すさまじい光量にカメラ越しの視界がホワイトアウトする。
「成功です」
シミュレーションが正しければ閃光の中心では数百万度に達する火球が化け物をすっぽりと覆っているはずである。
それはまともな物質であれば全てが蒸発する圧倒的熱量である。普通であれば耐えられる存在はいない。
そして、視界が回復すると怪物がいたはずの場所に巨大なキノコ雲が立ち上っていた。
地獄のような光景を作り出した12インチ砲弾を放った全長160mの戦艦が、爆発で生じた波で揺れる。
「地下で実験した通りの凄まじい威力です。復讐を遂げるための叡智の炎、この国を滅ぼす決定をした悪魔たちを滅ぼす聖なる光です。大気圏内での起爆は初めてですが。うふふ、なんで美しいんでしょう。あの雲がいや、ありよりもっと大きなものがマリージョアで立ち登るのはもうすぐです。全てが焼き尽くされる日が」
狂ったように笑いながら、爆弾の威力を絶賛するアイリス。常人が見れば余りにも大きすぎる威力に恐怖を覚えるだろう光景である。しかし、復讐に囚われた者からすれば、威力が大きく、より悲惨な結果をもたらすならばそれだけ目的に適うのだから喜ばしい。
「それに、ウタの仇を討てたんです。喜びもその分大きいはず……」
しかし、彼女の顔から笑顔が消え、今にも泣き出してしまいそうになる。
「どうして、こんなに悲しいままなんでしょう。仇を討てば報われるって手記にあったのに。これでウタも救われたはずなのに」
俯いた顔が、突然起き上がる。
「そうだ、あの化け物を送り込んできた連中がいるはずです。そいつらをなんとかしないと復讐は完了しません。でも早くマリージョアを攻撃しないといけませんし……。いつまでも天国の国民たちを待たせるわけにはいきません。……そうです。どうせ他の国の人たちもアトランティスを見捨てた連中です。その中のどこに仇がいるかなんて気にせずに全部の都市という都市に、町、村、船全部消し飛ばせば仇は打てます。どうせ爆弾も爆撃機もたくさん作ったんです。私が死んだ後、残った兵器たちに攻撃を続けさせればいいんです。そうすれば仇がとれてウタも救われるはずです。あははは」
今まで以上に大声で笑い声を上げるアイリス。際限のない憎悪の暴走は止めるものを失い、もはや彼女にとっては、この世の生きとし生けるものが全て抹殺すべき対象に成り果てようとしていた。生きている人間ならば自分で考えて進むべき道を見出すこともできる。だが、プログラムされた存在に端を発する彼女にとっては、入力された命令は既に絶対ではなくなったがそれでも行動規範に重大な影響を与える。一度絶対視した復讐はどこまでも肥大化し、自身で止まるすべは存在しない。
しかし、繋いだままであった外の視界に、晴れつつある爆炎から現れる巨大なシルエットが延々と続いていた笑い声を止める。
「砲弾に詰められるほど小型化した試作兵器です。飛行艇に積んだものと比べて威力は低いですが、火球が直撃して無事なはずは……」
完全に晴れた煙から現れた化け物は健在どころか、更なる力を得た姿に変貌していた。
まるでカカシのように顔と両腕があるだけで不確かだった下半身に実態の足が現れている。
その光景が理解できず、唖然と見つめるしかないアイリス。
足の形成に伴い機動力が上がったのか、今まではなかなか沖に向かう艦隊に追いつけず、爆発後さらに引き離されていた距離を海上を走るようにあっという間に詰め、ビームに加え、その手足で持って艦を引き裂き始める。
まず餌食になったのは艦隊の外側を固めていた駆逐艦隊であった。距離を詰めながら強力なビームを薙ぐように打ち、当たった艦は甲板上の魚雷に誘爆し次々に巨大な火柱に変わる。
それを踏み越え、側にいた巡洋艦に接近、貫手を放ち薄い甲板を貫通しそのまま、ボイラーが握り潰される。さらに隣の一隻に蹴りが放たれ船体を折り砕かれる。
そのまま艦隊の中央まで侵入し、戦艦の砲塔が殴りつけられる。巨大な砲塔の分厚い装甲も巨大な質量にひしゃげるがそれでも砲弾を打ち返す。ビームが撃ち込まれるがそれでも一撃では沈まない。思ったより頑丈なことに苛立ったのか艦体が赤熱するまで次々にビームが放たれ、爆沈させられる。
唖然と見つめたまま思考停止していたアイリスはすぐさまなりふり構わず奥の手の投入を決める。
旧市街地からやや離れていたため難を逃れた巨大な滑走路に地下から次々に大型の4発機が上げられ滑走を開始する。
マリージョアに向けて出撃するために積んでいた通常爆弾から積み替えた機体たちは荷物の重さに
まるで地面に吸い付けられているかのようになかなか浮かない。それでもなんとかヨタヨタと離陸し、ゆっくりと高度を取る。
そして、化け物が艦体との壮絶なインファイトを繰り広げることに夢中で上空に注意を向けていない隙に上空に達すると、味方の艦隊に構わずに爆弾を投下する。
それは、飛行艇に積まれていたものよりさらに威力を増しつつ小型化された強化型である。
爆弾はまだ化け物から距離があるにも関わらず炸裂し、しかし生じた巨大な火球は化け物も周りに浮いていた戦艦も包み込み、先程とは比べ物ならないほど巨大なキノコ雲が生じる。
しかし、先ほどと違って勝利の幻想すら与えずにすぐさま爆炎を貫くビームが放たれ、投下した機体が爆散する。
「ありえない⁉︎、ありえない⁈、ありえない⁈。消えろ!、消えろ!、消えろ!!」
そう喚きながら飛ばした爆撃機全てに投下させる。立て続けに発生する超高温の火球が、降り注ぐ熱線が艦隊を炎上、爆沈させ、周囲の海水を沸騰させる。しかしそれでも効果はなく、再度巨大なビームを発射する。
上空の爆撃機も、かろうじて浮いていた艦も全て消え、さらに砲撃を開始した陸上砲台を吹き飛ばし、地形を抉り地下の航空機や艦艇の格納庫を押しつぶす。
発進待ちしていた戦闘機、爆撃機たちも、ボイラーに火が入っていなかったため身動きが取れなかった艦艇も全て瓦礫に埋もれて使用不能になる。
手持ちの即応可能な全戦力が破壊されたことを理解したアイリスは膝から崩れ落ちる。
「こんなことあり得るはずない。まさかあれに耐えられる存在があるわけ……。絶対の力の、はずなだったのに……」
彼女にとっては復讐計画の象徴であり、確実に世界政府中枢を葬ることができる計画の要であった兵器を無力化する存在など、予想だにしていなかった。
あの化け物が特別でマリージョアを消滅させる計画には関係ないとは、断じられない。
もし、知らなかっただけで世界政府のトップが何かしらあの化け物に匹敵する高い防御力を持っていた場合、計画の前提は破綻するのだ。
計画時の想定ではたとえ悪魔の実の能力者であろうと、爆弾の火球によって生じる数百万度の温度ならば蒸発させることができるとされていた。
また、仮に熱と爆風を防げたところであれの脅威はそれだけではない。生物であるならば生存に必要な根源的な部分を破壊する効果は、適切な知識なくして防ぐことはできず、爆心地にいた以上は体を蝕まれ死に至るはずである。
しかしあの化け物は何発もの爆発に巻き込まれたにもかかわらず未だに全く影響が見られないところを見るにそちらも効果はないと予想される。
そうして、自分の存在意義そのものであった計画が危うくなり、絶望しつつあるアイリスにまだ残っていた地上のカメラを通じて化け物が動いていることが伝わる。
度重なる攻撃によって生じた業火も生物を蝕む降下物も及んでいない内陸部までいつのまにか移動していたのである。
そこはウタと一緒に着陸した飛行場であった。位置的に戦場とは離れていたことと、アイリスが島への影響を抑えるため風下を選んで化け物を海へ誘導したため、しばらくは安全なはずの場所である。
周囲はのどかな緑に包まれた、思い入れのある小型飛行機のある、しかし兵器の類は全くない、そんな場所すら焼き払うつもりかと愕然とする。
しかし、化け物は周囲を破壊するどころか唐突にまるで断末魔のような叫び声を上げながら消え去った。そしてその消えた後には見違えるはずもない友人の体が横たわっている。
衝撃の光景に、再度固まる。
あれではまるで化け物の正体が、ウタであるかのようだと。
しかし、横たわる体が身じろぎするように動き確かに生きていることを示すと、そんなことは頭から吹き飛んでアイリスは今度は喜びに号泣しながらすぐにウタを収容すべく残った機材を動かし始めた。