鈴木悟は鬼に憑かれている   作:サイドベント

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冒頭は少し前に出たオリキャラ。多分幸せになった。


タレントを探そう

 

 

 

 

男はワーカーだった。

 

つい最近まで4人パーティを組んで精力的に活動していたが、不幸な事故に遭いパーティメンバーを全員失ったことで引退した。

 

男は仲間を一人残らず失った上で、自らの装備を全て失っていたこと、記憶に著しい欠損が見られたこと等から『何か恐ろしい目に遭ったことは事実なのだろう』と同情の視線を向けられた。

 

一部の意地の悪い者たちからは、男が外傷が特に無い状態で帰ってきたことで何かやましいことを隠しているのではないかと疑われ、直接的に『仲間殺し』を噂する者もいた。

 

しかし男が引退し、逃げるように街を去ってからはそのような噂はすぐに立ち消えた。飽きられたこともあるが、所詮ワーカーは使い捨てであり、時に非合法な手段に手を染めることもある。

 

後ろ暗い過去のある者たちは自らに飛び火することを恐れて噂の火消しに走ったのだ。そうして男の去った街はいつも通りの雰囲気を取り戻した。

 

 

男は故郷に帰った。そのタレントから狩人として重宝され、貧しいがそこそこ幸せな日々を過ごした。

 

 

「目が……あの目が俺を見ている……!」

 

 

自分でも覚えの無い悪夢にうなされて夜中に飛び起きること以外は、平穏であった。

 

そういえば、と男は思い出した。

 

あの一件の後、依頼主への報告を終えてから着のみ着のまま街を飛び出したため拠点をそのままにしていたことを。

 

 

「財産を……どうするんだっけ」

 

 

思い出そうとすると頭が痛んだ。今更街へ戻ってまた後ろ指を指される訳にもいかず、結局男は拠点をそのまま放棄することを選んだ。

 

何より長年ワーカーとして過ごした自分の勘が言うのだ。もうあそこには近付かない方が良いと。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

拠点のテントの中にて、鈴木悟はパンドラズ・アクターと熱心に話をしていた。

 

 

「やっぱり魔法がガンガン使えるっていうのはノーリスクじゃないんだな。MPがゼロに近付くに連れてバッドステータスが付くなんて……アンデッドに息切れは無いはずなんだけど」

 

「そうですね。かなりMPを消費しましたが、今は虚脱感を強く感じています。また、記憶処理は膨大なコストがかかることがわかりました。今後同じようなことがあれば対処は難しいかもしれません」

 

 

鈴木悟はパンドラズ・アクターの含みのある言い回しに対し、反論した。

 

 

「会話もせずにいきなり攻撃を仕掛けてきたんだ。今回の件は真っ当な正当防衛だろう。むしろ報復として拠点に攻め入らないだけプレイヤーキラーに対する行動としてはかなり甘いと言っても良い」

 

「同意いたします。しかし、萃香殿の行動指針からして、今後も同様のトラブルが起きることは避けられないでしょう。それが悪いと言っている訳ではありません。しかし、やはり避けられるのであれば無用なリスクは冒すべきではありません」

 

「それはその通りだ。いっそ拠点を街中に移すか? 異形種に対する都市への入場制限はこちらでは存在しないようだし、さすがに人の目がある中で狙撃してくるやつは稀じゃないかな」

 

「仮の拠点にも心当たりはありますし、大いに賛成……と言いたいところですが……少なくともこの周辺に存在する人間種優位の国家において、我々のような異形種が受け入れられるかは難しいと思われます」

 

「でも亜人国家とかの方が絶対ダメだろ。1日で壊滅するぞ? 後は変装して冒険者になるとかは……俺とお前は良いけど萃香さんは絶対ダメだろうし」

 

「おう、よくわかってるじゃあないか」

 

 

ニコニコと笑いながら酒を飲む萃香は自分の角を指差して断言した。

 

 

「私は鬼だ。それを誇りに思っている。この角を隠してコソコソするくらいなら死んだ方がマシだね」

 

「誇り、とは良いですね。私も父上より与えられしこの姿と能力を誇りに思っております」

 

 

チラリと鈴木悟を窺うパンドラズ・アクターに、鈴木悟は苦笑した。

 

 

「だってアンデッドじゃ酒飲めないし……魔王ロールは楽しかったけど、ここはゲームじゃない。制約もあるけど自由度も高い。それなら自分が楽しい方を選んだほうがいいだろう」

 

 

脱アンデッドに邁進する鈴木悟にとっては耳が痛い話だが、それはそれである。兎にも角にも飲酒が最大の目的であることに変わりは無い。

 

 

「萃香さんは引き続き自由にしてもらうとして。俺の飲酒計画に関して大きな進展がありました」

 

 

スルリとパンドラズ・アクターがホワイトボードの前に立つ。鈴木悟は記録係が居ることのありがたみを噛み締めた。

 

 

「こちらの世界にはモンスターや亜人、異形種が普通に生息し、人間種……現地人と呼称しましょうか。現地人たちはそれらと比べて生存能力が著しく低い。にも拘らず国家単位の生存圏を確保しています」

 

 

例えば鈴木悟は100レベルのオーバーロードであり、萃香が遭遇した現地人の推定レベルは12だった。これは魔法職の鈴木悟の貧弱な攻撃力による物理攻撃、具体的に言えばデコピンでも現地人の頭を弾き飛ばすことくらいは簡単に出来るくらいの差だ。

 

それくらい隔絶した力の差があり、なおかつモンスターの闊歩する世界において、弱者に部類される筈の人間は普通に生息している。

 

 

「軍隊や冒険者と呼ばれる戦闘を生業とした者たちも、情報提供者の認識では我々には到底及ばないレベルです。しかし、現地人は我々が持たないある特性を持っていることがわかりました」

 

「生まれながらの異能……通称"タレント"。これを持って生まれる者がそこそこいるようです。その内容は様々ですが、先の"投擲武器の消音"のようなものから"どんなアイテムでも使用できる"という凄まじい性能のものを持つ者もいるということ。あくまで噂らしいですが」

 

「どんなものでも? 鍬や鋤を上手に使えるだけとかいうオチじゃないだろうね」

 

 

あまりにも突拍子の無いタレントの話に萃香が横槍を入れる。

 

 

「その可能性は否定できません。断言はできませんが、少なくとも周辺の人間国家の平均レベルは一様に低く、すなわち高ランクのアイテムが流通していない可能性は高いです。目標とする『世界樹の種の大当たり』に関しても『使用できる』の解釈次第でどうとでもなる部分もあります」

 

「なるほどねぇ……手っ取り早くそいつを攫って来たら良いかと思ったがそうでもなさそうだ」

 

「まあタレントを譲渡できるという認識も無いみたいですし……無理矢理奪うのも気が引けるのでそこはまた考えないとですね」

 

 

チラリと鈴木悟は指に嵌めた10の指輪の内1つを見る。回数制限こそあるが、『願いを叶える』アイテムならばタレントの譲渡くらいはできるのでは、と思った。

 

問題は"自分だけの才能を手放す"ことに対する対価がどれほどのものになるかが皆目見当つかないことだった。

 

他にも問題はある。

 

そもそも世界樹の種を『単に使用する』だけならそもそも鈴木悟でも実行可能だ。

 

目当てのタレントが『道具の真の力を引き出す』だとか、『道具を達人のように完璧に使用できる』というニュアンスの能力であれば、極々低確率の大当たりを自在に引き当てることが出来るということになる。

 

 

「かなり魅力的なタレントだが……仮に手に入ったとしても世界樹の種を使うにはまだまだ情報が足りないな」

 

 

種はユグドラシル産のアイテムであり、この世界ではもう手に入らない可能性が高い。一回切りのアイテムを不確定要素を残したまま使うのはあまりにもリスクの高い賭けだった。

 

いずれにせよ現時点では判断のつくことでは無い。萃香が納得したことを確認した鈴木悟は話を再開した。

 

 

「はっきり言ってめちゃくちゃです。ぶっ壊れ性能です。タレントの有無や内容を確認する魔法もそれぞれ確立されているようですが……現地人にとってはこの位階魔法はかなり難易度が高いらしく、使い手は少ない。果たして本当に正確に内容を把握できているかも疑問です。自称タレント持ちの詐欺師もいるかもしれません」

 

「そしたら私がぶっ飛ばしてやるさ。嘘吐きは嫌いだ。あと毒もな」

 

 

そう言って明らかに顔をしかめる萃香を見て、鈴木悟は広範囲にわたる毒系のスキルや魔法は使わないようにしようと心に決めた。

 

 

「使える情報があるかもしれないので……とりあえず口がきける状態にしといて貰えると助かります、萃香さん」

 

 

さぁ、どうだろう。そういう意味深な笑顔を浮かべる萃香に苦笑しつつ、鈴木悟は話を戻した。

 

 

「えー、情報の欺瞞はユグドラシルでは基本でした。手痛い目に遭うことを回避するためにも、まずはタレント鑑定魔法の修得が先決でしょう。どうやって修得するかに関してはまた考えます」

 

「そして、自分のタレントに関してその有無や内容について自覚していない人間が多いということは悪いことではありません。むしろチャンスです」

 

 

未だ発見されずに埋もれている、あるいは過去にも素晴らしいタレントを有しておきながら発掘されなかったという者の方が多いだろう。まるで新種の資源を発見したかのような興奮を鈴木悟は覚え、精神沈静化を受けた。

 

ガクリとした鈴木悟を見て、すかさずパンドラズ・アクターが声を上げる。

 

 

「ここからは私が引き継ぎます。タレントは主に現地人に発現すると認識されています。モンスターや異形種にはそもそも発現しないのか、または誰も試したことがないのかは定かではありませんが……ひとまずはターゲットを現地人に限定します」

 

 

パンドラズ・アクターは素早く箇条書きを書いた。

 

「我々は以下の目標を設定すべきと進言いたします」

 

 

1つ、『どんなアイテムでも使用できるタレント』を持つ者との接触

1つ、『アンデッドを種族変更できるタレント』を持つ者の捜索

1つ、『極めて高い幸運値を持つタレント』を持つ者の捜索

 

 

「非常にピンポイントなものばかりですが、タレントの中には『その日の天気がわかる』というような本来であれば非常に高度な情報分析が必要な能力すら発現するようです。ですので無理な話では無いかと」

 

「ま、そうだな。ついでに『無限に酒を生み出せる』とか『美味いつまみが出せる』みたいなやつも探そうぜ。どうせ私たちは長生きするんだ。楽しみが多い方が良いだろう」

 

「それはその通りですね。並行して進めましょう」

 

「じゃあ早速行こうぜ。王国だっけか? その"たれんと"ってやつを持ってる奴がムカつくヤローだったらボコボコにして攫う。良い奴だったら説得して連れてくりゃ良い。パンドラズアクター、お前そういうの得意だろ」

 

「お褒めに与り恐悦至極……ですが、お待ちください。我々がそのまま向かったとしてもパニックは必至です。ですのでまずは下準備をしましょう」

 

 

パンドラズ・アクターは2本の指を立てた。

 

 

「悟様。萃香殿。私にまず2週間いただきたい。下準備の下準備をさせていただきます」

 

 

パンドラズ・アクターは有能であり、それは鈴木悟も認めるところである。そんな彼が自信を持って進めることに文句は無いが、それはそれとして何をするつもりなのか興味があった。

 

 

「人というものは形の無いナニカに縋りがちです。効率的なタレント発掘の為には『身分』が必要です。ですので2週間後の我々の目的地はーーーー」

 

 

ーーーーバハルス帝国が首都、帝都アーウィンタール。そこに住まう鮮血帝に、会いにいきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談だが、3人の議論が終わった後すぐに王国において非常に広範囲に渡って薄い霧が発生する日が増えた。

 

勘の良い冒険者が『アンデッドの発生するカッツェ平野の霧』が広がっている可能性を考慮し注意喚起したため王国は緊張感に包まれたが、結局アンデッドの発生数が増えることは無く、霧自体もその内消えてなくなったため、王国には日常が戻った。

 

 

 

 

 







萃香さんもパンドラズアクターの有能さを認めていますが、それはそれとして自由にします(パニックフラグ)
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