ヤマトは現在、鬼ヶ島のあまり人の寄り付かない倉庫に隠れ、ターミネーターを介して通信を行なっている。
今回派遣された一段には、交渉ごとに備えてアイリスと同じ映像投射機能も完備されており、そこから和の国の惨状を詳細な映像で見せつけられていた。
こうなるまでに紆余曲折があった。
最初こそ、突然それまでと異なる、ゴツい男性の見た目に合わぬ少女の様な声で話し始めた相手に薄気味悪く感じたが、あくまでも、通信機能を使っているだけで相手は離れたところにいることを説明され納得した。
そして、期待したエースの関係者でこそなかったが同じように外国から来た存在ということで嬉しくなり、自分の身の上と、いつもの様におでん関係のことを熱心に語る。
四皇カイドウの子供として生まれ、虐待そのものな扱いを受けていたヤマトの割と悲惨な境遇に、あからさまに同情していた機械人形越しに話している2人だったが、それもおでんについて語り出すまでだった。
突然、見知らぬ男性を称え始めるのは良いとしても、自分が遺志を引き継ぐとか、目標にしているとかでは無く、その男性そのものに成ると意気揚々と語り終えた時には、あからさまな不信感を感じさせる声音で、会話が打ち切られそうになった。
なんでそんな反応になるのか理解できなかったヤマトであったが、せっかくの外からの客人とこのまま別れるのは嫌であったので、なんとか信用させようと彼女達が送り込んだという、ターミネーター達を鬼ヶ島の内部へ手引きしたのである。
その甲斐があって、なんとか彼女達の信頼を取り戻し、普通に会話が進むようになった。
そうなると、もともと誰に似たのか酷い環境の中にありながら善良な人間性を獲得した彼女とウタ達はすぐに打ち解け、友人関係を構築することに成功する。
おでん関連もそうなれば、とりあえず誰かに害がありそうなものでは無いと理解されて特に問題視されることもなかった。
そうして、暫くぶりに気の合う友人達におでんをかたる日々に満たされていたのだが、そんな幸福も和の国へ潜入したターミネーター達からもたらされた情報により吹き飛ぶこととなる。
「なんだ、これ……」
その映像を見ながらヤマトが口に出せたのはそれだけであった。
ちょうど映像の中では、場面が切り替わりターミネーターが百獣海賊団達が男性を槍で突き回し、血塗れにしている場面に出くわしたところが映る。
「スゲェ!、ホントにプレジャーズの連中みたいに何されても笑いやがる!」
「イテェ、やめてくれ、ワハハ!、死んじまうぅ、フヒヒィッ!」
「こりぁ新鮮でいいいぜ!」
槍が痛々しく、深々と刺さっているにも関わらず男性は笑いを止めない。
そんな様子がおかしいのか次々に、しかしあえて致命傷は避けて槍を刺す団員達。
「ウェヒヒ!、やめてぇ、お父ちゃんをいじめないでぇ!、アハハッ!」
そんな目にあう父を助ける様に懇願する少女もそうだ。
「ウフフ!、ダメよ!貴方まで殺される!」
それを静止しようとしている彼の妻も笑っている。
3人とも話している声は悲痛なのに、合間に笑い声を上げる。
まるで、何かに笑うことを強制されているかの様に。
それもそのはずである。彼らは食べさせられたのだ、スマイルという果実を。
なおその場は百獣海賊団に扮していた、ターミネーターが殴り込み、団員達を全員撲殺することでとりあえず彼の命は助かる。
しかもその場に駆けつけた侍達に、酔った勢いでの殺し合いと言う、百獣海賊団ではお馴染みの出来事で誤魔化したおかげで、そこの集落全体が叛逆の咎で皆殺しの憂き目は逃れることになる。
まあ、そんな上手くいく出来事はこれくらいであったが。
この奇妙な出来事を引き起こしたスマイルとはとある天才科学者が生み出した、悪魔の実の模造品の出来損ないである。
悪魔の実とは食べることでなんらかの超常の力を得ることができる果実であるが、同じ効力の物は二つと無い。また、非常に希少であり何十年も海を冒険して回った海賊団ですらも、能力者はともかく実となると1回でも目にするかどうかと言うレベルである。
だから、有用な能力のものを狙って食するなど一生を賭けてすら叶うかわからない確率である。
だが、そんな希少だが、食べれば大抵は特殊な能力により、常人を遥かに凌ぐ戦闘力を得ることができる、そんなものを、強力なものだけ狙っていくらでも増やせたらどうだろう?
稀代の天才科学者ベガパンクはそんな夢に応えつつあった。
既に、ゾオン系と呼ばれる動物の能力を得ることができる実は解析され、ある程度の精度でもって複製することに成功している。
彼はそれで満足せずに、更なる複製精度向上や他のパラミシア系やロギア系と言った種類の実も対象とすべく研究を重ねている。
そんな彼の技術には及ばないが、金に溺れた天才が作り出した粗悪品がスマイルである。
ゾオン系のコピーを狙ったものだが、本物と違い発現する能力は不安定で制御不能な場合が多い。さらにそんな出来の悪い能力すら得られる確率は低く、大抵は副作用だけで終わる。
それは悪魔の実デメリットである、水に浸かると力が抜ける効果のみは現れ、さらに製造に使用している薬品の副作用で笑いの感情以外を表せなくなるのである。
百獣海賊団では、そんなスマイルでも僅かでも圧倒的に今より強くなれる可能性に賭け、食するのが普通であった。
彼らは文字通り獣の様に力によってのみ評価される。
だから、組織内で成り上がるためには力をつけるしかなく、手っ取り早い方法がスマイルなのだ。
そんな状況ゆえに今の百獣海賊団はスマイルを中心に運営されている。スマイルを食べ、どの様な末路でも能力が発現しさえすればギフターズと呼ばれる幹部として遇され、しなければ笑うだけのプレジャーズ、まだ食べることができていないウエイターズと分類されている。
また、一口でも食べられたスマイルは、能力が発現することは無くなるが、デメリットだけは残している。
この国の支配者にして、この国を恨み国民を苦しめることに悦楽を見出すオロチは、そんな残飯を飢えに苦しむ国民に渡る様にしたのだ。
スマイルは、この世のものとは思えないほど不味いとされる本物の悪魔の実と異なり、味は普通の果物である。見た目はおどろおどろしいが、それでも飢えていたもの達は久し振りに食べる美味い果実であると嬉々として食べてしまった。
その結果が、先程写っていた親子の正体である。
潜入し、情報収集を進めるターミネーター達が得た情報を映像に捕捉して説明するアイリス。
そして、さらに映像が移り変わる。
「いやぁっ⁉︎、ここの水は飲めないって言ったでしょう⁉︎喉が渇いたからって、飲んだら死んじゃうの!」
母親らしき人物が、幼い少年を抱き抱えて揺すりながら叫んでいる。
既に少年は息を引き取っている様だ。
その川は、川上に建てられた武器工場から排出される汚染された水が流れ、飲めば命に関わる。
しかし、その日の朝、やってきた百獣海賊団がその村唯一の井戸を戯れに破壊したため、普段通りに水を飲めなかった少年がまだ幼い故に、言いつけの意味を理解できていなかったのか川の水を飲んだらしい。
その団員達はわざわざ、家々を回って水瓶を破壊していた様で、この様な光景見たさに行なったのは間違い無かった。
近くてその光景を見てゲラゲラ笑っていた彼らはターミネーターに川に叩き落とされ、自分たちも川の水を堪能することとなった。
ヤマトはそれを見て、もはや噛み締めた口から呻き声が漏れるだけとなる。
それからも次々に、映像が切り替わり説明が続く。
年貢の納めが悪いからと長年育てた畑に毒を撒かれ台無しにされる様を見せつけられて、殺されたという農夫の遺体。一面毒々しい色に染まる畑。
怒りのあまり床の石材を握り砕く。
言われの無い罪を着せられ、工場に連行され強制労働につかされた夫を助けるために無罪を証明する証人を連れて押しかけたが、夫は戯れで賭け相撲に参加させられ、負けて首を刎ねられていたと涙ながらに語る女性。
握りしめた石材が粉々のチリと化す。
怒りのあまり、我を失いそうになる。
しかし、映像が切り替わり、ここ数日で仲良くなった少女達が映り、正気に戻る。
1人は拳を握りしめ、悔し涙を流しながら俯いている。
もう1人はチラチラと、そちらとこちらを見ながら申し訳なさと心配さをブレンドした様な表情でオロオロとしている。
「やっぱりやめた方が良かったんです。こんな刺激の強い映像なんて見ない方が……」
そう言って説明したことを後悔している、アイリス。
「そんなことない、貴方だけに背負わせたりしない。私も知らなくちゃいけないんだ。世界のことを」
そう言って涙を拭うウタ、彼女が途中で辛そうな様子をするたびに、やはりアイリスが続行を渋るが、そのたびに継続を訴えて最後まで話させたのだった。
そんな様子を見てヤマトは強いなと思う。もしかしたら彼女なら何か大きなことをやってのけるのかもしれないと、茹で上がったところからやや冷めてきた頭に浮かぶ。
そんな彼女に少しおでん味を感じて、熱くなった頭とは逆に冷え切っていた心が少し暖かくなる感じがした。
しかし、冷静になってきたところで絶望的な現状を思い出してしまう。
怒ったところで、自分に何ができるのかと。
現状では、和の国に起きている悲劇の全ての元凶は和の国を収めている黒炭オロチだ。
彼ももともと大名暗殺を企てたものが出たからと言って、一族ごと迫害された黒炭の1人であり、憎悪の連鎖の犠牲者である。
しかし、きっかけはそうだったとはいえ、今では自分の意思で持って、明確に楽しむために国民を虐げる怪物と化してしまっている。
だから、唯一の救済にして現状の打開策は殺してやることであり、ヤマトの実力ならばそれは難しくない。相手が彼だけならば。
しかし、オロチのバックには現在、世界で最強は誰かと問われた時、サシでやるならカイドウだろうと言われる最強生物と彼が率いる強大な百獣海賊団がついているのだ。
恐らく、現状で勢力としてならば最強だと言われる海軍とて彼らを相手にして打ち破るのは容易ではない。
かつての最強の一角であった英雄ガープ、現海軍のトップである元帥にしてガープと並び称される仏のセンゴク、全員がロギアの実を食べ、高いレベルで覇気を使いこなすと言う実力者揃いの現3大将。それらを全て動員し、世界中から中将以下の優秀な海兵達をかき集めれば、勝てるであろうがしかし失うものも多すぎる。
それでカイドウと戦えたとしても、同レベルの戦力を誇る四皇達3人を筆頭に他の海賊にも無防備になるわけにはいかないのだ。
一応、世界政府側には他に四皇、海軍と同等と扱われる七武海も存在する。
彼らの戦力を合わせれば、四皇1人の勢力に優位は取れるであろう。
しかし、我の強い曲者揃いの七武海がまとまって戦うなどあり得ず、机上の空論である。
それに仮に理想を叶えたところで、確実に対抗できるのは二皇までで、消耗し切ったところを残りの勢力に平らげられては堪らない。
そして、事情はほかの勢力とて同じなため、皆大規模には動くに動けず、膠着状態となっているのが現状である。
だから、現状では現実的に四皇とその勢力を倒しうる存在などいないはずなのだ。
ヤマトはそんな世界情勢には通じていないが、しかし実際に何度もカイドウに挑んではぶちのめされてきたのだから、誰よりも彼の強さは承知している。
そんな彼に強力な海賊団があるのだ、勝てるわけがない。そう思ってしまう。
かつて、自身がなりたいと願うおでんならば卑怯な騙し討ちさえ無ければ勝てたかもしれないが、故人に願ってもどうしようも無い。
そんな、おでんというには力が足りない自分が情けなく、そのせいで悲劇が止められないことが悲しく、気がつけば今度は自分が悔し涙を流していた。
「どっ、どうしだんですか⁉︎急に泣き出して⁉︎」
アイリスは心配そうに狼狽する。
ウタはその涙になんとなく察するものがあった、シャンクス達についていけなかった自分の無力さを嘆くことは良くあったのだ。
「僕はっ!弱い!!あんなことをさせてるあのクソ親父が憎い!、もう、親とすら思いたく無い!なのに、弱いせいで僕にはこの国を救うことができない……、おでんならできるはずなのにっ!」
そして慟哭しながら、手を掲げる。
「僕に付けられた腕輪、これは爆弾だって言われてる。ここから逃げたら爆発するって。僕はそれが怖くて、君たちに見せてもらうまでこの島のすぐ傍なのに、おでんの国があんな目に合わされてるのに知りもしなかった!!」
そして、力なく腕を下げる。
アイリスは一転して興味深そうに腕輪を見つめる。
「僕はあのクソ親父を倒したい。身内のケジメを自分でつけたい。だけど、どうしようもない……。」
ターミネーターの一体がスッとヤマトの傍に寄って、腕輪を調べ始める。穴を見つけてどこから取り出したのか器具を差し込みカチャカチャといじる。俯いて、打ちのめされているヤマトはそれに気が付かない。
「こんな腕輪を怖がっている僕じゃ!!」
そう言った瞬間カチャリと音が響き腕輪が外れる。
そして、ちょうど同じタイミングでその腕が持ち上げられ再び、それを掲げようとしたヤマトは、漸く外れたことに気がつく。
一瞬、ポカンとした後、大口を開けて目を見開きながら叫ぶ。
「えぇっ⁉︎、外れてるぅ!!」
「単純な構造の鍵ですね、こんなの私にかかれば簡単に外せます!」
そう言って胸を張るアイリス。
そして、ターミネーターはさっさともう片方の腕輪も外してしまった。
そのまま、腕輪を調べさせる。
「確かに、強力な爆薬が仕込まれている様ですね。少量でも、強力なやつです。感度も高いはずですが……今までよく爆発しませんでしたね」
「あのクソ親父!!やっぱり本物の爆薬だったんだ!、でも、これで自由ダァ!!」
そう言って飛び上がるヤマト。今まで抑圧から解放されて気分もも舞い上がる。今ならカイドウだって勢いで倒せそうなくらいに思う。
そんなヤマトにウタが問いかける。
「ねぇ、ヤマト、カイドウを止めるために戦うつもり?」
彼女にとっては他人事ではない。彼女も実の親の様に信じていた相手が罪を犯したと思っている。
ならば、自分もいつかはヤマトの様にケジメをつけなければならないのかと、そう考えてしまう。
「君たちのおかげで決心がついた。今度という今度は徹底的にやってやる!!絶対にあいつを倒す!!」
そんなヤマトの決意に、今は許せないと思ってしまった、凶行を続けている存在をなんとかしなければと思い直し、自分を奮い立たせる。
「なら、私も一緒に戦う!あんなやつ私も許せない!」
「ウタが戦うなら私もやります。あんな胸糞悪いことは放っておけません!」
そう言ってくれる友人達に、ヤマトも目頭が熱くなる。
「君たち……、ありがとう。でもいいの?勝てるかどうかなんてわからないよ?」
「何弱気なことを言ってるの、絶対に勝つんだから!!私の歌なら、カイドウだって倒せる!」
「そうです!、開発が完了したメガトン級の新型爆弾を持ってすればこんな島、2、3発もあれば跡形もなくなります!あっ……でも、近隣に大量に放射性降下物が降り注ぐのでやめた方がいいですね。まあ、通常兵器の量産も進んでますしなんとかなりますよ」
嬉しいのだが、ヤマトにはよくわからないことを言う2人に頼っていいのかわからずに、やっぱり2人の参加は止めた方がいいのか悩み始めた。