B.O.O.《ブラストオフ・オンライン》 作:Sence023
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翌日もBOOで練習を続けていた秋穂達二人は咲耶が組んだ公開模擬戦に臨んでおり、人が集まり過ぎてトーナメント制になったそれは実質腕試し大会の様になっていた。
相当な実力者が集まった大会でペアを組んで参加した秋穂と香美は一回戦に当たったハンターナイトとインファントリを追い詰めながらもその固い防御力を打ち崩せずにいた。
(ここまででハンターナイトは六割……。対して秋ちゃんは八割近く削れ、私は何とか二割に抑えている。でも、向こうのインファントリは無傷)
戦闘管制官としての訓練も教導隊の個人レッスンで受けていた秋穂は腕に付けたファンシアで秋穂の様子を確認、バイタルは危険域だが勝機が無い訳ではない。
(ハンターナイトを突破できれば、勝機はある)
言い様、P90で弾幕を張り、秋穂を下がらせた香美は腰のバッグからサイコロ状の物体を四個五個取り出し、ハンターナイトの足元へ投擲する。
「何だ? これは」
馬鹿にしたような口調のハンターナイトに香美は笑いながら答える。
「足止め用のテーザーマインです」
瞬間、紫電がハンターナイトを襲い、その間に牽制射撃をインファントリに撃った香美は走り出した秋穂へバッグから大型のブリーチングボムを投げ渡す。
電撃が収まると同時にシールドへボムを叩き付けた秋穂はコントローラーを外し、ニヤリと笑うとコントローラーのトリガーを引いた。
「チェックメイト」
瞬間、貫通した爆圧がハンターナイトの総身を撃ち抜き、キル判定の出た彼はそのままリングアウトする。
すかさずコントローラーを投げ捨てた秋穂はアークセイバーで弾丸を弾きながらインファントリへ接近、マシンガンを切断し首元にアークの刃を突きつける。
「こ、降参だ」
諸手を挙げたインファントリに安堵した秋穂は不意を突く様に素早く抜かれた拳銃を斬り捨て、往生際悪くナイフを引き抜こうとしたインファントリをリングから蹴り落とす。
「ゴメンね、競技には慣れてないけど不意打ちには慣れてるんだ」
そう言って血振りする様にセイバーを振るった秋穂は収束していくセイバーを腰へ鞘に込める様にマウントし相手へウィンクを飛ばした。
鮮やかな勝ちを決めた二人は嬉しそうにハイタッチすると額を合わせて笑いあう。
仲睦まじい光景を見せていた二人は次のカードが途方に暮れているのに気付いた咲耶に頭を叩かれ、ベンチに戻される。
「何してるの。後があるのよ」
「ふぁーい」
「マイペースなのは良いけど、空気ぐらい読みなさい。で、さっきの試合の評価だけど、カミちゃん、ナイス判断だったわ。あなたの強みを生かせてるわね」
そう言って評価シートを作成する咲耶は嬉しそうに笑う香美を見るとシートの送信作業に入ろうとした。
その時だった。遠くから爆発音が轟き、何事か、と思った彼女らのファンシアに襲撃警報が表示される。
「襲撃だと?! どこの誰だ!?」
参加者が狼狽える中、襲撃者の見当がついているらしい咲耶についていった秋穂達はちょうど探しに来ていたらしいカナコと出会う。
「カナコ! 敵は?!」
「分からない、中央区西側で暴れてるとしか報告が。正体も」
「ゲリラ戦って事……? とにかく、迎撃に加わるわ」
そう言って出て行った咲耶達をカナコは視線で追う。一年前の事件で一番の犠牲者はサクヤだ。それなのにどうして、加害者であるケリュケイオンとつるむのか。
そう思っていた彼女は思考を切り替え、施設内のプレイヤーを退避させた。
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現場に到着した三人は苦戦する防衛側のリーダーらしきプレイヤーの方に移動し、咲耶が状況を聞く。その間、香美は射撃武器で牽制し続け、秋穂は周囲を見回し、奇襲を警戒する。
「状況は?」
「見ればわかるだろ! こちらが劣勢! 潤沢な武器こそなくとも敵はモンスターを味方につけてんだよ! 物量じゃこっちが不利だ!」
「モンスターを……? このゲームでテイミングはないはず。どうして……」
「詮索は良い! 敵を倒してくれ!」
「分かったわ、あなた達は防衛行動に専念を。敵は私達で始末する」
そう言って踵を返した咲耶は秋穂達を連れて移動、大通りを避け、小路に入りながら二人に作戦を伝える。
「これから、二人には後ろから暴れてもらうわ。私はそれに合わせて側面から攻撃する。ゼルリットを攻撃しているすべてを排除しなさい」
「シンプルで分かりやすいねぇ」
「余計な事を考えても仕方ないでしょ?」
それに、と咲耶は秋穂達に続ける。
「これは恐らく本格的な攻撃ではないはずよ。こんなに小規模に行う事は愚策でしかない。もし、攻めてきているのがケロスを襲った敵ならば、本部の戦力を削った状態の方が再侵攻しやすいはず」
「と言う事はこれは単なる布石でしかないと?」
「ええ、でも何度もかけなきゃいけないけどね。だから、早く始末して、次の手を打ちましょう」
そう言って秋穂達と別れた咲耶は一人、セミオートに設定した『G18』マシンピストルとシングルブレードアークセイバーを引き抜くと路地に隠れると通信回線を開いた。
「二人とも、準備は?」
『アサルト、オンポジション』
『リコン、オンポジション』
「あら、まじめね。じゃ、攻撃開始」
言い様、路地から飛び出し単発でG18を射撃した咲耶は発砲音に気づいたインファントリがアサルトライフルの銃口を向けてくる前に家屋の壁に跳躍。
そのまま、三角飛びで翻弄するとワイヤーで強制的に落下し、スライディングしながらライフルを切断する。
開いた手に拳銃を抜こうとするインファントリの両肩を射撃したサクヤは右側から攻めてくるモンスターの突進をインファントリを飛び越す事で回避すると再び突っ込んでくるモンスターへ足を切断したインファントリをぶつけた。
自動車に跳ねられたに等しい衝撃を受け絶命したインファントリで視界を塞がれたモンスターは跳ねあげる様な軌道で真っ二つに切り裂かれた。
「な、何だこいつ!」
咲耶の後方、秋穂達が攻めている方向にいるプレイヤーが悲鳴を上げており何事か、とチラ見した咲耶は分割したダブルブレードで弾丸を全て弾いている秋穂と、その隙間を縫って単発で射撃している香美の二人を見て驚いていた。
「だ、弾丸を全て、弾き飛ばしてんのか!?」
「そ、それならロケットランチャーで!」
驚くプレイヤーの中、一人が構えたRPG-7が不意に爆発。動揺するプレイヤーの内、五人ほどが頭に銃弾を受けて絶命、15匹近いモンスターが即死箇所に弾丸を受けて死亡する。
(やるわね、香美ちゃん)
踊る様な軌道で秋穂が防御する中、香美は視線誘導による手動調整でロックサイトを任意の位置に置くという荒業をやっていた。無論集中力を要する為、狙撃と勝手は変わらないがロックサイトさえ誘導できればそこに必ず命中するという違いがある。
「力押しすれば何とかなる! や―――」
「させないわよ?」
号令をかけようとしたプレイヤーの首を落とした咲耶は素早い身のこなしで左右のプレイヤーからの射撃を回避、マシンピストルのフルオートで牽制しつつ距離を取ろうとする。
だが、それをさせまいとファイター、リッパー、ハンターナイトの三人の近接職が咲耶に迫る。素早いファイターとリッパーが左右から攻め込み、挟撃しようとするがアークセイバーで得物を切断され、追い払う様な拳銃弾の雨あられを浴びせられる。
「どけェい!」
マガジン交換からの弾幕の中、クマの様な体格のハンターナイトが大型のシールドを構えて接近する。そして、手にした大剣を咲耶目がけて振り下ろす。が、直前、パーリングされ、軌道が逸れる。
「あーら、良い一撃。当たれば即死ねぇ」
言いながらナイトの懐に潜り込んだ咲耶は胸から肩にかけて巨躯を袈裟に切り裂くと焼き焦げた断面に苦い表情を浮かべつつ、死体を倒した。
「こ、この女、何者だ!? 強いぞ!」
「奇抜さなら新人ちゃんに負けるんだけどね」
そう言って苦笑した咲耶は好対象としたファイターとリッパーが香美の射撃で死亡したのを見ると周囲を見回し、全滅と判断。
セイバーを収め、二人の元に向かうと同時、防衛部隊の隊長から通信が入る。
『防衛成功だ。協力を感謝する』
「ええ、良かったわ。ウチとしても、同盟国にちょっかい出されると困るもの」
『え、その言い方……し、失礼しました!』
「良いのよ、現場の混乱って奴だから。それよりも、後始末お願いね。私達は周辺を見てくるから」
『わ、分かりました』
そう言って通信を切った咲耶は二人に微笑む。が、香美だけは油断していなかった。咲耶の背後、隠れていたらしい少女が銃口を向けようとするのを香美は得物を奪う事で阻止する。
「アキちゃん、逃がさないで!」
フォローを頼んだ香美の声に答えた秋穂はバックアップの拳銃を連結状態で切り裂き、もう一方でナイフを弾くと少女の腕を捻って壁に押し付けた。
「妙な動きをしたら壁ごと斬るよ」
捕縛を選んだ秋穂は腕を掴んだ少女の関節を抜かんばかりに捻り上げ、そう言うと香美と共に追いついてきた咲耶が少女を押さえたまま尋問を始める。
「さて、あなた達の拠点についてちょっと調べさせてもらおうかしら」
「きょ……拠点?」
「そう、ここに来るまでの拠点。あなたの本拠地じゃないわ」
そう言って咲耶は少女の持つファンシアを手に取ると香美に渡す。電子戦が専門のフィールドワーカー系なら敵のファンシアに向けて直接スキャニングを使用する事でクラッキングする事が出来る。
取得したデータを解析していた香美は拠点情報らしきマップポイントとインスタントメッセージで交わされていた作戦指示を引き抜くと咲耶のファンシアに転送した。
「ふぅん、なるほど。ここのダンジョンにキャンプを張ってたんだ。考えるわね、じゃ移動しましょうか」
「え、この子どうすんの」
「引き渡すか、殺すかしかないわね。ま、あとが面倒だから、楽に死なせてあげなさい」
そう言って指示を出した咲耶に頷いた秋穂は少女の首を落とし、電源を落としたセイバーを腰にマウントしてバッテリーを交換した。
「さて、次のポイントはここ、中央区北にある廃棄された軍事兵器研究所よ。っと、その前にアキホちゃん、お兄さんに連絡しておいてくれないかしら」
「ん? 何で?」
「ま、何かあっちゃいけないから。備えもなしに計画を立てるのは愚者のする事よ」
そう言って秋穂にメールで連絡を取らせた咲耶は目的地へ歩きながらプランの説明に入る。
「これからだけど、敵の拠点に奇襲を仕掛けるわよ。ちょっかい出されるのも嫌だしね」
「それはそうですけど、援軍を呼ばなくていいのですか?」
「確かに、必要と言えばそうだけど、この場合ベストではないわね。グループが混乱するかもしれないし、それにそもそもこう言うのは遊撃部隊の役割だから」
そう言って笑う咲耶に香美は納得できたような出来てない様な表情で彼女の後を付いていく。
「ん、連絡したよ」
「じゃ、ちょっと車置き場まで走っていきましょうか」
「ほーい。あ、カミちゃん抱っこしてあげよう」
そう言って香美を抱えた秋穂が先行する咲耶を追って走り出す。ステップ気味に跳躍しながら走る秋穂は恥ずかしそうに縮こまる香美を見下ろしつつ、極寒の土地を高速で疾駆する。
途中、香美が秋穂に携帯食料を食べさせ、車両格納庫に到着。香美を下ろした秋穂は手続きをしながら歩く咲耶の後ろに追いつく。
「で、どうやって行くの?」
「そうねぇ、悪路走破するからSUVかしら」
「おお~運転できるの?」
そう言って詰め寄る秋穂に、咲耶は微笑むとこう言った。
「できないわよ」
「え、じゃあどうすんのさ」
「あなたが運転しなさいな」
そう言って笑った咲耶へ半目を向けた秋穂はガレージから現れた車、トヨタ・FJクルーザーに乗り込むと案の定あったマニュアルシフトを見て嫌な顔をする。
「えー、私兄ちゃんほど運転できないよぉ?」
「良いのよ、まっすぐ目的地に向かわせられれば。ドリフトとかそんなの無しで良いから」
「うーん、分かった。じゃ、乗って乗って」
そう言ってドライバーシートに着いた秋穂はイグニッションを入れると助手席についた香美、後部座席についた咲耶を確認してクラッチペダルを踏むとミッションの一速にギアを入れながらエンジンの回転を上げ、ペダルを離した。
瞬間、タイヤを空転させながら加速したFJクルーザーの挙動を巧みなハンドル捌きで制御した秋穂は車両用の出入り口に向けて猪突、そのまま外に出て行く。
「あ、あなた! もうちょっと優しい運転をしなさい!」
「え、え~……私、習ってないし……」
「どこまで習ってないのよ!?」
言いながら秋穂がシフトアップした瞬間、そのショックで車体が大きく揺れる。
ショックで乱れた姿勢を何とか立て直した直後、経験から地面にある物に気づいた咲耶が秋穂が握っているハンドルを踵で弾いて思い切り左に切らせる。
雪の壁を削りながらカーブしたFJクルーザーは猛スピードから滑りやすい雪道で姿勢を崩された為に雪の塊に激突し、猛スピンしながら壁に激突し続けてそのままバンカーらしい廃墟の入り口に突っ込む。
「って坂道ぃいいい?!」
そのまま滑り落ちていくFJクルーザーはメインホールらしきエリアを数十メートル転がって停止し、上下反転した車両が天に向いた底面から黒煙を吐き出す。
脱出の為、落下と転がった勢いでフレームごと歪んでいた運転席を蹴破った秋穂は運転席から滑り出ると拳銃を抜き放って周囲を警戒して後部座席のドアを叩く。
「もしもーし。到着ですよぉ~う?」
軽い調子で言った秋穂は蹴破られたドアから飛び退くと、滑り出てきた咲耶のマジギレ寸前の顔を見て頬をヒクつかせた。
「到着ですよぉ~う、じゃないわよ。何で移動でジェットコースター気分味わわなきゃいけないのよ」
「えっへへ~ごめんごめん」
「で、あなたカミちゃんはどうしたのよ」
「あっ、といけない! そうだった」
「素で忘れてたのね……」
憂鬱な表情でため息を落とした咲耶は、新品の車両が散見するエリアを見回しながら入口らしき隔壁へ移動する自身の背後で救助作業に当たった秋穂を振り返る。
「カミちゃんの太ももぉおおおお!」
「馬鹿な事してないで早く連れて来なさい!」
気絶しているらしく、失禁したあとがあるタイツに包まれた香美の太ももに顔を埋めている秋穂に叱咤した咲耶は腰からバトルファンとG18を引き抜く。
肩に香美を担いできた秋穂ははぁはぁと不審な呼吸を繰り返しながら血走った眼をするのにため息を吐いた咲耶は折り畳んだファンで頭を殴った。
「痛い! 地味に痛いよそれ!」
「知ってるわよ、わざとなんだから」
「えぇ?!酷くないそれ?!」
「あなたがやろうとしてた事鑑みればマシよ、これでも。さて、お荷物はあるけど中には入れるわね?」
そう問いかけながら開閉スイッチを押した咲耶は轟音を上げながら開いていくハッチに向けてG18を構え、開き切るより早く静かに中へ入った。
例によって薄暗い施設内に入った咲耶はG18に取り付けているライトを点灯。周囲に巡らせつつ、背後にいる秋穂に追従のハンドサインを送って先行するとキャンプを張れそうな場所に移動する。
「取り敢えず、ここにカミちゃんを下ろしてちょうだいな。私が容態を見るから、あなたは周囲の警戒を」
「りょーかい」
そう言って香美を咲耶に任せた秋穂は右太ももに配置変更したホルスターからHK45を引き抜き、バッグから手持ち式のライトを取り出して居座っている階層の見回りを始めた。
順手で構えた秋穂は照らしている場所に銃口を向けて咄嗟に対応できる様に身構える。その体勢を維持する彼女が一歩を踏むたび、足元のガラス片が割れて軽快な音を立てる。
音で存在がばれるが、施設内部の陰湿な雰囲気にのまれてそれどころではない秋穂は滅茶苦茶に破壊された衝立で遮られていた箇所を除くと、手足を食いちぎられたまま風化したらしい死体を見て息を飲んだ。
(もう、何でこんなにホラーなのさ……)
世界設定上、致し方ないとは言えどこうも徹底した『社会崩壊後の地球』と言う雰囲気作りをされると流石に尻込みしてしまう。
(っと、アイテムボックスだ。拾っとこ)
外見が風化しているアイテムボックスを開けた秋穂は軋みを上げながら開くそれの中身を探る。
「回復アイテム、300発の弾薬……。口径は7.62mm? あ、これライフル弾じゃん。まあいいや、お土産にしとこ。で、えーっとこれは……あっ修復アンプル」
そう言って注射器を手に取った秋穂はバッグにしまうと周囲を探りながら立ち上がる。と、そのタイミングで通信が入る。
「ほい、アキホだよ」
『カミちゃんが起きたわ。戻ってらっしゃいな』
「うぃ、了解」
そう言って走り出した秋穂は雑にクリアリングしながら元の場所に戻ろうとして地下の入口らしき場所から聞こえてきた声に立ち止まると同時、顔を照らしてきた明かりに向けて銃口を向けた。
「銃を下ろし、腕を頭の後ろに当てろ! お前は包囲されている!」
フロアに響き渡る怒号、明かりで視界を遮られている秋穂は声と明かりの照射方向で位置を特定しながら言われた通りにしたと同時、膝の裏を蹴られ無理やり姿勢を落とされ背後から締め上げられた。
苦痛に歪む彼女の正面にリーダー格らしいバラクラバを被った男がしゃがみ込み、その手にナイフを手に取った。
「さて、お前、どうしてここにいる?」
「だ、ダンジョン探索」
「の割には随分と軽装じゃないか。パーティは? 仲間はいるのか?」
「い、いない。ソロだよ」
「ふむ、嘘をついているな」
そう言ってナイフの切っ先を顎に当てた男は恐怖を見せる秋穂に僅かにのぞける口元からニヤリと歪んだ笑みを見せ、少しずつナイフの刃を彼女の皮膚に食い込ませる。
息を飲む秋穂が目を閉じた瞬間。軽く連続した銃声がフロアに鳴り響き、その音に秋穂が目を開けた時、困惑する男は高速の勢いを乗せた咲耶の膝を顔面にめり込ませていた。
「て、敵襲!」
瞬間、拘束を振り解いた秋穂は驚くプレイヤーの首の骨を折ると腰のアークセイバーを逆手で引き抜き、順手に変えて構えた。
「騒がしいと思って来てみれば。あなたはトラブルに愛されてるのね」
「えっへへ~それほどでも」
「あのね。皮肉よ、これは」
呆れつつそう言った咲耶に嬉しそうな笑みを浮かべた秋穂はその隙を狙ってきた相手の一撃をセイバーの熱量でパーリング。
大きく開いた相手の胸へ反対のセイバーを突き出し、心臓を焼いて殺害。
絶命し崩れ落ちる相手から刃を抜いた秋穂は同時に攻めてきたファイターとリッパーの攻撃をほぼ同時に捌き続け、初心者らしく功に焦ったファイターが大振りの横薙ぎを構えた瞬間。
「ショートカット『ブリザード・ホパーク』!」
リッパーめがけて突進した秋穂がそう叫び、コールに応じて刃に乗った氷結の舞踏が彼女の周囲を線上に走る。同時に範囲から逃げていた咲耶が横薙ぎを外したファイターを秋穂のスキル射程内に蹴り飛ばす。
「二名様、ご案内~」
軽口を叩きつつ、二人のプレイヤーをバラバラにした秋穂はその間に暗闇から放たれた香美の銃撃と咲耶の斬撃で片付いたパーティの死体を足元に見ながら剣を収め要として咲耶に止められた。
「武器は収めないで。多分今ので気付かれてるから、強襲するわよ」
「おっけ。バッテリ入れ替えるから待って」
「ええ、カミちゃんが来るまでに終わらせてね」
そう言いながら階段があるらしい場所へ目を向けた咲耶は筒状になっているアークセイバーのカートリッジを交換している秋穂をカバーしながら後方で射撃支援をしていた香美を待つ。
マガジンを交換しながら走ってきた香美が合流、それよりも少し早く咲耶と秋穂は移動を開始し、下に降りる階段を駆け下りると曲がり角でいったん止まり、角で警戒しているらしい敵影を追いついた香美がスキャニングで確認する。
「コーナー先、敵影6、うち、モンスター4」
そう言って構える香美に頷いた咲耶は待ち伏せている人数に違和感を感じていた。プレイヤーが二人、総数が不明だが異様に数が少ない。対処するには易いが後が分からないと面倒だ。
だが、足止めを食らう方がもっと面倒だ。天秤にかけてそう判断した咲耶は“フラッシュクリア”のサインを二人へ出すと腰からフラッシュバンとナインバンカー《九連炸裂型閃光手榴弾》を取り出してピンを抜き、アンダースローで地面に転がした。
「フラッシュだ!」
叫び声の後、まばゆい閃光と若干光度の落ちた閃光が八連発炸裂する。
閃光が収まると同時にアークセイバーを発振した秋穂が飛び出し、爆圧で鼓膜を破られたらしく方向感覚を失っている子鬼型モンスターの首を連続で焼き切る。
宙を舞う生首が四つ地面に落ちる前に正面を向いた秋穂は、バリケードに備え付けられた軽機関銃を見ると銃座で失明して苦しんでいるらしいプレイヤーに挑みかかる。
「撃たれる前に斬る!」
左のアークセイバーを突き出しながら跳躍した秋穂は視界が回復したらしいプレイヤーが軽機関銃を持ち上げるのと同時に着地し、右のセイバーを振り下ろす。
振り下ろしを回避したプレイヤーは腰撃ちでMG36を発砲。Cマグと呼ばれるドラムマガジンから給弾された75発全てが秋穂に猪突するが50発が掠め、残る25発は大半が回転するアークセイバーに弾かれ、一部が足に当たる。
苦痛に表情を歪めた秋穂は前方向へロールしてベクトルを殺すと機関銃を捨て、ナイフを引き抜いて斬りかかってきたインファントリの横薙ぎを後方転回で回避し、上下反転状態から首を刈り取る。
着地と同時、長剣を振りかざしてきたファイターが秋穂の背後を取ろうと迫るが威嚇する様に目の前を過ぎた弾丸に足を竦ませる。
秋穂から離すように威嚇する射撃に気を取られ、側面を向いた彼はP90で狙撃する香美を見据えて拳銃を抜き放とうとした。が、その瞬間、彼の左肩に弾丸が直撃する。
その直後、バリケードの陰から現れた咲耶が腰からククリナイフを引き抜いて斬りかかり、それに驚いたファイターは高周波を発するナイフを右の長剣で受け止めた。
高周波機能を解放した長剣から散る火花越しに咲耶を睨むファイターは力任せに弾き飛ばすとその隙を埋める様に放たれたP90の射撃を剣で偏向したが背後から迫った秋穂に真っ二つにされた。
「ふいー何とかなったかなぁ」
「ええ、何とかね。さ、奥に進みましょう。まだ相手の本拠地は分かってないんだから」
「ういうい。了解だよん。じゃ、先行するね」
そう言ってハンドガンを引き抜いた秋穂はバリケードの先にある階段を降り、踊り場で安全を確保すると追いついてきた咲耶と共に香美を待つ。
リロードしながら追いついた香美を見た秋穂は右手にHK45を引き抜くとそのまま走り出し、案の定バリケードを張り、二人体制で待ち伏せしていた相手に向けて突進していく。
「う、撃て!」
軽機関銃が唸りを上げ、弾幕が展開されるがそれを見越して左手にアークセイバーを引き抜いていた秋穂は高熱の刃で偏向するとバリケードを飛び蹴りで破砕し、二人を切り裂くとその先にある大きな扉に近付いた。
「およ、ここかな?」
「ま、待ちなさいな……あなた進むの速いのよ」
「あ、あっはは~ごめんごめん」
能天気に笑う秋穂を他所に呼吸を整えている咲耶は背後で苦しい息をする香美にスキャニングを指示する。コンソールを操作し、スキャニングを掛けた香美は表示不能と出てきた事に驚いた。
「す、スキャンできない……? どうして?!」
「構わないわ。カミちゃん、強行突破するからブリーチングボムを仕掛けてちょうだい」
「りょ、了解です」
そう言って香美は分厚そうなドアに爆弾を仕掛けると秋穂の背後に回り、咲耶と彼女にアイコンタクトを取ってドアを爆破した。
瞬間、秋穂が飛び出し、手前にいた敵を切断する。そして、その背後からカバーリングで飛び出した咲耶と香美が残る敵全てを排除し、場所の確保を終える。
と、そのタイミングで咲耶の方に通信が入る。隼人からだ。
「あら、後輩君。どうしたの?」
『アンタ今どこにいる?!』
「え、ダンジョンの中だけど」
言いながら部屋の奥の方に移動していった秋穂達二人を目で追った咲耶は彼女たちがアイテムボックス型の物体に近づき、開けようとして敵の意図を悟った。
『早く出てこい! モウロが襲撃を受けて―――』
「その箱を開けてはダメ!」
咲耶がそう叫んだ瞬間、半開きのアイテムボックスの隙間から赤い光ががちかちかと瞬き、慌てて逃げた二人の背後で爆発し爆発を受けて意識朦朧となる咲耶の目の前で轟音を上げて部屋が崩落した。
やっとできた……。
遅くなってすいません。さあ、そろそろパワーアップフラグです