鈴木悟は鬼に憑かれている   作:サイドベント

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パンドラズアクター、活躍するってよ





異世界突入編(以降本編)
殺意の理由


 

 

 

 

「絶対に動くなよ。パンドラズアクター。お前が動けば……その、ゲロの匂いが拡散するんだ」

 

「Wenn es meines Gottes Wille (我が神の望みとあれば)」

 

「オーダレス!! よし、とりあえず匂いは消えたな。まだ動くなよ……!」

 

「Wenn es meines Gottes Wille (我が神の望みとあれば)」

 

「クリーン!! おお、埃が消える魔法のはずだが……ゲロも消えたぞ! だがまだだ。まだ動くなよ……!」

 

「Wenn es meines Gottes Wille (我が神の望みとあれば)」

 

「かー!! さっきから、その……ドイツ語だったか? まあ悪くはないんだが……今はちょっと止めないか?」

 

「は、はぁ……承知いたしました。モモンガ様」

 

 

ゲロまみれのパンドラズアクターを何とか綺麗にしようと鈴木悟が奮闘している中、伊吹萃香がぼそりと呟く。

 

 

「おい、そこの馬鹿やってるやつ。ここ、私たちの知らない場所だ。あと生き物がいっぱい居る気配がする」

 

「……! もしかして萃香さんみたいなのが沢山いる、とか?」

 

「そうじゃない。多分、お前よりもずっと弱いが……なんかこう、違うんだよなぁ」

 

「なるほど。確かに俺も違和感があります。ショトカも無しに魔法が使えるし、やけに鼻が利きます。後は何よりーーーー」

 

 

視線の先にはピカピカになり、直立したパンドラズアクターがいる。こいつは今誰の操作も受けずに自分の意思で動いている。

 

ユグドラシルというゲームではあり得ない事象が立て続けに起きている。

 

24時になれば何が起こるかわからない。そう思ってはいたが、まさかこんなことが起きるとは思わなかった。

 

 

「ふむ……あっ」

 

 

鈴木悟は『もしかしたら』という思いで、普段ストレージに入っているテント型アイテムの存在を思い浮かべて、おもむろに虚空に手を伸ばす。

 

 

「おお……何だこの感覚……お、あった」

 

 

何もない空間に手が飲み込まれ、探し物を引っ張り出した。頭の中で『使用する』と念じれば、みるみるうちにテントは組み立てられた。

 

 

「色々ツッコミどころはありますけど、とりあえず中に入りましょう」

 

「おう、酒はあるんだろうな?」

 

「あるかなぁ……」

 

 

二人はテント内の備え付けの椅子に座った。鈴木悟は一つ一つ自分の感覚と出来ることを確かめていく。

 

 

「GMコールは通じない。そもそもコンソールが開かない。だがストレージの存在は感じるし、何より魔法やスキルを手足の延長のように使うことができる実感がある……チグハグだな」

 

 

ユグドラシルというゲームと別の何かが無理矢理混ぜられたような感じだった。

 

 

「ま、何でもいいよ。ここには私がいて、お前がいる。それで良いじゃないか」

 

「まあ、それはそうなんですが。なんかこう、気になるじゃないですか」

 

「あー、お前そういうの好きだもんな」

 

 

言いながら萃香が腰に下げた瓢箪から酒を飲む。鈴木悟は癖で器を取り出しそのままナチュラルな動作で酒を注いでもらい、一思いにあおってーーーー

 

ダバダバと床に酒をこぼした。

 

 

「あっ……言い忘れてた。なんかこっちじゃ"あっち"みたいにお前の元の体? のこと感じないんだよな。つーか今の骸骨がお前の体そのものっていうか……まあとにかく前みたいにはできねーや」

 

「お……おお……! おおおおおおおおお!!!」

 

 

号泣である。

 

涙は出ていないが、間違いなく鈴木悟は泣いていた。

 

 

「我が創造主よ……! その慟哭を止められぬ不甲斐無い我が身をお許しください……!!」

 

 

テントの外で律儀に静止しているパンドラズアクターが同じく涙を流して震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とにかくなんやかんやあった後、3人は鈴木悟の取り出したテント型のアイテムの中で額を突き合わせていた。

 

なお、テントは索敵特化ビルドのプレイヤーでもなければ気付けないほどに完璧に存在を隠蔽されている。

 

もちろんパンドラズアクターが隠蔽工作を施した結果だ。

 

 

ーーーーこいつ、めちゃくちゃ便利だな

 

 

悟はそう思った。

 

しかしファーストインプレッションが最悪すぎたため、まだ3人の間には気まずい空気が残っている。

 

 

「それでは、不肖パンドラズアクター。司会進行および記録係を務めさせていただきます」

 

「「よろしく」」

 

「ありがとうございます。まず我々の置かれた状況を確認します。我々はユグドラシルではない見知らぬ世界に転移しているとみて間違いありません」

 

 

何が起ころうと動じない萃香と、凄まじく頭が回るパンドラズアクター。そしてアンデッドの特性か、先ほどの号泣が嘘のように冷静になっている鈴木悟。

 

3人の議論はスムーズに行われ、ある一つの結論に達した。

 

 

「我々の今後の方針は『モモンガ様の飲酒を可能にすること』です。そして提案がございます」

 

 

パンドラズアクターは備え付けのホワイトボードに流暢に言葉を書いていく。

 

 

「モモンガ様が飲酒不能となっている原因の大元には『ユグドラシルではアンデッドは飲食ができない』設定があるからだと考えられます。ただ、これは今回は敢えて無視いたします」

 

「除いた上で、飲酒における次の障壁はアンデッドという種族の持つ耐性です。具体的には『精神作用耐性』および『毒などの状態異常無効』が該当します。」

 

「なるほど……確かに軽い酩酊状態は精神異常に該当するかもしれん。アルコールも体に毒だ。つまり仮に飲酒行為が成功したとしても、酒に含まれるアルコールそのものがレジストされてしまって、ただの水を飲むことと同義になってしまうということか」

 

「左様でございます。まずはそれを取り除こうと考えています」

 

 

コトリ、とテーブルの上に置かれた小さなクラッカーのようなアイテムに注目が集まる。

 

 

「『完全なる狂騒』……これはアンデッドの精神耐性能力を無効化するアイテムです。効果時間は1時間ほどで、一般的な飲酒における時間としては十分かと」

 

 

萃香が不満そうな顔をしているが、パンドラズアクターは努めて無視をした。

 

 

「さらに私が改良を加えることで、こちらのアイテムに『状態異常無効』を打ち消す効果を付与致します。後は度数の高いアルコールを気化させ、鼻腔から摂取していただくことで疑似的な飲酒行為が可能になると思われます」

 

「確かに……! 私に鼻はないが匂いを感じ取ることは出来る。パンドラズアクター。お前の言う通り、可能性を感じるぞ……! すぐに取り掛かって欲しい。できるか?」

 

「Wenn es meines Gottes Wille」

 

 

パンドラズアクターはわずか3時間後に注文通りのアイテムを作成せしめた。

 

なおその間、鈴木悟は酒を飲みまくる萃香を見ては精神抑制を発動させるという無限ループに苦しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが……『完全なる狂騒 Second Edition』か」

 

「モモンガ様。どうぞお使いください」

 

「わかった。萃香さん、酒をこの器にお願いします」

 

「あいよ。気を付けるんだよ? 鬼の酒は強いぜ」

 

「わかってます……よし、発動した。嗅ぐぞ……! グォッ!? こ、こりぇは……? あへ」

 

 

鈴木悟はぶっ倒れた。

 

"あの時"飲んでいたものは水で薄まった人間用の酒。対して今回は混じりっけ無しの純度100%鬼の酒である。

 

人間並にアルコール耐性が引き下げられた鈴木悟に耐えられるはずもなく、一瞬で酩酊状態まで到達し、倒れた。

 

 

「あちゃあ……これ、あいてむの効果がなくなるまでこのままか? 骸骨は吐かんと思うが……とりあえず酒抜いとくぞ」

 

「そうですね……失礼いたします。モモンガ様」

 

 

萃香は自身の能力を使い、鈴木悟の体内に残留するアルコールを少しだけ残して後は体外に散らした。せっかく酔っ払ったのだから完全に醒ましてしまっては勿体無いという酒飲みの親切心だった。

 

パンドラズアクターは鈴木悟の体を丁寧に持ち上げ、ベッドまで運んだ。そのまま丁寧に寝かしつけている。

 

その背中に向かって何でもないように萃香が声を掛けた。

 

 

 

「それで? 私を殺す算段はついたか? パンドラズアクター」

 

 

 

パンドラズアクターは振り返らず、鈴木悟の前に立っている。しかし、萃香からのプレッシャーが増したことで観念したように振り返った。

 

 

「……恐ろしいお人だ。いつから私が貴女を殺そうとしていたと?」

 

「前に私が悟をぶっ飛ばしてお前をバラバラに粉砕した時から、だろう? お前にとっては『モモンガ様』が全てだ。そいつをあっさり殺せる存在がいるってのはそりゃあ居心地悪いだろうさ」

 

 

ーーーーそれで、どうする?

 

 

無言の問いかけにパンドラズアクターは毅然として応えた。

 

 

「貴女は"けだもの"だ。気分次第でいくらでも人を殺すでしょう。主人に尽くす私もまた似たようなものですが……貴女は危険過ぎる」

 

「ですが、やりません。我が聡明なる主人は貴女の近くにいることを望まれている。私にとってはそれが全てです」

 

 

どう考えても敵いませんし、と溜息をつく。

 

 

「……ただ、私が思い描いていた『モモンガ』様の姿は間違っていたのかもしれません。恐れ多くもその名を呼ばせていただければ……『鈴木悟』様。こちらがモモンガ様の真なる心を表しているように思います」

 

 

ユグドラシル時代、毎日つまらなそうに宝物殿に金貨を投げ込む主人の姿をただ眺めていた悔しい日々。

 

しかしいつの日からか、持ち込む金貨の量と頻度は減れど主人の姿は見違えるように明るくなっていた。

 

 

 

 

ーーーーなあ。お前もずっと引きこもってたらつまらないだろう。ドッペルゲンガーって酒飲めるんだっけ? どんな設定してたかなぁ。まあ、萃香さんがいないと俺も飲めないけどな。お前がギルドの外に出られたらなぁ……一緒に飲めるのに。

 

 

 

 

不甲斐無い自分に声を掛けてくださった主人の姿を覚えている。

 

忠義を尽くすべき『モモンガ』は、果たして主人の本当に望んだ姿なのか? パンドラズアクターはその疑問をその日から抱えてきた。

 

『萃香』という名の持ち主に出会ったのはそれからすぐのことであった。ギルド内第8階層、荒野にてパンドラズアクターは鬼の恐ろしさを体感した。

 

主人すら容易く殺し得る凄まじい戦闘力。そして心から殺し合いを楽しむ好戦的な性格。この女のどこに主人の心を癒す要素があるのだろうかと正直に思った。

 

こんなものに主人を託して良いものか。しかしそれこそが主人の選択であれば下僕としては支持する他無く。パンドラズアクターは葛藤した。

 

 

「……何の因果か、貴女は私をギルドの檻から解き放ってくれました。人質扱いは野蛮極まりないと思いますがね」

 

 

眼前の"少女の姿をしたけだもの"と共に過ごしたのはほんの僅かな時間のはずなのに、既に散々な目に遭わされている。

 

しかし、それを踏まえてなお、彼女と主人とのやり取りを見て確信した。

 

 

「私が見ていた『アインズ・ウール・ゴウンの支配者の姿』が仮初であり、貴女の前で見せる姿こそが我が主人の真の姿であった。そして貴女は私ができなかった『主人を癒す』ことをずっと行っていたようです」

 

 

パンドラズアクターは敬礼した。

 

 

「貴女の行動に心よりの感謝を。そしてご無礼をお許しください。『鈴木悟』様の妃よ」

 

「……やっぱりお前たち似てるよ。親子ってやつか? すぐ自分の役目はこうだ、とか思い込みやがる。はっきり言うぜ。もっと素直になりな」

 

 

はて、とパンドラズアクターは首を傾げた。

 

 

「お前がやりたいことをそのまま悟に言ってやれ。アイツはすぐ間違うが、性根は真っ直ぐな良い男だ。産まれたてのガキのワガママくらい受け入れてくれるさ」

 

「私の、やりたいこと……」

 

 

ーーーー鈴木悟様と共に酒を飲んでみたい。そして、願わくば……父上と。そう呼ばせていただけたらその喜びに勝るものはない。

 

 

だが、パンドラズアクターはそれを口に出さない。それを見た萃香は呆れたように笑った。

 

 

「やっぱり頑固だな。でも私は気が短いからな。おら! 悟! 起きろ!!」

 

「……あぇ? 萃香さん? もう1時間経ったんですか……?」

 

「まだだよ。ほら、パンドラズアクター。今なら悟も素直だ。しっかり話してみろ」

 

「……やはり貴女は……いや、良いでしょう。感謝いたします」

 

「おう。じゃあ私はその辺散歩してくるわ」

 

 

颯爽とテントを出ていく萃香。

 

その姿をぼんやりと見送った後、未だに『完全なる狂騒』の効果を受けている鈴木悟は目の前のパンドラズアクターが何かを言いたそうにしているのに気付き、声を掛けた。

 

 

「パンドラズアクター。どうした。何かあれば遠慮なく言うのだ」

 

「……モモンガ様。いえ、鈴木悟様。不肖なる我が身の願いを聞いていただけないでしょうか」

 

 

 

 

 

鈴木悟とパンドラズアクターはこの日ちょっとだけ仲良くなった。

 






鈴木悟親子に対する万能カウンセラー伊吹萃香

この3人のバランス最高かもしれんので新規加入メンバー募集は打ち切りました(そもそもしてない)
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