鈴木悟は鬼に憑かれている   作:サイドベント

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時系列的には一番最初の話です。

※こちらはifの話です。
次話の「プロローグ(本編突入ルート)」がその字の通り本編ですが、こちらでモモンガと伊吹萃香の関係性を描いているので読むと流れがわかりやすいと思います。


プロローグ①永遠の別れ

 

 

 

 

 

「じゃあ、今日は落ちます。皆さんお疲れ様でした」

 

「「「「おつかれー」」」」

 

「モモンガさん、明日も素材集めよろよろー」

 

 

コンソールのログアウトを選択すると、賑やかな光景が無機質なものに切り替わる。

 

『モモンガ』から『鈴木悟』へ戻ってきた。硬い椅子の感触が鈴木悟に現実を思い出させる。

 

ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』は全盛期は41名のプレイヤーが所属していたが、今日集まったのは5人足らず。

 

もちろんソロプレイとは全く違ってることはわかっているが、それでも寂しさを感じてしまう。

 

 

「このまま皆辞めちゃうのかな……嫌だな」

 

 

はぁ、とため息をつく。ヘッドセットを外す気力もないままぼんやりと椅子に座っていた。

 

時刻は午前3時を回っている。今日はギルメンとの会話が弾んで特別遅くなってしまったし、朝から仕事に行くにはすぐに寝なくてはならない。

 

さらに憂鬱な気分になったところで、忘れ物に気が付いた。

 

 

「あ、明日の集合場所聞いてないや。まだログインしてるかな……お、いる。じゃあ入り直すか」

 

 

別にチャットで済む程度の用事だが、あわよくばもう少しだけギルメンと会話できるのでは、なんて考えながらログインし直した。

 

再び『モモンガ』となったところで、違和感に気付いた。

 

 

「……外? 中位アンデッド創造! 敵感知! 発動しない……?」

 

 

反射的に盾役の死の騎士を召喚しつつ、周囲の索敵を行おうとして、それどちらもが不発に終わったことに驚いた。

 

ユグドラシルはプレイ人口が大幅に減少したにも拘らず、未だに異形種狩りが横行していた。故に、基本的に異形種プレイヤーの単独行動は推奨されていない。

 

ログイン位置がギルド内部でないことに戸惑いこそあったが、モモンガも例に漏れず"狩られる"対象であることを理解していたからこそ、即座に取った防衛行動だったが……それが発動しないとなると明らかに異常であった。

 

 

「……敵影無し。念のために……中位アンデッド創造、はやっぱり不発か」

 

 

再び死の騎士を召喚しようとしたが、スキルは発動しなかった。どうやら完全に魔法とスキルのコントロールを掌握されてしまっているらしい。

 

バグか、攻撃か。モモンガは身構えつつ、自分が置かれている状況を図りかねていたが、特に何も起きないまま時間だけが経過していく。

 

 

「ハッキングか? だとしたら今時命知らずもいるんだな」

 

 

プレイヤーがユグドラシルというゲームそのものに影響を及ぼす手段は基本的に存在しない。他のプレイヤーの初期位置を強制的に任意の場所に転移させたり、魔法やスキルの使用を制限したりする方法などモモンガは知らない。

 

よってシステムを改竄するような、いわゆるチート行為が行われているのではないかと考えた。

 

ただし、チート行為は即BAN対象である。その後は『危険思想持ち』としての処分が待っていると専らの噂であり、基本的にチート行為は見かけることが無い。

 

 

「ウロボロスが使われたり……なんてことはないか」

 

 

一部合法な世界級アイテムは文字通りゲームの仕様を書き換えることだって可能だ。

 

しかし、ウロボロスの使用時は『使用者が何を要求したか』が運営から全プレイヤーに通達されるはずである。試しにコンソールを開いても何の通知も来ていなかった。

 

もしかしたら自分を転移させた者は、そのままBANされて消えてしまったのかもしれない。

 

 

「そして俺は放置、と……はぁ」

 

 

運営はチート野郎を早々にBANした後、モモンガの強制転移については放置したという流れだろう。

 

肩の力を抜いて周囲を見渡してみると、モモンガがいる場所は全く見覚えのない広場のような場所であった。

 

周囲を岩と背の高い草に囲まれ、中心部だけがぽっかりと均されている。明らかに人の手が入っているが、やはり周囲には誰もいない。

 

 

「クソ運営……これでチート野郎に仲間がいて襲われてたらどうすんだよ」

 

 

文句を言いながら再度コンソールを開こうとしてーーーー

 

 

 

「よう、お客さん。もし良かったら一緒に飲んでいかないか?」

 

 

 

背後から幼い女の声がした。

 

 

「……ログイン位置の強制書き換え。加えて行動制限。どうやったんですか? ハッキングは即BAN対象ですよ」

 

 

声を掛けられた瞬間は肝を冷やしたが、努めて冷静に返事をした。

 

本気で自分を狩るつもりなら声を掛ける前に攻撃をしてくるはず。魔法の使えない魔法職など、文字通りいい的だからだ。

 

そして敵感知に引っかからなかったあたり、姿を消すタイプの暗殺者。正面からの戦闘は不得意なはず。

 

初手で死の騎士を召喚できていれば、相手の不意の一撃を防ぐことができるという点でモモンガは完全に有利な立場に立っていたはずだが……それは考えていても仕方がない。

 

未だ下手人は何もして来ないが、モモンガは警戒を強めつつ、分析を続ける。あるかもしれない次の機会のために。その時に勝ち筋を拾うために。

 

加えて、気になるのだ。モモンガの直感が、ログイン位置を弄るという荒技を行った相手が只者であるはずが無いと囁くのだ。

 

 

「冷静だねぇ。この状況でも諦めてない。気に入ったよ」

 

 

種明かしをしてやろう、という声と共にモモンガの周囲の岩がふわりと浮かび上がり、空中で団子のようにくっついてしまった。

 

 

「見ての通り、わたしはあつめることが得意なんだ。さっきのも、ちょーっと暇だったから、この力を使ってお前さんを引き寄せただけだ」

 

「……参りました。何もしないので振り返っても良いですか?」

 

 

おうよ、と返事が聞こえたのでモモンガはゆっくりと振り返り、下手人の姿を凝視した。

 

女。小柄な体躯に似合わぬ2本の大きな角。腕には引き千切られた鎖が付いた鉄の輪に、酒で上気したような真っ赤な顔。

 

 

「まさか……『鬼の四天王』」

 

 

 

 

ーーーー曰く、『公式が認めたチートキャラ』

 

 

『歩くバグ』『強すぎ4ね』『たまに山よりデカくなってて邪魔』『四天王なのに一人じゃん』『全身が酒臭そう』等々、嫌われ者のアインズ・ウール・ゴウンに負けず劣らずひどいあだ名(罵詈雑言)ばかり。

 

最上位ギルド内部に単騎で現れたかと思えば、瞬く間に増殖し、破壊の限りを尽くした挙句、最後は巨大化してギルドそのものを破壊したーーーーなんて眉唾ものの武勇伝もある。

 

神出鬼没かつ気まぐれな暴力の化身。それが眼前の幼気な少女を表す最適な言葉だった。

 

 

「ご名答。さすが『魔王モモンガ』だねぇ」

 

「……それで、私に何の用ですか」

 

「さっきも言ったじゃないか。一緒に飲まないか?」

 

 

いつの間にか器に注がれていた酒を差し出してくる姿に戸惑いながら、モモンガは考えていた。

 

ユグドラシルはプレイヤーがゲームと現実を混同することが無いように、プレイ中のプレイヤーの五感を制限している。

 

特に嗅覚と味覚は完全にカットされているため、目の前の酒は無味無臭の液体となっているはずだ。

 

そもそもアンデッドという種族は飲食が不可能であり、こういった類のアイテムは使用することすらできない。

 

できないはずなのだがーーーーモモンガは目の前の酒に対して『飲んでみたい』という欲求を感じてしまっていた。

 

如何なるチート技術を使っているのか。モモンガは目の前の少女の危険性をひしひしと感じながらも、酒から目を離すことができなかった。

 

しばらく器と少女の顔の間で視線を彷徨わせた後、遂に受け取ることにした。

 

 

「一気にグイッといきなよ」

 

「はい……グッ!? これは……!!」

 

 

見よう見まねで骸骨の口に流し込んだ酒は、流し込む側からまるでモモンガの骨の体に溶け込んでいくように消えていき、それに伴って喉が強く焼けていく感覚に襲われた。

 

 

「強いだろう? 何てったって鬼の飲む酒だ。まあ、人間が飲めるように薄めてあるがね」

 

「頭……いった……ていうかなんで、アンデッドなのに、飲める……?」

 

「"ここ"が特別な場所だからさ。夢と現の境目。私みたいな曖昧な存在が1番力を発揮できるんだ」

 

「ああ……そう、ですか」

 

 

揺れる視界に気を取られ、鬼の少女が言っていることの半分も理解できなかった。

 

しかし笑う少女をぼんやりと眺めながら、酒に酔うという感覚は悪いものではなかった。そのままふわふわとした気分に浸っていたかったが、それは許されないらしい。

 

空の器にとくとくと酒を注いだ後、鬼の少女はにやり、と笑みを深めた。

 

 

「さあさあモモンガ。いや、鈴木悟。色々溜め込んでるんだろう? 私にぜーんぶ話してみなよ」

 

「俺はーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘッドセットを付けたまま硬い椅子の上で目覚めた時、なんだか気分がすっきりしていた。体もいつもより軽い気がする。

 

少し明るい気分になったところで時計を確認すると、もう朝の7時を回っていた。

 

余韻に浸る暇も無く、慌てて家を出て職場で仕事をした後、憔悴し切った状態で帰宅し、硬い椅子に深く腰掛けた。

 

 

「夢……じゃないな」

 

 

鈴木悟は鬼の少女のことを覚えていた。何を話したかは覚えていないが、鬼の少女は思ったより気さくであったこと、そして何より、酒の芳醇な香りと喉が焼ける感覚を強く覚えていた。

 

 

「滋養強壮効果とかあるのかな……? あんまり味わかんなかったけど。でもまた飲みたいな……」

 

 

しかし、困ったことにあの酒を味わうことのできる機会は中々訪れなかった。

 

毎日ユグドラシルにログインしては、少なくなったギルメンとの会話を楽しみつつ、頭のどこかであの空間のことを考える日々が続いた。

 

そして遂に、鈴木悟は法則を見出した。

 

 

「あの時は深夜だったな……明日は特に早くてキツイけど、ちょっと今日は夜更かししてみるか」

 

 

ギルメンたちに別れを告げたのが午前1時。そこから思い切って午前3時まで待機し、おそるおそる再ログインしてみるとーーーー

 

 

「よう、お客さん。もし良かったらーーーーってモモンガじゃないか」

 

「こ、こんばんは! ようやく会えた……!」

 

「なんだいなんだい。愛の告白でもしてくれるのか?」

 

「そうじゃなくて! いやまあ、『鬼の四天王』さんに会いに来たのはそうなんですけど」

 

「冗談だよ。ほら、一緒にやろうや」

 

「ありがとうございます!」

 

「あんまり飲み過ぎるなよ? 人間の体は脆いからな。まあサービスで今日も酒抜いといてやるけど」

 

「あー……? ありがとう……ございます……?」

 

 

それからは狙って夜更かしをすることが増えた。

 

流石に訪問回数が2桁に達したあたりで『ぶぶ漬け食うか?』と謎の暗号と冷たい目で脅かされてしまったので、夜更かしはなるべく週一に抑えることにした。

 

酒を酌み交わしつつ、話を沢山聞いてもらった。仕事の愚痴だったり、減っていくギルメンに対しての愚痴だったり、思えば自分ばかり話をしてしまっていた。

 

ただ、彼女は酒が飲めれば何でもいいようで、つまらない話を肴にただただ酒を飲んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

そうして時は流れて。ついに今日、ユグドラシルはサービス終了の日を迎えた。

 

 

「ヘロヘロさん、明日も早いんでしょ。今日はありがとうございました」

 

「いえいえ、そんな……モモンガさんも体に気をつけてください」

 

「ありがとうございます」

 

「それじゃあ、またどこかで」

 

「はい。またどこかで会いましょう。ヘロヘロさん」

 

 

最後に残ったギルメンも去り、モモンガは円卓の間に一人残された。

 

時刻は22時半。モモンガは黄金のギルド武器をじっと見つめた後、ゆっくりと息を吐き、席を立った。そして円卓の間を後にし、振り返ることなく消えていった。

 

 

 

 

 

 

23時を少し過ぎた頃、モモンガはログアウトして、すぐさまログインした。

 

法則からは外れていたが、確信があったのだ。そしてそれは当たっていたらしい。

 

 

「よう、前回からまだ7日経ってないぜ?」

 

「それはすみません。でも、今日じゃないとダメだったんです」

 

 

目の前の少女はわかりやすく溜息を吐いた後、諦めたように器を差し出してきた。

 

それを断りつつ、胡座をかく少女の横に座る。

 

 

「良いのかい? 今日でおしまいなんだろう。まだ誰か来るかもしれないし、最後まで居てやれば良いじゃないか」

 

 

そうやって呆れたように笑う少女の横顔を見て、鈴木悟は笑顔を浮かべていた。

 

嘘が嫌いな彼女がついた可愛らしい嘘に対して。そして、それを嬉しく思う自分に少し気恥ずかしさを感じて、鈴木悟は笑った。

 

 

「萃香さん。貴女に会えるのも今日が最後なんでしょう? だから俺は、貴女と一緒に過ごしたくてここにきたんですよ」

 

「……小僧の癖に、言うじゃないか。でもまあ……そういうのは嫌いじゃないよ」

 

 

少しバツが悪そうにいう彼女は、鈴木悟の目に間違いが無ければ、嬉しそうにしていた。

 

それから取り止めのない話をして、あっという間に時間が過ぎて行き。

 

気付けば終わりが近付いていた。

 

 

「なあ、悟。私は鬼だが、何でもできる訳じゃあない。お察しの通り、"ここ"はあとちょっとで消える。だからさ、もう帰れ」

 

「嫌です」

 

「まあ、そう言うだろうな……だが、駄々をこねても無駄だ」

 

 

鬼のドスの利いた声に背筋が冷え、少しだけ目を逸らしてしまった。

 

その瞬間、鈴木悟の体は浮かび上がり、意思に反して広場からグングンと離されていく。

 

 

「萃香さん!! 俺は、ほんとうに、貴女とーーーー!!」

 

 

鬼の聴力を持ってしても、その声が届かなくなり。

 

最後に鬼の少女は呟いた。

 

 

「さよならだ。人間。願わくば、オマエのこの先の人生に幸あらんことを」

 

 

鬼と魔王の進む道は、分かたれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

建国以来覇を唱え続け、今や大陸中央にさえその名が轟いている魔導国。

 

その首都において最も豪華な建物の屋上に一組の男女が佇んでいた。

 

夜も更け、野の獣すら寝静まるような時間になってもその姿は微動だにしなかった。

 

ふいに、背の高い方が空を見上げた。そこには何も無い。

 

 

「アインズ様。如何されましたか」

 

「いや、何でもない」

 

 

声をかけられた骸骨は、見目麗しき側近の声掛けに生返事をしながら空を見上げ続けた。

 

この世界にいつ転移してきたのか、もはやモモンガは覚えていない。

 

もしかしたら『鈴木悟』よりもギルド名の『アインズ・ウール・ゴウン』を名乗った方が多くの者に名が伝わるだろうかと、名を変えてから一体何年経っただろうか。

 

あの酒の味を、香りを。そして彼女のことを自分はいつまで覚えていられるのだろうか。

 

鬼の名は安くない、と自分だけにその名を預けてくれた鬼の少女との美しい思い出を胸に、彷徨える死霊の王は今日も生きている。

 

 











ビターエンド完

鈴木悟はこれからも迷走しながらモモンガだったりアインズだったりして異世界でずーっと一人で生きます。NPCたちのことはどうでもいいです。

伊吹萃香はまた一人になってずーっと謎空間に閉じ込められます。

本編はトゥルーエンドでハッピーなのでご安心を。


以下蛇足

この世界の伊吹萃香は長いこと夢と現の間に閉じ込められていて、ちょっとだけナイーブになっています。

ユグドラシルが始まって、何故かゲームプレイヤーに干渉できる事に気づいた後は暴れ回ったり気ままにお散歩したりと充実した生活を過ごし、少し元気になりましたが、ユグドラシルが廃れていって人間も少なくなってしまった結果、また元気をなくしていきます。

そこで、同じように寂しさを抱えていた鈴木悟に興味を持ち、なんだかんだ仲良くなります。

しかし鈴木悟くんが痛恨の選択肢ミス!

依存先がナザリックから伊吹萃香に変わっただけなのでダメです。ウチの萃香はあげられません。紛うこと無きバッドエンドです。

トゥルーエンドでは完全ご都合主義で強い伊吹萃香とかっこいい鈴木悟さんが出てくるよ! お楽しみに!!
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