使命を胸に、もう一度。   作:悲しみの抹茶

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沢山の人に見てもらえていて、感激です。
書き溜めしていないので不定期更新となりますが、可能な限り早めの投稿を頑張ります!


3話 まずは知ろうとする事から

 

 

 渡された予備の制服へと着替える。

 店長が着用している和服とよく似た、くすんだ薄紫色の生地。

 襷《たすき》で袖を縛ると、意外と機能性も良い。

 ただ、下駄だけは扱いに慣れなければ戦闘行為は儘ならなさそうである。

 

 こうした和服を着るのは前世ぶり、それも覚えている限りでは七五三の時である。

 普段着ない服装で人前に出るという状況からか、気持ち的にもそれと似た様な緊張感を覚えた。

 いつもの仏頂面がさらに酷くなった事を自覚しながらも、いざ店内へと足を踏み出すと、直ぐ様、錦木千束に詰め寄られた。

 

 

「ここで働くの!?」

 

 

 多少の身長差がある為、俺は見下ろし、彼女は見上げる形となる。そういったロケーションだからか、彼女の瞳は光を反射していて、輝いて見えた。

 前世からにしても女子に詰め寄られるという経験はしておらず、緊張と気まずさから心拍数が上がる。

 

 

「っ、ああ__」

「ねぇねぇ、名前は? 何ていうの?」

 

「阿世比《あせび》 紫苑《しおん》__」

「年は?」

 

「十八__」

「じゃあ私の方が一つ年下か〜。紫苑君、って呼んだ方がいい?」

 

「紫苑、でいい」

「オーケー紫苑! よろしく! 私は錦木千束! 千束でいいよ〜」

 

 

 一問一答する度に一進一退しているのだが、彼女の年相応とも言える勢いは留まる所を知らない。

 それこそ息を感じれる程の近距離にまで顔を寄せ、捲し立てる様に言葉責めにしてくる。

 

 

「分かった、分かった。千束。その、少し離れてくれないか」

 

「おぉっとっと。こりゃ失礼」

 

 

 そんな俺達の様子を、カウンター席で頬杖をつき半目をしている中原ミズキと、座敷で紙とペンを広げた__曰く漫画家の__女性客が眺めていた。

 

 

「はぁーあ、私にも良い出会いないかなぁー!」

 

「新しい仲間……! 千束ちゃんのあんな表情、初めて見た……。これはネタになる予感……!」

 

 

 そんな生暖かい視線がむず痒く、目礼する事で視線を切り、一旦キッチンにいる店長の所へと引っ込む事にした。

 

 

「ああ、丁度良かった。これ持って行ってくれ」

 

「__了解です」

 

 

 しかし撤退は許され無かった。

 淹れたてのコーヒーを乗せたお盆を手渡され、それを溢さぬ様気をつけながら、また視線の中へと飛び込んだ。

 

 

「……どうぞ」

 

「ありがとう〜」

 

 

 ふむ。これが接客か。と感傷に浸る。

 こんな些細な事でわざわざ礼を言われるのもどうかと思ったが、存外悪くない。

 もしこれからそういった機会があれば俺も真似する事にしよう。

 

 

「千束。仕事を教えてやれ」

 

「はーい! お任せあれ!」

 

「よろしく頼む」

 

 

 よくよく考えれば、これもまた誰かの為になる仕事。使命的にも接客業は天職の一つなのかも知れない。

 俄然やる気が湧いてきた。

 

 そうして店内の仕事を一通り教わり、次の日。

 

 

 

 

 

 

 

「__さて、今日は外の仕事に行きます。なのでお店の制服には着替えなくてオッケー!」

 

「了解した」

 

 

 今日も彼女は朝から元気溌溂である。

 リコリスの制服姿を見るのは襲撃ぶりで、少し嫌な、というよりは痛かった思い出が蘇った。

 まだ俺の体には至る所に青アザが残っている。

 

 

「…………。」

 

「…………?」

 

「……そういえば、リリベルにも制服ってあるよね?」

 

 

 俺が数日前の出来事を思い返している最中、彼女は俺の頭から爪先までを流し見て、何やら思案顔で問いかけてきた。

 

 

「あるぞ」

 

「お〜。それなら着替えてきて〜」

 

「俺の制服は全て防弾ベストが縫い付けてあるが、それでも構わないか?」

 

「……じゃあやっぱなし。他に服持って無いの?」

 

「この服では何か問題が?」

 

「……、問題です!」

 

 

 流石に防弾チョッキ剥き出しの制服で街中を歩く事が問題である事は分かる。しかし、今着ている服のどこがいけないのか。

 これは私服として数年前にDAから支給された物ではあるが、一般人でも安価で手に入れる事が可能な服であり、有事の際にも機能性に優れている。

 実際、今日や先日の面接の際にも着用しており、特に問題は無かった筈だ。

 

 

「よれよれのTシャツに、これまたよれよれなジャージのパンツ。……もしかして、それしか持ってない?」

 

「いや、セーフハウスに同じ物が数着あるぞ。使用感が問題であるのなら、さほど変わりは無いが」

 

「そっかぁ……」

 

 

 彼女は困った様に笑みを浮かべた。

 使用感が問題であったか。前世の記憶でもこんな服装の人間を街中や学校の体育教師等で見かけた覚えはあったのだが、接客業という場においては無かった気もする。

 つまり、そういう事だろう。

 

 

「今度、良い服買いに行こっか」

 

「了解した」

 

「__えっ、それってデートじゃん」

 

「ち、違うよ!」

 

「あーあ、千束は若いから。そうやって簡単にデートの約束なんてしちゃって。私なんてこの年にもなると買い物デートなんてピュアな出来事ありゃしませんわ」

 

「だから、デートじゃないってばぁ!」

 

 

 俺たちのやり取りを遠巻きで見ていたミズキさんが、そう茶々を入れてきた。千束が大袈裟に反応するものだから、それを楽しんでいる。ただ、その大半は単なる僻みの様にも感じるが。

 彼女が否定している事から、念の為俺も一言否定しておく事にする。

 

 

「ミズキさん。これは仕事に適した服を購入する、言わば買い出しです。デートではありません」

 

「そうなの……?」

 

「……、そこまで否定されると、それはそれで何か複雑な感じ……」

 

「じゃあやっぱデートじゃん!」

 

 

 そうなのだろうか? 余りに決め付けが過ぎるとも思うが……。

 デートとは恋仲の男女、または恋仲になろうとする男女が行う物である筈だ。

 俺達のこれは、それに該当しないだろう。

 

 

「__先生ー! 余ってる服とかあります〜?」

 

 

 まあ、千束が誤魔化す様に店長へと話しかけた事でこの話は終わりの様だ。

 一部始終を見ていた店長が表情に笑みを溢しながら答える。

 

 

「必要になるだろうと思って準備してある。ロッカーの中だ」

 

「流石《さっすが》、先生! ほら紫苑、着替えてきて!」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 更衣室へと入り、俺に宛てがわれたロッカーを開くと、そこには確かに服が収納されていた。

 

 

「おお」

 

 

 それは一般的な男物の学生服で、通称「学ラン」と呼ばれる物の一式であった。

 前世の学校ではブレザーを着用していた為、見覚えはあっても手に取った事は無い物である。

 その着心地に新鮮味を感じながらも、ボタンを首元までしっかりと閉じ、鏡で自身の姿を確認してから更衣室を出る。

 

 

「店長。ありがとうございます」

 

「ああ。どういたしまして」

 

「おお〜。似合ってる似合ってる!」

 

 

 俺の年齢的に学生服は正装として最もそれらしく正しい物である。

 恐らくそこまで考えて用意して下さった店長に感謝を伝える。

 千束の反応も見る限り違和感は無さそうだ。

 

 

「それじゃあ、配達頼むよ。見ての通り、私は足が悪くてね」

 

 

 店長から紙袋を数個渡されると、同時に彼は杖で地面を叩いて見せた。

 成程。歩行に杖が必要な彼では外回りは困難であろう。

 彼の功績とそれから考えられる実力からして、こうして現役を退き喫茶店を構えている理由も、それなのかもしれない。

 

 

「承知しました」

 

「は〜い。行ってきまーす!」

 

 

 

 

 

 

 こうして店を出た俺達は千束の誘導で数件のコーヒー豆配達と挨拶回りを行い、何故かリコリコで依頼を受けている日本語学校の授業が始まるまでの待ち時間を公園のベンチで過ごす事になった。

 

 平日の昼間に訪れた公園は人気が少なく静かで、晴天である事と秋の過ごしやすい気候も相まって、眠気を誘う。

 しかし今は業務中。

 まさか眠る訳にもいかず、リリベルとして鍛えた忍耐力で目はどこか遠くの揺れる草木に固定されていた。

 

 そんな俺から少し離れてベンチ腰掛ける千束が、不意に沈黙を破る。

 

 

「__ねぇ。あの日言った、『君の為に生きてきた』って、どういう意味?」

 

 

 質問の意図が掴めず千束の方に視線を移すが、彼女は顔を背けており、その表情を読み取る事は出来ない。

 

 

「……そのままの意味だ」

 

「ふふ、なにそれ。プロポーズ?」

 

「プロポーズではない」

 

「まあそうだよね。……けど何度もそう否定されると、ちょっと傷付く」

 

「それは……、すまん」

 

 

 分からない。彼女が何を問いたいか。

 あの言葉の意味とは? 俺がそうだと確信した経緯を知りたいのだろうか。

 

 

「……あなたは、私の為に時間を使ってきたの?」

 

「ああ」

 

「……。これからも?」

 

「ああ」

 

「…………、そっか」

 

 

 また違う質問が来た為、それに答える。彼女は何かを一つ一つ確認している様にも感じられた。

 そしてまた沈黙が訪れる。

 

 

「__時間だ」

 

 

 少しして、スマートフォンから予定していた時刻を告げるアラームが鳴り、俺達は立ち上がった。

 

 

「んー、分からん! これもきっとコレが関係してるんでしょうけど、だったらいつか救世主さんを見つけたら聞いてみる事にする! 見つけられなかったら、紫苑に根掘り葉掘り直接聞く。それでいこう!」

 

 

 沈黙の間も彼女は何かをずっと考えていて、その結論が出た様だ。

 梟のペンダントを取り出し、陽の光に当てて笑う彼女の横顔は、実に希望に溢れていた。

 そして、その表情のままこちらを振り向き、手を差し伸べて来くる。

 

 

「改めて。今日から友達として__、よろしくね」

 

 

 友達。

 友達?

 俺と、千束が?

 少し考える。そして、直ぐに結論が出た。

 千束がそれを望んでいるので有れば、俺は従う。それでいい、と。

 

 だから、俺は彼女の手を取った。

 

 

 

 

 

 

 





時系列の補足。
季節は初秋で千束が十七歳になったばかり。
つまり、アニメ第一話から約半年前になります。

早くたきなも登場させたいですね。
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