「この島のがなぜ滅亡したかはこれでお分かりいただけましたか?」
スクリーンに映像を映しつつ説明していたアイリスがウタに問いかける。
「大まかにはわかったけど……。でも本当に海軍がそんな酷いことを?」
今まで海軍が海賊から世界を守っている正義の組織であるというプロパガンダを疑ったこともなかったウタは、非常にショックを受けたのか遠慮がちに聞く。
一面では事実であるが、しかしそれは世界政府にとって脅威となる存在を排除するという任務の一部でしかない。その力は場合によっては、国や罪のない国民に向くこともある。
「事実です。だからこそ生涯を復讐に捧げた方々もいました」
ここまでに説明を受けながら焼け落ちた様々な施設や実際に砲撃で空いた沢山の大穴、島中で散乱していた遺骨を集めて弔ったという慰霊碑などを回りながら説明されて、もはやウタも疑ってなどいない。
だが、それでも赤髪海賊団時代から今まで信じてきた海軍が正義であるという常識が崩れ去るのは安易には受け入れられない。
そうだとすると、人々は一体何に縋れば良いのかわからなくなってしまう。
最後に案内された真っ暗で広大な空間の入り口付近に置かれたスクリーンの前に立つアイリス。
相変わらずらしくない無表情で説明を進める彼女になんて声をかけていいのか戸惑っていると、さらに説明が進み始める。
「彼女たちは道半ばで倒れ、計画は実行されることはありませんでしたが、遺したものを見つけた私は、それを引き継ぐことにしました」
「計画って……、まさか?」
「おそらくご想像の通り、故郷を焼いた世界政府に対する報復計画です。計画していたのはこの国の王女と生き残りの方々でした。王女は天才的な科学者でしたが、いかに天才でも全てが灰と瓦礫の山と化した島ではなかなか計画は進展せず時間だけが過ぎていき、間に合いませんでした」
「あなたも一緒に動いていたの?」
「……いえ、私が戻った時には全てが終わっていました。それを知ったのは王女が死の直前に残そうとしていた手記を見たからでした」
そして、巨大な空間の真ん中に向けて歩き出す。
「彼女らの計画は実行まであと少しのところまで来ていました。間に合わなかったのはさぞ無念だったでしょう。手記と一緒にこれも残されていました」
そして、真っ暗だった空間が照らし出される。
突然の強い光に、目覆う。
視界が回復して、空間の中が見渡せるようになった。
「なに、これ?」
巨大な空間の真ん中に鎮座するそれはウタにも用途の理解できるものであった。しかし、それでも疑問が口をついて出たのは、それがあまりにも、ここまでで見てきたものとかけ離れていたからである。
それは飛行機に分類されるであろうものである。
しかし、ウタが乗ってきたものに比べ遥かに巨大である。その大きさは一緒に飛んでいた四発機すらも上回る。まるで船のような下面の幅の広い重厚な胴体。そこから生える複葉の分厚い主翼。翼上には、エンジンとプロペラが片翼に前後串型に6機ずつ合計12機も積んでいる。まさに巨大な水上船をそのまま強引に空に浮かべようとしているかのような狂気を感じるディテールであった。
さらに機体各部から機関銃の銃身が飛び出ており印象を無骨なものにしている。
「美しさとは無縁のデザインでしょう?重くて嵩張る荷物を積んでマリージョアまで飛んでいくために巨大にせざるを得ず、そんな大型機の重量を支えるランディングギアなんて作れなかったから飛行艇形式になったのでしょう。満足のいく出力のエンジンもなかったのに大重量の荷物を積むハメになった効率など度外視した産物です」
ウタには専門用語は理解できなかったが、復讐に使う荷物と言われて連想するものがあった。
「荷物?それってまさか爆弾?」
「おや、発想が物騒ですね。でも正解です。ただし、ただの爆弾ではありません。非常に、非常に強力な爆弾です。ただの一発でマリージョアを消滅させられる威力があります。しかしながら大きすぎて機体から投下することができないのがネックですけどね」
最後の言葉にウタが嫌な予感を感じながら質問する。
「落とせないの?、だったらどうするつもりなの?」
「機体ごと突っ込むんです。機体の運動性能が低いんで、リスキーですけどね。」
「それじゃあ、乗ってる人はどうなるの」
「当然一緒に消滅します。まあ今回乗り込むのは人ではなくて私なんですが」
ウタの表情が凍りつく。
「それって……、アイリスはどうなるの?」
「もちろん消えます。そのためにわざわざ1つのボディのみ本体として、破壊されれば全ての人格データが廃棄されるようにしましたから」
「なんでそんなことするの!?あなたならここにきた時の飛行機みたいに遠隔操縦できるでしょ、わざわざ死ぬ必要なんてないじゃない」
「私は決めたんです。この国の国民が残した計画を完璧に引き継ぐって。残していった機体と爆弾で、計画で決められた手順通りにやるんです。人間じゃない私ではなく、本当に最後のこの国の生き残りの遺志をぶつけてこそ、真の報復が完了するんです。犠牲についてはこれは彼らが始めた戦争です。そしてこの国に対して国民全員を虐殺する攻撃を仕掛けたんですからその報復で都市の一つや二つ消したところで正当なものです」
そう決意に満ちた表情で断言するアイリス。
さらに嗜虐的な笑顔を浮かべながら続ける。
「まあ、ただその攻撃を指示した世界政府のトップの連中を一瞬で死なせてやるつもりもありません。本命の攻撃に先立って、つゆ払いがてら爆弾の雨を降らせ、陸戦用戦闘車両を降下させ味合わせてやるんです。焼け出され炎の中で追い立てられる絶望を。ウタがこの島に来るときに見せた大型機はそのための爆撃機兼輸送グライダーの牽引機です。それぞれの用途のために1000機程用意しました」
これから行う何万人もの人間を死に追いやるであろう虐殺計画、それも自分も確実に死ぬそれをさも素敵なことであるかのように語る復讐者に焦りながら呼びかけるウタ。
「そんなことダメ。死ぬなんてやだよ、せっかく友達になれたのになんでそんなことするの、やめなよ⁉︎」
涙を流しながら訴える。
自分にとって大切な人が居なくなるなんて、もう嫌だと心が軋む。
そんな尋常ではない様子に表情を曇らせながらもアイリスは続ける。
「ずっと謎でした。なぜ彼女はわざわざ今際の際まで手記に残そうとしたのか。でも、今ならわかります。いくら復讐を遂げてもそのことをだれにも知られなければ寂しいです。だから、ウタにはすみませんが、このことの生き証人になって欲しかったんです。でも、そことでウタを苦しめてしまったことは不本意です」
そして、俯くアイリスになんとか説得しようとつかみかかろうとするがいつの間にか背後に近づいていた誰かに引き止められる。
突然の事に驚き振り返るウタが更に驚愕で固まる。なぜならそこには今目の前で話していたアイリスがいたからである。
慌てて前を向くとそこにも確かにアイリスはいる。
「今回の作戦のために私のボディを少数ですが量産したんです。あの飛行艇はもともと複数人で動かす予定だったので人手が必要なんです」
そうしていると、入り口から更に何体ものアイリスが入ってきてそのまま飛行艇に向かっていく。
「まあ、他のボディは全て私からの遠隔操作で動く人形です。一応簡便なAIは積んでいますが。それもその一体ですが、ウタのために残していきます。私の人格データは消えますが。ウタをきちんとエレジアまで送り届けるようにプログラムしておきます。ウタが相手をしてくれればいずれは私のような人格が生じるかもしれないですし、大切にしてくださいね。
それじゃあウタ、さようなら、元気で。ゴードンさんにも伝えてください。最後にあなたたちのような素晴らしい人たちと出会えて幸せでした。ウタと友達になれて、とても楽しかったです」
そう言って、彼女は機体の中へ消えていった。
その間ウタの悲痛な声が響き続けた。