ウタと機械と新時代   作:またたびライト

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第19話

 一晩明けて、ウタは特に何事もなく朝食を済ませた。

「昨日は激動の1日でしたね」

どこかに行っていたアイリスが戻ってきて声をかけてくる。

「うん、でもいいのかな……。アイスバーグさんは大丈夫だって言ってたけど」

あのあと、残りの2人も数年一緒に働いていた部下や、よく通っていた酒場の店主で知らない仲でもなかったことを説明された。

そして、ルッチ、カリファ、カクの3人は単なる上司と部下の関係を超えた仲間意識があり、だからこそ、改めてケジメは自分でつけるため手出しはいらないと言われてしまった。

 

ウタは親しかった相手がスパイだったことに他人とは思えずに同情する。

仲間に裏切られた自分は死にたくなるくらい悲しかったのに、アイスバーグだって辛いはずだと。

だから、ウタはそんな思いをさせた4人に改めて怒りを覚える。

 

なので、今は単純にアイスバーグを助けたい気持ちもあるが、自分が気に食わないからぶっ飛ばしたい気持ちも強くなっていた。

「大丈夫だと思います。話によると、CP9を牽制するための人材が送られてくるみたいですし。もともと連中もすぐには強硬策に出ないつもりみたいですし」

そう落ち着いて話すアイリス。

 

彼女も世界政府の有力な戦力は削れる時に削った方がいいとも思っていたが、アイスバーグがそういうなら無理に首を突っ込むつもりはなかった。

 

少なくともすぐに状況が悪化することは無くなりそうなので、さらに情報収集と戦力強化の後に対処した方がリスクが少ないと考える。

 

「それなら、4人と親しいアイスバーグさんの意思を尊重してあげましょうよ。私たちとしても今ぶつかるのはリスクもあることですし」

 

「……そうだね、私もシャンクスたちとのことは私がなんとかしたいって思うし、アイスバーグさんも、そうなのかな?だったら、私たちが何か言うのもちがうよね」

 

とりあえず、それで納得することにする。

とそこでふと、アイリスがどこからか帰ってきたことが今更ながら気になった。

 

最近はいつも自分にべったりなのにと。

「そういえば、今までどこに行ってたの?」

「アイスバーグさんに頼まれて、ガレーラの朝礼に出てました」

 

それは同日早朝のことである。

いつも通りに仕事を開始したアイスバーグ。

本日のスケジュールを伝えたカリファにアイスバーグが話を切り出す。

「ンマー、実はな、追加で新しい社員を雇うことにした」

「了解しました。いつからですか?」

カリファもウタたちの船に限らず大型船の建造予定はどんどん入っていることから人手を増やすことには違和感を覚えない。

 

「今日の昼からだ」

「……は?あの、もう一度言っていただけますか?」

流石に聞き間違いだろうと思いたくて聞き直す。

「今日の昼からだ、これから朝礼で説明するぞ。昼までには来るらしいからな、中礼で紹介する。手配を頼むぞ」

 

そう言って、出て行こうとするアイスバーグ。

あまりにも急な話に唖然と見送ってから、慌ててついていくカリファ。

 

アイスバーグは他者から見ると突拍子もないような決定をすることがたまにある。

しかし、大抵は後から見るとなぜそのタイミングなのか理解できるものである。

例えば急にその日の予定を全キャンセルしたと思ったら、前々から行方を気にかけていた世界的重罪人が、島に来ているのを察知したなどである。

 

急な話ではあるが、今回も何か現時点では彼にしか理解できないことがあったのだろうと、カリファは特に気にもせずにスケジュール調整をしつつアイスバーグを追う。

 

以前は周辺の町の町長との会食のキャンセルなど先方の怒りを買って必死に謝ったものだが、今となっては皆、事情があるのだろうと察して気にしなくなったので調整も楽なものである。

 

アイスバーグ直々の呼びかけに、ガレーラカンパニーの主だった社員が本社前に集まる。

 

前にはアイスバーグとカリファ、そして何故かアイリスも立っていた。

昨日の騒動を知るもの以外は、謎の少女に首を傾げる。中には実はアイスバーグの隠し子か、それとも愛人かなどと勝手な予想が飛び交う一角もあり全体的にざわめいている。

 

そのざわめきもアイスバーグが話し始めようとすると自然と収まる。

 

「ンマー、みんな朝っぱらよく集まってくれた。実は今日から新入社員をまとめて入れることになった。人数は50人ほどだ。仲良くやってくれ」

 

突然の話に社員たちが困惑する。

その中で金髪の男、アイスバーグの一番弟子のパウリーが代表して話す。

「新入社員を入れるのはいいですが、随分急な話ですね?しかもそれだけの人数なら一から鍛えるとなると作業が遅れますが……」

 

パウリーは普段は借金取りに追いかけ回され、見た目も粗暴なように見えるが、船を作る事には真摯に向き合っており、アイスバーグからもその腕を認められている男である。

アイスバーグのことは慕っており、だからこそ彼が作った会社の問題になりそうなことは意見を言う。

 

実際に、使い物になるかわからない新人に、色々と教えながらでは支障が出るものである。

特にガレーラカンパニーは職人芸によって、船の建造を普通より短い期間で行えるが、需要の増加に対応するためにそれ前提で工期を組んでいる。

 

しかし、1人2人ならともかくとして、それだけの人数を一度に面倒見ながらでは、そこまでの高速建造は流石に維持できない。

 

となれば、あらかじめその遅延も込みで納期を設定する必要があるが、これほど急ではそんなことはできない。

つまり、発注した船主に遅れを説明して迷惑がかかることになる。

 

そうなると、会社の信用問題にならないかとパウリーは気にする。

 

「客先には既に説明した。特に大口の顧客の政府関係は多少遅れても構わないそうだ。あと、新人たちの技量を短期間で上げるために、対策を練ってある。普通は下働きからだが、連中は体力は折り紙付きらしいからな、最初から造船に参加してもらう」

「それじゃあ、新人どもは早く腕を磨けるかもしれないが、その船は作るのが遅れますよ?船の出来だって悪くなるかもしれません。」

 

半端な船を作ることになるのは問題じゃないのかとさらに困惑するパウリーと他の社員たち。

 

「それがな、今回うちで船を作ることになったウタとアイリスが自分たちの船を使ってもらって構わないと言ってくれた」

 

そこで、ようやく自分にお鉢が回ってきたと、それまでま黙っていたアイリスが前に出る。

 

「皆さんおはようございます。今回、大型船を一隻発注したアイリスです。ウタは寝坊助なのでここには来れませんでしたがその分もあいさつをさせてもらいます。私たちが船を作るのは、歌手であるウタがそれに乗って世界を周り、世界中に歌を届けるためです。そのために最高の船が必要です。ですが、そもそもウタがそれを望んだのは、この世界で辛いことがある人たちにとって、自分の歌が少しでも救いになるようにと世界の人たちの幸福を祈ったからこそです。そして、世界のために貢献しているのは皆さんの船作りも変わりありません。沢山の船を作れれば、それだけ海を色んな人ものが行き交い、人々の暮らしを豊かにできるはずです。そのためにより多くの船大工の人たちが必要です。その育成に役に立つのならば、ウタにとっても、その友達の私にとっても本望です。ですから、私たちの船の建造で時間がかかっても、お役に立てるのならば使ってください」

 

そのスピーチに、一瞬の静寂の後、歓声が上がる。短いものだったが、見た目が子供にしか見えないアイリスか頑張って伝えているような印象から好評であった。

結果として、船大工として半端なものに船を作らせることへの不満はなんとか抑えることに成功する。

 

アイスバーグからの依頼に応えられて満面の笑みを浮かべるアイリス。

それに、アイリスにとっても悪い話ではない。

そもそも、ウォーターセブンに来たのだって、船そのものを作ると言うよりは、さまざまな技術情報の収集が目的である。

新人の教育を通して、それを目にできるかもしれないのだから願ったり叶ったりである。

 

アイスバーグも思ったよりまともなスピーチに満足して社員たちを解散させた。

ぶっ飛んだ内容が出ても、見た目が少女なことを利用し、自分がフォローすれば用は足りると考えていたが杞憂であった。

 

そして、そんな自分が起きる前の一幕を話されたウタは憤慨した。

「いやいや、誰が寝坊助なの⁉︎」

「それは、皆さんに親しみやすくするためのジョークです!でも実際、起こしましたけど起きなかったんですよ。まあ、昨日は大変でしたからね。しょうがありませんよ」

 

これから出歩くたびに、町行く人に寝坊助のウタなんて目で見られるなんて耐えられない。なんとかして印象を塗り替えねばと、歌手としての自分を見せつけるべく猛打ダッシュで町へ繰り出す。

 

「待ってくださいよー、大丈夫です!ウタが寝坊助なのを気にしているなら、私が完璧に体調管理を行なって直してあげますから」

そう言って追い縋ってくるアイリスとさらにその後ろに続くターミネーターたち。

 

「そもそも、寝坊助なんかじゃない!いつもはちゃんと起きてるじゃない」

「でも、その時はいつも私が起こしてますよ」

「一人だって、起きられるよ!」

 

そんなやりとりをしながら街中を駆け抜ける。

町行く人たちが、なんだなんだと見てくるが、追いかけっこはパウリーと借金取りで見慣れており、木の抜けるようなやりとりをしながらなので、危機的状況でもなさそうだと対して気にしていない。

 

どこかに歌うのに適した場所はないかと探すが、気づけば表通りから外れて複雑な裏通りに入っており、開けた場所などどこにもない。

 

そんな時唐突に、大勢の集団と出くわす。

相手はいかにも海賊と言った装いをしている。

 

「なんだ、こんなところに上玉がいるぞ」

「おまえら捕まえろ、上陸してすぐにこんなかわいこちゃんに会えるなんて幸先がいいぜ」

 

そんなことを言う、2日振りに見る海賊たちになんだか久しぶりに見る気がするが、単に間の出来事が衝撃的だっただけで、最後に見てから大して時間が経っていないことにうんざりする。

 

「この島にも居るんですね。あれ」

そう言って、やはりもう飽き飽きだと考えるアイリス。

「1匹見たら100匹な感じなんでしょうか」

「うわっ、嫌だなー。これから町中に出没するようになるの」

 

そんな会話が聞こえて、騒ぎ出す海賊たち。

「俺たにはゴキブリじゃねー!!」

「舐めたこと言いやがって⁉︎」

 

そうして襲い掛かろうとする。

護衛のターミネーターたちが前に出て迎え撃とうとするが、ふと上から何かが接近していること気がつく。

 

新手の襲撃かと警戒するがそれは、全く気がついていなかった海賊達の中に降り立つ。

 

重量感を感じる、派手な着地に海賊達がよろめく。

「オメェら、この裏町で好き勝手に暴れるたぁ、いい度胸してるじゃないの」

「何だぁ、急に降って来やがって、この海パン野郎が!」

「こいつからやっちまえ!」

 

そして、乱闘が始まる。

「何だこいつ、刃が通らね〜⁉︎」

「銃弾も弾くぞ!!」

正面からの攻撃は全て弾き返す。

 

「今日のオレはスゥーパーだぜ!、喰らえ!、ストロングライト!!」

そして、鋼鉄の右手でまとめて薙ぎ倒す。

 

「ひぃぃ、船長がやられたゾォ⁉︎」

「もうだめだ逃げろぉ!!」

「逃すかよ、ウェポンズレフト」

 そして、左手から放たれた砲弾で残った海賊たちは吹き飛ばされた。

 

その様子をポカンと眺めているウタとアイリスたち。

海賊たちを片付けた男が近寄ってくる。

「よぅ、お前ら大丈夫だったか?」

男は海パン一丁にアロハシャツという、町中でするには随分とラフな格好をしているが、幸いと言うべきか海賊の男所帯で育ったウタは、その程度の格好はなんとも思わなかった。

普通の年頃の少女が見れば変態だと悲鳴でも上げたかもしれない。

「大丈夫!、助けてくれてありがとう」

「なあに、オレのナワバリで好き勝手やってた連中を締めただけだ。気にするこたぁねぇよ」

 

そして、もう一人の見た目だけなら少女な存在は。

「どッ、同族です!!」

 

感激に、打ち震えながら叫ぶのだった。

 

「あの!、あなたはどこで作られたんですか?」

「うん?急になんだ嬢ちゃん」

「私はアイリスです!あなたと同じロボットです!!」

 

そう言って詰め寄るアイリス。

ウタは見たことない反応に、再度ポカンとして見つめる。

 

「オッ、オゥ?、オレはフランキーだ。嬢ちゃんがロボット、とてもそうは見えねェが?あとオレはロボットじゃァなくて、スゥーパーなサイボーグよォ。」

そう言って、腕をくっつけながら掲げつつ上体を斜めにする独特のポーズをする。

 

その様子にウタも流石に変な人と思い始めるが

アイリスはさらに目を輝かせる。

 

「サイボーグっ!、人体の機械化なんて私でもまだやったこのない技術です!!と言うことはあなたを改造した人がいるはずです!是非とも会ってみたいです」

珍しく自分の技術をベタ褒めしてくる相手に悪い気はしないフランキー。

 

「これは自分で改造した、まぁ、オレにかかれば楽勝よぅ!」

「なんとぉ!、人間にそんなことが可能なんですか、すごい技術です!天才的です!」

 

ヒートアップする2人だったが、もう昼時となり、ガレーラの新入社員に自分たちを紹介したいとアイスバーグに呼ばれていたため、アイリスはかなり名残惜しんでいたもののフランキーと別れる。

 

フランキーもアイリスを気に入ったらしく、今度、彼の家に来てくれと言われて場所は聞いたため、後日再度会えると言うことで納得してもらった。

 

それから昼飯を済ませて、ガレーラ社員の集会に参加する。

ざわめく、社員たちの視線は、アイスバーグの隣で整列している男たちに注がれる。

 

「ンマー、朝話した通り今日からここで働くことになった新人たちだ」

 

その言葉に、アゴにX型の特徴的な傷のある男が代表して進み出て挨拶をする。

 

「おれの名はドレーク、新入社員を代表して挨拶させてもらう。これからよろしく頼む」

 

そう言って、太々しく笑う、元海軍少将……ということになっている男。

「今回の新入社員は全員元海軍所属なんだが、なんらかの理由で辞めることになった連中でな。ンマー、仲良くしてやってくれ」

さらに出自についても紹介するアイスバーグ。

「辞めたとは、何か問題でも起こしたのかのぅ?」

そう言って、察しがつきつつも相手の背景にツッコミを入れるカク。

 

「おれは膝に矢を受けてしまってな、恥ずかしながら傷痍軍人というやつだ。ただ、今回の仕事に問題ないことはアイスバーグ社長と話がついている」

堂々とそんなことを言うドレーク、社員たちはそれで納得した雰囲気を出す。

 

しかし、相手の正体に察しがついているCP9の3人は何をぬけぬけと思いながら、相手の狙いはなんだと考えを巡らせる。

 

そう、新入社員たちは元海兵ではない。

現在も海軍に所属し、そして今回のように時には身分を偽って潜入捜査を行う、サイファーポールのライバルとも言うべき組織の構成員。

その組織は名前をSWORDと言う。

 

「私たちの船をよろしくお願いします。ドレークさん」

「時間はかかってもいいので、頑張って作ってね」ウタとアイリスからも声をかけられている、ドレークを見て、任務に余計な邪魔が発生したことに苦々しく思う3人。

 

こうして、同じ世界政府の下にありながら、所属によって対立するという、政府組織全体が軋みを上げている昨今ではよくみられる事象により、CP9とSWORDの面々は牽制し合いながら無為に時間を浪費する羽目になる。

 

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