「ん? なんじゃいこの曲は?」
少々荒れる波の中、船を手足のように操舵していたジンベエは聞こえてきた音楽に首をかしげる。
通常、サニー号で聞こえる音楽といえば船の音楽家であるブルックのそれだ。しかし、聞こえてきた歌声はどう考えても女性。かと言ってナミやロビンのものでもないだろう。素人が聞いてもその尋常ではない歌唱力が理解できた。
音の出どころはすぐに判明する。というか、ジンベエの疑問に音の発生源が反応したのだ。
「あれ? ジンベエ知らねえのか? 二年前に現れためちゃくちゃ人気の歌姫なんだぜ?」
「オレもだいっすきなんだ!」
釣りをするためのBGMにつけたらしいトーンダイヤルを差し出したウソップとチョッパー。どうやらこの二人、かなりのファンであるらしい。
「そうなのか。ワシはそういう流行りっちゅうのに疎くてなぁ」
「ソウルキングの私からしても、彼女の歌唱力は別次元です。ライブをやらずに電伝虫を使った配信のみでそれだけの人気なのですから、驚愕の一言です」
「なにせ空島にまでその人気が届くほどだもの。“救世主”とか“新時代の歌姫”って言われるのも納得だわ」
どうやらジンベエが知らないだけで一味にもだいぶ認知されている存在らしい。ジンベエは一番の新参の上に一味での年齢も高い。というよりもこの一味の平均年齢が若いのだ。
そして年齢の高い組もロビンはナミと行動することが多く自然と流行に触れるし、フランキーやブルックはクリエイター気質からか流行に強い。
――疎いとか言わずに、少しは自発的に調べるのも大事かのう……。
元七武海、海侠のジンベエ。精神的に若い船でそんなことを考える日々である。
「ああ、この曲なら聞いたことあるな。ペローナが好きでよく聞いていたし、鷹の目も結構気に入ってたはずだ」
「まじかよ。世界最強の剣士すら聞いてるとか、影響力半端ないなUTAちゃん……」
懸賞金三五億の海賊すら気に入っている……というよりも元七武海、鷹の目のミホークの人となりを多少とも知っている面々は「むしろあいつ、歌とか聴くんだ」と驚愕していた。まあ、修行をつけてもらったゾロはあの剣士が家庭菜園をしているところなども見ているので微妙な顔なのだが。
さて、そうなると自然と気になるのは、鷹の目と同じく三十億超えの賞金首である我らが船長はこの歌手のことをどう思っているのか、ということ。
全員の思考が一致したのを見計らったかのように自室で昼寝をしていたルフィが甲板に顔を出す。
「んー、よく寝た! ……お、なんだその曲! めっちゃいいな!」
「あ、ルフィさんはやっぱりジンベエさん側ですよね」
「こいつ、歌は好きだけど自分からインプットするタイプじゃないし」
「そもそもこいつ、電伝虫とか自分で操作できるのか?」
「そういえば操作するとこ見たことないかも!」
「なんだお前ら! 起き抜けに失礼だぞ!」
フルボッコである。音速で歌姫のことを知らないのを察知された船長、クルーに徹底的に叩かれている。まるで頭としての威厳が感じられない。
「ジンベエ、一応言っておくが、あいつが圧倒的少数派だからな。仲間がいたとか思わないほうがいいぞ」
ほっと胸を撫で下ろしたジンベエはぼそっとゾロに釘を刺されて背筋を伸ばしたのは二人だけの秘密である。
しかし、当のゾロも修行先で偶然聞いていなければフルボッコにされる側だと思うのだが……運のいい男だ。
「だー! なんなんだよ全く! ……けど、ほんといい曲だな! 懐かしい感じがする」
「「「「懐かしい?」」」」
ひとしきりイジられてゴムの能力で皆から離れたルフィの発言に、全員が首を傾げる。音貝から流れてくる曲は昔の民謡や海賊に長く愛されているような曲ではなく、彼女のオリジナルばかりだ。「懐かしい」という表現は普通出て来ない。
うちの船長、ついに言葉選びまでセンスなくなったか、などと失礼なことを考える船員も現れる中、トーンダイヤルを拾い上げたルフィは「シシシ」といつも通りの笑みを浮かべて曲に耳を傾ける。
「ああ、なんか懐かしい声だ……」
自分の根幹を包み込むような安心する声色。彼はその歌声をそう感じていた。自然と思い出す光景は故郷のフーシャ村。寂れていながらも穏やかな地元の情景がありありと思い浮かぶ。
クルー全員に謎の疑問を残しながら、ルフィは穏やかな表情で一日中流れる曲を楽しんでいた。
「……あれ? そういえばプリンセス・ウタの配信って、うちがやってるのと同じ形式……?」
ウソップの疑問は、強い波に攫われ、溶けて消えてしまった。
その日の配信は、偶然が積み重なった奇跡だったのだろう。あるいは必然が折り合わさった運命だったのだろう。
『麦わらさんたちが配信で使ってる電伝虫って、UTAが使ってるのと同じなんですか?』
「ウタ?」
始まりは、とあるリスナーの声をルフィが拾い上げたことだった。
実のところ、今までも配信環境に関して似たような質問はあったのだが、いかんせんルフィがこの手の知識を持ち合わせていないため、「知らん!」で終わって以降基本スルーされるようになっていた。
ただ、今回はその質問に入っていた人名と思わしき単語が、ルフィの興味を引いたのだ。
「ルフィ、こないだ聞かせた曲あっただろ? あれ歌ってるのが、俺達と同じように配信してるプリンセス・ウタだよ」
次の要因は、その日配信状況を見守っていたのがウソップだったということ。
これが他のクルーならすぐに別の話題に移るだろうと気にしなかったかもしれない。しかし大のUTAフリークであるウソップはそうはいかない。思わずルフィに知識の補完を行ったのは当然の流れと言えた。
そして、それを聞いた船長の中でそれまでバラバラだった知識が一気に繋がることになる。
「ええええ!? あれ歌ってるの、ウタなのか!?」
「なんだその驚き方。というかお前、実はプリンセス・ウタの事知ってたのかよ。うちの一味で知らなかったのジンベエだけか」
ウソップはルフィの反応に嘆息する。知っていたのであれば、この間の彼はただただ無駄にフルボッコにされただけということになるのだから無理もない。
「ウタってあれか? 髪がこんな感じに赤と白の半々になってて、こんな感じの後ろに回るヘッドホンつけてて、すぐ勝負でズルして、こんな感じで『負け惜しみ~』って煽ってきて、けど結構寂しがりやで、シャンクス大好きな、あのウタか?」
「ちょっと待てちょっと待て」
しかし、続いた言葉に今度は焦ることになる。
前半二つはウソップ自身の認識と相違ない。紅白半々ずつの綺麗な髪と女性がつけるには少々ゴツさを感じさせるヘッドホンは彼女のわかりやすい識別符号だ。
だが、それ以降の要素はまるでわからない。プリンセス・ウタが配信で勝負したことはないし、勝負をしたことがないから当然煽ったこともなく、寂しがりやという話も聞かない。
いやそれよりも――
「なんでそこで赤髪のシャンクスの名前が出てくるんだ!?」
「だってウタはシャンクスの娘だし」
「ええええ!?」
『『『『ええええ!?』』』』
ウソップの驚愕とリスナーの驚愕が一致した。あまりの大音量に驚いて飛び出してきた海王類が画面に映ったが、速攻ゾロの剣戟で食材となったし、それに反応するリスナーは誰もいなかった。
「ほら、こないだ話したシャンクスと一緒にフーシャ村に来てた娘。それがウタなんだよ」
「ちょっと待って!? え、あんたの幼なじみが“新時代の歌姫”なの!?」
騒ぎを聞きつけて近寄ってきたナミをウソップが制止する。ひとしきり驚いたからか、彼のほうが幾分冷静だった。
「いや、さすがにそれはない……だろ。たまたま同じ名前だって可能性も十分あるわけだし……」
『けど、見た目の話は完全にUTAのことだったよね』
リスナーの言葉にう、と言葉が詰まる。
確かに同名の人間がたまたま有名になっていた、という話ならよくあることだが、見た目まで似ているということはなかなかない。しかもUTAのディティールは被るにしてはあまりにも特徴的が過ぎた。もう、その時点でほぼ結果は確定していると言っても過言ではない。
それを明言するのは簡単だ。しかし、その行動の結果起こりうる事態が想像できたからこそ、ウソップはぼかすことしかできなかったのだ。
UTAの「海賊嫌い」は有名だ。世の平和を乱す略奪者を許さない救世主、それがプリンセス・ウタなのだ。
それが“四皇”麦わらのルフィと幼なじみで? しかも同じく“四皇”赤髪のシャンクスの娘? そんなことを世界が知ればどうなる。UTAを心の支えにしている同じ海賊嫌いたちはどうなる。
冗談ではなく、彼女の人気にヒビが入りかねない。それどころか、世界から追い回されることになってしまう可能性すらある。
この話題はここで終えるべきだ。焼け石に水だが、リスナーへの釘刺しもしておかねばなるまい。
『今、ちょうどUTAも配信してるから、見てみれば?』
「本当か!?」
そんなウソップの配慮は、リスナーの提案に光の速さで反応した船長によって完全に打ち砕かれた。普段は殆ど被ることのない二つの配信が、今日に限って同じ時間に行われていたのだ。これが三つ目の要因。
先の通り、UTAの「海賊嫌い」は有名だ。しかし、これまでの配信で想像以上にリスナーたちからのルフィの――ひいては麦わらの一味の――評価は上がっていた。ルフィなら大丈夫なのでは、という考え、そこに十年以上離れ離れになった幼なじみという話が合わさり、賛同の声が幾重にも重なって聞こえてくる。
「ウソップ、その配信見てえ! 準備してくれ!」
うちの船長は一度言い出したら自分を曲げない頑固さは人一倍だ。最早こうなってしまった以上、止めるのは不可能だろう。
なるようになれ、と頭の中で盛大に叫びながら、自室から視聴用に使っている電伝虫を持ってくる。甲板に戻ってみると、事態を聞きつけた面々も集まってきていた。
――これは見やすいようにした方がいいな。
自分に比べると呑気な奴ら――特に副船長とコック――にため息を吐き、フランキーとチョッパーに手伝ってもらってスクリーン代わりのシーツを取り付けた。
「あ、ばかっ」
そして後は電伝虫の設定だけか、と考えていると、シーツに歌姫の姿が映し出される。電伝虫の方を見れば、待ちきれなくなったのかルフィが電伝虫を起動させたようだった。
まずい。ウソップはどっと冷や汗が溢れる。ウソップがウタの配信を視聴するために使っていたのは余っていた映像電伝虫だ。それをこちらからの音声・映像を切った状態で配信にアクセスしていた。「海賊嫌い」という話に配慮してだ。
しかし、ルフィがそんな細かい設定をするはずがない。間違いなく、ウタの方にもこちらが見える状態になっているだろう。
一度止めて、設定し直すのが得策。そう考えて、電伝虫に手を伸ばそうとして――
「ウタ…………」
ぐ、と息を飲んだ。声が出せなくなった。
ウソップだけではない。ゾロも、サンジも、ナミも、チョッパーも、ロビンも、フランキーも、ブルックも、ジンベエも、そして配信先のリスナーたちも、誰一人声を出さなかった。
穏やかな波が船に当たる音だけが響く中。
麦わらのルフィの頬を一筋の涙が伝っていたのだ。
一番驚いたのは映像を見ているリスナー達だろう。
配信でルフィは終始笑顔を絶やさなかった。冒険譚を話すときも、自分の人生観を話すときも、強敵との死闘を話すときも、思い出を語るときも、人をワクワクさせる笑みを浮かべたままだった。
その大海賊が静かに涙を流している姿に、誰もが理解した。理解させられた。納得せざるを得なかった。
二人の関係性を、スクリーンの先で歌っている彼女への想いの大きさを、十二年ぶりの感情の爆発を。
UTAの歌唱が終わる。そして巻き起こる歓声。
無数のそれを消し飛ばすように――
「ウタ!!」
『っ!? え、ルフィ!?』
覇王の声が、歌姫に届いた。
すぐに声の主が幼なじみであると理解した歌姫は数瞬ぼーっと立ち尽くしていたが、一瞬視線を外すとすぐにいつものUTAの顔になる。
「お前すげえな! めちゃくちゃ人気らしいじゃんか!」
『……ありがとう。ルフィは海賊になったんだね』
「ああ、約束があるからな。シャンクスとの約束も、エースたちとの約束も、もちろんウタとの約束もな」
『――――』
しかし、歌姫のそんな努力も虚しくせっかく戻した顔がブレてしまう。
「けど、急に船降りたって聞いて驚いたんだぞ? 連絡も取りようがなかったし」
何度も表情をいつも通りに戻そうと努力したのだろう。眉間や頬に数度力を込めた後、表情を隠すようにフードを目深に被り、「そっか」と小さく呟いた。
「あの時のシャンクスの荒れ具合、すごかったんだぞ」
『はは、あのシャンクスが?』
「数日酒場で飲んだくれてたからな。俺もワンワン泣いて……いや泣いてねえ!」
『泣いたって今言ったじゃん……』
「泣いてねえの!」
一言話すごとに努めて繕っていた堅苦しさが溶けていく。
この会話はすぐにやめるべきだ。UTAを保つことがまるでできていないことから、本人もそれを自覚していた。
そもそもこの配信の形式でこんなに一人の人間と話している時点でおかしいのだ。次の曲でも歌って、それで今日の配信は終えてしまえばいい。
「……それにお前と話してえこともまだまだいっぱいあった。勝負もまだついてないしな」
けれど、ウタには辞めることができなかった。
『私の一八三連勝中でしょ?』
「ちげえ、俺の一八三連勝中だ」
何気ない会話、十二年前と変わらない、懐かしいやり取り。フードなどでは隠しようもなく緩んでしまう頬。
やめたくない。やっと、やっと取り戻せたのだ。「はい、じゃあね」なんてあっさりとやめてしまえるわけがない。
『出た、負け惜しみー』
「負け惜しみじゃねえ! …………」
ふと、途切れることのなかった会話がルフィで止まった。ウタの双眸が少しだけフードから顔を覗かせ、画面越しの幼なじみを捉える。
海賊という肩書を持つ懐かしい顔には彼女をいたわるような優しさにさみしげな色が浮かんでいた。
「ウタ……なにか、あったのか?」
く、と。
小さく息を飲む音が、世界に流れた。
『なにかって?』
「わかんねえけど、お前、昔より楽しそうに歌ってねえって思った」
『……気のせいじゃない?』
「気のせいなもんか! どれだけ聞いたと思ってんだ。初めてトーンダイヤルで聞いた時、雰囲気が違っててウタだって気づかなかった。昔より、赤髪海賊団の音楽家として歌っていた頃より楽しそうに歌ってなかったからだ」
『そんなことない』
抑揚のない否定。普段の配信では決して出さないであろう声音。
最早、今が配信中であるということすら彼女の頭には残っていないかもしれない。それくらい、今のウタは取り繕うことができていなかった。
「そんなことなくねえ!」
『そんなことないよ!!』
再度の否定は喉が張り裂けそうなほどの絶叫。それは、まるで駄々をこねる子供のようで、まるで説得力が感じられなかった。
ルフィの表情はいたって真剣そのものだ。彼が嘘をつくのが下手なのは既に世界レベルで有名な話。大真面目に昔の時分より今の歌姫が楽しそうに歌っていないと思っているということは間違いなかった。
この大海賊の発言はUTAのそのものの否定とも取られかねないものだ。それを本人の配信でやるなど、普通であれば大ブーイングものだろう。
けれど、四皇の真剣な表情が、歌姫のフードから見え隠れする悲痛の表情が、周囲に批判の声を挙げさせないでいた。彼の言葉が事実であると思わせていた。
ただ見ているだけしかできない時間。それがリスナーたちをルフィと同じ疑問へと落とし込む。
どうして彼女は昔より“楽しく”歌えていないのだろうか、と。
「ウタ、お前今、どんな気持ちで歌ってんだ?」
年齢を重ねたから? 技術を積んだから?
「何を求めてるんだ? 何を目指してんだ?」
出会いがあったから? 別れがあったから?
「“それ”が、お前の望んだ『新時代』なのかよ。“俺たちが目指した『新時代』”は――」
『違う!』
そのどれもが間違ってはいなくて、けれど間違っているのだろう。
『違うよ。私が、私達が目指した新時代はこんなものじゃない。もっと皆幸せで、誰一人傷つかなくて、満たされて……』
だって、一番彼女を縛り付けているのは――
『けど、私は『救世主』だから! 私がやらなきゃいけないから!』
自分たちなのだから。
一人の少女に世界が縋った。一人の少女にすべてを委ねた。一人の少女にすべてを押し付けた。「救世主」なんて無骨な肩書を貼り付けた。
自由で平和な世界を願った歌姫を、不完全な箱庭の核にしてしまった。世界一不自由な存在にしてしまった。
『この『新時代』には、大切な人がいてくれない。シャンクスも、ベックも、ルゥも、ホンゴウも――ルフィも』
ぽたり、ぽたりと堪えきれなくなった涙が地面へ落ちる。
「けど、俺は見つけたぞ」
『だめだよ。私は『海賊嫌い』のUTA。海賊のルフィとは一緒にいられない。せっかく私の歌で元気になってくれているみんなを裏切れない……』
海賊に傷つけられた人たちを癒やしてきたという自負。期待に応えなくてはという責任感。重圧と自分の内面に押し潰されそうになりながら、それでも手放すことのできない未完成の夢。
手放せばまた苦しむ人が現れる。絶望から抜け出せなく人が溢れる。助けられない罪悪感にさいなまれる。
「うるせえ! 他人のこととか考えんな! お前はどうしたいんだ!」
『!!』
それを理解してなお、その完成形を、少女の夢想の形を知っているからこそ、“彼女ならそれでも成せるのだと確信している”からこそ、“四皇”麦わらのルフィは容易くぶち壊した。
ウタが顔を上げる。フードから露わになったその顔は二一歳のそれではなく、涙に濡れた十歳の少女のものだった。
『会いたいよ、ルフィ』
か細い助けを求める声。
「ああ、ちょっと待ってろ」
それを受け止めた静かな返答に、世界が震えた。
それまで親しみを感じていた麦わらの一味のリスナーたちは理解した。画面の前にいるのが、確かに海賊なのだと。それも並の存在ではない。世界最高峰に四席しか存在しない皇帝の座に君臨する男なのだと。
画面越しでも感じる圧にある者は腰を抜かし、ある者は跪き、ある者は祈りを捧げた。
UTAを愛してやまない人々は王者の風格を信奉し、同時に願った。
――我らの歌姫を救ってくれ、と。
「ウソップ。ウタのいる場所、わかるか?」
「ああ。元音楽の国、エレジア跡って話だ」
「ナミ」
「海図の用意をすぐするわ」
「ジンベエ、操舵を頼む。フランキー、クー・ド・バーストも使って最短ルートを通る。ジンベエと連携してくれ」
「承知した!」
「おう! 任せとけ!」
次々と指示が飛ぶ。俄に船内が慌ただしくなる。突然の事態に、しかしクルーたちは即応した。まるで最初からそうなるとわかっていたように。
いや、事実として彼らにはわかっていたのだろう。考えてみれば当然なのだ。彼の遍歴を見れば、モンキー・D・ルフィという男がここで動かないはずなどないのだ。
「わりいなみんな。ちょっと大切な宝に会いに行ってくる」
船長の言葉と共に通信が途切れる。エレジアはグランドライン前半の島だ。既にジンベエによって、船はその進路を反転させていた。
ルフィは大きく息を吸い込む。声をすべての海に届かせようとするように大きく、大きく。
「野郎ども!! 最速でエレジアに向かうぞ!!」
「「「「おう!!!」」」」
麦わらの一味、進撃。