鈴木悟は鬼に憑かれている   作:サイドベント

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おめでとう ジルクニフ は ねんがん の ちから と ともだち を てにいれた


会話長い





異種間同盟結成

 

 

 

 

 

 

「王国を救い、人類を破滅から救うことができるのは貴方しかいません。ジルクニフ殿」

 

「ただの人間に世界を委ねようと言うのか? それも鮮血帝と言われるこの私に」

 

「ならばこそ、です。もはや王国は破壊するしかありません。しかし我々だけではその後の復興は難しい。人間の貴方と化け物の我々が力を合わせれば必ず人類を救済することができるでしょう」

 

「……子供の見る夢のような戯言だ。だが……私もまだまだ子供らしい。ひとつ聞きたい。アレは……貴方の記憶か?」

 

「いいえ。私の偉大なる父上とその友の記憶でございます」

 

「そうか。かつての英雄と共に夢を追うのも悪くはない……良いだろう。あなた方と同盟を結ぼう」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7日前

 

 

バハルス帝国 皇帝 ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス

 

またの名を鮮血帝。

 

有能かつ冷酷。しかし近しい者からは親しげに接される男。

 

身分の区切り無く優秀な者は取り立て、逆に高貴なものであろうと帝国に仇なすと判断すれば容赦なく斬首する。

 

その苛烈さは民衆からは熱狂的な支持を受け、貴族からは蛇蝎の如く嫌われている。

 

そんな男はある夜、夢を見ていた。

 

 

「……まるで御伽噺だ。小さな子供が憧れるような……」

 

 

奇妙なのは視界に映る者たちが皆異形の姿をしていたこと。翼人やアンデッドがいれば、見たこともない粘体の肉の塊のような生物もいた。

 

しかしジルクニフはそれにもすぐに慣れた。

 

わかるのだ。彼らは姿こそ違うが、冒険を楽しみ、仲間と共に苦難を乗り越え、笑い合う。そこに人間と何の違いもなかった。

 

 

「かの十三英雄の記憶だろうか……? それにしては人数が多いか」

 

 

冒険をひとしきり楽しんだ後、夢から覚めたときにジルクニフは笑った。

 

 

「人と亜人……そしてモンスター。これらが共存するなど夢のまた夢だな」

 

 

ジルクニフは次の日も同じような夢を見た。帝都に籠ることが多い身としては、外に繰り出した気持ちになれて楽しかった。

 

そしてその翌日も夢を見た。

 

 

「これは……もしや王国か」

 

 

昨日までの意気揚々とした冒険譚とは意趣が変わっていた。

 

村に住む人々の笑顔、街の商人の威勢のいい声、輝く子供たちの笑顔、冒険者を送り出す人々の声援。

 

 

ーーーー無実の罪で拷問される男、全裸で許しを乞うアザだらけの女、麻薬、下品に笑う品の良い服を着た者たち。

 

 

「……胸糞が悪いな。だがこんなもの世界には溢れている。我が国では許しはしないが、あの腐った国なら不思議ではない」

 

 

ーーーーそれでいいの?

 

 

ふと、下を見れば小さき者が居た。幼き頃の自分だった。

 

それが尋ねてくる。背丈も小さく線も細い。しかし野望に目をギラギラと輝かせた子供がこちらを見ていた。

 

ジルクニフは腐敗する自国に蔓延る貴族や無能な親を唾棄し、文字通り切り捨ててきた。強い帝国を、努力するすべての者が報われる国を作る。そんな青い夢を語っていた頃の自分を思い出す。

 

 

ーーーーあなたに足りないのは力だけ

 

 

「それが一番重要なのだろうに……」

 

 

目が覚めたジルクニフは天井に向かってぼそりとつぶやいた。

 

 

 

 

その日の午後。ジルクニフは政務に励む傍ら、ふと隣に座っている老人に話しかけた。

 

フールーダ・パラダイン。ジルクニフが最も頼りにする帝国最高の戦力であり、また親のように思っている側近だ。

 

 

「……じい。もし世界を救えるほどの力を手に入れたらどうする」

 

「ほっほ。ワシならばその力で魔法の深淵を覗きに行きますかな」

 

「……聞いた私が馬鹿だった。忘れてくれ。私は疲れているようだ。少し寝る」

 

 

立ち上がり、執務室の隣の仮眠室へ向かうジルクニフは、その背中に意味深に向けられるフールーダの視線に気付かなかった。

 

 

「……ジル。ワシの可愛い孫。お前がこれから背負うもの……ワシも共に背負わせてもらおうかの」

 

 

それは確かな親心と強い決意を感じさせる声だった。

 

しかし懐に忍ばせた黒い書物に手が触れた瞬間ーーーーそれらを全て忘れさせるような純粋な笑顔でフールーダはにんまりと笑っていた。

 

 

 

 

 

夢を身始めてから7日目の夜。ジルクニフは一人で寝室に居た。

 

3日目に見た不快なものは二度と夢に出てこず、ジルクニフは6日目まで再び冒険譚を楽しんでいた。

 

夢の中の冒険譚は徐々に終焉へと向かっていき、楽しかった冒険も終わった。

 

ジルクニフが最後に見た夢は、骸骨の姿を持つ男と二本角の亜人とが酒盃を月に掲げたところで幕を閉じていた。

 

色々な登場人物がいたが、その誰もが目を輝かせていた。今の自分はどうだろうか。

 

寝るには少し早い時間ではあるがジルクニフは『誰も近寄るな』と厳命し、何かを待つように一人で座っていた。

 

 

「昨日は夢を見なかった。心地良い夢に浸る時間は終わり、ということか……?」

 

 

<<転移門>>

 

 

突如として部屋の中に漆黒の円が発生する。ジルクニフは少しだけ目を見張るが、黙ってそこから出てくる何者かを注視していた。

 

 

「お初にお目にかかります。私の名前はパンドラズアクター。偉大なる父上からいただいた名です。以後お見知りおきを」

 

「ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスだ。パンドラズアクター殿、歓迎しよう」

 

 

知恵者達の会談が始まり、つつがなく終わった。

 

その結果は冒頭で記した通りである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日深夜、鈴木悟は新たな隠れ家で複数のグラスを前に唸っていた。

 

 

「琥珀色の酒は香りが特に良いなぁ……逆にこっちの無色透明なやつは芋みたいだ。甘いのかな?」

 

 

リストに何かを書き込みながら香りのテイスティングをしていく。

 

 

「味の確認は後でパンドラズアクターにしてもらえば良いか。いやぁ楽しみだなぁ」

 

 

グラスを片付けた後、ソファに移動してどっかりと座る。アンデッドなので疲労は感じないが、やはり一仕事終えると休憩したくなるのが元人間としての性だった。

 

 

「……部屋の模様替えでもするかな。今の配置だと皆でお酒飲む時に席離れちゃうし」

 

 

以前使っていた住人は単身かつあまり趣味が無かったのか、必要最低限の家具や家電以外は何も置いていなかった。

 

テーブルには椅子は一脚しか無いし、ソファも2人掛けが精々という大きさだ。

 

唯一酒類は地下の倉庫に豊富に用意されていたため、最近の鈴木悟の良い暇潰しになっている。

 

 

<<転移門>>

 

 

「あ、おかえりパンドラズアクター」

 

「ただいま戻りました、父上」

 

「酒の分類は結構良い感じに進んでるよ」

 

「それは素晴らしい。少し報告したいことがありまして」

 

 

パンドラズ・アクターが話し出そうとした時、いきなり室内に霧が溢れたと思えば、あっという間に萃香の形になった。

 

 

「よう、お二人さん。ちょっと頼まれてくれないか?」

 

「あ! 萃香さん1週間も留守にして! 俺、萃香さんの酒の香り好きなんですからね! あ、沈静化……」

 

「わるいわるい。色々あってな」

 

「萃香殿、ちょうど良いところに……背中のソレは何でしょうか」

 

「おお、そうだそうだ。こいつの世話頼んで良いか? 私じゃよくわからん」

 

「え、良いですけど……うわ、ボロボロじゃないですか。片腕無いし……んん? 一応治療してあるんですね。萃香さんって治療魔法とか使えましたっけ?」

 

「いいや。ンフィーレアのとこで買った薬を使った」

 

「ンフィーレア……? そしてその御仁の顔。萃香殿。もしや貴女……王国へ行きましたね?」

 

「おお、行ったぞ。そうそう。そのンフィーレアってやつが"どんなあいてむでも使える"タレントってやつ持ってた」

 

「ええー!! ずるい!! 萃香さんだけ色んなとこ行って!! 俺引きこもりですよ!? って沈静化……あぁもう」

 

「すまんすまん。でもお前の顔面じゃ皆びびっちまうだろ」

 

「クッソ……やっぱりアンデッド辞めなきゃ」

 

 

盛り上がる二人にパンドラズ・アクターが声を掛ける。少しだけ興奮で上ずった声だった。

 

 

「父上。萃香殿。我々が大手を振って通りを歩ける時は近いですよ」

 

「おお、それは楽しみだ」

 

「パンドラズアクター。お前の言ってた計画ってやつか」

 

「はい。私はこれを『理想郷作戦』と名付けました」

 

 

例によってパンドラズ・アクターはホワイトボードに流暢に文字と図を書いていく。

 

 

「まず、現地人の国家は大陸の西部の端付近にのみ存在しています。さらに北西には"アーグランド評議国"があり、人間種国家とはまた違うようですが……とにかく隅っこに追いやられている状態ですね」

 

「まあ弱いからな。何でまだ生きてるのか不思議なくらいだ」

 

 

萃香の相槌にパンドラズ・アクターは頷く。

 

 

「そうなのです。弱いのですが、何故か生きている。王国と帝国は毎年小競り合いをし、特に王国はその国力を落としているのにも拘らず」

 

 

図中の王国と帝国という名を書き、間にバツを書く。

 

 

「足の引っ張り合いをしながらも現地人が存続している理由。それは……ここ。スレイン法国が現地人の領域の実質的な盾となっていることです。この国の存在が延命の鍵となっています」

 

 

パンドラズ・アクターは地図上の下部分に法国と書いた。さらにその外側には怪獣のような顔を沢山描く。こうして見れば人間種の領域は驚くほど狭い。

 

 

「こちらの法国ですが、六大神という神を最上とし6人の神官長がそれらに仕えるといった体制になっています」

 

「ふーん。そのカミサマが今も頑張ってるってやつか? じゃあそいつらは強いんだな」

 

「それが、肝心の神はすべて崩御しているようです。詳しくは八欲王という存在についての話になりますが……今は割愛いたします」

 

「死んじゃったんだ……じゃあ法国は何で未だに強いんだろう。あー、まさか……」

 

「ご明察の通りでございます。六大神はユグドラシルのプレイヤーであり、法国は彼らが残した遺産を使っているようです」

 

「だよなぁ。俺たちがここにいるってことは他にもユグドラシルから来てる人がいてもおかしくないよな。参考までにその人たちはいつ頃来たんだ?」

 

「およそ600年前とのことです。先ほど遺産と言いましたが、法国には神人という"プレイヤーの血を引く者"がいるようです。彼らも含めて、法国は周辺の現地人国家とは隔絶した力を有しています」

 

「そりゃあ悟やお前みたいなのがこっちに居たら余裕だろうよ。カミサマ扱いは笑っちまうがな」

 

「確かに。しかし600年前か……王国とか帝国はプレイヤーはいないのか?」

 

「いてもおかしくないでしょう。特に王国は法国のバックアップを受けて建国した背景があります。いわば生産場ですね。法国が粘っている間に王国でさらに強い人間種を生み出して前線に送り出す。そういう目論見が当初はあったようです」

 

「引っかかる言い方だな? まあ私も見てきたから何となくわかる。あそこは酷いぞ」

 

「そうなのです。王国はその肥沃な領土と豊富な資源、過ごしやすい気候に亜人種に攻め入られ難い立地とすべて備えているにも拘らず、その上に住む人々が……その……不適格です」

 

 

鈴木悟が得心を得たという感じで付け加える。停滞し、腐敗する人類。鈴木悟にとってその姿には既視感がありすぎた。

 

 

「要するに腐っているんだな? 法国の期待通りにはいかずに。法国はそれを黙って見ている訳でもないんだろう?」

 

 

それを聞いていた萃香が、治療を施した後その辺に転がしている男に目をやりながら納得したように声を上げた。

 

 

「狙いはガゼフか。じゃあアレが法国ってやつか」

 

 

ハテナを浮かべる鈴木悟。パンドラズ・アクターが萃香の話を引き継ぐ。

 

 

「そこの男は王国戦士長。周辺国家最強の名を持つ現国王の懐刀です。死ねば王国は大いに揺らぐでしょう。私の完全な推測ですが……停滞する王国に我慢の限界となった法国が仕掛けた、といったところでしょう。そのゴールは混乱の最中、国力に勝る帝国に王国を併呑させる……でしょうか」

 

「ええー。この男の人そんなに重要な人なの……どうする?」

 

「とりあえずはここで保護するべきかと。扱いに困れば後で私が然るべき処置をした後、放逐します」

 

「まあ、そうするしかないか。できるだけ手厚くしてやってくれ。それで、結構話し込んじゃったけど……何だっけ?」

 

「失礼いたしました。プレイヤーの影響力が強い法国および滅び行く王国は関わりを持つのに相応しくありません。その点帝国は繁栄の最中ですし、トップの影響もあり柔軟です。我々は帝国に取り入り確たる身分を手にします」

 

「なるほどねぇ……よく調べてくれたなパンドラズアクター。ありがとう」

 

パンドラズ・アクターは感激で震えている。鈴木悟はそれに苦笑し、続きを促した。

 

 

「失礼しました。そして帝国の皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスですが……アポイントメントをとりました」

 

「それが最初言ってた『2週間後』ってやつか?」

 

「はい。その場で我々の力の一端を見せ、皇帝の信頼を勝ち取ります」

 

「じゃあいい感じの魔法考えないとな……あんまりやり過ぎると引かれるだろうし」

 

「確かに……」

 

 

皇帝に見せるパフォーマンスの内容を考えるためにウンウン唸っている二人の姿はとてもよく似ていた。萃香は笑った。

 

 

「まあいきなり本番ってのも酷だろうよ。皇帝様がびっくりし過ぎて心臓が止まったら……面白いかもしれないが。ちょっと早いがとりあえず一回会わせてくれよ。悟も会って話してみようや」

 

「確かに。偉い人といきなり真面目な場所で会うのも緊張するからなぁ」

 

 

いけそう? と鈴木悟が確認するとパンドラズ・アクターは頷いた。

 

 

「大丈夫です。皇帝及びその側近とは自由にコンタクトを取れるようになっておりますので。そうですね……明日の夜、宴会でもいたしましょうか」

 

「待ってました! 今からじゃダメか?」

 

「流石に早過ぎるでしょ、萃香さん。あっちにも準備とかあるから」

 

 

ぶーぶー言う萃香を鈴木悟がなんとか宥めている内に、パンドラズ・アクターが思い付いたように声を掛ける。

 

 

「萃香殿。王国で立ち寄った場所を全て教えていただけますか?」

 

「あー……でかい砦みたいな街、中にあるンフィーレアの家のバレアレ商店、エンリの住んでるカルネ村だ。エンリはンフィーレアの想い人だ。どっちにも私の分身がついてる」

 

「なるほど、なるほど……萃香さん、やはりお手柄ですね。とりあえず事後処理は私に任せてください」

 

「ありがとよ」

 

 

パンドラズ・アクターはすぐさま姿を消した。

 

アポイントメントはすぐに取れた。そして王国での処理は精々カルネ村付近の掃除くらいだったため、パンドラズ・アクターにとっては朝飯前だった。

 

 

 

次の日の夜、皇帝の私室にてささやかな宴会が行われた。帝国より参加する者はもちろんジルクニフのみである。

 

転移門からパンドラズ・アクター、萃香、鈴木悟の順に出て来た際、ジルクニフには夢で見た登場人物がそのまま出てきたように見えたため驚きで目を白黒させた。

 

 

「パンドラズアクター殿、いくらなんでもあの二人はメインキャラクター過ぎないか……? こちらにも心の準備というものがある」

 

「これは失礼いたしました。改めてご紹介いたしましょう。我が父上の鈴木悟様。そしてあちらが『鬼の四天王』様です」

 

 

『鬼の四天王』という言葉に僅かな引っ掛かりを覚えながらもジルクニフは笑顔を作る。半ば癖のようなものだが、憧れの人物に会えたことで嬉しいという気持ちは本物であった。

 

 

「バハルス帝国が皇帝。ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスだ。御二方共、会えて嬉しいぞ。このような場所での迎えは申し訳ないが、今日は無礼講だ。それで許していただきたい」

 

 

カチカチになっている鈴木悟を尻目に萃香が意気揚々と皇帝に話しかける。

 

 

「おう、皇帝殿よ。酒は好きかい?」

 

「普段はあまり飲まないが……好きと言っておこうか」

 

「良いねぇ、じゃあ早速」

 

 

とくとくと手酌でジルクニフの持つ器に瓢箪から酒を注ぐ。

 

 

「あー! 萃香さんダメダメ! それ鬼の酒でしょ? ジルクニフ様死んじゃうって」

 

 

ギョッとするジルクニフを尻目に萃香はケラケラと笑う。

 

 

「死んだらパンドラズアクターに蘇生してもらえば良い。一回死ねば男が上がるぞ? ほら、飲んでみ。美味いぞ」

 

「だからダメですって! ジルクニフさん、飲まなくて良いですからね! あ、沈静化……」

 

「……いや、いただこう。『鬼の四天王』殿の心遣いを無碍にするのも心苦しいし、私は毒除けの指輪を装備している。おそらくは大丈夫だろう」

 

 

ジルクニフは感じていた。

 

鈴木悟という骸骨の方はテンションこそ乱高下するが本気で心配してくれていることはわかる。しかし鬼の少女は違う。要するに"俺の酒が飲めねぇのか!?"である。パワハラ(物理)である。

 

ハラハラしながら見守る鈴木悟をよそに、ジルクニフは酒を恐る恐る口にする。

 

 

「……これは確かに強いな。かなり喉にくる……が、美味い。ありがとう、『鬼の四天王』よ」

 

「へぇ、見直したよ。萃香だ。そう呼ぶと良い」

 

「す、すごい……やっぱり王様ってすごいなぁ。あ、ジルクニフ様。萃香さんの名前は他の人の前では呼ばない方が良いですよ。普通に怒るので」

 

「あたりめーだろ悟。鬼の名前は安くないんだ」

 

「はは、肝に銘じておくよ。それと悟殿。ジルクニフで良い」

 

「いやぁ、それは流石に……じゃあジルクニフさんで」

 

「お前は本当に堅苦しいなぁ」

 

「萃香さんが緩すぎるんですよ」

 

「なにおう、この脳みそ無しのカチカチ骨野郎!」

 

「ぐっ……人が気にしていることを……!」

 

 

ジルクニフの見た夢の中で得た情報の限りでは恐ろしい戦闘力を持った者たちだ。そして直接目で見れば"強者特有の余裕"というものも感じさせてくる。

 

遠慮の無いやり取りが目の前で行われ、はっきり言って皇帝に対する態度では無かったがジルクニフは不思議と楽しかった。

 

特に骸骨の男の姿形は非常に恐ろしく、また鬼の暴れっぷりを思い出せば震えが湧いてくる。しかし両者とも話してみれば中々気安く面白い者たちである。

 

そしてジルクニフは気になっていたことを口に出した。

 

 

「悟殿は元々人間だったのか? いや、答えたくなければいいんだ。ただあまりにも……そう、3人の中でもあまりにも貴方は人間らし過ぎる」

 

「あ、やっぱりわかりますか? そうなんです……俺、人間だったので全然アンデッドの体と精神に慣れてなくて。酒も好きなんですけど飲めないんですよ……ご飯も食べられないし精神抑制もされてますし」

 

 

言いながら、鈴木悟は己の境遇の悲惨さに改めて気付き、頭を抱えた。

 

オーバーなリアクションで嘆く骸骨のコミカルさに思わずジルクニフは笑ってしまった。

 

 

「あ、笑いましたね! ジルクニフさん。かなり大変なんですから」

 

「いやいや、失礼。改めて貴方があまりにも人間らし過ぎたからな。しかし酒が飲めず飯も食えず、喜びも悲しみも薄いとは……それは本当に辛いな」

 

「そうなんですよ」

 

 

悲しむ鈴木悟の横でパンドラズ・アクターが何かを言いたそうにしていることにジルクニフは気付いた。

 

恐ろしく頭の回るハニワ顔の男も、やはり敬愛する父親の前ではただの息子であるようだ。ジルクニフは微笑ましい気持ちになった。

 

 

「パンドラズアクター殿。貴方の父上とご友人に引き合わせていただいたこと、改めて感謝する。そして……私に何かしてほしいことがあるのではないか?」

 

「感謝いたします。ジルクニフ殿」

 

 

パンドラズ・アクターは、鈴木悟をアンデッドから種族変更させてやりたいこと。詳しくは言えないがその方法自体には目処が立っていること。しかし3人のままでは時間がかかり、それでは鈴木悟が不憫であることを伝えた。

 

ジルクニフはこちらが本当の行動原理だろうな、と思った。騙されているわけではない。ただ優先順位があるというだけだ。

 

己とて人に言えないようなことは数え切れないほどやってきたし、帝国の存続のためであれば何でもする覚悟がある。人それぞれ優先順位の有無があることくらいは弁えている。

 

しかし『鬼の四天王』も息子の方も骸骨の男を心底思い遣っていることがわかる。その関係を羨ましく思い、ジルクニフは少しだけ親のように思っている老人の顔を思い浮かべた。

 

 

「せっかくの縁だ。私もできる限り協力しよう」

 

「ありがとうございます。ジルクニフさん」

 

「私からも感謝申し上げます。そしてジルクニフ殿。貴方には黙っていたことがあります」

 

 

神妙な雰囲気になったパンドラズ・アクターに、ジルクニフは少し背筋を正して聞く。

 

 

「……入ってください。フールーダ・パラダイン殿」

 

「まさか……じい! 裏切っていたのか!? いつから……いや、しかし……」

 

「読み通りですじゃ、ジル。ワシはお前が夢を見始める2日前にパンドラズアクター殿に声を掛けられ、お前が夢を見やすいように環境を整えただけじゃ」

 

 

具体的には寝室の風通しを良くしたり、夢見が良くなるというアイテムを食事に仕込んだりしただけである。つまり、大したことはしていない。

 

 

「ワシはお前の心の中にくすぶるものに気付いておった。じゃが、それを解決する方法は分からなんだ。しかし、彼の御仁が現れた時、ワシはこれが天啓だと思ったのじゃ」

 

 

思わぬほっこりエピソードに鈴木悟は感動するが、当のジルクニフは冷たい目をフールーダに向けていた。

 

 

「じい。嘘をつくな。どうせ魔法の深淵とやらを覗くためのヒントでももらったのだろう」

 

「その通りぃ!! パンドラズアクター殿はワシに素晴らしいものをくださった!! この黒の書はーーーー「失礼」ーーーーあっ」

 

 

豹変し唾を飛ばしながら喚く老人にパンドラズ・アクターのチョップが落とされた。老人は一瞬気を失った後、何事もなかったように椅子に座った。アンデッドもびっくりの変わり身である。

 

 

「……すまない。じいは魔法のことになると人が変わるのだ。迷惑をかけたのだろう。じいに取り入った件についても不問としよう」

 

「感謝いたします。そしてフールーダ殿の悪癖については……ええ、それはもうしっかりと理解しております故。ということで、ここが我々5人での始まりであります」

 

「ああ。私は帝国の、人類種の更なる繁栄のために尽力する。願わくば我等の関係が末長く良いものであってほしいものだ」

 

「大丈夫ですよ。ジルクニフさんならできます。俺たちもしっかり協力しますから」

 

「……頼もしい限りだ。さて、堅苦しい話はここまでにして……飲もう」

 

 

こうして5人は酒を酌み交わしながら絆を深めていった。

 

人間と異形のものが肩を並べて笑顔を浮かべる。奇しくもこれはジルクニフが夢で見た理想の形であった。

 

まるで物語の主人公になったような気持ちになり、その日のジルクニフは珍しく日が昇る直前まで酒を飲んだという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガゼフ・ストロノーフが死んだーーーー?

 

 

ガゼフの永遠のライバルであるブレイン・アングラウスは衝撃を受けた。

 

帝国兵にやられただと? あり得ない。例え奴が疲労困憊でなおかつ逆立ちしていたとしても、そこらの雑兵に負けるような男ではない。

 

 

「お前を負かすのは俺だろうが……ふざけやがって……!」

 

 

ブレインは喪失感に苛まれながらも、収まらぬ怒りから国王軍に志願し今年も行われるだろう帝国との戦争に参加することを決めた。

 

 

「誰だ……誰がストロノーフを殺した……!」

 

 

血の涙を流さんばかりに歯を食いしばり、鬼の形相をする男に近付く者はいなかった。

 






ジルクニフさんは完全に人類側の主人公


そして復讐の鬼と化したブレインの刃は届くのか? 届かないんだなぁ(ネタバレ)

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