内憂外患? いいえ、フロンティアxフロンティアです! 作:かりん2022
夢ちゃんは名誉教授である。
夢ちゃんはピッチピチの7歳である。
マグル学で座学をマスターし、マジックアニマル学とその他の魔法学の筆記試験を100点越えで卒業まで修め、実技でもかなりの成績を残す、ハイパー才媛である。
才能と夢と希望と未来溢れる彼女を、評価していないなんてとんでもない。
だからね。
「夢先生にはどっしり後ろで構えていて欲しいんだ」
「ヤダヤダヤダヤダ。私もイタリカに行く! 教師として、生徒だけを行かせるなんて「めっ」 なんだから! かの大英雄ハリーポッターだってかのヴォルデモートと一年生にして戦ったのよ!」
「それって大犯罪者の?」
「そうよ! しかも私は教授なんだから!」
「でも、教授と認められる続けるには、実技もいい点数を取らないといけないのでは?」
「そうだけど! ここらで一発、手柄が欲しいのよ!」
「はぁー」
伊丹はため息をついた。
そうして、夢ちゃんが寝静まった後に会議を行う。
夢ちゃん抜きの会議である。
「夢ちゃんはだいぶ焦っているようだね」
「政治的な嗅覚が鋭いから、自分の役割が終わりつつある事に気がついているんですよ。いや、本当に幼児とは思えない才媛だ」
外交官である菅原は苦笑して続ける。
「魔法族と非魔法族の融和が今の所非常にうまくいってますからね。夢ちゃん著書の『魔法使い、非魔法使い』が交渉の上で極めて有用で、お互いの思考の差異や文化の違いなどをうまく飲み込んで交渉できてます。緊急事態は収束しつつある。そうなると、一年生教授の居場所などなくなってしまう」
「戦場に子供の居場所なんてなくて、いいじゃないですか。学校に戻れば」
伊丹の言葉も尤もである。だが。
「そうなると、留年らしい」
「は?」
「夢ちゃんは、このまま実績を重ねて就職するか、留年するからしい」
「それはまた両極端な」
「まあ、イレギュラーはイレギュラーという事だね。非常事態が終わったら、半端な教育をされた扱いづらい子が残るというわけさ。夢くんは実技も得意だが、年齢制限のある魔法もあって全部の実技試験をクリアできたわけではないし、魔法使いにとって実技は何より大事だ」
魔法使いはこともなげに指おり数える。
「夢くんの第一志望の部署は魔法を隠す部署で、融和の煽りでなくなりそう。第二部署は普族の機械を使えるようにする魔法の研究で、これもブルーオーシャンがレッドオーシャンに。しかも第一志望の部署の人間が大量に流れ込んでいる。普族と魔法使いの融和に関する部署が新設されたけど、これもエリートが配属されている」
「元々、夢は自分の事を大人になったらただの人になるタイプの、とんでもなく早熟なだけのタイプの天才と言っていてね。焦っているのさ。彼女の専攻は、今まさに必要な分野や、逆にマジックアニマル学みたいな、とにかく時間が掛かる学問が多いからね」
「なんか大丈夫そうだから、夢くんには傷の浅いうちに一年留年して一年からやり直して欲しいと言うのが偽らざる魔法界の思いなのだよ」
「ただ、このまま行けばそのまま鳴り物入りで就職できる可能性もありますからね」
「天国か地獄か、というわけか」
「私としては遠回りしても、来年一年生からやり直すべきだと思うがね。あの子はせめて年度内に実績を得た上で学生のルートに戻る事を希望している。現状では就職の実績として足りないからね。できて侍見習いだし、私は夢に侍の道に進んでほしくはないし」
「なるほど。出来ればいいとこどりしたいというわけですか」
「あの子は一才の時から、どっちか選ばせようとすると全部取る子だったからね」
「でも、イタリカに連れて行って、また炎龍みたいなトラブルに遭ったら大変ですよ」
「しかし、手柄を得られるチャンスを棒にふる事になる」
「私は絶対にあの子と一緒に行くわ! 行くわよね、貴方!」
夢の父は自衛隊に対する科学アドバイザーという事で来ている。
母はその助手という形なので、単体では動けないのだ。
「もちろん、行くよ」
そうして、伊丹達は一年生のフレッシュすぎる教師に引率される事となった。
なっちゃったのである。
所変わって、ホグワーツ。
伝統ある学校は今、マグルの話題で持ちきりだった。
そこで、肩身を狭くしている12歳のスリザリンの少女がいる。
名前をアビゲイル。超世界的有名企業のご令嬢、そして今では一般家庭の魔法使いの娘である。
「アビーも貰われっ子だったよね?」
「は、はい」
それが相応しいとばかりに、声高らかにスリザリン! と言った帽子の事はまだ記憶に残っている。アビゲイルは純魔法使いではないのに。
立派なローブ姿の貴族らしき魔法族に、擦り切れたローブで混ざっていくのは辛かった。ただただ、家に帰りたかった。
「君の親ってどんな人?」
「スペシャルな人。お父さんは魔法使いなんだって思ってた。私が魔法使いになるまでは」
「マグルが? そんなわけないだろう。やはりマグル出は学がないな。成績も悪いし」
そんな事ない。アビーは叫びたかった。
魔法が使えない事がなんだというのだ。そんな事関係ないくらい、ファンタスティックでスペシャルな毎日を、与えてくれた。私は、パパのお姫様で、パパのお姫様である事は、世界のお姫様である事なんだ。心からそう思えた。
なのに、なんで。
アビーはグッと黙る。
アビーは確かに魔法が苦手だった。
でも、マグルのテストで100点以外を取った事は無かった。
父は世界的に有名なゲーム会社の社長。ママは女優。
ママとパパは女の子がそんな事をしなくても、なんて時代錯誤な心配をするけれど、プログラムの腕は誰にも負けない。
将来は、手術用ロボットのプログラムを行うのが私の夢。
そんな私の夢は、あの7歳の誕生日に木っ端微塵となった。
それ以来、なぜか誘拐犯と家族ごっこをする羽目になり、隅っこに隠れるようにして暮らしてきた。
「皆さん、大広間に集まってください」
嵐が過ぎ去るのを待っていると、全校生徒に対する呼び出しがあった。
「皆さんに、お手紙が来ています。イギリスの首相からです」
「私達は、必ずや魔法族と非魔法族の分断を解決し、親子が親子でいられる世の中を作って見せます。手始めに、ホグワーツの子供達全員に援助を与えます。もう少しだけ、待っていてください」
「今、魔法族は非魔法族とお互いに歩み寄ろうとしています。15歳以上の貰い子は本当の両親と面会できた事ですし、うまく行けばもっと小さい貰い子の子達もいずれはご両親と会えるかもしれませんね。昔のように、親元から通うようになるかもしれません。魔法族も、非魔法族も、仲良くせねばなりませんよ」
そうして、真新しいローブと、マグルの世界でも出歩ける服、お菓子、お茶、おもちゃ、現金などが詰め合わせされたものが全員に配られる。
全員。全員にだ。
「パパだ!」
そこに描かれたキャラクターと吹き出しに、アビゲイルは涙した。
きっと父が大金を寄付して成し遂げたに違いない。アビー1人に援助する為に!
『プリンセス、君はいるだけで僕を照らしてくれるんだ』
私は、プリンセスたり得ているだろうか。
泣きながら、アビーは決意した。
パパとママに、決して恥じないように、前を向いて頑張るのだと。
世界を照らす、輝ける太陽になるのだ。
それが私の責務だというものだ。
だって、パパとママは必ず迎えに来てくれるんだから。
マグルの勉強をしよう。あの輝かしい世界に帰れるように。
魔法使いの勉強をしよう。パパとママの娘がとがっかりされないように。
そうよ、信じて。
私はママの娘。
私は美しい。
私はパパの娘。
私はユーモアに満ちているはずだ。
信じて。
パパとママの娘の私は、世界の太陽になれるのだと。
全校生徒への贈り物が連打され、さすがに心配した教師達が文通を許可し、慌ててアビーが落ち着くように手紙を出す事になるまで、後3ヶ月である。
親元から通う事になる日は近い。