新世界、そこは地理的にはレッドラインによって分たれたグランドラインのうち、惑星の北半球側に存在する海である。
そこは、グランドラインの中でも一際異常な気象や、現象が発生する場所であり航海の難易度ももう半分とは段違いである。
さらに、その海には世界政府と世界を分割する一大勢力たち、四皇とその海賊団の縄張りが存在する。
大海賊時代において、海賊たちが順当に航海するならば、リバースマウンテンから入る南半球側のグランドラインが前半となり、そこから深海の魚人島を通り、レッドラインを潜り抜けて新世界へ到達する。
だが、航海難易度の高さとそこに皇帝の如く君臨する大海賊団の縄張りを抜ける必要から、海賊王以降、一つたりとも海賊団が無事にこの海を通り抜けたことはない。
異常気象に沈められるか、海の皇帝達の勢力いずれかにより壊滅、もしくは吸収されることになる。
そうやって夢破れた海賊たちは、前半の方がまだマシであったため、そちらの海に楽園などという実態に合わない通称がついたりしている。
実際は南半球側でも異常気象は頻発するし、海王類による襲撃もままあるため、とてもではないが簡単に航行できるような場所ではないのだ。
そして、海賊たちにとっての最大の壁となっている四皇だが、脅威度はそれぞれでまちまちである。
まず、一番危険性が高いとされているのがカイドウ率いる百獣海賊団である。
トップのカイドウが、戦力の収集に熱心で、見つけた有力な海賊団はぶちのめし、心を折った上で自身の傘下に加えようとするため穏便に通り抜けるなど不可能である。
特にそのカイドウが突発的な自殺衝動に突き動かされて不規則なタイミングで空を飛んで移動しているため、時折偶然かちあうことがあるのだ。そうなれば最強生物と真正面から戦うハメになる。
また、民間人にとっても最も危険な海賊団である。
他の四皇が自身の縄張りを直接国家として運営したり、既存の国に自身の旗を貸して、手を出してくる海賊がいたら自身のメンツにかけて排除する契約を交わす等、奪うだけではなく庇護も与えることで、それらの国から対価を徴収し、巨大な海賊団とその傘下の無数の海賊たちを食わせているわけである。
しかし、百獣海賊団はそんなことしていない。四皇になってもやっいることは国々からの略奪であり、庇護を与えることはない。あくまでも彼らにとっての勢力圏とは略奪のための活動範囲に過ぎないのだ。
一応、百獣海賊団や傘下の海賊団が支配している島もあるにはあるが、そうなれば住民は全て奴隷とされ死ぬまで過酷な強制労働が課せられるため、住むものにとっては地獄である。
なお、他の四皇は本拠地が世界的に知られているが、百獣海賊団のみ鎖国中の和の国に存在するため不明扱いになっている。
知っているのは情報収取能力に優れた世界政府と四皇海賊団くらいである。
次に危険なのが、ビッグ・マムことシャーロット・リンリン率いるビッグ・マム海賊団である。
ビッグ・マム海賊団は珍しい、国を治める海賊団である。
国の名前は
ビッグ・マム自身は、幼い頃から化け物の様に強い、突然変異という他ない人間だが、一方で精神的には幼い頃のまま成長を止めた幼稚な部分と、狡猾で老獪な海賊としての部分を併せ持つ、怪物という他ない老女である。
そんな彼女は、その異名に相応しく、8m近い巨体と60歳になるまでに42年間毎年、自身の産んだ85人もの子供がおりその中には強力な悪魔の実の能力者が何人もおり、海賊団の幹部や各島を治めるトップを勤めている。
そんな彼女は、一度でも自分の勢力圏に足を踏み入れた存在は自身の支配下に入れ、そこから抜け出すことを決して許さない。
もしそれを望んだ相手には、その身内まで巻き込む苛烈な制裁を課す。
そのため、彼女の目に留まった海賊が彼女の勢力圏を抜けることはほぼ不可能である。
唯一と言っていい例外はマムの夫になることであり、彼女が興味があるのは自身の産んだ子だけなので夫は子供が出来次第放逐されるためマムの元を去る事が許される。
ただ、マムが気にいるのは基本、珍しい種族のものだけなのでまずありえない話だが。
一方、海賊としては傍若無人、残虐非道の限りを尽くす彼女だが、意外なことに自身の国の統治はこの世界の国の中ではまともな方である。
これは、彼女自身はともかく、その子供たちは割とまともな人格の持ち主が多く、自身の治める島で善政を敷いているためである。
また、彼女も身内に対しては、従ってさえいれば危害を加える様なことも基本的には無いため、この様な事が成り立っている。
ただし、上手い話ばかりではなくリスクもある。
まず、税として取り立てられる寿命である。
万国の住民は半年に一度、1ヶ月分の寿命を抜き取られそれだけ死が早まることになる。
そんな事を可能にしているのは、マムのソルソルの実の能力によるものである。
これは、自身や他者から抜き取った魂を物に宿らせて人格を与えたホーミーズと呼ばれる存在を作り出し、使役する能力で抜き取った魂の分だけ寿命が減るのだ。
国民から集めた魂によって、大量のホーミーズが作り出されビッグ・マム海賊団の重要な戦力となっている。
もう一つの、そして致命的な問題は時折マムの起こす食い煩いという発作である。
これは特定の食品食べたさに、満足のいく味のそれを食べるまで、我を失って無差別に暴れ回るという物で、これが起こると容易に万国を壊滅させるのである。
そのため、ビックマム海賊団は常に世界中から珍しい、美味な食材を収集しいざというときに備えている。
また、特にマムはお菓子類が好物であるため、万国以外の国とも、大量のお菓子の提供を引き換えに防衛の後ろ盾となっている場合もある。
ただしこの場合、少しでもお菓子の量が足りなかったり、納入が遅れたりすると激怒し滅ぼしにかかるためリスクのある取引である。
上記2つは危険とされる勢力であるが、残りの2つの四皇勢力は気に入った島に対してという但書があるものの、自身の旗を貸し、防衛を買って出て、対価は取るものの世界政府の天上金の様に貧しい国なら国民が重税で暮らせないほどには搾取しない割と善良な庇護者であったりする。
ただし、あくまでも海賊なため旗を貸しているわけでもない島や商船からは略奪を行う。
そうであっても、さまざまな理由で世界政府の庇護を受けられない島々にとっては非常にありがたい存在であった。特に世界中から新世界に強大かつ凶悪な海賊たちが押し寄せる、この大海賊時代に於いては。
まあ、だからこそ世界政府からはお株を奪う、危険な存在として敵視されているわけなのだが。
とはいえ、それは一般人の話で、同業の海賊は当たり前だが容赦のない敵対対象なため、その勢力圏に足を踏み入れた海賊たちは、気に入られて四皇傘下の海賊団となるか、全てを奪われ壊滅するかのどちらかを選ばされることとなる。
そんな四皇の1人、赤髪のシャンクスは今日も仲間たちと共にレッドフォース号に乗り込み、自身の縄張りにさえ襲撃にやってくる百獣海賊団を牽制すべく彼らとの勢力境界付近へやってきていた。
ここに来るまでの海域で海軍の艦隊が、20隻ほど行手を阻もうと布陣していたのだが、全艦乗員全員が司令官を務めていた中将諸共気絶させられ全滅している。
彼は他の四皇と異なり悪魔の実を食べてはいない。にも関わらず四皇に上り詰めたのは、その人並外れた覇気の強大さと練度による戦闘能力によるものである。
特に覇王色の覇気の強さは凄まじく、海軍本部の中将すら生半可な実力ならば意識を持っていくほどである。
「ッ!、お頭!この気配は⁉︎」
甲板へ佇むシャンクスと副船長ベン・ベックマンの元へ一味の狙撃手にして、最も見聞色の覇気に秀でたヤソップが駆け寄る。
「ああ!、この気配は間違うはずが無い!まだ距離はだいぶ離れているが」
慌てた様にそう言う、シャンクスとヤソップ。
ベックマンが冷静に尋ねる。
「ヤソップ、あいつがどこに向かってるか分かるか?」
「ああ、ちょっと待ってくれ。……おい!!和の国の方角に向かってるぞ!」
それを聞いた瞬間、シャンクスから凄まじい殺気が発せられる。
それもそのはずである。現在、エレジアで歌手を目指しているはずの娘がなぜこんなところに来ているのか?
そして、何故、四皇海賊団のひとつにして、最も危険な勢力と言われる、百獣海賊団の本拠地がある場所へ向かっているのか?
その問いから連想される最悪の展開を考えれば、彼らにとって大切な娘がどんな目に遭っているのか予想がつけばそうもなる。
「連行してるのは誰だ?カイドウのとこの幹部の誰かか?」
それでも冷静さを失わないベックマンが、少しでも情報を探ろうとさらにヤソップへ問いかける。
「分からん。何かがいるのはわかるんだが、全く意思が感じられん!」
「となると、お頭並みの実力者か、それとも何か別の要因か?ともかく、わざわざここまで生きたまま連れてきたんだ。恐らく連中の狙いは、俺たちの娘か、それともウタウタの実のどちらかだろう」
「そうだな。……だが連中が何を考えていようが、どれほど強かろうが俺たちの娘に手を出したんだ。相応の落とし前をつけてもらおうじゃないか」
そして、シャンクスは集まった仲間たちに宣言する。
「野郎ども!!戦争だ!!!俺たちの大切な娘に手を出せばどうなるか思い知らせてやれ!!」
「オオッ!!!!」
「待ってろよウタ!!今助けるからな!!!」
こうして、和の国の戦いに更なる陣営が参戦することとなる。
和の国の近海、過酷な航海を乗り越えてここまでなんとかたどり着いた、総数1000隻余りの機械軍艦隊旗艦へ和の国を抜け出したヤマトも合流した。
鬼ヶ島から和の国のへの連絡船に忍び込み、和の国の住人が死に絶えた結果できた無人地帯へ派遣したヘリコプターを使って移動してきたのだった。
初めて見る飛行機械におっかなびっくり乗り込み、更に空から和の国の近海を埋め尽くす大艦隊を見て唖然としたまま司令室へ案内される。
そこは何枚もの分厚い装甲板と間の空間によって守られた巨大な船体の中央部に位置し、理論上カイドウの龍形態時の必殺技の一つであるホロブレスを浴びても耐えられる様になっている。
分厚い隔壁を通る扉を抜けると、いきなりウタに抱きつかれる。
「映像越しには何度もあったけど、一応初めまして、私がウタだよ!」
「アイリスです。よろしくお願いします」
そのまま、挨拶されて我に帰るヤマト。
「あ、ああ、僕はおでん、今回は和の国の為に戦ってくれて感謝する」
「もうっ!そんな堅苦しいのはいいよ、私たちは、もう友達なんだから」
「ヤマトが無事に合流できて何よりです。早速今回の作戦内容について説明したいと思います」
そして、薄暗い司令室前方を覆い尽くす巨大モニターに映像が浮かぶ。
それは、和の国を上空から撮影した映像であった。
「いつのまにこんなもの撮ったの?」
「ついさっきです、試作の高高度気球が上空に到達しましたので撮影を。高度5万メートルも上空の小型気球となると流石に探知できないのか今のところ反応はありません」
そんな話についていけないヤマト。
それも当然である。実は彼女はウタたちと出会ってから交わした通信のかなりの割合をおでん語りに費やしていた。
普段は話したいのに話せない、偉大な英雄録。
しかも相手も聞いたことのない、しかし魅力的に語られる話に聞き入ってくれていたため、ついつい話し込んでしまっていた。
そのおかげで、ヤマトのおでんに対する純粋な尊敬の心は理解してもらえ、単なる他人の名前を騙る変人との汚名は完全に払拭することに成功したのだ。
さらにウタとアイリスのおでんの解像度が上がり、例の映像を見る前から和の国にも同情的になってくれたので効果はあったのだが。
特にアイリスに対する効果は大きかった。実はそれが無ければ今回の大遠征はなかったか、大幅に後ろ倒しになった可能性が高いのだ。
アイリスは基本的に旧アトランティスの国民と自身で友人だと考える相手以外に対してはシビアな判断を行う。
最初期から組み込まれた判断ロジックに自身で拡張した部分を含めてそうなっている。
ただし、基本的な良心も持たせられている為、無辜の人々を好んで傷つける様なことはない。
でも、利益もないのに見ず知らずの人々の為に、犠牲を覚悟で助けに行く様な判断はしない。
たとえ友人であるウタが望んだとしても、現時点でカイドウの能力に不透明な部分がある以上、慎重姿勢を見せただろう。
なんといっても、この世界において現状、和の国に起こっている悲劇などありふれているのだ。
単に加害者が百獣海賊団員から他の海賊や侵略国家の軍になるだけだ。
にも関わらず、リスクを犯してまで和の国を優先する理由とは何か、そう問われてウタは答えられなかっただろう。彼女にとっては世界全体が等しく救済対象なのだから。何かしらの個人的な思い入れを除けばそこに優劣など存在しない。
確かに和の国の海楼石は魅力的な資源である。
しかし、空路を行く方法が実証された以上、今すぐ必要なものでもない。
となれば、更なる情報収集、兵器の性能向上を待ち万全を期して全てを救えば良い。
そう言う説得で、後回しにされていた可能性が高い。それでは最終的になんとかなっても、その間に死ぬ犠牲者は膨大な数になったであろう。
そうはならずに彼女を動かしたのは、おでんという人物への共感と同情であった。
自分が不在の間に予想だにしない理不尽で国を乗っ取られ、国が手遅れになる前までに動くことができたが、しかし力及ばず救うことができなかった。
アイリスは自身の国を無くしたものである。気がついたときには全てが手遅れであった。
何度となく夢想したのだ、もし、あのとき自身が既に存在していれば、いまの強大な戦力を既に有していれば、押し寄せる海軍など容易く殲滅し、救うことができたのだと。
そうすれば、あのいつか会いたいと願った良き人たちは今もいてくれたかもしれない。
おでんは、間に合ったのだ。
しかし、力及ばすに終わった。
その無念は如何程であったのだろう。
彼女は機械である。であるから人と同じ心は持たない。しかし、似た様なものはあるのだ。
だから、彼女はおでんに報いる為に現在保有する戦力の大半を投じて和の国にいる百獣海賊団を叩き潰す事にしたのだ。
そして、ウタにしても海賊に乗っ取られる国に同情した。エレジアももしかしたら滅ぼされるのではなく、そうなっていたかもしれないと。
だが彼女の場合はそもそも、そんなことを聞かずとも非道が行われているならば民衆を助けるべく立ち上がる側の人間なので、相対的に影響は少なかった。
より早く新時代を作るべく焦りを感じるようになったが。
ヤマトはしかし、そうやっておでんについて理解を深めてもらう代わりに、2人について知るのが後回しになってしまっていた。
2人とも聞き上手で、気がつけば自分について一方的に話していたのだ。
なので、2人の能力はもちろん、どこに住んでいるか等の基本的な情報すら覚束無い。
しかし、これも実は悪くない結果であった。
ウタは割と過去に大量に地雷が埋まっており、下手に突くと何に当たるかわからない。家族や、出身地等、基本的な過去の話題はまずい。
アイリスに至っては今まで何をしていたのかが全てアウトであるため、親友認定をされるまであらゆる話題にカバーストーリーが帰ってくるだけで、聞くだけ時間の無駄である。
よって、その部分でもパーフェクトコミュニケーションを決めていた。誰にでも当たり障りのなさそうな会話が本当にそうとは限らないのである。
ヤマトはその代償として、今更そんなことを聞く気まずさを味わっては居たが。
「あのー、話についていけてなくて申し訳ないんだけど、何について話してるの」
そう、普段と彼女らしからぬ控えめな主張に、そういえばヤマトには重要情報は話していたかったと、説明する。
「失礼しました。私は元々いろんなものを作り出す工場の管理、拡張、資源調達、生産品開発までおおよそものを作る際に必要な全てを自動で行う為に作り出された存在なんです。なので、この船も周りの船も、ヤマトを運んできたヘリコプターも私が1から作ったものになります。あの映像を撮影しているものも新しく開発して作ったものです。現在、和の国の上空のとても高いところから撮影させています」
「すごい!あんなに沢山の船を全部作ったのか⁉︎」
「私にかかれば大したことではありません」
「あの牛ゴリラの艦隊なんて足元にも及ばないよ!」
「そうでしょう、そうでしょう。高々、この狭い新世界の一部の小島を占拠している海賊如きに生産能力で負けるつもりはありません」
直球で褒められて胸を張るアイリス。ちなみに彼女の工場群はアトラス島地下の空洞に収まらずに、更に広範囲に広がり続けており、かつてよりも更に異次元の生産能力を獲得しつつある。
仮に今回の遠征に参加した全艦艇を失ったとしても、涼しい顔でより高性能な艦隊をより数を増やしつつ用意してくるだろう。
「あと、ウタはウタウタの実を食べた全身歌人間です」
「ちっがーう!私はそんな変な能力じゃない!」
気分が乗ってきたのか突然ジョークを飛ばすアイリスに突っ込むウタにヤマトも乗っかる。
「えっ、でもゾオン系じゃないの悪魔の実ってそうなんじゃないの?ちなみに僕はイヌイヌの実の能力者だ」
「何その偏見⁉︎、え、ヤマトも悪魔の実の能力者だったの!」
実は今まで自分以外の悪魔の実の能力者とほとんど関わったことがなかったウタが驚く。
「確かに、全身犬人間て単なるミンク族ですもんね。悪魔の実らしい異形感が足りません」
「そんなもの必要⁉︎、ていうか私に感じてたの⁉︎」
「ほら私のボディもロボットですし、人外同士のシンパシーとかそんな感じです」
急に照れたように言うアイリスに、それだったらと悪くなく感じる。
「そうだったんだ、本当に?」
「単なるジョークです」
憤慨するウタに、久しぶりに心から笑うヤマト。
そうやって、楽しげなやりとりをして、なんだかんだで緊張していたヤマトをリラックスさせつつ作戦会議に入るのだった。