「ようやく思い出したか」

 

「ええ、はっきりと。あなたのせいで、ウチは大変だったんだから。あなたの卑怯な行いのせいでねぇ。さて、正体も思い出せた事だし本気でお礼参りをさせてもらうわよ?」

 

 そう言って両手にバトルファンを展開したサクヤは舞う様な動きを入れながら構える。直後、彼女の姿が消えた。

 

「何っ?!」

 

 目を見開いた男は右側面からの蹴りで吹き飛ばされ、地面を転がるもロールに変えて立ち上がった。

 

「クソがァ!」

 

 移動先と予想した左へダネルを向けた男は正面から迫るサクヤに驚愕し、ダネルを投げ捨てその場を離脱する。

 

「いただくわよっ!」

 

 右のバトルファンを投棄し、ダネルを手に取ったサクヤはエアバースト弾を撃ち尽くし、ダネルを投げ返す。エアバーストの爆風でダメージを受けた男は長剣二本を手に出してブーメランの様に投げる。

 

 爆煙から現れたそれを回避したサクヤは腰のシースからククリナイフを引き抜いて斬りかかろうとする。

 

 が、それよりも早く、アークセイバーを出していた男は切り結ぶ動きでククリを切断、斬り返しを耐熱コーテイングが施されていたバトルファンで防がれる。

 

「なッ、防いだ?!」

 

「新人ちゃん、覚えておきなさい。バトルファンは防御武装。柔よく剛を制す為の」

 

 言いながらサクヤは体重が乗った斬撃を扇で往なしながら背中を蹴り、男のバランスを崩した。

 

「ぐぅっ……!」

 

「その為の武装だと言う事を」

 

 男を地面に倒しながらサクヤはそう告げ、その風格に秋穂は圧倒された。

 

 本気を出した兄や恋歌とは違う、武人の風格。覇気とも言うべきかそれは経験者ではない秋穂ですら感じ取れるほどに研鑽された言葉として言い表せないものだった。

 

「相変わらず、力に頼った攻撃ねカイト。繊細さや技量の欠片もないわ」

 

 そう言いながら腰後ろのラッチからアークセイバーを引き抜いたサクヤはフードを蹴り上げた男の手首を足で押さえ、とどめを刺そうと逆手で刃を向ける。

 

「それじゃあ、さよなら」

 

「させません!」

 

 男の胸部にアークの刃が突き刺さろうとした瞬間、サクヤの周囲を白い煙が立ち込め、慌てた彼女の足を払ったカイトが外套を翻して逃げ出す。

 

「ッ、スモークグレネード?!」

 

「この勝負、預けておいてやる! 撤退だ!」

 

「……あらあら、逃げ足だけは速いわねぇ。逃がしちゃった、さてと」

 

 アークセイバーを腰に戻したサクヤは逃げて行ったカイト達を見逃した事を悪びれもせず、秋穂の方に歩み寄る。

 

「よく頑張ったわね、新人ちゃん。これで防衛ミッションは成功よ」

 

「でも、私……。あいつに、負けたんだよ」

 

「ええ、そうね。じゃあ、どうするの?」

 

 そう言ってサクヤは微笑み、それを受けて秋穂は意味も分からずきょとんとする。

 

「どうするって……何を?」

 

「あなた自身を、どうするのって話。そのまま負け続けるあなたで良いの? これから先、あなたよりも強い奴はわんさか出てくるわよ?」

 

「じゃ、じゃあ……強くなりたい、です!」

 

 そう言って両手に握った拳を胸元に寄せた秋穂に笑ったサクヤは彼女の頭を撫で繰り回す。

 

「はい、よくできました。あらあら、遅かったわね。後輩君とケリュケイオンの皆」

 

「サクヤ、アンタ前線に出てたのかよ」

 

「うふふ。そうよ、あなたの因縁の相手と一勝負。あなたはグロッキーみたいだったけどね」

 

「余計な事を言うな。それで、あいつは? 倒したのか?」

 

「いいえ、逃がしちゃったわ」

 

 そう言ってサクヤはむっとした表情の隼人に視線を向けつつ、秋穂を立たせる。

 

「後輩君。もしかしてあなた、カイト君を倒そうとしてるの?」

 

「……無論だ。あいつとの過去は、清算せねばならないからな」

 

「私見だけど、今のあなたじゃ無理よ。技量はともかく耐久力の観点から見て速攻で殺されるわ」

 

「やって見なきゃ……」

 

「やらずとも分かるわよ。だって彼、武装の使用制限と無数使用のチートを使ってたんだもの。射撃武器で蜂の巣がせいぜいよ」

 

 そう言ってサクヤはヘリコプター誘導用のビーコンを投擲し、ムキになりかけている隼人の目前に人差し指を突き出す。

 

「だからあなた達は、戦力の増強を図りなさい。特に、後輩ちゃんの育成を重要視する事」

 

「それについては同意する。そろそろ、装備を買い替える時と思ってな」

 

「そう。じゃ、二人はしばらく私の直轄ね。私が直々に教育してあげる」

 

 そう言ってサクヤは呆然としている隼人を他所に一年二人へウィンクを飛ばす。

 

「俺が同意した意味ないな」

 

「あら、そうでもないわよ? あなた達がこの子達をどうしたいのか教えてくれないと、私も教育のしようが無いし。だから、明日までに教育プランを送って頂戴な。試験週間だけど」

 

「そう言えばそうだった。ついでに勉強も教えてやってくれ、秋穂はスイッチの切り替えがへたくそだからな。成績が悪い」

 

「はいはい、了解よ。赤点取らせちゃったら文化委員会がうるさいものねぇ」

 

「ならプランは……今渡そう。ちょっと前から組んでいた物だ。修正案は……待て、ちょっと相談する」

 

 そう言ってスクラムを組んだ二年生をサクヤと秋穂達が遠目に見る。

 

「よし、修正案はこっちだ。データを送ろう」

 

「SNLの方に送信お願いね。向こうでもプランを練りたいから」

 

「分かってる。じゃあ、これでよろしく頼む」

 

 マヌケた着信音を鳴らしてSNL端末代行のファンシアが受信を知らせる。

 

 それを確認してレッグホルスターに収めたサクヤは満面の笑みを浮かべながら一年生二人を抱えてヘリコプターに乗り込んだ。

 

「さて、俺達も試験勉強と個別の強化プランがあるぞ。三週間で仕上げて物にする。クラスアップも含めてな」

 

「ようやく元のケリュケイオンってとこかなこりゃ。さて、明日からがんばるぞ!」

 

『おー!』

 

 一年生抜きのケリュケイオン全員が全員マスク姿のまま元気に声を上げる。なお、その光景を見て到着した引継ぎ部隊が発砲する事態になったのは余談である。




まさかの特訓フラグ。そしてお話の時間軸が試験週間突入につきここからしばらくは日常回です。

特訓後の彼らの強さは一体どうなるのでしょうかお楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。