B.O.O.《ブラストオフ・オンライン》   作:Sence023

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更新に時間がかかってしまいました・・・。
今回は日常回です。普段の彼らの様子をお楽しみ下さい。



Blast3-1

Blast3『Without haste, but without rest.《急がずに、だが休まずに。》 』

 

 激戦から翌日、襲われてもなお懲りずにログインしていた隼人は伯爵と呼ばれる人物に関する情報収集を打ち切り、伯爵撃破の為、恋歌と共にアイランの訓練場にこもっていた。

 

「準備良いか、レンレン」

 

「何時でも良いわよ、ハヤト」

 

 久し振りの恋歌との組み手。デュエルと言う決闘方式での訓練に挑んだ彼は、拳銃を引き抜いた恋歌に向けて構えると呼吸法を変えて彼女を睨み据える。

 

 獣の様な獰猛な目をした彼は、片手で拳銃を構える彼女が後ろに引いたのを合図に飛び込んだ。

 

 一歩行動が遅れた恋歌からロックオン警報が鳴るが、もう遅い。一歩を踏み締めた彼の右腕が音速で空間を走る。

 

 だが、彼の得手を掴んでいた恋歌は上体を逸らしてバネとし、跳ね上がるも走った一撃の余波を受ける。

 

 だが、強力な一撃を受ける事は無く隼人の右腕に着地した彼女は彼の頬にローキックを打ち込む。だが、衝撃の瞬間に腕を下ろした彼は威力を減衰させる事に成功し、弱まった一撃を受けて若干よろける。

 

 地面に投げ出され、転がった恋歌は隼人が拳を振り上げた瞬間に手にしたHK45自動拳銃を射撃して彼を怯ませた。

 

 魔法職以外には装備制限が無い拳銃だが、マスタリーによる威力補正が無い為、威力に乏しい。

 

 だが、叩き付けられる鉛の礫は数値として発揮する威力以上の効果を隼人にもたらしていた。射撃する度に散るエフェクトの火花が隼人の視界を埋め、交差した腕に直撃する45口径弾が直撃を受ける彼の精神を削っていく。

 

 それで隙を作った恋歌は発動した蹴り技でハヤトを吹き飛ばす。腹へ直撃した一撃に堪らず体を折った彼は道場の壁に叩きつけられ、見物していたギャラリーが慌てて逃げていく。

 

「ゲホッ・・・相変わらずバカみてェな威力だな・・・」

 

「五月蝿いバカッ!! ショートカット、『蹴撃・円牙』!!」

 

「ぐっ・・・!!」

 

 交差した腕で受けた大鎌軌道の一撃。両腕に付けられたモンク系専用の武器、フィジカルアッパープレートの表面から凄まじい量の火花が散る。

 

 それは恋歌が持つプレイヤースキル、拳を得手とする隼人とは別アプローチのスキル、蹴りがもたらした結果である。

 

 現実でも彼女は類稀なる脚力を生かした蹴り技を得意とし、それに特化すべく隼人が通っていた道場で蹴り技だけを学んだ。

 

 無論、拳を使った技術も学んだが、彼女自身の腕力がそれに追いつけず、知識に留まる結果となった。

 

 最大強化の蹴りスキル『蹴撃・円牙』は、マスタリーで6倍に強化された通常攻撃力に6倍の強化係数を累乗してダメージを算出する。防御しても当たれば無事ですむ事は無く、壁にめり込んだ彼は大きく削れたHPに瞠目した。

 

 元々隼人の防御力は高くない。と言うより彼と恋歌が属するモンク系戦闘職は、軽装による速度を生かした回避率重視のクラスである為に防御力を高める事が出来ない。故に正面から受ける攻撃一つ一つが彼らにとっては致命傷になる。

 

「ショートカット、『ブリッツスマッシュ』!!」

 

 ガードを広げて恋歌の足を弾いた隼人は、右拳にスキルの強化を宿らせて振り上げた。アッパーとフックの中間位置を振り抜くスマッシュは直撃時、相手を一定時間行動不能にする『怯み』を与える。

 

 隙を作り返した隼人は、軽量級故に宙に浮いた恋歌の体へストレートを叩き込むと吹っ飛ぶ彼女との距離を詰めるべく走り出す。

 

 いかに彼が近接能力で勝っていようと彼女が拳以上の射程を持つ拳銃を持っている以上、距離を置かれると一気に不利になる。

 

 遠距離武器全般が苦手な隼人は拳銃を持つ相手との戦績が悪い。勝てなくは無いが距離を取られると一方的に攻撃される事になり、勝ち目が無くなってしまう。

 

 それは、相手の手から銃を奪うまでの苦戦が長ければ長いほど、自分の勝機は薄くなるという事を表していた。

 

「ショートカット、『メテオストライク』ッ!!」

 

 彼の接近よりも早く横方向の飛び蹴りを叩き込んだ恋歌は吹っ飛ぶ隼人へ拳銃の銃口を向ける。だが、それよりも早く復帰した彼は回避機動を取って銃弾を回避する。

 

 拳銃は銃の中でも比較的近距離で威力を発揮する武器、無論それは弾丸の威力、射程そして効果。それらを統合した上での結論だ。

 

 やがて弾倉に収められていた弾丸全てが射出され、HK45の動きが止まる。恋歌は冷静にマガジンを落とし、代わりの物を取り出そうとして隼人の突撃を受ける。

 

 一般にリロードと称される行動は射撃を止めて行う為、無計画なリロードは近接職の接近のチャンスだ。但し、相手が近接戦を得意とする者でなければ、だが。

 

「な、『ストライクキック』!?」

 

 飛び込んだ隼人の顔面に低空ジャンプからのスキル攻撃を叩き込んだ恋歌は薙ぎ倒した彼にリロードした銃口を突き付ける。いくら拳銃と言えど頭部へのダメージは即死レベルまでに倍加される。

 

 事実上の殺害を意味するその行為に諸手を上げた彼は得意気な表情の彼女を見上げた。

 

「ふっふーん。これで私に一勝が付いたわねぇハヤト」

 

「・・・俺の方がまだ二勝リードしてる。総合じゃお前に負けてない」

 

「むぅ・・・敗北くらい素直に認めなさいよっ」

 

 お前に言われたかねぇよと恋歌に突っ込んだ隼人はデータを取っていた利也達の方に戻ると回復用のハイポーションを飲んだ。

 

 ハイレベルな戦いを繰り広げた二人から距離を取っているギャラリーに視線を向けると始めたときよりも増えているそれにため息をついた。

 

「おい、タケシ。何か増えてないか」

 

「ん? まぁ派手に暴れてりゃ集まってくるだろ」

 

「・・・じゃあ、共有バンクに入金された金は何だよ」

 

「ん? 見物料」

 

「お前のせいか・・・!」

 

 利也の隣で入金管理をしている武の頭をどついた隼人は訓練場の床に顔面をめり込ませた彼に背を向けてポーションにストローを刺して恋歌に手渡した。

 

 薬品の味に思わず舌を出した恋歌は隼人にそれを突き返すと予備で用意されていた麦茶を飲み干した。

 

 運動系部活宜しくタンクに入れられているそれがコップに注がれ、並々入った物を飲み干した恋歌が勝ち誇った顔をする。

 

「私の方が早く飲んだから私に一勝」

 

「・・・ナツキ、俺に麦茶をくれ」

 

 勝ち誇る恋歌の表情に苛立った隼人はキャラクターの頭から生えた耳を寝かせた夏輝から麦茶入りのコップを受けとると一気に飲み干した。

 

「俺の方が早かった。俺の勝ち」

 

「むぅ・・・ナツキ! お茶! んぐっ。早かった!!」

 

「いいや、俺の方が早いな。お前の負けだ」

 

「違うもんっ私の方が早いもんっ」

 

「俺の方が早かった」

 

 仏頂面で言い張る隼人と、いやいやと首を振りながら喚く恋歌のやり取りを端から見ていた武は、隣に立つ楓に視線をやると相変わらず負けん気の強い二人の方に視線を戻す。

 

 治まる気配の無い言い合いにいい加減苛立ってきた武達は利也と加奈と浩太郎を除いた面々で二人の間に入った。

 

 当然不平不満を述べる恋歌と隼人の言葉を上手く抑えつつ、二人を分断した三人は至って冷静な利也達が苦労を労う目を向けてきたのに鋭い視線を返した。

 

「今回は恋歌ちゃんの作戦勝ちだね」

 

「おいおい、トシヤ。この状況で言うかよ普通」

 

「ま、事実は事実だから。正直にね」

 

「つーか、うちのリーダー様は何でそんなに勝ちに拘ってんだよ」

 

「恋歌ちゃんに良いとこ見せて頼られたいんでしょ?」

 

 間髪入れずズバッと言った利也の方を高速で振り向いた武は麦茶を噴出した隼人の方へ振り返り、むせている彼を白い目で見ながらニヤニヤと笑って隼人の背を擦っている浩太郎へ一度視線を向けると呼吸を整えた彼に視線を戻した。

 

「・・・マジかよ」

 

「そ、そんなんじゃねぇよッ!! アイツの勝ち誇った顔がムカつくから勝ちたいんだッ!!」

 

「そんな事言って俺んちでゲーム大会した時、恋歌が負けて泣いたらお前メチャクチャ焦ってたじゃねーか」

 

 半目を向けながらそう言った武は言葉に詰まる隼人が仏頂面でそっぽを向いたのにため息をつき、頭を掻いた。

 

 面倒臭い奴め、と内心で毒づいた武は恋歌の方を見てからもう一度溜め息をつき、仏頂面で顔を背けている隼人の方に向き直った。

 

「で、どーすんだよこれから」

 

「・・・俺はこのままログアウトする。今日はやる事があるしな」

 

「ああ、家の掃除か」

 

 合点がいったといった風情の武に頷いた隼人は、ゲーム内ウィンドウを呼び出してログインの準備をしていたがその背中を窺っている恋歌も同様にウィンドウを操作してタイミングを計っていた。

 

 ソワソワしている恋歌を遠目に見ていた武はじっと見ている加奈に気まずくなって浩太郎とその場を入れ代わった。

 

「よし、じゃあな武」

 

「おう、次何時来るよ?」

 

「あー・・・昼過ぎには来るよ。ちょっと試したい事があるしな」

 

「あいよ、じゃあな」

 

 ログアウトエフェクトと共に消えていった隼人に手を振った武は追ってログアウトして行った恋歌に苦笑を浮かべ、残った六人と共に後処理に入った。撤収していく人の中に誰か変な人物がいないかチェックしていた。

 

 腰に備えていた拳銃に手を伸ばす武は襲撃してくるような輩がいないと確認するや撤収の準備を始めた。と、その時突然拳銃を引き抜いた浩太郎に全員が目を見開き、それに構わず彼は一点を射撃する。

 

 消音機を外した射撃音が響き渡り、光学迷彩に包まれたアサシンが天井より落下する。腰から引き抜いたクナイを構えた浩太郎は入り口よりアサルトライフルを携えて接近してきたプレイヤーにクナイを投じる。

 

 そして、懐に飛び込もうとしていたアサシンへ足を振り上げて牽制する。

 

「コウ!」

 

 叫び、ガンブレードを引き抜いた武がアサシンに迫るがアサシンは身軽な動きで一閃を回避する。龍人と言う種族に設定された基本パラメータ故に武の動きは遅いものだった。

 

 三角飛びで接近したアサシンは夏輝目掛けて暗殺を繰り出す。が、その直前に間合いを詰めていた楓の一閃がアサシンの短剣を弾き飛ばし、後続の加奈にその動きを繋げる。

 

「暗殺・・・!」

 

 跳躍から顔面へ一突き。絶叫を迸らせ、アサシンはその姿をポリゴンエフェクトへ変貌させる。破裂した姿を残滓に着地した彼女は、接近していたインファントリの首を掻き切っていた浩太郎に目を向けると、血払いして鞘に収めた彼がにこやかな表情でこちらを見てくるのに頬を染めた。

 

「コウ。野郎がいるっての、よく分かったな」

 

「何時もの勘だよ」

 

「勘で何とかなる辺りお前ホントスゲーよな・・・」

 

 半目を向けてくる武に小首を傾げながら微笑を返した浩太郎は、撤収準備を終えた利也と夏輝を手伝い、荷物を持って訓練場を後にした。そして、宿で荷物を下ろした彼らは町の方でアイテムの補充に向かった。

 

 消費アイテムの補充はRPGに置いて必須とも言える行為だが、この行動を隼人や恋歌はあまり好んでおらず、余程の事にならない限り、町に出て買い集めたりはしなかった。

 

 デートっぽい事なのにな、と考えながら歩くのは夏輝と一緒に補充に向かっている利也で彼は購入する項目がかなりあった。

 

 先ずは回復アイテム。気を利かせている彼は何時も複数のアイテムを携行し、その都度使い分けている。故に買う物が多く、雑多である。

 

 帳面を書いている夏輝を横に消費アイテム専門の商人からアイテムを買った彼は、次の目的地に向かい、銃器を専門に扱う商人の店に向かった。

 

「お、いらっしゃい。新しいライフル入ってるよ」

 

「へぇ、アップデートで追加された対物狙撃銃かぁ。幾ら?」

 

「ざっと1千万クレジット、どう?」

 

「あはは、ローン組めたら今すぐにでも買うんだけど即金だからね、今日もマガジンだけにしとくよ」

 

「そう言うと思った。はい、メニュー」

 

 そう言って武器商人とは思えない小柄な女子は利也にマガジンのメニューを渡し、利也はそれらにチェックを入れていく。

 

 個数指定まで終えた彼は女子にメニューを渡すとサンプルとして渡された対物狙撃銃『OSV-96』を持ち上げて構えた。

 

 発砲と持ち出しの禁止設定が成されており、トリガーを引く事は出来ないがその重量を感じるには十分だった。

 

 ロシア製の対物ライフルであるOSV-96は使用する弾薬が同口径のバレットM82よりも強力な物を使う為、射程が長く貫徹力も強いと言う特徴を持っている。だが、同時に反動も強い為、バイポットでの使用が前提となる。

 

 それよりも、と利也は周囲を警戒する。先ほどの襲撃が自分達を狙った物であるのだとすればまだ何かあるのかもしれない、と警戒してOSV-96を下ろした彼は棚に飾られた銃を見て回る夏輝に目を向けると興味深げな彼女の様子に苦笑していた。

 

 魔法系の職業は基本的に銃を装備する事は出来ないから興味を示した所で試しに持つ事も出来ない。だからこうして彼女は見ているだけに終始している。

 

「何か気になる物あったかい?」

 

「これ、かな」

 

「GAU-8『アヴェンジャー』・・・え、エグイもの見つけるね夏輝ちゃん」

 

「? どう言う事?」

 

「これは口径30mmのガトリング砲でね、本当は飛行機に積む物なんだよ」

 

 そう言ってつらつらと説明していく利也に相槌を返す夏輝は手持ち改造されたGAU-8を見つめる。

 

「30mmの弾って、掠る所か傍を過ぎただけで体がバラバラになるんだよ」

 

「え・・・」

 

「まあ、こんな大きくて重たいものは発砲時の反動が大き過ぎて撃てないんだけどね」

 

 あはは、と笑う利也に愛想笑いを返した夏輝は青ざめた表情でGAU-8を見つめた。

 

 と、その間にマガジンを取りに行った利也はOSV-96を返却すると頼んでいたマガジンを受け取り、代金を支払った。

 

 ウェストポーチ型のマジックバックにそれらを収めた彼は入り口で待っていた夏輝と合流し、街道を歩く。

 

 並んで歩きながらも手を繋ぐのが恥ずかしい二人は周囲の目を引くぐらいのトライを繰り返していた。

 

「おーい。トッシー、ナッチー」

 

 お互いの気心を察してようやく手を繋いだと同時にあだ名で呼ばれた二人は反射的に手を離してしまう。その様子をばっちり見ていた楓と武は状況を理解してその場を去っていこうとする。

 

「あ、ちょちょっと待って二人とも!! 何の用なの!?」

 

「いや、暇なら一緒に喫茶店で話でもしようぜってな。まぁ忙しそうだし俺らは俺らでどこか行くよ」

 

「別に忙しくないよ!」

 

 慌てる利也の後ろで物凄い速度の縦頷きをする夏輝を楓と一緒に半目で見た武はアイコンタクトで相談し、とりあえず連れて行く事にして四人で移動を始めた。

 

 前に楓と武、後ろに利也と夏輝と言う組み合わせで歩き、前後で違う話をしていた。

 

「そう言えばカエデ」

 

「ん~? 何~?」

 

「お前さ、結構愛情表現薄いのな」

 

「な、何の事?」

 

「お前、俺の事気になってんじゃねえの?」

 

 どう言うと同時にアバターデータのオオカミの耳をぴんと伸ばして驚く楓に苦笑した武は後ろにいる利也達に目を向けると白くなりかけている楓に目を向ける。

 

 戸惑う彼女の頭に手を載せた武は苦笑を崩さずに優しく撫でると何処となく嬉しそうな楓が尻尾を振っているのに熱っぽい息をついた。

 

「で? 真相はどうなんだよ」

 

「え~っとねぇ、秘密・・・かな?」

 

「あいよ、じゃあそう言う事にしておくぜ」

 

 そう言って笑った武に満面の笑みを向けた楓は笑い合うお互いの表情が恥ずかしくなって咄嗟に顔を背けた。そして、その様子を後ろの二人も見ており、突然の事に目を白黒させるしかなかった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 一方その頃、ログアウトした隼人の家では。

 

「・・・何でお前ウチに来て掃除手伝ってんだよ」

 

「べ、別に良いでしょ!? 人手不足かもって思ってきたのに何よその態度!」

 

「別に家の掃除如きに人手なんかいらねぇよ。それよりも、物を落とすなよ」

 

 掃除機をかける隼人から顔を背け、頬を膨らませた恋歌は、小型で受話器が無線式になっている据え置き式電話が置かれたサイドボードを拭いていた。一所懸命に掃除している彼女は時折、隼人の方を見ては恥ずかしさから視線を戻していた。

 

 隼人の方は時折感じる視線に恥ずかしくなり、顔を俯けて掃除機をかけていた。意識すまいとする彼らの様子を第三者が見れば鬱陶しく感じるだろう。

 

 元々人の機微に鋭い二人だが高ぶっている状態ではお互いの心境を推し測る事は到底無理だろう。

 

「・・・なぁ」

 

「な、何よ!?」

 

「昼飯、どうする?」

 

 掃除機を片付けながらの問いかけに驚きながら答えた恋歌は真っ白になる頭に何とか考えを浮かばせながら答えた。

 

「え、えっと・・・えと・・・ロコモコ・・・?」

 

「ハンバーグ作るのにどれだけ時間かかると思ってんだ」

 

「じゃ、じゃあうどんが良い、な」

 

「うどんかぁ・・・分かった。えーっと・・・うどんはっと・・・」

 

 そう言いながら台所に引っ込んでいった隼人を目で送った恋歌は鼓動の止まらない胸を押さえて熱っぽい溜め息を漏らした。

 

 隙すら見せてくれない彼にもどかしさを感じる彼女は、ふとサイドボードの上に置かれた写真を手に取り、そこに映っていた中学時代の自分と隼人を見つめた。

 

 少しだけ色あせている写真の中では自分達が少し緊張した面持ちで校門前に立つ写真を取られていた。その時の事を思い返していた恋歌は自分の人生にあり続ける隼人の存在に安心感を懐いていた。

 

 何時もの面々の中にあっても尚、自分の、自分だけのヒーローみたいな存在。その存在が自分の心の支えになっている自覚を持って彼女は写真を置いて隼人の所に走ると葱を切っていた彼へ体当たりする様に抱き付いた。

 

「あっぶねぇええええ!! 恋歌! 包丁使ってる時は抱き付くな!」

 

「ねえ、甘えて良い?」

 

「は?」

 

「甘えても言いのかって、聞いてんのよこの朴念仁ッ!」

 

「す、好きにしろよ。でも料理の邪魔だけはすんじゃねぇぞ」

 

 恥ずかしそうに包丁を取った隼人は背中に張り付く恋歌の胸の感触に体を強張らせ、葱が変な切れ方をした。身の危険を察して離そうとした彼は嬉しそうな彼女の表情を見て言い出せず作業を続けた。

 

 胸が変形する度に変な切り方をする隼人は所謂ロリ巨乳の部類に入る恋歌のプロポーションを頭に過ぎらせ、慌てて頭を振り、心を落ち着けようと無の領域に突入しようとした。その瞬間、大胸筋に触れた恋歌の指が

鍛え抜かれた彼の胸をなぞる。

 

 荒い息遣いも聞こえ始め、ますます落ち着かなくなった彼は背中からの涎を啜る音を聞いて作業を止めると残った葱を冷蔵庫に入れると乾麺タイプのうどんをゆで始めた。

 

 煮えている湯に麺を投入した隼人は背中によじ登った恋歌が自分の肩越しに湯の様子を見てるのに否が応でも気付いたが無視して指し水をした。

 

「おい、恋歌」

 

「何よ」

 

「見るなら普通に見ろ」

 

「見方ぐらい自分の好きにさせなさいよ」

 

「お前は良くても俺が良くねぇんだよッおらっ降りて見やがれ!」

 

「ら、乱暴しないでよっ。や、止めなさいって!! キャーッ!」

 

「強情な奴だな、抵抗するなよオイッ」

 

 そう言いながら抱っこ体勢に変えて床に寝かせる様にして恋歌を下ろした隼人は寝かせると同時に開いた扉にハッとなって顔を挙げる。

 

 彼の視線の先、一緒に帰ってきた父親と母親、妹に顔色を真っ青にして恋歌から離れようとしたが彼女が抱っこ体勢の時に足を絡めていたが為に恋歌ごと起き上がった。

 

「な、何してんのアンタ!!」

 

「ちょ、ちょっと待てお袋!! これはそのっ」

 

「恋歌ちゃん傷物にしたの!?」

 

「してねぇ! 絶対にしてねえ!!」

 

「責任とって結婚しなさいよ?!」

 

 最終的に笑いながら言ってきた母親にがっくりと膝を折った隼人は、慰める様に撫でてきた恋歌に引き攣った笑みを返した。

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