ウタと機械と新時代   作:またたびライト

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第15話

「えっ、今上から降ってきたよね⁉︎」

上を見上げるが、飛び降りれそうな場所はなく、青空が広がっている。

「空を飛べるんですか⁉︎、それとも大ジャンプ?」

「あっはっは、それは企業秘密じゃ。もしかしてここの客かの?」

人体の限界を超越した動作を軽くながす、男にとりあえず冷静になったウタが答える。

「そうなんだ。船を作ってもらいに来たんだけど、これが紹介状」

そう言って、もらった紹介状を見せる。

「やっぱり客じゃったか。しかも、おぬしたち、さっきついた列車に乗っておった者じゃろう。珍しく民間人で客車を貸切にする者がおったと話題になっとったぞ。しかしせっかちじゃのう、宿も取らずに真っ直ぐに本社まで来るとは」

 

そう言って笑う男だが、ウタとアイリスの視線は顔の一点に釘付けであった。

「いやあ、あの海列車について詳しい方がいらっしゃると聞いていてもたってもいられなかったんです」

「突然来たらまずかったのかな」

「なあに、良くあることじゃ。社長は今ちょうど他の接客中じゃ、よかったらわしが工場を案内しちゃるが」

「良いんですか。ぜひお願いします」

その言葉に目を輝かせながら間髪入れずに答えるアイリス。

目に見えるハシャギっぷりに目的を忘れてないかなと苦笑するウタだが、自身も船を作っているところなど見たことないのではしゃいでいる。

 

ちなみにそのことを後でアイリスに話したら、ウタの初めてがあんな角鼻に奪われたと騒いだ末にアトラス島地下工場見学ツアーが開催されることになる。

 

「あっはっは、喜んでもらえてよかったわい。わしはカクっちゅうもんじゃ、この工場で働いとる」

「わかりやすい名前ですね」

「名は体を表すというか」

「これは褒められてるんじゃろうか?」

 

ちなみに彼が出てきたのは別に偶然ではない。

ガレーラカンパニーには現在、見聞色の覇気を使えるものが3人務めているが、そのうち1人が社長であるアイスバーグにつきっきりで、もう1人が基本的に社交性が求められる対応を丸投げするため、不在な時を除けば彼が出てくるためである。

理由はなんといっても来客対応は、情報の宝庫だからに他ならない。

誰がアイスバーグを尋ねてきたのかを把握しておけば、彼の交友関係を把握しておくことができるし、人に知られたくない様な来訪者も真っ先に対応することで何かしらの情報を得られるかもしれないのだ。

 

今回も歳のわりにやたらと羽振りの良い上に、他の町の町長の紹介状まで持った、興味深い来客の情報を真っ先に手に入れ、アイスバーグに会う目的やどこから来たのか、つまりどこの組織の意図があるのかといった情報を収集することができるのだから。

 

一方でアイリスははしゃぎ回りながらも周囲で行われている造船の様子を解析していた。

まず興味を持ったのは、建造途中の船に使用されている木材が、既知のそれであったのならば強度上とても耐えられないはずの大きさの船の構造材に使用されていることであった。

ガレーラの職人たちがまともな強度計算も出来ないのでなければ、未知の高強度木材の存在が予想される。

もし、自分でも栽培できれば何か画期的な新材料の研究に役立つかもしれない……。

 

そして、植物資源の収集計画に思考が逸れそうになり慌てて情報収集に戻る。

 

そうして見回せば、搭載のために置かれている艦載砲のサイズがおかしかった。

形状はよくある前装式の滑腔砲であり、材質も大砲用としてはありふれた青銅の様である。

しかし、その口径はどう見ても35インチ以上ある様に見え、とても生身の人間に扱える物ではない。もし、撃つのが鉄製の球形榴弾だとするとおそらくその重量は3000ポンドはすると思われる。

アイリスの知るアトラス島の人間が操作するなら装填はクレーン頼りになるであろう。

 

そんなもの、木製の帆船を撃つには威力過剰じゃないかと思い、まさか自分の鋼鉄製の艦艇に対抗するためかと警戒を強める。

しかし、そんなもの存在しなかった時代の海軍の軍艦の主砲があれくらいだったのを思い出し、対地用なのかもと予想する。

 

しかしながら、対地攻撃様に大口径砲を使用するのは有用ではないだろうか、大型の堅固な建築物も簡単に砕くことができるだろう。

しかしながら攻勢で用いるなら艦載砲が望ましいが大口径砲となると相応の船体が必要になる。大型の誘導ロケット兵器を実用化しつつある現状で、そんなものを開発すべきか……。

 

またそれかけた思考を元に戻す。

この小さな体では思考タスク数に制限があるのがこういう時に鬱陶しく感じる。

ふとそう考えて、そういえばもう一つのボディに拘る必要ないなと思い至る。

……とりあえずそれも後回しにする。

 

しかし、本題の、あわよくばと思った海王類対策に使う器具らしきものは見当たらない。

アイリスから見れば、サイズがおかしかったりするもののどれも既知の道具である。

依頼しても教えてもらえなかった場合に備えて少しでも情報を得なければと、アイリスはカクとの会話をウタに任せて、情報収集に専念していた。

 

「子供らしく、すごいハシャギまわっておるな。微笑ましいのぅ、良いことじゃ」

そう言って笑うカクに苦笑する。

「あははは、すいません。お仕事中にお邪魔して」

「なに、男ばかりのムサイ職場に華やかな女が来てくれたんじゃ、みんな喜んでおる」

アイリスの見た目は10歳程度の少女にしか見えないため、職人たちも側にやってきて色々質問されても邪険にせずに微笑ましそうにしながら受け答えしている。

 

とりあえず、目的であった技術情報の収集を怪しまれずに行えていそうなので、あの見た目の便利な使い方に感心してしまう。

まあ、半分くらいは本当にはしゃいでいる気がするのだが。

 

そしてふと、厳つい男たちにちやほやされているアイリスに昔の自分の姿が重なる。

赤髪海賊団に大切にされていたまだ小さかった自分。

何かあって、助けて欲しいときは何も言わずとも笑いながら手を差し伸べてくれた彼ら。

そんなものはまやかしだったとわかったはずなのに、未練がましく思い返してしまう。

 

こんな時はルフィをキメるのだと、脳内にレッドフォースより大きくて立派な船でフーシャ村に乗りつけてルフィに自慢する自分を思い描く。

 

脳内で感情がジェットコースターの様に揺れ動いていると、急に立ち止まったことに訝しむカクが声をかけてきた。

 

「大丈夫か、もしかして連れ回して疲れさせてしもうたかのう?そういえば長旅でついたばかりだだたんじゃったか」

 

すごく気を使わせている反応に、申し訳なさから思わず本当のことを話してしまう。

 

「私は大丈夫。ちょっと昔を思い出しちゃって。私もああやって幸せだった頃があったなって」

 

それに、神妙な顔になるカク。

その言いぶりから過去に何かあったことを察する。職業柄、その手の悲劇はよく目にしてきたために。

 

「おぬしは、どこの出身じゃったかな?」

 

いきなり詮索されて、余計なことを言ったかもと内心慌てながら、とりあえず決めてあった答えを返す。

 

「エレジアです、音楽で有名だった」

 

その戸惑いがちな反応もカクには、辛い過去を詮索されたが故だと思えてしまう。

 

「エレジアじゃったか」

 

カクは8年前に起きた事件を思い出す。

恐らく目の前の少女があの凄惨な事件の生き残りの1人なのだろうと察し、心底同情した。

 

海賊か、それともそれ以上の悪夢か、いずれにしても祖国の滅びを幼くして目にしているのだから、心の傷は大きいだろうと考える。

 

必要とあればどんなこともやってきた彼であったが、それでも根っからの悪人というわけでなく、どちらかと言うと善側の人間である。

 

そのあながち間違ってはいない、ウタについての考えから、特に任務上必要でもないのにこれ以上探りを入れることに躊躇いを感じてしまった。

 

任務とは彼の本当の所属であるCP9という世界政府直属の極秘諜報機関によって課せられた、アイスバーグから重要な書類を奪取することである。

 

そのためならば手段は選ばない。

今回も、大金を持った彼女たちがどこかの組織からアイスバーグに接触してきた可能性を考えて探りを入れたのだが、今のところ彼女たちからその様な裏の意図は一切感じない。

 

自身の感はシロであると告げており、実際に証拠も無いのだからこれ以上は余計に彼女を傷つけかねない詮索は、不要なのでは無いかと思ってしまったのだ。

 

しかし、彼の所属している組織は疑わしくは罰せよを地で行くため、少しでも疑念を抱いたなら明確なシロである証拠がない限りは見逃してはならないことになっている。

 

どの道、彼女たちについてもかぎつけた同僚からの進言で上司が足取りを調べているはずである。

ならば、組織人としてその様な感傷は捨てて可能な限りの情報を得るのが正しいと割り切って話しかけようとする。

 

しかしその前にウタが動いた。

 

エレジアの地名を聞いて何かを察したように、沈黙してしまった彼に気まずく感じていた。

恐らく、事情を知って同情しているのだろうが、もともと赤髪海賊団だった自分にそんな感情が向けられるのはお門違いだと感じ、申し訳なくなってしまう。

 

しかし、罪悪感に押しつぶされてしまうのは、被害者なのに自分を育てたゴードンにそれこそ申し訳ない。

それに、今目の前で仲間になってくれた少女が一生懸命?に頑張ってくれているのだ。

だったら自分もできることをやらなければならない。

今の自分にできるのは歌を歌うことなのだから。

 

目の前で気まずそうにしている男に、伝える。

「私は、歌で世界を救う。それだけじゃ足りないかもしれない。でも、それでも出来る事はやる。カクさん、ここで一曲歌ってもいいかな。元気がでる様な曲を聞かせてあげる」

 

「かまわんが、みんなも歌ってもらった方がやる気が出るじゃろうし」

突然の申し出に出鼻を挫かれ、彼女の決意の籠った宣言につい許可してしまう。

 

そして、ウタが歌い始める。

新しく作った、時代と戦うための歌、未来への希望を見せるための歌を。

 

作業をしていた船大工たちは突然始まった歌に、手を止めて聞き入っていた。ウタウタの実の能力は当然使っていない。

にも関わらず、その歌声を聞いた彼らは、まるで魂を抜かれたかの様に停止して、ポカンと歌を聴いていた。

 

歌声は彼らの脳髄を侵食する。

彼らの脳裏に、この町が発展する過程、その際の苦労がフラッシュバックする。

大海賊時が始まった当初の荒廃。

海列車開通の希望と興奮。

ガレーラカンパニーの立ち上げ。

そして今日まで続く発展。

なぜか、そんな困難との戦いとこれからの希望が強制的に想起され、気がつけば自然と涙が流れ落ちていた。

 

この世界には様々な催眠系の異能が存在する。

いずれも人の感情に働きかける何かしらの媒体を用いるものである。

歌もその一つであり、完成された音楽はそれだけで人の心を動かしてしまう。

 

ウタはまだ自覚していなかったが、その歌声はその域に達しつつあった。

本人はただ、人前で思いっきり歌える環境に熱唱しているだけであるが。

 

そして一曲歌い終わり、今までで1番の手応えにやり切ったという顔で周りを見回す。

 

しかし、期待した盛大な拍手はない。

唯一、アイリスだけが凄まじい速さで拍手しながらアンコールを叫んでいる。

 

全くの反応の無さにちょっと自信をなくしそうになるが、周りの反応がおかしいことに気がつく。

 

目につく範囲の人たちが全員、棒立ちで涙やら鼻水やら涎やらを垂らして顔面をぐしゃぐしゃにしていた。全員目も虚であり、正気ではなさそうである。

 

ウタウタの能力は確かに使っていないし、そもそも使用時の気持ちよさそうな寝顔とも違う異常事態に気づき青くなる。

 

「ねえ、アイリス。なんかみんなおかしくない」

狼狽えた声で聞かれ、漸く周りの状態を把握するアイリス。

「なっ、なんですかこれ⁈、どうしちゃったんです⁉︎」

「私もわからない⁈、歌い終わったらこうなってた⁉︎」

慌てて2人と護衛に連れてきたターミネーターで介抱する。

幸い、突然の心神喪失で事故に巻き込まれた人はいない様である。

しかし、そのドックからの作業音が途絶えたことを不思議に思った他のドックの人間が様子を見に来て騒動になり、それが収束するのは社長であるアイスバーグがやってきてからであった。

 

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