鈴木悟は鬼に憑かれている   作:サイドベント

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夕焼けをバックに殴り合う二人の不良、今回はそんな感じ





対決!! ビーストマン"グレート"リーダー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビーストマン"グレート"リーダーとの初対面から三日後。

 

決闘の場所は予告通りの荒れ果てた都市の前にて。そして観客は鬼の少女のみ。

 

 

「伊吹萃香だ」

 

 

小さく細い幼女のその名乗りは、しかし向かい合う逞しい両名の腹に重く響いた。

 

 

「この勝負、相手を殺すか『まいった』と言わせたら勝ちだ。私の名にかけて最後まで見届けてやろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー静かだ。

 

 

鈴木悟は萃香の言葉を聞きながらも、そう思った。

 

何故こんなにも落ち着いているのかは自分でもわからない。ただ、アンデッドの沈静化とも違う"ひたすらに穏やかな心"を感じた。

 

深く、深く没入していく。自然と目を閉じ、呼吸がゆっくりと深くなっていく。

 

きっとそれは相対する獣人、フェルテスも同じだった。

 

今から殺し合いをするとは思えないほど、向かい合う両者の心境は穏やかであった。しかし、徐々に感情が高まっていく。

 

それは喜び。それは興奮。そしてーーーー

 

 

「始め」

 

 

萃香の声と共に爆発的な加速で鬼と獣人は飛び出した。

 

互いに様子見は無し。最大出力の右ストレートが交差する。

 

 

「ガッッッ!」

 

「グッッッ!」

 

 

顔面が潰れそうになるほどの衝撃。悟の身体は勢いを反転させて巨岩に背中から突っ込む。強い痛みを感じながらも、悟は"妙な手応え"を感じていた。

 

しかし、それ以上に感じていたのは"喜び"だった。

 

ガラガラと崩れるそれを同時に跳ね除け、二人はゆっくりと立ち上がり元の位置に歩いていく。

 

 

「ふふ、ふふふ……」

 

「ク、ククク……」

 

 

笑っている。

 

鬼は折れた鼻を無理矢理に戻し鼻血を大量に溢れさせながら。綺麗な白髪は既に血みどろになっている。

 

獣人は外れた顎を嵌め直し、ダラダラと流れる血と共に折れた牙を吐き出しながら。人間の骨など容易く噛み砕けそうなソレは、しかし鬼の剛力により粉々となっていた。

 

確かなダメージを受けた両者は、しかし微塵も揺らがぬ足取りでゆっくりと歩く。そして互いに手が届く距離に至ったところで再びの右ストレートを放った。

 

だが悟のそれは空を切り、逆にフェルテスの拳は悟のどてっ腹を捉えた。

 

 

「かっ……!」

 

 

重さで劣る悟の体が再び岩の山に叩き込まれる。先ほどよりも深く身体が埋まるが、すぐに無理矢理に跳躍し礫を撒き散らしながら獣人から少し離れた所へ降り立った。

 

両者は油断無く互いを見つめながら、しかしそれぞれの内心には差があった。

 

フェルテスは余裕。悟は少しの焦燥を感じていた。

 

 

「凄まじいパワーだ。芯をズラさなければ我の頭部が破裂していただろう。痛みを恐れない覚悟の強さも良い。だが……殴り合いの経験が少ないな。ヒトガタの相手と死合いをするのは初めてか?」

 

「……やっぱり打点をズラされてたか。ええ、死合いなんて初めてですよ。貴方には失礼だけど、サンドバッグを一方的に殴るのとはやっぱり訳が違いますね」

 

「フン。それにしては我の拳を恐れなかったな……あの女か? 羨ましいものだ。アレと手合わせが出来るなど」

 

「それは確かに……俺は幸運ですね!!」

 

 

叫びと共に飛び出す。今度は真っ直ぐにはいかない。対人戦の技量では明らかにフェルテスが上だからだ。

 

悟はパンチを打つと見せかけて直前で無理矢理止め、回転しながら肘を繰り出す。当たれば頭部破裂は免れない。

 

フェルテスはそれを流れるように右手で受け流し、返す手で悟の首を狙う。それを首を逸らして避けながら、悟は回転の勢いのまま蹴りをフェルテスの肩にぶち当てた。

 

 

「オラァ!!」

 

「ォッ!!」

 

 

爆音と共にフェルテスの身体が真横に吹き飛び、崩れかけていた都市の城壁に叩き込まれる。大きな音を立てながら壁が倒壊していく。

 

手応えはあった。フェイントはまだ拙いが、なまじ威力が抜群なだけに達人相手でも通用する。鬼の剛力の怖さと有効性を悟は理解した。

 

 

「萃香さん、成果出てますよ……! と、立て直させない!!」

 

 

感謝を呟きながらも吹き飛んだフェルテスの元へ駆ける。行ける時は一気に行かねば。

 

 

「隙だらけだ」

 

「な!? ぐおっ!!」

 

 

悟は背後から強烈な一撃を食らった。慌てて飛ぶ勢いに任せて距離を取れば、振り抜いた拳をそのままに悠然と立っているフェルテスがいた。

 

 

「固いな。拳を背中から貫通させるつもりだったが……いやはや鬼の耐久力とは恐ろしいな」

 

「くぅ……土煙に紛れて背後からの強襲……追撃をしないのは余裕ですか?」

 

「ただの当てつけだ。どうせ身体に穴が空いたくらいでは死なんのだろう? 油断していないでお前の全力を早く見せろ。楽しいが、まだまだだ」

 

「ふぅ……屈辱ですね!! ォォッ!!」

 

「来い。お前の首を刎ね、心臓を潰す。それでもダメなら粉々にしてやろう」

 

 

恐ろしい宣告を無視し、鈴木悟は駆ける。

 

選んだのはラッシュ。無尽蔵のスタミナに任せて怒涛の攻撃を繰り出す。マトモに受ければその部分が吹き飛ぶ鬼の一撃を雨霰と降らせる。

 

流石のフェルテスも口を開く余裕が無いのか、無言で拳打の嵐を捌き続ける。空気の壁を破りながらも飛来するソレらを、固い掌から出血をさせながら驚くべき技術で捌く。

 

フェルテスは耐えている。およそ5分の間決定的な一撃を避け続けた。

 

 

「埒が……あかない!!」

 

 

悟の拳が地面を叩く。馬鹿力で捲れ上がった地面を殴打し、無数の礫をフェルテスに放つ。が、礫はすぐに獣人の拳打の嵐で全て叩き落とされる。

 

礫など効かないことは百も承知。悟は同時に超スピードで背後に回っていた。先ほどのお返しのようなそれは、しかしフェルテスに再び捌かれる。

 

 

「我の技を真似したか。凄まじい吸収力だ。いいぞ、もっと見せろ!!」

 

「まだまだァ!!」

 

 

息つく暇も無く拳をふるい続ける。しかし恐ろしいことにフェルテスは鬼のスピードに慣れてきていた。既に掌からの出血は見られない。拳を捌くタイミングに微塵も遅れが見られない。

 

 

ーーーー完璧に逸らされている!!

 

 

強く焦りを感じた瞬間、不意に悟の体勢が崩れた。一瞬の隙を突いてフェルテスの強烈な足払いが悟の脛を叩いたのだ。

 

折れはしなかったが、体勢の崩れによる隙の発生は避けられない。フェルテスは目にも留まらぬスピードで悟の懐に飛び込んだ。

 

 

「ォオッ!!」

 

「がっ!?」

 

 

悟の背中が硬い大地に叩き付けられた。背負い投げだ。

 

フェルテスはその巨躯をどうやってコントロールしているのか、驚くべき器用さで鈴木悟の腕を取った後に流れるようにその身体を地面に叩き付けた。

 

衝撃で弾け飛ぶ小石や砂利を無視し、獣人の足が鬼の顔面を潰さんと振り下ろされる。

 

鬼は瞬間的に跳ね起き、裏拳を繰り出す。しかしそれを予想していたか、獣人は足をそのまま踏み込みに使って力を乗せた拳の一撃を鬼の顔面に放った。

 

 

「オラァ!!」

 

 

それは罠だった。急激に角度を変えた鬼の角が真っ向から拳にぶつかり、一気に獣人の腕の中ほどまで貫いた。

 

 

「グオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 

あまりの痛みに獣人は悲鳴を上げ、体勢が崩れる。鬼はその隙を見逃さず、握った右手で全力のストレートを叩き込んだ。

 

 

「ガッ!!!!」

 

 

胴体にマトモに直撃。角に左腕を裂かれながらフェルテスは吹き飛び、三度壁に叩き付けられた。

 

 

「ようやく……捕まえた」

 

 

悟は大きく息を吐く。角の頑丈さに懸けて良かったと安心した。その瞬間、目前に巨大な拳が迫っていた。

 

 

「!! くっ……復帰が早いな!!」

 

「ゴフッ……油断するなと、言ったろう!! だが……楽しいぞ……! もっとやろう!! 鬼よ!!!」

 

 

血反吐を吐きながら、裂けた左腕をそのままにフェルテスが猛り狂う。鬼のような超速再生能力を有していない肉体は酷くボロボロだが、戦意は微塵も衰えていなかった。

 

 

すごい。

 

 

鈴木悟は素直に尊敬した。これが己の肉体のみを頼りに群雄割拠の生を生き抜いてきた者の強さ。

 

 

「俺も!! まだまだ貴方とやりたい!!!!」

 

「オオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 

もはや回避など不要。

 

鬼と獣人はその場に足を留め、ひたすらに殴り合った。血飛沫が舞い、どす黒い血溜まりが足元に形成される。

 

フェルテスの手刀が首に迫り、左手を犠牲に悟がそれを防ぐ。手刀に撥ね飛ばされた腕を無視し、勢いの落ちた獣の腕を鬼の万力の顎の力で半ばまで食い千切った。

 

絶叫と共にフェルテスは蹴りを繰り出し、距離を取った。鬼と獣人は戦いの始めと同じように向かい合う。

 

 

「グッ……流石に……キツイか。何というパワーと再生力だ。我の身体が先に限界を迎えるとは……」

 

「はぁ、はぁ……身体が鬼じゃなかったら俺は今頃達磨になってますよ」

 

 

互いに称賛の言葉を吐く。

 

事実、傷を負った回数は鈴木悟の方が断然多い。先ほどは左腕を失った。普通なら致命傷だが、驚異的な再生力でもう生え始めている。

 

下級とはいえ鬼の身体は傷をみるみる内に回復させる。あまりにダメージを受ければ回復の限りもあるが、少なくとも今はまだ余裕がある。

 

対するフェルテスは抜群の戦闘勘に高い耐久力とスタミナを併せ持つが、流石に鬼の全力のストレートを受けて即時回復とはいかないようだった。

 

 

「次で終わりにしましょう。俺は右手でいきます。全力で振り抜きます」

 

「我も……右腕でいこう。千切れかけているが……まだ動く。握れぬことはない。いくぞ……!」

 

 

互いに踏み込んだ足が爆発的に地面を蹴り出す。そこからは時が止まったようだった。

 

スローになった動きの中で、鈴木悟は確信した。

 

深いダメージを負ったフェルテスの動きは自分よりも鈍く、鬼の拳は的確にフェルテスの身体の中央を貫くと。

 

 

ドッ

 

 

未来予知染みたそれの通りに、鬼の拳は獣人の身体を貫いた。

 

 

「カッ……ハ……」

 

「……」

 

 

両者は動かなくなった。

 

フェルテスの巨躯は対面の鈴木悟を覆うように立っている。驚くべきことにこの状況でも獣人の足からは力が失われていない。まだ自分の足で立っているのだ。

 

悟はゆっくりと腕を抜く。

 

フェルテスの身体が倒れないように支えようとするが、ゆっくりと振り払われる。その動きに胸の穴からさらに血が流れ出すが、それでも獣人の目はまだ光を失っていなかった。

 

 

「……決着はまだ、ついていない……殺せ。お前ほどではないが……我もまたこの程度では死なん……トドメを刺せ……!」

 

 

この状態でもなおフェルテスの声に力は乗ったままだった。強者としてのプライドがそうさせるのか。鈴木悟はその姿にもはや感動していた。

 

 

「もう……つきましたよ。俺の勝ちです。良い雰囲気のまま死んで逃げるのは許しません。約束通りフェルテスさんには生きてビーストマンたちの撤退を指示してもらわないと」

 

 

フェルテスはギロリと鈴木悟を睨んだ。そのまま数十秒経ち、ようやく目線を下ろす。

 

 

「……『まいった』。敗者のすべては、勝者のものだ。負けたまま生きるのは恥だが……お前に従おう。約束通り、我が生きている内は……配下をこの餌場に、寄越すことはない。それ以降は……知らん」

 

「十分です。だってフェルテスさんは強いから長生きするでしょ。まあ、俺の方がもっと強いんですけどね」

 

「クッ……ククク……喰えない男だ。だがまあ、爽やかな……気分だ。悟よ。敗者の立場で……言うのは偲びないが……また、やらないか?」

 

「良いですよ。でもその時は俺はもっと強くなってますからね。フェルテスさんもしっかり鍛えといてくださいね」

 

「無論だ。我の生に……闘争は、不可欠。お前を……満足させられるように、今まで以上に……鍛えてくることを……約束しよう」

 

「待ってますよ。フェルテスさん」

 

 

血まみれの鬼と獣人はゆっくりと拳を合わせた。胸に穴の空いた獣人は最後まで倒れなかった。

 

 

 

 

 

「うんうん。やっぱり暴力って良いなぁ」

 

 

鬼と獣人が互いを認め合う姿を背景に、萃香の和やかな声で決闘は締められた。

 

これにて竜王国は救われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜。

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……クソッ! 何でこんなことに……!」

 

 

一体のビーストマンが竜王国内を駆けていた。それは酷く怯えているようで、しかし怒りに震えていた。

 

 

『なにが"グレート"リーダーだ!! あんな白髪のチビなんかに負けやがって……目の前に餌があるってのに退却だと!? そんな命令無視しようぜ!!!』

 

『おお!!』

 

 

そう言って仲間を十人ほど連れて夜半の闇に紛れて餌場に侵入した若いビーストマンたち。しかし今は走る一人を除いて誰も生きてはいない。

 

 

「ちくしょう……ちくしょう……!! あっ」

 

「あー、やっと見つけたわ。やっぱりいるよねぇこういうバカは」

 

 

気怠げに現れたのは金髪の人間。ビーストマンは後退りをしようとして、自らの膝を強く叩いた。

 

 

「餌にびびってたまるかよ……俺はビーストマンだ!! 喰ってやるよぉ!!」

 

「あー、はいはい。スッと行って……はい終わり」

 

 

勢いも虚しく、ビーストマンは脳天から串刺しにされて生き絶えた。

 

 

「任務完了。まだ他にもいるだろうけど……あのロリコンが頑張るでしょ。かえろ。そういえば宴会の酒もらえるのかなぁ」

 

 

金髪の女、クレマンティーヌはゆっくりと城に向かって歩き出した。

 

 

竜王国の静かな夜は更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 






短い(白目)

でも書きたいことは書いた。
 
それにしても戦闘シーンで文字数稼ぐの大変過ぎんか? ちかれた……
 
 
次の後日談で終わり
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