使命を胸に、もう一度。   作:悲しみの抹茶

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7話 聞かれたくない話

 

 喫茶リコリコでは、時折、閉店後にボードゲーム会が行われる。

 千束と一部常連客の有志で始められたそれは、今日も今日とて賑わいを見せていた。

 

 

「紫苑〜。食器の片付け終わったなら、ここ入ってよ〜」

 

「俺が入っても面白く無いだろう」

 

「大丈夫だから。ほら、一回だけでも良いからさ〜」

 

「……、では片付けが終わったら一回だけ」

 

「おお、今日は紫苑君も参加か。これは手強そうだ」

 

「前回は流石のポーカーフェイスだったからねぇ」

 

 

 千束のあの手この手の誘い文句で、なんだかんだ毎回参加してしまっているボドゲ会。

 ボードゲームでは言葉や表情を使った駆け引きを楽しむ場合が多く、俺の様な仏頂面や口下手加減では相手にならないだろう、と断りの文句を言うのだが、今回も流される様に参加が決定してしまった。

 

 

「ねぇ、たきなも一緒にやろうよ〜。レジ閉めなら私も手伝うから」

 

「もう終わりました。レジ誤差ゼロ、ズレなしです」

 

 

 同じく閉店準備をしていた、たきなにも誘いがかかる。

 気を効かした、或いは遊び仲間を増やしたい客達も揃ってたきなを誘うが、彼女は気にも留めない様子で断った。

 

 

「混ざってきたらどうだ?」

 

「……、そうすればDAに戻れますか?」

 

 

 店長も一応声を掛けてみた様だが、彼女の強い声色の一言にかける言葉を失った様子だった。

 それ程まで、DAに拘る理由は何なのだろうか。

 興味はあるが、もし彼女の芯に関する部分であれば、部外者である自分はそう簡単に触れてはならないか、とも思い直す。

 

 キッチンの片付けをしていても千束のよく通る声は聞こえ、そちらに意識を取られてしまう。

 彼女はまだたきなをボドゲ会に連れ出す事を諦めていない様で、更衣室の扉に向かって明日にも予定がある事を話していた。

 

 

「明日も集まってゲーム会するんだけど__」

 

「__千束。健康診断と体力測定は済ませたのか?」

 

「あ、いや、まだ……。あんな山奥まで行くのダルいし……」

 

「明日が最終日だぞ。ライセンスの更新に必要だ。仕事を続けたいなら行ってこい」

 

 

 店長はたきなに助け舟を出す様に、そして千束の遊び呆けている様子に喝を入れる様に言った。

 どうやら千束は春の健康診断を済ませていない様だ。

 リリベルにも同じものがあるが、俺達とは期間がずれている。健康診断を行う側の人員的な理由だろうか。

 記憶を辿り、俺はおよそ二ヶ月前に済ませていたので問題はないな、と心の中で確認をした。

 

 

「えぇ〜、そこは先生、上手く言っといてよ。先生の頼みなら聞いてくれるでしょう? 楠木さん」

 

「__司令に会うんですか?」

 

「うぉおっ、バカ、服!」

 

「む?」

 

「紫苑はこっち見んな!」

 

 

 会話の途中で大きな物音がした為、反射的に視線を向けるが、何故かこちらを見ていた千束に睨まれてしまった。

 同じ様な視線を店長にも向けていて、店長は気まずそうに目を逸らしている。

 察するに扉を勢い良く閉める音、だったのだろう。

 その扉からはリコリスの制服姿へと着替え終えたたきなが姿を表し、綺麗な直角で礼をする。

 

 

「__私も連れて行ってください。お願いします」

 

「__はやっ」

 

「お願いします」

 

「……分かったよ。たきな」

 

 

 どうやら千束が折れる形で、明日たきなを連れてDAへと行く事が決定したらしい。

 つまり、明日のボドゲ会に俺は参加しなくて良い事が決まった。

 俺はそそくさと片付けを進め、空いた明日の予定を考えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして迎えた休日。

 本日は喫茶リコリコの定休日であり、DAからの依頼も無い為、完全にオフな日である。

 とはいえ、店では夕方から一部常連客によってボドゲ大会が予定されている為、店の営業はしていなくとも店には店長が居る訳で。

 

 

「__すまないな。態々定休日に来てもらって」

 

「問題ありません」

 

 

 俺は店長に呼び出され、指定された時刻である昼過ぎに店へと顔を出していた。

 いつかと同じ様に店長とカウンター越しで対面する。

 あの時と違う事は新メンバーであるクルミがカウンター席に座っている事。そして座敷でミズキさんが酔い潰れかけている事だ。

 

 

「昼食は食べたか?」

 

「いえ、まだ。しかし、お気になさらず」

 

「そうか。腹は減っていないのか?」

 

「多少の空腹感はありますが、一日程度なら食事を取らなくとも行動可能です。また、携帯食を持ち歩いているので、この後時間が取れれば何処でも食事は可能ですので」

 

「……、少し待ってなさい。何か出すから、食べながらにでも話そう」

 

「ありがとうございます」

 

「おっさん、私にも頂戴〜。つまみにするから〜」

 

「ミズキ、お前そのペースじゃ夕方まで保たないぞ。良いのか?」

 

 

 何か料理を振舞ってくれるらしく店長はキッチンへと向かう。その後ろ姿に呂律の回っていない声をかけるミズキさん。そして、ミズキさんを横目で呆れる様に見ながらタブレットを操作するクルミ。

 

 

「で、今日はなんだ。こいつがリリベルとかいう組織の一員で千束の命を狙ってた、ってのは聞いたぞ?」

 

「さぁ〜? 千束が居ない所で紫苑に聞きたい話があるんだとさ」

 

「千束のいない所で? まだ何かあるのか」

 

「恋バナでもするんじゃな〜い?」

 

「成程。親への挨拶、というやつか」

 

「千束さんを、僕に下さい! って〜?」

 

 

 酔ったミズキさんの言葉を話半分に聞きながらも冗談を返すクルミ。

 冗談だと分かっているものを態々否定して彼女達の会話を断ち切るのも憚れる為、黙っておく事にする。

 

 彼女達の適当な漫才を聞き流していると店長が湯掻いたうどんを出してくれた。

 

 

「ありがとうございます。いただきます」

 

「はいよ」

 

「ええ〜、うどんじゃつまみにならないじゃん!」

 

「せっかく作ったんだ。ミズキも食べて酔いを覚ませ」

 

「良かったなミズキ。締めにうどんとは、なかなかに通だぞ」

 

 

 一口食べれば、その温かさと優しい味に一息つく。

 ミズキさんも、そう文句を垂れながらも麺を啜っていた。

 

 

「__で、本題だが」

 

 

 結局、俺達が食べ終わるまで待ってから店長は口を開き、本題を切り出した。

 

 

「DAから指令はあったか?」

 

「いえ。定期連絡は行っていますが、依然変わらず。錦木 千束の周囲で始末する準備を続けろと」

 

「……、そうか。」

 

「なあ、それは前も聞いただろ? それも、その時は千束も居たじゃないか」

 

「ああ、いや、まだ聞きたい事はある」

 

 

 的を得ない様子の店長に、クルミが口を挟む。

 しかし、まだ話は終わりで無い様で、店長は言葉を選ぶ素振りを見せてから、また口を開いた。

 

 

「……楠木から聞いたが、どうもリリベルの上層部はこの件に関与していないらしい」

 

「そうなのですか?」

 

 

 そんな筈は無い、と言いたい。

 本件は虎杖指令から直々に言い渡された任務なのだ。つまり、店長の言葉を信じれば虎杖指令にそう命令させた、またはそう命令する様交渉した誰かがいる事になる。

 

 

「リリベルの上層部が関与していないだと? 奴らは言わば国のトップだろ? そんな奴らを動かせるなんて国を動かすのとそう変わらない__、……まさか、アラン機関か?」

 

 

 思考をそのまま口にして整理していたクルミの言葉で、ハッと思い出す。

 

 

「__使命。俺がこの命令を受けた時、使命を果たせ、とも言われました。俺を鼓舞する為の言葉かと思っていましたが、そのままの意味だったとすると……」

 

「……そうか、やはりあり得るのか」

 

「けど、何故アラン機関が千束の命を狙う。あいつもアラン機関に見定められた使命を持つチルドレンなんだろう?」

 

「…………。」

 

「ミカ。それは話せない事なのか?」

 

「……ああ。いつか話す事になる。今はまだ、その時では無い」

 

 

 まだアラン機関が関与していると決まった訳では無いのだが、そうだと核心を得ているかの様に店長の表情は暗くなっていく。

 目頭を抑え、苦しそうに言葉を吐き出すその姿は珍しい。

 その様子は好奇心の塊であるクルミが、質問を諦めるほどである。

 

 

「となると手詰まりだな。アランチルドレンは自身の使命を知らないし__」

 

「__待て、今更だが、何故紫苑は使命を知っている?」

 

「はぁ!? 本当か紫苑! それは是非教えてくれ!」

 

 

 ふと、店長が伏せていた顔を上げてこちらを見る。それに釣られて、クルミの知識欲もこちらへと向けられた。

 ……普通、使命は知らないものだと今初めて知った。

 つまり、俺の場合はアランチルドレンの中でも想定外の方法で支援を受けた、受けざるを得なかったという訳か。

 

 

「俺の使命は、誰かの役に立つ事と、錦木 千束の為に生きる事だ」

 

「……まて、二つ? それに、一個人に対する使命なんてのもあるのか?」

 

「紫苑。お前はどうやってその使命を知った」

 

 

 二人に問い詰められて、思い返す。

 俺が使命を知ったあの日。そして使命を課せられたあの日。

 時が経っても色褪せる事無く、強く刻み込まれた記憶。

 

 

「俺の使命は元々一つだった。その使命はアラン機関から直接伝えられた訳ではなく、まだ俺が支援される前に、既に支援を受けていた妹が偶然聞いた」

 

「妹もアランチルドレンとは、とんでもない兄妹だな。で、その妹から聞いたわけか」

 

「そうだ。逆に、俺は妹の使命をアラン機関の人間から聞く機会があった」

 

「……ほう、それで?」

 

 

「妹は死に、妹の使命は俺に託された。故に俺は使命を二つ持ち、知っている」

 

 

 

 

 

 





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