鈴木悟は鬼に憑かれている   作:サイドベント

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拙者、勝てないとわかっている戦いに挑む姿、好きで候






帝国同盟編
魂の咆哮


 

 

 

鬼の剛力とスピードの前に、村を襲っていた兵士は何もできることがなく全員死んだ。

 

今は生き残った村人たちの手で死体が運び出されている。

 

萃香はその様子をつまらなそうに見ていた。

 

村人たちは怯えた表情で鬼の少女を遠巻きに見ていたが、意を決して一人の村人が進み出た。

 

 

「わ、私はこの村の村長です。先ほどは本当に助かりました。貴女がいなければどうなっていたか……! おい、皆、恩人に失礼だろう。こちらに来なさい」

 

 

村長は村人たちの態度を改めさせようとしたが、萃香はそれを断った。

 

 

「別に気にしちゃあいない。それよりもこれからどうするんだ?」

 

「……まずは亡くなった村の者の埋葬を。幸い貴方様のおかげで……その、そこまで犠牲者は多くなったため何とか立て直せると思います」

 

「そうか」

 

 

それきり会話は無くなった。萃香には人間の営みは分からないし、この村がどうなろうと知ったことではない。

 

だが、まだここを離れる訳にはいかなそうだと思った。鬼の聴力は接近する馬蹄の音を捉えていた。

 

 

「あの、「村長!!」 なんだ。まさか……!」

 

「馬に乗った奴らが来ます! さっきとは違う格好みたいだけど、早く皆を隠れさせないと!!」

 

「わかった!! 皆!! 私の家の周りに集まれ!! 女子供は中に、男たちは武器を取って家の外で待て!!!」

 

 

村長が檄を飛ばす。悲しみに暮れる暇はない。

 

傍の鬼は黙って立って前を見据えている。

 

村長は二重の意味で緊張しながら第二の兵士たちの到着を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ……? 角が生えているぞ」

 

「はぐれ亜人か?」

 

 

馬上から不躾な視線を飛ばす部下達を鋭い目付きで一瞥して黙らせ、一際逞しい男が進み出た。

 

 

「王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフだ。この村の村長は貴方で合っているか」

 

「はい。私が村長です」

 

「それで、こちらの方は?」

 

「鬼だ」

 

「あ、彼女は私たちの村が襲われている時に助けてくださったのです!」

 

 

萃香のあんまりな自己紹介に村長が慌てて助け舟を出す。怪訝な表情をしていたガゼフも、少女が村の危機を救ったとわかるや否や馬を降り、頭を勢いよく下げた。

 

村長や男の部下が驚く。平民の出とはいえ、ガゼフ・ストロノーフは王の懐刀である王国戦士長だ。軽々しく頭を下げられるような身分ではない。

 

 

「本当に感謝申し上げる!! 他の村々も焼かれていてこの村も間に合わぬかと思っていた……! 本当に、本当にありがとう……!!」

 

 

ガゼフは頭を上げ、すぐに部下達に指示を出した。

 

 

「まずは負傷した村人たちの治療を! 並行して敵兵の死体の処理を行え! 俺は村長とこちらの……村の恩人の方と話をする!」

 

「わ、私の家に案内します」

 

 

村長の家への道中、先導する村長の後ろを歩く少女にガゼフは視線を向けた。

 

ガゼフとて、目の前の少女のことは気になった。失礼だとは思いながらも武人として目をやらずにはいられない。

 

 

ーーーー凄まじく強い。隙だらけだが、刃が通るイメージが全く湧かない。まるで大樹か巨岩を目の前にしたかのような存在感すら感じる

 

 

「なんだい?」

 

 

いつの間にか振り返っていた少女に問いかけられ、謝罪する。

 

 

「……これは失礼した。武人としての癖でつい貴女の強さに注目してしまっていたようだ」

 

「そういうお前は弱いな。しかも酷く疲れてる。早く家に帰った方がいいんじゃないか」

 

「ははは。貴女に言わせれば確かに私は弱いだろう。疲労が溜まっているのも事実だ。だが私は王の剣であり、民草を守る盾だ。疲れたなどと言って職務を放棄する訳にはいかない」

 

「そうかい」

 

 

よくやるよ、と流し目で言外に伝えられ、ガゼフは苦笑した。どうやらこの少女は見た目に反して随分と老獪で、思ったより気安いらしい。

 

 

「改めて申し上げる。この村を守っていただき、本当に感謝する」

 

「たまたまだ。私はエンリって娘を守れたらそれで良い」

 

「なるほど……何か事情がおありのようだ。しかし貴女が救ってくださったのは事実。必ずや報酬を」

 

「いいっていいって」

 

「しかし……」

 

 

萃香は苦笑した。この手の人間はこうと決めたら譲らないものだ。

 

 

「じゃあ後で美味い酒でもくれ。あとさ、ガゼフ。そう呼んでも良いかい? お前の名は覚えておきたい」

 

 

ーーーーこの雰囲気、やはり只人ではない

 

 

強い力を持った鬼の眼差しにも全く怯えずに、ガゼフは真っ直ぐに目を見て言った。

 

 

「構わない」

 

「そ。じゃあガゼフ、よろしくな」

 

 

そうしている間に3人は村長の村に到着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガゼフと村長の会談をつまらなそうに見守っている萃香。そこに伝令が来た。

 

 

「正体不明の一団が接近中!! 数40以上!!」

 

「すぐに行く!! お前たちは村から離れて陣形を整えろ! 奴らを村に入れさせるな!!」

 

 

ガゼフは立ち上がり、先ほどからずっと黙って座っている少女に視線を向けた。加勢を頼むために口を開こうとしてーーーー止めた。

 

 

戦士としての勘が囁いていた。

 

この少女は、気の進まないことは絶対に手を出さない。そして今ガゼフが頼もうとした内容はまさにそれに合致するだろうということを。

 

 

「……私は村からできるだけ離れて戦闘を行います。村長殿は村人をここに集めてほしい」

 

「し、しかし戦士長どの! 相手はこちら以上の大人数とーーーー「それで良い」」

 

 

村長の言葉を遮り、鬼の少女は冷たく言い放った。

 

 

「私は手助けはしない。最初に言った通りだ。私はエンリが守れたらそれで良い」

 

「……ならばお願いする。どうか、この村の人々を守って欲しい。王国戦士長として情けない限りだが……この通りだ」

 

「あっさり引いたな。お前はいいのか? 死ぬぞ」

 

「敵の狙いはおそらく俺だ。俺が死ねば撤退するだろう。俺は国に身を捧げた身。国王への恩はまだ返せていないが……それでも目の前の民を見捨てることなどできはしない」

 

「そうかい。じゃあ話はこれで終わりだ。だが約束してやろう。私は村人を一人も死なせはしない。それと私の名前は萃香って言うんだ」

 

 

ーーーー死ぬまで覚えとけよ、小僧

 

 

「……感謝する。萃香殿」

 

 

決死の覚悟を持ってガゼフ・ストロノーフは駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村長の部屋の中。住民たちは震えながら頭を抱えている。

 

萃香は家の屋根に仁王立ちし、その埒外の視力で戦況を見守っていた。

 

 

「また倒れたな。こりゃ全滅するな」

 

 

萃香の声は静かな小屋の中にまで届き、村人たちに絶望を与える。

 

 

「クッ……何故私たちがこんな目に……!」

 

 

部屋の中にいる村人たちは啜り泣くばかり。たまらずネムは部屋を出て屋根の上にいる鬼の少女に向かって叫んだ。

 

 

「ねえ! 鬼のお姉ちゃん!! あの人たちを助けてあげてよ!!!」

 

「どうしてだ」

 

「え……だ、だって、可哀想だよ!! 死んじゃうんだよ!!」

 

「私が出て、それでここにいる人間が死んでも、か?」

 

「え……?」

 

「私は鬼だ。人なんざ簡単に殺せる。だが今戦ってる奴らも殺し慣れてる。それこそ一人でここにいる全員を殺せるくらいにはな。ここを守ってる私に頼むってのはそういうことだ」

 

 

ーーーーそれでもやるか?

 

 

ネムは呆然とした後、その場で俯いてしまった。その様子を伺っていた部屋の中の者たちも同様に俯いた。

 

 

「ガゼフが片腕を失った。もう秒読みだ」

 

 

その呟きに、俯いていたネムはガバッと顔を上げた。

 

 

「鬼のお姉ちゃん!! あの人たちを助けて!!」

 

 

ネムは思い出していた。男たちの苦しそうな表情を。自分達のことを見た時のホッとしたような笑みを。

 

 

「だって、だってあの人たちはわたしを撫でてくれた! 遅れてごめんなさいって! 生きててくれてありがとうって言ってくれたんだもん!!」

 

 

少女の絶叫に村人たちは涙した。幾人かは立ち上がり、小屋の外に出て来ている。

 

 

「っ! 俺も! 俺からもお願いします!!」

 

「戦士長殿はこんなところで死んでいい人ではない! 俺も戦うぞ!!」

 

「子供たちくらい、アタシたちが守る!! だからあの人たちを助けてやってくれ!!」

 

 

いつしか小屋の中の村人たちは全員外に出ていた。

 

村人たちは必死だった。ガゼフとその部下たちが真摯に対応したからこそ、村人たちはここまで心を動かされている。

 

 

ーーーー誇りとは、尊厳とは命よりも重い。それは鬼にとっても好ましい考えだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメだ。私はここから離れることはできない。あの男との約束だ。お前たちを絶対に守れるという保証が無い」

 

「そ、そんな……」

 

 

ネムや村人たちは項垂れた。やはり自分達は何もできないのかと悔し涙を流しそうになった時、ネムの頭にポンと手が乗った。

 

 

「まあ待てよ。良いもん見せてやるから」

 

 

そう言った鬼の姿が二重にブレ、ネムの目の前で二人になった。

 

 

「えっ!? お姉ちゃんが、ふたり!?」

 

「「こういうことだ」」

 

「私がここにいて」「私があいつらの敵をぶっ殺しに行く」

 

 

ーーーーこれなら文句は無いだろう?

 

 

ネムはその姿を見て、涙を流しながらも破顔した。

 

 

「お前たちは覚悟を見せた」「私はそういうのは嫌いじゃないぜ」

 

「じゃあ私は行ってくる」

 

「行ってらっしゃい!! 鬼のお姉ちゃん!!」

 

 

村人たちの声援を受け、鬼の少女は出陣した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガゼフ・ストロノーフは強い。ただし、個としてはという注釈が付く。

 

異種族殲滅を任務とする陽光聖典は、個で優れる相手と戦うために統制の取れた集団としての強みを最大限に生かす戦い方をする。

 

常にガゼフの動く場所の守りを厚くし、物量でその足止めをする。それと並行してガゼフの部下たちを一人一人各個撃破していく。

 

部下の数が減るごとにガゼフの負担は増えていく。そしてガゼフの動きが鈍ればまた部下の数が減る。

 

法国の守護者たる陽光聖典は確実に勝利へと近付いていた。

 

 

「部下を失い、自らの片腕を失ってもなお戦意は衰えないか……惜しい。惜しいぞストロノーフ。お前ならばきっと人類を守る盾となれた……!」

 

「罪の無い無辜の民を殺しておいて、何が盾か……!」

 

「……フン。ちっぽけな視野しか持たぬお前にはわかるまい。そしてやはりお前は死ね! 人類の為に!!」

 

「……うおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

裂帛の気合いと共に、ガゼフが駆け出した。だが無情にも目標までの距離は遠く、間にある障害はあまりにも多かった。

 

召喚された天使がガゼフに迫る。その外殻は固く、斬り飛ばすには全力で剣を振り抜かなければならない。

 

ガゼフが剣を振り切って体制が崩れた瞬間、放たれた火炎が顔面を掠め、高温で瞳の水分が蒸発する。

 

 

「目が……グッ!?」

 

 

眼球と顔の皮膚に走る鋭い痛みを無視して前方に駆け出そうとすれば、背後から幾つもの光の刃が腹を貫く感触がガゼフを襲う。

 

 

「ゴフッ……邪魔だ!! 四光連斬!!」

 

 

当たったのは幸運だった。

 

天使たちを武技でまとめて斬り飛ばし、ガゼフは再び駆ける。もう目は見えていない。

 

腹に開いた風穴から血がとめどなく流れている。ガゼフの体力、精神力はもう限界だった。

 

 

ーーーー脚を、脚を守れ!! 奴の元へ辿り着くには脚を失う訳にはいかない!!!

 

 

「可能性知覚! 急所感知!! 流水加速!!! うおおおおおおあああああああああ!!!!」

 

 

既に精神力は尽きていた。

 

その上で無理矢理に武技を発動した為、脳が焼き切れそうになるが、その一切を無視して強化した第六感のみを頼りにガゼフは駆けた。

 

 

ーーーー届け!! 敵の首魁を討てば撤退の可能性は上がる!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……残念だ。ストロノーフ」

 

 

その刃は届かなかった。召喚された天使たちが、串刺しにしたガゼフの体を押し退け前方に突き飛ばす。

 

どしゃり、と地面に伏したガゼフはもう動かなかった。その姿を見て指揮官は額から一筋の汗を流した。

 

 

「全身の筋断裂。失血多量。眼球は燃え、視覚を失っていた。だが奴は的確に私の首を狙って駆けて来た……ガゼフ・ストロノーフ、何という漢だ」

 

 

指揮官は静かに黙祷する。

 

この気高き男の尊い犠牲をもって人類が手にする輝かしい未来を想い、身が震えた。

 

 

「……あの状態でも武技を発動させた男だ。まだ隠し球があるかもしれん。遠距離から念入りにとどめを刺せ」

 

 

40以上の天使を前衛に置き、魔法詠唱者たちが魔法を発動させる。それが一斉に着弾しようとして、突如散らされた。

 

 

「なっ……!! 増援だ!! 陣形を組み直せ!!!」

 

 

異常に気付いた指揮官がすぐさま指示を飛ばす。男は見ていた。もはや死に体のガゼフのそばに小さな何者かが立っていることを。

 

 

「……うっ……」

 

「ガゼフ・ストロノーフ。ンフィーレアに後で礼を言っときなよ」

 

 

男の体に青色の液体がかけられる。傷が瞬く間に塞がっていくが、塞いだだけだ。流れ出た生命力や失った腕は戻らなかった。

 

空になったポーションの瓶を片手で握りつぶし、少女は敵に向き直る。

 

その顔は獰猛に笑っていた。目は爛々と輝き、それはまさに獲物を目の前にした獣の貌だった。

 

 

「今日の私は機嫌が良いんだ。だからお前ら、全員一瞬で殺してやる」

 

 

 

 

恐怖

 

 

陽光聖典の隊員たちは無意識に召喚した天使たちの後ろに身を隠すように動いた。あの恐ろしい化け物の視界に1秒でも映っていたくなかったのだ。

 

指揮官もまた恐怖していた。無意識に懐に入れていた魔封じの水晶を取り出し、何の躊躇も無く使用していた。

 

 

ドミニオン・オーソリティ。

 

 

冠を戴く主天使が降臨した。指揮官は訳もわからない言葉を口走りながら主天使に攻撃命令を出した。

 

 

ーーーーぱん、と袋が弾けるような音がして、戦闘は終わった。

 

 

決着は一瞬であった。

 

鬼の一撃により指揮官を含む46名の体が破裂し、ついでに主天使も消し飛んだ。

 

おびただしい量の血と肉片が散らばる地獄の中で、返り血も浴びずに鬼は立っていた。

 

 

「こんなもんだろ。あと……私を覗き見するとは良い度胸だな」

 

 

萃香が手を掲げると、どこからか少女の悲鳴のような声が聞こえた。

 

萃香の手は目に見えない何かをしっかりと捕まえていた。

 

それは逃げ出そうともがいているが、鬼の万力でギリギリと首を捕まえられているため逃げられない。

 

 

「コソコソしやがって。次に私のとこに来たらーーーー殺す」

 

 

その言葉と共に萃香は見えない何かを握り潰した。

 

 

 

その後、萃香の分身は誇り高き男との約束を守るため村に残った。

 

そのことに1番喜んだネムは、暇を見ては萃香に絡みに行き、逆鬼ごっこを楽しむのであった。

 

村人たちが翌日おそるおそる戦闘が行われた場所に向かうと、そこには何の痕跡も無かった。

 

萃香の分身曰く、"ウチには何でもできる自慢の息子がいる"とのことだった。

 

 

 






萃香(本体):一時帰宅

萃香2:エンリの村の守護者

萃香3:エ・ランテル上空で酒飲んでる。一応ンフィーレアのセコム
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