鈴木悟は鬼に憑かれている   作:サイドベント

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今回は短編気味に色々な話があります。最初は前話のバルブロ死亡の少し前の話から始まります、こいつだけ長いです。
 
その後のはそれぞれ短いので気軽に読んでください




戦争の後始末(章末)

 

 

 

 

やっぱり人間って素晴らしい、の巻

 

 

 

 

鈴木悟の隠れ家の中にて。

 

 

「もしもーし。まだ起きないな、ガゼフさん。HPは最大まで回復してるんだけどなー。やっぱりユグドラシルとは違うのか」

 

 

未だ目覚めない筋骨隆々の男、ガゼフ・ストロノーフを見ながら鈴木悟は呟いた。浅黒く、鍛え上げられた外見はまさに戦場に生きる男という感じで自分とは全く違う荒っぽい人なんだろうな、と思った。

 

 

「ヒールを使えば腕も生やせるかなぁ。視力もやられてるみたいだし……でも俺覚えてないしスクロールも持ってないしなぁ……うーむ」

 

「……ぐ……」

 

「あ、起きたかな……? すみません。私は怪しいものじゃないんですけど。貴方が怪我をしたのでここで休んでもらってます」

 

「……すま、ない……まだ……」

 

「あ! ごめんなさい。まだ苦しいですよね。喋らなくて大丈夫ですよ。お水出すので……はい、口湿らせますよー」

 

「あり、がとう……」

 

「いえいえ」

 

 

それからガゼフは眠りについた。とりあえず心臓は動いているようなので安心して様子を見守った。

 

数時間後、再び目を覚ましたガゼフは自分の体を起き上がらせることができるくらいには体力を回復させていた。

 

しかし、ガゼフはあまり元気そうではなかった。

 

 

「(腕や視力を失ったなんて、ショックだよな……)あの、何か欲しいものとかありませんか」

 

「そうだな……これといって欲しい物は無い。目が見えないのは不便だが、悟殿が良くしてくれるからな。しかし……その……」

 

「あ、もしかしてお酒ですか? 好きそうですもんね。本当は良くないんですけど……こっそり飲むならバレませんよ。どれにします?」

 

 

鈴木悟は誰かさんの影響ですっかり酒好きになっていたが、肝心の自分が飲酒できないため人が酒を飲む姿を見ることを最近の趣味としていた。

 

ガゼフにも酒を勧めようといそいそと動き出したが、ガゼフ本人に手で動きを制されてしまった。

 

 

「済まない、悟殿。酒ではないんだ。というか、普段の私は酒を飲むのだろうか?」

 

「……どういうことです?」

 

「その……わからないのだ。悟殿が持ってこようとしてくれた酒という物が何なのかはわかる。ただ自分のことだけがわからない。今まで俺が何をしていたのか……なぜ片腕が無く、なぜ目が見えないのかが……わからない」

 

「なんてことだ……ガゼフさん、あなた記憶が……! あ、沈静化……すみません、何でもないです」

 

「……? まあ、気にしないでおく。なあ、悟殿。俺がここに運ばれた経緯を教えてくれないか? 何か思い出せるかもしれない」

 

「……わかりました。事情があるので話せないこともありますが、それでよければ」

 

「お願いする」

 

 

鈴木悟はガゼフが周辺国家最強の王国戦士長であること、カルネ村でとある国の兵士たちと戦闘を行い目や片腕を失う重傷を負ったことを掻い摘んで話した。

 

 

「……最強、か。それが事実であれば俺はここまでの傷を負わなかっただろうな。情けない。悟殿、話してくれてありがとう。まだ自分の話とは思えないが……何か思い出せそうな気がするのだ」

 

「それは良かった。さ、とりあえず横になりましょう。失った体力はそう簡単に戻らないみたいですし」

 

「身体が鈍ってしまうな……「あ、それガゼフさんっぽい」……なるほど。やはりそう遠くないうちに記憶を取り戻せそうだ」

 

 

おやすみなさい、と鈴木悟はガゼフを寝かしつけた。

 

 

 

次の日、鈴木悟はガゼフの寝ている部屋から離れて通信の魔法を発動していた。

 

 

『じゃあまだ萃香さんは王都に着いてないんだな。パンドラズアクター、お前のことだから大丈夫だろうけど……ランポッサさんの体調には気を遣ってあげてくれ。じゃあ、また』

 

 

面倒ごとを押し付けているようで申し訳なかったが、パンドラズ・アクターほど適任はいなかったことも事実である。

 

 

「頼りになり過ぎるのも良くないかもなぁ。いや、俺が情けないのが悪いんだけどね」

 

 

ーーーーガタン、と大きな音が別室から届いた。

 

 

 

「ぐ、ままならんな……」

 

「何してるんですかガゼフさん。まだ回復しきってないのに……」

 

「いや、なに。無性に体を動かしたくなってしまったものでな。どうやら俺は中々せっかちな人間だったらしい」

 

「うーん……あんまり無理しちゃダメですよ? 記憶も大事ですけどまずは身体も治さなきゃ」

 

「それはそうなのだが……そういえば悟殿は身体を鍛えているのか? 自慢ではないが俺は重い。悟殿は軽々と俺を支えていたが……」

 

「あー、身体を鍛えたりは特にしてないですね。私は魔法詠唱者なので」

 

「なるほど。先ほどどなたかと話していたのもそれか」

 

「あ、うるさかったですよね。すみません。でもガゼフさんって耳が良いんだなぁ」

 

「確かに耳は良いようだ。そして音に関してだが、居候をさせてもらっているのはこちらだから構わない。そういえば悟殿。昨日は誘いを断ってしまって悪かった。良ければ酒をいただけないだろうか」

 

「あ! 飲みますか! いやぁ、やっぱり味がわかる人に飲んでもらえると私も楽しいんですよね」

 

「味……? 悟殿は酒が飲めないのか? しかし酒が好きな様子だが……」

 

「い、医者に止められてるんですよ! 本当は飲みたいんですけどね」

 

「なるほど。それなら悟殿は飲んではダメだな。私だけいただくとしよう」

 

 

ニヤリとした男の笑顔に鈴木悟も笑う。ガゼフが軽口を飛ばせるくらい元気になったことが素直に嬉しかった。

 

 

「じゃあ持ってきますね」

 

 

鈴木悟は地下の倉庫に潜っていった。ガゼフは見えない目でその背中を追っていき……小さい声で呟いた。

 

 

「ランポッサ……Ⅲ世。国王様。俺は、俺は……」

 

 

 

 

「ガゼフさん、甘いのと辛めなのどっちがいいですか? って立っちゃダメ……ガゼフ、さん?」

 

 

ガゼフ・ストロノーフが直立していた。その背筋はピンと伸びていて、たとえ片腕が無かろうが目が見えなかろうが、その全身からは力強さを感じられた。

 

 

「悟殿。折り入って頼みがある。俺を王都に連れて行ってくれ」

 

 

鈴木悟は悟った。ここにいるのは周辺国家最強の王国戦士長であると。記憶を取り戻したのだろう、と。

 

 

「……ダメですよ。目も見えないし片腕だって失くしてるんです。ガゼフさんは今まですごく頑張ってきたんです。今は休んでも良いじゃないですか」

 

「それでも俺は行かねばならない。何故なら俺は国王の剣であり、剣は持ち主の側を離れるわけにはいかない」

 

「それでむざむざ死ににいくんですか? そんなの馬鹿みたいじゃないですか……あっ」

 

 

『じゃあ最近一人で金貨稼いでんの? ばっかじゃねーのお前』

 

 

かつて二人だけの"あの場所"で酒を飲んでいた時にかけられた言葉を思い出した。

 

 

「萃香さん、こんな気持ちだったのかな……ガゼフさん。俺は鬼みたいにお尻を叩いて頑張らせるのは向いてません。だから、応援させてもらいます」

 

 

鈴木悟は一人の人間のために切り札を一つ切った。それが鬼から受けた強引ながらも愛のある教えだと思ったから、後悔は無かった。

 

 

「『アイウィッシュ』。指輪よ。ガゼフ・ストロノーフを然るべき姿で然るべき場所へ連れて行ってほしい」

 

瞬間、優しい光がガゼフの体を包んだ。瞬く間に腕が生え、光を失った目が輝きを取り戻す。さらにどこからか出現した王家の秘宝がガゼフの体に取り付いて行く。

 

光が収まると、王家を守る真の剣となったガゼフ・ストロノーフがそこにいた。

 

 

「……アンデッドなの、バレちゃいましたね。ガゼフさん」

 

「鈴木悟殿。やはりあなたは優しそうな顔をしているな」

 

 

ガゼフは優しく微笑んだ。どうやら鈴木悟がアンデッドということに既に気付いていたらしい。

 

 

「……そんなこと言うの、ガゼフさんくらいですよ。ありがとうございます。貴重な物ですが……やっぱり貴方に使って良かった。ガゼフさん、今度一緒に酒を飲みましょうね」

 

 

ガゼフの立つ地面が発光する。剣に相応しい場所への転移が始まるのだ。最後にガゼフは言葉を残した。

 

 

「ああ、必ず飲もう。悟殿……感謝する」

 

 

約束と感謝の言葉を残して、ガゼフ・ストロノーフは消えた。

 

あとはご存知の通りガゼフがバルブロを斬り、正式に王国は併合された。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

平和を守る一番の立役者、の巻

 

 

 

ザナックが正式に国王に就任してすぐのこと。王都の地下施設にて犯罪組織『八本指』の幹部メンバーが集結していた。

 

殺し、麻薬、人身売買。王国内のありとあらゆる犯罪に手を染めてきた集団が、国家の移ろいの混乱の最中に次の獲物を求めていた。

 

スキンヘッドに刺青を入れた男が話し出す。

 

 

「王国が帝国に併合される」

 

「なによ、いきなりアタシたちを集めてからするのがそんな話? ガキでも知ってることをわざわざ報告しに来たの? ゼロ」

 

「フン。急ぐな。そして皮肉を言うにも頭が必要だな」

 

「あ? ちょっと腕が立つからって調子に乗ってんじゃねーぞ」

 

 

少し口を開けば煽り合う。

 

ここに集まった8人はそれぞれが味方であり敵でもある。隙を見せれば蹴落とされる。そんな殺伐とした空気の中……突如第三者の声が響いた。

 

 

「魔法最大化・全種族魅了ーーーーさて、私の名前はパンドラズアクター。以後お見知り置きを」

 

 

パンドラズ・アクターはゆっくりと8人のそばへ歩く。

 

ロクな抵抗力も持たない相手に対し、最大化した魅了魔法をかけた。

 

支配でも洗脳でもなく、"パンドラズアクターが好きで好きでしょうがない"状態になった八本指幹部たちはどうなるだろうか。

 

 

「ああ!! なんて美しい顔なの……アタシもう今日死んでも良いわ!!」

 

「何を言う! パンドラズアクター殿は俺の筋肉を横に添えてこそ最大限に魅力的なのだ!!」

 

 

こうなる。

 

八本指の幹部たちは互いを押し合いながらなんとかパンドラズ・アクターの隣を陣取ろうとする。

 

 

「必要なこととは言え……あなた方に好かれても嬉しくありませんね」

 

「そ、そんな……アタシたち、貴方がいないとダメなんだから! お願いだからそんなこと言わないでぇ!!」

 

「……魔法の効きが良くて重畳。とりあえずこの方々と関わりのある貴族の具体的な罪状を洗って、あとはジルクニフ殿に託しましょうか」

 

 

パンドラズ・アクターは密かに旧王国領域の治安の改善に貢献していた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

タレント探し前進する。人と異形は仲良し、の巻

 

 

 

 

王都にてバルブロ死亡後、王位の移動により混乱する中、萃香は『自分の分身の様子を見に行く』と行っていつものようにさっさとどこかへ行った。

 

犯罪組織『八本指』を掌握したパンドラズ・アクターが帝都に戻り、ジルクニフと鈴木悟に成果を報告していた。

 

 

「八本指の幹部を全員掌握……凄まじい戦果だ。パンドラズアクター殿。非常に助かった。奴らと関わりのある貴族の粛清が済めば、すぐにでも奴らも罪を償ってもらう」

 

「よろしくお願いします。しかし……八本指の根はかなり深いところまで入り込んでいるようです。頭は押さえましたがこの混乱の中、末端が暴走するのは避けられないでしょう」

 

「可能な限り犠牲は少なくすることを約束しよう。しかし何せ人手が足りん。もしパンドラズアクター殿や悟殿がいなければどうなっていたことか」

 

 

ジルクニフとて、"手段を選ばなければ"王国内に未だ残る不穏分子を一掃する方法などいくらでも思い付く。

 

あの化け物金髪第三王女あたりの気が狂ったことにして、王女の手で都合が悪い人物たちを理不尽に殺したように見せかける。悪の王女というスケープゴートを作った上で様々な悪事を追加ででっち上げてヘイトを向けさせる。

 

後は堂々と民衆の前で悪の王女を処刑でもすれば王国内のジルクニフに対する支持は鰻登りだろう。

 

しかし得難い協力者たちはそのような方法は好まず、また人類王を自称するジルクニフもそのような手段は取るべきではないと理解していた。

 

 

「……何よりあの女とは一切の関わりを持ちたくない。さて、まだ混乱は続くが一応の決着はついた。悟殿。パンドラズアクター殿。これからの話をしよう」

 

「ありがとうございます。ジルクニフさん、まずはタレント鑑定の魔法についてフールーダさんに教えていただきたいんです」

 

「なるほど……早速話を通しておく。あとは帝国魔法学院のカリキュラムに各自のタレント鑑定を追加しておこう。もちろん鑑定魔法を使用する者は私とじいの信頼のおける者に限定する」

 

 

パンドラズ・アクターが手を挙げ発言する。

 

 

「そのカリキュラムに私も同行いたしましょう。そうですね……ついでに道徳の講義でも担当させていただきましょうか」

 

「おお、それは素晴らしい。しかしあまり拘束されるのも良くないだろう。月に二度の外部講師という扱いでどうだろうか。パンドラズアクター殿の講義ともあれば人気が出ることは必至だろうがな」

 

「光栄です、ジルクニフ殿。ひとまずはそれでお願いいたします」

 

「やっぱり二人はすごいなぁ……あ、俺も魔法の実演くらいならできますから何かあったら呼んでくださいね!」

 

「確かにそれも魅力的だ。加減はしてもらいたいが……そういえば悟殿は卓越した対人戦闘能力を持つと聞く。魔法の実演もそうだが、そちらを学生たちに広めていただくと助かる」

 

「わかりました。誰でもできるPK術、広めちゃいますよ!」

 

 

帝国の国力がガンガン上がっていく未来が確定した。

 

 

「あ、そういえば萃香さんってどっちに行ったんでしょうね。城塞都市とカルネ村にそれぞれ分身置いてるって言ってましたけど」

 

「そうですね……まずは城塞都市に向かわれたのではないでしょうか。なんだかんだ律儀なお人なので置いた順番通りにされるでしょう」

 

「確かにそんなイメージある。あれ? どうしましたジルクニフさん」

 

「……城塞都市に萃香殿が二人……大丈夫だろうか」

 

「「あ」」

 

 

骸骨とハニワ顔が気付く。ただでさえ暴れれば都市の一つや二つ容易に破壊できる鬼が二人。最悪三人集合していることになる。

 

 

「しかもンフィーレアって人もいるらしいし……俺、ちょっと様子見てきます。パンドラズアクター、転移門頼む!!」

 

「わかりました。転移門! お気をつけて行ってらっしゃいませ」

 

「行ってきます。パンドラズアクター、ジルクニフさん!」

 

 

鈴木悟が慌てて転移門をくぐり抜けていった。ジルクニフは少し肩の力を抜いて傍のパンドラズ・アクターを見る。

 

 

「流石の演技力だな? パンドラズアクター殿」

 

「いえいえ、ジルクニフ殿こそ。ご協力に感謝です」

 

「大したことはしていない。なに、ここのところ忙しくて二人で過ごせなかったのだ。ゆっくりと逢瀬を楽しんでもらおうじゃないか。鬼とアンデッドの御仁たちには」

 

 

ジルクニフは自然と笑顔を浮かべていた。ここにはいないがフールーダを含めた五人の宴会は楽しかった。今夜はあの二人だけだが、いずれはまた自分も入れてもらおうと思った。

 

 

「ジルクニフ殿。良ければ今夜ご一緒しませんか」

 

「そうくると思っていた。是非ともやろう」

 

 

鬼と人。人と異形は今夜も絆を深めていく。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

クレマン死す。カジット捕まる、の巻

 

 

 

 

元法国特殊部隊 漆黒聖典 第九席次 クレマンティーヌは焦っていた。

 

法国を脱走した後、手土産を渡して秘密結社ズーラーノーンと結託して騒動を起こすことで法国の目を逸らし、より遠くへ逃げようとしていたところだった。

 

 

「クソ人類王が……これじゃ法国の注目集まりまくりだろうが」

 

 

帝国皇帝改め人類王の辣腕により、瞬く間に帝国は勝利した。

 

人間種国家の中でも最大規模の二国が一つになるということで、周辺国家からの注目度は抜群に上昇しており、当然クレマンティーヌの出身国たる法国も同様である。

 

巫女を発狂させ、国宝を盗み出したクレマンティーヌは法国に見つかるわけにはいかない。だからこそ国宝を使用できるタレント持ちを確保しようとその居場所を特定したのだがーーーー

 

 

「はぁ……もう意味ねーじゃん。でもムカつくし……殺しとこうかなぁ?」

 

 

もはやンフィーレアの奪取は無意味となったが、精神破綻者たるクレマンティーヌは己の快楽のためにンフィーレアの暗殺を実行しようとした。

 

 

「ンフィーレアちゃあん、お姉さんとイイコトしよう?」

 

 

気味の悪い猫撫で声で店に侵入してきた女を見たンフィーレアは硬直した。クレマンティーヌはその無防備な顔面にスティレットを突き刺そうとしてーーーー

 

 

「よう、痴女。おねーさんとは遊んでいかないのか?」

 

「は? てめぇいつの間に……離しやがれ!! ってあれ……うそ、このクレマンティーヌ様の力でもビクともしねぇだと!? テメェ何者だ!!」

 

「鬼さ。ンフィーレアはエンリの想い人でな。手を出させるわけにはいかないねぇ。ンフィーレア、ばばあを連れて出て行きな」

 

 

ンフィーレアは慌てて祖母と共に店を出ていった。

 

クレマンティーヌはその間ももがき続けていたが抜け出すことはできず、むしろ首を手で捕まえられてしまう。

 

 

「さて、ずいぶん大人しいじゃないか」

 

「ぐっ……クソ、が……!」

 

 

軽い口調とは裏腹にクレマンティーヌを見下ろす目は冷め切っていた。

 

喉が絞まり、苦しい呼吸の中でもクレマンティーヌは冷静に分析していた。

 

タネはわからないが馬鹿みたいに力が強く、首を掴む手を外すことは難しそうだ。せめてもの抵抗で自分を捕まえている相手の情報を得るために観察する。

 

 

角の生えた少女、馬鹿みたいな力、鬼、酔ったような上気した顔ーーーーあれ?

 

 

何かを思い出しそうなクレマンティーヌだったが、その首を握る小さな手のひらが力を増した。それだけでクレマンティーヌは命の危機を感じた。

 

もがく女を見下ろしながら、鬼の少女は付け加える。

 

 

「それにさ。私、お前みたいなやつ嫌いなんだよ」

 

「あっーーーーも、燃えろぉ!!」

 

 

クレマンティーヌはスティレットを鬼に突き立て、込められた火球を含め全ての魔法を炸裂させた。店は内部から爆散し、通りに破片が散らばる。

 

超至近距離で発生した火炎や雷は己の身すら焼いたが、それでもこの恐ろしい目をした化け物の隣にいるよりはマシだった。

 

 

 

「……」

 

「う、うそ……」

 

 

直撃したはずだった。少なくともクレマンティーヌの身体は熱による痛みを訴えている。

 

しかし何よりも恐ろしかったのは、自分の首を握り締めた鬼が微動だにもせず、変わらず底冷えのする目でこちらを見つめていたことだった。

 

首を絞める力がさらに増したことに気付いたクレマンティーヌは防御の武技を発動させる。

 

 

「不落要塞!!」

 

「へえ。少しだけ固くなれるのか。なあ、それってずっとできるのか」

 

「何を言ってやがる化け物め……無駄だから早く離せ!! ……へ? う、うそ。やめろ……やめろって言ってんだろ!!! 不落要塞、不落要塞、不落要塞ぃいいいいい!!!!」

 

 

ゴキリ、と骨の折れる音がしてクレマンティーヌの身体から力が抜ける。

 

興味をなくした萃香はその死体を適当に通りに放り投げた。朝になれば衛兵が回収するだろう。

 

 

 

 

 

 

人気の無い通りを鬼の少女が歩いている。

 

 

「はぁ。つまんねーなぁ」

 

「どうしました、萃香さん」

 

「おお、悟。飲もうぜ」

 

「そうですね。でもここは味気ないし……あっちに行きますか」

 

 

鈴木悟と萃香は誰もいない墓地で酒を楽しむことにした。

 

何かコソコソしてるハゲがいたので捕まえて、持っていた喋るアイテムを没収すると人が変わったように自分の罪を嘆き始めた。

 

どうやらアイテム――――死の宝珠とやらに洗脳されていたようだった。しかも何十年も。不憫に思った鈴木悟はとりあえずカジットというハゲをパンドラズ・アクターの元へ送り、死の宝珠はうるさいので別でパンドラズ・アクターへ送った。

 

 

ようやく静寂を取り戻した墓地で、骸骨と鬼は再び酒盃を掲げて乾杯した。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ンフィーレアカルネ村へ引っ越す。鈴木悟タレントもらわない、の巻

 

 

 

 

クレマンティーヌ襲撃事件で住む家がなくなったンフィーレアはエンリのこともあってカルネ村に移住することにした。

 

研究も大事だが、鬼の"好きな奴くらい自分で守れ"の一言で決心がついた。

 

無事にカルネ村へ移住し、生活も安定した頃。ンフィーレアは遊びに来ていた鈴木悟に相談をしていた。

 

 

「ンフィーレアくんのタレントを俺に、ですか?」

 

「そうなんです……無理を言って申し訳ありません。でも祖母やエンリ、村の人たちを守るためにはこうするしかないと思いまして……」

 

 

苦しそうに言うンフィーレアの葛藤を、鈴木悟はよく理解できた。

 

クレマンティーヌのような暗殺者や何か良からぬことを企む輩はこれからも出てくるだろう。今回は運良く萃香がいたためにこと無きを得たが、次回もそうであるとは限らない。

 

合理的だと思ったが、それでも鈴木悟は首を縦に振らなかった。

 

 

「ンフィーレアくん。たとえ俺にタレントを譲渡したとしても、狙う側からしたら知ったことではありません。存在を知られているだけで都合が悪いのでついでに命を狙おう、なんて考える輩もいるでしょう」

 

「そう、ですよね……」

 

 

絶望した表情のンフィーレア。鈴木悟は骨の手で優しくその頭を撫でた。

 

 

「安心してください。これでも俺、結構強いんですよ。必ずンフィーレアくんとこの村を守ってみせます」

 

 

鈴木悟は金貨を使った召喚モンスターによる護衛を置くことを提案した。レベル70を超え、かつ出来るだけ化け物っぽくない姿の者を五体召喚し、村の中央および東西南北に一体ずつ配置した。

 

さらにエンリに『堕天使召喚の笛』を与え、レベルは低いが応用の効く護衛も常につかせることにした。

 

 

「悟さん……本当に、本当にありがとうございます!! こんなに良くしていただいて、何でお礼をしたら良いのか……」

 

「いえいえ。ンフィーレアくん。大きくなったら俺とお酒を飲んでください。それでチャラです」

 

 

鈴木悟のカルネ村での人望は鰻登りとなった。

 

余談だが召喚モンスターたちは村の人気者となり、特にビジュアルに優れる堕天使たちにマジ惚れする若い男たちが続出し、カルネ村の風紀が乱れそうになったのはまた別の話である。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ブレイン、二度目の敗北から立ち上がる、の巻

 

 

 

ブレイン・アングラウスは敗走した。いや、戦うことすらできなかった。

 

王国軍としての戦闘力は十分すぎるほどだったが、鬼のような形相をした男が国王の親衛隊になどなれるはずもなく。

 

様々な言い訳を重ねられ、ブレインは王国軍の陣地の隅に追いやられていた。

 

結果、鈴木悟の魔法により民兵と共に完全に孤立させられ、その隔絶した力の前に絶望している内に戦闘は終結した。

 

 

「何が最強だ……刀で大地に大穴を開けられるか? あの魔法詠唱者が本気なら俺は今頃地面の下だ……」

 

 

ストロノーフの仇を討たんと息巻いていたが、もはやそんな気力は無かった。大地が元に戻された瞬間、その場から脱兎の如く逃げ出した。

 

 

その後は覚えていない。ただどこかへ走り、走り、走り続けーーーー

 

 

どこかの家の軒先で座っていた。

 

 

「まさか、ブレイン・アングラウスか?」

 

「……なんだ。俺は遂に幻覚まで見るのか」

 

 

王位継承のゴタゴタの後、ようやく家の様子を見にきたガゼフはブレインと再会した。

 

生きる気力を失っていたブレインだったが、輝きをさらに増したガゼフの人間力および何故かげっそりしているクライムとの青春を経て、再び刀を手に取るようになった。

 

ブレインが"周辺国最強の人間種の剣士"と呼ばれる未来はそう遠くなかった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ラナー、愛犬から手紙をもらう、の巻

 

 

 

 

萃香の能力で城塞都市や王都を含む王国内に恋文ブームが起きていた時、クライムもまた恋するラナーに手紙を書いていた。

 

彼はラナー王女とのあまりにも遠い身分や、ラナー自身から拒絶された時のことを想像し、凄まじい精神力で書いた文を渡すことを我慢していたが、ラナーの人外の洞察力により遂には文を直で手渡さざるを得なかった。

 

 

「拝啓、王女殿下。貴女のお近くに侍らせて頂くことは至上の幸運であり、最上の喜びであります。また貴女の輝くような美貌はまさに地上に舞い降りた天使のようですーーーー」

 

「ラナー様。本当に、音読は……ご遠慮ください……」

 

「あら、どうして? クライム。貴方が心を込めて書いてくださったんだもの。わたくしの喜びを貴方にも共有していただきたくて……嫌、だったかしら」

 

 

瞳を潤ませながらこちらを上目遣いで伺う黄金の姫に、クライムはもはや何も言えなかった。

 

強制羞恥音読回を終えた後、げっそりしたクライムはようやく解放された。その姿を満足気に見送ったラナーは、輝く様な笑顔をしまい、思案顔となる。

 

 

「王国全域にも亘る精神操作? しかし随分可愛い思考誘導をなさる方なのですね……でも感謝しなくちゃ。あぁ、私の可愛い子犬。クライムのあんな顔を沢山見られて幸せだわ。第一王子が即位した時はどうしようかと思ったけど、このままクライムを連れて隠居させていただこうかしら?」

 

 

パンドラズ・アクターにも匹敵する頭脳を持つ黄金の姫は、しかしその悪辣さを発揮することは未だ無い。

 

理解のある第二王子に頼み込んで(脅迫)、子犬との結婚を迫る姫に旧王国はどったんばったん大騒ぎ!! したり、何故かジルクニフが巻き込まれたりするが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 






次章、法国と関わります
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