ウタと機械と新時代   作:またたびライト

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第5話

 エレジア島の浜辺へ再度訪れた3人、アイリスが飛行前のチェックを進めるのを見守るウタとゴードン。

「ゴードン、私がアイリスの島に行くのを許可してくれてありがとう」

「そんなの当たり前じゃないか、お礼を言われることは」

 ないと続けようとして首を振るウタにやめる。

「気づいてたんだ、ゴードンが私を島から出したがってないって」

「そう、か」

 心臓を鷲掴みされでもしたかのように喘ぎながらなんとか声を絞り出すゴードン。

「だってゴードン、私の歌を素晴らしい世界でも一流だっていつも褒めてくれるのに、外でのデビューはまだ早いって言うんだもん」

「ウタ……、私は、」

俯き懺悔するように言う、ウタのことを恐れていたと全てを謝罪したいと思う。しかし、ウタのことを思えば本当のことは言えない。

彼の内心を知る者がいれば、恐れている者があんなに親身になってそばにつきっきりでいるわけないだろうとツッコミを入れるだろうが、恩人たちとの約束に反してウタの音楽家としてのデビューを阻んでいた罪悪感から自己嫌悪に囚われている彼にはそんなこと微塵も考えられない。

「でもね、それは私が心配だから言ってくれてたんだよね。アイリスから聞いたよ、世の中には悪い海賊とか悪い人がいっぱいいるって、私はそんな人たちから狙われるかもしれないって。だからゴードンは私が無防備にそんな世界に関わることを心配してくれてたんでしょ」

 そして抱えていた荷物をゴードンに差し出しながら言う。

「だから嬉しかったんだ、ゴードンが私を島から出られるくらいに成長したって認めてくれたって。それで、今までのお礼にこれをあげる」

 ゴードンは唖然とそれを受け取る、自分にそれを受け取る資格は無いと思いつつも、実際に今のウタなら大丈夫だとウタを信じていたのは事実だった。数日前までの生きる屍のようだったウタと違い、アイリスと一緒に自分を心配し、私たちがゴードンを守ると言ってくれた頼もしいウタなら何があっても大丈夫だと。

逡巡しながらも、ニコニコと微笑むウタに負けて受け取った箱を開けるとそこにはバイオリンが入っていた。

「アイリスが今の私ならできるはずですって言って作ってくれたんだ、調停は私がやったんだよ」

バイオリンを箱から出し試しに弾いてみる。

かつて音楽の都だった頃に弾いていた素晴らしいバイオリンと劣らぬ良い音だと感じた。

 実の娘のように思って8年間育ててきた少女の成長に後ろ向きな考えなど吹き飛び、ただ感動するゴードン。

「ゴードン、泣いてる?」

「ああ、ありがとう素晴らしいプレゼントだ。大切にするよ」

ゴードンが喜んでくれたようでこちらも嬉しくなるウタ。

 そうしていると機体のチェックが終わったアイリスが声をかけてくる。

「ウター、そろそろ出発しますよー」

「今行くよー、それじゃあゴードン明日には戻ってくるからね」

「ああ、いってらっしゃい」

 そして、アイリスのところに向かって駆け出したウタを送り出すべくバイオリンを引き出すゴードン。

「それじゃあ、ここに座ってください。ヘルメットをかぶって、ベルトをしてこれで大丈夫です」

 素晴らしい演奏をバックに搭乗し、エンジンを始動する。爆音が鳴り引きバイオリンの音がかき消されるがそれでもゴードンは心を込めて演奏を続ける。

 プロペラが周りだし機体が加速し始める、どんどん速度を上げ遂に離陸、そのまま緩やかに高度を上げていく。

「すごい、本当に飛んだ!」

いままで半信半疑であったため、予想以上にスムーズに飛び始めたことに驚く。振り返ると、みるみる海岸で演奏するゴードンが遠ざかって行く。

 一定の高度に達すると、機体が傾き旋回を始める。

「せっかくですから、エレジアを一周します」

今まで8年間生活してきた島である。隅々まで知ったと思っていたが、空から見る景色は美しく、また新たな面を見せてくれる。そして、高い高度から見下ろす海は透き通り、海底がよく見え、新鮮で美しい景色に感動する。

「これで歌が作れそうな気がする」

思わず口にした言葉に、幼馴染の少年と初めて会った時、風車の中から見た景色がフラッシュバックする。

「ルフィにも見せてあげたいな」

「ルフィって誰ですか?」

呟きに、ヘルメットの耳当てから声がかる。

肉声はエンジン音と風の音にかき消されるため、話はヘルメットに組み込まれたマイクとヘッドホンで行えるようにしていた。

「私がエレジアに来る前に行ってたフウシャ村ってところに住んでた友達。幼馴染ってことになるかな」

「ウタの友達ならいい人で間違い無いですね。私も会ってみたいです」

「歌詞デビューしたらフウシャ村に行くつもりだから一緒に行こうよ」

その誘いに、答えに窮するように沈黙が返ってくる。

「私は……、やらなければならないことがあるので、遠慮させてもらいます」

「そんなに忙しいの?」

「そうですね。ウタとアトラス島にいった後で再開するつもりです」

「それじゃあ、そのあとでもいいよ」

「そう……ですね、ウタと一緒に旅とか楽しそうです」

そう沈んだ声で答えるアイリスに、もしかして余計なこと言っちゃったかなと不安になる。

この世界での海の旅はとてもではないが安全とはいえない。過酷な自然現象に、残虐な海賊それらに運悪く出くわし、命を落とすのはザラである。

大切なやりたいことがある相手に気軽に誘っていいものではない。

「ごめん、余計なこと言ったかな?」

「いえ、とてもありがたいお誘いです。ありがとうございます」

そして、気まずさを紛らわすようにアイリスが言う。

「あっ、島を一周したみたいですね。ゴードンさんがいます。手を振って挨拶していきましょう」

 ゴードンに向かって手を振りながら旋回し、そのまま海に向かって飛んでいった。

 ゴードンはそんな彼女たちが見えなくなるまで演奏を続けていた。

 

 エレジアを出てからウタとアイリスは楽しくおしゃべりを続けていた。

エレジアが見えなくなってしばらくたち、唐突にアイリスが話を打ち切る。

「そろそろ合流ポイントですね。」

「合流ポイント?」

 初めて聞いたウタが鸚鵡返しに尋ねる。

「実はですね、この機体だと速度が遅いのでアトラス島まで2時間以上かかるんです。」

「2時間も!、結構な速さで飛んでる気がするから隣ならすぐかと思ったけど、そんなに遠かったんだ」

「いえいえ、こんなの亀の歩みの如きゆっくりさですよ。でもこんな狭いコクピットにそんなに長時間いたらウタが辛いかと思いまして迎えを呼んだんです。ほら見えてきました」

 その言葉に少し体を乗り出して前方を見ると、空に黒い点がいくつか見えた。そして点からみるみる大きくなり輪郭がわかってくる。そしてウタは驚愕する。何機も飛んでいるうち、真ん中の機体は船と見紛うほどの巨大さであった。

全長30mほどもある葉巻のような形の胴体に単葉の巨大な主翼がついておりその先にはウタたちが乗る飛行機のものと比べ、かなり巨大なプロペラが4つ付いており、力強く機体を牽引している。また、機体各部には銃塔が付いており戦闘用の機体であることが窺われる。またその周囲を単発の単葉機が守るように取り囲んでいる。

 それらの機体とウタたちは向きを変えて同じ方向を進み始める。そして、真ん中の巨大な機体の後ろに着くように位置が調整される。

巨大機の後部からワイヤーが伸びておりそれをアイリスが自分の機体の先端についていたフックにかける。

「こないだ修理ついでに機体の構造強化と牽引フックをつけたんです。向こうのはこっちよりずっと早いのですぐに着きますよ」

そして実際に機体はどんどん加速していく。

それまでの速度ですら今までの人生で乗った乗り物が帆船しかないウタからすれば驚異的であったが、更なる加速に興奮する。

「すっごーい、はやーい、ウタワールドでもこんなに早く飛んだことない!」

「そうでしょうそうでしょう、あの機体は現状の技術で作れる最高傑作でして、何とあの巨体で300ノット以上の速度が出せるんです!さらに搭載量と航続距離は2万ポンドも積んで1500マイル近く飛べるんです!」

「でも風が強すぎない?」

「え、そういえばそうですね、いや、待ってください確かに風防もない機体で300ノットの向かい風は生身の人間にはまずいかも知れないですね」

 そう言っている間にみるみる強まる風に息もできなくなって苦しそうにし始めるウタに慌てて速度を緩める。

「ゴホッゴホッ、これは無理だよ」

「すいません、ゆっくり飛んでいきましょう」

 そうして当初の予定よりは時間をかける羽目になったが、特にトラブルもなくアトラス島上空に到着した。

「ここがそうなんだ、滅ぼされたって聞いてたけど……」

「そうですね島一面瓦礫の山です」

 島を上空から眺めて衝撃を受ける。

 エルジアも滅び廃墟と化していたが眼下に広がるのは更に酷い光景であった。

 もともとエルジアより大きな島に遥かに栄えた文明が存在したのか建築物で覆われた巨大な街があったようであるが、全てが薙ぎ倒され、瓦礫の山と化していた。

 あちらこちらに壮絶な爆発の後であることを伺わせるクレーターがあり何者かによって激しい攻撃にさらされたのが見て取れる。

「ひどい……、一体誰がこんなことを」

「着陸しますよしっかり捕まってください」

 そう無感情な声で伝えるとアイリスは機体を市街地跡より島の内陸部にある滑走路に向かわせる。

 滑走路は瓦礫に覆われた街に比べ綺麗に整備されゴミ一つ落ちていなかった。そこにスムーズに着地する機体、護衛についてきていた他の機は別の場所に向かい降りては来なかった。

 そして機体が止まると滑走路脇の建物から何台もの作業車両が走り寄ってくる。いずれも無人で滑走路周辺にも全く人の気配はしない。

 機体から降りると2人で送迎用の車両に乗り込む。後方では無人車両が機体を牽引してどこか運んでいっていた。

「本当に人が誰もいないんだね」

「そうです、島を維持しているのは全て私が作った無人機たちです」

 そうして車両ごと建物に入り突き当たりで停止するするとその部屋そのものが下に動き始める。

「エレベーターです。主要な設備は地下にあるのでこのままおります」

 そうして降りた地下は全くの異世界のような空間だった。よくわからない材質でできた廊下が延々と続く。灯りといえばランプのゆらめく炎だったウタにとってそこを照らす電灯の均質な光は廊下の無味乾燥なデザインと相まって不安感を煽ってくる。傍にアイリスがいなければ、すぐにでも逃げ出してしまっただろう。歩きながらアイリスが話し始める、しかしその声は常とは違って時折話すウタが不安を感じる無感情で平坦なものであった。

「ウタは上の街を見てどう思いましたか?」

「ひどいことするなって、あれだけ大きな街ならたくさん人が住んでたはずなのに逃げてればいいけど、もしそうでなかったらどれだけの人が犠牲になったんだろう」

「私も初めて街を見た時は絶望しましたよ。みんなどこにいってしまったんだろうって」

「ねえアイリス、あなたはこの国で滅亡前に作られたんだよね、なのに初めて見たのは滅んだ跡だったの?」

「そうです、私が私として生まれた後に見たのはそうでした」

そうして歩いていると廊下の様子が変わってくる。無機質だったものから破損して取り敢えず照明を取り付け直しただけのボロボロの廊下へと。

「ここから先はかつてのアトランティスの王直属の極秘地下研究所だった場所です。全て一度燃えてしまって、現在は稼働していませんが。」

「こんな地下まで燃えちゃうなんて……」

「今回ウタを招いたのはまずは知って欲しかったんです。私とこの国の歴史を教えます。」

 そしてアイリスは大きな扉の前で止まる、その扉の上にはProject Automatic Industrial Log……と読める焼け焦げたプレートが掲げられていた。

 

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