状況整理回
※原作スレイン法国に飲酒推奨の慣習はありません
スレイン法国では清貧こそが美徳とされている。
身分が高くなればなるほど報酬が減り、本当に国家のために尽くすという目的がある者だけが国の中枢に入れるようなシステムとなっている。
しかしそんな法国の教義とは真逆の教えが密かに存在する。
"月の昇る夜に酒を浴びるほど飲み、しかし翌日に酔いを引きずらないようにする"というものだ。
飲む酒の量は多いほど良いとされるが、翌日に普段通りの振る舞いが出来ないのであれば失格、とされている。
なお酒を飲む量に関わらず、顔面が赤く染まれば染まるほど良いとも言われている。
この慣習は六大神が広めたとされる。
しかしアルコールの多量摂取は危険であり、また酩酊状態になっても理性を保てる者が市井には少なく治安の悪化のリスクがあった。
そのため現在ではほとんど風化しており神官クラス以上でなければその風習の存在すらも知らず、さらに実際に取り組むことは神官長以上にしか許されていない。
法国の最高戦力である漆黒聖典も許された側であるが、隊長は酔って調子に乗って番外席次に喧嘩を挑み、速攻で敗北し、哀れにも馬の小便で顔を洗わされた(2度目)苦い過去があるため今はこの風習には参加していない。
そして今、法国の最奥では神官長たちによる議論が行われていた。
「人類王ジルクニフ。異形の物と共闘しておきながら人類至上主義を掲げているのなら大した狸ぶりだが……」
「違うようじゃな。むしろ新帝国領では亜人種の奴隷を完全に禁止しておる。他国で奴隷となった者を国内に持ち込むことも原則禁止という徹底ぶりじゃ」
以前の帝国であれば『帝国の人間や亜人を隣国の王国で奴隷化し、帝国に持ち込む』という抜け技が容認されていたが、それも不可能となっている。
これはジルクニフが鈴木悟たちに気を遣った結果で、結果として帝国内のいわゆる"裏"の仕事を生業とする者たちの数が減り、治安の向上に繋がったという背景がある。
また、ジルクニフはカッツェ平野での定期的なアンデッドの間引きについても一応鈴木悟に意見を求めたが、当人は『この世界のアンデッドは普通に危険な存在だし仲間意識とか無いから全然殲滅してOK』と発言しているため、引き続き帝国内では鈴木悟に対するものを除いて、アンデッドに対する危険意識と忌避感情は高い。
後は長い耳をしたエルフのシルエットが、長い角を持つ『鬼の四天王』と似ているということで帝国内で徐々にその地位を向上させている。飲み屋ではエルフを積極的に雇い入れ、『酔って騒ぎ過ぎると鬼がやってくるぞ』という決まり文句まで作られていた。
なお萃香は実際に飲み屋に普通に入ってくるので、ただのエルフと勘違いした酔っ払いが絡んで即ボコボコにされて通りに放り出されるという出来事もよく起こった。最初は皆ドン引きしていたが、酒を愛する帝国の民の間では今では見慣れた光景となりつつあった。
そして法国には多くのエルフ奴隷がいるが、萃香はこれを知ったところでどうすることもない。もし帝都の馴染みの店員エルフが奴隷に落とされれば取り返しに行くぐらいはするだろうが、知らない者に対する態度とはそんなものである。
「例外は犯罪奴隷じゃが……これも種族に関係なく罪の重さにより決定されておる。それも厳正なる審査の上で都市の清掃などの奉仕活動に従事させるに留まっておる」
「危惧されていた人間種の弾圧もありません。確認された人類王の友である三体の異形も基本的には穏やかであり、一体が酒を飲んで暴れるという事例が多数報告されていますが、被害は軽微です。旧王国領の住民からの評判も悪くなく、特に都市部以外の平民からの評価が高いです」
「旧王国の王族が即座に併合を受け入れる姿勢を表明したことも大きい。第二王子ザナックは地味だがそつが無い。そして元より民衆の人気も高かった"黄金"の姫も精力的に市井の前に出て安心感を与えていることもプラスに働いている」
「平民を近衞に置いていることを積極的にアピールしていることも、今までの王侯貴族達とは違うという印象を広める狙いがあるようじゃ。そしてそれは成功しているようじゃな」
「それもあるが、やはり帝国側の"強大な友"が見せた先の戦争での振る舞いが高評価の最大の要因だろうな。血を流さず、圧倒的な力を見せ速やかに屈服させる。まさに理想的な侵略だった」
あの戦争の後、多くの貴族の当主は処刑され貴族位はその息子たちに引き継がれた。貴族の粛清および教育はかつて鮮血帝と呼ばれたこともある人類王にとっては慣れたことであり、非常にスムーズに進んだ。
突然転がり込んだ地位に喜び、自身の豪遊のために領民に重罪を課した者は即刻処刑し、媚びへつらい賄賂を渡してきた者にはにこやかに対応し、翌日処刑した。
貴族派閥は人類王の容赦の無さに震え上がり、大人しくなった。それからも貴族の力を削ぐための粛清はちょくちょく行われ、かつて王政を脅かしたほどの力は貴族たちからは失われた。
「虐げられし者たちを救い、驕り昂った者を切り捨てる……やはり……あれは"神"か? 少なくともアンデッドの姿をした者、鈴木悟は間違いないだろう」
「ハニワ顔の男は鈴木悟の息子を自称しているようだ。ならば残りの一人は……娘か? あるいは妻か……」
「死の神スルシャーナ様の再臨やもしれぬ。早く使者を送るべきではないか? 人類至上主義ではないことが気になるが……少なくとも対話ができないわけではない」
「そもそも救済対象が人類だけ、というものが誤っていたのかもしれない。考えてもみろ、我らが六大神は人間種以外の方もいらっしゃった。此度この世界に降りてこられた神もまたそうだ。法国の今後の行動指針の根底からの変更を考えなくてはならないだろう」
「性急過ぎる。人類種は弱者だ。亜人の侵略者どもに甘い対応をすれば即刻滅ぶぞ。そして安易に神のことをお主が代弁するな。不敬だ」
白熱する議論を一旦制し、議長が発言する。
「双方の言い分に理ありだ。我らが法国は特に一般の民草の亜人種やモンスターに対する悪感情が強い。そう仕向けたのは我々だが……それが此度舞い降りた神にすら向けられると厄介だ。ひとまずは"神は異形の姿をしているが、弱者を救う慈悲深き存在"ということを民に周知していこう」
「「「「「異議無し」」」」」
緩やかだが、法国の方針転換が決まった歴史的瞬間だった。弱者たる人間種国家に舞い降りた新しき神。その慈悲を賜れるかもしれないという期待が少しだけ神官長たちの空気を緩ませる。
そこで議長が再び引締めのために発言した。
「しかし過度な期待も禁物だ。舞い降りた三体のうち一体の手によって陽光聖典の半数を失い、巫女姫が一人使い物にならなくなったことを忘れたか? 油断せず慎重になるべきだ」
「然り」
どちらも法国にとっては手痛い損失だったが、特に鬼の脅迫により、土の巫女姫は今日も部屋にこもっていることが痛かった。
自我を失っているはずの巫女姫が『恐怖のあまり仕事を拒否する』という異例の事態に神官長たちは頭を悩ませたが、貴重な人材ゆえに今は静観していた。
「アレはこちらに非があることも事実。かなり過激な報復だが、カッツェ平野での魔法の規模を考えれば、まだまだ本気ではなかったのだろう。逆に言えばやり方を間違えなければそう酷いことにはなるまい」
下手をすれば王国軍全員が地割れに巻き込まれ、何十万もの人間が死亡した可能性すらあったのだ。だが"神"およびそれに随伴する存在はそれを実行しなかった。
つまりカルネ村での陽光聖典の壊滅は彼らにとって"事故"に近いものだと察せられた。
あの時女より行われた"警告"に関しては、法国はカルネ村周辺に斥候を送らず、また本人の周囲を魔法で覗き見ることもしないという態度で誠意を見せていた。
「信仰心に厚く、しかし攻撃性の少ない者を選抜しよう。人類王にも正式な文を送り、公の場で神との対話を試みるのだ。カイレ殿が適任であるが……万が一国宝の使い手が失われた時のことを考えると……難しいな」
「それについては人類王の戦後処理が落ち着くまでは後回しにしよう。あちらとて我々の動きは気になっているはずだ。帝国および旧王国の警戒度を下げ、あちらの邪魔をせず敵意がないことを示すのだ」
実際にこの時帝国ではジルクニフはもちろんパンドラズ・アクターもてんてこ舞いで働いており、鈴木悟も萃香の晩酌に毎夜朝まで付き合わされて大変だったため、法国が無理な接触を回避したことはファインプレーだったとは誰も知らない。
「我々の責務は神を見守ることだけにあらず。竜王国からの救援要望の頻度もかなり多くなっている。もはや悲鳴だ。ひとまずは人類圏を侵略する亜人共の処理を優先的に行おう」
「異議無し。改めて陽光聖典の戦力が半減したことは痛いが……漆黒聖典の補助を行わせる形で部隊を随行させよう。併せて育成もせねば」
「漆黒聖典か……誰を行かせる? クインティアか? アレは殲滅力に長ける」
「いや、クインティアの"片割れ"だ」
「なるほど……漆黒聖典、元第九席次は回収に成功したのだったな。しかし蘇生時には生命力が失われる。戦えるのか?」
「今すぐには無理だな。蘇生には成功し、生命力の低下こそ少ないが意識の混濁が激しい。事情聴取を続けながら、もう少ししたらリハビリをさせる。まあ、ビーストマンの群れ程度なら多少弱っていたとしても問題は無いだろう」
「盗み出された国宝、叡者の額冠が回収できたことも幸いだな。フン、精々ビーストマン殺しに精を出して罪を償って欲しいものだ」
「まったくです」
元第九席次クレマンティーヌは国宝を国外に持ち出し、巫女姫を一人発狂させた大罪人だが、戦力としては貴重である。
発狂した巫女姫は既に漆黒聖典の手で神の御国に送られ、その無念を考えれば即刻処刑も選択肢にあったが、やはり法国は慢性的に人手不足でありそれは断念された。
また、神官長たちからすれば一度脱走したクレマンティーヌは最悪ビーストマンに喰われても構わないし、信仰心を試すためにも過酷な戦場へ派遣することが決定した。
「その元第九席次について気になる事が。うわ言のように『鬼』という言葉を繰り返しています」
「……やはりもう一人の女は『鬼の四天王』か。我らが神の伝承に微かに残る伝説上の存在……実在したか。これで少なくとも二体は"神"であることを確認したな」
「やはり接触は慎重になるべきですなぁ。今のところ伝承のような粗暴さは鳴りを潜めているようですが……いや、その通りですかな? 酒に酔って暴れる神など他に聞いたこともありません。今後どうなるか最も予想のつかない存在ですねぇ」
「複数の神の再臨ともなれば、あの忌まわしき白金の竜王が黙っていないだろう。むしろ今のところ目立った動きが報告されていないことも気になる。奴のことだ、既に秘密裏に動いているかもしれん。こちらも引き続き警戒を怠るな」
「確かに。番外席次の秘匿は守られねばならぬ。あの娘は……特殊な産まれと母親の教育の影響か少々危ういところがある。神の情報についてもできるだけ渡すな」
法国の最高戦力、漆黒聖典。戦闘力でそのさらに上に位置する番外席次。そして彼女の存在そのものが竜王との"協定違反"であり、知られれば全面戦争につながる恐れもある。
「神が真に人類側の存在であり、我ら法国がそれを補助すれば如何に白金の竜王と言えども必ずや打ち破ることができる……いや、この話はもうよそう。おそらくだが新たな神たちは無闇な敵対は望まれぬ。まずは情報を集めなければ」
自然と神官長たちの視線が議長に集まる。今日の議論は十分に交わされた。
「それでは本日はここまでとする。帝国への監視は続けるが"神"たちへの直接的な接触は時が経ち人員の選抜が終わってからだ。今優先すべきは竜王国周辺の亜人種の殲滅。占星千里による予言に対しても継続的に報告せよ。今は何も無いが、封印されし魔神もいつ復活するかわからん。では、解散」
人類種の守護者は輝かしい未来を信じて今日も精力的に動いている。
スレイン法国の最奥。そのさらに最深部に一体のアンデッドがいた。
それは法国建国時から存在しており、時代が移ろう中でも歴代の神官長たちから時に知恵を求められ、時に六大神の遺産の貸与を求められた。
法国の歴史を直で見守ってきたそれは、今日もまた静かに秘宝を守っている。
「帝国が手に入れし"強大な友"。オーバーロード、何らかの魔神、そして……『鬼の四天王』。なるほど人類王などと強気に出るわけだ」
骸骨は独白を続ける。喪われた主人の意志を継ぐ。寿命が短く代替わりしていく人間達にそれを伝え続ける役目を愚直に続けた骸骨の感情は読めなかった。
「しかし『鬼の四天王』が遂にこちらに……彼奴が動けば世界が動き出す。それが人類にとって……そして世界にとって良いか悪いかはわからない……今のところは平和だ。ただ、これまで通りではいられないだろう」
それでも自分は"ここ"を守るためにずっと動くことはない。そう骸骨は信じていた。
独自設定のせいで「神官長たちって真面目に話してるけど、昨日の夜めっちゃ飲んでたんだよな……」ってなって自分で笑ってます
※次回、鈴木悟くん世界樹の種使うってよ
※そのうちツアーからの喧嘩買うので世界が結構動きます。多分良い方に