鈴木悟は鬼に憑かれている   作:サイドベント

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イチローさんは光(by薩摩のイケメン)
 

 
※前話が長くて疲れたので少し短め。


アダマンタイト級冒険者セラブレイトの気付き

 

 

 

 

 

 

 

冒険者とは。

 

 

一つ、組合に属し、国家に属するべからず

 

一つ、対人の依頼を受けるべからず

 

一つ、犯罪行為・生態系の破壊に手を染めるべからず

 

 

上記三ヶ条により定義される。

 

故に彼らは『冒険をする者』に非ず。

 

金銭を受け取りモンスターを討伐する傭兵であり、国ではなく独自の組織に属し、犯罪でなければ何でもやる無法者の集団である。

 

しかし、そんな冒険者の中でも尊敬を集める者がいる。

 

 

ミスリル、オリハルコン、アダマンタイト。

 

 

高位の冒険者の多くはその強大な力をもって文字通りの冒険譚を作り出し、成した偉業をもって"真の冒険者"と呼ばれる。

 

竜王国唯一のアダマンタイト級冒険者 クリスタルティア所属 セラブレイトもその一人だ。

 

 

ただし彼の場合は少し違う。

 

彼は、人類未踏の地に踏み込み幾多のモンスターを退け王族の必要とする貴重な薬草を見つけ出したーーーー訳ではない。

 

冒険者になった日から、来る日も来る日もビーストマンを狩り続けただけ。

 

来る日も来る日も。どんな日も。腕の骨が折れようが、仲間をビーストマンに喰われようがいつだって狩り続けた。

 

ある者は彼を"敬虔な竜の使徒"と呼んだ。

 

竜王国の女王は竜王の血を引いている。ビーストマンを狩り、女王を助く。それはまさしく竜の使徒だろうと。

 

またある者は"狂人"と呼んだ。

 

冒険者であれば国家に与することはない。故にどれだけ自分の命を危険に晒しながらビーストマンを殺しても、得られるものは金銭だけで到底見合うものでは無い。

 

奴の頭は狂っている、と。

 

いずれにせよ、当時の彼を見る目はそのどれもが好意的でなく、程度の差はあれ"理解できないものを見る"ものだった。

 

 

しかし、彼はいつまで経ってもビーストマンを狩ることをやめなかった。階級がシルバーになり、ゴールドになるにつれて周囲の視線が変わっていった。

 

本当にこの男は何も求めていないのか。これが"英雄"なのか。いや、自らの命など顧みず他人のために捧げることができるなど本当の"狂人"だろう。

 

徐々に天秤が傾いていく。

 

彼に向けられる視線は称賛のものが増え、彼自身もまた公言するようになった。

 

 

『私はただ、女王陛下のためにビーストマンを狩るのだ』

 

 

そして遂にアダマンタイトとなった時。

 

彼のことを狂人と呼ぶ者はいなくなっていた。そして彼は今ではこう呼ばれる。親しみを込めて。尊敬を込めて。

 

 

竜王国の英雄。閃烈のセラブレイトと。

 

 

彼は今日もビーストマンを狩り続ける。竜王国のために。女王陛下のために。

 

街の住人や冒険者たちは今日もビーストマンを狩っている彼の姿を想像し手を合わせて祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜鈴木悟とフェルテスが高まり合っていた時より少し後〜

 

 

 

利き腕を包帯でぐるぐる巻きにしながら、まだ目が死んでいない若者がセラブレイトの目の前にいる。

 

 

「セラブレイトさん。貴方のおかげでまだ俺は戦えそうです」

 

「そうか。だが無理はするな。ビーストマンは昼夜問わずやってくる。何故か今日は撤退していったが……こんなことは珍しい。まずは自分の治療に専念せよ。その間は私に任せるんだ」

 

 

その日、セラブレイト含むアダマンタイト級冒険者グループのクリスタルティアは、いつものように複数の冒険者グループと共にビーストマンと戦っていた。

 

押し寄せるビーストマンの数の多さをセラブレイトの卓越した剣技と他のクリスタルティアのメンバーとの巧みな連携で押し返していた。

 

しかし不幸にも孤立した支援役の冒険者の一人が重傷を負った。

 

突然遠方から響き渡った獣の声とビーストマンたちの急な撤退があったために何とかなったが、あのままでは喰われていただろう。

 

セラブレイトは嘆息した。

 

自らの実力不足もそうだが、圧倒的に戦力が足りない。これではビーストマンたちを竜王国から残らず叩き出し、幼き女王陛下の心の安寧を取り戻すことなど夢のまた夢だと。

 

さらに先ほど聞こえてきた獣の声の力強さにも戦慄した。今の自分で勝てるだろうかと考えれば、悔しいことにその自信が無かった。

 

ビーストマンの撤退という思わぬ幸運に沸く他の者たちと違い、暗澹たる思いで引き返すセラブレイトだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光を見た。それはまさしく太陽だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セラブレイトは凝視した。肩車をされている可憐な幼女を。

 

不思議なふわふわとしたズボンのような生地から伸びる白く瑞々しい足を。輝いている。

 

頬を赤く染め快活に笑う天使のような笑顔を。輝いている。

 

左右に伸びる角から伝わる溌剌とした生命の力強さを。輝いている。

 

 

 

 

「ああ、美しい……あっ?」

 

 

唐突にセラブレイトの視界が暗闇に包まれた。

 

輝く幼女の光に目を焼かれてしまったか? セラブレイトはそう考えて、すぐに違うことに気付いた。

 

顔面を横一線に走る鋭い痛み。血液の流れる感覚。あぁ、これはーーーー

 

 

「目を、潰されたのか」

 

「セラブレイトさん!? な、なぜ!?」

 

「アイツが攻撃したんだ! 武器を捨ててその場に伏せろ! 亜人!」

 

 

その場は騒然となった。

 

突如攻撃を受け顔面から血を流すセラブレイト。そして肩車をされたままこちらを冷たい目で見る角付きの女。

 

女はやはり冷たい声色で喋り出した。舌足らずにも聞こえるが、その言葉には有無を言わせない力があった。

 

 

「私をその"いやらしい目付き"で見られないように目を潰した。次は耳か? どうやら私の声にも耳をすませているらしいな。どこまで色欲に忠実なんだこの男は」

 

「なんだと……! セラブレイトさんはそんな男じゃない!! 訂正しろ!!」

 

「こ、このーーーー」

 

 

口々に反論をしながら、男たちは武器を手に駆け出そうとする。

 

 

「待て!!! 悪いのは私だ!!」

 

 

その勢いを削いだのはセラブレイトの声だった。彼は何かに耐えながらも懸命に仲間を制止した。

 

 

「私は貴女を不躾に見た。それに怒ったのだろう。本当に申し訳ない」

 

 

その姿勢は痛みに耐えているのか不自然に前屈みだったが、力のある言葉だった。

 

尊敬する男にこう言われてしまっては周囲の冒険者たちは誰も動くことはできなかった。

 

そのまま女を肩車している男が近寄って来た時も、セラブレイトが気配だけでそれを察して再び周りを制したため、接触を許してしまった。

 

 

「セラブレイトさん。これ使ってください」

 

「これは……回復ポーションか。ありがたい」

 

「紫色……? ダメですセラブレイトさん! そんな色のポーション見たことない!! あっ……」

 

 

セラブレイトは受け取った瓶の中身を躊躇無く顔面にかけた。彼は誠実な男であり、基本性善説で動いている。

 

あとは美しい幼女とその仲間が悪い奴な訳ないじゃん? 的な思考である。

 

 

「おお……見えるぞ。良いポーションだ。ありがとう」

 

「いえ、見えるようになって良かったです」

 

「騒ぎを起こして悪かった。私はセラブレイト。貴方たちはもしや、女王陛下直々の援軍ではないか?」

 

「一応、そうなりますね。とりあえず女王陛下のところへ行きましょうか」

 

「そうだな。ビーストマンの不審な動きも含めて今日の成果を報告せねばならん」

 

 

二人はそのまま歩き出した。萃香はまだ肩車をされている。

 

クリスタルティアの他のメンバーも含めて、周囲の冒険者たちの中には納得のいかない空気が漂っていたが、当の本人は何も気にしていないようだったのでそのまま一行は連れ立って首都に向かった。

 

余談だが、その間セラブレイトは萃香の足を見なかった。高潔な精神力を総動員してめちゃくちゃに耐えていた。

 

萃香の目はめっちゃ見てたけど。それくらいは許されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

同日深夜、謁見の間にて

 

 

 

「さて、みんなごくろう!! あなたたちのおかげできょうもりゅーおーこくのへいわはまもられました!! ほんとうにありがとう!!!」

 

「おお……女王陛下の笑顔が見られて私も光栄です。しかし……くっ……!」

 

 

竜王国女王ドラウディロンは首を傾げた。

 

セラブレイトはロリコンであり、幼女の姿の自分に謁見した際は必ず視姦をしてくる。

 

しかし今日はその"ねっちょりとした視線"を全く感じないのだ。なんか泣いてるし。

 

目は合うしいつも通りの心からの世辞も寄越してくるが、視線が絶対に下に向かず、女王の目か後ろの壁に向かっている。

 

あまりの異常事態に固まってしまった女王の代わりに宰相が言葉を引き継ぐ。

 

 

「鈴木悟様のおかげで一時停戦となり、戦いの再開は3日後となりました。それまで侵攻を止めるというビーストマングレートリーダーの言葉通り、不気味なほどにビーストマンたちの気配は消えています」

 

「う、うむ! すずきさとるどの、ありがとうなのだ!! 」

 

「任せてください。絶対に勝ちます」

 

「まかせたぞ!!」

 

 

いきなり現れた二人の亜人に竜王国の命運が託されていることを知った者たちは目を白黒させたが、帰りの道中で鈴木悟の力の一端を見せられ、また敬愛する女王が全幅の信頼を置いているということで何とか納得した。

 

女王は全てが順調に進んでいることに喜ぶが、同時に横目でセラブレイトのいつにも増してその真剣な表情を窺った。

 

また違和感だった。

 

セラブレイトは女王が自らの目前で他の者を褒めれば『私も褒められるように頑張らねば!!』的な感情の揺らめきをいつもはハッキリと見せるというのに。

 

もはやドラウディロンの顔を見ることすらせず、床を一点に見つめている。

 

女王は気付いた。これは"何かを我慢している"姿だと。

 

念願の幼女に謁見ができると言うのに足も見ずに耐えている。そんなあり得ないセラブレイトの姿の理由を聞こうとしたところで。

 

萃香が口を挟んだ。その表情に不機嫌なものは無く、むしろ楽しんでいるような顔だった。

 

 

「女王陛下よ。"閃烈の"が話があるらしい。聞いてやってくれや」

 

「はなし、か。いいだろう! せらぶれいととふたりをのこしてほかのものたちはさがるのだ!!」

 

「私も残りますね。冒険者の方々、本日もお疲れさまでした。食事を用意しておりますので会場に移動ください」

 

 

宰相がしっかりと締め、クリスタルティア含め冒険者たちはしずしずとその場を去っていった。

 

残ったのはドラウディロンと宰相と鈴木悟と萃香、そしてセラブレイトのみ。

 

宰相に促され、セラブレイトはようやく顔を上げて話し出した。

 

 

「女王陛下。私は……私は間違っておりました」

 

 

セラブレイトは号泣していた。猛省していた。

 

 

「私は陛下のために!! そう思えば何も苦ではありませんでした。必ずや私の手で陛下の輝く笑顔を取り戻すのだと。しかし、そちらの鬼のお二方のおかげで気付いたのです。私が……私こそが陛下の笑顔を曇らせているのだと!!!」

 

「ええ……いや、嫌がってたの気付いてくれたのは嬉しいけどテンション高くねぇ?」

 

「やはり嫌がっていらっしゃった!!! ああ!! 申し訳ありません!!! 何が英雄だ!!! 何がアダマンタイトだ!!!」

 

 

ガンガンと床に拳を叩きつけるセラブレイトの様子に、ドラウディロンはドン引きしていた。萃香は笑っている。

 

 

「こ、こわ……なあ、まずはちょっと落ち着かない……?」

 

「はい」

 

「うわぁ! いきなり落ち着くな! 怖いだろ!」

 

 

女王は"幼女の舌足らずな話し方"も忘れ、普通に返事をしていた。

 

幸運なことにセラブレイトは自責の念で胸が一杯なのでそれには気付いていない。萃香はもはや大笑いしていた。

 

周囲の喧騒を他所にセラブレイトの決意は固かった。

 

 

「このような男がいてはいけません!! 私は出奔します!! 必ずや強くなって戻ってきます!!」

 

「いや、困るんだが!! 話を聞け!!!」

 

「あ、行っちゃった」

 

「悟。捕まえてこい。まだ話は終わっちゃいないだろう」

 

「そうですねぇ。行ってきます」

 

「あ、私が案内しますよ。流石に荷物は取りに行ったでしょうから、セラブレイトさんの拠点に行きましょう」

 

 

 

二人はバタバタと追いかけていった。

 

謁見の間には萃香とドラウディロンだけが残された。

 

 

「色々言いたいことはあるが……客人を性的な目で見るような男をよく放置していたな」

 

 

痛いところを突かれたドラウディロンは押し黙る。萃香はそのまま女王を真っ直ぐに見る。

 

 

「アイツは稀に見る馬鹿だ。お前の下手な演技にも気が付かんし、多分これからもそうだろう。だがなぁ……せっかく真摯に頑張ってるんだ。報いてやれよ。別に『うんと頷け』と言ってる訳じゃあない。気持ち悪いしな。だが断るにしてもちゃんと向き合ってやれと言っているんだ」

 

「……国が大変なのだ。悟殿のおかげで何とかなりそうだが、もし断ってあやつが本当に出奔したら我が国は一気に弱体化する」

 

 

フン、と萃香が気に入らなそうな態度で鼻息を鳴らすが、一理はあると思ったのかそれ以上は言わなかった。

 

 

「とりあえずもしアイツが出奔したら、奴の代わりにコイツでいいだろ」

 

 

 

萃香の手元には、哀れにも小鹿のように身体を震わせる金髪の女がいた。必死に存在感を消していたのでみんな気付いていなかった。ドラウディロンも今気付いた。

 

クレマンティーヌは何度も逃げ出そうとしたが、結局ここまで連れてこられてしまった。

 

これについては鈴木悟から法国の人たちに『借ります。多分返します』と一応伝言をしてある。

 

法国サイドからは『遠慮なく持っていってください(一生)』というスマイルをいただいたが、可哀想だったので鈴木悟は努めてそれはスルーした。

 

 

「こいつは生意気にも私を見下した哀れな女だ。一度殺したからチャラにしてやっても良いかと思ったが……中々性根は変わらんらしい。お仕置きしてやろうと思ったが面倒だ。だから存分にこきつかってやれ」

 

「ふむ……まあ仮にビーストマンたちがいなくなったとしても戦力が多いに越したことはない。ありがたく受け取ろう。えーっと……よろしくな」

 

「はい……」

 

 

クレマンティーヌは諦めた。

 

何だかんだ『鬼』に助けられてしまってもはや首が回らない。この借りをどうやって返せばいいのかクレマンティーヌには分からなかった。

 

せめて、せめて鬼にこれ以上嫌われないように過ごしてなるべく早く解放されようと彼女は心に決めていた。

 

 

 

 

 





普通に考えてさあ。
 
一国の女王を公然の場で性的な目で見るとか牢屋にぶち込まれて然るべきだろ。
 
でもそうされていないってことはセラブレイトは"一見すると凄い聖人に見えてる"のでは? ってなったのが今回の話のきっかけ。
 
別パターンとして"強さにかまけて無礼な振る舞いをするクズ"も考えたんですけど流石に無いかなぁと。そんなキャラ書いてもつまらんし。
 
今回言いたかったのは、ロリコンの存在自体は罪ではないこと。ただしそれを発露する場所は考えましょうねってこと。
 
みんなも性癖の発露の場はちゃんと選ぼうね。僕も気を付けます。
 
でも、しょうがないですよね(ムネリンスマイル)


あ、次回やっぱりいつも通りかも。
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