使命を胸に、もう一度。   作:悲しみの抹茶

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1話 君の使命は

 

 

「これが今回の標的だ。資料を確認し、速やかに抹殺せよ」

 

 

 __リリベル。

 日本の平和の為に、犯罪を未然に防ぎ、犯罪者を抹消する、特殊部隊。

 

 あの日、妹が死に、俺が残された後。

 俺は才能を買われ、リリベルという組織へと送られた。

 そして、それからもう十年が経つ。

 俺は今、そのリリベルの最高責任者である男性に呼び出され、指令を受けていた。

 

 

「このリコリス、錦木千束は、()()()()()()アランチルドレンだ」

 

「____…………。」

 

 アラン。アラン機関。

 奴らが俺に__、俺達に目をつけた。

 そのせいで、俺達の平和で幸せな日常は奪われた。

 

 手にした資料に目を落とすと、自分よりも少し年下に見える少女の写真があった。

 そして、その首元には梟のペンダントが下げられている。

 ……この少女もアランに人生を狂わされたのだろうか。

 

 

「ご命令の理由は?」

 

「今まで何人ものリリベルが返り討ちに遭っている。もはやお前しか奴を仕留める事は出来まい。貴様の使()()を果たす時だ」

 

「__承知しました」

 

 

 __使命。

 アランが俺に与えた使命。

 俺が、俺自身に課した使命。

 

 それを果たす為、

 それだけの為に、俺は今を生きている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 資料にあった住所は集合住宅のものが数個と、とある喫茶店のものだった。

 どうも彼女はリコリスとしての仕事と並行に、喫茶店でアルバイト紛いの事をしているらしい。

 物好きにもほどがある。

 ただ、民間人を盾に彼女を守る算段であれば、それは一部の襲撃者__それこそ俺の様な者に対して、大変有効である。

 

 手間が掛かるが、襲撃は住居の方になりそうだ。

 女子の部屋に押し入るのは気が引けるが、任務であり、いた仕方ない。

 しかし女子とは言え、相手はリコリス。俺と同じく長年訓練を積んだプロだ。そんな相手の根城へ赴くのならば入念な準備をしなければならない。

 

 襲撃は夜。銃撃戦になる可能性を考えれば、周囲に民間人が居ないことを確認する必要がある。

 

 そうと決まれば、早速行動を。

 

 

 

 

 

 

 

 準備を終え、時間は深夜。

 

 目標である集合住宅周辺に人気は無く、絶好の襲撃日和。

 目標の部屋へは正面玄関からの突入となる。

 

 ドアの前に立ち、瞼を落とすと、一つ深呼吸をして胸元に手を当てた。

 自身の鼓動を確認する。

 

 今日も正確に鼓動を刻む心臓。

 この脈動がある限り、俺は使命を遂行する。

 アランに決められた事ではない。

 これは、俺が決めた事。

 

 誓いを立て終えたら、自身で改造したリリベル制服を纏い、道具を取り出して予習してきた手順でピッキングを行う。

 

 解錠、

 と同時に扉を静かに、それでいて迅速に開き、室内へと侵入する。

 

 暗い玄関を通り抜け、リビングへ。

 そして一通り部屋を確認するが、物が一つも置かれていない。

 そもそも人の生活した痕跡が無い。

 唯一、部屋に残っているカーテンの隙間からベランダも覗き、全ての確認を終えた。

 

 

「……、居ない……?」

 

 

 まさか、もう別の住居へ移動したか?

 渡された情報は最新の物で、襲撃までには二日と経っていない筈だが、入れ違いになった可能性もある。

 

 いや、まだ隠し部屋という可能性もあるか?

 

 そう思考を巡らし、もう一度部屋を見渡そうと振り返った瞬間、銃声と同時に右肩へ鈍痛が走った。

 

 

「__ガッ……ハッ!」

 

 

 背後を取られていた!

 警戒は怠っていなかった。部屋も全て確認した。

 何故__?

 

 

「隠し部屋__。待ち伏せか__ッ」

 

 

 暗闇から覗く赤い瞳。

 ブロンドの髪。

 赤い制服に、構えられた拳銃。

 抹消対象のリコリスで間違いない。

 

 右肩を庇いつつ、続いて撃たれた弾丸を転がって避ける。

 まだ右腕は動く。

 ならば、と受け身を取りながら銃を構え、同時に撃つ。

 

 人体の急所である心臓を狙って二発。体の中心であり避けにくい筈のそれを、彼女は半身になって当たり前の様に避け、撃ち返してくる。

 

 

「噂通り、この距離でも弾を避けるかっ」

 

 

 今度は無様にキッチンの遮蔽へと飛び込んで弾を凌ぐ。

 

 さてどうする。

 至近距離からの不意打ちを予定していたが、この部屋には遮蔽物が一切無く、接近戦は難しい。

 強いて言うなら、今使っているキッチンのみが利用出来そうな遮蔽だが、それは行き止まりでもある。

 彼女が距離を詰めてくれば、俺に逃げ場は無い。

 さらに言えば、俺は肩に負傷もあり、出血も__

 

 

「__ない?」

 

 

 右肩を見るが、血の付着はない。数メートルからの銃撃で打撲と擦り傷のみ?

 ありえない。ならば実弾ではないという事か?

 防弾ベストを着た急所ではなく、防御力の薄い肩を狙ったのは、肩でなければダメージが少ないから?

 ならばまだ勝ち目は__。

 

 そこまで考えて駆け出す。

 狙うは一か八かの近距離戦。彼女がマガジンを取り替えていない間は撃たれても死なない。そう決め付けた。

 死なないのであれば、恐怖はない。

 使命を果たせ。

 

 また肩を打たれる。今度は左肩。衝撃で体軸がブレるが無理やり次の一歩を踏み込み、右手を伸ばして少しでも近い距離で撃つ。

 

 

「__おっと」

 

 

 ほぼゼロ距離と言っても良い距離。それでも避けられる。

 

 今度は脚を打たれる。

 痛みで脚がもつれ、転びそうになる。

 受け身を取ろうとして、壁にぶつかり、背後から両肩を打たれる。

 

 

「グゥッ__」

 

 

 それでも歯を食いしばり、痛みをなんとか無視して振り返ろうとして__、後頭部に銃口が突きつけられた。

 

 

「はい、お終い」

 

「__…………。」

 

 

 まさかこれ程簡単に負けるとは……。

 やはり、アラン機関が見定めた才能。俺の様な紛い物と違い、彼女にはそれだけの力があるという事か。

 

 

「あなたリリベルでしょ。もう勘弁してよねー。クリーナーだってタダじゃないんだから」

 

「…………。」

 

 

 大人しく両手を上げると、右手に持っていた銃を弾かれる。

 そして、背後で彼女がマガジンを交換する音がした。

 命の危機として緊張する俺に対し、彼女の口調は軽やかだ。

 

 

「さぁ、帰った帰ったっ。大人しく玄関から帰るか、窓から放り出されるか、どっちが__」

 

「__一つだけ、聞いてもいいか?」

 

「……なに?」

 

「君の使命は何だ?」

 

 

 __見逃された。

 それを確信した事を良い事に、一つ問い掛ける。

 彼女は大変面倒臭そうな声色で返事をしたが、一応話は聞いてくれる様だ。

 

 

「使命ぃ? ……あーっと、ちょっと待って、今考えるから」

 

「アランから伝えられていないのか?」

 

「あー。そういう。……さぁ。私は何も聞いてない」

 

「そうか……」

 

 

 妹以外に初めて会ったアランチルドレンで、純粋な好奇心もあった。

 それに彼女はリコリス。

 もしや__、とも思ったのだが、残念だ。

 

 しかし、使命が関係無いのだとしたら、何故俺は生かされたのか。

 一つだけ、と言ってしまった手前、これ以上聞くのも憚れる。

 彼女と会うのはこれが最初で最後であっただろうに、もう少し慎重に会話すべきであった。

 

 

「……というか、なんであんたが知ってるわけ?」

 

 

 と思ったが、思わぬチャンスだ。

 意外と彼女は銃を打ち合った敵とも会話できる肝っ玉だったらしい。

 心臓に毛でも生えているのかもしれん。

 対する俺は銃に対する本能か、冷や汗が止まらないというのに。

 

 

「俺も同じペンダントを持っている」

 

「…っ! __じゃあさっ、アラン機関に知り合いとか、いない? 救世主さん、じゃなかった、えーと、救世主、みたいな人、とか」

 

「……救世主?」

 

 

 アラン機関に、それほど善性の高い渾名の付く人間が居るのか?

 機関が認めた才能を世界に届ければ、それ以外はどうなっても良いと抜かす奴らだぞ。

 それこそ、自分だろうと、他人だろうと関係なく命でさえも簡単に捨てる。

 それはむしろ、救いというよりも__

 

 

「すまない。心当たりはない」

 

「……そっか」

 

「…………。」

 

「…………。」

 

 

 ……さて。

 この沈黙はどうすればいいのか。

 

 ここでもし前世の姉の様な会話力があったなら、自分の聞きたい事を、そして相手の聞きたいことを察して上手く会話を回せるのだろう。

 しかし、俺が口下手なのは前世からの折り紙付きだ。

 さらに、リリベルに入ってからというもの、仲間内での会話は事務的な事ばかりで、会話力だけで言えばむしろ前世よりも酷くなっていると感じる。

 

 長い長い沈黙に耐えきれず、そろそろ俺から声をかけるべきかと、勇んでいると、彼女が先に声をかけてくれた。

 

 

「私に答えられる事は無いし、もう帰っても__、あ、そうだ。せっかくだから貴方の使命を教えてよ」

 

 

 もう帰っても、とまで聞いて思わず腰が浮いた。

 中途半端な体勢は辛い。撃たれた脚が震えて悲鳴を上げている。

 仕方なく、膝を床へ落とし、またホールドアップする。

 

 

「……俺の使命は__、誰かの役に立つ事だ」

 

 

 

 そう答えると、彼女は息を呑んだ。

 彼女の動揺からか、銃口が後頭部をこつく。

 

 俺も息を呑んだ。

 

 

 

 「それは__、……だったら、何で私を殺そうとしたの?」

 

「……上の指示だ。リリベルとして生きている以上、命令は無視出来ない」

 

 

 命令違反は、すなわち死、である。

 死の恐怖をもって、隊の規律を守らせ、国の駒として一生を生き、死ぬ。それがリリベルだ。

 

 それに、リリベルとして大凡下る命令は犯罪者の抹消であり、その結果誰かの幸せを守る事になるのであれば、使命も果たせる。

 つまり、俺にとっても都合が良い場合が多いのだ。

 

 

「……なるほどね。だったら、出来る事なら無駄な殺生はしたくないって感じ?」

 

「無駄な殺生、であればそうだ。無闇矢鱈に誰かの時間を奪う事はしたくない」

 

「…………。」

 

 

 俺の命は与えられた物で、俺が自由に使って良い物ではない。

 俺は使命の為に生きているのであって、誰かの時間を、幸せを、奪う事などあってはならない。

 

 

「__やっぱ、答えてあげる」

 

「何を?」

 

「使命」

 

「知っているのか?」

 

「知らない。けど__」

 

 

 何がキッカケかは分からないが、彼女は何かを話す気になった様だ。

 思考の為か、言葉選びの為か、彼女は少しの間沈黙する。

 

 俺は彼女からの貴重な情報を聞き逃すまいと、静かに待った。

 

 

 

「__私も、誰かの時間を奪いたく無い。だから殺さない。……少しでも、誰かの役に立ちたい。それが私の使命だったらいいなって、思ってる。……今は、これが答えかな」

 

「……例え殺しがリコリスの命令だとしても、か?」

 

「勿論。どうしようも無い時はあるけど……。私は、私のやりたい事、最優先、だからっ」

 

「それは__」

 

「貴方と似てるけど、少し違うかも。私は__、限られた時間を好きに生きるって決めてるから」

 

 

 そう言って小さく笑う声。気がつけば背後の銃は下げられていた。

 ゆっくり振り返って見上げれば、満面の笑み。

 

 そこに、彼女の本心、本質を見た。

 

 それが、いつしか見た、妹の笑みと重なった。

 

 容姿的特徴は全くと言って良い程似ていないのに__、重なってしまった。

 その笑みの意味を、__俺は知っている。

 

 

 

「__()()()()()()……?」

 

 

 思わず出た俺の声は、酷く震えていた。

 怯えるようにも、縋るようにも、聞こえた。

 

 

「……そうだね。まあ……、近い内には?」

 

 彼女は笑みを浮かべたまま、軽い口調で答えた。

 

 

「__まさか、……まさか、まさか__、……()()、か……?」

 

「……、どうしてそう思ったの?」

 

 

 そう問い掛けると、彼女の笑みは消え、目は鋭く細められた。

 しかし、俺は荒くなった心音を誤魔化す様に胸元を抑え、声を荒げて続ける。

 

 

「いいからッ! 頼むッ! 教えて、ほしい……っ」

 

「ちょいちょい。少し話したからって、こんな夜中に襲撃して来るような相手に教えるわけないでしょーが」

 

「誰にも漏らさないッ! 組織にだって必ず秘密にするッ! だから__」

 

「…………。」

 

 

 俺の必死な形相に、彼女の気持ちが変わったのか。それともただ呆れられたのか。

 長い沈黙の後、彼女は手を胸に置き、少し誇らしげにして言った。

 

 

「そうだよ。私の心臓は人工心臓。期限付きの命。……それが何?」

 

「__、……そうか」

 

 

 この時、俺は安堵したのだろうか。それとも喜んだのだろうか。

 

 きっと俺の表情は見るに耐えない程、酷かっただろう。

 何せ、十年ぶりに涙を流し、十年ぶりに笑みを浮かべたのだから。

 

 

 

 

「俺は__、君の為に、生きてきたんだ__」

 

 

 

 

 

 

 

 





主人公の制服について
生存力を上げる為、リリベル制服の上に防弾ベストを縫い付けている。
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