鈴木悟は鬼に憑かれている   作:サイドベント

12 / 22



バ  ジ  リ  ス  ク  タ  イ  ム





骸骨は消え、二人は永遠に

 

 

 

 

 

「目当てのタレント持ちが居ません」

 

 

パンドラズアクターは皇城に用意された鈴木悟の私室にて報告をしていた。

 

発覚したタレント保持者の数は以前と比べれば驚異的な伸びを見せていたが、肝心の当たりが出ない。それが現状だった。

 

 

「"鉱脈の直上半径10メートルに行くと目が赤くなる"や、"魔力の最大量が増えやすい"など、将来的にかなり有効なものは見つかりました。タレント内容は本人に伝えつつ個人情報をいただいています。監視等は付けておりません」

 

「それで良いよ。別に困ってないし。ンフィーレアくんみたいに仲良くなったら別だけど、そうじゃないしなぁ」

 

「そうですね。我々の伸ばせる手の長さにも限りがあります。現状はリスト化に留めておくべきかと」

 

「だな」

 

 

そして肝心の"幸運"あるいは"くじの当たりを引ける"タレントだが、パンドラズアクターが様々な手を尽くしても未だ見つかっていなかった。

 

 

「旧王国領においても帝国魔法学院と同様の教育機関を増設。フールーダ殿の協力もありタレント鑑定の効率は飛躍的に上昇しています。しかし、もう一つ足りない」

 

「どうしようかなぁ。最近萃香さんが怖いんだよね。夜通しお酒に誘ってくるし。俺は暇だから別に良いんだけど……俺がお酒飲めなくてつまらなそうだし……俺もやっぱりお酒が楽しめるなら早いに越したことはないし。それにしても新しく魔法を覚える事ができないなんてなぁ……」

 

「まさしく盲点でしたね。レベル100の我々はもう成長できないということでしょうか……引き続き検証は必要ですが、ほぼ間違い無いようです」

 

「うーん……鑑定以外でもこっちの人が使ってる生活魔法とか結構便利なのになぁ。勿体無い」

 

 

残念そうにため息をつく鈴木悟。

 

パンドラズアクターは嘆いた。そして改めて誓った。

 

必ずや父親に酒を飲ませてみせると。萃香殿に明るいニュースを持ってくるのだと。

 

そして翌日、萃香を呼んだ上で今度は帝国側から二人、ジルクニフと雷光のバジウッドを加えて会談は行われた。

 

なお、帝国四騎士のうち萃香の名前を呼ぶことが許されているのはバジウッドのみであり、それも関係してこの場に呼ばれていた。

 

 

「本日はお集まりいただきありがとうございます。新たな施策の提案をさせていただきます」

 

 

おそるおそるバジウッドが手を上げ、発言する。

 

 

「俺はここにいて良いんですかね……何もわからないんですが」

 

「大丈夫です。雷光殿には後で意見をいただきたく」

 

 

不安そうなバジウッドに対し、ジルクニフが声を掛ける。

 

 

「安心しろ。出来るだけ帝国の庶民の感覚に近い者を、という要望だったのでお前に来てもらっただけだ。いつも通りで良い」

 

「なら良いんですがね……いきなり人体実験とかはやめてくださいよ? 俺はまだ妻と子を残して死にたくねぇんだ」

 

「その減らず口が叩けるなら大丈夫だな。しかしパンドラズアクター殿、鑑定はもう良いのか? こちらとしては志願者は軍に属してもらう等して国力の増強にも繋がっているため継続したいのだが……」

 

「もちろん鑑定は継続して行います。システムは完成したため既に私の手を離れておりますし、負担ではありません」

 

「流石だな、パンドラズアクター殿。話を遮って悪かった。続けてくれ」

 

 

ジルクニフに促され、パンドラズアクターは続ける。

 

 

「空いた時間を使い、新たな方法を考えました」

 

 

ドン、とテーブルに紙の束が置かれた。派手なカラーリングと大袈裟な文字が書いてある。鈴木悟が手に取り、文字を読み上げる。帝国語で書いてあるため、翻訳のモノクルは必須だ。

 

 

「なになに……『当たりが出れば金貨10枚! 特等は目玉が飛び出るような何かが貰える!? 一枚あたり銅貨3枚から!!!』……これはもしかして、古の"宝くじ"ってやつ?」

 

「その通りです。悟様の"ガチャ"のお話、そしてクソ運営の世界樹の種からヒントを得て作成しました」

 

 

ジルクニフにとっては聞き覚えのない単語が出てきたが、敢えて口を挟まなかった。

 

 

「旧王国領を含む帝国、カルサナス都市連合国家、そしてできれば竜王国。宗教色の強い聖王国や法国を除いた人間種および人語を理解できる亜人種の住む国でこの宝くじを流行らせます。数字の組み合わせにより当たりの等級が変わり、最も高い特等は購入期間を締め切った後に購入された番号の中から決定します」

 

「不正をするのか?」

 

 

嘘嫌いの萃香が反応するが、パンドラズアクターは予想していたようでサラリと補足する。

 

 

「そうではありません。最初から設定していると特等くじが購入されない場合が生じてしまい、これは我々にとって無駄だからです。必ず特等が出るようにします。そして特等が出たとしても大した出費にはなりません。故にこの形にしました」

 

「ふーん。なるほど。続けてくれ」

 

「特等を引いた者が換金所に現れた場合、本人から個人情報をいただきます。これは当選金に対する税金の徴収を防ぐためという目的で行う予定です。また、万一当選者が当たりに気が付かなかった場合や取引所に現れなかった場合も、番号が合致する券を買った者がいた時点で我々に通知が来るように設定しておきます」

 

 

その場にいる者たちの中で、賢しい者がパンドラズアクターの言わんとすることに気付く。それらに頷きながら、パンドラズアクターが胸を張って続きを声に出した。

 

 

「この特等を短期間に連続、あるいは多数回引いた者が居れば"狙った当たりを引ける"か"最も等級の高い当たりを引ける幸運を得る"タレント持ちです。後はその者に鑑定魔法をかければ良い。これで今まで以上に広い範囲かつ効率的に捜索ができます」

 

「……パンドラズアクター。やるじゃないか。私もそろそろ悟と一緒に酒が飲みた過ぎて我慢がきかなくなりそうだったんだ。具体的にはその辺のやつを捕まえて全員にタレントについて聞いて回るところだった」

 

「それは……もう少し早く言っていただきたかったですね。世界の安寧のためにも……」

 

 

萃香が心から感嘆した声を出し、ついでに明かされた世界の危機に流石のパンドラズアクターも動揺した。

 

この鬼はやると言ったらやる。それこそ無数に分裂して大陸の端から端までローラー作戦を敢行しかねない。ある日突然鬼から『お前のタレントを教えろ』なんて尋ねられれば、あまりの恐怖に皆心臓が止まってしまうだろう。

 

 

「す、すごいじゃないかパンドラズアクター! これなら萃香さんの堪忍袋の緒が切れる前にいけそうだぞ!」

 

「いや、私が言ったことだが……お前らどんだけ私のことが怖いんだ? そんなに怖いとこ見せたか?」

 

「(本人的にはまだ怖いとこ見せてないつもりなんだ……まだこれ以上怖いの……? こっわ……)あ、沈静化……さ、さあ! パンドラズアクターの提案もあったことだし! ほら、ジルクニフさん! どう思いますか!」

 

 

鈴木悟の必死の話題逸らしに、仕方なくジルクニフも乗ることにした。ジルクニフとて鬼の本気は怖くて見たくないし、民が心臓発作で運ばれる姿も見たくなかった。

 

 

「そうだな。要は賭博行為のようなものだ。民草がのめり込み過ぎないようにする必要はあると思うが……ふむ。バジウッド。何か意見はあるか?」

 

「この状況で俺に振りますか? まあ、ねぇ……悪くはないと思いますよ。えーっと……パンドラズアクター殿?」

 

「はい、何でしょう雷光殿」

 

「これ、どんな場所で売るんです? 聞いてたら『何回も買わせる』つもりらしいが、ですけど……それはどうします?」

 

 

バジウッドのよくわからない敬語を華麗にスルーしつつ、パンドラズアクターは答えた。

 

 

「多くの者が買えるように人通りの多い場所かつシンプルなデザインの建物にしようかと。後はまだ検討の余地がありますが……値段の安さ、ですかね。あと、無理に私に敬語を使わなくて良いですよ」

 

「あー、助かる。えーっと……アンタの案は悪くねぇが少し足りねぇな。ガキや女にも買わせたいだろうからそれはアンタの言う通りに売れば良い。しかし男どもにも買わせたいなら……"俺ならこうする"ってのがありますぜ」

 

「大きく出たな。そして無駄に焦らすな。お前の考えを言ってみろバジウッド」

 

 

ジルクニフの催促にバジウッドはニヤリと笑いながら言った。

 

 

「そうさなぁ……戦争の時にお空に映像を映した魔法があったでしょう。アレとデカい音の出る魔法、あとは色々な色の光が出る魔法を用意してもらいましょうかね?」

 

 

 

 

 

 

 

2日後

 

帝都アーウィンタール 歓楽街

 

 

その少し外れにその店はあった。一見すればただの民家にも見えるが、表通りからは少し広めの庭があり、立て看板も出ているため何かの店だということはわかる。

 

ある夜、男が一人歩いてきた。歓楽街で飲んできたのだろう。少し足取りはおぼつかないが、看板の出た店に向かってまっすぐ歩いてくる。

 

男は店の入口にたどり着いた後、迷う素振りも見せずに扉を開けて中に入った。中は薄暗い廊下が奥まで続いている。

 

ゆっくりと歩いて行くと、突き当たりの壁に大きな画面のテレビのようなものが埋め込まれて設置されていた。

 

 

「えーっと……銅貨15枚っと」

 

 

男はテレビの横にある硬貨導入口に銅貨を入れると、画面をジッと見つめた。

 

すると画面が急に明滅し、さらに画面の周りからギラギラと光る装飾が飛び出してきた。画面は鮮やかな色彩で輝き、その変化に合わせて愉快な音楽も爆音で流れている。

 

男は少し頬を紅潮させながら、強い光と音を楽しんだ。

 

15秒ほど続いたそれは唐突に終わり、『ありがとうございました』という音声が流れる。

 

男は画面の下の取り出し口から紙を5枚取り出すと、そのまま店の裏口に進んでいく。

 

裏口の隣には小さな窓口があり、中には人がいるようだが仕切りがあるため中の様子はわからない。

 

男は少し緊張しながらも、まるで家で練習してきたような口振りで話し出した。

 

 

「なあ、外れ券を2枚持ってる。どこに行けば良い?」

 

「さあ……よくわかりませんが、皆さんそこの裏口を出られてから近くの小屋に寄られているみたいですよ」

 

「ありがとうよ」

 

 

やり取りに満足したのか、微笑みながら男は歩いて行く。

 

男はそのまま言われた通りに裏口を出て小屋に寄り、外れ券と引き換えに菓子の袋を受け取り、懐にしまってから帰って行った。

 

 

 

男が帰って行く様子を見つめる者が二人。パンドラズアクターとバジウッドであった。

 

 

「やっぱりな。男ってのはああいうのも好きなんだよ。秘密の合言葉とかな」

 

「バジウッド殿。記念すべき一号店ですが、貴方の言う通り男性客の利用数は予想以上に好調です」

 

「だろう。たまには俺の頭も役に立つもんだな」

 

「ご謙遜なさらず。間違いなくバジウッド殿のお陰です。何せ先ほどの男は初日に来てさらに本日も来ました。同様の者は他にもいます。確実に効果は出ていますよ」

 

 

パンドラズアクターは2日前のことを思い出していた。この男の助言が無ければ父親の期待に応えられなかったかもしれない。世界が鬼によって混沌の渦に叩き込まれていたかもしれない。それは大変に恐ろしいことだった。

 

今回の成功を受け、既に同様の店舗の建設ラッシュが始まっている。といっても爆音を出す映像装置付き筐体の準備はできているため、後は運び込むのみだった。

 

 

「俺が思い付いたのはたまたまだ。戦場で強い光や音を浴びると興奮状態になるやつは結構な数いる。あの部屋の……てれび? もそうだ。要は『買う行為そのもの』に執着してもらうのさ」

 

「興奮状態と券の購入を結び付け、『券の購入が快感に感じる』ようにする……いやはや中々業の深い話です。外れ券で景品が貰えるというのも私には無い発想でした。敢えて特等を失くすというのも」

 

「だろう? ガキは玩具や菓子が貰えりゃ嬉しいもんだ。んで、父親はくじが外れても夜遊びの詫びの品が手に入るなら、くじを引くって寸法だ。報酬が高すぎるのも貧乏人にはびびられちまって良くない」

 

「なるほどなるほど。参考までに別のターゲットに対してはどういたします?」

 

「表通り沿いに愛想の良い店員を置いてそこで客に茶でも飲ませれば良い。券はついでだ。こっちの場合は外れ券はその店の割引券にでもすると女も喜ぶ」

 

「なるほど。私もまだまだのようですね」

 

 

バジウッドは得意げに話す。

 

 

「そりゃあ金貨や特等は欲しい。しかし人間ってのは結果も大事だが『行為そのもの』にハマるやつも案外多いのさ。だから特賞は要らねぇがちっぽけな菓子は要る」

 

「勉強になります。バジウッド殿は奥方に詫びの品をよく渡している、と」

 

「それは言うなよ……ま、俺としちゃあちっとは恩が返せたってことで満足だ」

 

 

首を傾げるパンドラズアクターに対し、バジウッドは微笑んだ。

 

 

「あの戦争の時、お前さんの偉大な父上殿の魔法のお陰で俺の部下は死なずに済んだ。それって結構な恩なんだぜ」

 

「それはそれは。是非とも父上に直接お伝えください。きっと喜びになられますよ」

 

「良いんだよ。こういうのは本人には黙っとくのが男ってやつだ」

 

 

照れたように言うバジウッドは、しかし少しだけ真剣な表情で言った。

 

 

「今だから言うけどな。悟殿は顔面こそ怖いがわかりやすいし、萃香殿も豪快すぎるが一応わかりやすい。だけどアンタはハラん中じゃ何考えてるかわからん一番不気味なやつだった」

 

「……」

 

「もし我らが皇帝殿を裏切るならアンタだと俺は思ってたよ」

 

「そしてそれは今でも……ですね。バジウッド殿」

 

 

二人の間の空気が重くなる。バジウッドは腰の武装に手を伸ばしかけてーーーーやめた。

 

 

「やめだやめだ。俺にはこういうのは似合わねぇ。つーかアンタが裏切ったら俺達は終わりだ。考えるだけ無駄ってやつだ。冗談だよ、忘れてくれ」

 

 

両手を上げながら振り向き、そのまま歩き出そうとしたバジウッドに声がかかる。

 

 

「バジウッド殿。確かに貴方の言う通り、私は父上が"そう"言えばそうします。ですが……私個人としては"そうしたくない"と申し上げておきましょう」

 

「こいつは驚いた。今のは聞かなかったことにしとくよ。だが……悟殿は良い息子を持ったな。息子ってのは親父の背中を追うものだが、いつかは追い越さなきゃならねぇ。全く、俺の息子も見習って欲しいもんだぜ」

 

「それはバジウッド殿の生活態度が悪いからですね」

 

「お前、ちょっと仲良くなったと思ったら結構厳しいこと言うなぁ。それも親父殿の影響か?」

 

「これは萃香殿の方ですね。ああ、くれぐれも内緒でお願いします。あのお方は怒らせるとそれはそれは恐ろしい」

 

「ちがいねぇ。じゃあ、俺は帰るぜ」

 

「お気をつけて、バジウッド殿」

 

 

親の知らないところでしっかりと成長しているパンドラズアクターであった。

 

 

 

 

 

 

 

そしてさらに1ヶ月後。

 

もはや毎夜どころか毎時間常に酒を飲むことに付き合わされている哀れな鈴木悟の姿を皆が見慣れてきた頃、その報告は来た。

 

 

「父上! 萃香殿!! 見つかりました!!! "くじを引くと必ず大当たりが出る"タレント持ちです!!!!」

 

 

すぐさま酒盃を放り出して鈴木悟と萃香はパンドラズアクターと共に転移門に飛び込んだ。

 

旧王国領エ・ランテルのとある休憩所でそのタレント持ちは見つかり、今は元都市町の屋敷の客間にて歓待を受けているらしい。

 

屋敷の前に転移した鈴木悟一向は、緊張しながら客間に進む。

 

 

「いよいよだ……あっ! もし拒否されたらどうしよう。俺もう身体を酒でびちゃびちゃにしながら酒臭い匂いを漂わせて生きるの嫌だよ……!! あ、沈静化」

 

「父上! お気を確かに!! 私が必ずやその方の望みを聞き出し、どんなことだろうと実現してみせます!!」

 

「こいつらうるせぇなぁ……なぁに、やることは簡単だ。ムカつくやつなら言うこと聞かせる。良いやつなら誠心誠意頼み込む。これだけだ」

 

 

萃香の獰猛な笑顔に、鈴木悟とパンドラズアクターの二人は"どうか良い人で、簡単な望みを言ってくれますように"と願いながら走った。

 

 

「おらぁ!! 望みを言ってみろ!!!」

 

「ああ、そんな乱暴に扉開けないで……」

 

 

客間の扉を開けた時、一人の女性がテーブルで優雅に紅茶を楽しんでいるところだった。

 

 

「なんだい、いきなり。アタシは今滅多に味わえないお高い紅茶を飲んでるんだよ。後にしてくれ。ってあら、あの時のお嬢ちゃんじゃないか」

 

「おお、菓子をくれた店主か。なんだ、話が早そうじゃないか」

 

 

いきなりにこやかに会話を始めた萃香と女性の間で右往左往する鈴木悟を尻目に、パンドラズアクターが萃香に囁く。

 

 

「萃香殿。貴女のお知り合いなら頼みやすいでしょう。どうか、お願いいたします」

 

「おう。なあなあ、お前の持ってるタレントってやつをコイツにくれてやってもらえないか? 礼は十分にする」

 

「また急な話だね……良いよ」

 

「え!? 良いんですか!?」

 

「別に良いよ。アタシもこんなの持ってたってしょうがないし。そりゃあ適当に引いたくじが連続で何回も当たるもんだから最初は良かったけどさ、段々怖くなってきちまった。こんな屋敷に招待もされちまうし……金貨が100枚あっても怖いだけさね。むしろありがたいくらいだ」

 

「だ、そうだ。これなら問題無いだろう? パンドラズアクター」

 

「ありがとうございます。やりましたよ! 父上!!」

 

「お、おおお、おおおおおおおおおお!!!!」

 

 

骸骨は泣いていた。涙こそ流れないが、確実に号泣していた。

 

そしてタレント譲渡はつつがなく行われた。鈴木悟は無事にタレントを受け取り、女主人は対価として土地と喫茶店の開業資金を望んだ。

 

 

「飲んだ紅茶がえらい美味かった。あとは休憩所が流行ってるの見てアタシもやりたくなった」

 

 

とのことだった。

 

 

 

 

 

それからひと月後

 

 

パンドラズアクターを筆頭に全力のバックアップを受け、派手すぎず清潔で庶民にも入りやすい造りだが、よく見るととんでもなく精巧な造りという喫茶店が誕生した。

 

さらにオープン記念として人類王ジルクニフがゲストとして招待され、女主人の『可愛い女の子にも来てもらえる店にしたいねぇ』の鶴の一声で黄金の姫ラナーも同席した。

 

オープン記念イベントの整理券を見事勝ち取った者たちは、店内で人類王と黄金姫の見目麗しきツーショットに心奪われ、ある者は感激のあまり滂沱し、ある者は"自分とは違ってお似合いの二人"を見て悔し涙を流し、またある者は"人類王と黄金の姫のカップリング最高説"を唱えた。

 

当のジルクニフは一刻も早く店を抜け出したかったが、友のたっての望みを叶えてくれた女主人の面目を潰す訳にもいかず、内心を完璧に隠したスマイルを保っていたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

タレントを獲得したその日の夜のこと

 

 

 

鈴木悟はパンドラズアクターと萃香を前にして、感慨深く語った。

 

 

「長かった……いや、実際の期間はそんなに長くなかったけど……この道のりは決して楽なものじゃなかったんだ」

 

「そうですね……何もわからぬままこちらの世界に転移したと思えば、あれよあれよという間に国家の併合という一大事に関わることになるとは私も思いませんでした」

 

「なあなあ、早く使えよ。んで飲もうぜ」

 

 

萃香だけはいつも通りだった。常に酒を飲み、頬を上気させてだらしない顔を晒す。しかし鈴木悟はそんないつもと変わらない萃香の様子を好ましいと思った。

 

 

「萃香さん、貴女の強さと優しさに俺はいつも助けられてきました。やっと……やっと! 貴女と本当の意味で一緒に酒を飲むことができます。萃香さんと酒を飲むのは俺じゃないとダメなんです」

 

「……それ私が言った言葉だろうに。なんか、照れるな」

 

 

ユグドラシルの最終日。その最後の瞬間に萃香が言った言葉を鈴木悟が返した。

 

その言葉の気恥ずかしさと、鈴木悟の真面目な表情を見て、流石の萃香も酒を飲むことを止めて見つめ返す。その頬は変わらず赤く染まっていた。

 

パンドラズアクターは空気を読んでいつの間にかその場から去っていた。

 

残された二人はそのまま見つめ合った後、笑った。

 

 

「なんか、らしくないな。でも悪くないよ……悟」

 

「そうですね……萃香さん。じゃあ、使います」

 

 

鈴木悟は『世界樹の種〜終末ジャンボver〜』を手にし、使用した。

 

 

『大当たり!! あなたはアンデッドの種族レベルをそのままに、種族を変更することができます! エルフを選べば見た目人間種、中身アンデッドで街に侵入して奇襲なんてこともできちゃうよ!! 何にしますか?』

 

 

脳内に流れたその音声に対し、相変わらずのクソ運営っぷりを感じつつ、既に鈴木悟の答えは決まっていたため迷わなかった。

 

ユグドラシルというゲームは『未知を探求する』ものであり、サービス終了が直前に迫った状態でも未だ解き明かされていないエリアや取得条件が明らかになっていない種族があった。

 

だから今から言う種族もきっとある。鈴木悟は青春を過ごしたユグドラシルの秘める可能性を信じて、呟いた。

 

 

「新たな種族は……『半人半鬼』にして欲しい」

 

 

鈴木悟のアンデッドの体は眩い光を放ち、闇色のローブがはためくようにして飛んでいく。そしてその光が消えた時、以前の姿は消えていた。

 

代わりに立っていたのは細身だが引き締まった人間種といった見た目の男だ。

 

しかし髪は雪のように白く、片方の瞳は黒でもう片方は赤、肌の色はあまり人間と変わらないが、額に立派な白い一本角が生えていた。

 

 

種族変更の成功を確信した鈴木悟は振り返る。そこにはグーサインを出した笑顔の萃香が立っていた。

 

鈴木悟も笑う。嬉しい。そしてその気持ちが沈静化されないことが堪らなく嬉しかった。

 

 

「おめっとさん。んで? なんでソレなんだ?」

 

「鬼に攫われるのは人間だって決まってますから。でも酒を薄めるのはもう嫌です。俺は萃香さんと同じ鬼の酒をずっと一緒に飲みたい。だから良いとこ取りで『半人半鬼』です」

 

「……ったく。口ばっか上手くなりやがって。おら、酒飲むぞ。あと流石に服はちゃんと着ろ」

 

「はい……はい? あれ!? 何で俺全裸なの!? あっ……よく考えたらオーバーロードの時って全裸にローブだったんだ……変態じゃん俺。ローブあっちに飛んでってるし」

 

「角は立派だがムスコは大したことなかったなぁ。ほらもう座れ。ローブは後だ。鬼の酒を飲むんだろう? 私はもう待ちきれん」

 

「うわぁ、酔っぱらい特有のセクハラ……まあ、良いか。誰もいないし。いただきます」

 

 

その日、鈴木悟は初めて鬼の酒をそのまま飲み、あまりの美味さと萃香と同じ酒を楽しむことのできる喜びを噛み締め、萃香と同じペースで朝まで飲み続けた。

 

 

正午、二日酔いでベッドから起きることができない鈴木悟がそこにいた。

 

 

「くぅ……『上位半人半鬼』とかになったら萃香さんと同じくらい飲んでも二日酔いしなくなるかなぁ……」

 

「私は楽しかったぜ。悟、ありがとな。ま、次からは量は控えるんだな」

 

「はい……」

 

 

 

二人の酒飲みはこれからも永遠に寄り添っていくだろう。

 

 

 

 

 

 






まだまだ終わりません。

ちなみに裏設定で、『半人半鬼』は種族レベル10が最大です。なので鈴木悟は110レベルまでいけます。それ以上もまだいけます。すぐはいかないけど。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。