B.O.O.《ブラストオフ・オンライン》   作:Sence023

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Blast11-1

 翌日の午前六時、道場で朝の鍛錬を行っていた隼人は刃の様に鋭い蹴り上げからの鋭い突きを放って呼吸を整える。

 

「朝から早いね」

 

 そう言われて振り返った隼人は道場の壁にもたれ掛って笑う浩太郎に笑い返した。

 

 お互いに寝巻兼用のジャージ姿で道場の床に敷いた座布団へ腰かけた二人は開けっ放しの縁側を見ながら話題を探る。

 

「そう言えば、気になってたんだけど隼人君って恋歌ちゃんのどこが気に入って付き合ってるの?」

 

「うぐっ。そ、それは……」

 

 ズバリ入り込む浩太郎の問いかけに視線を逸らしかけた隼人はニコニコ笑顔の彼に折れた。

 

「あ、アイツの……身長とか、む、胸。後、性格」

 

 恥ずかしそうに言う隼人に一瞬固まった浩太郎はもう一度聞き直して驚愕した。

 

「隼人君って、ロリ巨乳好きなんだ。それも子供っぽい性格の子が好みかぁ、へぇ~」

 

「そ、その言い方止めろ! 別に、胸だけを見て判断してるとかそう言うのじゃないんだ」

 

「まあ、気持ちは分かるよ。まあ、正直性格から好きになってもおかしくないしね、恋歌ちゃんは」

 

「そ、そうだろう?」

 

「でもまぁ、甘やかしすぎるのはどうかと思うよ」

 

 そう言って半目になる浩太郎にお前もだろ、と内心で返した隼人は大きな欠伸を噛み殺す。

 

「ん、く。眠い」

 

「あれ? どうしたの?」

 

「ん、ああ。ちょっとな、寝不足だった。まあ、俺はここで仮眠取るから。ランニングでも行って来いよ」

 

「あはは、寝過ぎないようにね。それじゃ」

 

 そう言って道場の出口に行く浩太郎を見送った隼人は風通しのいい道場の隅に移動して座布団をベットに眠った。

 

 そのタイミングでランニングウェアの加奈に付き添われた恋歌が眠い目を擦りながら道場にやってくる。

 

「ちょっと、恋歌。まっすぐ歩きなさい」

 

 毎日の習慣からか朝に強い加奈はフラフラと千鳥足の恋歌を引っ張る。

 

「眠い~。隼人~、何処よ~。あ、座布団だぁ」

 

「ちょっと、恋歌……あ~もう、知らない」

 

 フラフラと座布団の群れに近づく恋歌に舌打ちした加奈はランニングシューズを手に道場の出入り口に向かう。

 

「隼人が来るまで~隼人が来るまで~」

 

 そう言いながらフラフラと隼人が寝ている座布団の中に飛び込んだ恋歌は隼人を埋めながら座布団の上にダイブしてすやすやと眠った。

 

 それから二時間後、道場通いの子ども達が騒ぐ声で目を覚ました隼人は、その声に交じって武や楓がはしゃぐ声も聴いた。

 

(あ、やべえ。恋歌との約束が……。ん? なんで暗い?)

 

 恋歌の体重が軽いのかはたまたいるなんて思ってないのか、とにかく重みよりも目を開けても真っ暗な視界に驚いた隼人は体を動かす。

 

「むにゃあ」

 

 至近で恋歌の声がした事に驚いた隼人は自分が座布団に埋まっていることを理解して自分に被っている座布団をかき分ける。

 

「うぉおお、座布団の山から巨人が出てきたぜ皆!」

 

 茶化す武の声にムスッとしながら起き上がった隼人は伸ばした足の上に引かれた座布団で寝ている恋歌に気付いてため息を落とした。

 

「おう、おはようさん」

 

「ああ……武今何時だ?」

 

「十時ちょうど。ご愁傷様だな」

 

「ああ、最悪だ。座布団で寝るなって言われてたのによ」

 

「はっはっはー」

 

 直後、祖父に見つかった隼人は門下生達の目の前で舟をこぐ恋歌共々こっ酷く叱られて居間に戻ってきた。

 

「婆さん、悪い。朝飯あるか? 二人分」

 

「もうないよ不摂生な孫めが。アンタら二人近所の喫茶店で食ってきな」

 

「あいあい、分かったよついでにバイク取ってくる。そう言えば利也と夏輝は?」

 

「あのふたりゃあガラクタいじくってるよ。仲良さそうにね」

 

「分かった。何かあったら連絡してくれ」

 

 そう言って寝室の隣、荷物を置いている部屋に移動した隼人は寝ぼけ眼の恋歌の下着姿と遭遇した。

 

「ほぇ、隼人?」

 

「まだ着替えてねえのか。おら、バイク取りに戻るから早く着替えろ」

 

「ふぁーい」

 

 くあ、とあくびする恋歌に背を向けて着替えた隼人は武と楓、浩太郎と加奈がいる道場を突っ切って入口に移動する。

 

 手伝えと怒鳴ってきた祖父を無視して門の入り口で恋歌を待った隼人は、そこそこ目が覚めてきたらしい彼女と並んで自宅のガレージを目指す。

 

「お前、何時間寝る気だ。それに俺の時間奪っといて」

 

「休日ぐらいいいじゃないのよ~。アンタとの約束保護にしたのは謝るわぁ」

 

「そういう態度に見えねえんだがよ」

 

 そう言って隼人と恋歌は十分ほど歩いて自宅のガレージに到着する。鍵は常備しているのでバイクだけあればすぐに動かせる。

 

 鍵を差してセルを回した隼人は近くの収納ボックスから黒と赤のファイアーパターンが施されたフルフェイスヘルメットと白のヘルメットを取り出して白い方を恋歌に渡すと

奥から愛車のGSX-R1000を引っ張り出す

 

「このまま飯食いに行くぞ」

 

「う、うん」

 

 恋歌をバイクに乗せた隼人はキックでギアを入れると一気にスロットルを開けて加速した。

 

 住宅街に爆音が轟き、手を入れまくったカスタムバイクが大通りを疾走し、隼人持ち前のライディングテクニックによってノロノロ運転の車をごぼう抜きにする。

 

 速度を重視しない大衆車相手では十分すぎるほどに速いGSX-Rを商店街の共用駐車場に滑り込ませると徐々に減速して駐輪スペースにバイクを置いた。

 

「着いたぞ」

 

 そう言ってガードを上げた隼人は失禁寸前の恋歌に申し訳ない気持ちになった。

 

 そんなこんなで商店街内の喫茶店でモーニングを頼んだ隼人達は朝できなかった練習について話し合っていた。

 

「掌底?」

 

 モーニングの中から野菜だけ隼人の皿へ移した恋歌が半目の隼人に問い返す。

 

「ああ……。そうだ、掌底だ。お前がクラスアップする予定のタオシ―で使うんだよ。つか、ニンジンかブロッコリーどっちか食べろ」

 

 そう言ってフォークで一欠けらのブロッコリーとニンジンを小皿に弾きだした隼人は舌を出す恋歌へ皿を突き出す。

 

「うぇ~。意地悪」

 

「意地悪なものか。ちゃんと食べないからそんな身長なんだぞお前」

 

「ぷぅ~。それよりも話の続きっ」

 

 そう言ってブロッコリーを刺した恋歌を見た隼人は話を続ける。

 

「それでだな、掌底に合わせてタオシ―の気功砲撃を使うというアイデアをアニメ見て思いついた。で、知り合いに試してもらったら十回中四回成功した」

 

「成功率低いわね。やる意味あるの?」

 

「普通の人がやる必要は無いな。まあ、そもそも腕の打撃力が弱いお前用のアイデアだし成功しなくても安全な位置で出したなら普通の気功砲撃として打ち出せるんだ。練習あるのみだな」

 

「うー、でもここ最近やってないじゃないのよぉ」

 

「まあ、勉強優先だしな。お前と楓が足引っ張り過ぎ、授業中寝てるツケだバカタレ」

 

 そう言ってウィンナーソーセージを頬張った隼人はツナオニオンのホットサンドを手に取る。

 

「ば、馬鹿って! そこまで言われるほど馬鹿じゃないわよ!」

 

「……お前、得意科目は」

 

「体育、音楽、美術」

 

「五教科は?」

 

「に、苦手……」

 

 ブロッコリーの乗った皿を脇に避けて縮こまる恋歌にため息を吐いた隼人は携帯端末を机の上に投げるとスケジュール表を空間投影する。

 

「課題が残った場合の月曜からの予定表だ。まず帰宅後二時間勉強、それから家事手伝ってまた勉強―――」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 特訓は?!」

 

「お前らが課題終わらせたら入れるんだよ。あとちょっとだろ? ちゃんと手伝うからさ」

 

 必死に説得する隼人を上目使いで見た恋歌は涙ぐんで潤んだ瞳に苦笑する彼を写した。

 

「ホント?」

 

「ホントだホント。だから、頑張ろうな」

 

「うんっ」

 

 満面の笑みで頷く恋歌の頭を撫でた隼人はその様子を見て笑う老夫婦に気づいて慌てて手を除けた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 ブロッコリーを食べるだのと揉めに揉めた一時間後、爆音を轟かしてバイクで帰宅した隼人は庭先で掃除していた門下生の前で止まり、恋歌を先に下ろした。

 

「あ、隼人お兄ちゃんだ。おかえり」

 

「ああ、ただいま。今日はもうみんな終わりか?」

 

「うん。あ、お兄ちゃん、バイク見てもいい?」

 

「別に構わんが、触るなよ。今熱いから火傷か皮膚が溶けるぞ」

 

「分かってるよ~。えへへ~」

 

 機械が好きらしい門下生の男の子が塀沿いに止めたGSX-Rを見に行ったのを見送った隼人はヘルメットを脱ぐと道場入口の脇から祖父宅の方に移動する。

 

 と、庭先で洗濯物を干しているらしい武と遭遇し、平然と女性用下着を干す彼の変態じみた表情を流し見ると平手で頭を叩いた。

 

「ってえ!」

 

「ちゃんと仕事しろ、このスケベ野郎が」

 

「へん、労働にも休憩は必要だぜ」

 

「二十分そこらだろうがとっとと済ませろ」

 

「へーいへい、手厳しいねぇ。毎日やってりゃ手早く済むってかぁ? カーッ、ロマンがねえ奴。パンツとかブラとか! 一度は触って嗅いでみてえじゃねえか」

 

 そう言って力強く言う武に半目になる隼人はちょこちょことひな鳥の様についてきた恋歌に気づく。

 

「武、あんた何やってるのよ」

 

 同じ様に半目になる恋歌に武は誤魔化す様に笑う。

 

「洗濯物を預かっといて変態行為に手を染める訳? はん、聞いて呆れるわこのクズッ」

 

 そう言って武にヘルメットを投げようとした恋歌を隼人が寸でのとこで止め、ヘルメットを奪い取って恋歌を先に行かせる。

 

「わ、悪い。助かった」

 

「べ、別にお前の為じゃない。洗濯物が泥だらけになっても困るしな」

 

「へーいへい。そう言う事にしとくかね」

 

 そう言って苦笑する武に仏頂面でそっぽを向いた隼人は玄関から帰宅する。

 

「ただいま婆ちゃん」

 

「あら、お帰り。あ、はーくんや。買い物行ってくれんかね」

 

「分かった、何買ってくればいい?」

 

「これに買いとるから頼んだよ」

 

 そう言ってメモを渡してきた祖母に頷いた隼人が玄関から出て行くのを名残惜しそうに見送った恋歌は居間で勉強させられている楓と彼女を囲む面々に気づき、血の気を引かせて引き返そうとする。

 

「恋歌」

 

 周りをよく見ている加奈に呼びかけられて体を硬直させた恋歌はぎこちない動作で振り返ると頭一つ分くらい高い加奈が目の前にいる事に驚いて腰を抜かした。

 

「恋歌、リアクションオーバー過ぎ。あとお帰り。さ、勉強しようか」

 

「ひ、ひぃいい! 嫌! 絶対に嫌よ! 勉強なんかぁああああ」

 

「うるさい」

 

 ぱん、と泣き喚く恋歌の額を軽く叩いた加奈は首根っこを掴むとそのままずるずる引っ張って居間に連れ込んだ。

 

「勉強を終わらせないと、私たちは特訓できないんだから。分かってる? 恋歌」

 

「わ、分かってるわよぅ……」

 

「隼人はいないけど、その分私たちが手伝うから。だから頑張って」

 

 そう言って畳に座らせた加奈は頬を膨らませる恋歌にため息をつきながら彼女が残している課題を取り出して広げた。

 

「残っているのは後、数学と物理だけ?」

 

「うぅ……」

 

「数学と物理、か。夏輝お願い。楓は私が見るから」

 

 そう言って後退した加奈は仮眠を取る利也とその隣で読書をしている浩太郎を流し見ながら、楓の隣に座る。

 

「うぇ~加奈ちゃんやってよぉ~」

 

「……赤点取らない為にも、ちゃんと覚えて」

 

「分かってるけどぉ~」

 

 机に突っ伏す楓の背を撫でる加奈は物静かな男子二人を流し見ると楓が詰まっている問題を見た。

 

 それから三十分、買い物を終えた隼人がレジ袋を片手に台所に移動し、冷蔵庫に移し替える間も武を加えた男子は極力介入せず黙って待っていた。

 

「婆さん買い物終わらしたぞ」

 

「お、そうかい。じゃあお昼作っとくれ」

 

「あいよ」

 

 そう言って隼人は台所に引っこんでいき、暫くして料理をする音が聞こえ始める。

 

「もうちょっと~もうちょっと~」

 

 朦朧と呟き、目を回す楓に苦笑した加奈は人数分の麦茶を置いていった隼人を見上げ、小さく頭を下げた。

 

 麦茶を飲みながら楓を励ます加奈は机の上に乗った胸を見て自分の少々貧しいそれを見下ろす。

 

「ん~? どったの加奈にゃん」

 

「……別に」

 

 頬を赤く染めてそっぽを向いた加奈に暑さと頑張り過ぎでボーっとしている楓は首を傾げた。

 

「ひ、ひひひ、後何問かしらぁ」

 

 楓の隣、目を回しながら問題と向き合っている恋歌にドン引きの加奈を他所に慌てて台所に引っこんだ夏輝が冷却シートを彼女の額に貼り付けて知恵熱を覚ました。

 

「ふー、それにしても暑いねぇ」

 

 そう言って服の胸元を掴んで仰ぐ夏輝から見えた胸に楓と加奈は揃って赤面し、そっぽを向く。その様子の意味が分かっていない彼女は首を傾げて二人を見つめた。

 

(谷間凄い)

 

 そう内心で呟きながら麦茶のおかわりを貰いに行った加奈は手慣れた様子で料理をし、品数を増やしていく隼人の横顔を見ながら麦茶の入ったポットを取り出す。

 

「ん? ああ、加奈か」

 

「何?」

 

「いや、誰かな、と思ってな。食うか?」

 

「良いの?」

 

「内緒にしてくれるならな」

 

 そう言ってだし巻き卵の端を加奈の口に押し込んだ隼人は恋歌にやりたかったなぁ、と内心で思いつつも美味しそうに食べてくれる彼女の表情を見てそっと笑う。

 

「味は大丈夫そうか」

 

「うん」

 

「今度、コウに作ってもらえ。前、レシピ教えたから」

 

「そうする。お弁当のおかずになるし」

 

「ああ、そうだな」

 

 苦笑する隼人に仏頂面を向けて加奈はその場を後にしようとする。と、そこで何かを思い出したらしい彼に呼び止められた。

 

「な、何?」

 

「そう言えば、向こうの様子はどうだ?」

 

「二人ともハイになりながら頑張ってる。もうちょっとって所」

 

「分かった。じゃあ、もうちょっとかかりそうだな」

 

「うん」

 

 頷いた加奈を見送る隼人を背に彼女は居間に戻る。

 

 だが、開けっ放しのふすまからは何の声も聞こえず、何でだろうと疑問に思って覗き込んだ加奈は三人川の字で寝ている恋歌達を見つけた。

 

「あ、終わってる」

 

 楓と恋歌のノートをチェックした加奈は台所に戻って隼人に報告すると戻ってきてちゃぶ台の周囲に座って寝ている三人をじっと見ていた。

 

 両サイドの恋歌と楓に強く抱き付かれているのか苦しげにうんうん唸る夏輝の胸を凝視した加奈はそろそろと這い寄ると夏輝の上に寝転がる。

 

「う、うぅ……重いよぉ……」

 

 三方向から圧迫されている夏輝が苦しげに呻くのを他所に夏輝の上で柔らかな温もりを味わっている加奈は教え疲れたもあったのか段々と眠くなり、

眠気に抗おうとしたが速攻で負けて寝入った。

 

「おーい、飯に……」

 

 そう言って居間に来た隼人は四人並んで寝ている女子を見てフッと頬を緩ませると、扇風機を彼女らに向けて男子と祖母を台所のダイニングテーブルへ呼んだ。

 

 それからしばらくして、目を覚ました加奈は夕暮れの日差しに気づいて慌てて夏輝達から転がり離れ、体を起こすとちゃぶ台を囲んで隼人達が携帯ゲームをしていた。

 

「おう、おはよう」

 

「い、今何時」

 

「午後の六時前。よく寝てたぞ。ああ、昼飯なら夕飯にも出すから安心しろ」

 

「そ、そうじゃなくて。わ、私、えっと、その」

 

「BOOの事なら気にするな。夜やればいいんだそれに急ぐ必要があると言う訳でもないからな」

 

 そう言って画面を凝視する隼人に加奈は申し訳なさそうに縮こまってしまう。そんな彼女を流し見ながら隼人はゲームの過程をクリアする。

 

「まあまあ、加奈ちゃん。隼人君が大丈夫って言ってるんだから大丈夫だよ」

 

「そ、そう……?」

 

「うん、大丈夫。っと、隼人君。着替えとお風呂用意しといた方がいいよ」

 

 突然そう言いだした浩太郎に加奈と隼人がおんなじ表情で驚く。

 

「何でだ?」

 

「夏輝ちゃんの全身、加奈ちゃん達の涎塗れだから」

 

「あー……。分かった、風呂の用意してくる」

 

 そう言ってゲームを中断した隼人は風呂場の方に移動し、それに武も追従する。そして、残った利也も着替えを取りに移動し、浩太郎は女子の見張りで残った。

 

 残った加奈も寝汗に気づいて嫌そうな顔をする。そんな彼女に気づいた浩太郎はそそくさと着替えを取りに引っこんでいく。結局一人残った加奈は自分より背の低い恋歌を抱き枕に横になった。

 

「……寂しい」

 

 そう呟いた加奈は起きているのが一人である状況に不安を覚え、恋歌を抱きしめる力を強めた。

 

「寂しいよぅ」

 

 ぐす、とべそを掻く加奈はその頭にそっと置かれた手に気づき、顔を上げた。

 

「大丈夫です、私たちがいますから」

 

 起きていたらしい夏輝がそう言って優しく微笑む。聞かれていたのか、と恥ずかしくなるよりも早く安堵が加奈の内心から湧き上がってきた。

 

「どうしたんですか、加奈ちゃん。泣きそうですよ?」

 

「ふ、不安……だったから」

 

「ふふふっ、甘えん坊で寂しがり屋ですね。加奈ちゃんは」

 

 そう言って撫でてくる夏輝に自分に甘い兄や姉の面影を感じる加奈は遠慮せず甘え、恋歌を抱きながら夏輝に体を寄せる。

 

「あ、あの加奈ちゃん。ちょっと窮屈……あとすごく蒸れる……。着替えたい……」

 

「着替えなら利也とコウ君が取りに行ってる。後、隼人と武が風呂の準備を」

 

「うちの男子ってホント気遣いうまいですよね……」

 

 そう言ってため息を吐く夏輝の表情を見る加奈は廊下の方から聞こえる足音を楽しげに聞いていた。

 

「ただいま~帰ったぞー」

 

「お帰り、爺さん」

 

「おう。何じゃ、風呂の準備をしとったのか。気が利くのぉ」

 

「言っとくけど爺さんの為じゃねえからな。居間で寝てる女子の為だ」

 

「ジジイに厳しいのうこの孫は。若い娘っ子優先しても何ともならんじゃろうに」

 

 やれやれと言いながら居間に来た隼人の祖父に狸寝入りを決め込んだ二人は台所に移動した祖父に安堵していた。

 

「老い先短けぇ爺さん心配しても何の得にもならんだろうが」

 

「おい孫よ、お前の辞書に敬老と言うものはないのか」

 

「そう言う爺さんの辞書にゃ遠慮がねえだろうが」

 

 通りすがり様に祖父の肩を叩いた隼人は居間に戻ると夏輝達を起こす為にしゃがみ込み、彼女らの肩を掴んだ。

 

「おい、そろそろ起きろ。夕方だぞ……って夏輝と加奈は起きてるな」

 

 揺さぶってきた隼人が冷静にそう言ったのに二人はビクッと体を竦ませる。

 

 何で分かる、と二人して同じ事を思っていると本気で寝ている楓と恋歌が服を脱ぎだしたのを体の動きから感じ取って二人して慌てて起き上がった。

 

「お、おはよう二人とも。どうしたって……ぬおぉお!」

 

 胸の下側まで見えている恋歌と楓に焦った隼人はその声で起きたらしい二人の不機嫌そうな視線を受けて気まずそうに顔を逸らした。

 

「お、おはよう。二人とも」

 

「今何時……?」

 

「六時……。あの、よ……。服、着てくれねぇか」

 

「ふえ……? へ……ひ、ひやぁあああああああ!」

 

「ばっ馬鹿! 大声出すな!」

 

 慌てて抑えにかかる隼人は驚いて悲鳴が引っ込んだ恋歌を押し倒し、間が悪く来た祖母にその現場を目撃された。

 

「なっ、何をしとるんさねバカ孫!」

 

「ちょ、ちょっと待て婆さん! 事故だ事故! 襲ってねえし!」

 

「ええい、分かっとらんさね! 人払いをしてからやるもんさそう言うのは!」

 

「止めねえのかよ!」

 

 押し倒したままツッコミを入れた隼人はまんざらでもない様子の恋歌を見下ろし、ローテンションで彼女から離れた。

 

「おーい、何だギャーギャーと。飯の準備しねえのか?」

 

 そのタイミングで武が隼人を呼びに来、楓の格好に慌てて彼女の服を直すと女子を風呂に案内する。

 

「お前、女運ないなぁ」

 

「女難の相なんか聞いた事ないぞ俺は」

 

「いや、何かな限定的に女運ない気がするぞ、お前は」

 

 そう言って台所に移動した隼人と武は利也と浩太郎の足元の発泡スチロールにある捌かれていない十匹近いアジに気付いた。

 

「おい、こんな立派なアジ、どうしたんだ?」

 

「お爺さんがお刺身用にもらって来たらしいけど捌けなくてね、持て余してたんだ。隼人君、お願いできるかい?」

 

「ああ、任せろ」

 

 そう言って包丁を手に取った隼人は魚を捌きながら武に作ろうとしていたメニューを伝える。

 

 すっかり料理人が板についた四人は長風呂でいない女子の料理も食べたいなどと考えつつ、料理を教えるのは自分たちかもしれないとも思いながら、それぞれの作業を続ける。

 

「お、隼人。アジ、捌いてくれてんのかい?」

 

「ああ。爺さん良いアジもらったな。油が凄いぞ」

 

「旬だからな、うめえぞぉ」

 

 大笑いしながら居間に行く祖父にふっ、と笑った隼人は切り分けた刺身を皿に並べていく。その隣では武が海藻の酢の物を作り、利也はしじみ汁と炊飯と麦茶の用意、浩太郎は恋歌用に焼き肉のたれで炒め物をしていた。

 

 五つ捌く予定の隼人は人数分ある事を理解した上で武達用につまみ食いの味の刺身十枚を並べ、醤油を出した。

 

「人数分あるし、ちょっとだけ頂こう」

 

「お、良いなぁ。美味そうだ」

 

「お先に頂くぞ」

 

 そう言って隼人は二切れひょいひょいと食べてしまう。

 

「うん、美味いな。脂が乗ってる」

 

「ホントだ、美味しいね」

 

「こんな上物もらって来たってマジかよ爺さん。美味いな」

 

「加奈ちゃんも喜びそうだ」

 

 思い思いの感想を言いながら食べていた四人は風呂から出てきたらしい女子と目が合い、慌てて皿を流しに隠した。

 

「あー! 何々?! 何食べてたの~!? ねえねえ!」

 

「う、うるせえっ、飯に出すおかずの味見だ! 分かったならさっさと居間に行けっ」

 

「えー……って、あ! アジだ! って事は晩御飯はお刺身?!」

 

 こと食べ物になるとうるさくなる楓を往なそうとしていた武だったが仕方ないな、とつまみ食いのおかわりを出した隼人に諦めたらしく何も言わなくなった。

 

「脂が乗ってておいしいぞ。醤油とわさびも置いとくからな」

 

 そう言ってダイニングテーブルに置いた隼人はきゃあきゃあと姦しい声を出しながら食べる四人に微笑を浮かべ、男子三人にニヤニヤと笑われる。

 

「な、何だよ」

 

「普段あんな感じなのに優しいねぇ、五十嵐君は」

 

「べ、別に……そんなつもりじゃねえよ。何だその眼は!」

 

「おうおう、照れちゃって。じゃ、俺らは俺らで美味しいご飯作りますかね」

 

「む、無視するな!」

 

 顔を赤くして調理場に戻った隼人にニヤニヤと笑う三人は手早く調理を終えて夕飯準備を終えた。

 

「飯にするか。加奈、ちゃぶ台拭いてきてくれ。夏輝、冷蔵庫の上から二番目の大皿に昼飯の残りがあるから出してレンジで加熱してくれ。恋歌は取り皿と箸とコップ並べといてくれ」

 

 てきぱきと指示を出しながら盛り付ける隼人はお盆を二つ出して盛り付けたものを乗せていく。

 

「持ってけ」

 

「うい」

 

 手慣れた動きで運ぶ男子に負けじと女子も続く。さっさと済ませた探偵部は居間のちゃぶ台を祖父祖母と囲んで夕食を食べる。

 

 祖父が酒の肴に刺身を食べているのを他所に黙々と食べる隼人は刺身を食べている恋歌をじっと見ていた。

 

「な、何よ」

 

「いや、お前が料理できる日が来るのかなってな」

 

「そんなのすぐ来るわよ。……包丁の使い方忘れたけど」

 

 最後なんて言った、と隼人がツッコミを入れ、それに恋歌が気まずそうに縮こまる。

 

 そんなやり取りを交えながら夕食を終え、男子が風呂から出てきた午後八時。やっとこさBOOが出来る彼らは三日ぶりにログインした。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

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