キリト君と隼人が何の脈絡のなく戦うお話です。
うん、そう。書きたかっただけ。
ケリュケイオンとSAOのクロスSS書いてもいいんですけどね。
番外編『VS黒の剣士』
番外編『黒の剣士』
五月、PK事件より二日後。BOOにてアイテム補充をしていた隼人に擬似HMDモードを起動したファンシアがSNLからのメールを受信した事を知らせる。
アイラン市場を歩く足を止め、すぐにメールを確認した隼人は文字化けしているそれに気付く。
「何だ、これ・・・」
件名は無し。加えて文字化けだらけで内容が分からず、隼人は戸惑う。だが、辛うじてこう書いてあった。
「キリト・・・?」
直後、目の前に一人の少年が立っているのに気づく。黒尽くめの服装に黒の剣を背負った彼が周囲に視線を巡らせ、それを隼人のみに絞ったのを見るや否や周囲の時間が停止する。
驚愕する隼人を他所に少年は剣を抜いて歩み寄ってくる。突然の事態に状況が理解できない隼人は接近された分、後ずさる事しか出来なかった。
「なあ、アンタ」
「何だ?」
「デュエルしないか?」
ユラリ、と少年の体を揺れる。まずい、そう判断した隼人の目が駆け寄ってきた少年を捉える。少年は黒の剣を振り下ろし、反応した隼人は少年の真横に回りこんでバックステップする。
逃げなければ、そう考えた彼の頭にそれを拒否する思考が浮かんできた。逃げるな、戦え。そうすればこの地獄から開放される。そう命じられた体が足を止め、少年と向き合う。
「お前、何者だ」
「俺の名はキリト。お前は?」
「俺の名はハヤトだ。まあ挨拶はそれ位で良いだろう」
そう言って拳を構えた隼人は剣を構えた少年、キリトと向き合う。恐らくお互いに置かれている状況は同じ、だからこその真剣勝負。瞬間、キリトが仕掛ける。横薙ぎに振るわれた剣、それを小手で受けた隼人は
重い一撃で弾かれたガードに驚き、後退りながら蹴りを繰り出す。
顎を狙った一撃、だがそれは当たらずサマーソルトの動きで隼人は一回転し、着地する。直後、キリトが横にした剣を引いて突きを構える。その切っ先が届くより早く隼人は跳躍、繰り出されたヴォーパルストライクは
隼人の足元を掠める。
そのまま隼人はキリトの肩を踏んで跳躍し、反転しながら着地する。そして踵に仕込まれた炸薬を撃発させてパイルを射出、加速の勢いとしてキリトに迫る。対するキリトはスキル後の硬直と突進の慣性を
打ち消し切れずにつんのめる。
その間に迫る隼人はキリトの背面に新たな鞘が現れているのに気付いた。豪奢な飾り付けがなされたそれは左手に引き抜かれて金色の刃を露に隼人の拳を受け止め、弾き飛ばした。勢いを後ろ向きに下がった隼人は拳を構え直す。
「チィッ、お前・・・・二剣使いか」
「そっちこそ、モンクなんて珍しいな。戦ったことが無い」
「だろうな、間合いじゃそっちが有利だ。だがな!!」
瞬間、隼人は地面を蹴ってキリトに迫る。金の剣と黒の剣、見た目からして装飾分僅かに金の方が重いと見積もった隼人は迎撃の為に迫るそれの軌道、左上方から右斜め下に打ち下ろす軌道をイメージとして浮かび上がらせて
軌道の死角へかつて最高の反応速度を誇った黒の剣士の視認レスポンスをも超えるほどの速度で体を動かす。
常人であるならば一瞬消えたと誤認するほどの瞬発力、それこそ剣の間合いをも詰めるインレンジ戦闘を常とするモンク系統が発揮しえる本来のポテンシャルだ。
「ショートカット『鎧通し』ッ!」
捻った体を返す振り子運動のエネルギーも相乗したスキルの一撃。その今までに無いスキルの存在に驚愕するキリトだったが咄嗟に交差させた剣の腹に拳がぶち当たった事で弾き飛ばされるだけですんだ。
地面を蹴り、再び迫る隼人は目の前に走った剣の軌跡に咄嗟にガードを上げるが自身が持つ速度を打ち消せず軌跡に飛び込む形で三連続の攻撃を受けた。片手剣三連撃ソードスキル『シャープネイル』の攻撃を初撃を中段、
二撃目が下段に三撃目が上段に叩き込まれた為にガードを無視された隼人のHPは既に四割消し飛ばされていた。
上段の一閃で真横に吹っ飛ばされた隼人は右頬を抉られた様な切り傷を親指で詰りながら口腔に溜まった擬似的な血液を吐き出し、口元を拭って呼吸を整える。構えを直し、キリトを見つめる。相手にとって自分の一撃がどうなるのかは分からない。
だが、わかっている事が一つある。ヤツの一撃を貰えば終わる、ただそれだけだ。
隼人が動くよりも先にキリトが仕掛けた。剣を翼の様に構えて迫る彼に反応した隼人は炎を纏った剣が迫るのを片手とHP一割を犠牲に捌き切り、外側へ僅かに弾くと握った左拳をキリトの腹にぶち込む。
「が・・・ッ!」
アッパーカット気味の一撃が突き刺さり、キリトが苦悶を上げる。吹っ飛ばされた彼を追う隼人は片足を振り上げてキリトを睨み下ろしながら足を振り下ろす。
「ショートカット! 『レッグストライク』ッ!!」
必殺の踵落としが腹に突き刺さり、地面に叩きつけられたキリトの体がバウンドする。着地した隼人はよろめきながら立ち上がる彼に驚愕し、そしてその隙に入り込まれた。
「ウォオオオオオッ!!」
叫び、キリトは右手に持ち替えた金色の剣を振り上げる。集中力を全開にした隼人の視界では金の刃が段々と青白い光を纏っている最中だった。咄嗟にガードを上げた隼人は加速した一閃に弾かれてしまい、束の間彼の体ががら空きとなる。
だが打ち合っていた経験から衝撃をうまく受け流していた隼人は二撃、三撃を両手で弾く。だが剣は動かず、逆に刃に触れた体が吹き飛ばされていた。回避するしかない、キリトが追い付くまでの刹那にそう判断した隼人は
迫る金の刃を目前一寸の所で回避、続く攻撃をS字軌道に連続させたバックステップで避ける。
瞬間、刃に乗っていたエフェクトが消える。隼人は直後に感じた冷たい殺気に動かされてその場を飛び退くと黒の刃に炎が纏わりついていた。空気の焼ける感触に冷や汗をかいた彼は十字を切る様に走った剣閃から逃れる。
(コイツ何をした!? チッ、これじゃ迂闊に寄れない!)
恐らくスキル攻撃を連発しているのだろうキリトの攻撃によって隼人は自らの得意レンジに収める事が出来ない。剣よりも内側に有効射程を取る拳では攻撃が出来ないのだ。
「こうなれば一山ッ!! ショートカット、『ラピッドステップ』ッ!!」
くの字軌道で剣戟の合間に飛び込んだ隼人の次撃は振り子運動で放つ拳の一撃、対しキリトはスキル発動中の剣で受けた。切断される腕、真正面からの打ち合いに極端に弱い拳では当然の結果だった。
「ッ、のぉおおおお!!」
奥義系スキルの視線選択、しまったと思った時には既に遅かった。動揺そのまま隼人は拳に宿らせたスキルを黒の剣からスキルを繋いだ金の剣にぶつけた。激突、両者を隔てる様に走る衝撃波と共に金の剣が吹き飛び、
フック気味の拳に引っ張られた彼の姿勢が崩れ、衝撃波で自滅していた隼人は黒の剣に仮想の命を刈り取られた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
薄暗い部屋の中で彼は飛び起きた。目元からVRモードになっていたデバイスが滑り落ち、汗だくの彼から雫が落ちる。久しぶりの激闘に、体まで反応していたらしい。深く息をついた隼人は小型の冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出して
一気に飲むと再び息をついた。
デバイスをスタンドモードにした隼人はログイン制限が掛けられた状態である事を確認してからベッドに腰掛ける。久しぶりの強制ログアウト、数えるほどしか経験していないそれにされるほどの実力者に自分はぶち当たってしまった。
「黒の剣士、キリト・・・か」
数奇な事もあるものだ、と思いながら隼人は残りを飲み干す。家に誰もいない事が幸いした。こんな姿を見られれば何と言われるか分からない。誰かが来る前に着替えようと動いた隼人は、デバイスを放置して元の日常に戻っていった。
※ネタバレ注意
今回対戦したキリト君のデータはマザーズロザリオ戦準拠です。
つまり作中出てきた金の剣はエクスキャリバーなんです。
選考基準は気分ですが書いてる途中でSAOの方がよかったと後悔。
で、まさかの隼人敗北で終わりましたが彼単体の実力は大体こんな感じです。一撃死とかは大体急所を狙って攻撃してるからで素の攻撃力はレベリングしてる人の方が高かったりします。