オバロも好きだけどネウロも好きです
あとオリキャラが死にます
萃香が出て行った後、鈴木悟はパンドラズ・アクターの"お願い"を受け入れた。
呼び名の変更くらい別に悪いことではなかったし、むしろその程度でパンドラズ・アクターの働きに報いることができているかが気になった。
故に、まだ酔いとアイテムの効果が切れていない悟を支える為にと、パンドラズ・アクターがソファで横にピッタリとくっつくように座っているのは少し鬱陶しいと思わないでも無かったが、それを指摘するような真似はしなかった。
「あ……切れた。酒……飲みたいな」
『完全なる狂騒』の効果が切れ、酔いが完全に醒めた鈴木悟がポツリと溢した言葉にパンドラズ・アクターが顔を少し伏せる。
気にするな、と鈴木悟はパンドラズ・アクターの背中を軽く叩く。
言葉を交わし、互いに対する理解の深まった二人の関係はいままでと比べて幾分か気安いものになっていた。
「パンドラズアクター。お前は悪くない。お前のお陰で一時的だけどしっかり酔えたしな。ただ、やっぱり『飲む』という行為に特別感がある」
「そうなのですね……父上」
「……なんかむず痒いな。ああ、嫌なわけじゃない。パンドラズアクター。俺がお前を作ったのは事実で、そこに違和感は無い。ただ……いきなり子持ちになったことが何だか不思議な気分なだけだよ」
「はっ。私も身に余る幸せを噛み締めております……!」
改めて姿勢を正したパンドラズ・アクターは力強く宣言する。
「私の全身全霊、全能力をもって必ずや実現してみせましょう。私も父上と酒を酌み交わしたいと思っていました。そしてこれからの苦楽を共に味わい、共に歩んでいきたいと思っております」
「パンドラズアクター……ありがとう」
二人は固い握手を交わした。しかし盛り上がった鈴木悟の感情はすぐに冷めてしまう。飲酒問題もそうだが、この強制的な沈静効果もはっきり言って邪魔だった。
「仕方ないな。この方法は採りたくなかったけど……パンドラズアクター。実はもっと確実な方法がある。これを見てくれ」
虚空からおもむろに取り出した物は、何かの植物の種のようだった。
「こ、これはまさか……『世界樹の種』ではありませんか!」
世界級アイテム。
文字通り使えば世界の法則すら無視する効果をもたらすという、思わぬレアアイテムの登場にパンドラズ・アクターのテンションが上がる。
「これがあれば父上の種族変更も容易。では何故これをすぐにお出しにならなかった……? ハッ!」
パンドラズ・アクターは傍の偉大な父親の意図に気付いた。ユグドラシルで長くアンデッドとして過ごしてきた鈴木悟が、そう簡単に愛着ある自分の種族を捨てられるはずがないことに。
「父上……私が! 父上が種族を変更せずとも飲酒が出来るようにします! 『完全なる狂騒』の効果時間も延ばします! 不甲斐無い息子ではありますが……どうか、どうかこれを使われることが無いようお願いいたします!」
パンドラズ・アクターは自分を恥じた。父親の気持ちを即座に察することができず、不躾に『何故もっと早く出さなかった?』というような態度を見せてしまったことに。
「パンドラズアクター。ありがとう。だが、大丈夫だ。黙ってその道具の効果を見てくれ」
パンドラズ・アクターの父親はやはり偉大な男であった。息子の非を責めることもなく、ただ優しく見守ってくださっている。
パンドラズ・アクターは震えた。
必ずや、偉大なる父親に報いてみせると。少しでもこの偉大な父親の背に追いつくことができるように日々邁進することを心に誓った。
「……そこまで言われるのであれば……わかりました。拝見いたします」
パンドラズ・アクターは覚悟を決めた。鑑定の魔法を使用し、頭に浮かび上がった文字を声に出して読み上げる。
「『世界樹の種〜終末ジャンボver〜。大当たりはアンデッドの種族レベルをそのままに新たな種族を取得可能になっちゃう!! これで貴方も夢の200レベルになれちゃうかも!?』」
「……父上」
「なんだ」
パンドラズ・アクターは堪らず途中で説明を読むことを止め、声を震わせながら偉大な父親に問うた。
「先に非礼をお詫びします。これは……ジョークグッズのような物でしょうか」
「違うぞ。俺がお前をからかって遊ぶような人間に見えるか? 俺の自慢の息子らしくないじゃないか。もっと頭を柔らかくして、焦らず続きを読んでみてくれ」
「おお……自慢の……自慢の! 息子!!」
「落ち着け。パンドラズアクター」
パンドラズ・アクターは自分を恥じた。父親と比べればあまりにも不出来な自分を『自慢だ』と声を掛けてくださるような、そんな強さだけでなく優しさすら備えた偉大な父親を疑ったことを。
きっと続きの文に何か重要なことが書いてあるのだろう。未熟な身では到底想像も付かないようなことが。
「失礼しました。では、気を取り直して」
パンドラズ・アクターは鑑定の魔法を使用し、頭に浮かび上がった文字を声に出して読み上げる。
『ーーーーこれで貴方も夢の200レベルになれちゃうかも!? さあ、レッツギャンブル!!
※スカを引くようなカスはレベル1のスケルトンからやり直してね!
※大当たり確率:0.000000000000000001%』」
それはあまりにも低俗であった。あまりにも低俗過ぎた故にパンドラズ・アクターには想像も付かなかった。
パンドラズ・アクターはその低俗な文が頭に残るのを嫌うか如く、思い切りかぶりを振った。
「……父上」
「なんだ」
「別の方法を探しましょう」
「そうだな」
そうして、鈴木悟はストレージに世界樹の種を躊躇無くしまった。誰がどう見ても外す確率の方が高い。超々ハイリスクな賭けに乗る馬鹿はいないだろう。
「そもそも父上はあんなものをどこで……?」
「ユグドラシルのサービス終了日に引いたガチャで当てた」
「……なるほど。あえて言わせていただきましょう……"クソ運営"と」
二人は再び固い握手を交わし、互いの絆の深まりを感じた。
「まーた何やってんだいこの馬鹿どもは」
「あ、萃香さん。お帰りなさい」
「萃香殿、ご無事で何よりです。そろそろお迎えにあがろうかと思っていました」
「迷子か私は……やめろやめろ。お前らの漫才に巻き込むな。あと言っとくが私は雑魚の用心棒なんて御免だよ。博打は嫌いじゃないがね」
「ですよねぇ」
鈴木悟としても、萃香におんぶに抱っこをされるのは嫌だった。レベル1のスケルトンのHPなど秒で溶ける。死んだらどうなるかすらわからない状況で取れる選択肢ではなかった。
「よっぽどのことが無い限りあれの出番は無いでしょう。本当の最終手段ですね。とりあえず今はパンドラズアクターのお陰でガス抜きが可能なので、何とか我慢します」
「しかし父上。アイテムの在庫にも限りはあります。この世界でも有効な素材が手に入れば杞憂なのですが……断言はできかねます」
「だよなぁ。ま、とりあえず萃香さんの話を聞こうか。何かあったんでしょう?」
鈴木悟は鬼の少女が『少し苛ついている』ことに気付いていた。
「まあな。とりあえず私を舐めた馬鹿共をぶっ殺してきた」
早速トラブルを起こしてきた鬼であった。
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冒険者は臆病でなければならない。特に冒険者ギルドの庇護を受けられないワーカーはそれを忘れた時に死を迎える。
そしてワーカーになるような人間は大体2種類に分けられる。
"生き残るために他人をどうにか蹴落としまくった結果、表の世界の居場所を無くしたクズ"と"何か大きな目的の為に手段を選ぶことのできない比較的マトモなクズ"の二つだ。
いずれにせよワーカーの寿命は長くないが、前者は特に恨みを買いやすく死亡率が高い。かといって後者もまた身の丈に合わない依頼を受けて死ぬという可能性と常に隣り合わせであり、やはり死亡率は高い。
つまり絶望。ワーカーとなった時点で"ここを起点に這い上がろう"なんて思うこと自体が間違いなのだ。
「おい、止まれ。前方に見たことが無い亜人がいる」
周囲の索敵を担当していたメンバーが囁くと、パーティメンバー4人が静かに準備を始める。
こういった『ぼた餅』は良くあることだ。珍しい亜人であれば物好きが高く買ってくれる。自分はエルフやドワーフといった亜人に何か思うところは無く、ただ"今晩のエールの質が良くなる"くらいの期待を感じるだけだった。
注意深く亜人との距離を詰めつつ、矢筒から麻痺毒の塗られた矢を取り出して弓につがえる。幸いにして自分のタレントは『弓矢および投擲物が音を発さなくなる』というものであり、こういった獲物を仕留めるのに役に立った。
「……角には当てるな。切り落として売れば金になる」
その声にあぁ、とだけ返事をして集中する。男はこの瞬間が好きだった。
自分の放った矢が獲物に突き立ち、突然の痛みと毒に対抗しようと暴れる獲物を見ることが好きだった。
だから今回もそうなるはずで、それを期待して亜人の体に吸い込まれるように飛ぶ矢の行方を見送った。
放った矢を素手で掴み取り、矢の先端の毒をしげしげと眺めた後、一瞬で目の前に現れた亜人が自分にその矢を突き立てた時、男は後悔した。
ああ、ワーカーになどならなければ良かった、と。
薄れゆく意識の片隅で、仲間の悲鳴と血飛沫の生温かさを感じながら、男は意識を失った。
「ーーーーい!ーーーーーーおい! 起きろ!!」
「あ……? 俺、生きてる……?」
「しっかりしろ! 体の痺れはまだあるか? 解毒薬は飲ませたが……立てるか?」
「まだ、痺れてる。喋るのは問題無いが……しばらくは動けなさそうだ」
「そうかい。クソッ! どうすりゃ良いんだ!!」
苛立つ男は岩壁に拳を叩き付けた後、不自然に利き手をダラリとさせたまま、どっかりとその場に座った。
辺りは暗く、向こうから光が差し込んできている。浅い洞窟だろうか。
「他の、2人は……死んだのか」
ズキズキと痛む頭を抑えながら、何が起こったのかを思い出す。矢を突き刺す直前の自分を見上げる亜人の目を思い出して、体が震えた。
「そうだ。お前が刺された後、俺たちは3人でクソ亜人と戦う羽目になった。なんとか傷を負わせて追い返したが、2人ともやられちまったよ!! 俺も左手が動かねぇ……利き手だぞ、チクショウ……感謝しろよ。お前をここまで運んだんだからな」
「すまない……帰ったら、財産を半分渡そう。それで神殿で治療できるはずだ」
それで済むなら安いくらいだった。
それにしてもこの男に命を助けられるとは意外だった。粗暴でガサツでパーティメンバーとの小競り合いの絶えない男だが、案外愛着でも持っていたのだろうか。
あるいは自分を肉の盾にでもするつもりか。いずれにせよ今は体を動かすこともできず、回復に努めるしかなかった。
「おい、寝るなよ。寝たらもう起きないかもしれねぇ」
「わかってる……お前こそ、何か食え……血を、相当……失っているだろう」
「うるせぇな。適当に食っとくからお前も後で食え」
これも違和感があった。普段であれば無言で蹴りを入れてくるくらいはするはずだが。流石に利き手の自由を失えばしおらしくもなるのだろうか?
「おい、お前。俺のタレントは知ってるよな?」
「ああ……"利き手で殴れば威力が少し増す"……だろ?」
「ハッ。少し違うぞ。やっぱりまだ朦朧としてやがるな。正しくは"利き手で殴れば威力がかなり増す"だ。この腕が動くなら気付け代わりにお前を殴ってたところだ」
こちらを馬鹿にしたような目で見る男の姿に先ほどのような違和感は無かった。やはり気のせいだったのだろうか。
とにかく今は体が重く、呼吸をするのも体力がいる。だが片腕の自由を失った男はどうにかして俺を寝かさないように話しかけてくる。
財産はどこに預けているのか。解毒薬は隠れ家にまだ用意しているのか。ワーカーとは何か。依頼人は誰なのか。タレントとはーーーー
もはや意識はぼんやりとしていたが、会話はいつになくスムーズだった。男は理想的なタイミングで相槌を打ち、会話の先を予見しているように、こちらが話しやすいようにする巧みさがあった。
「そう……次々に、確認してくるな……疲れてるんだ」
「うるせぇな。お前がここで死んだら俺の腕の治療費は誰が払うと思ってんだ。絶対寝かせねぇからな」
「もう、むりだ……ねる……」
「……」
遂に寝息を立て始めた男を尻目に、座っていた男が無言で立ち上がる。
次の瞬間、その姿が揺らいだ。
「ーーーー悟様。これ以上得られる情報はありません。ええ、死体は3体とも始末しました。獣が掘り返すことも無いでしょう」
パンドラズ・アクターはチラリと静かな寝息を立てる男に目をやった。
「生き残りは如何しましょうか……承知いたしました。私で処理しておきます。では、テントにて落ち合いましょう」
再びパンドラズ・アクターの姿が揺らぎ、闇色のローブを着た骸骨の姿となった。
「鬼に手を出すとは運の悪い……帰り道で今度こそ死ぬかもしれませんが、次はうまくやれると良いですね」
パンドラズ・アクターは魔法を発動させ、一通りの処理を終えた後、痕跡を全て消してからその場を後にした。
パンドラズアクターは対話している相手の簡単な表層思考を読み取り、変身元の人物の情報を抽出することができる(公式設定)
こいつ便利すぎるな……一応精神魔法らしいので強者ならレジストは出来そうなのが救いかも