どこぞで勝手に仕掛けた賭けの担保としておよそ50円分の価値があるかも不明な不明な落書きを読み切り風に書き直してみました。
ほぼ導入部分のみですが、これが落ちたモチベを盛り返す足しになってくれれば幸いです。

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本作に登場する設定は原作を読んでも不確かな部分は勝手に捏造しており、公式設定と食い違う記述があったとしたら調査不足またはこいつ勝手に変えやがったなとお察し下さい。


〔ある意味マーフィーの法則だろうか?〕

 

 

 

 その日に限って下校ルートを変えたのは何が原因だったのか、十重二十重に取り巻く非常識と突っ込み不在な環境に疲れ切っていた私は、普段ならまず間違いなく回避できたであろう大ポカをやらかしてしまった。

 虚空に走る異様に怪しい輝きを放つ不自然な亀裂、見なかった事にして通り過ぎるべきだったそれに近付いた瞬間、周囲の空間がまるでガラスを叩き割ったみたいに崩れ去り、眩暈と脱力感に襲われた私の意識と記憶はそこで途切れる。

 意識が戻って最初に感じたのは冷たく硬い床の感触と奇妙な息苦しさであり、慌てて飛び起きたは良いが目の前にある光景を受け入れられずに呆然と立ち尽くす。

 平たく言ってしまえば廃墟、薄灰色の明かりに照らされた石造りの通路を斜めに切り裂く縦穴に沿って各所に罅割れや崩落の痕跡があり、瓦礫に押し潰されたであろう装飾品の残骸と思しき鋭く尖った大きな金属片がすぐ隣に転がっていた。

 驚きよりも先に帰る方法の心配が頭を過ぎり、我ながら非常識な環境に毒されているなと関心半ばに自嘲して溜め息、状況を適切に表すとしたら脱出系のゲームに強制参加させられたと言った感じだろうか?

 ゾンビやら怪物の類に追い回されるような事態は勘弁だが、生き物の気配どころか物音ひとつしない現状で優先すべきは、いるかどうかも分からない怪物に襲われる心配よりも現在の状況に対する情報収集と脱出方法の捜索である。

 崩落してない方の通路をおっかなびっくり歩き続けて数分、言い訳しようもないくらいあからさまにやばそうな代物を発見してしまった。

 殺風景な大広間の各所に転がる大小様々な甲冑っぽい残骸、原形を留めない破片や歩こうとする姿勢の途中で倒れている分も含めてダース単位はいるであろうそれと床や壁面に残された無数の痕跡から察するに、甲冑の正体は恐らく防衛ロボット的の類で襲撃者と戦闘を行った結果ここが破壊されたのだと思われる。

 中世ヨーロッパじみた石造りの通路に趣味的な装飾が施された巨大甲冑、このような描写をすると剣と魔法のファンタジーっぽく感じるが、断面から見えるSFチックな機械パーツがそんな当て推量を完膚なきまでに否定していた。

 理不尽が過ぎる事態にその場で泣き喚きたくなるのを何とか我慢し、落ちたらまず助かりそうにない亀裂に心を折られそうになりながら目に付いた諸々を片端から調べては理解不能だったり嫌な予測ばかりが集まる不毛な作業が半日ばかり、荒れ果てた庭園風の場所で見つけた林檎っぽい果実で空きっ腹を誤魔化した辺りで気力と体力の限界だった為、途中で発見した部屋のベッドに潜り込み泥のように眠る。

 目覚めてすぐに恐らく女性が使っていたと思しき室内を調べた結果、英語と似ているが少し違う文字で書かれた書物やコスプレにしては異様にリアルなケモ耳少女の写真を発見し、思い浮かべた悪い冗談のような仮説を振り払い再開した探索で動かぬ証拠を拾ってしまった。

 そいつは中央が出っ張った親指サイズの四角い金属板、地震でも起きた風に散らかった研究室っぽい部屋の床で埃を被り転がっていた謎の機械、私が無意識に放っていた魔力反応とやらを感知して起動したらしい。

 未完成で放置されたインテリジェントデバイスなる代物、頭の中に直接声が響くと言う意味不明な怪現象を起こしはしたが、作られた道具として持ち主を求めていたこいつと帰りたい私は利害が一致しており、数時間の交渉と調査を経て古臭いデザインのライフル銃っぽい見た目に変形したのでドライゼと名付けた後に辛うじて機能していた転送ポートとやらを使い無事帰還に成功する。

 

 

*

 

 

 何とか廃墟から脱出できた私だったが、土曜の昼過ぎから日曜の夕方まで行方不明になっていたせいで大騒ぎになっており、家に帰り着いた時点で待ち構えていた両親に大泣きされた上、何故か警察ではなく広域指導員のおっさんに事情を聞かれた。

 面倒の予感がしていたので先にドライゼは隠しておいたし、長引くかと思った事情聴取も『帰り道の途中から記憶が飛んで気付いたら夕方だった』と苦しい言い訳をしたらあっさり通り、念の為に病院で簡単な検査を受けただけで行方不明事件は終了する。

 何とも不可解な話ではあるが、下手に追及され信じてもらえそうにない荒唐無稽な事実を話す訳にも行かないし、何かしらの事件に巻き込まれて記憶が飛んだみたいな解釈をされたのなら蒸し返さない方が無難だ。

 医者に健康そのものと太鼓判を押されてやっと落ち着いた両親に少し罪悪感を抱いたが、以前に感じた異常や非常識をどれだけ相談しても取り合ってくれなかった時点で真実を打ち明けるつもりはないし、動かぬ証拠としてドライゼを見せても信じてもらえるとは思えない。

 言い訳の余地なく非常識の塊だが、ドライゼは私の愚痴話を否定せず聞いてくれた唯一の存在であり、下手に見せて取り上げられたり中に通信機が仕込んでいると決め付けられたら冷静でいられる自信はないし、そもそも誰かに私の話を信じてもらう事は既に諦めている。

 幼い頃は不思議とも思わなかった周囲の環境、テレビを見たり学校の授業を受けて感じた違和感を話す度に起こる反応、仲の良かったクラスメイトや担任教師はもちろん両親ですら私の疑問は理解不能だったらしく、どれだけ言葉を尽くそうとも論点が伝わらない不毛な会話は悪ふざけの類と判断されてしまった。

 言葉は通じるのに会話が成立しないだけでも大概なのに、こちらが知っている言葉の限りを尽くして伝えようとする違和感を理解せずスルーして来る連中と仲良くできるはずもなく、当たり障りのない受け応えと態度で周囲から孤立しない程度の立ち回りを対処法として選んだ辺り、我ながら捻くれてしまったなと呆れるばかりである。

 別に両親を嫌ってはないし愛されている実感もあるが、それでも同じ価値観を共有してない相手に全幅の信頼を置けるかと問われればノーだし、人間不信とまでは行かないにしても思ったり感じた事を口に出して良いかどうかや話す内容を考える癖が付いており、両親に対してすら反抗心とかはないものの数年前から素直な本音を言えてない。

 そんなこんなで私には親しい友人と呼べるような相手がなく、他人から見れば無機物相手の寂しい独り遊びに見えるのかも知れないが、文化背景的な部分で多少の食い違いはあっても理解の及ぶ範囲で常識的な価値観を共有するドライゼの存在は、やさぐれ乾いていた私の心を癒してくれた。

 どれだけ言葉を重ねようとドライゼは血の通わぬ機械であるのと同時に、周囲の人間と違ってまともに会話が成立する希少な相手でもあり、方法こそ受け入れ難かったが訳の分からない廃墟から脱出させてくれたと言う大きな恩義もある。

 正直、価値観や常識に多少の食い違いがあっても言葉を交わせる相手は貴重だし、意味不明なSFファンタジー世界の住人かつ無機物ではあるけど私の意志を尊重してくれるドライゼは、何物にも代え難い宝物であるのと同時に興味の対象でもあるのだ。

 

 

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 ほぼ初期状態のドライゼが持っていた情報は、ミッドチルダ語と魔法に関する初歩的な知識くらいだったが、転移魔法で廃墟に戻り探索を再開していた際に見つけた端末を操作し、廃墟の名前が時の庭園かつミッドチルダなる世界の産物である事が判明した。

 時の庭園は次元間航行も可能な移動庭園……亜空間的な領域を渡る船舶に分類されるそうで、本来は遺跡級の骨董品を修繕してあれこれ改造した代物らしいが、判断基準となる知識がないので性能的に何がどう違っているのかさっぱり判別できないし、そもそもミッドチルダ世界に行こうとか思ってないのでそこらに興味はない。

 元の持ち主が何者かから襲撃を受け崩壊寸前のズタボロ状態で放棄された時の庭園は亜空間を彷徨っていたようだが、サブ動力炉と管理装置は辛うじて生き残っていたらしく、現状維持がせいぜいではあるものの崩落している部分に近寄らなければ居住可能な程度に機能しており、色々と非常識なのは少し気に食わないがここを私の隠れ家として使わせてもらう事にする。

 庭園の修復には魔力と呼ばれるエネルギーと適当な物資が必要なのだそうで、機能停止しているメイン動力炉の再起動には私の最大出力基準で数十倍程度の魔力が必要らしく、更に麻帆良との往復にもいくらかの魔力を残しておかなければならない為、何から手を着ければ良いかドライゼに相談したらまずはサブ動力炉の修理からにしてはどうかと提案された。

 サブ動力炉の修復が完了すれば余剰リソース分をメイン動力炉の再起動に回せるし、半壊した状態で安全性に問題があるまま運用するのは好ましくないと言うのは納得の理由だが、私が保有する魔力を使いサブ動力炉の破損箇所を直すには単純計算でも最低半年は掛かり、しかも本格的な修復作業を行うにはそれこそ馬鹿みたいな量の資材が必要になるとの事である。

 大半が土や砂利で代用可能とは言え小学生の小遣銭で賄える分量じゃないし、郊外の山から持って来るのは地形が変わったら騒動になるので却下、それならとドライゼの提案を受け近隣の適当な無人世界に拠点を作る事にした。

 詳しくは知らないが、惑星から宇宙とか銀河みたいな繋がった世界とは区分を飛び越えた別世界、次元の外側にある異世界はほぼ無限に存在しているらしく、時の庭園を修復すれば旅行に訪れることも可能だと聞かされ本格的な資材集めを決めた次第である。

 

 

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 休日は無人世界に行って資材の採掘作業と襲来する巨大なミミズみたいな原住生物*1を撃退し、平日の放課後はデータベースの解析や修行に明け暮れる日々がおよそ2年、当時は11歳だった私も初等部を卒業して中等部に繰り上がったものの未だに友達と呼べる相手は1人もいない。

 このある意味で異常と言える生活を送るようになった切っ掛けは、素材採取を行おうと訪れた荒野ばかりの無人世界で無造作に転がっている宝石の山を見つけたからだ。

 馬鹿みたいに大量かつ様々な色合いの宝石(実は物質化した魔力素の塊だったりする)が山と積まれた異様な光景、当時の私は使い道や販売ルートなんて考えもせず綺麗だからと拾い集めていた所を巨大ミミズに襲われ、何とか逃げ延びたもののまず勝てそうにない相手だった事が悔しくて、データベースから回収した切れ端情報を元に諸々の研究を重ねてリベンジを果たした後、時の庭園を修復する為だと自分に言い訳して無人世界での採掘と魔法の勉強を開始し、下手なゲームよりも面白かったそれらにどっぷりのめり込んで現在に至る。

 かつて依存気味だったネットはドライゼが利用する為に契約を解除してないが、ミッドチルダ由来の技術で魔改造されたノートPCは厚みが半分以下になり空間投影モニターを標準装備している上、馬鹿げた処理能力とSFじみた追加機能に加えていつの間にか実体化加工してマナジュエルと名付けた件の宝石を使った超小型の簡易魔力炉(魔力を充填する蓄電池に近い)が搭載されていた。

 ここ最近はマナジュエルを魔力に還元する事で無事メイン動力炉の再起動に成功し、諸々の生産施設と活動拠点を無人世界に建造しており、何と言うか遊び尽くした箱庭ゲームを惰性でプレイしているような状況になっている。

 都市運営系のゲームをプレイする感覚で人間が存在しない世界に住民ゼロの街を整備し、恐ろしく頑丈で再生能力を持ってはいるけど縄張りに入らなければ襲って来ない巨大ミミズに対する防衛軍を作り、半壊していた時の庭園を修復すると言う当初の目標を達成した現在、以前はあれこれ苦労しながらも楽しんでいた無人世界の開発をドライゼに丸投げし、夢中だった魔法の勉強も魔力リソースの不足を埋めようと術式の改良や魔力運用の最適化に頭を悩ませていた頃は楽しかったが、マナジュエルを自身の魔力として使用する術式の開発に成功した辺りでやる気が起こらなくなっていた。

 これで大規模魔法を使えるとなって浮かんだ疑問、『私はいったい何と戦うつもりなのか?』研究していた魔法もそうだが、万に届く数の傀儡兵や兵器群の開発製造を行って巨大ミミズとマナジュエルの争奪戦を繰り広げる理由は時の庭園の修復を終わらせた時点で既になく、特に世界征服を目論んでるとか倒すべき敵がいるみたいな事情もないし、人付き合いは好きになれないけれど文明社会を捨てて隠居生活をする程に達観してもない。

 このまま高等部に進学して、大学を卒業して、無難な仕事に就いて、何年か後に誰かと結婚して、専業主婦になって、子供が産まれて、子育てに苦労して、気付いたら孫がいて、昔を懐かしむくらいに年老いて、そんな普通の人生を送れたら私は幸せになれるのだろうか?

 少なくともドライゼや時の庭園を手放すつもりはなく、無人世界だってあそこまで開発したのに放置する気にはなれないが、もし仮に私が結婚するとして相手に荒唐無稽な秘密を打ち明けたのに受け入れてもらえなかったらと想像するだけで心が折れそうだし、口では普通に生きたいと望みながら心のどこかでそれは無理だと諦めている。

 我ながらコミュ障レベルで臆病になっていると思うが、それくらい麻帆良での会話が噛み合わない生活は私の心に深い傷跡を残しており、ドライゼを拾う前までは誰かと会話する度に否定されたらどうしようと怯えていたし、自分の方を向いて笑っている人がいると馬鹿にされているのではないかと疑ってしまうだけでなく、知らない誰かに話し掛けられただけで軽くテンパりそうになっていた。

 そんな私が誰かと恋愛できるかと問われれば恐らく無理だろうし、普通に就職するのだって難しいと言うかストレスを溜め込むであろう事はほぼ確実であり、今までと同じような突っ込み不在の環境がずっと続くくらいなら常識の異なる世界に移住した方が気分的に楽なのではと思えて来る。

 データベースを調べた限り人間やそれに近い生物が住む世界も探せばそれなりに存在しているそうで、中世風のファンタジーっぽい魔法文明から近未来的な科学文明まで様々な世界が座標も含めて記録されており、時の庭園を本来の次元航行船として使用すれば恐らく訪問可能だが、現在位置の情報を喪失している上に何年前の記録かも不明なので近場の世界から調査する事にした。

 有人かつ平和な世界があれば移住を考えても良いし、資材集めの際に掘り出した貴金属類でアクセサリーとかを作って各地のフリーマーケットやオークションサイトに出品すれば、このまま進学や就職をしなくても死ぬまで遊び暮らせるだけの財産を稼げそうな気もするが、最終学歴中卒のニートは体裁が悪いと言うか普通に考えて親が許してくれそうにない。

 

 

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 基本的に次元世界と平行世界は別物っぽいが、地球と同じような環境で文化背景や歴史も似通った感じの世界はそこまで珍しくもないらしく、有人世界を探す作業はドライゼが定期的に行っているので未調査だけど移動可能な座標がいくつもあり、それらは発見した順番にエリアサーチ(探索魔法)で生成したサーチャーや小型の傀儡兵を派遣して文明の有無や危険な要素がないかなどの事前調査を行わせている。

 現状で発見した有人世界は、魔法が存在する以外は二十世紀初頭の地球にそっくりだけど世界大戦の真っ最中だったり、そこそこ平和だけど文明レベルが良くて産業革命くらいか下手したら石器時代みたいな感じで、安全な場所に旅行するくらいならともかく移住先としてはお断りな感じだった。

 そんな中ではまともな部類に入るムンドゥスマギクスなる有人世界は、一見すると剣と魔法のファンタジーをテーマにしたゲームやアニメのような感じだが、文化背景を抜きにした全体的な雰囲気や価値観はB級アクション映画に近い大雑把さがあり、大通りを少し歩くだけで格闘ゲームじみた喧嘩やら決闘騒ぎに何度も遭遇するし、スリや引ったくりだけじゃなく通り魔やら押し込み強盗みたいな事件が昼間だろうとお構いなしに発生する。

 貴金属類とマナジュエルを売ろうとして詐欺事件に巻き込まれそうになり、成り行きで頭に冠みたいな角を生やしたエルフ耳のテオと名乗る若い女性から友達認定されたが、私の素性を何やら勝手に勘違いして事情は察しているけれど知らないふりをしている的な臭わせ言動や思わせぶりな態度が少し鼻に付くし、やや天然気味で直感的に行動しては面倒事を引き起こすトラブルメーカー体質の問題児ではあるけれど優しくて正義感の強い好人物だ。

 物騒に過ぎるムンドゥスマギクスへの移住は考えてないが、ミッドチルダ式とは似て非なる魔法理論や気と呼ばれる生体エネルギーの活用法を研究したいと強く希望したドライゼの意向もあり、テオさんとの雑談で聞いた『学ぶ意欲があれば死神でも受け入れる』魔法学術都市に独自開発した人工知能(インテリジェントデバイスの下位互換)を搭載した人型傀儡兵(全高3メートル)の派遣と平行してマナジュエルの販売を主軸にした商会の営業申請も行っている。

 実質的な商会の運営はテオさんから紹介してもらった人に任せる予定となっており、私と言うかドライゼの仕事は指定された倉庫に無人世界から運び込んだマナジュエルを納品するだけの配達に近く、やった作業は少し前に見掛けた飛行船と外見を似せた無人艦船を手配させる程度だった。

 手配させたと言うか実際は、拠点防衛用に保有していた艦船をベルムスキスマティクムの退役艦っぽく見えるよう改装しただけであり、元から設計時点でマンタを意識したデザインだった事もあって不自然さを感じない仕上がりになったと自負している。

 登記上の都合でアルフレディと命名したこの艦船は、時の庭園と地球のネットで調べた知識や技術を詰め込んで建造した全長180メートルちょいの全翼機型機動母艦であり、胴体内部の大半が転送ポートと搭載スペースで武装は正面ハッチ左右と尻尾部分にそれぞれ魔導砲を取り付けている程度だが、馬鹿みたいにタフでしつこい巨大ミミズだろうと数発も当てれば行動不能にできるし、連中が得意とする魔力ビームじみた凶悪なブレスを完全にシャットアウトする空間を湾曲させるバリア的な代物(正式名称を覚えてない)は計算上だと戦術核兵器の集中投下にも耐えられるらしい。

 なお、巨大ミミズは幼虫でも全長数メートルから数十メートル、成虫は百メートル前後を基準に際限なく成長するのか群れのリーダー格は数百メートル級もざらと馬鹿げたサイズを誇り、数匹程度だが全長1キロ以上もあるボス級の一部に明確な知能を持っていそうな個体がいたので試しに念話を使ったら群れの代表格だったらしく、曖昧で分かり辛いイメージと感情を読み解く作業に苦労させられながらも交渉を重ねた結果、お互いに争う意思や必要性がないのだと理解させるのに成功したはずだ。

 伝えられたイメージを私なりに解釈すれば、連中が近寄って来た理由は珍しさからの興味本位みたいなものであり、マナジュエルを拾い集めていた事に対しては特に何も感じてないらしく、持って行きたいなら好きにしても良いけどそれは我々の排泄物または抜け毛みたいなものだぞと注意または引かれてたような気がする。

 

 

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 ここ最近の経緯を振り返れば、夏休み期間くらい麻帆良から離れようと調べた限りでまともそうな異世界であるムンドゥスマギクスへ観光旅行に訪れていたのだが、現地に転移した初日から面倒臭いトラブルに巻き込まれてしまったり、何やかやあって事件そのものは解決したけれど成り行きで共闘したテオさんに友達認定された後、更に何やかやあってマナジュエルを定期販売するよう頼まれてしまいドライゼと相談した結果、断る理由もないしいっそ活動拠点を兼ねた商会を立ち上げてはどうかと提案された。

 商会の立ち上げに関しては、雑談で魔法学術都市の話題が出た際に売れば滞在費用の足しになるかなと軽い気持ちでマナジュエルを見せたのだが、宝石の類と思われたので大まかな性質(物質化した高濃度の魔力塊)を説明したらテオさんの食い付きようが尋常でなく、持ち帰って調べたいから貸してくれと半ば強引に奪い取られて数日後、何やら満面の笑みを浮かべ手渡された分厚い封筒を開けると中にはヘラス帝国の市民証と様々な書類が入っており、個人的な部下にしたいとの熱烈な口説き文句にマルチタスク(分割思考)で受け応えしながらドライゼと対応を相談した結果、依頼の類は受けるけど連絡を入れるのはこちらからかつ詮索無用で良ければと交渉決裂上等な条件を出すも快諾される。

 後にあの必死さは何だったのかと聞いてみたが、テオさんとしては市民証を用意してまで部下に誘ったのは純然たる厚意だったらしく、世間知らずな部分も含めて正式な戸籍や身分を持たない(この世界で起きたトラブルの大半はこれに由来する)私がマナジュエルを売ろうとしたら足元を見られて買い叩かれるまたは、運が悪ければ詐欺師の類に騙され奴隷として売り飛ばされていたかも知れないと心配していたからだそうだ。

 そんなこんなで私が誘いを拒否しようと市民証は渡すつもりだったし、マナジュエルに関しても価値を理解できる者なら製法を知る為に誘拐するくらいの貴重品を気安く見せびらかすなと冗談めかして説教されたが、比喩抜きで山のように持っていると教えたら真顔で信頼に応え軍事転用は決してしないと意味不明な返答をされ、そこから話題が代金の支払い方法になったので拠点作りの為に必要な経費を除いた分は人里から離れた土地や人手が欲しいと答えたら少し考え込まれたものの了承される。

 

 最近は地球に生活基盤を置き休みの日だけムンドゥスマギクスで過ごそうかとの妥協案も頭に浮かんでいるが、次こそは文明的で平和な世界が見つかるかもと言う淡い期待もあって移住先候補の捜索を中断できないでいた。

 我ながら踏ん切りの悪さに呆れてしまうが、ムンドゥスマギクスに滞在していたおよそ1ヶ月(夏休み初日に転移し、両親へは友達の里帰りに付き合うと連絡してある)の間だけでアクション映画じみた事件が何度も起こるような世界はどう考えても移住先にしたくない為、ドライゼに丸投げしたまま放置していた有人世界の調査報告書からお勧めをいくつかピックアップしてもらい流し読みする。

 

「まんま日本がある世界(国名や地理は同じでも細かな歴史や住人はかなり異なっている)は妖怪変化やら悪霊が普通に出没する伝奇物っぽくて、こっちは日本風の文化があって見た目も個人差の範囲内だけど幕末か明治初期くらいの技術レベルだし、それ以外も物騒だったり電気がない世界だと生活に苦労しそうだからとりあえず今回分は保留だな」

『オーナーは理想的な移住先を探せと命じられましたが、ムンドゥスマギクス(この世界)では偶然に助けられたもののゼロから生活基盤を築き上げるには相応の労力とある程度の幸運が必要ですし、それよりも古代か中世レベルの手頃な世界に干渉して技術供与するなり世界征服した方が効率的なのではと提案します』

「……かなり魅力的だけど却下、力ある者の責務みたいな綺麗事は柄じゃないけど私個人の都合で世界を好き勝手するなんざどう考えても筋が通らないし、ただの女子中学生が世界の支配者とか身の丈に合わないってレベルじゃないだろ?

 お前に指摘されて気付いたが、現代と近い文明レベルの世界なら戸籍の類はきっちり管理されてるだろうし、私だってお偉いさん(テオさん)とのコネや市民証を簡単に得られたムンドゥスマギクス(この世界)みたく、ご都合主義じみた幸運の連続で何もかもがうまく行くのが当然なんて甘い考えはしてないさ」

『当機はオーナーの決定に従うのみですが、要求された全ての条件を妥協なく完璧に満たすような世界が見つかる可能性は極めて低く、年単位の調査を行っても期待に応えられる可能性は低いのではないかと提言します』

「そんな身構えなくても駄目元だから過度な期待はしてないし、どうしても良さそうな移住先候補が見つからなきゃムンドゥスマギクスで妥協する気ではいるが、なるべくなら現代の日本と近い感じの世界に腰を落ち着けたいんだよな」

 

 調査不足はあるにせよ文明レベルを問わず戦争や災害などの大きな問題が起きてない世界は全体の半分程度、加えて主要な住民が人類と同じか見た目的に違和感の範囲内に収まる容姿ともなれば更に少なく、目元や手足などが異様に大きかったり小さかったりすると個人差で誤魔化せないし、住人の体型が二頭身または三頭身だけどそれ以外は現代の地球とほぼ同じなんて世界もあり、現地調査で評価を大きく下げたムンドゥスマギクスのように身体パーツが全て同じくらいの比率になっている世界は本当に少ない。

 どれだけ条件が良くても漫画やアニメで言う作画が違う世界には住みたくないし、今すぐあれこれ決めなくても高等部か大学を卒業するまでの時間的余裕がある為、とりあえずテオさんとの付き合いもあるムンドゥスマギクスで地盤固めを行いながら移住先候補の調査も同時に行う予定だが、それはそれとして高校は外部受験で麻帆良から離れようと思っており、両親には中等部進学祝いの席で内部進学するつもりはないときっぱり宣言しておいた。

 

 いつもの悪ふざけだろうと笑って流す両親に対し本気で外部進学を考えていると念押しした結果、具体的な将来設計をきちんと説明できるなら全面的に応援するが、何となく麻帆良から出たい程度であれば偏差値六十以上の名門校を受験して合格するくらいしなければ認めないし、どうしても内部進学したくないなら近場の学校に編入手続きしても良いと言い出す始末、大喧嘩になるのも覚悟で切り出した私が馬鹿みたいに思える。

 数年前にここ(麻帆良)は嫌だと何度も訴えていた際と同じ、娘が妙な悪ふざけを始めたから仕方なく話を合わせていると丸わかりな態度に失望させられたのと同時に、私が周辺の諸々に対する違和感を説明する時だけ会話が噛み合わなかったり、きちんとした理由がなければ外部受験を許さないと言いながら転校してはどうかと進めるような筋が通らない発言に違和感を感じたが、そこから更に踏み込み思考を巡らせると見えて来るものがあった。

 

 常識的に考えて原付バイク並みかそれ以上の速度で爆走したり人間をメートル単位で殴り飛ばすような真似はまず不可能だし、夜中に刀や銃を持った不審者が妖怪変化と超人バトルを繰り広げてたり、どう考えてもギネス級なのにテレビや雑誌などで取り上げられない世界樹の存在からして、地球にもムンドゥスマギクスにある気や魔法と近いか同じような特殊能力の持ち主が存在しているのは確定な上、麻帆良を中心とした広い範囲または日本全土に思考操作や集団催眠の類が行われている臭い。

 確証こそないが、私からして気付いた諸々の違和感を明確な異常だと正しく認識できてなかった節があるし、ドライゼと雑談した際に指摘されるまでどこか遠くに引っ越そうと考えもしなかった辺り、知らぬ間に影響を受けていた可能性すらある。

 とは言え、麻帆良を離れたら非日常系の諸々と確実におさらばできるなんて保証はどこにもなかったし、むしろ引っ越し先が普通を絵に描いたような環境だったとしても心の平穏を得られたかは怪しく、そうやって考えると時の庭園でドライゼを拾えた幸運に感謝すべきなんだろうけど手に入れるまでの経緯が経緯なだけに複雑な心境だ。

 

 脇道に迷い込んだ思考を戻し、今後の行動方針を決めるべくドライゼから勧められた資料をざっと読み込んでみたが、最推しと次点のどちらもムンドゥスマギクスと同じく移住先としては勘弁だけど多少の興味を抱く程度には魅力的であり、以前に調べた他の世界も連休とかに旅行や短期滞在くらいならしても良いかなと思える。

 とりあえず残り少ない夏休み期間中はムンドゥスマギクスに留まるとして、厄介事に巻き込まれた際の対処法が全てドライゼありきなのは心許なく、駄目元で強くなりたいとテオさんに相談を持ち掛けたらお付きの人から精霊魔法と気の扱い方に加えて簡単な護身術の手解きを受けられるよう取り計らってくれた。

 

 

*

 

 

 断片的な資料から独学した私のミッドチルダ式は内容が偏っており、攻撃魔法は直線的な軌道の単発式魔力弾を撃ち出すフォトンバレット、圧縮した魔力の炸裂弾を叩き込むフォトンバースト、強力な魔力の槍を撃ち出すフォトンランサー、シューティングゲームのオプションみたいな球体から魔法を撃ち出すフォトンスフィアとその派生系を除けば、魔力の電気変換が前提かつ燃費をガン無視した際物ばかりだし、更に加えて教師役から天才と褒めちぎられていた少女と比べて私の魔力保有量はとても少なく、外付け燃料タンク(マナジュエル)の補助を得てやっと下位互換と呼べるかどうかな実力だったりする。

 なお、私の魔力資質は瞬間最大出力と変換効率こそ凡庸だが制御能力だけはかなり優秀な方らしく、肝心の威力に関しても補助系や防御系の魔法は実戦で使えるレベルだと自負しているが、比較対象としている件の天才少女はこれらの系統を苦手としていたようだし、逆に私はこちらに特化とまでは行かないものの攻撃魔法より適正があるようだ。

 

 とりあえず現状の私は天才が受けた授業内容を盗み見した素人でしかなく、自分なりのスタイルを模索しようにもミッドチルダ式に関する知識は、端末から回収したいくつかの術式と授業ノートらしき記録や訓練用シミュレーションプログラムの内容が全てであり、本来の生徒に合わせた高度かつ偏った内容から抜け落ちている諸々の部分は努力や根性で埋められそうにない。

 

 このままミッドチルダ式を研究してもせいぜい天才の劣化コピー止まりだろうし、何とかしようにもゼロから新しい術式を開発できるだけの知識や技術は持ち合わせてなく、だからこそ系統違いではあるけど精霊魔法の存在に期待している。

 とは言え、手札が少し増えた程度で凡人の私が天才に追い付けるとは思ってないし、元よりミッドチルダ式を極めたいとか魔導師として大成したいみたいな考えは皆無に近く、そもそも精霊魔法との併用や使い分けが上手く行くかは不明だ。

 体力だか生命力を燃やして身体能力を大幅に上げる気の方もそこまで大きな期待はしてないが、麻帆良だとそこらにいる格闘ゲームじみた連中が使っている力に近い感じだろうし、人間をメートル単位で蹴り飛ばしたり車に跳ねられても軽傷で済むとまでは行かないにせよ、近接戦の訓練メニューと組み合わせれば魔力を使わずともミッドチルダ式に近い技が再現できそうな気がする。

 一応デバイスの補助がなくてもミッドチルダ式を自力で使えるようにはなっているが、術式の制御を行う為に静止状態で精神集中しないと成功率がガタ落ちするだけでなく、巨大ミミズから逃げ回ったり遠くから砲撃を食らわした経験はあっても対人戦の方はずぶの素人、このまま精霊魔法や気の扱い方で足りない地力を底上げできても使いこなせなければ宝の持ち腐れだ。

 

 それと非常識は横行するけれど命に係わるような事故や事件がほとんど起こらなかった麻帆良で暮らす私には緊張感が足りてなかったらしく、ムンドゥスマギクスでトラブルに巻き込まれた際も太陽みたいに輝く溶岩じみた火球を投げ付けられる瞬間までどこか他人事だったし、バリアジャケットを展開していれば何かあっても大丈夫だろうと高を括っていた気がする。

 咄嗟のプロテクションと自動発動したディフェンサーの相乗効果もあって何とか常時展開していたバリアジャケットを抜かれずに済んだが、無防備に直撃したら下手しなくても大怪我の危機だっただけにあんな綱渡りは二度としたくない。

 私は別にバトルマニアの類ではないが、見たくない現実から目を逸らし部屋に閉じこもるには色々と知り過ぎてしまったし、自分が直接戦わなくても傀儡兵や艦船を召喚すれば問題ないと開き直れる程に吹っ切れてもなく、無い知恵を絞り考え悩んでも良い解決策が何も思い付かず半ば愚痴を吐くつもりで行ったテオさんへの相談が大正解だった。

 要約に要約を重ねた最低限の理論と実践を繰り返す駆け足な授業を受けた結果、ミッドチルダ式とは畑違いながら魔力操作など共通する部分が多い精霊魔法は数日で"火よ灯れ"を使えるようになったが、基本中の基本ができたからといきなり本格的な攻撃魔法を教えてくれるはずもなく、授業内容が説明を端折った部分のおさらいと魔力の効率的な運用法にシフトしており、並行して教わっている気の扱い方は感覚が掴めず少し苦戦しているものの調べた限り体質的に問題ないと教師役から保証されている。

 とりあえず何となく程度ながら気を感じられるようにはなっているし、精霊魔法も含めて魔法学術都市から教本の類を取り寄せるようドライゼに頼んでいる為、当初の約束通り簡単な手解きを受けたら授業終了となる予定に変更はなく、テオさんらにもマナジュエルの荷下ろしは続けるけどしばらく顔を出せなくなると伝えておいた。

 

 元々は始業式の前日くらいまで滞在する予定だったが、暇になったからと急いで麻帆良に戻っても会話はできても意思疎通できない連中と顔を合わせるだけだし、かと言ってムンドゥスマギクスに留まり続けてもテオさん経由でまたぞろ面倒事に巻き込まれる予感しかなく、残る3日間は諸々の面倒事をすっぱり忘れ時の庭園でのんびり過ごそうかと思っている。

 

 バトル漫画か劇場版アニメじみたトラブルに巻き込まれ散々な思いをさせられ命の危機すらあったムンドゥスマギクスだが、移住するのは勘弁だけど気が向いた時に顔を出すくらいならしても良いかなと考えてしまう辺り、私は自分で思っていたよりもテオさんらに対しかなり良い印象を抱いていたらしい。

 我が強くマイペースなテオさんには早合点や勇み足からの暴走で何度も苦労させられたが、出会った当初は胡散臭い文無し小娘でしかなかった私の言い分を信じて助けてくれた上、妙な勘違いこそ解けなかったもののこちらの都合や言葉にきちんと耳を傾けてくれただけでなく、お付きの人たちも少しぎこちない態度ながら魔法と気の扱い方を実演込みで懇切丁寧に教えてくれた。

 

「正直、せっかく手に入れた身分と後ろ盾を捨てるのは惜しいしテオさんの事も嫌いじゃないが、ちょっとした捕り物で直撃したら命に関わるような攻撃がポンポン飛び交うイカれた世界に住むのは勘弁だし、私をメジロだかマグロだかの出身と勘違いした奴に絡まれたり地味な嫌がらせされるのもうざったいんだよな」

『オーナーの発言に対し訂正ですが、メジロでもマグロでもなくメガロメセンブリーナ連合またはその盟主である魔法都市国家メガロメセンブリアを略してのメガロだと推定されますし、直撃すれば致命傷となる攻撃を食らう可能性や感じるストレスに関してはムンドゥスマギクスよりも麻帆良の方が大きく、安全を確保する為にも当機は傀儡兵と艦隊の常時展開を推奨します』

「あのなドライゼ、確かに嫌がらせされたり絡まれるのはムカつくし実は麻帆良の方が物騒なのも薄々気づいちゃいたが、身の安全を守る為に傀儡兵だの艦隊を連れ歩くのは過剰防衛ってレベルじゃねえし、私は面倒なトラブルと関わらずストレスのない環境で当たり障りなく心穏やかに生活できるならそれ以上は望まないんだよ」

『時の庭園の居住性を改善するだけでオーナーが望む安全かつ平穏な生活は達成可能ですし、人々との触れ合いを希望するのでしたら複数の有人世界に仮拠点を作成して渡り歩くのはどうかと提案します』

「真っ当な答えだけどそうじゃないんだドライゼ、確かに私はお前が探してくれた移住先候補のあれが気に食わないここが嫌だと粗探しみたいな文句ばかり言ってるが、変に妥協したり諦めなけりゃいつか理想の世界が見つかるかもって考えたら踏ん切りが付かないだけで、これはと思える世界を見つけたらすぐにでも腰を据えたいと思ってるんだよ」

『当機にはオーナーのおっしゃる内容が理解不能ですし、そもそもこの音声は仮想人格が判断した内容と登録された会話パターンを組み合わせた回答文の読み上げであり、最適解が存在しない抽象的で漠然とした悩み相談には対応しておりません』

 

 ムンドゥスマギクスへの愚痴じみた感想を述べる私に対し無機質な合成音で淡々と返すドライゼ、いつも通り無難な見解を機械的に答えるだけのつれない対応ではあるが、元より親身になって心配してくれたりするような奴じゃないのは重々承知の上だし、いつも丸投げや無茶振りばかりしてるけどこいつの事は大切な相棒だと思ってる。

 

「……自分でもうまく消化できずにいる感情だから察しろとは言わねえし言えねえよ。

 つーか、人間の精神構造やら思考回路ってのも煎じて詰めれば知識とか経験の積み重ねだし、こっちの気持ちもお構いなしに一方的な親切心を押し付ける生身の人間(連中)より、感情とかは理解できなくても私の都合に合わせてくれる血の通わない機械(お前)の方がよっぽど誠意ある対応をしてくれるってなもんだ。

 私はお前の意見や提案をちょくちょく蹴ってはいるが、別にこっちの考えを一から十まで理解した上で考えに合わせろとは思っちゃないし、捧げてくれる忠誠に何も返せないだろうけどそれでも愛想を尽かさず付き合ってくれるとありがたいな」

『当機はオーナーの所有物であり、末長く使用される以上の幸いはありません』

「そこまで言われたからには真面目に返すが、少し照れ臭いけどお前の事は何があろうと手放せない一生の宝物だと思ってるし、今もだけど面倒な注文ばかりしてたから逆に私の方が愛想尽かされるんじゃないかと心配してたくらいだよ」

『オーナーが必要とされるのであれば、当機が朽ち果て尽きるその瞬間まで変わらぬ忠誠を捧げる事をここに誓います』

 

 これまで言えなかった感謝の気持ちをドライゼに伝えたが、軽く流されるかと思いきや返答は重くて真面目な告白じみた言葉、普通なら引いてしまうだろう内容を嬉しく感じてしまう辺り、我ながら面倒臭い感じに捻くれてて笑えない。

 実行するかどうかはさて置き、私が保有する無数の艦隊と傀儡兵は比喩や冗談抜きで麻帆良どころか地球全ての主要な都市を瓦礫の山に変えられるだけの戦闘力を持っているし、無人世界に建てた自動工場を全力稼働させれば週刊空母どころか日刊ペースで艦隊を建造可能なだけでなく、威力と精度こそお察しなるだろうけど時の庭園から次元跳躍魔法を撃ちまくれば一方的に攻撃可能だ。

 とは言え、麻帆良に私の居場所がないならいっそ滅ぼしてしまえとまでは思ってないし、力を手に入れたから気に食わない連中に復讐してやろうみたいな後ろ向きの考えはなく、日常的に起こる突っ込み不在のボケ倒しや非常識な光景をスルーする度に非殺傷設定した魔法(フォトンバースト)をぶち込みたくなったりするが、流石にそんなしょうもない理由で暴れない程度の分別は残している。

 

 時の庭園に迷い込むまでは異常な周囲に馴染めない自分の方がおかしいんじゃないかと思い悩んだりもしたが、どう考えても常識や価値観などの物事を判断する基本部分が嚙み合わない相手とは仲良くなれないし、例え私が正常だと証明されたとしても麻帆良に受け入れられるかどうかは別問題であり、そこらをドライゼに指摘されてからは気にするだけ無駄と割り切る事にしていた。

 

 

*

 

 

「正直テオさんには色々と苦労を掛けられたが、それと同じかお釣りが来るくらい世話になってるから次に会った際に手土産のひとつくらいは持って行きたいんだけど何を渡せば喜んでくれるかな?」

『当機への質問と仮定して答えるならば、以前に試作した簡易ストレージデバイス辺りが適切ではないかと返答します。

 予算の問題から必要最低限の性能値にすら届かない失敗作となりましたが、デバイスの機能をバリアジャケット構築に限定するなら理論上の処理負荷は少なく、更に魔法障壁と併用しても互いの術式に干渉しない事は確認済な為、魔力を消費して防護服を展開するマジックアイテムとでも説明すれば、多少の違和感は持たれても受け取ってくれるのではないでしょうか?』

「確かに向こうはかなり物騒だし、先日みたいな大捕り物が日常茶飯事なら護身グッズの類はいくらあって良さそうだが、どう見ても別系統の魔法技術で作られた代物を渡すのは流石に色々とマズいだろ?」

『簡易ストレージデバイスは設計思想こそミッドチルダ由来ですが、使用パーツは改造済みとは言え秋葉原のジャンク店で購入した携帯情報端末(PDA)が中心ですし、ムンドゥスマギクスの一般的な機械工学レベルが中世後期から産業革命前後である以上、解析不能なオーパーツの類として扱われる可能性が高く、何かあるとしてもせいぜいオーナーに対する誤解が深まる程度です。

 もう少し補足するならば、簡易ストレージデバイスで展開されるバリアジャケットは既存の障壁魔法(実際は魔法世界でも上位クラス)と比較して特別に高性能でもなければ燃費が良い訳でもなく、セールスポイントと呼べる点は待機状態だと精霊魔法による感知の対象外となる事くらいですし、そもそもテオ女史が詮索無用の約束を守れる人物であるなら問題は起らずそうでなければ付き合いを断つなり抗議すれば良いだけな以上、当機としてはオーナーが何を危惧しているのか理解できません』

「まあ確かに、ファンタジー世界の住人が電子機器を見ても不思議な道具くらいの感覚だろうし、例えテオさんが心変わりして私との約束を反故にしたってムンドゥスマギクスから転移しちまえばそれまでってか、余程の事情でもなきゃ騙し討ちみたいな真似はしない人だからそっちは心配してないんだけどな」

 

 公的な場所では凛とした頼れるお姉さんのように振舞うテオさんだが、親しくなると気分屋で負けず嫌いなガキ大将じみた性格が見え隠れするし、建前だけかと思われた正義感や善意は本物でも後先を考えずノリと勢い任せに行動している節がある反面、例え相手が市民権を持たない流民や奴隷の類だろうと交わした約束は違えないのは素直に感心する。

 なお、ムンドゥスマギクスでは奴隷制度が公認されており、何となく鞭で打たれながらこき使われるイメージだけど実際は給料を先払いした住み込み労働者みたいな扱いになるらしく、奴隷の所有者には必要最低限の衣食住と健康的な生活を保証する義務が課せられるものの待遇は千差万別だそうで、物凄く優秀だったり高度な教育を受けているか特殊技能を持っている者または容姿などを気に入られた場合は良い暮らしが期待できるし、逆に健康被害さえ出なければ薄い毛布だけで納屋や物置に寝起きさせたり残飯を食わせても倫理的にはともかく法律上は問題ないとの事だ。

 現代日本的な感覚で例えると奴隷はペットや家畜に近い存在らしく、見た目や能力に応じて値段が上下するものの怪我や病気にさえ気を付ければ目減りしない労働力として長く使えるし、詳しくは聞かなかったけれど逃げたり主人に逆らう事を禁じる呪いが掛けられている為、待遇に不満などがあっても不真面目な態度で減らず口を叩く程度の反抗しかできないそうだが、私としては例え相手が絶対に裏切れなくても自分を恨んでたり嫌っているかも知れない奴を側に置くとか真っ平御免である。

 

 

*

 

 

 客観的に見て、私とドライゼが保有している知識や技術はミッドチルダと地球の両方をごちゃ混ぜにした劣化コピーとしか言えない代物だが、それでも図書館島に通ったりインターネットで調べた諸々を土台に試行錯誤した結果、ガソリンの代わりにマナジュエルで動く機械類や電子回路を組み込んだ簡易デバイスの開発に成功しており、最近は時の庭園にあった農場っぽい場所で園芸部が販売していた種や苗と生き残っていた植物の栽培も研究しているし、畜産科が学園祭で販売していたメス入り(正確には未鑑定)カラーひよこを纏め買いして始めた養鶏も行っていた。

 将来的には自給自足できるよう酪農や魚の養殖にも挑戦するだけでなく、それらの作業と並行して移住可能な世界探しも続けるつもりだし、週末や連休などに無理しない範囲でテオさんの手助けも続けようと思っているが、当面は魔法と気の扱い方をミッドチルダ式に取り込み新たな技術として昇華させる研究を最優先したい。

 

 気心の知れた隣人と笑い合える平和な日常を求めていた私が手に入れたのは、知りたくもなかった現実と身の丈に合わない力を与えてくれた便利だけど非常識の塊みたいな相棒、換金できれば一生遊び暮らせるだろう膨大な量の宝石と貴金属類に加えて国と戦争可能な兵器の製造施設が建ち並ぶ無人惑星、現在は地球近辺の亜空間で待機中だけど宇宙空間や次元世界を航行可能な移動庭園、ある意味で物凄く至れり尽くせりなんだけど本当に欲しかったのはこれじゃないと突っ込みたくなる。

 とは言え、ドライゼと出会えなければ周囲に馴染めず孤立したまま心を病んでいたかも知れないし、逆に麻帆良の住人が異常なだけで外部進学すれば問題解決と考え勉強に打ち込んでいるか、非常識や違和感に思い悩んでも現実は変わらないし誰も助けてくれないと開き直ったり、何かしらの趣味や息抜き方法を見つけ誰とも馴れ合わず我が道を行っていた可能性もあったのかなと想像してみたが、何故かどんな道を辿っても面倒事に巻き込まれて苦労するイメージしか思い浮かばなかった。

 

 

 

*1
全身に鱗が生えており目と口もあるので爬虫類に近い姿をしているが、地面から這い出て来た姿を見た第一印象がミミズだったのでそう呼んでいる。




独自解釈として小学生時代の長谷川さんは、周囲の人々と馴染めなかったものの仲間外れにはされてないどころか純然たる善意でグループに誘われて両親も協力的と言う熱血スクールドラマ的な展開が日常状態であり、会話の大半は通じるけど各所に違和感だらけかつそれを指摘してもスルーされるせいでストレスがどんどん積み重なる日々を送っていたとしました。

なお、転移事故による刺激で眠っていたリンカーコアが目覚めており、抜け落ちは多いものの種々様々な魔法を使えるようになって好奇心の赴くまま術式の改編や消費魔力量の軽減などあれこれ研究していたのが、チートじみた外付けアイテムの開発に成功して魔法を使い放題となり情熱が冷めた感じです。
本作の長谷川さんは一見してチートっぽいですが、情報処理能力の高さを除く魔法や戦闘に関する才能は常識の範囲に収まる凡人でしかなく、現状だとドライゼや装備品による底上げがない場合の実力は同世代のモブ魔法生徒と大差ないか少し劣る程度、ストレージデバイスを持っていれば相性次第で原作のネームド魔法生徒と良い勝負になるかもと言った感じであり、イメージトレーニングは百戦錬磨でも実戦経験は数える程度のド素人な上にそもそも痛い思いをしてまで戦おうとする理由がありません。


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