始まりはドライゼからの緊急報告、調査用傀儡兵を転移させた瞬間にその座標へと飛び込んで来た人間が真っ二つになったと聞かされた私は、どんな手段を使ってでも命を繋ぎ止めるよう指示してから現地にブランチ*1を派遣したのだが、そこには素人目でも栄養失調と分かる不健康そうなヒョロガリ中年男(しかも胴体中央がごっそり存在しない)が浮かぶ治療装置らしきカプセルの前で所在なさげにウロウロする癖毛で同年代くらいの男子、事情を説明すべくこちらから声掛けした瞬間に聞き取り辛い早口で要領を得ない支離滅裂な質問を浴びせて来た為、関わりたくないとそのまま治療や事後処理も含めた諸々をぶん投げたのが数か月前、そんな事もあったなと思い出しながらどうなったかを報告されて吹き出した。
「ぶっちぎれた胴体の治療にクローン技術を使ったのは仕方ないとして、何をどうしたらモジャモジャにいつぞやの試作品を貸し出たり、ヒョロガリ中年男が男女八人に増えるような事態になるんだ?」
『諸々の調査と
なお、同時期に開発した
人数が増えた件に関しては、精密検査で本人以外に七人分の遺伝子情報と分割思考に近い精神エネルギー体の存在が確認された為、補償と賠償の一環として個別に調整した肉体と気の運用に関する知識をサービスで付与しました』
「……お前、サービスとか言ってても本命は人体実験と技術試験機のテスター確保だよな?」
『技術実証の意図があった事は確かですが、治療前に被験者に対する説明と意思確認を経ていますし、どちらも損はしてないwin-winの協力関係を結べたと自負しています』
「そら、胴体がぶっちぎれた奴に治療を提案して断られるなんざまずありえんし、虐められてそうなオタ臭いモヤシに本物の変身ベルト*3を提示したら後先とか考えずに飛び付くわな」
私の質問に対して嘘偽りなく答えるドライゼだが、こいつは基本的に無機質と言うか感情とか思いやり精神の類は持ち合わせてない為、丸投げした先で正論だけど釈然としない何か裏のある悪役じみた言動をかましている事が多く、大半の場合は現地人から胡散臭がられている。
『当機は艦隊の派遣を改めて提「却下だ却下、治安を維持するつもりが新たな脅威認定されるとか勘弁だし、私は面倒事と無縁なその他大勢になりたいんだよ!」オーナーの価値観は屈折し過ぎて理解不能です』
事毎につけて艦隊の派遣を提案するドライゼ、理論上は戦術核兵器の集中投下だろうと傷付かず転移ポートを内蔵する次元航行艦に加え、戦車や戦闘機よりも小回りが利いて火力も申し分ない傀儡兵を数万体も保有していると箇条書きすれば凄そうに思えるが、ミッドチルダやそれに類する超技術または突出した戦力を持つ者が私だけとは限らないし、何より自分の都合を圧倒的な武力で押し通すようなガキ臭い真似はしたくない。
良い子ぶったり聖人君子を気取るつもりはないが、比喩抜きで世界を滅ぼせる力がある私には一定水準の道徳やら倫理観ってのが必要だと思うし、目標に向けあれこれ知恵を絞り苦労や失敗を積み重ねるからこそ成し遂げた時に達成感が得られるんであって、そこらを外付けのインチキじみた力で安易に解決したら興醒めも良いとこだ。
なお、ムンドゥスマギクスにはアラルブラなるバグキャラ集団がいたらしく、テオさんとの雑談から記録を調べたドライゼは人類の常識を逸脱した異常個体と評価していたが、私に言わせれば亜音速で空を飛び機関砲じみた魔力弾を掃射する
私も戦略級の大規模魔法を使えはするが、
どうやら私は精霊との親和性が低い方らしく、ミッドチルダ式で使い慣れたフォトンと性質が近い光を除く各属性は初級レベルで頭打ちを実感する程度、元より期待してなかった攻撃魔法は本数を使い分けられるサギタマギカとメールークスノワークラ*4のみに絞っている。
何せ他の攻撃魔法は詠唱時間が長い上、非殺傷設定もないのに高威力で攻撃範囲は広いけれど敵味方を識別できないと来ているが、精霊魔法の知識は穴だらけだったミッドチルダ式を補完して別物と呼べるくらい進化させただけでなく、解析作業のついでで詠唱を自動化する事にも成功していた。
とは言え、実際は
実にふざけた話、ムンドゥスマギクスの人々がムンドゥスウェトゥスと呼ぶ世界は地球の事であり、更に不在気味なクラス担任は英雄の弟子として誰もが知るような超有名人だったらしく、テオさんが愛読している雑誌の表紙にいつもの余裕ぶった決め顔が載っているのを見た際は思わず絶叫気味に突っ込んでしまった。
慌てて諸々をドライゼに調べさせた結果、地球側から魔法世界と呼ばれているムンドゥスマギクスの住人は、総人口のおよそ二割に相当する6700万人(大半はメセンブリーナ連合に所属する)が中世に起きた魔女狩り騒動から逃れた難民の子孫であり、双方の世界を繋ぐゲートは遺跡級の魔法装置を利用しているだけで次元移動技術そのものは既に失われ、現物を維持管理できても新たなゲートの建造は不可能と言われているらしい。
そんな裏事情を知らなかった私は、ムンドゥスマギクスの仮拠点に中古家電や百均で買い揃えた日用雑貨をこれでもかと持ち込んでおり、テオさんらは気付きながらも詮索無用の約束を守りスルーしてくれたのではと思える。
個人的な感想も含めた総評として、ミッドチルダ式はプログラム化した物理法則を現実に同期させ改変する理系の学問で、精霊魔法は世界と接続する集合無意識の端末である精霊を通じて現実を書き換えるオカルト的な技法、どちらも魔力を消費して事象に干渉する行為だがアプローチの方向性は真逆に近く、魔力資質が全てな精霊魔法に対しある程度レベルの数学能力も必要なミッドチルダ式となっており、同程度の才能持ちでどちらが強いかと問われれば戦術やデバイスまたは発動体の性能で変わるし、術者の技量次第だけどコストを度外視すれば手数と火力に上限がなく色々と融通が利く精霊魔法は玄人向けの職人技、ミッドチルダ式は制御こそ面倒なものの発動速度に優れ非殺傷設定で手加減も容易だけど効果内容は画一的で融通が利かないと一長一短だ。
なお、ミッドチルダ式を抜きにした私は、瞬動術で距離を取りながら改変したサギタマギカ(バリアブレイク効果に加えマルチタスクを使いある程度の操作が可能)を唱えたり、近寄られたら気弾の応用で魔力を爆発させるフラッシュバンや
更に加えて、瞬動術は全力ダッシュよりも疲れる上に少量ながら魔力を消費するし、メールークスノワークラも発動させ続けるには相応の維持コストが掛かる事も踏まえ、私の強さはムンドゥスマギクス基準でCランク(数値にしておよそ120前後)相当らしく、具体的な強さを聞いたテオさんからは
*
マナジュエルの代金としてテオさんに人里から離れた土地が欲しいと頼んでいた私は、ヘラス帝国とメガロメセンブリーナ連合の中間地点に浮かぶ麻帆良の都市部分がすっぽり収まりそうな無人島の自治権を持っており、そこには立ち上げた商会の拠点と大型魔力駆動炉(時の庭園で見つけた設計図を参考に再現した代物、性能的には劣化コピーだが膨大な魔力を安定供給できる)くらいしかない。
面倒臭い諸々をドライゼに丸投げして実感こそないが、ムンドゥスマギクスにおける私はヘラス帝国に籍を置くテオさん子飼いの商会主であり、マナジュエルの販売に加え辺境地域を中心に運送業や食料品の販売(主に無人世界産)など幅広い事業を展開しているだけでなく、学術都市に派遣した研究チームが風呂桶サイズの設置型魔力炉*5を発表してからは、連合でも知る人ぞ知る有名人になっている。
とは言え、意外と文明レベルが高いムンドゥスマギクスでは既に魔力炉と似たような装置が発明されており、実際に評価されたのは添え物に近い蒸気エンジンの方で、それも生産や維持管理を含め高度な施設が不要かつ水と何かしらの可燃物があれば動くお手軽さが受けた理由だった。
似非ファンタジー風なムンドゥスマギクスは地方による技術格差が激しく、全体的な文明レベルが高いメガロメセンブリーナ連合でも都市部に上下水道が整備されている程度、多少の不便は便利なマジックアイテムと奴隷の労働力で何とでもなる環境だが、地球(主に欧米)の生活様式を再現する事が物好きな一部上流階級の間で持て囃されており、蒸気発電機と抱き合わせで作った昭和後期っぽい家電や蒸気自動車が商会の売り上げに貢献している。
流され半分で世界観に合わないオーパーツを持ち込んでしまったが、元より地球にはマホネットなる魔法関係者御用達のインターネットサイトが存在している以上、遅かれ早かれ科学技術がムンドゥスマギクスに持ち込まれる事は確定路線だし、どちらかと言えば保守的なヘラス帝国内でも蒸気発電機は注目されているらしく、珍しく歯切れの悪いテオさんから正式な臣下になるよう打診された。
テオさん本人もイマイチ理解しているか怪しい説明を要約するに、私のヘラス帝国に対する貢献と報酬が見合ってないと偉い人に怒られたとかで、諸々の優遇措置が書かれた目録と無駄に長くて発音させる気がない名前の勲章を押し付けられた上、祖国(面倒なのでどこかは聞かなかった)奪還に動く場合は恐らく非公式になるだろうが全面支援を約束すると力説されげんなりする。
どうやら未だにテオさんは私を亡国の王族と勘違いしたままらしく、どれだけ否定しても帰って来るのは『認める訳には行かない事情は理解している』と訳知り顔の頓珍漢な返答、更にドライゼからも思い込みの激しさはあるにせよこれまで行った事を並べたらそう間違った推論でもないと指摘された。
実際問題、詮索無用で押し通している私の諸々を考えた際、地球でもムンドゥスマギクスでもない異世界の遺物を拾った一般人とするのは妄想の域だし、滅んだ国の遺産を引き継いだ王族とするテオさんの主張は大概だけどそう無理筋でもなく、むしろ嘘偽りのない真実を話しても証拠がなければただの与太話と思われそうな気がする。
産業振興の予算が削られたと憤るテオさんに時の庭園(現在も拡張中、正式なサイズは不明)から持ち出した家畜や農作物の種苗を格安で提供し、計画凍結された街道整備や都市開発などの公共事業にも力を貸した結果、ここ半年で貧しい辺境地帯は見違えるような発展を遂げており、我ながら自重の欠片もない大盤振る舞いをしたとは思うが、ドライゼの調査でムンドゥスマギクスはこのままだと三十年以内に滅びると判明した上、適当な無人世界に移住させようにもテオさんを含めた住人の大半は魔力素で編まれた幻像のような存在かつ古代のゲートで繋がる地球側も巻き添えを食らう可能性が高いとなれば、何かしらの悪影響が現れる前にゲートを壊して後は知らぬ存ぜぬを貫くか腹を括って本格的に介入するくらいかしか選択肢がなく、迷い悩んだものの消去法で後者を選んだ。
救世主や神様を気取るつもりはないが、大した労力もなく親しい人が住む世界を助けられるのに放置するのは人としてどうかだし、面倒事に巻き込まれるのは勘弁だけどこのままムンドゥスマギクスを見捨てて寝覚めが悪くなるより、どうせ滅びる世界なら後先考えず好き勝手する方がいくらかマシと開き直った部分もある。
*
私は少し前まで異世界への渡航に消極的な考え方だったが、ムンドゥスマギクスでの諸々に加え
そうなった経緯は、後にマヨヒガ級と命名した次元航行船*6で以前から移住候補に上がっていた世界の日本っぽい国へと赴いた際、私より少し年上くらいの少女と出会った事から始まる。
どうやってか認識阻害の魔法結界を掻い潜りマヨヒガへと侵入した彼女は、遊園地に来た子供のようなうきうき顔で敷地内を歩き回り、簡易ストレージデバイス(形状は刀身がない鍔付きの柄、バリアジャケットの精製と飛行魔法に加えフォトンセイバーと命名したメールーキスノワークラの互換術式が組み込まれている)を持ち出そうとした為、慌てて止めに行ったら「マガン(文脈と発音的に魔眼と思われる)でマヨヒガを見つけたのはズルになるのか?」と意味不明な質問を返された。
少し話して彼女がマヨヒガの命名元である迷い家*7と勘違いしている事に気付いた私は、あえて誤解を解かず今回だけの特別処置と称して使い方が分からなければただの飾りでしかないデバイスを譲り渡してから拠点ごと撤退して問題解決と思われたが、それから数か月後に今度は別の国を訪れたはずが最初に立ち寄った街で再会する。
恐ろしい程の偶然に作為を感じなくもなかったが、それより驚いたのが使えないだろうと渡したデバイスの性能をほぼ完全に引き出していた事であり、正確にはミッドチルダ式とは別口の使い魔と呼ばれるオカルト的な存在がデバイスに憑依し、インテリジェントデバイスの人工知能と同じような役割を果たしているらしい。
立ち話もどうかと近場の店に入り聞かされた長話を整理するに、彼女は怪異と呼ばれるこの世界のモンスター的な存在に対抗するウィッチ(魔導師や魔法使いの同類)だそうで、無理を承知で助けが欲しいとテーブルに頭を叩き付けるようにして頼み込まれた為、太正世界の帝国陸軍に送り付けた蒸気戦車*8の現物と整備マニュアルを押し付け逃げ帰った。
戦車と銘打っているものの性能的には装甲車でしかなく、銃座を兼ねた操縦席はお世辞にも視界が良いとは言えず射角も狭いし、ある程度までの魔法を無効化するが物理攻撃に対して鉄板以下(気や魔力の通りが良く強化は可能)な装甲、褒められる点は構造が単純なので製造に必要な工業レベルとコストも控え目なのと搭乗者に余剰魔力を供給できる事くらいだが、多少ショボくても数を揃えればそこそこの戦力になるはずと思いドライゼに後のフォローを丸投げしておよそ二か月、何となくその後が気になって確認したら主力兵器として量産体制が整えられており、更に後継機やら設置型魔力炉と魔法銃を組み込んだ新兵器の研究も行われていると聞き頭を抱える。
フォローの意味を曲解レベルで拡大解釈したドライゼは、協力者(海難事故で破産寸前だった商会主らしい)と手を組んで、世界各地に蒸気戦車の生産設備とムンドゥスマギクスにある商会の支店を立ち上げており、それらが少し前に欧州で発生した怪異の大量発生と侵攻を食い止める一助となったそうだ。
世界規模の事件に介入した責任なんて背負いたくはないが、今更に支援を引き上げさせたら目覚めが悪くなるだろう事は火を見るよりも明らかだし、何よりドライゼの対応は私がムンドゥスマギクスや太正世界などで行った諸々の判断を基準にしており、寧ろ飛行船やら動植物の類を持ち込んでないだけ穏当だったりする。
*
太正世界を端的に説明するなら降魔と呼ばれるモンスターが存在する過去の地球だろうか、以前から住むのは勘弁だけどフィクション作品みたいで興味があった私は、術式を組み上げたブランチの試運転も兼ね封鎖された帝都に転移するも折り悪くムンドゥスマギクスの資料で見た鬼神兵にも似たデカブツと現地の軍人らが戦闘をおっ始めており、ドライゼには退避を勧められたが身の安全は確保できてるし実戦テストも悪くないと踏み止まったのが大失敗、挨拶代わりにマルチタスクで
ブランチこそ身の丈を大きく超えた魔法に耐えられず自壊したが、本体へのダメージフィードバックは許容範囲内だった為、改めてサーチャーを放ち状況確認するも逃げたか倒されたのかデカブツは姿形もなく、代わりに倒れ伏した軍人とその仲間と思しき人々を見付けてしまった私は、以前テオさんから譲り受けお守り代わりに持ち歩いていたゲームのエリクサー的な万能薬片手に転移し、感動的な死別シーンに割り込み問答無用で治療する。
流石に私がいなければもっと多くの犠牲が出たと開き直るつもりはないが、最善ではないにせよやれるだけの事をしたと言い張るには周囲の被害が大きく、例えば最初に封時結界*9なりトランスポーター*10なりを使うくらいの機転は利かせられたはずだし、攻撃魔法が通用しなかった時点で艦隊または傀儡兵を緊急召喚しなかった理由が自己顕示欲からだと気付いた時点で後先も考えず衝動的に薬を飲ませていた。
正直、ミッドチルダ式に加えて精霊魔法と気の扱い方を覚え調子に乗っていた私は、動きの鈍いデカブツ相手なら楽勝だろうし不利になったら逃げれば良いやくらいの軽い気持ちで参戦したが、現地の人々からすれば好き勝手に暴れて消えた不審者と思われただろうし、全力を出さなかった影響で死なれるのは流石に寝覚めが悪い。
何か言いたげな周囲の人々が口を開く前に転移魔法で退散した私は、デカブツの攻撃を避けたせいで壊れた建物の責任も取らず逃げ出た詫びも兼ね、補償や支援の範囲で適当な埋め合わせをするようドライゼに指示したが、現地の技術を取り入れ開発した蒸気戦車を帝国陸軍に送り付けるのは拡大解釈ってレベルじゃない曲解だし、ムンドゥスマギクスのマジックアイテムをオマケしたのは流石に大盤振る舞いが過ぎる。
元より太正世界にも蒸気自動車やトラクターは存在していたし、地球側の大正時代に登場した豆戦車をそれっぽく再現してもそう不自然ではないが、サギタマギカと同レベルの魔法弾を連射できる主砲はいくら何でもオーパーツだし、ゲームに登場するポーション的な治療薬の現物と調合レシピも同様だ。
とは言え、ドライゼの調査で太正世界にもミッドチルダやムンドゥスマギクスと似たような魔法っぽい技術が存在するだけでなく、地球で例えたら世界大戦前夜くらいの時代にずんぐりむっくりな
これが人間やそれに近い種族間の争いなら何としてでも回収させたが、ドライゼの調査だと降魔は空間に焼き付いた強烈なマイナス感情に由来する妖怪変化のような存在であり、例えるなら自然災害のようなものと説明されれば支援を止めろとも言い辛く、直接的な介入はしないなどの方針だけ決めて後は丸投げした。
なお、蒸気戦車に使用されているシルスウス装甲板や
謝意を無視されたようで面白くない半面、一方的な送り付けの時点で心証が悪い上に事前知識もなく豆戦車を見れば人型蒸気の劣化版と判断されてもおかしくないし、ポーション的な治療薬にしても胡散臭くて試す気も起こらないと思われるのは仕方ないが、それでも本当に調べもせず倉庫送りにするのは職務怠慢なんじゃと言いたくなる。
「つーか、半年近く放置しといて今更に引っ張り出すとか何か事情でも変わったのか?」
「試作兵器の名目で新設される対降魔部隊に送られるようです。
どうやら蒸気戦車を公金横領の隠れ蓑に利用した者がいるらしく、書類上は計画が破棄された技術試験機になっており、倉庫を管理していた事務官が対降魔部隊の関係者に治療薬ごと横流ししたようですね」
「詐欺の小道具みたいな扱いはムカつくが、一方的に送り付けた以上は悪党の小遣い稼ぎに使われようと文句を言えた筋合いじゃないし、太正世界の観察は今後も継続するけど基本放置で良さそうだな」
ドライゼが纏めた資料を見る限り、降魔の存在は脅威だろうけど放置したら世界が滅びるレベルではないし、人型蒸気って対処手段もある状況で下手に介入するのは余計なお世話でしかなく、何より私はアメコミ世界のナンバーワンヒーローみたいな自己犠牲精神は持ち合わせてない。
*
ドライゼの定期報告を読んで頭が痛くなった追記事項〔被験者は魔法技術を独学しつつある模様〕、アメコミ世界のモジャモジャが理論や技術をすっ飛ばしただの物真似で貸し与えたベルト型デバイスの魔法を再現するとか控え目に言っても変態の所業だし、これで潜在的な魔力量が多いとか精霊との親和性が高いみたいなそれらしい理由でもあれば納得もするが、才能的には私と良い勝負の凡人かつ光属性の適性は低いとか理不尽の極みだ。
無駄に仕上げた物真似を精霊が詠唱と判断したらしく、常軌を逸した集中力と発動体を兼ねるベルトの存在もあって魔法がまぐれで発動し、そこからは狂気じみた反復練習と推論の積み重ねで拙いながらも自力で魔法を使えるようになったとか、実はドライゼが噓の報告をしているんじゃないかと疑いたくなる。
なお、魔法を使えるようになったモジャモジャはマッチョ化に加え若返ったヒョロガリ中年の熱狂的なファンであり、勝手に代理を名乗りヴィジランテなる不法ヒーロー活動をしていたケジメを取る形で保護観察を兼ねた師弟関係になったらしく、増えた他の七人と一緒に魔法と気の扱い方を教え合っているそうだ。
アメコミ世界は"個性"と呼ばれる特殊能力を持ったミュータント的な連中が人口の過半数を占めており、昼間からそこかしこで異能バトルを繰り広げる移住どころか観光にも行きたくない危険地帯だが、高度に発展した科学技術や現代日本と似て非なる娯楽関係は魅力的なので、モジャモジャらにも利益がある取り引きを持ち掛けている。
まずは手土産として、テオさんから押し付けられたコルベット級の飛空船*11と太正世界にも持ち込んだポーション的な治療薬を提供する代わり、アメコミ世界で活動する際の後ろ盾を頼む事にした。
なお、紆余曲折を経てモジャモジャのお袋さんが商会の支店長(実際はネット通販の名義人)に就任し、フライングホエール号とまんまな名前を付けられた飛空船はオールマイティズなるクソダサネーム事務所の移動拠点として使われる事になり、それとは別口でドライゼの端末と各種傀儡兵が載った無人艦を密かに派遣している。
私からすれば異なる歴史を辿った未来の地球に思えるアメコミ世界だが、ミッドチルダの定義では
内容こそ少し違うけれど昔遊んだゲームや好きだった漫画とその続編が手に入り、戸籍はないけれど日本語、電気、ガス、水道、ネットが揃ってかなり魅力的なアメコミ世界だが、スナック感覚で起こる凶悪犯罪と人間性や能力よりも"個性"の良し悪しが重視される歪な価値観は受け入れられないし、ヒーロー制度が生まれた経緯は理解できなくもないけどそれに納得できるかは別問題である。
呼び方こそヒーローなんて正義の味方っぽい代物だが、実際は警察から業務委託されたムンドゥスマギクスの賞金稼ぎと大差ない悪党をぶちのめして警察に引き渡せば報奨金がもらえる肉体労働でしかなく、本来は泥臭くて危険な捕り物をそれこそ大衆娯楽のように楽しめる神経が理解できない。
凶悪な"個性"犯罪への対抗措置であるヒーロー制度がショービジネス化しており、ビルボードチャートに名を連ねる連中が芸能人と大差ない扱いをされる反面、芽が出なかったり心無い誹謗中傷に精神を病んだ者がひっそり引退するなんてのは日常茶飯事だし、副業で荒稼ぎしながら免許を取り上げられない程度に活動する本末転倒な奴も珍しくはなく、内実は表看板としてる弱きを助け強きを挫く正義の味方から大きく掛け離れていた。
ヒーローの実態は"個性"を使用する許可を得た賞金稼ぎでしかないのに、社会からは公明正大な人格者かつ絶対無敵の完璧超人みたいな理想像を押し付けられており、どれだけ不利な状況だろうと戦えば勝つ以外の選択肢は認められないし、いくら人命救助の現場で大活躍しようが一人でも被害者を出したら無能と誹られる。
とは言え、正しく部外者の私がこんな世界は間違っていると決め付け介入するのはどう考えても筋違いだし、地球と比較するから悪く見えるだけで治安末期なムンドゥスマギクスと比べたらまだマシ程度、扶桑世界や太正世界みたいに人類の天敵がいる訳でもなく、生身で訪れるのは論外だけどブランチで遊びに行くくらいならありだ。
「……それで、受験を目前にしたモジャモジャに発動体をくれてやる価値はあったのか?」
『オーナーは彼に対しあまり良い印象を持ってないようですが、交友関係の狭さとコミュニケーション能力の低さに由来する独善性は社会経験の積み重ねである程度は改善される可能性が高く、試作兵装のテスター報酬も兼ねて精霊魔法の腕輪型発動体を与える価値があると当機は判断しました。
なお、"個性"届上はエナジー*13としており、代金は具体的な額を提示せずヒーロー活動が軌道に乗ってからの出世払いとしています』
「モジャモジャの挙動不審ぶりはそう簡単に矯正できないと思うが、人間性や社交性よりも"個性"の有用性が重視される世界だし、実は"個性"に魔法が通じるかの実験だったとしても私からすれば好きにしろだな。
どうせ"個性"犯罪の取り締まりすらままならない現状、そこに無"個性"の魔法使いヒーローが混ざり込んだとしても誤差の範囲だろうし、それより問題なのは商会の事業拡大と技術供与をどこまでやるかだ」
切っ掛けはネット通販の思わぬ大ヒットとモジャモジャのお袋さんから聞かされた感謝の言葉、実にふざけた話だが見た目で嫌われる異形系と無能のレッテルを張られている無"個性"にはまともな就職先がないらしく、誰にでもできる軽作業または給料の安い肉体労働に就けたとしても何かあれば槍玉に挙げられ弁解の機会すら与えられず解雇となり、問題なく勤めても上司や同僚から粗探しどころか無理筋のこじ付けで絡まれる事も珍しくないのだとか、涙混じりで訥々と語る声に込められた暗い感情を思い返すだけで陰鬱な気持ちになる。
なお、ネット通販はそれっぽい健康補助食品やサプリメント(効果は弱いが錬金術で調合した本物)で最初は少しも売れなかったが、ダイエット薬を使いモデル体型になったモジャモジャのお袋さんが地元で有名になり、そこから口コミが広がって美容品に関する大量注文やら代理店契約の問い合わせが殺到し、色々と面倒臭くなってドライゼに何とかしろと丸投げしたら現地人を巻き込んでの事業拡大に舵を切っていた。
初歩的な錬金術は魔力や専門的な知識がなくてもレシピ通りに調合するだけで何とかなるし、現地調達できない薬草類に関しても種苗を持ち込み栽培すれば問題なく、諸々の作業に必要となる設備は小学校の理科室でも揃う程度、ドライゼは未来に希望の欠片すらない犯罪者予備軍が労働者に変わる慈善事業と説明していたが、実際は優れた魔導師の素質を持った人間を探し出す為の口実なんじゃと疑っている。
ドライゼとの雑談で聞いた切れ端情報を繋ぎ合わせた推察だが、インテリジェントデバイスは
横道に入りそうになった思考を戻してアメコミ世界に異世界の技術や知識をどれくらい広めたものか、他の世界とは違い何でもありな"個性"が存在する時点で自重はいらないんじゃと思う反面、サギタマギカなどの攻撃魔法はもちろん悪用される危険性が高い補助魔法を除いた治療系や便利魔法に留めた方が良い気がするし、モジャモジャ辺りは何かの拍子に魔法がラテン語だと気付いた時点で詠唱内容を解析したり、変態的な執念深さと観察力で発動体の作り方に行き付いたとしても不思議ではなく、余計な真似をしないようこちらの監視下に入れておきたい。
『まず事前情報として、採用予定三十名に対し告知から十日間で四千二百六十二件の問い合わせがありました。
当初の事業計画では僻地の耕作放棄地を買い上げ無人農場を作る予定でしたが、傀儡兵ではなく期間契約のアルバイトまたはパートタイマーを追加で募集し、錬金術の知識は適性試験を合格した者に必要な事柄だけ教えて全体の作業工程が分からないよう対策するだけでなく、契約魔法の書類にサインさせ情報漏洩させない予定です」
「契約魔法で縛るならいっそ幹部候補には初歩的な錬金術や魔法関連の知識を教えても良いだろうし、モジャモジャがやってたヴィジランテ活動とやらも引き継いじまったらどうだ?」
細かい説明を聞くにドライゼは無人化したド田舎の土地を村単位で丸ごと買い取り準備万端らしく、自給自足可能な箱庭に作り替えた上で雇い入れた従業員の人間性や適性を様々な方法で徹底的に調査し、希望も踏まえた適材適所と福利厚生に厚い理想的な会社を運営したいと述べているが、脳裏に『機械に管理された人間牧場』って不吉なワードが思い浮かんだので話題を切り替える。
人の心に寄り添えず空気も読めないドライゼではあるが、理解できないからと感情の存在を否定せずある種の変数として受け入れているし、例え何かしらの実験要素が含まれてようと働きたい奴を雇っただけで誰も損はしてない以上、余計な口出しはせず何も気付かなかった事にした。
『介入に否定的なオーナーの言葉とも思えぬ提案ですが、心境の変化またはこの世界に限定した理由でも?』
「心境の変化とは少し違うが、理由はどうあれムンドゥスマギクスや扶桑世界にあれだけ介入しまくっといて今更だし、治安の悪さを何とかしようと思ったらヒーロー側に梃入れするのが手っ取り早いからな。
つーか、どれだけ規制しようと"個性"って便利な能力を使わないまま生活するのは、欲しかったゲームを与えられた子供に遊ぶなと言ってるようなもんで、規制を守らせる
このまま何もせず放置していつぞやの廃墟世界みたく文明が消し飛んじまうのは惜しいし、ヒーロー公安委員会に提出した変身ベルトが"個性"じゃないと証明されたモジャモジャは罪に問われなかった以上、ヴィジランテ活動は"個性"を使わず正当防衛の範囲なら違法じゃないと言い張れるってか、面倒な制限の多いヒーローとは別口で警察の下請けになっちまう方が手っ取り早い気もするけどそこらの判断はお前に任せるよ」
『では、対"個性"犯罪用サポートメカの名目で魔導甲冑をヒーロー公安委員会に許可申請し、商会に警備部門を追加した上でオールマイティズ事務所と業務提携する方向で調整します』
まっとうなはずが不穏に聞こえるドライゼの返答、アメコミ世界で普及している機械類は時の庭園よりも技術レベルが高く、提出した変身ベルトも魔法や錬金術などの物理科学に由来しない部分は解析不能だったものの複製には成功していた辺り、少し探せば魔導甲冑と似たようなコンセプトの搭乗型ロボットくらい作られてそうなものだが、軽く調べた限りで存在してないからにはそれなりの理由があるんじゃないかと思える。
とは言え、馬鹿みたいな予算を投じて増強型の“個性”と大差ないロボットを開発するより、ヒーローが着ているコスチュームに防具としての効果を付与した方が遥かに安上がりだし、購入したらそれで終わりではなく維持管理やら壊れた際の修理にも費用が必要な上、機械や無機物を支配したり破壊する系の“個性”犯罪者と致命的に相性が悪い事も流行らない理由になってそうだ。
なお、魔導甲冑の外装に使われている複合シルスウス鋼は、一部の例外を除く“個性”攻撃を無効化または大幅に減衰するだけでなく、増強系や異形系の上澄みと殴り合っても数発程度は耐えられる頑丈さと深海や宇宙空間でも活動可能な気密性があり、対怪異用のフォトンバレットとフォトンランサー(物理攻撃ではなく魔力減衰がメインの非殺傷設定)を標準装備している為、単純な戦闘力だけならそこらのヒーローと比較しても見劣りしない。
強いて問題点を挙げるとすれば、全高2.5メートルの巨体かつ1トン近い重量もあって狭い場所や軟弱地盤には不向きな事と“個性”の優位性を否定するロボットがアメコミ世界に受け入れられるかくらいである。
*
色々あったけれど私も来週から中学二年生、麻帆良で巻き起こる理不尽な面倒事を不自然に思われない範囲で回避し、
中等部に入ってから始めた部活動では、私が戦闘能力を持っている理由付けにスポーツチャンバラ同好会を選んだが、遊び感覚の素人連中には負けないと思っていた短刀術はルールの縛りがあるにせよ負け越しており、気や魔力による身体強化を抜きにした素の実力が不足しているだけでなく、覚えている技術の組み合わせや駆け引きの稚拙さと言った課題点が浮き彫りになる。
最初はあからさまなフェイントに引っ掛けられての瞬殺、慣れてからは先読みと視線誘導の組み合わせでカウンターを入れられ、更に慣れてからも単純な経験の差を埋められないまま負け越しており、それでも短刀術の腕が目に見えて伸びているだけでなく、何故か惰性の訓練しかしてない気の扱いにも緩やかな成長を実感していた。
以前にテオさんから指摘された戦闘に関する意欲の問題も絡んでいるのだろうか、外付け装備で魔力不足を補填する以前から頭の片隅にちらついてた『私はいったい何と戦うつもりなのか?』と言う疑問、ドライゼの分析を信じるなら万単位もいて一山いくら感がある傀儡兵にしても強さランクC~A(数値にしておよそ150~500)はあるらしく、更に技術試験の段階で過剰戦力と判断され量産化は見送られた40メートル級は強さランクS(数値にしておよそ6000)で戦艦や時の庭園に至っては算定不能との事である。
ミッドチルダ式と精霊魔法を組み合わせた私のストレージ空間には、何かあった際の保険代わりとして大小様々な傀儡兵とマジックアイテム各種だけでなく、飲料水や食料類に加えて交渉用の宝石や貴金属とマナジュエルをこれでもかと詰め込んでおり、規模こそ劣るもののブランチにも厳選した戦力と物資を持たせてはいるが、初手でバリアジャケットを貫通する不意打ちが飛んで来ないとも限らないし、常識の外側で生きるバグキャラと遭遇する可能性も皆無ではない為、あちらこちらの世界で考えなしに干渉するのは遠回しな自殺行為でしかない。
それでも放置すれば消滅確定のムンドゥスマギクスを見捨てられなかったし、やはり放置したら遠からず治安崩壊しそうなアメコミ世界も同様、扶桑世界はテオさんと似た快活な性格の魔眼娘に拝み倒されたからで、詫びのつもりだった太正世界も含め匙加減を大きく間違えたような気はするが、わざとに思えるドライゼのやらかし分を差し引いても後悔はなく、今回は触れなかった他の世界に関しても同様だ。
なお、現状で遭遇した時の庭園と無人世界の全戦力に勝てそうな
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ドライゼを拾ってからおよそ3年ばかり過ぎた現在、ずっと独りだと思っていた私にも
どうやら精霊魔法による結界はミッドチルダ式の転移を阻害しない代わり、注意すれば気付けるかもな空間の揺らぎと魔力痕跡を発生させるらしく、待ち伏せや偶発的な遭遇で何度か身バレしそうになったりもしたが、ここ最近はドライゼの勧めもあって近隣都市に購入した中古物件(築三十年の平屋4LDK、登記関係は偽造戸籍で行った)以外ではなるべく気や魔力は使わないようにしている。
とりあえずこのまま高等部に進学するかはさて置き、少なくとも中等部を卒業するまでは麻帆良に残るつもりだし、平穏無事な日常生活を送れるよう関東魔法協会みたいな目に見える厄ネタには関わらない予定だったが、マホネットを巡回する魔法的なマルウェアの送信元とドライゼがハッキング合戦を繰り広げていたりと小さな火種がいくつもあり、ここ最近は今にも自殺しそうなくらい思い詰めていたとある女生徒を時の庭園に保護していた。
一般的な視点で見れば、長い黒髪を留める花飾りのカチューシャくらいしか目立った特徴がなく、勢い任せで能天気な麻帆良の風潮に馴染めず孤立していた少女となるが、実際は引っ込み思案が過ぎて
周囲の人々が自分に対して干渉しないと言われれば少し羨ましく思えるが、能力のオンオフまたは対象を選択する以前に基本的な制御すらできているか怪しく、ドライゼに保護された際も無視する系の虐めから直接的な誘拐に切り替わったと誤解して半狂乱になり、落ち着かせて状況を説明した後はこのまま麻帆良に戻りたくないと泣きながら懇願した為、時の庭園に匿う代わりミッドチルダ式を使えるようになる条件で受け入れる事にした。
麻帆良の裏側を支配する関東魔法協会は、正義の執行者を自称している割に上から目線で協調性に乏しい者が多く、そんな連中が今回の行方不明事件に興味を持ったらどうなるかはお察しで、実は闇属性が得意な魔法使いで吸血鬼だったクライメイトのマクダウェルをまともな証拠もなく犯人と決め付けている。
以前ドライゼに調べさせたマクダウェルの経歴や能力をざっくり要約すれば、強力な氷と闇の魔法を使う人形遣いにして数百年を生きる吸血鬼だろうか、賞金総額数億円のお尋ね者でもあったがそちらは既に取り下げられており、書類上はとある英雄に捕らえられ関東魔法協会の監督下で奉仕活動中となっていた。
訴えを受けた学園長は罪に問えるだけの証拠がない事を理由に取り合っておらず、そこに高畑の"僕は彼女が無実だと信じているし、もし仮に犯人だった場合は責任を持って対処する"発言が加わり、容疑者であるマクダウェルを蚊帳の外にしたまま始まった裁判モドキは推定無罪として棚上げされる。
認識阻害は指定した何かを見落とさせはするが、明確な目的意思があれば多少なりとも違和感を抱ける程度の抵抗は可能だろうし、関東魔法協会の本部が麻帆良本校女子中等学校に存在している以上、自分の膝元で起きた事件に対する態度がそれで良いのかと思わなくもない。
とは言え、元より麻帆良で中高生が行方不明になるのはそう珍しい事柄でもなく、衝動的な家出やら旅行とか山籠もりの類も含めればそれこそ日常茶飯事だし、それこそ本来の意味での失踪事件も年に数件は起こっているらしいが、面白おかしく茶化すような内容じゃないので報道部関係が取り扱わないだけだ。
実際問題、マクダウェルは授業をサボり気味で無愛想とあまり褒められた生徒じゃないが、出張ばかりの不良担任と比べてテストを受け提出物の期限も守っている分だけまともだし、内心がどうであれ裏関係の侵入者対策に協力していたのは間違いなく、そこまでしても信用されないような組織とは交渉するだけ無駄に思えた為、ムンドゥスマギクスとのゲートがあるイギリスから生存報告を兼ねたビデオレターを学園長宛に郵送する。
15分程度に纏められたビデオレターの前半部分は、家出するまでの経緯を抑揚のない口調で淡々と説明するだけの無味乾燥な内容だったが、家族や周囲の人々から除け者扱いされたと訴えた辺りで表情が豹変し、ドスの利いた涙声で支離滅裂な恨み節を途切れ途切れに吐き出しながらフェードアウトする恐怖映像となっていた。
実際問題、意図せず発動させていた魔法が原因でも周囲の人々に無視され続けていたのは事実だし、例え悪意がなかろうと雑踏に紛れた赤の他人みたいな距離感だった連中に好意を持てるはずもなく、本来なら培われていただろう社交性や自己肯定感がズタボロになり、素人目でも分かるくらい重度の対人恐怖症になっている。
麻帆良に馴染めず孤立していた私と彼女の違いはドライゼを拾えたか否かくらいであり、それこそ何かが少し違っていれば逆の立場で助けられる側だった可能性もあるが、例え時の庭園に迷い込めたとしても転移魔法で元の座標に帰れたかは別問題だし、上手く行ったとしてもテオさんと出会える以前にムンドゥスマギクスを訪れたかも怪しく、同様に扶桑世界や太正世界やアメコミ世界とも関わらなかった可能性が高い。
それでも私の数倍以上はある魔力容量にドライゼのサポートが加われば、時の庭園に登録されていた各種魔法を発動させられただろうし、3年も時間があれば魔導師と呼んでも差し支えない実力が身に付いていたはずだ。
かく言う私も魔力容量こそ平均的で魔法の才能にも恵まれなかったが、演算能力と並列思考に関しては下手なデバイスより優れているらしく、マルチタスクで複数の魔法を同時に発動可能となっている。
主軸にしているフォトンバレットはサギタマギカと比べて威力と消費魔力こそ低いが、それでも手数を頼りにフォトンスフィアでばら撒けば数分と持たずガス欠になるし、命中先で爆発するフォトンバーストや高火力だけど直線的な機動で飛来するフォトンランサーはイマイチ使い勝手が悪く、ミッドチルダ式のみで戦う場合は足を止めての固定砲台に徹するくらいしかできない。
とは言え、才能に乏しい凡人が片手間に鍛えた結果としては上出来の部類だろうし、強くなりたくはあるけど貴重な青春時代を修行に捧げる程の覚悟はなく、それでも本体であるはずの私がドライゼや外付け装備の付属品と大差ない現状には思う所があり、愚痴ったら模造リンカーコア*14の移植を提案されたが流石に人体改造は勘弁だ。
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「……落ち着いて考えるに、無神経なまでの能天気さは受け入れられないけど麻帆良は次元世界でも上から数えた方が早いくらい安全な場所ではあるし、良い感じに馴染んだ同好会の付き合いを投げ捨ててしまうのはもったいないってか、ブランチの派遣と記憶共有を繰り返せば移住したのと大差ないんだよな」
『当機としては、オーナーの肉体から遺伝子情報を採取後に時の庭園で封印保存し、強化改造したクローンに意識を移植「却下だ却下!」気が変わったらいつでも申し出て下さい』
「あのなドライゼ、確かに私の実力は拳闘大会で予選突破できるかどうかのショボさだし、魔導師としても大成しないのは目に見えてるが、だからと言って足りない才能をズルで底上げするのは流石に筋違いだわな。
そこらを言い出したら外付け装備やブランチも同じくズルの類になるんだろうが、いくら何でも強化改造したクローンに意識を移植するってのは完全アウトな部類だと思うし、身の丈に余る力は時の庭園で腹いっぱいだよ」
鍛えてはいるけど最強を目指したりバグキャラに挑む気概は微塵もないし、テオさんみたく持てる者は持たざる者に分け与えるべしなんて殊勝な心構えがあるでもなく、拾い物の力に酔ってメアリー・スーよろしくやりたい放題する度胸もない私は、ブランチから送られた異世界生活の記憶を閲覧するだけで満足している。
ブランチには専用のマヨヒガ級と派遣した世界限定で私に次ぐ権限を与えているが、そこそこ平和な中世ヨーロッパ風の辺境生活は元より、あまり強くない怪物が徘徊する西部開拓時代+ファンタジーやら魔法が存在する明治後期っぽい世界で過剰な戦力が必要となる状況は滅多にない。
正直、最近は心に余裕が生まれ麻帆良から無理して引っ越さなくても良いかなと思っているし、本来なら消滅するはずだったムンドゥスマギクスを造り替えといて今更にズルだの道理だの言えた筋じゃなく、それでも自重だけは投げ捨てないようにしているつもりだ。
とは言え、ARMの現物が欲しくて渡り鳥に人工知能搭載型偵察用傀儡兵(蒸気エンジンで動く自立行動可能な浮遊オートバイ、微弱な自己修復機能を実装している)との交換を持ち掛けたり、演算宝珠の研究がしたくて秋津島皇国に蒸気トラクターの設計図と品種改良された冷害に強い種苗を提供したのは色々と配慮が足りてなかったし、他にも様々な魔法をミッドチルダ式として再構築すべく様々な知識や技術を収集する際に色々とやらかしたりもしているが、何もかもとんとん拍子でご都合主義的に進むはずもなく、目を付けた魔法や特殊技能が想像してたより使い勝手が悪く参考にならなかったなんて事もある。
改めて振り返ると我ながら呆れるばかりの短慮かつ無責任っぷりだが、元より私は正義の味方でもなければ救世主を気取った侵略者の類でもなく、変な誤解や深読みで勘違いをされた際には可能な限り訂正を入れているし、少なくとも不義理や寝覚めが悪くなるような真似はしてないつもりだ。
かつての燃えるような希望と探求心は色褪せ無味乾燥とした惰性に成り代わり、テオさんへの恩義や友情は残っているけどムンドゥスマギクスに骨を埋める覚悟はないし、他の世界にしても文明レベルは良くて昭和初期かそこらで麻帆良より治安が悪く、まだしも時の庭園で悠々自適な隠居生活を送った方がマシに思える。
時の庭園を筆頭に自給自足可能な次元航行船が何隻もあり、加えて拠点にしているのとは別の無人世界を開拓中な現状、ブランドに拘ったり贅沢や選り好みをしなければ衣食住の心配がなく、娯楽にしてもブランチから送られる記憶を閲覧するだけでお釣りが来るし、やろうと思えば各世界に立ち上げた商会の支店を通じて取り寄せも可能だが、そんな状況でも私は麻帆良を離れる踏ん切りを付けられずにいた。
「あれだけ嫌で仕方なかった麻帆良から離れたくないと思っちまうなんざ我ながらどうかしてるぜ」
『オーナーが麻帆良を離れる事に消極的なのは、精神支配の影響が残っているからではないかと推察されます。
また、生まれ育った場所への愛着やスポーツチャンバラ同好会に居場所を見つけた事で未練が生じた可能性もあり、更にブランチとの記憶共有でわざわざ移住する必要を感じなくなったからとも考えられますが、人間の感情を理解する機能がない当機ではオーナーの質問に対する明確な回答を提示できません』
「……お前、本当は人間の感情を理解してるだろ?」
『当機に対する質問の定義が思考傾向の解析を意味するのであればイエス、心理への共感や理解を意味するのであればノー、これまでも幾度となく行った発言の繰り返しになりますが、この音声は仮想人格が判断した内容と登録された会話パターンを組み合わせた回答文の読み上げであり、最適解が存在しない抽象的で漠然とした悩み相談には対応しておりません』
「ホント、そこに関してはお互い平行線だよな」
私の問い掛けを頑ななまでに否定するドライゼだが、心を持つAIや電子精霊の知り合いがいる現状でそれはひょっとしてギャグで言ってるのかとなるし、付喪神が存在する以上はインテリジェントデバイスに感情が芽生える可能性も皆無ではなく、普段は理屈っぽいのにありえないと決め打つだけの根拠も示さず断言している。
なお、ドライゼは無償の献身を捧げてくれているが、それは人間の役に立つべしなんて至上命令が思考回路に組み込まれているかららしく、感情や価値観の違いを理解できないなりに寄り添おうとしてくれたり私を
つまりドライゼは暫定
天才が使用する前提で組み立てられたドライゼからすれば、小器用なだけの凡人でしかない私を
元より、仕えるべき
何せ並程度の魔力を供給すればドライゼ単独でも下級の竜種くらいは討伐可能な戦闘力があるし、工作魔法*15とデータベースに登録された諸々を組み合わせたら金銀財宝から次元航行艦までありとあらゆるモノを作り出せる為、託す相手を間違えようものなら比喩抜きに世界滅亡や独裁者誕生の危機が起こりうる。
もし仮にそのような事態が起こった場合、それこそ刺し違えてでも止めるのが時の庭園からドライゼを持ち出した私の責任であり、そんな面倒臭い事態にならない為にも
なお、私も改造を受けさえすればドライゼの
ともあれ、現状の私はデバイスがなくても自前の演算能力だけで大半の魔法を遅延なく使えるし、ドライゼに特別な思い入れはあるけど絶対必要かと問われれば否であり、丸投げしている諸々の面倒事もブランチと手分けすれば対処はそう難しくない為、段階的に引き継ぎを行おうとしたものの当機は必要じゃないのかと猛抗議を食らった。
役に立たない補足1・魔導甲冑:霊子甲冑そっくりな胴体にコックピットを兼ねる頭部がめり込んだ寸詰まりロボット、魔法的な内燃装置は薪木からウォッカまで種類を選ばず使用可能ながら魔力出力は最高でもCランク相当、時速30キロ程度の飛行能力を有しているものの旋回半径が大きく空戦に不向きかつ燃費の問題から航続距離もお察しレベルだが、世界大戦前後の工業技術で作られた兵器にそこまで多くを求めてはいけない。
役に立たない補足2・シルスウス鋼:鉄と鉛を主とする特殊合金、魔法攻撃には滅法強いものの物理攻撃に対しては前時代的な歩兵装備でも何とかなるくらい脆いが魔力や気を通す事で強化可能、外部魔力の結合阻害に関しては独自解釈と言うかオリジナル要素です。
ぶつ切れかつ()と脚注がごちゃごちゃしてて読み辛い文章になった事をお詫びします。