オバロ知らない方へ↓
『鈴木悟=モモンガ』です。鈴木悟という人間がモモンガというアバターでゲームをしているという原作設定があります。
拙作の独自設定↓(プロローグ①を読んでくれてたらわかるので読んだ人は飛ばしてOK)
鈴木悟と伊吹萃香は酒飲み友達(at 謎空間)。時間軸はギルメンみんないなくなったあたり
あとオリキャラ出る
悪夢を見る。
何をしていても心に燻る黒いものは消えない。
現実で心身を酷使しながらブラック労働に勤しんでいる時も。
たまに現れるギルメンと楽しく会話している時でさえ。
「へぇ。じゃあ最近一人で金貨稼いでんの? ばっかじゃねーのお前」
「いや、馬鹿って……言い過ぎですよ。そりゃ俺だって一人じゃ大変だとは思ってますけど……でもギルメンの誰かが戻って来た時にギルドが無くなってたら寂しいじゃないですか」
「そうじゃなくて。お前なぁ……ハッキリ言っとくぞ」
胡座を組み直して、座った目で少女は鈴木悟に言い放つ。
「お前は目を逸らしてるだけだ。本当に仲間とやらに戻ってきて欲しいなら、今すぐそいつらにそう言え」
「……」
「私は嘘は嫌いだ。そしてウジウジしてるのも嫌いだ」
「お前がやるべきことは黙って金を稼ぐことでも、いなくなったやつの墓を作ることでもない」
ーーーーモモンガさん。久しぶり。まだユグドラシルやってたんだ。
ーーーーギルメンも何人か新しいゲーム始めるらしいからモモンガさんもどう? また一緒に遊ぼうよ。
「とにかく連絡を取れ。文を送るとか、直接会いに行くとかあるだろ。それまでここに来るの禁止な」
「そ、そんな……」
恐れていた言葉に鈴木悟は年甲斐も無く情けない声を出したが、少女の意思は固かった。
『レオナルドスカイさん。突然の連絡すみません。折り入って相談したいことがあるので、ユグドラシルにログインできませんか? 私は基本的に毎日23時にはインしてますし、他に都合が良い時間帯があれば教えてください。よろしくお願いします』
「お、送った……よくやったぞ俺」
推敲に費やした時間とは裏腹にOKの返事はすぐに来た。
そしてギルド最奥、円卓の間にてかつてのギルメンと再開した。
「お久しぶりです、レオナルドスカイさん。わざわざ新しくキャラ取得までしてもらってすみません」
「あはは、またレオさんって呼んでいいんだよ。あと初期アバター作成なんてすぐ終わったからだいじょーぶ。そして久しぶり。モモンガさん」
挨拶の後、少しだけギルドの近況を報告した。いきなり切り出すには辛い話だったから。
でもこれは自分から話さなければならないことだった。モモンガは覚悟を決めた。
「レオさん。あの……すみませんでした」
「俺、レオさんが引退した後に送ってくれたメール全部無視してました。せっかく他のゲームとかも誘ってくれたのに」
「本当に申し訳ありません」
モモンガは頭を下げた。取り返しのつかないことをしていたことに気付いた後は、ひたすらに申し訳なかった。
相手が口を開いてくれるまで、モモンガは頭を下げ続けるしかなかった。
「……理由があったんだよね? モモンガさん。だから顔上げてよ」
「そして教えて欲しいな。モモンガさんが何を思ってたのか」
「……すみません。ありがとうございます」
「俺、ゲームは好きなんですけど『ユグドラシル』をやることがもっと好きだったんです。皆と一緒にいるのが楽しくて……でもいつの間にか『ここじゃないとダメだ』ってなってしまっていて。他のゲームなんて考えられなかった」
「レオさんからのメール、すごく嫌だった。どうしてユグドラシルがあるのに他のゲームなんか勧めてくるんだろうって思いました。どうして他のゲームをする時間はあるのにユグドラシルはしないんだ、って……本当に思ってました」
「だから意地になって一人でギルドの維持費も稼いで、たまに来てくれるギルメンがいたら本当に嬉しくて。何度もまた前みたいに一緒にやろうって言いたかったんですけど、声を掛けるのは怖くて……でもそれじゃダメだって最近気付かされたんです」
「俺が勝手に怒ってただけなのに無視してしまってごめんなさい。こんな俺を誘ってくれてありがとうございます。その上で……やっぱりユグドラシルが続いているうちは俺はこのゲームしか考えられません。だから……だから」
「……戻って来てくれませんか」
「ごめん。それはできない」
「……そう、ですか」
モモンガは項垂れそうになったが、グッと堪えて正面を見た。
まだ相手の言葉は終わっていない。伝えようとしてくれている言葉を、今度こそ逃してはいけないと歯を噛み締めた。
「たまにオフ会するとかなら全然良いよ。でもモモンガさんが望んでるのはそうじゃないよね」
「……」
「モモンガさんと遊ぶの楽しいから良いよって言いたいけど……アタシもう結婚しちゃってさ。でもお金は全然足りないから子供の面倒見ながら働いてて、結構大変なんだけど……今、幸せなんだ」
ーーーーだから、ごめんなさい。
静かな円卓の間に彼女の声は響いた。
モモンガは深く、ゆっくりと息を吐いた。
「……正直辛いです。でも、レオさんが幸せなら、嬉しいって思います。話せて良かった、と思います。そして俺の話を聞いてくれてありがとうございました。本当に厚かましいですけど……今度はちゃんとメールの返事します。だから……何かあれば誘ってください」
「良いよ。だってアタシたち友達だもん」
「……ありがとうございます。本当にありがとうございます」
終わった。
いや、終わっていたことに今気付いたのか。
方向は違えどギルメンの誰もが自分の道を歩んでいた中で、一人だけその場に留まり続けていたことに。
ただただ過去にすがりつき、周りを羨み、自分を誤魔化し、誰のためでもなく自分のために墓を守り続けた者。
それがモモンガという男だった。
「……キツイなぁ」
宝物殿に押し込めた黒歴史なんて目じゃないくらい恥ずかしい男だった。そんな自己嫌悪に陥りかけた時、あっけらかんとした声が響いた。
「で、誰に言われたの?」
「え?」
「モモンガさんって結構鈍感だし。でも案外繊細で溜め込むタイプっぽいから、正直こんなに腹割って話すこと無いと思ってた。だから誰かイイ人見つけたのかなー? その人にガツンと言われちゃったのかなー? って思った」
「あー……ガツンとは言われちゃいましたね。というかイイ人では無いんですけど」
そういう感じ? と呟いて。やっぱり鈍感じゃん、とも呟いて。
何かを把握したように笑った。
「その人に伝えといてよ。ありがとうございますって。あと、がんばってねって」
「はぁ……わかりました。あ、あの……レオさん結婚されてるって言われたじゃないですか。これは例え話だと思って貰えばいいんですけど……」
かくかくしかじか。鬼の少女とのやり取りをかいつまんで説明した。
「モモンガさん。それ本気で言ってる?」
「え、あのー……はい」
「まあ、そうだよね。モモンガさん結構そういうとこあるもんね」
『あなたと仲良しのAさんとBさんがいます。あなたは元々Bさんと仲が良く、それはもう大事にしていました。ところが最近Bさんはつれなくて、あなたはAさんと過ごす時間が長くなりました。ただ、あなたはBさんのことも忘れられずにどっちつかずの態度を取っています。そしてあなたはAさんの前で言うのです』
「あぁ、Bさんのこと忘れられないなぁ。どうしようかなぁ。ねえねえAさん、どうしたらいいと思う?」
「……最低ですねその人」
「うん、それモモンガさん」
「……アドバイス、ありがとうございます」
「どういたしまして」
そこから他のギルメンの状況とかを聞かせてもらって、無事に解散した。
レオナルドさんから聞いた近況を頼りに、引退したギルメンたちと連絡とって謝ったりして。実際にオフ会に行ったりもして。
それこそゲームにあんまり集中できないくらいだった。もちろん深夜に狙ってログインすることもできないし、とにかくこれまでできなかった現実のことに集中した。
そうして慣れないことに奔走し、すっかり疲れ果てた頃。意を決して深夜にログインした。
「おう、悟。結構いい顔になったじゃん」
久しぶりに会った彼女の顔は相変わらず上気していて。緊張していた自分が馬鹿らしくなってなんだか笑ってしまった。
「結局復帰してくれる人はいませんでしたけど……でも、話してみて良かったです」
皆に人生があり、たまたま自分が『ユグドラシル=人生』になっていただけで、誰が悪いとかそういう話ではなかった。
そして自分も踏み出さなくてはならないことにも気付いたのだ。
「萃香さん。お願いがあります」
「なんだい? 今日の私は機嫌が良いんだ。言ってみなよ」
「……『鬼の四天王』として、俺と、いや俺たちと戦ってください」
「へぇ……良いよ」
ギラリと光った目。迸るプレッシャー。やめとけば良かったかな……と少し思った。
ナザリック地下大墳墓 第8階層 荒野
ジリジリと照りつける人工の太陽の光の下にて、1体と2体の異形種が向かい合っていた。
かたや、『鬼の四天王』伊吹萃香。
かたや、『アインズ・ウール・ゴウン』ギルド長のモモンガおよび、フル装備のパンドラズ・アクター。
モモンガはギルド長の象徴たる黄金の杖スタッフ・オブ・アインズウールゴウンを掲げて宣言する。
「これより『鬼の四天王』と『アインズ・ウール・ゴウン』のPVPを行う! ルール無用! 最後に立っていた者を勝者とする!」
「けっこう様になってるじゃないか。だけど、お供は一人で良いのか? 魔王様?」
「構わぬ。我が手によって生み出されたシモベ、パンドラズ・アクターはアインズ・ウール・ゴウンそのもの。そしてギルド長たる私と合わせれば退けられぬ者はない!」
互いに戦意は充分。
戦闘開始まで後5秒。3秒。1秒ーーーー
『心臓掌握』
開始と同時に無詠唱で発動した魔法は、まさかの成功判定。数多の100レベルプレイヤーを蹴散らしておきながら、即死対策は無しというチグハグさ。
しかし、肝心の鬼の体は微塵も揺らがない。心臓を潰されてなお、これで終わりかと挑発的な笑みを浮かべている。つくづく埒外の存在である。
「そうでなくては!! 超位魔法、失墜する天空!!」
瞬間、莫大な熱量が萃香を中心に発生し、範囲内の全ての存在を蒸発させる。
モモンガは距離を取りつつ、パンドラズアクターを防御特化のギルメンに変化させ、ダメージ回避に成功した。
「熱いねぇ。思わず汗かいちまったよ」
萃香は一歩も動かずそこにいた。相変わらず不敵な笑みを浮かべたままこちらを余裕の態度で見つめている。
直撃はした。しかしダメージは既に見られない。あの『鬼』が痩せ我慢などするはずもなく、全くもって信じられない回復力であった。
『モモンガお兄ちゃん。時間を設定するよ』
リキャストまでのタイマーをセットする。
「パンドラズアクター! 奴は肉弾戦をお望みだ! 叩き潰せ!!」
パンドラズアクターが白煙の中、猛然と伊吹萃香のもとへ駆ける。その姿は不定形となり、相手に攻撃の手段を悟らせない。モモンガは後衛の位置からバフ魔法を掛けまくった。
これは単純な2対1ではない。41人で鬼に立ち向かう。それはまさに総力戦だった。
「クッ……! あれほど攻撃を叩き込んだというのに無傷とは……化け物め!!」
80%とはいえ、41人のギルメンの魔法やスキルを自在に操るパンドラズ・アクターを、ギルメンへの理解が深く臨機応変に戦術を変えることのできるモモンガが操ることで、変幻自在の攻撃を繰り出している。
並のプレイヤーならその多種多様な攻撃手段に対応できず、飲み込まれていただろう。
しかし相手は小細工など意に介さない鬼。打つ手は悉く破られていく。
「しゃらくさい!!」
幾多の海魔の触手で拘束しようとすれば腕力で引きちぎり。
「かぁっ!!」
極小から巨大なものまで、多種多様な蟲を召喚し全方位から殺到させても、爆炎を発生させて焼き払う。
モモンガのバフを受けたパンドラズアクターの猛攻も、山の如く頑強かつ強大な萃香の生命力を尽きさせることはできず。
アインズ・ウール・ゴウンが少しずつ押されていく。素の防御力の高さも厄介だが、高速リジェネが輪をかけて邪魔だ。与えたダメージが即座に回復していく光景に心が折れそうになる。
「ダメージは与えられているんだ! しかし回復するスピードが速すぎる……!」
うめくようなモモンガの声は絶望的な状況を象徴していた。全く攻撃が通らないならまだしも、上手く攻撃を当てればダメージ自体はあるのがタチが悪い。
何をしても受け止められ、目を見張るような速度で回復されてしまう。これが鬼。人とは全く違う力を持った化け物の真の強さ。
先ほどもモモンガの現断が通ったと思えば、瞬く間に傷が塞がってしまった。当の萃香は今もなお激しく動き続け、体力も無尽蔵だとわかる。
「……範囲攻撃は効果が薄すぎる。かといって心臓を潰しても即時回復して戦闘続行に影響無し。残るは……」
追い詰められつつも、モモンガの目は死んでいなかった。僅かな可能性を手繰り寄せるために、パンドラズアクターへ一層のバフをかける。
「ネタ切れだろう。そろそろ終わりにしようか!!」
宣言と共に萃香の姿がかき消えた。肉眼で追えないほどのスピードで動いたことにモモンガが気付いたと同時、轟音と共にパンドラズアクターが吹き飛ばされる。
「まだ上があるのか……!」
ただの拳による一撃が衝撃波すら生み出し、辺りに凄まじい砂埃が舞う。それが晴れたところで、萃香とモモンガは改めて対峙した。
「終わりだ。まあまあ頑張ったけど、それだけじゃあ鬼には勝てないね」
パンドラズアクターは吹き飛ばされて行方知れず。モモンガは萃香の10メートル範囲に居て、回避は絶望的。
だが諦めない。スタッフ・オブ・アインズウールゴウンが輝き、次々とモンスターが召喚される。
「全員突撃!! 眼前の鬼を打ち倒せ!!」
「最後までやるってか!? 嫌いじゃないよそういうのは!!」
迫り来る鬼の打撃の嵐を物量で何とか食い止めつつ、時間を稼ぐ。
ーーーーもう少し。もう少しだ!!
「根源の火精霊召喚!! 焼き尽くせ!!」
「無駄ァ!! これで……終わりだ!!」
萃香が拳を払えば、直撃を受けた火精霊が派手に散らされる。その勢いのまま振るわれた拳がモモンガの顔面に迫る。
<<足殺し>>
瞬間、撒き散らされた火炎に紛れたナイフが萃香の軸足に突き立つ。隠密状態のパンドラズアクターを密かに接近させ、スキルを発動させたのだ。それと同時にモモンガも魔法を発動した。
<<心臓掌握>>
軸足と心臓を破壊され、萃香の体勢が僅かに崩れる。
その隙を見逃さず、弐式炎雷と化してフルアタック体勢になったパンドラズアクターの刃が超速で萃香の首に迫る。
不利な体勢のまま、凄まじい反応速度で対応しようとした萃香の目線がモモンガから外れた時。
待ち望んでいた好機が訪れた。
「ここだ!!」
叫びと共に、全方位から火炎の残滓を破って突如現れた現断が萃香の首に迫る。
その数12。
モモンガは火精霊が散った時に密かに時間停止魔法を発動していた。
萃香は即死耐性と同様に時間停止耐性も持たないと読み、停止中に現断を最大化かつ三重詠唱化し、それをさらに四度繰り返した上で動き出すタイミングを完全に一致させた遅延魔法化を施した。
萃香は火精霊など一蹴し、真っ直ぐに自分を破壊しにくる。モモンガはそれを確信し、見事そのタイミングを合致させてみせた。
まさに神業だった。
パンドラズアクターのものと合わせて13もの刃が萃香の首に迫る。
ーーーー絶対に当たる!! 当たれ!!!!
「やるじゃないか」
その言葉がモモンガの耳に届くと同時に、血飛沫を上げながら鬼の首が飛んだ。
『時間だよ、モモンガお兄ちゃん』
本来、モモンガはその音が聞こえた瞬間に超位魔法を発動することができた。
心臓と頭部の同時破壊。それこそがモモンガが見出した、アインズ・ウール・ゴウンの唯一の勝ち筋だった。
ーーーー敗因は、飛んだ首の方に呆然と視線を向けたことだった。
「情けない。人間に心配されるとはねぇ」
「ーーーーッ! 超位魔法、失墜するーーーーガッッ!?」
腹部に走る衝撃と共にモモンガは遥か後方へ吹き飛ばされる。
続けてパンドラズアクターの体が引き寄せられ、瞬く間に組み伏せられた。
首から上を失った萃香の体は、微塵も衰えを感じさせずにメキメキと拳を握りしめていた。
そして空中に浮いた首が宣告する。
「歯ぁ食いしばれ。こいつはお返しだ」
その顔面に無慈悲な拳が振り下ろされる。
凄まじい轟音と共にパンドラズアクターの顔面に突き刺さり、五体が爆散した。
下僕は消滅し、魔王は立ち上がることすらできない。ここに勝負は決した。
「私の勝ちだ、アインズ・ウール・ゴウン」
ギルドアインズ・ウール・ゴウンvs鬼の四天王。
宣言通り鬼の完全勝利に終わった。
ユグドラシルのサービス終了日 円卓の間にて
「それじゃあ、またどこかで。モモンガさん」
「はい、またどこかで」
今日訪れた8人のうち、最後のギルメンが去っていった。
最後まで残る役目は、実際に維持をしていたモモンガに託された。皆気を遣ってくれたのだろうか。
その後、ギルド内を歩き回り23時に全ての見回りを終えた後、モモンガはログアウトした。
主が去ったナザリックには二度と誰も訪れることが無かった。
「よう、悟。お別れは済んだのか?」
「バッチリですよ。待たせてすみません」
「待ってねーし。早く座れ。飲むぞ」
「いえ、やめときます。今日は素面でいたい気分なんです」
「ふーん……私は飲むからな? あーあ、悟が付き合ってくれなくて私は悲しいよ。鬼の目にも涙だよ」
唇を尖らせて言う彼女は、鈴木悟の目に間違いが無ければ、嬉しそうにしていた。
それから取り止めのない話をして、あっという間に時間が過ぎて行き。
気付けば終わりが近付いていた。
「なあ、悟。私は鬼だが、何でもできる訳じゃあない。お察しの通り、"ここ"はあとちょっとで消える。だからさ、もうーーーー」
「嘘ですね」
「……鬼の私が嘘を吐いたって言うのかい? その言葉、吐いたからには覚悟するんだね」
ギロリと睨みを利かせ、小さな体躯から凄まじいプレッシャーを迸らせる鬼の少女の姿を見て、しかし鈴木悟は揺らがなかった。
「嘘です。萃香さん自身が言っていました。『しばらくしてユグドラシルに干渉できることに気付いた』って。ユグドラシルができた時に"ここ"ができた訳じゃない。だから、繋がりが無くなることはあるかもしれないけど、"ここ"が消えることはない」
「……」
「萃香さん。俺、友達ができたんです」
何の話だ、と目で訴えてくる萃香の目を見つめながら話を続ける。
「オフ会にも行ったんですよ。楽しかったです。ユグドラシルが終わっても、俺の人生は終わらない。次にやりたいゲームはまだ思い付かないけど……誘ってくれる仲間がいるんです」
「俺は諦めません。他のゲームだってユグドラシルみたいに"ここ"と繋がるかもしれないし……他にも方法はあるかもしれない」
「必ずまた"ここ"に来ます」
「だから、だから……その時はまた俺と一緒に酒を飲んでくれませんか」
「100年」
「え?」
「100年は待つ。それ以上遅れたら知らん。絶対に酒は飲ません」
「はは、はははは……ははははははは!!」
嬉しかった。嬉しくて泣いたのは初めてだったかもしれない。
「萃香さん、またね」
「おう、またな。悟」
鈴木悟は堂々と去っていった。
広場に残された鬼はとくとくと器に酒を注ぎ、月に器を掲げた。
「よう、お客さん。もし良かったら一緒に飲んでいかないか?」
「もちろん。喜んで」
「おせーよ。もうおばさんになっちゃったじゃないか」
「それを言うなら俺の方ですよ。もうおじさんになってしまって……あっ! お酒は飲めますよ! だから片付けないで!!」
鬼と人間の逢瀬はこれからも続く。
『鈴木悟は鬼に憑かれている』 完
完?
〜時は巻き戻り〜
ユグドラシルのサービス終了日 円卓の間にて
「それじゃあ、またどこかで。モモンガさん」
「はい、またどこかで」
今日訪れた8人のうち、最後のギルメンが去っていった。
最後まで残る役目は、実際に維持をしていたのはモモンガに託された。皆気を遣ってくれたのだろうか。
その後、ギルド内を歩き回り23時に全ての見回りを終えた後、モモンガはログアウトしようとしてーーーーやめた。
「珍しいですね。こっちに来てくれるなんて」
「最後だからな。悟の家をじっくり見てみたかったんだ」
「家……まあ確かに家みたいなものですね。良いですよ、案内します」
「悟が作ったえぬぴーしーはどこだ? アイツには世話になったからな」
「ははは……ユグドラシルで萃香さんの首を飛ばしたのは俺とアイツくらいでしょうからね」
「まあな。きっちり挨拶しとかねーと」
「大体こんなところですね」
「おう、だいたいわかった。悟、お前とお前の仲間はすげーもん作ったな」
「……ありがとうございます。嬉しいです」
「じゃ、いつものとこ行くか。酒を飲むには月が無いとつまらん」
「はは、そうですね。じゃあ行きましょうか」
そうしていつもの広場に二人で移動して。酒も飲まずに隣り合わせで座っていた。
「なあ、悟」
「はい」
「鬼ってのはな。すげー強くて凶暴で横暴で自分勝手なんだ。けどな、私は鬼にしては結構我慢してるんだよ」
何を、とは聞きにくい雰囲気だったので、無言で続きを促した。
「色々考えたけどめんどくさくなっちまった。なあ悟。お前、私に攫われろよ」
「は?」
「こんな夢か現かわかんねー場所に人間がずっといても平気なのかは知らん。けどな、私は酒飲み相手が欲しいんだ。そしてそれはお前じゃないとダメだ。だからさ。仕事も夢も仲間も全部捨ててここに居ろ」
「萃香さん……流石に強引過ぎ」
「悪いかよ。私はーーーー「良いですよ」ーーーーそうか」
「そうか! そうかそうか!!」
途端に萃香は満面の笑みを浮かべ、酒を取り出し豪快に飲み干した。
「今日は良い夜だ。こんな良い夜には酒を飲まなくちゃあな」
「そうですね。明日も明後日も、酒を飲みましょう」
二人の笑い声の響く中、24時が近付く。どちらとも無く、酒の入った器を掲げて月に乾杯した。
そうして時計は24時を差し、ユグドラシルというゲームが終わりを迎えた。
萃香は吐いた。
「おぼろろろろろろろ」
「ええ!? 何で!? 大丈夫ですか萃香さん!? ってあれ? なんかめっちゃ落ち着いた……いやまだ吐いてる!! クッサ!! ていうかなんか出てる! あ、また落ち着いて……、パ、パンドラズアクター……?」
自分の作ったキャラクターがゲロまみれで地面に突っ伏している姿はなかなか衝撃的だった。押し寄せる感情が次々と沈静化されることも相まって、鈴木悟は棒立ちになっていた。
「おぼろろろろろろろ……あー……宝物殿行った時に小さくして飲み込んどいたの忘れてた……断ったら人質にしようかなって」
「す、すごい……鬼の発想舐めてたかも……」
テンションの乱高下を繰り返す鈴木悟をよそに、ゲロまみれで倒れていたパンドラズアクターがおもむろに起き上がった。
「「は?」」
萃香と鈴木悟の声が重なる。NPCは人形だ。間違っても自分の足で立ち上がることなど出来はしない。
「パンドラズアクター……ここに参上いたしました。我が身は、御身のために……しかしこのような扱いは金輪際遠慮していただきたく……!」
「「なんか、ごめん」」
二人とプラスαの珍道中が今始まる。
もうちょっとだけ続くんじゃ
みんなも伊吹萃香の小説書いてくれ!! オラに力を分けてくれ!!