B.O.O.《ブラストオフ・オンライン》   作:Sence023

6 / 46
Blast2-2

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 翌日、ホームルーム教室。いつもの八人が集まる中隼人はじゃれ合う楓達を前に、困り果てていた。

 

「でへへー恋ちゃーん。相変わらずの巨乳ですなぁ」

 

「も、揉まないでよ変態ッ!」

 

「何でさぁ、恋ちゃんはブカブカの服着てるの? 少しぐらいボディライン出ても良いじゃん」

 

「そ、そう言うの嫌なのよっボディライン出たら目線が・・・その、来るから」

 

「ふーん、そうかなぁ」

 

 頭の後ろで手を組んだ楓を他所に隼人の方を見ながら恥ずかしそうに体をくねらせる恋歌は困った顔の彼の側に席を寄せ、彼の体に隠れた。

 

「好かれてるねぇ、隼人っち」

 

「どうしてこうくっ付きたがるんだコイツは」

 

「んーお兄ちゃんみたいだからとか?」

 

「妹はアイツ一人で充分だよ。ったく、おい恋歌」

 

 ニヤニヤと笑う楓を横目に脇に潜り込んでいる恋歌を引っ張り出した隼人はブカブカのカーディガンの袖ではたかれた。

 

「痛って。っておいコラ、引っ付くなって!」

 

「やー」

 

「子供かッ!! 幼児退行でも起こしてんのかお前は!!」

 

 怒りながら襟を引っ張る隼人は意地になってくっ付く恋歌に折れてそのまま放置した。

 

「あはは、隼人っちまーけた」

 

「一緒になって暴れたら、恥ずかしいだろ」

 

「いやぁ隼人っちは充分子供っぽいけどなぁ~」

 

「どこがだよ」

 

「そー言う所ー」

 

 にゃははと笑う楓に顔を赤らめてそっぽを向いた隼人は意外そうに見てくる夏輝に不機嫌そうな視線を向け、ふてくされた表情のままそっぽを向いた。

 

「で、でも恋歌ちゃんには案外そう言う人の方が相性が良いのかも知れませんね」

 

「・・・と言うか、恋歌は隼人に依存しすぎ」

 

 フォローする夏輝の言葉に続けてそう言った加奈は恨みがましげに見てくる恋歌を睨み返したが、まあまあ、と諫めにきた浩太朗に大人しく引き下がった。

 

「つーか、加奈っちも浩ちゃんに依存しすぎじゃない・・・?」

 

「私は別」

 

「我が道行くねぇ・・・」

 

 おおぅ、と引き気味に言った楓は話を振って欲しそうな夏輝に視線を向ける。

 

「で、なっちゃんはとっしーの事どう思ってるの?」

 

「ほ、本人を前にしてそれはちょっと・・・」

 

「乙女だねぇ・・・」

 

 話振っただけ損じゃね、と思っていた楓はもじもじしている夏輝から武と雑談中の利也に視線を変える。

 

「ねえねえとっしー」

 

「ん? 何?」

 

「とっしーはなっちゃんの事どう思ってるの?」

 

「ノーコメントで」

 

「えー」

 

 不満そうに口をとんがらせる楓に苦笑した利也は仏頂面を貼り付けた隼人に懐から取り出したメモリーカードを手渡した。無言の頷きの後、隠し持っている端末に

カードを挿入した隼人は読み込まれたデータに目を通した。

 

「ん、悪いな利也。また、残業を頼んでしまって」

 

「大丈夫だよ。そんなの研究の片手間みたいなものだから」

 

「また何か思いついたのか」

 

「まあね、でも新しいことは試してみるに限るから」

 

「俺の方も・・・うまく行けば、また新しい作戦ファイルを作る事になりそうだけどな」

 

「あはは、そうなったらいつでもウチにおいでよ」

 

 狙撃監視と自分たちが集めたデータ、そして夏輝が持ち帰ったグローブスティンガー本部への報告書と届出。生のデータとそれらを照合して簡易化した範囲図が

カードには記録されていた。

 

 そして、メモリーカードには敵の編成が細かく書かれており、辛うじて読み取れたフォーメーションも同様に記録されていた。

 

「敵の編成、捕縛した奴を除けばやけに上級職が多いな」

 

「・・・確かに。一部を除いて上級職だね」

 

「もしかして・・・上級職のプレイヤー達がPKグループじゃないのか?」

 

「その可能性はあるけど・・・でも、どうして相手は上級職なのにPKをする必要があるんだい?」

 

「経験値じゃない、物盗りでもない。だとすれば何か、か」

 

 まるで掴めない相手の実態にしばし考え込んでいた隼人は端末でブラウザーを開いた利也に検索を任せて自分は推理に入った。

 

 今、自分達が相手にしているのはどんな奴等か。相手は次に何の手を打ってくるのか。脳裏に浮かぶ質疑応答を繰り返し、狙いを定めようとしていく。

 

 何故彼らはあんなにも計画的だったのか。グループでもない物が何故移動の段階で一つの所へ向かえるのか。それらを解決するとしたら何が好ましいか。

 

 参加者を募りやすく、尚且つ匿名性がある物。ニックネームや何かしらの偽名が使われてもおかしくない連絡手段。それもインターネット上で。

 

「・・・利也」

 

 やがて一つの可能性を思いついた隼人は検索作業中の利也を呼び止める。

 

「BOO関連のネット掲示板に妙な物が無いか探してくれ」

 

「ネット掲示板・・・?」

 

「ああ。多分アイツ等の連絡手段はゲームのチャットではなくインターネット上にあるトークツールだ」

 

「トークツール・・・だからネット掲示板ってこと?」

 

「そうだ。敵の穴蔵を見つけて掘り出せば一気にカタを付けることが出来るかも知れんぞ」

 

 平常心でそう言いつつも内心面倒な依頼から開放される事実に喜んでいた隼人は直感に響いた嫌な感じを握りつぶした。タッチパネル式のポータブルキーボードを

操作して検索エンジンにワードを打ち込んだ利也は順次公開されるページの中から正確な物を選び出してクリックした。

 

「・・・これかな。『双葉高校サーバー:伯爵主催:グローブスティンガーへのPKメンバー募集スレ』」

 

「ああ。履歴を見る限り、このスレッドで間違いなさそうだな。しかしこの、伯爵という奴は誰なんだ・・・?」

 

「さあ、でもこの伯爵という人はリーダーみたいだよ。ほら」

 

 利也に指示された方向を見た隼人は伯爵というハンドルネームの人物が書き込んだ襲撃計画の綿密さに舌を巻いた。

 

「異様に細かいな。しかも同時に、複数」

 

「うん。でも、何が狙いなんだろうこの計画」

 

「他には無いか調べてみてくれ」

 

「分かった」

 

 検索を任せ、思考に耽った隼人の脳裏に数日前、別の高校の知り合いが言っていた同様のケースで行われたPK事件がよぎる。もし複数のスレッドがあれば、それは何か、大きな目的があるのではないのか。

 

 今までとは違う、何か大きな。踏み出しては行けないと訴える理性を押さえつけた隼人は利也が見つけたスレッドを閲覧、スクロールで襲撃計画の詳細を確認していく。

 

「こっちの襲撃グループはP.C.K.Tを狙ってるみたいだね」

 

 利也が見せた画面には別の人物らしい誰かが、双葉高校サーバー領土保有数第一位のグループ『P.C.K.T』への襲撃を指示するスレッドを立てて事の詳細を書き込んでいた。

 

「これはゼルリット」

 

 見せられる画面のスレッドにはまた別の人物が書いた首都や重要拠点へのピンポイント攻撃のスレッドがあり、詳細を読めばどうやら集められた人々の活動場所も限定されている様だった。

 

「こっちはファイブフォーエバー」

 

 四つ目に差し掛かれば共通する部分も増え、二人はスレッドに書き込まれた作戦は土地にあった襲撃方法であると言う共通点を見つけた。

 

「ストームバンガードにトーネードストライダまで・・・これ、双葉高校サーバ内の攻略組全てじゃないか」

 

「となると。利也、これは厄介な事になるぞ・・・俺たちが首を突っ込んだこの事件。これから大きくなる」

 

「まさか、彼等は・・・PKを通して攻略組に混乱を与えようとしているのかい?」

 

「まず間違いないだろうな・・・しかし、ここで目の前にある仕事を放り投げるのはお門違いだ」

 

「じゃあ、当面のターゲットは伯爵になるのかい?」

 

 疑問を投げてきた利也に首肯した隼人はふと妙な視線を感じて振り返るとドアの方で何やら話し込んでいるらしい男子二人が見えた。彼らはこちらの事など気にも留めず、武に当面のプランを相談し始めた利也へ視線を戻した。

 

「全員。とりあえず、放課後。一旦部室に集まって今後の事を考えるぞ」

 

『了解』

 

 半ば無意識的に次のプランを考え、全員に伝えた隼人は了承の返答を返した全員に無表情を返した。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 放課後、予告通りに部室で作戦会議が執り行われて当面の方針「『伯爵』を名乗る人物の発見」が隼人達の間で合意された事で即刻解散となった。

 

 その帰り道、恋歌と並んで帰っていた隼人は行きつけのコンビニに立ち寄り、習慣になった奢りじゃんけんで敗北し、結果恋歌にパンとミルクティーを奢ると自宅への帰り道に戻る。

 

「えへへ~悪いわね、隼人」

 

「それはどうでも良いけどさ・・・美味いのかそれ。たこ焼きパン」

 

「意外とイケるわよ。食べてみる?」

 

 そう言って恋歌から齧った後を先にしたたこ焼きパンが差し出され、一旦の躊躇の後に一口食べた隼人は偶然タコに当たり、生地を咀嚼しながらたこを口にいれた。

 

 名残惜しそうに見てくる恋歌に子供っぽさを感じつつ、口一杯に広がるミスマッチ感も混ぜて複雑な表情を浮かべた隼人は雑誌と一緒に買った缶コーヒーで上書きし、敢えて言及せずに雑誌を開いた。

 

「ちょっと、感想は?」

 

「言わなきゃダメか?」

 

「言い出しっぺはアンタでしょうが。ほら早く」

 

「ビミョーじゃねえか?」

 

「美味しいわよっこの味覚障害っ」

 

 膨れっ面の恋歌に溜め息を落とした隼人はコンビニで買ったバイク雑誌を開きながら嬉しそうにたこ焼きパンを頬張る彼女の横顔を見た。

 

 雑誌に隠す様な形で見ていた彼は帰ってする事を頭の中に浮かべながら雑誌をめくる。いかにAR技術が進歩しようともそれらが他の技術を変えるには至ってはいなかった。

 

 VR及びARと言う夢の技術が実現した今でも自動車産業業界は次世代の動力源を統一するには至らず、電気自動車(EV)、PHV(プラグイン・ハイブリッド)、ガソリン、

水素、ディーゼルと乱立する様になった。

 

 しかし本格的な石油枯渇時代に突入したこの時代において、純粋なガソリン車は最早マニア向けとも言われている有様だった。

 

「そう言えばさ、隼人。アンタあのバイク下取りに出していい加減EC(エレクトリック・サイクル:電気二輪車)買いなさいよ」

 

 口を尖がらせて言う恋歌の言葉は学校に内緒で免許を取得し、親名義のガソリンバイクを使用している隼人にとってとてもとても辛辣だった。

 

「いやな、俺はどうもあの静寂さが苦手でな・・・。ガソリンバイクの方が良いんだよ。乗り心地良いから」

 

「ふーん・・・変わってるわね、アンタ。普通の人はそう言わないわよ?」

 

「別に構わねえよ」

 

 そう言ってバイク雑誌に視線を戻す隼人は僅かな笑みを浮かべながら覗き込んでくる恋歌に気付くと彼女の頭に手を置いて視線を逸らす様に押さえ付け、彼女の視線を強制的に遮断した。

 

 女の子との付き合いがあまり得意ではない隼人は容姿は抜群に可愛い彼女に数十秒見られることをあまり好んではいなかった。理由としてはそう言った好意を意識する事による心臓の鼓動と顔の火照りが自分では失くしていくかもしれないと思っているからである。

 

「何すんのよド変態!!」

 

 苛立つ恋歌の怒号と共に脛を蹴られた隼人はジンジンと痛むそれを押さえ、視線で彼女に抗議した。

 

「い、いつまでも人の頭押さえてるからでしょ!」

 

 恥ずかしげな恋歌の表情は何時になく嬉しそうであった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 同時刻―――――ブラスト・オフ・オンライン:双葉高校サーバー内:アイラン領内

 

 移籍プレイヤーが集うエリアを離れた一人の剣士は後ろから付いてくるローブの男に意識を向け、遠距離護身用に所持している拳銃に手を添えた。

 

 剣士の耳にも近頃流行っているPKの事は入っていた。よもや襲われるのではと危惧していた剣士は斜めになった窓ガラス越しに男の動きを見て取り、ローブから取り出された長銃身を見た彼は急ぎ振り返って射撃した。

 

 マスタリースキルを持たない剣士にとっての拳銃は元々は剣の間合いまで距離を詰める為の物でダメージソースでは無く、高レベルプレイヤーである男の末端箇所に当たった所で大したダメージにはなっていなかった。

 

 だが、BOOにおいて飛翔物とはかなりの影響力を持っており、大丈夫と分かっていても食らい続ければ多少の動揺が生じる。そのセオリーに従って連射した彼は動揺など微塵も感じない男に驚いた。

 

 しかし既に剣士のレンジに入っている男は振りかぶられた片手剣のスキルによってキルされるのを待つだけだ。そう思っていたのが彼によっての致命傷だった。

 

「な・・・ショットガン、だと?!」

 

 先ほどの長銃身の正体はレミントン『M870』ポンプアクションショットガン。故に剣士の驚愕は一塩だった。ショットガンは近接戦用の銃である為、BOOでは基本的に散弾が装填されている(別の弾もあるが基本的に使用されない)。

 

 散弾の利点とはすなわち有効範囲の広さにある。空間に多粒弾がばら撒かれた際の有効範囲は屈指の広さを誇り、至近距離であれば全弾回避は不可能である。

 

「クソっ!!」

 

 毒づき、散弾で上半身を吹き飛ばされた剣士にローブの男は片頬を笑みに変える。男の口から卑屈な笑みがこみ上げ、グリップ操作による装填動作で排出された

リムが空虚な音を立てて地を転がる。

 

 キルした剣士は男が“担当”しているグローブスティンガーの中でも屈指の腕を持つ存在だ。彼がキルされたとなればヘビープレイヤー達は大騒ぎになるだろう。

 

 いずれ男の正体が割り出され、キルされる時が来るだろうがその時は討伐隊が壊滅する時である。理由としては彼を含めた“グループ”全体のレベルが高く、生半可なプレイヤーでは倒せもしないからだ。

 

 それだけの自信が彼にはあった。このBOOを居場所とし、その時間の多くを捧げてきた彼らだからこそこのゲームに勝つ自信があり、それらがこの世界を自分達の真の居場所とする事を決意させたのだった。

 

「ここが楽園となる日は近い。この世界が自分達の現実となる、楽園の日は」

 

 そう言った男は手元に表示させたセアカコケグモのエンブレムを睨み、不愉快そうにウィンドウを消した。最近になって調査を始めたと言う情報屋グループのそれは彼にとって計画遂行を妨げる障害でしかなかった。

 

「楽園の成立を阻むクズ共が。この私、『伯爵』が自らの手で直に鉄槌を下してくれる」

 

 ククク、と含み笑いを漏らした男は拳を握って近場の壁に叩きつけた。その瞳には激しい憎悪が渦巻き、自分を現実に引き戻そうとする者たちへの激しい憤りが

滲み出ていた。

 

 と、その時。男宛のボイスチャットが届き、それを受けた彼は件のグループのメンバーが見つかったという報を受け、ショットガンをリロードしながら目撃情報の

位置へと移動を始めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。