使命を胸に、もう一度。   作:悲しみの抹茶

3 / 9
2話 新たな任務と面接

 

 

 リコリス錦木千束宅襲撃と、その失敗から三日。

 

 

 俺は今、喫茶リコリコを訪れていた。

 

 

 

 

 

 

 事の顛末は件の任務失敗からだ。

 あの日、錦木千束に見逃されDAリリベル棟へと帰った俺は、司令に結果報告をした後、間も無く新たな任務が下された。

 

 それは、

 『錦木千束の暗殺』

 

 その詳細としては、錦木千束に接触しその周囲で潜伏。時間をかけて錦木千束の警戒度を下げた後、別途指令が届き次第抹殺。という事らしい。

 

 まあ何とも、タイミングの良い事だ。

 俺としても、この身に課せられた使命の為、彼女の側にいる必要があった。

 暗殺実行までの猶予がどのくらいかは分からないが、その時までに錦木千束の心臓が期限を迎えれば__、俺の使命は全うされる。

 

 俺はDAに「現状での暗殺は不可。経過観察を続ける」とでも報告し続ければ、期限まで任務を引き伸ばせる可能性もある。

 つまり、この任務は俺にとっても余りに都合がいい。

 

 そう思考を纏めると、俺は早々と荷物を纏め、DAリリベル棟を去ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「__で、名前は?」

 

「阿世比《あせび》 紫苑《しおん》です。リリベル階級ではファーストを務めていました。貴殿の噂はかねがね聞いております。お会い出来て光栄に思います」

 

 

 まだオープン前で薄暗い店内。

 カウンター席を跨いで対面しているのはミカという男性。

 その昔、傭兵として数々の功績を上げ、その実力からDAの訓練教官として招集されたと聞く。

 そんな彼がこの喫茶リコリコ支部の責任者をしていた。

 

 

「リリベルぅ? あんた性懲りもなく、というかこんな朝っぱらから堂々と。一体何しにきたのよ?」

 

 

 カウンター席の端に腰掛けているのは中原ミズキという女性。

 事前情報によると、元DAの情報員で、ここでは店員兼、本業のサポート役であるらしい。

 

 俺は今、二人と相対して面談、いや、面接を受けている。

 そうこれはアルバイトの採用面接なのだ。

 

 

「DAから連絡があった。今後、店にリリベルを寄越さない代わりに、こいつをここへ置いてくれとさ」

 

「何それぇ。じゃあ、ここで働くって事?」

 

「__宜しくお願いします。この現場では店長の命に従い、粉骨砕身の思いで働かせて頂きます」

 

 

 やはり、今回の件に関してはDAを通じてリコリスとリリベル間で何やら取引が行われた様だ。

 

 不満が滲む二人に対し、誠心誠意をもって頭を下げる。

 

 

「リリベルの目的は千束の命か?」

 

「はい」

 

「あら、随分正直に答えるじゃない」

 

 

 リリベルという組織としての目的を尋ねられた為、それを肯定すると、店長は目頭を抑え、呆れた様子で溜息をついた。

 

 

 さて、こちらの本心と、複雑な事情。これを説明し、信じてもらう事は難しい。

 

 俺は今まで半敵対していた組織の人間である。それも階級が最上位。もちろん良い印象は持たれていない。

 

 俺が切れるカードに、錦木千束の人工心臓の事は含まれない。

 あの日、勢い任せで口にした、誰にも話さない、という約束。

 これを違えると、彼女との今後の信頼関係において不利となるやもしれない。

 

 となると、俺に課せられた使命については詳しく話せない事になる。

 

 

 ならば、この問題の解決方法は__

 

 

 

「__錦木千束と、話をさせて下さい」

 

「……今日の所は、帰りなさい」

 

 

 やんわりと、店を追い出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。

 さてどうしたものか、と頭を抱え、特に解決策も思い浮かばないまま、外をふらつく。

 

 結局行く宛など無く、気がつけば喫茶リコリコの前に辿り着いていた。

 

 俺の服装はDAにいた頃に支給された私服であり、こうして店前に出されたの看板をじっと眺めておけば、さも入店を悩んでいる一般人である。

 

 そこでまた悩む。

 磨りガラスの窓を睨みつけ、見えもしない店内を覗き見ようとして__、

 

 唐突に開かれた扉から、見覚えのある赤い瞳がこちらを見た。

 

 

「あっ」

 

「__あ」

 

 

 見つかってしまった。

 

 まずい、これでは客ではなく不審者である。

 しかし、ここで逃げてしまっても、それはそれでやましい事をしていたと思われるのではないか?

 だとしたら、俺は今どうする事が__

 

 

「__何してるの?」

 

 

 少し閉じられた扉からブロンドの頭が覗く。

 彼女は怪訝な表情を隠す事もなく、警戒心が見てとれた。

 

 何と言うべきか、言葉を選ぶ。

 選ぶ、と言っても、頭の中に言葉は浮かんでいない。上手く浮かばない。

 

 沈黙が続き、痺れを切らした彼女が、扉の奥へ引っ込んでしまおうとした。

 その姿を追う様に、言葉が飛び出る。

 

 

「__ア、ルバイトを、しに来た」

 

「アルバイトぉ?」

 

 

 閉じられそうになっていた扉がまた開かれる。

 

 彼女が言葉をオウム返しにした事で、会話が続いたと判断して、続く言葉を投げ掛ける。

 

 

「店長にはDAから話が行っている。が、俺の事情を上手く話せず……、その、困っている」

 

 

 内容を簡潔に伝え、胸元から梟のペンダントを取り出し掲げて見せる。

 これで察してはくれないか?

 

 

「…………。ちょっと待ってて」

 

 

 そう言って、彼女は店の奥へと引っ込んでいった。

 路上で立ちすくみ、さらに気まずさを覚える。

 

 

 上手く伝わっただろうか。

 そもそも、もっと良い言葉があったのではないか。

 そんな後悔が思考の何処かから湧いて出てきた頃に、また扉が開かれた。

 

 

「__入っていいってさー」

 

 

 良かった、伝わっていた様だ。

 

 しかし、どうする。

 何も考えて来ていない。

 となると、結果は昨日と同じではないのか?

 

 何か、店長を納得させる言葉を、思いつかなければならない。

 思考を巡らす為に、店内を見渡す。

 

 先客は見て取れず、昨日との違いは店内に明かりが灯っており、明るい雰囲気がある事と、カウンター席で中原ミズキが酒を煽っている事くらいか。

 

 ふむ。

 

 

「で、また来たのか」

 

「……はい」

 

「なに、あんたここに来たことあんの?」

 

「この子、昨日も来たんだけど『千束と話をさせて下さい』の一点張りで、このおっさんに追い出されたのよぉ」

 

「ほぉ〜」

 

「千束の知り合いか?」

 

「あ〜、ちょっとだけ? この前セーフハウスに来て、追い返したんだよねぇ」

 

 

 まるで何事も無かったかの様に、軽く話した。

 それを聞いた店長の目が鋭くなる。

 その視線に身が縮こまる思いであったが、しかしそれは事実であり、言い訳も出来ない。

 

 

「ただ、その時に知ったんだけど、この人私と同じでアラン機関の支援を受けてたみたい。それでちょこーっとお話しもしたんだよね。まあ、その結果、泣かしちゃったといいますか」

 

「え、あんた泣いたの? 千束の前で? 服装はともかく……、こんな出来る男、みたいな雰囲気出してるのに?」

 

「はい。事実です」

 

 

 概ね前者が合っていることを肯首すると、中原ミズキは腹を抱えて笑った。そしてまた酒を煽り、店長から一喝が入って縮こまった。

 

 店長が一つ咳払いをし、また視線が俺に向く。

 

 

「何故千束に拘る」

 

 

 何故。

 それを答えるには、少なからず彼女の心臓について話す事になる。

 とは言え、此処にいるのは彼女の上司と、仲間。

 心臓の事についても知っていると見て良い筈。しかし、その確証はまでは無い。

 話しても良いか、と視線で錦木千束に問う。

 

 

「…………。」

 

「……?」

 

「え、何、あんた達見つめ合っちゃって。もしかしてあんた、千束に惚れたりでもした?」

 

「いえ、違います」

 

「……むっ」

 

 

 そういう事ではない。

 

 流石に視線だけでは伝わらないか。やはり言葉にしなければ。

 

 ならば、彼女の事は暈し、まずは俺自身の事で可能な限りを伝える事にする。

 視線を店長に戻し、その探るような目を見返して、口を開く。

 

 

「俺の、使命に関わる事です。俺はリリベルですが、それは使命を果たす為に立場を利用していただけに過ぎません」

 

「……お前の使命は」

 

「詳細は言えません。ですが……、誰かの役に立つ事。そして、()()()()の役に立つ事、が使命です」

 

「__えっ」

 

「ええっ!? あんたやっぱ惚れてるじゃない!?」

 

「惚れてません」

 

 

 どうして千束ばっかりにぃ、私にも良い男と出会わせなさいよ! と、喚き出した中原ミズキ。

 そんな彼女の様子を無視して、店長は目を伏せ、考える素振りを見せた。

 

 

「__、千束の心臓か」

 

「はい」

 

「__私の、為……? 心臓……? なにそれ……!?」

 

 

 核心を問われたので肯定すると、彼は妙に納得した様子を見せた。

 

 良かった、これで俺の口からは彼女の心臓の事を話さずに済みそうだ。

 と安堵する間も無く、今度は錦木千束が掴みかかって来た。

 

 痛い。

 そこはお前に撃たれた後、アザになっているのだ。

 歯を食いしばって痛みを耐え、やんわりと手を振り解く。

 

 

「それって__!」

 

 

 そして彼女が俺に何かを言おうと時、店の扉が開いた事で、それは遮られた。

 

 見るからに一般人らしき女性がこちらに向かって挨拶する。

 

 

「千束。客だ」

 

「__えっ、あっ、はーい。……いらっしゃいませー」

 

 

 

「来なさい。制服を渡す」

 

「はい」

 

 

 客の対応を錦木千束に任せると、店長は俺を店の裏方へ呼ぶ。

 制服、というのはこの店の、という事だろうか。

 

 __つまり。

 

 

 

 

「……採用ですか?」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 





主人公の設定
名前は阿世比 紫苑
黒髪黒目
髪型は天パじゃない真島
身長177cm
運動は大得意になったがコミュニケーション能力に難あり。
アランに認められた才能は______である為。

紫苑の花言葉は「追憶」「君を忘れない」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。