ウタと機械と新時代   作:またたびライト

27 / 28
第27話

 アイリスは、隣で百面相をするウタに気になって聞いてみたが、どうやら向こうでカイドウに苦戦したと聞いて驚いた。ただし、そこの後は何とか優位に戦えているらしいと聞いて安堵したが。

 

世界を創造した存在にすら多少なりとも抗って見せた四皇への警戒を上方修正する。

そして、ウタワールドの持続時間をカウントして警告する。

「あれから30分は経ちます。そろそろ折り返しです」

「わかった、急がないとね!」

ウタは作戦前にコーヒーを数杯摂取することで眠気を緩和し、もともと、せいぜい我慢しても20分程度であったウタワールドの持続時間を1時間程に伸ばすことに成功している。

それでもまだ短いが、リスクのある薬剤の使用を含む処置はアイリスが頑として認めなかった。

そのため、今はこれが限界である。

 

しかし、それでも十分であるはずであった。

ウタワールドではこちらに優位に戦況は傾きつつある。

さらに、潜水艇母艦がカイドウの墜落地点へ到着し、水中用の無人機が捕縛用の海楼石の鎖を巻きつけるための作業が間も無く始まるのだ。

それさえ完了すれば対処はかなり楽になるはずである。

 

そして、安堵した空気が広がりつつある中、急にアイリスが慌て始める。

「っ⁉︎、謎の高速飛行体が左舷方向より艦体外周部へ急速接近中です!!、迎撃します!」

「何が来たの⁉︎、もしかしてカイドウの増援?」

ウタは、キングと呼ばれる百獣海賊団の幹部を思い浮かべる。

「不明です。でもこの軌道、もしかして……開発中の対艦誘導弾ですか⁉︎、まさか他に既に実用化している勢力が⁉︎」

 

そして、謎の飛行物体は迎撃エリアに達する。まず外周を固める駆逐艦へ搭載された射程の長い127mm単装速射砲が何門も、それぞれ毎分45発の連射速度で砲弾を発射する。射撃管制レーダーにより正確な射撃が目標を捉えるはずである。

その上、少しでも高速で飛行する目標への命中率を上げるべく、近接信管を使用している。

これは砲弾の信管が電波を発信し、目標までの距離を検出し一定距離以内に入ると炸裂する様になっている。

そのため、時限式の信管と比べて事前の調定が不要で、様々な外乱の影響で炸裂のタイミングが目標からズレるということもないため、対空射撃時に目標により効率的にダメージを与える。

命中せずとも、至近距離で炸裂し、鋭い弾片を周囲にばら撒くことで目標をズタズタに引き裂くのだ。

しかし、全力射撃を受けても落ちず、なおも艦隊へ向かう。

 

アイリスはその物体の正体を考察し、焦燥感に包まれる。

これほどの規模の艦隊に打ち込まれたたった1発の誘導弾と思われる物体。

アイリスの考える誘導弾とはジェット、またはロケット推進によって亜音速以上で進み、レーダーや赤外線等のセンサーによって誘導される飛翔体である。

実際は何かしらの偵察機材だったという可能性を除いて最悪を考えれば、核かそれに類する大威力弾頭の搭載が予想される。

まあ、もし自分はならば、例え艦隊を一発で吹き飛ばせる弾頭を搭載していようと迎撃に備えて複数弾を同時に他方向から打ち込むだろうがと考え、

こちらに迎撃能力があることを知らないならば、あるいは弾薬の消耗を惜しんでそうなるかも知れないと思い直す。

だとするならば、可能な限り遠距離で迎撃する必要があった。

 

アイリスはカイドウ戦にて1機でも多く攻撃に回すべく、艦隊周辺の航空偵察をケチって、水上艦からのレーダーによる監視にとどめたことを後悔する。

レーダーは電波を発信して、相手からの反射を捉えて相手の位置を割り出すため、当然アンテナから直線上に居る物体しか探知できない。

つまり、水上艦に搭載されたレーダーでは島陰や水平線の向こう側に隠れた物体は、物理的に探知できないのである。

 

特に水平線による死角は、レーダーアンテナの高さに依存して距離が変わるため、なるべく艦の高いところにアンテナを据え付けるのだが、大型艦の艦橋上に搭載したとしても見渡せるのは半径30km程度である。

そのため、それ以遠の水上艦や海面ギリギリの低空で飛行する物体は捉えることができない。

 

アイリスの構想する対艦誘導弾は、可能な限りの低空を亜音速以上の高速で飛行し、迎撃する側からすれば目と鼻の先に来るまでその存在を探知できなくすることで、そのための時間的猶予を無くし、被迎撃率を下げるものである。

より低い高度で、より高速な程に迎撃に使える時間は減るため、より撃ち落としにくくなる。

その有効性は相手が目視を含む光学センサーによる警戒であっても変わらない。

 

対応策は航空機を飛ばして、より遠くで探知、迎撃することである。

特に、発射母機や母艦を事前に撃破できれば効率的に防ぐことができる。

また、発射されたとしても発見した距離に余裕があれば予め攻撃機を飛翔ルートに配置して、核弾頭搭載の空対空ロケットで迎撃できたであろう。

今回は全てをカイドウへの飽和核攻撃に注ぎ込むために周辺を警戒する航空機は飛ばしていなかった。そのことが実際に水平線から顔を出すまで見つけられない事態を招いたとアイリスは考える。

 

ウタとヤマトを無駄に危険に晒してしまったと自身の浅慮に怒りが湧き、相手を確実にこれ以上近づけ無いために、最寄りの駆逐艦に最接近したタイミングで搭載する魚雷用の全核弾頭を起爆させることを決断する。

さらに、艦体中心部に居る戦艦群からの核砲弾による攻撃も同時に実施して、現在即応可能な最も強力な攻撃を行い万全を期すのだ。

 

目標が艦隊へさらに接近した事で、最外縁の駆逐艦の30mmリボルバーカノン砲が発射され連装砲塔1基あたり毎分3000発の発射速度で猛烈な弾幕を張り始める。

起爆と砲撃のタイミングを合わせるべく、固唾を飲んでレーダーを見守る。

 

 

高速で飛行する飛翔体。その正体は、赤髪のシャンクスその人であった。

 

彼は、船の速度差からとても追いつけない事にヤキモキしつつも、何とかウタの気配を感じる海域に近づいてきた。

 

しかし、ついに水平線からその海域が見えるかどうかというところに達した際に、未来すら見えるレベルの見聞色の覇気がこのまま進むと危険であると察知したのだ。

そのため、彼のみでまずは先行することにしたのだ。

彼が行ったのは船の甲板を覇気で強化した脚力で蹴って飛び立ち、途中で、空中を踏み締めながらさらに加速して、超低空飛行で目標に突っ込むことであった。

 

案の定、熾烈な迎撃を受ける羽目になる。

水平線上に姿を表す、今まで見たことのないシルエットの船団。

船の中央から帆船のマスト程の高さのある塔型の構造物が建ち、頂点で歪んだ球体に細長いトゲの様な物体を生やした冒涜的な構造物がゆっくりと回転している。

それを認識した直後、塔を挟む様に前後に3基搭載された小型の砲塔が瞬時に彼の方を向いて猛烈な勢いで連射を開始する。

 

彼の常識よりも遥かに遠いうちから撃ってきたにも関わらず、砲弾は正確に彼に向けて、予想より遥かに速く飛んでくる。

驚きつつも直撃コースの弾を切り払おうした瞬間、周囲を通り過ぎるコースであった弾が一斉に起爆し、彼はズタズタに引き裂かれて生き絶える。

 

そんな未来が脳裏に移り、未だ遠くに有る砲弾を片っ端から飛ぶ斬撃で叩き落とす。

しかし、全ては落としきれず、すり抜けた砲弾が近づくたびに炸裂し、破片を高速で撒き散らす。

予めわかっていた彼は、弾片全てをかわすか剣で弾きやり過ごす。

未来視の覇気を最大限に活用して、なおも体に次々と切り傷が増える。

 

そして、距離を詰めるとさらに小型の砲がもはや余りの連射速度の速さに、発砲音では無くカン高い異音としか認識できないほどの連射を始める。

もはやそれは、弾幕というより壁であった。

落としきることも、かわすことも不可能で有る。

 

そんな、久々の絶体絶命のピンチに彼は獰猛な笑みを浮かべながら、唯一の生き残る可能性がある場所へ迷わず飛び込んだ。

 

 

旗艦の司令室にて、アイリスが拍子抜けした様に安堵の表情を浮かべる。

「目標の海面への墜落を確認。なんとか駆逐艦の防空火器のみで撃破できました」

急な敵の接近と、アイリスの緊迫した様子に、こちらも緊張していたウタも余裕をとり戻す。

「びっくりした。急に謝りながら衝撃に備えてなんて言うんだもん。何事かと思った」

「もしかしたら、危険な攻撃が飛んできたかも知れなかったので念のためです。ご心配をおかけしましたがもう大丈夫のはずで……す⁉︎」

 

しかし、彼女は凍りついた様に固まる。旗艦に搭載された他よりも高性能なパッシブソナーが、海中から響く異音をキャッチした。さらに、他にも一部の艦で同様に異音をキャッチする。

 

それは、魚雷や艦艇のスクリュー音とは異質な音であった。

それが、旗艦に比べれば幾分性能の低い、艦隊構成艦のソナーから次々に出ては消えている。水中を潜水艦や魚雷ではあり得ない速度で移動しているかの様に。

アイリスにはこれにも心当たりが、あった。異音は水中を高速で進む物体がその速度ゆえに水中に空洞を発生させているためで有る。

スーパーキャビテーションと呼ばれるこの現象は水との接触面を減らすことで低抵抗となり、さらに生じる空洞内でロケットを燃焼させる事でスクリューを推進装置とする場合と比べ遥かに高速に進むことができる。

これを魚雷に用いれば従来はあり得なかった高速魚雷が実現する。

ただし、弾体が激しい気泡で包まれるため、普通の魚雷の様にソナーによる誘導は困難であり、無誘導魚雷とせざるを得ないため、有効に用いるならば狙いが外れようと関係ないほどの危害範囲を持つ核弾頭の搭載が必要となる。

 

自身も開発を進める兵器の特性と現状との符号に、顔面蒼白になる。

「なんで、そんなものがこんなところに⁉︎、……まさか⁉︎、さっきの誘導弾の弾頭が魚体だったんですか⁉︎、一体どれ程の剛性があればあんな速度での着水が可能に⁉︎」

 

突然、激しく取り乱し始めたアイリスにウタはさらなる攻撃に身構える。

「また攻撃⁉︎、今度は何が起こったの⁉︎」

「水中からの攻撃です⁉︎、迎撃不能です!!命中します⁉︎」

 

 

海中を水を切り裂く様に高速で進むシャンクス。

ついにウタの居るであろう艦を射程に捉える。そして、一気に海面に躍り出て、全力で斬撃を放つ。

彼が振り抜いた、その直後、鋼鉄でできた旗艦の艦体に亀裂が走り上部がズレ落ち始めた。

 

 

突然、ウタ達のいる司令室の電灯が全てブラックアウトする。

「何⁉︎、攻撃が当たったの⁉︎」

「でも……、周辺艦からの映像で命中による爆炎や水柱は捉えられてないですね、原因不明です」

そしてすぐに、天井から異音が響く。

暗闇の中でも、周囲を把握していたアイリスには司令室の壁に切れ込みが入り、そこから上がずれるのを認識する。

「アバババ、天井が⁉︎、天井がァー!!」

「なッ、何が起こってるの⁉︎」

何も見えなかったウタにもしばらくして天井が消失し、差し込む光に事態を察する。

 

そして、そこに8年もの間、あれだけ聞きたいと焦がれ、しかし、聞きたくないと憎悪した、そんな張本人の声が飛び込んでくる。

 

「ウタ、お前を助けに来た」

 

鋭利に切り裂かれた隔壁の上に、四皇と呼ばれるまでに上り詰め、首回りを中心に思い出の中よりもはるかに逞しくなったシャンクスが静かに佇んでいる。

 

「シャンク、ス?」

ウタの思考が真っ白に染まる。

何も感じないのではない、荒れ狂う相反する激情に全ての思考が打ち消される。

再開できた喜びと、かつて捨てられた怒りはどちらも爆発的に膨張し、火口に向かうマグマの様に凄まじいエネルギーを発散させようと噴出まで秒読みとなる。

 

一方、アイリスはあれが()()()()()()()()()()()シャンクスかと、彼から聞いた情報を思い返しどう対応しようかと思い悩む。

 

ウタとのことももちろんだが、彼は四皇なのだ。

今もウタがウタワールドで激闘を繰り広げているであろうカイドウと肩を並べる、異次元の化け物で有る。

 

そんな存在を二つも敵に回すのは世界政府だろうと全力で回避しようとする。

それに対し、既にこちらから攻撃済みなのだ。

知っている情報から考えるにそれでも敵対は無いと思いたいが、しかし、彼女の知る伝聞系の彼についての情報は8年もの歳月を経ており、どこまで合致しているのかわからない。

先程の一言からするとウタを助けに来た様に思えたが信じていいのかは自信が持てなかった。

 

彼が来た方角からは、彼の仲間たちがレッドフォート号で接近しつつある。

派手な戦闘音に、シャンクスの身を案じて追ってきたのだ。

四皇のみならず、その海賊団までやってきている。

もし、敵対するなら非常に厄介で有る。

だから、彼女は問いかける。

 

「あなたは、ウタの何なんですか!」

 

シャンクスからすると、目の前の光景はあまりにも予想外であった。

彼は百獣海賊団がウタを連れ去ったのだと考えて慌てて追ってきたのであるが、文字通り蓋を開けてみればとても無理矢理連れてこられたとは思えない、元気な様子のウタに無抵抗の少女が2人である。状況が分からずに困惑する。

ウタが彼を憎悪に塗れた表情で睨みつけるのは、予想通りで有る。

彼にとっては辛いが、望んで買って出たことで有る。

しかし、傍にいるもう1人もそれにつられる様にこちらを睨んでおり、倒れているもう1人ももろともウタが庇う様に立ち塞がったことも合わせて、ウタの味方なのだろう。

 

ウタにとってそんな存在を、新たに作れたことは喜ばしいが、周りに人の気配が無く下手人がわからない。

ここまでに受けた、彼をして死を感じる熾烈な迎撃に、攫われたことが勘違いとは気づけない。

まさか、目の前の娘とその友人たちが、たった3人で四皇カイドウに戦争を仕掛けにきたなどとは全くもって考えつかなかった。

 

そこに、問いかけられる自身の立ち位置。

それに対し、親として不器用な彼は嘘はつけずに正直に答える。

「ウタの父親だ。ウタを助けに来た!」

 

しかし、その答えにウタは激昂する。

「助けに来た⁉︎、今更、何言ってるの⁉︎、私はシャンクスに助けなんか頼んでない!!!8年間も放っておいて、今更、そんなもの欲しくない!!!」

そして、座った目でシャンクスを見ながら続ける。

 

「あいつは、もう親なんかじゃない!!8年前私を1人、エレジアに残して行っちゃったんだ!!それまでは実の親の様に思ってたのに!私を騙してたんだ!!!」

そんなウタをアイリスは痛ましいものを見る目で見る。大切な存在を失った悲しみ故の反転。しかし、それもまた彼女を守るためのもの故で有るというすれ違い。

そして、そんなウタを黙って受け入れているシャンクスに、未だに彼女を守ろうとしていると確信して、彼のことをウタ関連については信用できると考えるアイリス。

 

ここでは、今の対応以上は望めないと理解したが故である。

彼女には真実は話せない。今はまだ耐えきれないであろうから。しかし彼女の為にこそ、彼女への愛を明確に拒絶して見せることもできないのだ。

彼女は、シャンクスたちを憎悪する感情と、それでも彼らの仲間でありたい、一緒にいたかったという感情の板挟みになっており、そのバランスで心を保っている状態である。

なので、より彼女に嘘のストーリーを信じさせようと明確に親で有ることを否定すれば、それが崩れて彼女の心は壊れてしまうであろう。

 

一方で親としての愛を明確にすれば、聡い彼女はそう時間を置かずして真実にたどり着くであろう。自身の知る彼らがエレジアを滅ぼすわけがない故に、確実にそんな嘘をついてまで誰を守ろうとしたのか察しがついてしまう。

 

憎悪と愛とのバランスの中で程よく現実逃避している状態で、ギリギリ保てているのが彼女の心の現状なので有る。

 

それをなんとかしたいのであれば、彼女の心の成長を待つしかないであろう。

真実を受け入れつつ、前を向けるだけの強い心の成長を。

 

しかし、今はまだその時ではない。

 

激昂したウタは考える。シャンクスは自身の親で有る。そう信じていた。

だからこそ、自身が彼の過ちを正さなければならないと。

 

だからこそ、彼を自身の世界に引き摺り込むべく、歌い始める。

 

しかし、どれほど歌っても影響が出る様子はない。

彼も四皇と呼ばれるほどの男である。

その上、赤髪のシャンクスといえば特に強大な覇気で有名だ。

 

ウタウタの実の能力はかかる前に弾かれてしまう。カイドウに使った、スーパーソニック砲は既に先程の攻撃で、コンソールが使用不能となっている。

 

ならばと、決断する。

四皇に対抗する為ならば仕方ないと。

禁断の力を解放すべく歌い始めた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。