ウタと機械と新時代   作:またたびライト

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第4話

「連携攻撃って素晴らしいと思います」

「突然どうしたの?」

 何の脈略もなく話し始めたアイリスにウタもいい加減マイペースっぷりに慣れたのか軽い調子で問いかける。

「どんなに強い剣士だろうと対応できる相手は一機です。なので、一機が気を惹きつけているうちに他の機体が多方向から攻撃することで相手の対処能力を飽和させ有効打を入れることができるのです」

「へぇ、すごいね。でも私たちに連携?というか協力?って必要だったのかな」

 死んだ目をしたウタの前には既に完璧に修理が完了した飛行機が鎮座していた。

 あの後目を覚ましたゴードンに抱きしめられながらヨシヨシされる姿を見られ、恥ずかしさからアイリスをぽこぽこ叩くマシーンとなりながらもなんとか平静を取り戻したウタは約束通り3人で飛行機の修理のために浜辺を訪れた。しかしながらアイリスはまずは飛行機を調べようとするゴードンを引き止めて彼が使えそうだと持ってきた道具の使い方と木材の取り扱い方について根掘り葉掘り聞き始めた。手持ち無沙汰になったウタは海を眺めたり、歌を歌ったり、海に石を投げたりして時間を潰していた。しばらくして話を聞き終わったアイリスが動き始めるとゴードンと一緒に唖然と作業を見ることになった。

 猛然と道具を振るい木を切り倒し、製材し必要部品の切り出し、形状加工を行い、あっという間に機体の壊れた部分を外し、新造したものと交換するところまで1人で終わらせたのである。それを見た2人は同時に思った。これ、私たちの協力必要?と。その後完成した機体に一人で感激して、あちこちいじっていたアイリスが、なぜか唐突によくわからないことを言い始めたので、つい思ったことを口にしてしまう。ちなみにゴードンはご飯の支度をするからと先に帰っている。

そして、ウタの疑問を聞いてキョトンとした後、2人の協力の必要性を力説し始めるアイリス。

「必要ですよー、ウタが申し出てくれなければ、私はこの機体を直そうとはしなかったと思います。壊してしまったことを悔やんでも、今更この機体に執着したりはせずに未練を抱えたままになるところでした。それに木材も扱ったことがなかったのでゴードンさんの知識も非常に参考になりましたし、道具も貸してもらいましたし、まさしく3人の協力による成果です」

そう言ってふんすと誇らしげ胸を張る。

嬉しそうにしているならいいかと自分だけ手伝えなかったことを気にするのはやめる。

「だからお2人にはとても感謝しています。何か後ほどお礼をさせてください。お2人のお望みでしたら可能な限り叶えさせていただきますよ」

 改めてそう言われて、ウタは自分はほとんど何もしてないのに逆に申し訳なく思ってしまう。しかし、真摯にお礼を申し出てくれているのに何も貰わないのもと思い機体に目をやり、ふと一つの案が浮かぶ。

 アイリスが飛行機と言っていた乗り物に向き直る。

「そうだ、ならあの飛行機に乗せてくれないかな、ウタワールドならともかく現実の空を飛ぶなんて普段はできないし」

「あの機体にですか……」

「アイリスが乗ってたところの後ろにも席があったからもう1人乗れるのかなって」

「そうですね、あの人も色んな人に乗ってもらった方が浮かばれると思います。それにウタと一緒に飛ぶなんてとても楽しそうです!」

 そう興奮したように言うアイリス、しかしハッとしたように言う。

「それは良いことですけど、お礼がそれでいいのですか?」

「うん、前にも言ったけど私たちは友達なんだから困ってたら助けるのは当然でしょ、だから一緒に楽しめることにしようよ。」

 そうウタに言われて感激したように目をうるうるさせるアイリス。

「友達になってくれてありがとうございます。ウタ」

「こちらこそ、これからもよろしくねアイリス」

そう言いながら、再度飛行機に視線を向ける。

 木と皮で出来た、ウタがイメージする空を飛ぶものである鳥のそれとは似ても似つかない羽は空から落ちてきたのを見ていなければ本当に飛べるのか信じられなかっただろう。こんなものを誰が作ったのだろうと気になる。世の中にはロケットという火薬の燃焼ガスで飛ばす筒状の物が存在しており、それを体に括り付けて飛ぼうとする命知らずもいるらしい。しかし、当然そんな無謀な挑戦の結果は無残なものとなる場合がほとんどであるが、アイリスの言っていたことが本当ならばこれは島から島へ飛んで渡ることができるほど長距離を安定して飛行することができるらしい。機械にはあまり詳しくないウタでもすごい発明だと思う。だからこそ聞いてみたいのだが、アイリスの言っていた遺品と言う言葉に踏み込んでいいのかどうか迷っていた。

結局気にはなったが、2人での飛行予定にウキウキのアイリスに水を差すのも躊躇われたため、とりあえずゴードンのところへ向かうことにする。

 そしてアイリスがいつのまにか俯いて何かをぶつぶつと呟いているのに気がつく。耳を澄ませると

「ウタは友達、友達なら大切な人、それなら……」

そう言っているようである。

 そして唐突にガバッと顔を上げるとウタに笑いかけながら提案する。

「ねえウタ、どうせ一緒に飛ぶんなら私の国に一緒に来てみません?ぜひウタに見てほしいものがあるんです」

「アイリスの国ってお隣にあるアトラス島っていうところにあるの?近いらしいしいいけど、見せたいものって何?」

「見てからのお楽しみですよ」

 そう言って笑うアイリスに何か違和感を感じる。さっきまでの笑顔と違って、なんだか表情が固いように感じる。

 しかし、それからアイリスが再度目に見えて嬉しそうにはしゃいでいたため、気のせいだと考え直す。

 

 城に戻りゴードンにもアイリスからお礼を伝え、何がほしいか聞くとこれからもウタの友達でいてほしいと言われ、ウタが恥ずかしがる一幕があっだがそれ以外は飛行機について熱く語るアイリスの話を聞きながら寝る時間になってしまった。今度は2人で一緒に寝ることにして、しばらく話してから久し振りに寂しさを感じない幸せの中で眠りについた。

 

 夜中にふと目が覚めると布団の中からアイリスが消えていた。あの子に夜中に起き出す用事があるのかと訝しがるがふと窓から外を見て海岸に向かうアイリスを見つけたためウタも外に出ることにする。

 海岸に向かうとアイリスが立って海の方を見ていた。何をしているのかつい隠れて様子を見ていると、突然海がいくつも盛り上がり、その中から赤く巨大な物体が浮かび上がってきた。それはいずれも潜水艦と呼ばれる艦種である。非常に珍しい種類ではあるが存在は一般に知られている船である。しかし、特異な点はいずれの艦も帆を持たないことである。基本的にこの世界の潜水艦は浮上時に帆装で航行し、潜水時のみ何らかの動力機関で航行するのが普通である。それを持たないのは帆など使わずとも長い航海に耐えられる信頼性と燃費を持った機関が必要だが、この世界にそんなものは一般的には存在しない。しかし、その例外が目の前にしかも10隻は存在しているようである。船にそこまで詳しくないウタにはその異常性はわからなかったが、しかし何故かエルジア沖に集結した潜水艦隊と友人に何らかの関係があるのは間違いないため事情を聞こうと近づこうとする。

 そしてガサゴソと音を隠そうともしなくなり近づこうとすると、アイリスが「誰ですか?」いつになく平坦な声で問いかけてきた。なぜだかわからないが身の危険を感じたウタは慌てて声をかける。

「私だよウタだよ。」

「ウタでしたか、こんな時間にこんなところで何をやっているんですか?」

「それはこちらのセリフだよ。何で抜け出してこんなところに来てるの、それにあれは何?」

「アレはこの島の護衛です、明日は私もウタも居なくなりますからその間、ゴードンさんを守らないといけないと思ったので呼び寄せました。後飛行機の燃料も必要なので届けてもらいました。」

そうして、海を指さすのでそちらを見てみると、潜水艦から巨大な腕のようなものが突き出し、先端に掴んだ容器を小型艇に載せるところであった。

「アイリスってそんなことできたの?でも守るって海賊から?」

「主にそうですね」

「でもこの島にはほとんど来ないのに、明日にピンポイントでくるかな?」

「備えあれば憂いなしですよ。さあ帰って寝ましょう」

 ウタはいい加減眠気が限界だったためそれ以上問おうとはせずに就寝した。

翌朝起きると隣に何事もなくアイリスがいたので、昨夜は夢だったのではと思った。

「おはようございますウタ、昨日の潜水艦のことはゴードンさんには黙ってましょうよ」

「あー確かにゴードンだと護衛とか遠慮しちゃいそうだし、静かに守ったほうがいいかも」

 ゴードンはやたらと自己評価が低い部分があるので、たとえ自分の身が危なくとも1人なら護衛等断る可能性がある。

「いえ、何の断りもなく潜水艦を島の周りに展開させちゃったので文句言われないかなって気づいちゃいまして。ゴードンさん実はこの国の王様なんですよね?怒らないですかね?不法入国とか」

いたずらをやってから後悔して隠そうとする子供のような表情でそんなことをことを言い出す。

「うーん、周りの海とか普段気にしてないしいいんじゃないかな、今日だけなんでしょ」

「いやー、今後もお二人の安全を考えると護衛戦力は置いておきたいんですよねー、それにできれば陸上にも拠点を置きたいですし、やっぱりちゃんとお話しした方がいいですよね。お二人に何かあったら悔やんでも悔やみ切れないですし」

そこでふとごく自然に軍隊を動かせるようなことを言っているアイリスのおかしさにようやく気づくウタ。

「ねえアイリス」

「どうしたんですか?改まって」

「あの潜水艦と言い、なんでアイリスがそんなことできるの?もしかして国のお偉いさんだったりする?でもこないだは今は1人で住んでるって言ってたよね」

 もしかして、貴族とか王族だったりするのだろうかと思うウタ。といってもウタにとって身近な王族がエルジアが滅ぶ前から善良で国民から親しまれていたゴードンなため不敬がどうとかはかけらも懸念しなかったが。

「私は1人ですよ。ただ島にある工場を動かすことができるのであれはそこで作ったものです。全部私が指示すれば無人で動くので島に人間は誰もいません」

「へーあんな大きな船まで作れるってアイリスはすごいんだね」

「そうでしょうそうでしょう、何たって滅亡前のアトランティスが科学の粋を集めて開発したシステムが私なんです。工場の自動建設、拡張、資源の採掘、輸送、技術の開発等おおよそ産業に必要な工程を全て全自動でこなすことができるんですよ。時間さえ有れば無限に拡張と発展を続けて無尽蔵な生産能力を得ることすら可能になるんです」

すさまじい勢いで能力について語り始めるアイリスにしまったと後悔する。こうなってしまってはしばらく止まらない。しかし、ふと思う。

「無限に物を生み出せるってウタワールドの私みたい」

 そう声に出して呟くとアイリスの話が止まる。

「私みたいなことを人間のウタにもできるんですか」

 不思議そうにそう言うアイリス。別に喋り続けている間に周りが見えなくなっているわけではないらしい。

「といっても、こっちの世界じゃ無理だけどね。私が作るウタワールドなら何でもできるよ。」

「なんだ妄想の話ですか、人の想像力は無限大って言いますもんね」

 その言葉にカチンとくる。ウタにとってはもう一つの現実であり、アイデンティティの基盤でもあるあの世界の否定は看過できない。

「妄想なんかじゃない、たしかに存在するもう一つの世界だよ。精神だけで行くことができるちゃんとした現実だよ」

そう静かにシリアスに言うウタだがアイリスは曖昧に笑っている。

「あー、誰にもそう言う時期はあると聞いたことがあります。楽しいらしいですよね、そう言う設定で楽しむの。でも世界の名前に自分の名前をつけるのはどうかと」

「ちっがーう⁉︎、ウタウタの実能力で作り出す世界だからウタワールドなの、昔からそう呼ばれてて私が付けたわけじゃない!」

そう言って顔を真っ赤にして憤慨する。自分の能力が思春期特有の妄想扱いされてはたまらない。ただありえないと馬鹿にされるならともかく、この勘違いはあんまりである。

「いやーいいですよね、実は私も自分で考えた最強の船とか頑張っちゃってた時期ありましたし」

「だから違うのー、そう言うんじゃないんだって」

 そう言ってアイリスをポカポカ叩き始めるウタ、結局なかなか来ない2人をゴードンが呼びにくるまで戯れあいが続いた。

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