ウタと機械と新時代   作:またたびライト

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第26話

「カイドウの誘導に成功しました!もう間も無く予定空域に達します!!」

そう告げるアイリスには、機械軍全体の戦況がデータとして送られている。

以前は、アトラス島から離れると大群のリアルタイムでの指揮は難しかった。しかし、今回の遠征を実現するために彼女は自分の有り様を変化させることでそれを可能とさせた。

 

彼女は既に、1つのボディに縛られる存在ではなくなっている。

人格は今まで通りだが、複数のボディの中に偏在し、特にアトラス島地下の大容量コンピューターに常に人格がインストールされた状態のため、生産及び技術開発の効率は段違いになり、どちらも加速しつつある。

 

また、通信規格のアップデートにより大容量通信が可能となり、世界中どこにいても機械軍のリアルタイムでの効率的な指揮が可能となった。

いや、もはやどこにいるという表現も正しいのかは分からない。

もはや彼女には身体の場所など意味はないのだから。

ある意味、ウタの理想としていた体に縛られない存在が実現しつつある。

だが、それでもウタワールドには行くことはできないのだが。

 

ウタは自分の夢のために、有り様すら根本的に変えてしまうアイリスに複雑な思いを抱いたが、とりあえずさらに死ににくくなったと聞いて喜ぶことにした。

彼女はもはや親しいものが、居なくなるのは何としても防ぎたかったのだ。

 

「カイドウが目標地点に到達しました!」

「それじゃあ、行ってみようか!スーパーソニック砲発射用意!!」

そうウタが宣言し、マイクを握る。

旗艦から巨大なスピーカーとしか言えない物体が展開される。

これは今回の作戦のために開発された新型の音響兵器である。

もともと音響兵器とは、人にとって不快な音を相手に聞かせることによって戦闘不能なほどの体調不良に陥れる兵器である。

音に指向性を持たせ、遠距離の目標にも効果を及ぼすことも可能である。

 

その性質を利用して爆音轟く戦場の中でも遠距離から安全に確実にウタの歌を相手に届けるのが今回の狙いである。

しかし、流石にかなり離れた旗艦から届くかは不安であったため、前方の旧式戦艦にも同様のものが搭載されて同時に発射する予定である。

事前に聞かされていたとは言え、見た目はその物々しい名前に反して単なるスピーカーにしか見えないものに微妙な表情になるヤマト。

しかし、ウマとアイリスは真面目である。

 

「スーパーソニック砲発射!」

「目標カイドウ!、ガイド音波発振開始!」

 

そして、ウタが歌い始める。

 

 

爆撃機隊を追っていたカイドウが海に出ると、海上を多数の船が航行しているのが目に入る。いずれも巨大な砲塔を持ち、煙突から黒煙を吐き出す蒸気船であることを見てとったが、全く見覚えのないデザインであった。

 

蒸気船を大々的に運用しているなど海軍ぐらいのはずだが、見たところ200隻程は居そうな軍艦全てを蒸気船で揃えるなど海軍ですら未だにできないだろう。

 

さらに目の前を未だにうるさく飛び回る飛行機もこれほど大量に揃えるなど、自分の知るどこの勢力にも不可能なはずだ。

謎の新たな強敵の出現に凶悪な笑みを浮かべ、まずは小手調べだと、眼下の艦隊も攻撃しようと口に力を込めたところで唐突に、猛烈な不快感に襲われる。

 

今まで味わった二日酔いの中でも最悪だったそれより遥かに酷い吐き気に堪えることなど出来ずに胃の中のものが口から噴き出す。

意識は朦朧とし、体が言うこと聞かなくなり墜落を始める。

 

 

覇気による、能力の無効化の可能性を得ていたウタ達は対策を考えた。

 

どれほど強力な悪魔の実の能力であろうと相手の体や精神に干渉するものであるならば、覇気の力で跳ね除けられることがある。各地に潜入しつつあるターミネーター達がそんな情報を収集したのだ。

 

ただし実際にこれを行おうとすると世界的にも最上位クラスの覇気の使い手が、本来であれば過剰なほどの覇気を使うことが要求される。

覇気とは使えば消耗し、回復しなければ使える時間は限られる。なので、優れた使い手は必要時に最小限のそれを使い無駄なく運用しようとする。

それを過剰に放出すことを迫られるのだからリスク無しで防げるわけではない。

ましてや、ウタウタの実の能力は歌われ続ける限り、かかるリスクが存在する。もし、かかってしまえば、精神が別世界へ連れていかれるため、そうなっては覇気によるガードも無意味と化す。そのため、常にその状態でいることを強いられるのだ。消耗は凄まじことになる。

そのかわり、ウタウタの能力者もウタワールドの展開時の体力消耗は激しいためその辺はどちらが優位とは言い難いのだが。

その上で耳を塞ぐというお手軽に完全ガードが可能な方法があるのだから普通はそちらを選ぶ。

 

しかし、四皇クラス、特にカイドウのように素で常人離れした肉体を誇る者たちは、平常時から普通は過剰と言われるほどの覇気を放出しながら平気で長時間の継戦を可能とするのだ。

なので、基本的に肉体や精神に干渉する系の悪魔の実の能力は通らない。

能力が覚醒して、問答無用で相手に効果を及ぼす、それこそ無機物相手にすら概念を書き換えることが可能となれば話は別なようだが。

 

 よって、カイドウにはウタウタの実の能力がそもそもかからない可能性が作戦立案段階で浮上して、対策が考えられた。

その結果が、そもそも覇気とは意志の力であるのだからそれを維持できなくしてしまえばよいとの結論だ。

 

そんなことがカイドウ相手に可能ならば苦労はしないという話なのだが、一時的ならばもともとウタの歌を問答無用で相手に聞かせるために開発した音響兵器を用れば、その可能性あると賭けてみることにしたのだ。

 

スーパーソニック砲の効果は、ウタの歌声を強力な指向性音波に変換して、相手にぶつけることで全身を振動させ耳栓などつけていようが、周辺に普通の歌声をかき消すほどの雑音が響いていようが強制的に鼓膜を振動させて歌を聞かせるのだ。

その効果を流用し、脳などの重要機関を意図的に強く揺さぶることで一時的に前後不覚に陥らせることで、ウタウタの能力が通らないかというという可能性である。

 

そして、その賭けには一応勝ったのであった。カイドウは何が何だかわからない混乱状態に陥り墜落する。

しかし、そんなものは最強生物にかかればさほど間をおかず慣れていまい、何事もなかったかのように回復するだろう。そして一度慣れてしまえは二度とチャンスは無い。

しかし、一瞬でも気が緩めば十分であった。

そこに本来の目的である歌声が届く。

思わず聞き入ってしまう、心に響く歌声。歌詞の認識すら朧げなカイドウですら強制的にそう認識させるそれは、自然となんの抵抗をする気も起こさせずに聴かせ、彼をウタワールドへと誘った。

 

「成功です!!カイドウの海面への墜落と海中への沈降を確認しました!悪魔の実の能力者がこうなっては長くは持たない……はずです!」

若干自信が無さそうながらも喜んでそう宣言するアイリス。

あとは、作戦通りそれまでにカイドウをヤマトとウタがウタワールドで倒すため、戦うこととなる。

向こうで戦っている間に沈降したカイドウを捕縛すべく、水中工作用の無人潜水艇を乗せた母艦が落下地点に向かう。

和の国から持ち出した海楼石製の鎖を用意してあり、それで拘束する予定である。

 

「これで倒せるといいですね。まあ、あの鎖で簀巻きにすれば弱体化させられるはずです。それに、海に落ちて弱っているはずなことも合わせれば、仮に暴れ出してもプランBで仕留められるはずです」

 

そう不安を打ち消すように強気に言ってみせるアイリス。

一方で、ウタは険しい表情をしている。

「向こうで何かあったんですか?」

そう、心配そうに言うアイリス。

すぐに飽和核攻撃に移れるように各艦を動かす。

「四皇ってこんなに強いんだね……」

ウタが唖然とそんなことを言う。

 

カイドウがウタワールドに囚われた時から、ウタとヤマトがカイドウと対峙していた。

海面はまるで陸地のように固められ、ウタ達はその上に立つ。

カイドウからすれば、突然猛烈な吐き気に襲われて、前後不覚に陥ったと思ったら、何故か歌声が聞こえ、ふと吐き気が治ったら目の前の海面に自身の息子と見知らぬ少女が現れたのだ。

訳がわからなすぎて、流石に唖然としていた。

しかし、それも短い間のことである。

ヤマトが声を張り上げる。

「クソ親父!!よくも今まで酷いことしてきたな!もうお前のことは親とは思わない!今日こそ、ここで僕がお前を倒す!」

 

そして、跳躍し手に持った金棒でカイドウに殴りかかった。

それを瞬時に人間形態に戻り、自身の金棒で受け止める。

最初は、あまりにも現実離れした光景に幻覚が何かと疑ったのか訝しげにしていたが、金棒から感じるパワーがいつものそれと悟り、目の前にいるのが本物のヤマトと理解して表情が憤怒の相に変わる。

 

「おい!!甘ったれのガキが生意気言うじゃねえか!誰がここまで育ててやったと思ってやがる!!!」

カイドウの金棒がヤマトを跳ね除ける。

突き飛ばされつつ、体制を整えて着地するヤマト、そのまま人獣型へ変わり、そのまま再び殴りかかる。

彼女が食べたのはイヌイヌの実、モデル大口真神と言う幻獣種の実である。幻獣種は普通の動物系悪魔の実のモデルとなった動物の身体能力が上乗せさせるのに加えて、超人系の様な特殊能力を使うことができる。

彼女も冷気を操ることができ、カイドウに飛びかかりながら金棒に冷気を纏わせ威力を上げる。

「その能力も、お前みたいな青二歳にはもったいねぇ力だ!!食わせる気なんて無かったのによ!!少しは親の言うことを聞いたらどうだ!!」

「今更親ヅラするな!何度も僕のことを殺そうとしたくせに!!」

しかし、カイドウに難なく受け止められる。

カイドウは不機嫌そうに再度ヤマトを跳ね除ける。

「敵の名を名乗ってやがるんだ!そのくらい覚悟の上でやりやがれ!!だからてめェは甘ったれだってんだ!!」

ヤマトは悔しそうに飛び退き、ウタの横に戻った。

そんなヤマトに、突然親子の空間を形成されたせいで話に割り込めなかったウタが抗議の声を上げる。

「ちょっとヤマト!一緒に戦うって言ったじゃない⁉︎、1人で突っ込んで勝てる相手じゃないんでしょ⁉︎」

ハッとして、ヤマトは申し訳さそうにする。

「ごめん。あいつの顔を見たらついカッとなっちゃって、いつもの調子で突っ込んじゃった」

事情を聞いていたウタは、そうなるのも無理はないと思う。

 

ヤマトは幼少期こそカイドウのことを親として慕っていたそうである。

しかし、それが変わるのは彼女がおでんを名乗り始めてからである。

それ以降、彼は彼女を殺そうとするようになる。

正確に言うと、普通なら死ぬであろう環境にぶち込むのだ。

彼女がおでんと名乗るのを初めて聞いた時は、捕らえていた和の国の剣豪たちと一緒に閉じ込めた。

彼らは久しく食事を与えられておらず、そこに1人分の食事とヤマト、そして武器を与えたのだ。ヤマトは自分はカイドウの息子なのだから殺されてしまうと訴えたが聞き入れてはもらえなかった。

実際、そうなってもおかしくは無かった。

幸い、剣豪たちはおでんを慕う善人たちであり、ヤマトに食事を与え、さらにはおでんの日誌を持っていると知ると彼女を気に入り、読み方を教えてくれた。

そして最後は、いつまで経ってもそれ以降現れないカイドウに、このままではヤマトが餓死してしまうことを危惧して、ヤマトを生かすために与えられた武器で閉ざされた岩の戸を切り開き、そのままカイドウと戦い討ち死にした。

 

それ以降もヤマトを閉じ込め、食事を与えず。それを見かねて食事を与えたものを処刑するなど、似たようなことは何度も起きた。

 

その怒りをバネに、彼女は鍛え、何度もカイドウに挑んではぶちのめされ、その度に強くなってきたのだ。

 

普通に考えて、自分の娘がいくら自身と殺し合いを演じた敵の名前を名乗るなどとおかしなことを言い出したからと言って、初手から死ぬ可能性が高いであろう罰など与えることなどない。

少なくとも親の情があるのであれば、怒りこそすれど、それでも殺すまでは行かないであろう。ウタはそんなカイドウの所業に怒り心頭で有った。

彼女は少なくともあのエレジアの惨劇までは赤髪海賊団から大切に育てられていたし、お陰でこの世界の海で海賊船に乗っていると言うのに健やかに成長することができた。

だからこそ、そんな赤髪海賊団が自身を騙していたなど信じられなかったし、人生に絶望するほどの衝撃を受けたのだ。

ましてや、そんな彼女を今まで育ててくれたゴードンは赤髪海賊団に自国を滅ぼされながら、彼女をなんとか立ち直らせようと必死になってくれたのだ。

そんなゴードンと、剣豪たちはウタの中でダブって思えたし、それを、あろうことか、見捨てた親自身が殺すなど、彼女の逆鱗に触れる行為である。

その話を聞いてから、彼女にとってもカイドウの存在は個人的に許しておけないものとなっていた。

 

「ねえ、カイドウ、私はあなたが許せない」

静かに怒りを湛えた声でそう告げる。

「なんだヤマト、今度はそんな小娘に頼ったのか?」

取るに足らない相手と判断し、覇王色の覇気をぶつける。

しかし、ウタは小揺るぎもしない。

見た目に似合わぬ意思の強さにに少し感心しつつも、相変わらず仏頂面で話すカイドウ。

「どんな相手に頼ろうが、そいつは死ぬ。お前のせいで。お前が弱いのに無駄に足掻くせいで巻き込まれて死んでいく」

 

今更そんなことを言われようとヤマトは動じない。何度も行ってきたやりとりだ。

しかし、そんなカイドウの言葉はウタの怒りを、さらに煽る。

次の瞬間、カイドウの周囲に次々と槍を持った、音符を象った悪魔のような顔をした兵たちが次々に現れ、突撃を開始する。

そんな不意打ちもカイドウはつまらなそうに金棒を振り回しながら打ち払う。

しかし、本命は別である。カイドウを五線譜が取り囲み彼を捕らえようとする。

流石にそれは簡単には払えず、拘束されそうになる。そこで多少は骨があると思ったのか、多少表情を緩めながら強力な覇気を放出し、打ち消す。

初めての事態に、驚きながら今度は自身に強化を施し、巨大な槍と分厚い盾を持ち、ロケットパックのようなものを背負った姿となり、カイドウに突撃する。

ウタの考える最強の姿と能力。その突撃に、カイドウは高い実力を感じ取り、相好を崩しながら受け止める。

そして、目にも止まらぬ、しかし、凄まじいパワーが込められた攻防が始まる。

そこに続いてヤマトも飛び込み、2対1で攻め立てついにカイドウにウタの渾身の一撃を叩き込み吹き飛ばす。

しかし、深い笑みを浮かべた彼は、直ぐに龍の姿へと変じ、口から無数のかまいたちを放つ。

ウタがバリアーを貼り、全てを受け止める。

立て続けに高温のブレスが放たれるが、それを回避し、ロケットを吹かせて高速で突進し、渾身の突きを放つ。同時にヤマトも大技を放ち、カイドウの体に深い傷を穿つ。

 

そのまま吹き飛ばされ、海面に叩きつけられるカイドウ。

龍の姿が縮みだす。それを好機と再び五線譜による拘束を試みる。

今度は抵抗されずに、磔となる。

「やっつけた⁉︎」

「いや、まだだ!!」

喜ぶウタを険しい顔をしたヤマトが諌める。

カイドウは元人型には戻らず、龍と人が合体したような、尻尾が生え、全身が鱗に覆われた人獣型へと変化した。

そして、先程よりさらに凄まじい覇気を出し、五線譜が破壊される。

驚きに固まりながら、その姿から感じる凄まじい威圧感に額から一筋の冷や汗を流す。

 

初めてのことであった。彼女のウタワールドで能力を打ち破られるなど。

「驚いてやがるな。初めてか、能力が破られるのは?覇気は全てを凌駕する!!半端な能力じゃ俺には通用しねェ!!しかし見た事ねェな。何の能力だ?」

余裕そうに、ウタに問いかけた。

 

ウタワールドはウタウタの実の能力者が作り出す世界だ。

だから、創造者にして世界の法則を司る絶対的な神の如き存在となる。

本人が望めば何でも叶えることができる。

そう、()()()()()()

逆に、本人の望むもの以外は存在しない。一応、生成時に現実世界を丸ごとコピーするのでそこにある物体は存在するが、しかし、それ以上にはならない。

 

そして、ウタにとって最強とはすなわちシャンクスのことであった。つまり、彼女の認識する最強として反映されるのはせいぜいが12年前のまだ四皇には程遠かった時の実力のシャンクスレベルである。

 

「今度はこっちから試してやる!」

そう言って、カイドウが殴りかかってくる。

「危ない!!」

ヤマトがカバーに入るが、金棒の一振りで吹き飛ばされる。

そして、勢いをそのままに、ウタにも殴りかかる。盾で防ぐがそのまま吹き飛ばされる。

 

カイドウは強かった。伊達に最強生物とは呼ばれていない。

彼は、強くならざるを得なかったのだ。

カイドウが生きてきたのは残念ながらウタが考える普通である、平和な世界では無かった。

彼の生まれた国は年がら年中略奪目当ての侵略戦争を繰り返す様な国であり、彼も幼い頃から戦争に駆り出されて殺し合いの中で育ってきた。

弱いものは、どんなに綺麗事を言ったところで、結局次の日までも生き残ることはない。

 

そんな子供時代を過ごし、祖国に売られた先の海軍から脱走して海賊となってからもそれは変わらなかった。弱いもの甘いものは容赦なく、強いもの狡猾なものに貪られる。

彼が歩んできたのは、そんな世界である。そして、大海賊時代のこんにち、そうではない場所の方が世界的には希少な有り様となっている。

 

もしかしたら、それは彼にとっては慈悲であり情ゆえの弱さであったのかもしれない。

弱いもの、甘さのあるものは生き残れない。それは彼の中における厳然たる事実である。そして、死ぬだけならまだしも、時には死ぬことがマシに思えるような境遇に貶められる事とてもありうるのだ。

それは、この世界では否定しきれない部分がある。

だからこそ、自身の甘い身内がそんな世界でどう考えてもロクな末路を辿らないのであるならば、いっそ自分の手で楽にしたほうが、幸福なのではないか、そう考えて、しかし、自身の手で直接手にかけることはできず、もしかしたら考えを改め、強さを手にして生き残るかもしれないと言い訳をしながら死ぬであろう環境に追い込んでいるのかもしれない。

しかし、彼女はそんな期待は裏切りながら、毎回誰かを味方につけて乗り切ることが彼からすれば癪に触るのかもしれない。

もしかしたら、独善的ながらも情は存在したのかもしれない。

 

ウタからすれば、理解の埒外にある価値観。

カイドウにも恵まれた暮らしをしていたものの価値観など理解できない。

 

認識の埋めがたい齟齬。

しかしながら、今のこの世界で生き残ることにかけてなら、カイドウのような考えの方が、可能性は高いのかも知れない。

ただ、獣の様に力を信奉し、力を手に入れて、それで搾取する側に回る方が不幸にならずに済むのかも知れない。

 

だから、ウタはそんな世界は認められない。

 

世界の人々を幸せにしたい。

それは、彼女が最初から持っていた思いだ。

誰から強制されたわけでもない、引き継いだわけでもない。

彼女がこの世界に生まれたから生まれ、持っている渇望。

あらゆる自由な選択肢があってそれを選んだならば、それもまた望んだ生き方であろう。

しかし、それしか選びようが無かった生き方に、理不尽に決められ、それ故に不幸になる人々など、彼女は許容できない。

 

だからこそ、新時代を作り、そんな価値観を持つ様な境遇をなくすのだ。

 

ウタが歌い出す。

その歌声に先程聞こえたものの主がウタであることを悟り、さらに笑みを深めるカイドウ。

状況的に、あの艦隊や飛行機械との関係に感付き、やはり一筋縄ではいかない相手だと考える。

もしかしたら、ジョイボーイたり得る存在になる可能性もある。

そんな期待を抱きながら、再びウタに殴りかかる。

しかし、今度は簡単に受け止められる。

 

ウタワールドではウタが望めば全てが現実となる。力が足りなければイメージをアップデートすれば良いのだ。

 

そして、カイドウに対抗すべくさらに力を増したウタが彼に槍を突き出しながら突撃し、周辺に現れたさらに屈強な姿となった音符の戦士たちがそれに続いた。

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