エレジアに戻った2人が無事なことに安堵したゴードン。
ウタが体調を崩したと言うことで心配していたが、むしろいつもより元気に見えるほどであった。
「ゴードン、私たちこれからライブツアーをやろうと思うの。デビューして、世界を周るんだ。」
しかも、そんな前向きなことを言っている。
「いいと思う。ウタの歌声ならデビューも問題ないだろう。すぐに世界一の歌手間違いなしさ」
親の贔屓目、と言うわけでもない。もともとウタの歌唱力にはその素質があると思っていた。
その上で、ウタが前向きになったようなのだ。それはかなりの良い影響が期待できるとゴードンは思う。
実際にこの世界において、精神的に前向きか後ろ向きかは非常に大きな影響を及ぼす。
能力の強さ、成長性、果ては容貌や骨格に至るまで本人の気の持ちようであからさまに上下する。
ウタの才能は、例えば本人が後ろ向きの考えの極地である、死にたい、逃げ出したいと考えていたとしても世界中を魅了するほどにすさまじいものである。
それが、精神的な負の影響がなくなればどれほどのものになるのか想像もつかない。
「ありがとう、ゴードンならそう言ってくれるって思ってた」
「当然のことさ、ところでデビューはどこのつもりなんだい?」
できれば大勢の人が聞ける場所で華々しくさせてあげたいと考えるゴードン。
「決めたわけじゃないけど、とりあえず前に話したフーシャ村にしようかなって。ルフィに私がどれくらい成長したかを見せて、新しい友達も紹介したいし」
「思い入れのある土地から始めるのもいいかもしれない。しかし、前に聞いた話だとイーストブルーのずいぶん辺境にあるらしいがどう行くつもりだい?」
フーシャ村は外界から閉ざされた限界集落一歩手前の土地である。
そこを訪れるならば、自分の船で海から行くか、同じ島にあるゴア王国へ客船で行き、山賊が闊歩する道なき山を抜けなければならない。
「ふふふ、そこは私に任せて下さい」
そこに今までは2人の楽しげな会話をほっこりしながら見ていたアイリスが説明し出す。
「私の作る船が、ウタを乗せていきます」
そして、窓から差し込む光の届いていない薄暗い壁に向かうアイリス。
その両目が眩しい光を放つと、なんと壁に映像が映し出される。
「えぇ⁉︎、そんな機能もあったの⁉︎」
「説明には便利そうだが……、どういう構造なんだ」
物理的に目を輝かせながら説明し出すアイリス。
「今回作る船は、今までにない新機軸満載の予定です。これで世界の海も安心です」
そうして映像に非常にリアルだが、実際に撮影されたものとは違うとわかる作り物めいた船や海、空が映る。
そこに映る船はゴードンにもアイリスにも見たことのないデザインのものであった。
マストも帆もなく、代わりに巨大な艦橋構造物の上で何か網目の湾曲した板状の物体がいくつも回っている。
視点が船の周囲をぐるっと周り、形状や装備が見て取れた。
艦橋の前の甲板の中央に巨大な連装砲塔があり、その後方に単装の砲塔が左右に2基、艦橋すぐ前にある。
艦橋構造物の後方は箱型の物体が繋がっており、後方に巨大なシャッターがあり、上方に小型の砲塔が左右にある。
シャッターの後方は広大な真っ平らな甲板が船尾まで続く。
そこから視点が変わり、離れた視点からの映像になり、今まで映っていた船に複数の船が接近するのが見える。
新しく出てきた船はウタには見覚えのあるものである。数日前に戦った、黒煙を噴き出す煙突の前後に連装砲塔を配した船からなる艦隊。しかし、こちらものっぺりした映像で実物でないことがわかる。
そして、艦隊に向かって船の前方の連装砲塔が向けられ、2門の砲から交互に連続して砲弾が発射される。それらは正確に艦隊の船を貫く。
空からは爆撃機が何機も接近して、今度は艦橋前方の単装砲が、先程の砲よりも早い速度で連射し、次々と撃ち落とす。さらに接近した機体も後方の砲塔が連射する火線に囚われ落とされる。
場面が変わり海中から接近する潜水艦が映る。すると船の舷側から魚雷が海に放たれ、海中を進み潜水艦に命中する。
今度は陸地が映り、船の後方のシャッターが開く。そこからヘリコプター型の機体が甲板に引き出され空に飛び立ち、陸上の車両に銃撃やロケット弾を撃ち込む。
さらに船尾が開き、そこから大小様々な船が海に滑り落ちるように発進し、陸に向かう。
小型の船はそのままキャタピラで陸に進み、甲板に車両を乗せた船は砂浜に乗り上げ先端から次々に発進させる。
そして、映像が終わりアイリスが解説する。
「全長700フィート超えの巨船に軽量化して追随性を増した12インチ連装速射砲1基と新型の5インチ単装速射砲2基、1.1インチ機関砲を連装で2基搭載し、全てレーダーで射撃管制させます。遠距離の目標や高機動目標にも高い命中性が期待でき、従来艦ならアウトレンジから一方的に撃破可能です。さらに海中の脅威に対処する魚雷とソナーも搭載します。空からの目としてヘリコプターを搭載し、陸戦に対応できるように水陸両用の装甲車と揚陸艇もウェルドックに積む予定です。これで陸海空の脅威に対処可能な万全の備えのはずです。さらに、機関は新開発の水上艦用原子力タービンを採用して、燃料補給は不要です」
そして映像に何十隻もの艦からなる大艦隊が映し出される。
「さらに同様の機関に換装した原子力フリートが護衛に付きますから、例え海王類の巣と言われるカームベルトであろうと安心して押し渡れるはずです」
そして説明を終え、ドヤ顔で2人に向き直るアイリスにウタがぱちぱちと拍手を送る。
「これなら安心してイーストブルーに行けそうだね。シャンクスの船なんかよりよっぽど心強いよ」
「そうでしょう、そうでしょう。ところでシャンクスって誰ですか?」
ついこぼれた感想に当然の疑問が投げかけられ、自分にとっての地雷に答えに窮する。
目をあちこちに逸らしていると、ふとあんぐりと大口を開けて固まっているゴードンが目に入った。
「ゴードン大丈夫⁉︎」
「どうしたんですかゴードンさん⁉︎」
そう声をかけられて漸く正気に戻ったのか、2人の方を向いて何かを言おうとするゴードン。
「せっ、せっ」
「せ?」
「戦争でも始める気かね⁉︎、これはイーストブルーに行くだけなら余りに過剰戦力だ⁉︎」
そう声を荒げるゴードンにキョトンとする2人。
「ねぇ、ゴードン最近は海賊が増えて海を行くのは危険がいっぱいらしいよ。護衛は多い方がいいんじゃ?」
「カームベルトは島よりも大きい海王類のがいっぱいいるらしいって情報ですし。出来るだけ対策した方がいいのでは?」
そう言われると、正当性は感じるものの、しかしかつて王であったゴードンにはわかる。
この戦力はもし本当に実現するなら世界のバランスを崩しかねないと。
最初に紹介された船にしても搭載する兵器の性能が、自分の知る海軍のそれと比べて異常な気がするし、ましてや何十隻もの艦隊なら海軍ですら動員は難しい。
大海賊時代前ならともかく、今の常時戦力の払底に喘いでいる海軍でそれを行うことは、海賊に苦しめられる多くの地域を見捨てることになるのだ。なりふり構わなければ物理的には可能でも現実としては厳しい。
最大勢力の海軍ですらそんな状況であり、続く大勢力の四皇もお互いに牽制し合う中で、そんな大艦隊を集結させることは容易ではないだろう。
そして、何も知らない少女の戯言と流すにはアイリスは底がしれないとゴードンは感じていた。
自分を守るためだと言って、こともなげに潜水艦隊をみせてきたのだから、作ると言うからには実現するだろうと思わされる。
なんの気負いもなしに世界の秩序に喧嘩を売ろうとする2人の少女を止めねばと焦るゴードン。
「あ、ああ、海賊ならイーストブルーは平和の海と言われるくらいらしい、そこまで心配しなくていいんじゃないかな?あと、カームベルトだが本当に渡るつもりかい?いくら戦力があっても、海王類が多いなら危険じゃないかな?」
妙に焦るゴードンに不思議に思うものの、確かにカームベルトは不安ではある。
ウタがかつて乗っていたレッドフォース号は何度も行き来していたが、それは海王類が襲っても撃退できる実力があったからである。
自分たちの力がどれほどかわからないため本当に大丈夫なのかどうかはわからない。
そこにゴードンが、思い出した知識を話し始める。とりあえず話を引き伸ばして糸口を探すことにする。
「そういえば、海軍はの軍艦は最近何かしらの方法でカームベルトを安全に渡れるようになったらしい」
それに、技術情報に目がないアイリスが食いつく。
「海軍の新技術ですか?軍艦に何か装備しているんでしょうか?」
「詳しくはわからない、海軍も世界政府も技術を後悔したりしないし。でも、海軍船の建造で有名なのはウォーターセブンと言う街だ。そこなら何か知っている人もいるかもしれないが」
そう言われて考え込むアイリス。
聞いたことが無い地名に今度はウタが反応する。
「ウォーターセブン?てどんなところなの?」
「まるで火山のような巨大な噴水の周りに街ができている場所だ。遠くから見ると巨大な噴水が海に浮かんでいるようで美しい光景らしい。造船が盛んで、特に最近ガレーラカンパニーと言う大きな造船会社ができてからはとくに栄えているらしい。あと海の上を走る海列車が名物らしい」
「うわぁ、見てみないな。いい曲が作れそう。でも海列車って何?」
「ああ、なんでも蒸気機関で回すパドルで海の上の線路を掴んで走る何隻も連結した船らしい」
それを聞いたアイリスがバッと顔を上げる。
そして今度は瞳をキラキラと輝かせながら言う。
「ウタ、ウォーターセブンに行きましょう。そこで船を作ってもらうんです」
その言葉に意外に感じる。
アイリスなら自分の船に乗って欲しそうにする気がしていた。
「いいの?他で船作っちゃって」
「はい、今回は私も知らない技術が手に入るかもしれないですし。タダで教えて欲しいと言っても、貰えるかわからないですし、実際に作ってもらって解析する方が可能性がある気がします。それに海軍向けの他の技術も詳しくわかるかもしれないですし。でも、ウタこそいいんですかフーシャ村に行けるのが先に伸びますけど?」
少し申し訳なさそうにするアイリスに苦笑しつつ、答える。
「8年もかかったのかちょっと伸びても変わらないよ。それに安全に行けるならそれに越したことないし」
「では、目的地は決まったようだね。ウォーターセブンまでの移動の手配は私に任せてくれ」
とりあえず、世界のパワーバランスの危機が去ったと考えてそのまま方針が確定するように全力で支援するゴードン。
実際には今この瞬間も建造が進められているが知らない方が幸せである。
「しかし、船の建造を頼むとすると必要なお金はあるのかい?無いなら私が用立てるが。何、これでも元国王だ、船の一隻くらい作る費用、問題なく出せる」
そう言って、何から何まで面倒を見てくれそうである。
ウタの歌手デビューなのだから穏当に行くのなら全力で実現させたいと思うのだ。
そのためなら、今の自分の持つ利用できるものは全て利用するつもりである。
「それだったら大丈夫です。生産用に貴金属も採掘しているのでそれを流用します。ただ、どうせちゃんとしたところに頼むんですから後々怪しまれないようにお金の出どころはゴードンさんと言うことにしていいですか?」
「お金の出どころとか気にされるのかな?」
「海賊ならどこからか奪ったで流されるかもしれませんが、普通の歌手志望の人間が大金を持ってたら不振がられるんじゃないですかね?」
「それなら私の名前は好きに使ってくれて構わない。滅んだとはいえ、国王の私の名前なら多少は説得力があるだろう」
それを聞いたアイリスが再度申し訳なさそうに話す。
「何から何まで、気にしていただいてありがとうございます」
「ウタのために私が何か役に立つなら、なんでもやるさ」
「ゴードン!そんな恥ずかしいこと言わないでよ」
そして、ウォーターセブンに向けて旅立つ準備を始める。
はじめての自分たちで動く長旅なので気分を高揚させながら荷物を準備していく。
ウタが自分の部屋に向かい、自分も手伝おうかとついて行こうとするアイリスをゴードンが呼び止める。
「実は、ウタと一緒に旅に出る君に話しておきたいことがある。ウタの過去についてだ」
そして、本人には知らせるわけにはいかない真実を知ることになる。