ウタと機械と新時代   作:またたびライト

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第9話

 暗黒の空間にウタの体が浮かんでいる。謎の歌を歌った時にそのまま中に取り込まれ気を失っていた。間も無くうめき声を上げながら目を開ける。

 朦朧とした意識を覚醒させながら、周りを見渡す。自分のいる場所を認識し、まるで夢の中のようだと思いながら直前までの記憶を思い返す。

「そうだ!、アイリスは、飛行艇を止めなきゃ。でも、ここはどこだろう?」

意識がはっきりしてここが現実であることを確信する。最後に訳もわからず、それでもアイリスを止めるために強い思いを込めながら歌を歌ったところまでは覚えているが、そこから意識が途切れている。

 少しでも周りを探ろうと意識を向ける。すると途端に強烈な負の感情が込み上げる。何もかもを破壊したくなる怒り。しかし、同時に身を投げ打ちたくなるほどの悲しみ。悔しさ、後悔、嫉妬、

様々な身に覚えのないのにも関わらず、意識が焼き切れそうになるほどの強い感情の奔流に押し流されそうになる。

「友達……、友達を助けるんだ。今度こそ無くすなんて、絶対止めるんだ」

歯が砕けそうなほど強く噛み締め、堪える。そして、自分にとって唯一の頼れる力である歌を歌う。それが正解だと言う確証などなく。しかし、少しでも自分を鼓舞するために。

 感情の奔流が更に強まり、自分が何かと一体になろうとしている身の毛のよだつような感覚を感じる。しかし、負けじとより力強く歌を歌うとそれまで何もない暗黒の空間を見ていた視界に別のものが混じり出す。

 それは高所から見下ろす見渡す限りの瓦礫の山であった。最初は唐突に切り替わり始めた視界に困惑するが、やがて気がつく。

ここに来る時に飛行機の上から見下ろしたアトラス島の旧市街地だと。

そして、更に周辺を見たいと思うと自然とまるで首が振られるように思った方向に視界が向く。

まるで自分が巨人になってしまったかのような状況に困惑しながら足元を見て驚愕する。

そこにはまるで怪物のような巨大な体と、崩れ落ち燃え盛る格納庫跡地が目に入る。

体を確認しようとするとなんと視界だけでなく、手も臨むままに動かすことができた。

自分の本来の体は相変わらず、真っ黒な空間に浮かんでいる感覚があるのに、もう一つの巨大な体を動かすことができる不思議魔な感覚であった。

相変わらず感情の奔流に晒されているが、もともと8年間も自分自身の絶望と向き合い続けたウタはあくまで正体不明の他人の感情がただ強く流れるだけだと認識し始めるとさほど苦にならなくなっていった。

 そこで、冷静になりあの古びた不気味な楽譜を自分が歌ったことで、自分が化け物に変わり格納庫を吹き飛ばしたのだと気がつく。

 足元で赤熱し、ドロドロに溶けているものの中にもしかしたらアイリスも混ざっているのではの思い至り、青くなる。が深く考える前に突然巨大な体のそこかしこで爆炎が上がる。

「うわっ、何?、体が爆発してる。これって砲撃?」

かつて赤髪海賊団にいた頃に、戦闘中は船内に隠れているように言われていたのに好奇心に負けて、外に出た時に見た、砲撃された敵船が盛大に吹き飛ぶ光景を思い出す。

 砲撃ならどこか近くからから撃たれているはずと周囲を見渡すと瓦礫の合間のそこかしこに大砲を備えた大小様々な車両がこちらに砲口を向けて発砲を繰り返していた。

 しかし、いずれの砲弾でもまるでダメージを受けることはない。不可視の壁に阻まれるように体に当たる前に全て爆裂するか、潰れて落ちていく。

 更に爆音を響かせながら多数の単発機が上空に来て急降下しながら何かをこちらに投げつけてくる。

 だが、それも全て体のすぐ側で阻まれる。炸裂すれば今まで撃ち込まれた砲弾とは比べ物にならない熱と衝撃が発生しているがそれらも影響は皆無である。

「よかった。あれって全部アイリスが動かしてるって確か言ってたし、とりあえず無事みたい」

 自分の手で助けようとした友人を消し去ってしまう悲劇を回避できた事に胸を撫で下ろす。しかし、アイリスの計画を止めなければ本当には安心できない。

「アイリスが準備した兵器を全部壊しちゃえば、もしかして止めてくれるかな?」

 確証はないが、しかし説得も歌も通用しなかった以上、降って沸いた力でなんとかするしか方法はない。きっと地下にいてくれれば大丈夫だと言い聞かせながら、なんとなく使い方がわかり始めた力を目の前の兵器たちに向ける。

 

「地上車両による砲撃は徹甲弾、榴弾共に効果なし、航空爆撃も2000ポンド徹甲弾効果なし。既にこの島を襲った海軍なら全滅させて余りあるだけの攻撃を叩き込みましたがまるでダメージは見受けられません。しかしバリアーですか。そんなものを使う化け物がいるなんて」

 暗闇の中でアイリスが唖然としたように呟く。彼女は今、アトラス島の地下深くにある大空洞に建設された工場地帯、彼女の本体とも言うべき場所にあるボディに意識を移していた。

 万が一にも破壊されないようにというのもあるが、島中の戦力を最大限活用するためである。普段、人間大のボディから遠隔で指揮する際は通信可能な容量、及びボディの頭脳のリソースの問題で一度に直接コントロール可能なものは多くはない。なので普段は個々の機材に内蔵された簡単な判断能力しか無いAIにあらかじめ指示を出しておいて仕事をさせ、必要な時のみリモートコントロールを行なっている。

 しかし、この地下に意識を持ってくれば直接大容量のコンピュータに接続し、膨大なリソースに物を言わせて大量の兵器も直接コントロールが可能となる。

そうすることで単純な攻撃動作しか行えない膨大な兵器を連携させながら戦わせることができるのである。

しかしながら今回の相手にはあまり効果は出ていない。

そもそもあらゆる攻撃が意味をなさないため、連携させたところで変わらないのである。

 共有してる様々な視界の中でまた化け物からすさまじい威力のビームが放たれる。

そして、地上の車両は周囲の瓦礫や防御のため利用していた地形ごと撃ち抜かれ爆散し、高速で飛んでおり本来なら攻撃を当てることすら苦労するはずの戦闘爆撃機もお構いなしにまとめて薙ぎ払われる。

 島中から兵器を出撃させて向かわせているがこの調子ではいずれ枯渇しかねない。

「計画で使用予定のあの兵器体系なら通じる……、その、はずです。ですが、あれは威力が強すぎます。故郷の島が消滅するのも嫌ですし、海上に誘き出さないと」

そして、決断する。

「念のため作っておいたあれを使いますか。あれにも試作品が積んでありますし」

 

ウタは次第に焦り始めていた。

相変わらず、相手の攻撃は無効化してこちらが一方的に撃破しているが、どれだけ撃破しても一向に相対する兵器が減らないのである。

むしろ島中から集結し、どんどん数が増える有様であった。

既に撃破した車両や機体は100や200ではきかないはずだが、まるで底なしである。

一方で、ウタには時間制限がある。

それはウタの体力の限界であり、この力がウタウタの実の能力によって制御されている以上徐々に消費されている。

幸い、ウタワールドを作って人を引き込んだ時に比べると消費は少なく、まだしばらくは持つであろうが無尽蔵に兵器が湧き出し続ける現状、体力の限界の方が先に訪れる可能性が高く思えてきた。しかし、諦めることはできない。

そうすれば、再び自分の前から大切な人がいなくなる。そんなこと絶対に認められない。

 そんなことを考えている間にも次々に兵器が襲いかかる。

 至近距離からロケット弾を浴びせようと低空を接近してくる複葉の単発機群を腕で薙ぎ払う。

 背中に背負うように銃塔を装備した単発機が編隊を組んで旋回しながら銃撃してくるのをビームでまとめて薙ぎ払う。

 強力なライトを機首に装備した双発機が目眩しをしようと目に当ててくる。

 一瞬目が眩むがむちゃくちゃにビームを発射し叩き落とす。

 その隙に接近しようとしていた、2本の腕を振り上げた人型の上半身をカートに載せたような作業機械や回転するボビンのような自走地雷を巨大な腕でまとめて叩き潰す。

しかし、攻撃は全く衰えない。

相変わらず、地上からは大小さまざまな、旋回砲塔に一門の大砲を搭載した車両がこちらに向かいながら、または、距離を置いたところから瓦礫や地形越しに次々と砲弾を放っている。

空からは単葉の単発機や双発機が爆弾やロケット弾を雨のように降らせる。

 それを一気に片付けようと直感に身を任せて、力を振り絞るように歌を歌う。

 それに応えて今までにないすさまじいビームが上空を薙ぎ払う。爆弾を叩き込むべく接近していた機体も、投弾を終え離脱しようとした機体も、投下された爆弾も、遠方で離陸し編隊を組もうとしていた機体も全てが一度に薙ぎ払われる。

 上空の航空機を全滅させ、今度はそのまま地上に向ける。地形ごと周囲を薙ぎ払い、車両も付近にあった発進口も全て焼き尽くす。

 目に見える範囲の陸空の兵器が全滅し、一瞬攻撃が止む。

 

 一瞬の静寂に全てやっつけたのかと思う。

しかし、背中を攻撃が始まってから最大の爆炎と衝撃が襲う。

 

それでも無効化されるが新たな敵の出現にそちらに振り返る。

戦いながら移動して海岸までやってきており、背後は海である。沖合にはいつの間にか100隻以上はいるであろう大艦隊が浮いているのを見つける。

いずれもウタの知っている船とは異なる形状をしている。

 この世界の船は基本的に帆を持っているが目の前の船にマストがあるものは一隻もない。

代わりに先端から黒煙を吐き出す煙突が立ち並び、ほとんどの船がそれを挟むように巨大な砲塔を前後に1基ずつもっている。だが中でもひときわ目を引くのが、10隻ほどいる頭ひとつ抜けて巨大な艦であった。それらは巨大な連装砲塔を6基、上から見ると6角形型に持っており強大な攻撃力を伺わせる。

それらが沖に向かって遠ざかりながら一斉にこちらに砲撃を開始する。

地上車両からのものとは比較にならない巨大な砲弾の雨に周囲が爆炎に包まれる。

あれも破壊しなければと、そんな砲撃もものともせずに艦隊に向かう。

 しかし、ふとウタは妙なことに気がつく。今までの陸空の兵器はどれも自分に向かってきたが目の前の船は攻撃しつつも距離を取ろうと沖に向かって離れて行く。一定の距離を保ちたいのかそれとも自分を海岸から離したいのか。

 そんなことを考えていると、海岸から少し離れた時、突然全ての砲撃が止む。

これも初めてのことである。弾切れか何かかと思うも、中央の巨大な一隻が一発だけ発射したことで否定される。

 ウタは今まで通り効かないだろうと気にしない。

しかし、それは今まで撃たれた砲弾とは全く異なる原理の砲弾だった。

普通の砲弾は金属の塊を貫通させるか、爆薬の爆発による衝撃や飛び散る破片により殺傷を狙う。

だがその砲弾に積まれた爆薬は砲弾の大きさからすれば非常に少なく、また2つに分かれて積み込まれた金属は貫通を狙うものでもない。

砲弾が目標に近づきあらかじめ定められた通りに信管が作動、爆薬を炸裂させる。

そしてその燃焼ガスに押し出されて砲弾内で2つの金属塊が高速で衝突する。

合体することで臨界量を超えた金属塊内で中性子が飛び回り、急速に核分裂反応が進行する。

金属塊の質量に比例して膨大な熱量と放射線が放射された。

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