B.O.O.《ブラストオフ・オンライン》   作:Sence023

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Blast10-3

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 翌日、夜更かしでダウンしていた二人を抱えて走ってきた隼人は学校で突っ伏し、苦しげな息を上げていた。

 

「朝から大変だね、隼人君」

 

「クソ、何だって毎日こんな目に合わなきゃならないんだ」

 

「あはは……」

 

 乾いた笑みを浮かべる利也の声を聴いても隼人は伏せたまま、ポツリと呟いた。

 

「なあ、利也」

 

「何だい?」

 

「昨日の件、すまなかった。俺が未熟なばかりに」

 

「いや、いいさ。たまには死にかけるのも悪くないよ」

 

「それで、だな……」

 

 そう言って隼人に笑いかける利也はイントネーションからすごく言い辛そうな彼に気づき、首を傾げた。

 

「何?」

 

「今週から試験期間で授業が少ないだろう? 修行も兼ねて爺さんのとこに世話になろうかと思って」

 

「あー、それってつまり」

 

「そうだ、二週間のお泊り勉強鍛錬会だ」

 

「いろいろ詰め過ぎじゃないかなその名前」

 

 そう言って苦笑した利也に隼人は伏せたままその声を聴く。

 

「まあ、良いんじゃないかな」

 

「そう言う事だから伝達頼む」

 

「分かった」

 

 そう言って利也は隼人の席を離れ、眠る恋歌を囲んで談笑する武達のいる方へ移動する。

 

「おーい、みんな。今日の午後さ、隼人君のおじいさんの家に泊まりに行こうって隼人君が」

 

「おー、イイねぇ泊まりで合宿かぁ……。何日泊まるんだ?」

 

「二週間近くだと思う」

 

 さらっと言った利也に武は少し表情を歪ませる。

 

「二週間かよ、って秋穂達は大丈夫なのかよ」

 

「あー、そうだったね。まあ、とりあえず大丈夫な人どれくらいいる?」

 

「寝てるロリを除けば、皆オッケーみたいだな。じゃ、今日の午後から集合だな」

 

 そう言って武は手を叩く、それと同時にチャイムが鳴って蜘蛛の子を散らす様に利也達が席に戻る。

 

 放課後になった午後、隼人達とは別行動で裏門に呼ばれていた秋穂達は帰宅する生徒達を流し見ながら裏門の柱に寄りかかっていた。

 

「咲耶先輩からここにいる様にってメールもらって早30分、先輩遅いなぁ」

 

「仕方ないよ、だって生徒会長さんだもの」

 

「にしたって遅いよー! どーいう事なのさー!」

 

 そう言ってじたばたする秋穂に香美は苦笑して周囲を見回す。もうこの辺りには生徒の姿もなく、秋穂と自分の二人だけだと分かった香美は遠くから聞こえるエンジン音に気づいた。

 

「え、あれってリムジン?」

 

 香美が呟くと同時、彼女らのいる場所に直付けされた後部ドアの窓が開き、咲耶がのん気そうに手を振った。

 

「はぁーい、お待たせ―」

 

「へ? 咲耶先輩これなんですか?」

 

「実家の車よ?」

 

 さも当然といったスタンスの咲耶に一瞬きょとんとした秋穂と香美はお互いに顔を見合わせると顔を戻した。

 

『実家ァ?!』

 

 ハモって叫んだ二人に笑う咲耶はドライバーにドアを開けてもらう。

 

「そうよ、実家の車。さ、乗ってちょうだいな」

 

 そう言って咲耶は二人をリムジンに乗せ、出発させた。

 

「うわぁ、私リムジンって初めて」

 

「私も」

 

 社内を見回す二人に微笑んだ咲耶は備え付けのモニターをつける。

 

「さて、二人共。これから二人には私の家に食客として二週間住み込んでもらいます。でも、それはあくまでも育成の為。うちには道場もあるから、そこでみっちり扱かせてもらうわ」

 

「うっげぇー。それに加えて勉強でしょー? 遊ぶ暇ないじゃーん、ダンススクールにも行けないし」

 

「そっちの方は後輩君が手配したそうよ。テスト勉強の為に休ませますって」

 

「鬼兄ちゃんめぇ……」

 

「じゃあ、これから小一時間。二週間の予定を説明していくわよ?」

 

 そう言ってモニターの表示を切り替えた咲耶に促されて二人はモニターを見つめた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 同時刻、隼人達は五十嵐祖父宅に全員集結して勉強していた。

 

「ええー修行しないのー?」

 

「勉強も修行だ。おい恋歌寝るな!」

 

 駄々をこねる楓に怒る隼人は古臭い毛布に顔を擦り付けながら眠る恋歌を揺さぶり、匂いに反応してダラダラと垂れている涎にドン引きしながら毛布を抱える彼女を抱え起こす。

 

 クンクンと匂いを嗅ぐ音が聞こえる恋歌に半目を向けながら揺さぶる隼人にニヤニヤ笑っていた楓は武に頭を叩かれ、ノートに向き直された。

 

「うへへ、隼人の匂い。クンカクンカ」

 

「ギャアアア!?」

 

 胸筋に涎を垂らしながら匂いを嗅ぐ恋歌に抱き付かれ、逃げられない隼人はドン引きしながら左太ももを挟むむっちりとした足の感触に更に焦っていた。

 

「盛り上がってるね、隼人君」

 

「……恋歌は、意識朦朧の時はフェチに従順だから」

 

「羨ましいのかい? 加奈ちゃん」

 

「……私は、別に。それに、私にはこれと言ったフェチが無いから」

 

「僕は、困った加奈ちゃんの顔が特に好きだなぁ」

 

 そう言って笑う浩太郎に困惑した加奈はそわそわと視線を彷徨わせ、目の前のノートに目を落とす。浩太郎は追う様にニコニコとした笑顔を向け、加奈の頭を撫で回す。

 

 そんな彼らを見ていた利也と夏輝は揃ってため息を落とし、提出用の課題と並行して新編成に移行する為の説明資料を作成していた。

 

「新編成って言っても二年生は皆元のクラスに戻るだけなんだね」

 

「うん。でも、僕らには一年の経験があるし装備も元のままじゃない。新しい装備を持つのは秋穂ちゃん達だけじゃないって事」

 

 そう言って夏輝に笑った利也は隼人が渡していた各個人用の装備と要求戦術のリストを参考に全員配布の資料を仕上げ、各個人のクラス、装備する武装等を書き上げていく。

 

「それにしても、恋歌ちゃんのコレ、よくこんな使い方思いつくなぁ」

 

 書く手を止めて利也はそう呟く。彼の目の前、ホロモニターに映る恋歌のクラスとその運用法。さっそく見てみたいと好奇心がうずく彼はギャーギャーと暴れる隼人達を見てため息を漏らす。

 

 昨日の時点で全員モウロに戻っている。やろうと思えばすぐにでも特訓は出来るがその前に勉強を終えなければならない。

 

「ちょ、ちょっと皆! 静かに勉強しようよ!」

 

「ん、俺は終わった」

 

「早いね」

 

 そう言う利也に笑った武は隣で苦戦する楓に勉強を教え、流石に不味いと思った浩太郎も加奈に勉強を教えていた。

 

 そして、だらけた格好の恋歌を抱き付かせたまま勉強に戻った隼人がくったくたの表情でノートに書き込んでいた。

 

「大丈夫?」

 

「ああ、まあ何とかな。それよりも早く終わらせよう。説明も兼ねて新クラスでの運用法を説明したい」

 

「分かってる。こっちも急いで書いてるところだから」

 

 タイピングする利也に頷いた隼人は必死にノートを書き込み、一時間後。

 

「おーい、はーくんや」

 

「あ? 何だよばあちゃん」

 

「夕飯手伝っとくれ」

 

 ぶっきらぼうな祖母に呼び出され、隼人は渋々と言った体でその後を付いていき、寝ていた分を取り返そうと必死に勉強する恋歌を武達に任せる。

 

 武達がいる客間を後にした隼人は台所に向かう祖母がこちらを見てくるのに気付いた。

 

「どうしたんだ、ばあちゃん」

 

「あんた、何かおっきな事、抱え取るんじゃないかね」

 

「いや、別に」

 

「はん、隠そうとしたって無駄さね。ま、アタシにはあずかり知らぬ事ではあるんだろうけどさ、あんまり気負うんじゃないよ。アンタは意外と脆いんだから」

 

「ああ、分かってる」

 

 そう言って隼人は祖母の背中を見つめ、そのまま台所に入る。

 

「さて、夕飯作ろうかね。何がいい?」

 

「みんなで食べられるものが良いな。今日はアイツらいるし」

 

「じゃあ、鍋にしよう。アンタらが来た時の為に買っといた奴があるから」

 

 そう言って笑う祖母に笑い返した隼人は白菜を切り始め、夕飯作りを手伝い始めた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 一方、咲耶の実家へ泊まることになった秋穂と香美は袴姿で備え付けの道場で息を切らせながら大の字に寝ていた。

 

「きゅ、休憩。休憩させて」

 

「まだ基礎も終わってないのよ? ダンスで鍛えてるんじゃないの?」

 

「いや、激しすぎ……。分間で何合打ち合うのさ!」

 

「そりゃ、手数重視だから仕方ないわよ。ったく、仕方ないわね。十分休憩、その後模擬戦ね」

 

「へ、へーい」

 

 そう言って秋穂は転がって香美に抱き付く。むわっと甘く香る香美の汗にむらっときた秋穂は周囲を見回すと文系のインドア派なのに振り回されて目を回している彼女を床に寝かせて覆いかぶさろうとした。

 

「休憩とは言ったけどだからって何していいとは言ってないわよ」

 

「ギャー!」

 

 道場の入り口で見ていたらしい咲耶に驚いた秋穂は慌てて香美から飛び退く。

 

「まったく、女の子だけだからそう言う事考慮しなくて済むとか思ってたら後輩君よりも淫獣じゃない」

 

「む、ムラッときちまいまして、へへっ」

 

「うふふ、真剣でダルマがお望み?」

 

「い、いいえ、違います! マム!」

 

「なら宜しい。じゃ、準備して頂戴な。実戦形式の、それもBOO仕様でね」

 

 そう言って咲耶はお付きのメイドに香美を任せると手にしていた軽量竹刀二本を秋穂に投げ渡す。自身は扇と軽量竹刀を構える。

 

「さ、始めるわよ」

 

「うん、でも竹刀じゃ干渉できちゃうから意味ないよね」

 

「うふふ、ちゃんと物理干渉できるアークセイバーを後輩君が用意するって言ってたから。意味はあるわよ。さあ、かかって来なさい」

 

 そう言って扇を突き出した咲耶に頷いた秋穂は竹刀を構えて円運動でゆっくり動き、間合いを測る。笑う咲耶の目が一瞬緩んだ瞬間、秋穂が仕掛けた。

 

 左の竹刀を突き出した秋穂にフッと笑った咲耶は扇で竹刀を反らす。ベクトルをずらされ、一本の槍の様に真っ直ぐだった秋穂のバランスが揺らぐ。

 

「まずは一撃」

 

 そう言って秋穂の背中を畳んだ扇で軽く弾いた咲耶はすっ転んで床を滑った秋穂に苦笑しながら竹刀を構える。

 

 派手な転び方からのハンドスプリングで立ち上がった秋穂は仕掛けてこない咲耶にむくれつつ斬りかかる。

 

「ふんっ、はっ、やぁっ!」

 

「うんうん、良い太刀筋。楓ちゃんに似てるわねぇ。でも、あなたには合わないみたいね」

 

「ちぇええええい!」

 

 快音を鳴らして竹刀が切り結ぶ。片手で秋穂の勢いを受け止めた咲耶はそれを受け流すと突進してくる秋穂の連撃をすべて往なし、カウンターで面を入れた。

 

「はい終わり」

 

「ぬぅーなんで勝てないの!?」

 

「それは単純。相性の問題だけど、まああなたの場合はファイトスタイルがあってないからかしらね。ちょっと、打ち込むから対処してみて」

 

 そう言って横薙ぎに竹刀を振るった咲耶は竹刀で受けた秋穂に指をさす。

 

「それ、それがダメよ新人ちゃん」

 

「え?」

 

「アークセイバーを刀や剣等の実体剣と同じ感覚で扱っちゃダメ。無闇に触れさせるとエネルギーが減るしそ元々受ける様に作ってないの。重量もないしね」

 

「あー、そっか」

 

「基本的にセイバーは近接武器に対してはパーリングして対処するの。速度を乗せて剣を弾く感じでね。ちょっと難しいんだけど出来る様になるだけでも戦力は上がるわ」

 

 そう言いながら咲耶は竹刀を振るう。

 

「幸い、あなたは動体視力が高いみたいだから銃弾も同じ要領で捌けるでしょう」

 

 さらっと言う咲耶に、普通出来はしないだろうとメイドの膝枕でクーリングしながら目を閉じていた香美が内心でそう呟いた。

 

「後は向こうの模擬戦場で合わせましょう。香美ちゃんの訓練も併せて行うわね。じゃあ、ご飯にしましょう」

 

 そう言って笑った咲耶に頷いた秋穂と香美は彼女について道場を後にした。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 隼人達の夕飯はキムチ鍋。魚が苦手な恋歌と肉が食べられない夏輝に考慮して肉と魚介が入った豪勢な鍋でわいのわいのと盛り上がって食べていた。

 

「ばっちゃんおかわりくれ」

 

「あいよ、ちょっと待ちな。ほれタケ坊」

 

「ありがとよばっちゃん」

 

 短いやり取りをしながら具が盛られた取り皿を受け取った武は隣で幸せそうな表情を浮かべる楓を見てフッと頬をほころばせた。

 

「どしたの?」

 

「いや、嬉しそうだなって」

 

「んふふー美味しいご飯は幸せの源だよん」

 

 そう言って笑う楓に頷いた武は取り皿の物を食べ、合掌して皿を下げに行く。大食いの隼人と楓はまだ食べているが後の面々はもう食べ終えていた。

 

 風呂の時間だがどちらも入れないので食べ終えた面々で時間潰しのカードゲームを始め、十分後にようやく全員が布団を並べた寝室に揃った。

 

「あー、食った食った。で? 風呂の割り振りだが一応広いとは言え俺らは男女だ。ちゃんと分別をもって」

 

「僕は構わないよ」

 

「黙ってろコウ。後なんでナチュラルにそんな事が言える」

 

 そう言って半目を向けた隼人に浩太郎はニコニコと笑みを浮かべる。

 

「とにかく、先にどっちが入る? 俺はどちらでも構わんぞ」

 

「えー、一緒に入ろー」

 

 逃げの姿勢を見せる隼人にぷくーっと頬を膨らませる恋歌は楓と加奈にも同意を求める。

 

「バカ野郎。俺達はもう小学生じゃないんだぞ。一緒に入れるか」

 

「だから良いじゃんかー、でっへへぇ」

 

「……じゃあ、こうするか」

 

 そう言って隼人は恋歌を抱き寄せた。筋肉質な体に密着させられた恋歌が真っ赤になり、香る汗の匂いと程よい固さの胸筋にだらしない顔で笑う。

 

「二人ペアで、風呂って事で」

 

「それ、妥協案になんのかよ」

 

 サラッと言う隼人に半目を向けた武はワクワク顔の楓を見て諦めたのか深いため息を落として着替えを取りに隣の部屋に移動し、それに彼女も追従した。

 

「さて、一番風呂は武達で良いか?」

 

「うん、構わないよ」

 

 隼人の問いかけに浩太郎だけが答え、布団の上に腰かけた隼人はそのまま寝っ転がって天井を見上げる。

 

 ボーっとしている彼の頭に昨日の事が過ぎる。

 

(名簿を持っていなければ成し得ない事を何故アイツはやっていた? まさか、アイツが名簿を持っているのか? 調べたにしろ、東京にいる筈の奴が何故双葉高校のサーバーに入れる?)

 

 何が起きているのか、分からない事実に隼人は少し恐ろしくなり、体を横にする。

 

(アイツは、一体何をしようとしているんだ? 生きている事とは関係のないあの世界で、何をしようとしているんだ?)

 

 考えれば考えるほど謎が出てくる事に苛立つ隼人は背中に密着した柔らかい感触に思考を吹き飛ばされ、全身を硬直させた。

 

「隼人、おねむ?」

 

 幼い語調でそう問うた恋歌の体にそれどころじゃない隼人は慌てて言い返す。

 

「ば、バカ言えまだ夜の八時だろうが。眠い訳無いだろ」

 

「ちぇー、添い寝しようと思ったのにー」

 

(の、ノーブラの胸の感触が……。ぐっ、落ち着け、俺。精神を研ぎ澄ますんだ、揺らがないくらいに)

 

 精神を鋼の様に鍛え上げていた隼人は潰れたノーブラおっぱいの感触にリアクションせず、恋歌をそのまま抱き付かせていた。

 

 と、ふいに恋歌がした可愛らしいゲップから酒気を感じた隼人は疑問を浮かべ、寝たまま質問を飛ばした。

 

「恋歌、酒飲んだのか?」

 

「んぇ~? 飲んでないよぉ~?」

 

 疑問を飛ばした隼人に恋歌が、んヘヘ、とベロベロの笑いを浮かべて全身を擦らせる。流石にこれはきつかったらしい隼人は半分エビ反り状態で体を強張らせていた。

 

「え、お前何してんの?」

 

 着替えを持って戻ってきた武が悶絶する隼人を見てそう言った。

 

 それから三時間後、悶絶に体力を持っていかれて寝ていたらしい恋歌ごと跳ね起きた隼人は自分の姿に真っ赤になった彼女を連れて風呂に入った。

 

「さっさと入るぞ」

 

 そう言って上半身裸になった隼人に嬌声を上げかけた恋歌は慌てた彼に口を塞がれた。

 

「バカ野郎、大声出すな。何時だと思ってる」

 

 そう言って手を離した隼人は位置的に目の前にある胸筋に見とれる恋歌の頭にチョップを打ち込むと全裸になって風呂場に入り、細身ながら鍛え抜かれた屈強な体を流し湯船に身を沈めた。

 

 言葉にならない声を漏らしながらそこそこ大きな湯船を満喫していた隼人はそそくさと入ってきた恋歌に気づき、伸ばしていた足を折って横を向いて彼女が入れるスペースを開けた。

 

「ふぅー……気持ちいいわね」

 

「ああ、そうだな。かなりぬるいけどな」

 

「私には、ちょうどいいわ。それに」

 

 そう言って恋歌は隼人の腕に抱き付き、目を引く大きさの胸で彼の二の腕を挟んだ。

 

「ッ!?」

 

「こうすればあったかいでしょ?」

 

真っ赤になる隼人に悪戯っぽい笑みを浮かべた恋歌は困惑する彼の腕を抱き寄せてうれしそうに笑う。

 

「あ、あのな。恋歌、俺はゆっくり湯船に浸かりたいんだが」

 

「こうしたままでもできるでしょ? えへへ、隼人の腕太くて素敵」

 

「やかましい。とにかく離れろ」

 

 そう言って恋歌を振り払った隼人は湯船の隅に移動して体を伸ばす。大柄な彼でも十分足を延ばせるほどに湯船は大きく、このところの疲れを癒すにはうってつけだった。

 

「ねぇ、隼人」

 

 そう言い、深刻そうな表情を浮かべた恋歌が深く息をついて湯船に浸かっていた隼人の上を這う。

 

「何だよ、恋歌」

 

「昨日の敵。やっぱり、カイトなの?」

 

「ああ、そうだ」

 

「そう、なんだ。アイツ、だったんだ」

 

「恋歌……?」

 

 心配そうにそう問いかけた隼人は暗い表情で俯き、体を震わせる恋歌に気づいて体を起こした。

 

「何で、アイツがいるの? 何で、何で……ッ」

 

「落ち着け、恋歌」

 

「どうして?! アイツは、アイツは仲間と一緒に隼人が殺したんでしょ!? 死なせたんでしょ!? どうして生きてるのよ! どうして私たちの目の前にいるの!?」

 

「恋歌ッ!」

 

「ッ……」

 

 委縮した恋歌に気まずくなった隼人は湯船に身を浸し、太ももに腰を下ろしている彼女の全身を見ない様に顔を反らす。

 

「悪い。大声出しちまって」

 

 無言の恋歌に隼人もまた、無言になる。気まずさに耐えきれず俯いた隼人は絹擦れの音に気付いて顔を上げた。

 

 顔を上げた先、髪を纏めていたタオルを解いた恋歌が頬を手で押さえて彼の唇と自身のそれとを重ね合わせ、何度も何度も噛みつく様に繰り返す。

 

 突然の事に驚いた隼人は目を見開いて頬を赤く染めて、息を荒げて喘ぐ彼女を見ると、頬を真っ赤に染めて体を震わせた彼女が不意に唇を離す。

 

「ゴメン、隼人」

 

「……構わねぇよ。お前が、一時的だとしても怯えずに済むなら。俺は何だってしてやる。前にも言っただろ?」

 

「うん……。そうだったね、隼人はずっと私の味方だもんね」

 

 長髪を湯船に流しながら恋歌は裸のまま隼人に抱き付く。体を強張らせた彼に微笑みながら彼女はそのまま優しく目を閉じた。

 

「私の事、守ってね。隼人」

 

「ああ、必ず守る。どんな事があろうとも、お前だけは、必ず」

 

 そう言って隼人は虚ろな笑みを浮かべた恋歌の体をそっと抱き締めた。

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