ウタ達が和の国の現状について話している頃、百獣海賊団をまとめるカイドウは、先の飛行船について何度目になるかわからない考えを巡らせていた。
今までの人生の中で、あれは異質なものに思えてならなかったのだ。
この世界では彼が知るだけで大型の飛行物体はいくつかある。
一番有名なのは世界新聞社の本社であろう。巨大な気球にぶら下がった船を多数の鳥達が牽引して進むそれは世界各地の空に現れる。そんな形式の本社にしているのは、社長のモルガンズが偏向していようが、捏造であろうが本人が報じたい内容を報じる、イエロージャーナリズムの体現者であるため、記事の内容で恨みを買った相手の襲撃を躱すべく常に位置を移動しているためである。
後は自身のかつての仲間であった金獅子のシキが自身のフワフワの実の能力で浮かせた島である。
しかしいずれも一品ものかそもそも自然の造形物である。後者はともかく、前者の様な一品ものにはデザインにそれを製作したもののこだわりが出るものだ。
しかし、あの船は余りにもその様なものが無く、画一的な大量生産品の趣を感じたのだ。
そんな自身の勘を信じるなら、あれほど巨大な物体が複数存在することになる。
そんなことができるのは世界政府か自分の様な四皇と呼ばれる大きな勢力だけのはずである。一国や一海賊団レベルでは、その様な生産力は無い。
しかし、各勢力の情報は収集しているが、あんなものを作る動きを見過ごしていたのだろうか?
しかもただ巨大なだけでは無く、完全な無人での運用が可能な高度な機械兵器らしい。それも、油断をついたとはいえ、キングを追い込むほどの性能のある。
そんなものを作れるとしたら、知る範囲では世界政府が囲っていると言う、天才ベガパンクしかいないだろう。
百獣海賊団にはやはり天才科学者であり、大看板の1人、疫災のクイーンと呼ばれる男が所属しており、彼の作ったサイボーグが活躍しているが他の四皇にそんなメンバーは居ないのだ。
となると、世界政府側とその傘下にある海軍が攻めてきたと考えるのが妥当……なのだろうか?
しかし、そうにしては余りにも突拍子もない気がするのだ。
海軍にとっては、四皇勢力は最も警戒する相手であり、勢力同士の衝突どころか、接触ですら最大限に警戒する。
まかり間違って、四皇同士の対海軍同盟など作られては堪らないのだ。
理論上は四皇2勢力までなら海軍と七武海で、圧倒できる戦力があるはずだが、あくまでも理論上であって、実際に集結可能な戦力だと1勢力の相手がやっとだと思われる。
その頼みの綱の七武海はもともと世界政府にとって脅威になりかねない海賊や、四皇への対抗戦力として有用そうな海賊が契約を交わした存在である。契約内容はかけられた懸賞金を取り消し、世界政府非加盟国や他海賊への掠奪行為を見逃す代わりに、いざと言うときは世界政府側で戦うと言うものである。
だが、七武海は基本政府の言うことを聞かず、あくまで契約に利益を見出して結んでいるに過ぎない。結局はそんな強力な海賊が敵に回らずに済み、海賊同士で潰し合いをしてくれるだけありがたいと言う状況なのだ。
さらに海軍の敵は四皇だけでは無く、世界中で無限に湧いてくる海賊達の相手もする必要があり、そちらでも手を抜くことはできない。
なぜなら、その中には時折、あっという間に七武海に匹敵する戦力へと成長するもの達が現れるためだ。
そう言う連中を野放しにしておくと、あっという間に世界政府を支える各国を荒らされ放題になってしまう。
現状は海軍に頼らずとも、自前の軍備で海賊を撃退し、平穏を維持できている国や地域も七武海クラスの海賊に襲われたりなどすれば容易く滅びるのだ。
ただでさえ、その辺の雑魚海賊にすら数のせいで手こずっていると言うのにそんなものに好き勝手に暴れ回られては堪らない。
なので、余程の決断がなくては海軍も全力を対四皇戦に投じるわけには行かないのだ。
少なくとも七武海クラスに対抗するには、貴重な中将でも上位クラスの実力者が最低でも必要なのだから。
最近では火拳のエースなる海賊が、登場してからたった一年足らずのうちに七武海の就任を打診されるまでになり、それを蹴った挙句、四皇に喧嘩を売って回っていた。
この鬼ヶ島にも自分の留守中、乗り込んできて好き勝手に暴れた様だ。そのことは腹立たしいが、そんな生きの良い狂犬ならさぞ自分の戦力として有用だっただろうと残念に思う。
どうやらその海賊は白髭の傘下に収まったらしい。
カイドウは、強い海賊を見るとぶちのめして心を折ってから自分の海賊団に加えたがる。
たとえ、敵だった時にどれだけ敵視していても、部下にさえ加われば、水に流し実力さえあれば重用する。
そうやって百獣海賊団は規模を拡大させてきたのだ。
それゆえに百獣海賊団はカイドウ1人の圧倒的な武力に心酔したか、恐れ従うもの達の集まりであり、彼1人が欠ければ、容易に瓦解する集団となっている。それが最も困難なのだが。
カイドウは疑問に思う。
世界政府と海軍が、四皇相手にいきなり新型兵器を突っ込ませたりするだろうか?
勢力の均衡に腐心し、なんとか現状維持を行うのがやっとな連中が悪戯に相手を刺激する様な真似を?
その兵器で四皇だろうと相手どれると自信を持ったのなら理解できるが、そのためには他で事前に実戦投入して確認するのでは無いだろうか。
そうすれば自分の耳にも入るはず。
それにそうだとしても、単体で突っ込ませたりせずに、本格的な侵攻作戦になるのでは無いのか?
目的のために、今回のことがどう影響するか考えを巡らせる。
彼の目的は、暴力による自由と平等。
殺し合いの中で、全てが決まる地獄の様な世界こそが彼の望みである。
彼自身の夢がその中にあるのだ。
彼は人は死によって完成するとの人生観を持っている。
だから自身も壮絶な戦いの中での死を求めているのだ。
だが、最初からそうであったわけではなかった。
幼い頃から戦争に駆り出され、戦い続けてきた彼には、天竜人の様な力もないのに偉そうな連中が理解できなかった。
だから、全て暴力によって引き摺り下ろす。
若い頃に抱いた、そんな考えに賛同して、カイドウがやがて世界を変える存在、ジョイボーイになるのだと信じてついてきてくれる者もいる。
以前はそんな期待に応えようとがむしゃらに強くなろうとした。
しかし、気が付いてしまったのだ、自身ではジョイボーイにはなれないと。
彼は自分に、世界に絶望していた。
強敵との殺し合いは、彼にとって楽しみであった。
幼少期より戦いの中に身を置く彼は、それしか他者とのコミュニケーションを知らなかった。
対等な相手との、身を削る様なギリギリのやりとり。
そんな中にこそ、彼の生き甲斐があったのだ。
しかしながら、彼はだいぶ前から強くなりすぎた。
どんなに強敵と呼ばれる相手と戦っても、最後は自分が勝つと分かりきっている。
ギリギリのやり取りなど滅多に生じない。
彼はいろいろなものを抱え込んだ。
以前は良かった、身軽な身で強い相手にただ突っ込み勝てばいいし、負けて捕まって最悪殺されても自己責任。
しかし、海賊団を作りトップに立った。部下を露頭に迷わせるわけにはいかない以上、勝てる見込みもないのに、無闇矢鱈と突っ込んでいくわけにはいかなくなった。
昔だったらそれこそギリギリの戦いがしたいならば海軍本部なり、他の四皇の所なりへ突っ込めば済んだのだ。
しかし、ついてくる海賊団のことを考えると今はそんな無責任なこと出来やしない。
生きがいを感じることができないことに苦悩し、そんな有様ではジョイボーイなどではないと絶望した。
だから、考えをあらためたのだ、自分を倒せる様な強者が現れたらきっとそいつが真の改革者ジョイボーイなのだと。
だから、そんなジョイボーイであろうものに、戦って倒されるのが自分にとっての理想の終わりだと考える様になった。
しかし、現状ではもはや、自身を理想通りに殺せる存在などいないのでは無いかとの不安が彼を責め苛む。
特にこの16年ほどは、彼の理想に最も近づいたある男の存在が彼を苦悩させている。
おでんという、自分を後一歩のところへ追い詰めた存在。
余計な気を回したものがいたために、結果は自分が勝ち、おでんは破れ死んだ。
海賊の世界に卑怯も何もなく、戦いの結果としてそうなったのだから後悔などない。
しかし、もしかしたらあの時、自身は理想の死を遂げられたのではないかと言う思いが、彼の心のしこりとして残り続けていた。
そして、世界に対する絶望と傍観は突発的に彼を追い込み、衝動的な自殺を図らせることがよくある。
しかし、彼は死ねない。余りにも頑丈すぎる体は高度1万メートルの空島からの無防備な飛び降りすら傷一つ負わない。
そんなことがさらに彼を絶望させる。
だからこそ、全てを終わらせる世界を巻き込む最終戦争を起こすのだ。
派手で破滅的な戦いの中に、世界中の強者達を巻き込み、その中で戦って果てる。
自身の望みを叶えるためにはそれしかないと考える男は、故に自身の海賊団を手段を問わず強化してより破滅的な戦いを起こそうとする。
理想の戦いを起こすために、理想の環境を整える。その邪魔になりそうな要因が何か動き始めている様な予感がして、しかし、それもまた自身の理想を叶えてくれる存在かもしれないと期待を抱くのだった。
ウタとアイリスは、準備が整い次第、和の国での戦いのために移動を開始した。
今回は空路での移動が確立されたため、ウォーターセブン近海まで飛行艇を飛ばし、迅速な移動が可能となる。
そのために、しばらく小型船でクルージングということにして、ウォーターセブンを出港した。
船の用意は、アイスバーグが便宜を図ってくれたため迅速に完了し、あっという間に飛行艇での移動となる。
今回用いる飛行艇は開発されたばかりの新型で、同時期に開発された新型重爆と一部パーツを共有している。
なお、ウタ達との交流で外界でヤードポンド法が廃れていることを知った結果初めてメートル法で作製された航空機である。今後、世界との交流のに備え、他の生産設備も順次そちらに対応している。
全長70m翼幅100mの、極めて巨大な機体に4000馬力と言う破格の出力のレシプロエンジン8機を積み時速400km以上の速度で飛ばす。
お陰で、波の高い外洋でも問題無く離着水を可能としている。
また、防御用に機体各部に新開発の30mmリボルバーカノン砲を備えており、薬室を複数持ち回転させながら次々と装填することでこれまでの機関砲と比較して圧倒的な発射速度を備えている。それは一門で毎分1500発に達し、連装式で3000発と、従来の10倍の発射速度を達成した。
30mm機関砲弾は25mm程度の装甲なら貫通する威力があるため大抵の目標は弾幕に包まれた瞬間に血煙と化す。
また、新しい機構として空中給油装置を搭載している。これは飛びながら専用のプローブを給油元の機体からの垂らしたホースに差し込むことで給油するもので、お陰で給油機さえ用意すれば、飛行場に降りずに世界中のどこでも飛んでいくことが可能となった。
作戦に参加する重爆撃機にも備わっており、大量の爆弾を抱えても問題なく和の国まで飛んで行ける。
更に、悪天候対策と索敵のために、高性能なレーダーを機首に積んでおり、雨雲の発生や敵の接近を探知して回避することが可能だ。
特に効果的に用いるために、同型機が複数先行して飛んでおり。より遠方でサイクロンの突発的発生等を知ることができる様に手を打ってある。
それだけ以前に味わったグランドラインの天候不順に懲りたらしい。
入念な対策のおかげもあり、呆気なくグランドラインからカームベルトを抜けてサウスブルーへ移動することに成功し、そのままレッドラインを超えてウエストブルーへ向かう。
アイリスの掘っていたトンネルの終着点である、ネオアトラス島を経由して、既に出撃した大艦隊に追いつく。
上空から見た艦隊は船が七分に、海が三分な割合であり、空から一望できる海面を覆い尽くしていた。
その総数は戦闘艦艇と輸送艦、支援艦艇合わせて1000隻を優に超える。
アイリス率いる機械軍の建軍史上、といってもまだ5年ほどしか経っていないのだが、ともかくとして初めての遠征ということで張り切って準備して送り出した一大戦力である。
「すごい!こんなに沢山の船が集まってるの初めて見た!」
「そうでしょう、そうでしょう。アトランティスを滅ぼした海軍の艦隊すら、隻数だけでも大幅に差をつけてますし、カイドウと一部の幹部さえなんとかできれば和の国の攻略に不足はないはずです!」
そう言って自信満々なアイリス。
ウタはそんな友人を頼もしく思う。
そして、だからこそ自分も頑張らなければと思い、対カイドウ戦に向けて気合を入れ直す。
自分のウタウタでウタワールドに連れ込めば勝てるはずだとは思う。
だけど、もしそれでもダメならば、再びあれを使うしかないのかもしれない。
かつて、アイリスを止めるために使った力、トットムジカ。
あれを使うのは、余り気は進まない。
自身を蝕む、負の感情の嵐はもし飲み込まれてしまえばどうなるのかと不安に思う。
しかし、あんなものを見てしまった以上、放っておくことなどできない。
理想の新時代を作るためには、あんな所業を許すことなどできないのだ。
だから、絶対に勝たなければならない。
そのためならば、使いこなして見せると覚悟を決める。
「あっ、見えてきました。あれが旗艦です。着水しますから、準備してください」
アイリスの言葉に窓から外を覗く。
「大きいね!それに、頼んでおいたものもついてるみたい」
「はい、動作テストも問題ありませんでした。後は実戦で通じるかどうかです」
艦隊の前方寄りの中央を進んでいる、全長200mを超える艦に囲まれながら、なお倍以上の巨大な一隻に向かっていく。
ただでさえ巨大な排水量10万トンを超える巨艦の周りに6隻の戦艦をドッキングさせ、予備浮力を高めて沈みにくくした船である。
合計排水量は35万トンにも達し、全長480m幅220m、搭載する主砲は口径こそ36センチと巨艦の割に小さいが、連装14基、28門と数は周辺の戦艦の3倍以上である。
短期間でカイドウの放ったビームに余裕を持って耐えられる装甲と十分な浮力を持つ艦を用意すべく、元から巨大な対地攻撃用長距離砲を洋上から運用できる様に比較的低コストで用意できる安定した発射台として建造していたものを流用したのだ。
今回は最悪トットムジカの投入もありえると想定して、ウタを安全に最前線へ連れていく必要があり、万全を期すため用意した。
更に、彼女の意向でその能力を活用するための新兵器も搭載されている。
その周囲を囲むのは、新規に建造された36センチ砲を連装4基8門搭載する全長220mの戦艦である。
それが、50隻新たに建造、配備されている。
巡洋艦や駆逐艦も大型化し、性能向上を果たした新型艦が大量建造された。
特に艦隊の数的主力を務める駆逐艦は300隻以上が急速建造されている。
また、今回新しく加わった艦種として航空母艦がある。
小型のレシプロエンジン単発の攻撃機を100機搭載可能な240m超えの艦が30隻艦隊に加わった。
艦載機はいずれも3000馬力エンジン搭載の攻撃機であり、20mm機関砲を翼内に装備し、爆弾3トンを搭載可能としている。
全般的に新型艦はブロック工法と溶接結合の採用で、建造スピードが大幅に向上している。また、機関もレシプロ式からギアードタービンに変更されて燃費、船速共に向上している。
それ以外にもトットムジカ戦に参加していたのと同型の従来艦も、ウエストブルー側では無傷だったので今回の作戦に参加している。
また、艦隊の運用にも気を配っている。
これだけの大艦隊だが、その動向が世界政府に察知されない様に手は尽くしていた。
艦隊の通過海域には予め潜水艦と観測用の小型飛行船を配置して、海域に侵入しそうな船に潜水艦が接触し、怪物に襲わられたと思わせて追い払っている。
お陰で、ウエストブルーのかなり広域で後々まで怪物騒ぎが続くことになる。
艦隊はウタとアイリスを収容し、いよいよカームベルトへ突入する。
一応、海王類除けの音を発してはいるものの、やはり艦隊に向かってくる超大型が多数現れた。
その度に常時打ちっぱなしにしているアクティブソナーで探知し、艦隊に随伴している重爆撃機から核爆雷を投下し接近する前に遠方でまとめて処理するか、駆逐艦からの核魚雷の投射で吹き飛ばす。
なんとかカームベルトを押し渡ると、グランドラインに侵入、ログポースやエターナルポースを使った船が通る主要航路を避けて作戦目標の和の国へ向かう。