B.O.O.《ブラストオフ・オンライン》 作:Sence023
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―――― 午後8時10分:モウロ・ガバメントセンター ――――
ケリュケイオンがケロスが復興するまで駐在を命じられていた為に身動きできない隼人は恋歌、浩太郎、加奈を連れてモウロ中心区にあるガバメントセンターを訪れ、NPCが担当している受付の方に移動した。
「いらっしゃいませ、どのような用件で?」
「クラスアップを行いたい。四人だ」
「分かりました、少々お待ちください」
今日、彼らがここに来たのは今回の目玉、隼人、恋歌、浩太郎、加奈の四人のクラスアップを行う為である。
クラスアップは各町にあるガバメントセンターにて手続する事でファンシアの一部機能が解除され、解除後一度だけクラスアップが可能となる。
「アップデートを行います。ファンシアを受付に預けてください」
隼人達は元々クラスアップしていたが、何でも行うという傭兵としての事情により四人は敢えてクラスダウンを行い、元々多方面に特化していた性能を少しばかり汎用的に変えていたのだ。
だが、度重なる戦闘任務に加えて依頼ではなく自衛目的の戦闘やこちらから仕掛ける必要性のある戦闘などが増えてきた。
それらに対応する為にクラスアップで戦力を戻し、さらに増強する必要性が出てきたので今回のクラスアップに至ったと言う訳である。
「アップデート完了。ファンシアを返却します。またのご利用をお待ちしております」
機械的な礼をした受付に背を向けてその場を後にした隼人達は徒歩十分の西地区まで防寒装備のフードを被って移動する。
「これで、クラスアップできるな。倉庫まで移動してそこでやろう。新装備の装着も兼ねてな」
「了解だよ。それにしても、よく装備を整えられるだけのお金があったね」
「積立金だよ。今までのな。こうなる事はある程度予測できていたから貯めておいたのさ」
そう言って移動した隼人は浩太郎の含み笑いを通信機越しに聞きつつ、西地区まで小走りに進む。そして、間借りしていた倉庫に入ると待っていた武達がマスクを下ろす。
「すまん、遅れた」
「良いって事よ。それよりも早く要件済ませて肩慣らしと行こうぜ」
「ああ、そうだな」
そう言って笑った隼人は三人とアイコンタクトを交わして、あらかじめクラスアップする物にセットしていたファンシアのクラスアップパネルをタップした。
《クラスアップ開始:ハヤト:クラス:モンクからインファイターへ》
瞬間、隼人の全身から白い光が放出され、クラスアップ完了の表示が隼人の網膜に映し出される。そして、姿は変わらずともステータスが変化してる肉体を見下ろす。
「流石に性能は試さねばわからないか……。さて、皆それぞれの新装備に変えてくれ」
そう言ってコンテナを配った隼人は各々で支給された装備を装着する様子を見ながら、自身の装備を古いものと交換した。
隼人の新装備は武装のみであり、威力は高いが使い勝手が少々悪い今の装備よりも取り回しと威力のバランスに優れた装備の方が都合がいいと判断した隼人は腕部に射出機構底部にブレードを追加した新型の電磁加速式パイルバンカーを装備。
脚部にはパイルバンカーを廃し、火薬の勢いそのままを地面に叩き付けるブラストランチャーを踵に備えたブーツを装着。防具は今のままで十分な為、敢えて変えなかった。
「俺の新装備は武装だけだな。ああ、タケシやリーヤも武装だけだな」
「まあな、武装のアップグレードだけでも十分なくらいに補強になるさ」
「まあ、もともと俺は防御を重要視していないし、タケシは高ランク装備だから強化不要、利也は後方射撃が主になったから防具そのままでも問題無くなったしな」
言いながらコンテナを閉じた隼人は新型ガンブレード『M28A2 グレイヴ・メーカー』を素振りしている武の肩を叩いて諌めると元の位置にコンテナを戻す。
「コウは……衣装の色が黒くなったせいか忍者っぽい格好だな。フードとかアサシンっぽいアレンジは入ってるが」
「あはは、どう? かっこいいでしょ」
そう言ってバク宙をかます浩太郎に苦笑した隼人は徐に腕を出した彼が展開したブレードに度肝を抜かれ、慌てて体を引く。
「びっくりさせるなよ」
「あっはは、ゴメン。新装備にこれも入ってたからさ、全身に着ける隠しワイヤー付きのブレード。後はクロスボウガンとベクターかな。まだ追加するんだろうけど。因みにベクターは加奈ちゃんが使ってた奴」
「重装備だな、機動力とかは大丈夫か?」
「まあ、基本バッグに入れるし、ベクターは限定的過ぎてそんなに使えないからね。メインはクロスボウガンとかになるかな」
「お前が正面戦闘をするとなるとかなり不味い状況だろうしな。そう言う方針で頼む」
隼人がそう返したのに浩太郎は頷き、その隣で着替えていた加奈の方を振り返るとフード付きのローブに苦戦する彼女の着付けを手伝った。
「うん、うん。こうだね。それで……よし。終わったよ」
着付けを終え、加奈の頭をポンポンと叩いた浩太郎は頷いた彼女から少し離れると大型のウェポンコンテナから大戦斧を二振り引き抜いた彼女が重量のあるそれを大きく振り上げる。
そして斧を地面に叩き付けた彼女は身の丈に匹敵する全長のそれを回しながら背面にマウントする。
死神を思わせる様な漆黒のローブに先の破れたロングスカートを組み合わせ、上半身にはブラだけを身に着けるという大胆な基本仕様に防寒用の黒セーターを身に着けていた。
「やはり、胸が無いとこういう服は似合わない」
ぺっちゃりした胸を見下ろす加奈に浩太郎以外は揃って視線を逸らし、当の本人はそれを気にしていないかの様にニコニコしていた。
「胸が無い方が僕は好きだな。いじりがいがある」
「女は機械じゃねえんだぞ……」
「あはは、だから良いんじゃないか」
まぶしい笑顔の浩太郎から真っ黒いオーラが見えた気がした隼人は鈍い汗を掻いてそのまま視線を恋歌達三人の方に逸らした。
そっちでは全体的に大きい夏輝が着付けに苦戦しており、すでに装備を変えていた二人がかりで無理やり着せている状況だった。無論周囲に見える光景は真逆の様子であるが。
「ああっ、もう! 入らないじゃない!」
「い、いたたっ。恋ちゃん、もうちょっと優しく!」
「無理よっ。大体何でこんなに胸デカいのよ!」
魔術師っぽい風体の夏輝が身に着けた白のフリルシャツをボタン留めしようと頑張っていた恋歌は締めた瞬間に外れたボタンに額を弾かれ、泣いていた。
恋歌から楓が作業を引き継ぎ、夏輝の胸の上側は開けっ放しにして腰に簡易リグ付の黒いコルセットを着け、スカートは片側に大きなスリットを入れた黒のロングスカートを着用。
全身を覆う様に青い花弁状の模様が線で描かれたマントを装備し、頭に円形帽を被った。追加装備として利也が使用していたものと同型のモノクルディスプレイを装着するとスイッチを入れて通信マイクを展開した。
「ふいー、取り敢えずこれくらいかな。じゃ、後は新武器を持ってこようかね」
そう言って武装収納コンテナの方に移動した楓は三人分纏めてある武装コンテナを持ってくると解除レバーを引いて中身を解放した。
長物用のコンテナの側面が解放され、そこからラックに装着された三人の新しい武器が現れる。彼女達はそれぞれの武器を手に取ると背面のマウントラッチに一度装着し、そこから再び手に取った。
「私のは伸縮式の薙刀と手足のアッパープレート、腕、腰、足のワイヤーブレードね。手の方、見た感じ普通なんだけど」
「掌の方見てみろ、砲口が付いてるだろ? 気功砲撃用の物だ。あと指の部分が内側に来るとセイフティで発砲できなくなるから気をつけろ」
「はいはい、分かったわ。で、薙刀は石突だっけ? ここ、変形するのね。ビーム出るの?」
「いや、そこはスラスターだ。突進攻撃とか空中での姿勢変更が出来るぞ」
「マジで?!」
目を輝かせる恋歌に引き気味に頷いた隼人を他所に新しい刀、『村雨丸・甲』をムラサメマルと交換した楓は右肩に装備した草刷り型の反応装甲の具合を確かめると腰に鞘を懸架する為の分割式二段のソードキャリアーを装着する。
左に装着したキャリアーに村雨丸を下げた楓は村雨丸の下にあるキャリアーに地面に置いていたバッグから取り出した威綱を下げ、体を軽く動かして荷重位置を確かめる。
あらかた確認を終えるとマガジンポーチを二つ備えた拳銃のホルスターを右太ももに移動し、背面マウントに下ろしていたバッグを取り付けた。
「見た目バランス悪そうだな、その装備方法」
「んー? 想像してるほど悪くはないかなぁ。ほら、こっち側、肩に装甲付けてるし」
「ああ、反応装甲がカウンターウェイトになってるのか」
納得する武にえへへ、と笑った楓はその隣で、対車両狙撃用に用意されたレールガンの照準と出力の調整を行う利也と彼の隣で機械で構成された魔法補助兼射出用の長杖のセイフティ解除作業を行う夏輝の二人を見た。
ファンシアとレールガンの二つを使って調整する利也をちらちら見ながらファンシアを基部に繋いで登録認証を行っている夏輝は大胆に開いた胸を見下ろすと魅力ないのかな、と思いながら作業を進める。
一方で作業に集中している利也は満足のいく調整になった所でレールガンを立て掛けていたバッグに収め、夏輝の方を振り返っていの一番に巨乳が視界に入り込んだ。
「あ、利也君。どうしたの?」
「え?! あ、いや。その服装可愛くて似合ってるなぁって」
「そ、そうかな……。ちょっと胸のあたりきついけど……似合う?」
「う、うん。とっても」
「えへへ、ありがとう」
そう言って笑う夏輝にどぎまぎしている利也は赤い頬を隠そうともせず、立てていたバッグからMk17を取り出して背中にマウントする。
そんな彼に気恥ずかしさを感じた夏輝もファンシアに視線を戻し、認証完了の表示を見てファンシアから伸びていた接続コードを本体に巻き取って、腰のバッグの小ポケットに収めた。
「調整完了です。あ、待ってた……?」
「まあ、そうだが……。武装の仕様上、仕方ないしな。さて、全員準備は済んだな。じゃ、一つ腕試しと行こうか」
そう言うと夏輝を含めた全員を見回した隼人はファンシアのホロプロジェクターでマップを映し出すと赤点のブリップでポイントを示す。
「ここって……訓練場? 普通の場所だよね」
「ああ、そこで今訓練中の新人にテストをってな」
「大人げないよ。ま、様子見に行くのもいいかもね」
そう言って立ち上がった利也に先んじて倉庫を出た隼人は吹雪から顔を守りつつ、利也達を後ろに連れて目的地に徒歩で向かっていった。
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《午後九時:モウロ中央区:一般向け訓練所》
「って事なんだが、良いか?」
雪を払いながらそう言った隼人の視線の先、コーチらしくジャージ姿の咲耶がうーん、と形だけ悩むふりをしながら秋穂達の方を見て承諾する。
「オッケー出たぞ。最初、誰がやるんだ?」
そう言って武達の元に戻っていく隼人は手を上げながらすれ違った加奈に苦笑し、彼女をリングに上げた。リング上で背中に手を回している彼女に対するのは両手に柄を掴んでいる秋穂だった。
「じゃあ、始めるわよ」
そう言って手を叩き離脱した咲耶は左の手に掴んだ斧を秋穂目がけて投擲、その間に右の斧を構える。
ブーメランの様に投げられた斧を回避しながら距離を詰めた秋穂は右の斧での打突を回避し、背後を取る。
「もらいッ!」
瞬間、柄から光の刃を出した秋穂は打突の動きで前に加速した加奈に驚きつつ、追撃。ワイヤーで投擲した斧を引いた加奈の横薙ぎを回避したが右のラケットの様に広がった斧の面で殴り飛ばされた。
元々質量兵器である斧の打撃は芯に至るほど強く、重い物だった。それ故に転がされた秋穂のダメージは斬撃のそれと変わらなかった。
「キッツぅ……。重い武器だからって舐めちゃいかんね」
軽口をたたく秋穂を加奈は殺気に満ちた目で見つめる。まるで黙していろと告げるかの様な視線に口笛を吹いた彼女はセイバーを連結させて柄を腰に当てる様に構えた。
(強くなったつもりでいたけど全然じゃん。これが加奈姉の、本当の実力)
重量武装を扱う事に長け、大雑把ながらも要所で的確にコントロールする能力。軽量武器を扱うアサシンでは役に立つ事は無い能力だ。
「来ないの?」
考え事をしていた隙を指摘され、秋穂はぞくりと背筋を震わせる。下がろうとして真横に突き立てられた斧に威圧され、足が止まる。
「じゃあ、こっちから」
瞬間、斧の柄尻についたワイヤーをガイドに両膝での蹴りを秋穂の顔面にぶち込んだ加奈はのけぞる彼女に引き寄せた二つの斧を向ける。
「ショートカット『アックスバーン』」
淡々とした死神のつぶやきの後に重量級の一撃が秋穂の総身に衝撃を与え、束の間呼吸が出来なくなった秋穂はめり込んだ地面で苦しげに息を漏らした。
「終わり」
そう言って斧を背中にマウントした香美はシュミレート判定でキル扱いされた秋穂に背を向けると、彼女に親指を上げたサムズアップを向ける。
「やり過ぎだ、加奈」
「ごめん。でも、いい仕上がりになってる。あなたも試せば?」
「そのつもりだ。だがその前に回復させなければな」
短時間でありながら、初めて晒された強い殺気とプレッシャー、そして即死攻撃によって物凄い勢いで体力と精神力を消耗していた秋穂はベンチに戻され、代わりに香美が出てきた。
対するのは咲耶に頼まれて出てきた楓と武の二人だ。彼女らはストック部分しか見えないP90を装備した香美を見ながらひそひそと話を始める。
「ねぇ、ホントに良いの?」
「姉御が大丈夫ってんだから大丈夫だろ」
「うーん、気が引けるなぁ」
そう言いながら離れた楓に苦笑した武はガンブレードを構えると腰が引けている香美にしゃんとしろ、とサインを出す。そして、開始の合図と共に銃口を彼女に向ける。その瞬間、ガンブレードが弾かれた。
目を見開いた武は息を荒らしながらP90を構える香美の方を見ると中距離を意識したロングバレルに中距離スコープのACOGサイトを乗せたカスタマイズモデルを構えており、その顔が嬉しそうな表情に徐々に変わっていく。
「や、やったあ! 出来た! ぶへっ」
飛び跳ねるほど喜び、居合一閃でぶっ飛んだ香美に何かを吹いた武は容赦なく刀を振るった楓の頭をげんこつでぶん殴った。
「あだーっ!? ふえええ、パンチ?! パンチ何で?!」
「喜んでるとこに攻撃ぶち込む奴があるか! ちったあ空気読め! つうかお前気が引けるっつって何でそんな容赦ねえんだよ!」
「え、ええ……だって負けたくないじゃん。勝負なんだしぃ」
そう言って頬を膨らませる楓にため息を吐いた武は顎に入ったらしく目を回す香美を抱えてベンチに向かう。
「ったく、お前は後輩の成長を見ようとは思わねえのかよ」
「み、見る気あるもんっ! 馬鹿にしないでよね!」
「馬鹿にしてはいないけど、現在進行形で実行中だからな? お前」
そう言って香美を寝かせた武は彼女が持っていたP90を回収するとセレクターをロックモードに入れる。
「さっきの射撃、マルチロックオンに備えた射撃方法かね。姉御、どういう方針だ?」
ロングバレルのP90を香美の枕元に置いた武はそう問いかけながら苦笑している咲耶の方に振り返る。
「あなたの言う通りよ。マルチロックオン戦法を使う為の練習。ロックオンから射撃までコンマ1秒で射撃する練習してたのよ」
「こ、コンマ……。厳しすぎねえか」
「厳しいも何も、マルチロックオンはもともと索敵用なんだから効果短いのよ」
そう言って平手を振る咲耶に呆れ半分に返事する武はゾンビ宜しくフラフラとやってきた秋穂に首を傾げていると香美に被さった彼女を慌てて引っぺがした。
「何やってる?!」
「ナニをやっております! ほら! VRでもくっきり!」
「レイティング変わるから止めろ!」
羽交い絞めにして取り押さえた武ははぁはぁと荒い息を吐く後輩にドン引きしつつ、順調に練習試合をこなす面々を見て援護を求めた。
「誰かっ、助けろ! 百合女子の扱いなんか慣れてないぞ!」
「あ~、武? そう言う時は緩衝材に恋ちゃんを使えばいいんじゃないかな」
「そ、それでいい!」
テンパり過ぎて判断できなかった武はギャーギャー喚く恋歌を緩衝材に三人を寝かせた。
「ちょっ、アンタどこ触って! ギャー! そこはダメ! ぜぇったいダメ! 隼人しかダメ! 開発していいのは隼人なんだから!」
「おい、アイツらキルしていいか」
大音量で喚き散らす恋歌の言葉を聞いてパイルバンカーを構えた隼人に全員がギョッとなって彼を止める。
「お、落ち着け! お前バンカーで何する気だ!?」
「殺す」
「ストレートだなお前! 彼女だろ!? 後ろめたくないのか!?」
そう言われて思い止まった隼人は喚いている恋歌の方に歩み寄ると片手で口を抑えつけ、彼女の耳元に口を寄せると戻ってきた。
「何て言ったんだ?」
「秘密だ」
そう言って眠たいから、とその場を後にした隼人についていこうとして振り返った武はついて来ようとしている恋歌のがくがく揺れる膝を見て大体言ったことを察した。
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ゲームから帰ってきた隼人達は風呂の湯を抜いた祖母からのお叱りを受けてシャワーで済ませ、目が冴えて寝れなくなっており全員居間でテレビを見ていた。
「なぁ、アニメ見せてくれよぉ~。何でバラエティ見るんだよぉ~」
「帰って見ろ。録画してるんだろう?」
「そりゃそうだけどさぁリアタイで見れるんなら見たいんだよぉ」
うだうだと愚痴る武を無視してテレビのリモコンを居間に置いた隼人は台所に引っこむと飲み物をコップに注いで戻ってくるとエアコンのリモコンを操作してちゃぶ台の周囲に座った。
コップを置いて深夜のトークバラエティ『クモトーク』を見ていた隼人は飲み物に気づいた武がニヤニヤしながら引っ込むのにため息をついてテレビに向き直った。
「おいおい隼人君、こんな物開けやがって怒られるぞー」
そう言いながらチューハイ缶二本を持ってきた武に含んでいた酒をぶちまけた隼人は噎せつつ、人数分のコップに注ぎだした武から缶をひったくった。
「おいおい、何してんだよ!」
「こっちのセリフだ馬鹿野郎! 酒癖悪いの二人いるだろ!?」
「二人だけじゃねえか。あ」
間抜けた声を上げる武に背後を振り返った隼人はすでに飲み干している酒癖の悪い楓と恋歌に真っ青になった。
その間、マイペースに普通の味とブラックペッパー味の柿の種を肴にして飲んでいる利也は酒に弱い自分とは対照的に意外と強い夏輝に二杯目を注いだ。
「よく飲むね、夏輝ちゃん」
「お酒は味より、雰囲気です。楽しく飲むときは、楽しくですよ」
「多分これ、迎え酒だと思うけどね……」
苦笑交じりにそう言った利也は騒がしい隼人達を流し見ると両手でコップを抱える夏輝を見る。
「どうしたの? 楽しくって言ってたのに」
「え、えっと……。その、利也君、縁側に行きませんか?」
「へ? あ、うん、良いけど」
先にどうぞ、と促されて縁側に移動した利也は250mlチューハイ缶を一つ持ってきた夏輝に驚き、豪快に開けた彼女に萎縮しつつ一気飲みが終わるまで待っていた。
「ぷは」
「あ、終わった? それでどうして僕をここにって……うわっ」
上気した頬を笑みにつり上げた彼女に押し倒された利也は酒気の混じったキスをされ、驚きに目を見開く。
数十秒ほどの間そのままだった彼は解放されると同時に噎せ、投げた手が縁側に置いていたコップの中身をぶちまけてしまう。
「な、夏輝ちゃん。何の冗談だい?」
「冗談でやるほど安くはないです。この機会だから、やっちゃおうって」
「ああ……」
そう言う事だったんだ、と思いながら利也は苦笑し、覆い被さる様に上にいる夏輝をそっと抱き締めた。
「じゃあ、もう何も言わなくてもいいよね」
「それは、ダメです。ちゃんと、言ってくれなきゃ不公平です」
「えーあー、じゃあ」
至近距離にある夏輝の表情にドキドキしている利也は身長がそこまで変わらない彼女から恥ずかしそうに視線を逸らし、一度深呼吸をすると向き直った。
「す、好き……です」
「誰の事が、ですか?」
「さ、砂上夏輝さんです」
頬が真っ赤の利也に、嬉しさ最高潮の夏輝はうへへぇ、とだらしない笑みを浮かべて彼の首元に頭を摺り寄せた。
「えへへ、知ってました」
そう言って顔を上げ、笑う夏輝に利也は同じ様に笑う。さっきまで、頑張って告白した事実も、その笑顔を見れば少しだけ恥ずかしさが消えていた。
「じゃあ、恋人ですね。私達は」
「そう言う事になるのかな。これからは」
言葉遊びだな、と頬を膨らませた夏輝を撫でながらそう思った利也は二番目のカップル成立の瞬間に実感が湧かず、何とも言えない複雑な思いを抱いていた。
明日も明後日も、恋人だと言う事だけが変わって、いつもの事はそのまま続くのだと利也はそう思いながらめっきり大人しくなった夏輝を撫でる。
何だろう、と彼女を覗き込んだ彼は大人っぽい艶に残したあどけない寝顔に笑いながら夏輝を抱え、寝室に移動しようとする。
その途中に遭遇した居間で寝ている隼人達に苦笑し、そのまま通って寝室に入った彼は寝息を立てる夏輝を寝かせ、その隣で眠った。